ボス部屋での一件後、俺はアクティベートしておくと言っておきながら道中の岩陰に座り込んでいた。
「はぁ・・・」
何度目のため息だろう・・・。俺は後悔はないはずなのに自分の行動を受け入れられないのか、気が付けばため息が出ていた。
でも、やっぱり後悔はない。リアルではなくMMOでの知り合いであったキリトを守りたかった、ただそれだけの行動だ。
「でも、結構来るもんなんだな・・・。・・・気持ちのリセットのために一回寝よう、精神崩壊はこの世界じゃ致命的だし」
寝て起きたらきっとアスナが隣に座っていて“おはよう、リュウくん”って言ってくれる、そんな淡い期待が胸の奥に沸いている中、俺の意識は暗い闇の中に沈んでいった。
(・・・しっかり睡眠は取るべきだな、うん。寝不足だからネガティブ思考になるに違いない。)
---------------------
「ねぇねぇリューくんは好きな子いる?」
「アーちゃんは?」
「リューくんだよ!リューくんは?」
「僕もアーちゃんのこと好きだよ」
「本当!?やった~!!」
---------------------
(懐かしい夢、見たな・・・・。)
女の子が俺のことを好きと言ってくれて、俺も女の子のことを好きと言った。そんな小さい頃の大切な思い出。
しかし、あの頃はどっちも恋愛感情なんてなかっただろう。
「アーちゃん・・・」
「リュウ、起きたか?」
急に声を掛けられ、聞かれたんじゃないかとビクビクしながら振り向くとキリトが岩の上に座っていた。
そんなキリトは起きたのを確認した後に不思議そうな表情をしていた。
「どうかしたか?」
「いや、何でもない。ていうか何でいるんだよ?」
「俺がいる理由はお前の周りを見ればわかる」
「周り?」
俺の周り、正確には俺の両隣には何故か寝ているアスナとコハルがいた。
シリカに至っては無防備にも膝の上に乗って抱き着くように寝ていた。
何でよりによってまだ精神が安定していない時に来るんだよ。
しばらく放っておいてくれればまた普通に合流できたっていうのに、一人になるのは許さないっていうのか。
「アスナ言ってたぞ。お前が俺たちβテスターたちを守るために重圧を背負ってるって。・・・リュウ、悪かったな」
「なんだよ急に謝ったりして?」
「俺はあの時、お前の行動に甘えてた。本当は今お前が背負ってる重圧は俺が背負わないといけなかったんだ!それなのに俺は・・・反論すらしなかった。だから―――――」
「別に俺はお前を恨んだりなんかしねぇよ。それにお前は俺が寝不足なのを知ってたから見つけても起こしたりしなかったんだろ?」
「そうだけど、それでも俺は・・・」
「じゃあこうしよう。今後の攻略や素材集めの戦闘で一緒に行動するときは背中を守ってくれ。俺を死なせないでくれよ、
「!・・・ああ、絶対に死なせない。生きて皆で現実世界に帰ろう」
「・・・さて、そろそろアスナたちを起こして行くか。・・・あぁ~アクティベートしてねぇんだけど」
さっきまで寝ていたんだからしていないのも当然なんだが、少しでも申し訳ない気持ちはある。
下手すると始まりの街でいつまでも待ってるやつらに文句を言われるかもしれない。
「それなら攻略に参加していた奴の誰かがやってくれてるはずだから安心しろ」
「いや安心できないんだけど・・・。俺、ちゃんと街に入れるのか?入ってすぐに囲まれて外に追い出されたりしないか?」
「俺が言うのもなんだけど怯えすぎだろ。それにアイツらは俺たちやβテスターに対して少しは物腰が柔らかくなると思うぞ?」
キリトが何を言っているのか、俺には分からなかった。
「お前が出てった後に攻略本のこと話したんだよ。皆言ってたぞ、謝らないとって」
「・・・そうか。まぁちゃんと攻略本が渡っててよかったよ」
「素直に喜んだらどうだ?」
「うっせ、まだ信じられないのに喜べるわけないだろ。ぬか喜びになったら俺は引き籠るぞ」
「おいおい・・・」
そんなことを言いつつも俺は元気を多少取り戻しキリトと一緒に笑いながら喋っていた。
それからしばらくしてアスナたちが目を覚ました。
そして説教を受けていた。
「リュウくん、反省してね?」
「本当にそうですよ!何で一人で背負い込むんですか!」
「そんなに私たちは頼りないの!?」
「あ、いえ、そんなことは全然ないです、はい・・・」
アスナたちと同じ気持ちとはいえ、さすがに可哀想に思えてきたキリトは止めに入った。
「なぁリュウも反省しているみたいだしその辺で」
「「「キリトくん(さん)は黙ってて(ください)!!」」」
「はい、すいません・・・」
(おい、めげるなよ!?)
