翌日、再び二層にやってきた五人はとりあえず自由時間ということで女子三人は色んな店を見て回るそうで、俺とキリトは広場に突っ立っていても時間の無駄になるため、武器強化でもしようという話になった。
「って言ったものの鍛冶屋プレイヤーいないもんだな。NPCの鍛冶レベルは二層だと当てにならないし・・・どうするよ、漆黒の剣士?」
「だからその二つ名やめろって。とにかく歩き回って探そうぜ、いないってわけじゃないだろ。それにお前もNPCは当てにしてないって言ってただろう?」
「そうだけどな・・・はぁ探すか」
歩き回って再び広場に戻ってくると、先ほどまではいなかった鍛冶屋プレイヤーが広場の北東あたりの隅にカーペットを広げ、鉄床と武器陳列棚を並べて座っていた。
さっき見たときに居なかった場所にいるってことは今からが営業再開時間なんだろう。
いや探す時間が悪かったんだろう、ちょうど昼時だったから。
「やっと強化が・・・ってアレってアスナたちか?」
「ああ、ていうか何か揉めてないか?」
「今日は強化は中止だな、さっさと三人を連れて退散しよう。あまり騒ぎにしたくない」
そう思い近づいていくとこっちに気が付いたアスナが加勢しろと言わんばかりに話を振ってきた。
「リュウくん!この人にリュウくんも言ってよ、強化失敗じゃ武器が壊れることはないって!」
「いや巻き込まないで・・・って待てアスナ、今の言葉間違いはないか?強化失敗で武器が壊れたって」
「間違いないよ、目の前で粉々になったの!」
「ですから、正式サービス・・・されて新しく追加された・・・要素なんじゃないかって・・・言ったじゃないですか・・・」
「・・・なぁ今回みたいなのはアンタの店で何回くらい発生したか聞いてもいいか?」
そうリュウに言われた店主ネズハは少しビクッっとする反応をしたが、その後は申し訳なさそうに話してくれた。
「ほとんど・・・見たことはないです・・・前に一度だけ・・・見たことがありますけど・・・」
「そうか。そのくらいの確率ならまぁアンタを疑うのは間違いだな、俺の連れがせめて悪かったな」
「いえ、あの・・・こちらにも非はありますから・・・」
本当に申し訳ないと思っているためか立ち上がり、こちらにずっと頭を下げていた。
「お詫びをしたいところなんですが・・・その、お連れの方の同じ武器であるウインドフルーレの在庫がなくて・・・ランクが下がっちゃうんですけど、アイアンレイピアをお持ちになりますか・・・?」
「うぅ~・・・じゃあそれで我慢します・・・」
「いや待てアスナ。ありがたい提案だが武器に関してはこっちで何とかする。成功失敗はこっちの責任だからな」
「そ、そうですか・・・あの、こんなこと言えた立場じゃ・・・ないんですけど。・・・またのご利用・・・お待ちしてます・・・」
ネズハのその言葉をしっかりと聞いた後、まだ文句が言い足りないであろうアスナをコハルとシリカに引っ張って行ってもらいつつ、その後を追いながらさっきの話をキリトは話していた。
「キリト、今の話どう思う?」
「武器消滅だろ?ない話ではないだろうけど証拠がないし、何より俺たちは実際には見てないから何も言えないな」
「いや俺は完全に黒だと思う。あの店の店主、ネズハが言ってただろ?ウインドフルーレがないからアイアンレイピアを持たないかって」
「ああ言ってたな。でもそれだけで黒とは言えないだろ」
「ああそうだ。でも普通武器消滅させてしまったなら一つ下のランクのガーズレイピアを渡そうとするはずだ、ここから脱出しようと考えてるならな。なのにアイツははじまりの街でも買えるアイアンレイピアを渡そうとしてきた、今装備させようとするかのように」
「今装備って・・・おい、まさか!?」
「まだ可能性の話だが・・・今日は宿に帰ろう、そこで証明してやる」