(すまん、俺には無理だ・・・)
その後30分説教が続いたのだが、シリカのお腹が鳴ったことによって終了となり、第二層の街で俺が昼飯を奢ることで三人は許すことにしたらしい。
安全地帯の岩場から少し歩いていくと第二層主街区≪ウルバス≫が見えてきた。
そして街の入り口に近づくにつれて人が待ち伏せている・・・わけではなく、始まりの街よりは人は少ないが賑わっていると言っていいほどには人で溢れていた。
「なぁもう一層に帰っていいか?」
「あの時の威勢はどうしたんだよ、まぁしょうがないか。でも帰さないからな?」
「それにしても凄いところですね」
「うん、外周だけ残して繰り抜いたところに街ができてるんだもんね」
「とりあえず入ろっか。リュウくんの奢りでお昼も済まさないといけないし」
「ああ、そうだな。もういいや、覚悟決めた。さぁ行くぞ、キリト!」
「俺の前を歩きながら言ってくれたら尚よかったんだけどな」
そう言いながらも一層の恩返しも兼ねてなのかキリトが先頭に立って街の入り口の門をくぐり抜けた。
と同時にリュウたちは一層を一緒に攻略したプレイヤーたちに囲まれてしまった。
そして・・・
『悪かった!許してくれ!』
その言葉に対して俺は唖然とするしかなかった。
その後の彼らからの言葉は謝罪の言葉ばかりだった。
そこからさらに感謝の言葉の連続が続き、最終的には俺自身が止めるまで続いていた。
「別の意味で死にたい・・・」
「あはは・・・ずっと褒められっぱなしでしたもんね、リュウさん」
「リュウが止めなかったら今でも囲まれてたよね・・・」
「まぁでも嫌われ続けているよりはマシだろ、リュウ?」
「そこは否定しないけどさ・・・。ああもういいや、さっさと飯にしよう。キリトまだ着かないのか?」
「ほらあの看板の店だよ。二層が野牛型モンスターが多いからか牛肉系?料理の店が多いんだ」
「や、焼き肉店っすか、容赦ないっすね孤独の漆黒の剣士さん・・・」
「比較的安い店選んでやったから大丈夫だって。ていうかなんだよ、その二つ名・・・」
キリトの後に続いて店に入って、NPCによって案内された。
キリトにしては手慣れた応対だった。やるな孤独の漆黒の剣士・・・。
「それで何なんだよ、さっきの二つ名は?」
「付けてみたんだ、気に入ってくれ」
「しかも押し付けるのかよ。ありがたく捨てさせてもらう、そんな不名誉な二つ名」
「俺が30秒足らずで考えたやつを捨てるのかよ、酷いな」
「お前の方が酷いわ」
で、さっきから女性陣が静かすぎて何かあったのかと思ったら
店の高い肉を三人でどれをどれだけ注文するのか悩んでました。
どうやらリュウのコルはここでほぼなくなるみたいです。
(・・・装備強化はできないな、うん。)
昼食を済ませた俺たちは二層のガイドブックの内容に大きな違いはないか確認するために
街の中を練り歩き、そんなに大きな違いがないのを確認して五人揃って一層の宿に帰った。