俺とキリトが来るのが遅いのと、武器消滅での悲しみにより泣きそうな顔でアスナがこっちを見ていた。
それを見た二人は話を切り上げ、焦って三人を追いかけてホームの宿に向かった。
向かったはずだったが、アスナの限界が来たのか歩く速度が極端に遅くなったため近くにあったベンチに座らせた。
その時に何故か俺も一緒にアスナの隣に座っていた。
一度隣に並んだ時に手を握られていたから自動的に座ったのだ。
そして、アスナの頬に二つの透明な雫が流れた。
「うぅ・・・リュウくん・・・」
「ああ、はいはい。顔隠してやるか泣け泣け」
「うわああああああああ」
少し路地に入ったところで助かったと俺とキリトはホッと肩を撫でおろした。
人通りのあるところで泣かれたら何を噂されるか分かったものじゃないだろう・・・。
(リュウ、さっきの話なんだけど・・・)
(分かってる。けど、少しだけ待ってやってくれ)
それからしばらくして落ち着いたアスナを連れて再びホームに向かった。
「さて検証と行こう」
「急に始めるんだな。まぁ俺もリュウの見解を知りたい」
「俺の見解ではアレは消滅じゃなくて、クイックチェンジだろうな」
「クイックチェンジって何ですか?」
俺の言葉にシリカが首をかしげていた。
そういえば説明も習得もさせてなかったと思い、簡潔的にだが説明を始めた。
「クイックチェンジってのは片手武器の共通派生機能で、わざわざメニューウィンドウを操作しないで、ショートカットアイコンを利用した機能なんだ」
「まぁでも俺やリュウみたいに複数武器を持ってるやつが優先してとるスキルだな」
「そのスキルが使われてたとしても消滅エフェクトはどうするの?」
それについては見たほうが早いだろうと思い、ストレージから黒パンを取り出して机の上に置いた。
黒パンを見たキリトは理解したらしく、たしかにそれなら・・・と呟いていた。
「黒パン?」
「これの消費時間が来るとどうなるか知ってるか?」
「ポリゴン片になって無くなりますよね?」
「その通り。だからそのシステムを利用して武器が壊れたかのように演出する。それでプレイヤーの武器、特にアニールブレードを持っている奴はカモだろうな」
「たしかにな、あのクエストを好き好んでやる奴はいないだろうな」
キリトに頼まれて一緒に受けたがあの時はPKにあったからいい思い出はない。
ドロップ率の問題が一番の理由ではあるんだがな。
「その方法で武器とコルを騙し取っている事はわかった。で、クレームでも言いに行くのか?」
「いや、言っても白を切られるだけだ。それにネズハはやらされてるだけだと思う」
「それってギルドメンバーにってことか!?仲間に無理やりそんなことさせるなんて酷すぎるだろ」
「でもそれならギルドを抜けちゃえばよくない?何らかの事情があるって考えたほうがいいのかな?」
現実での友達かもしれないし、脅されて仕方なくかもしれない。
そしてもう一つ可能性がある、それは――――――
「とりあえず明日俺はネズハのところに行ってくる」
「行ってどうするのリュウくん、クレームでも言うの?」
「いや、ネズハの口からはっきりと事情を聞こうと思ったんだよ。来るか?」
「うん、行こうかな。ちゃんと話を聞いておきたいし」
「私とシリカちゃんは明日採取クエスト行くことにしてるからパスするね」
「あとで聞いたお話を聞かせてもらえればそれでいいですよ」
「俺は一応アルゴと合流して話をしとく。アイツのところにも情報は入ってきてるだろうからな」
俺とアスナでネズハに話を聞いてくることにして、残りの時間は各々の時間を過ごすことに決定した。
その後キリトに誘われ、今使える戦闘スキルで効率のいい連携スキルを考えていた。
その時に連携スキルを一切考えていなかったことに対してキリトに呆れられてしまった。
そんな余裕なかったし、β時代ではアレだったんだから仕方ないじゃないか。