彼が繋ぎ、ともに紡ぎ、生まれ変わる   作:歌詠

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ゆっくり、書いていきたいです。
気ままに書いている作品ですので、辛いコメントは控えて頂けると、作者の胃の平和も保たれます。
どうぞ、よろしくおねがいします。





プロローグ

「・・・貴方に、お願いがあります」

 

 

 血の滲んだ声だった。

 

 

「僕はもうこれ以上生きられない。身体には何の損傷も無いのに、中身が駄目になってしまった。・・・だけど、一つだけ、心残りがあるんです」

 

 

 10歳前後の、幼い少年の声のように聞こえる。

 大人びた物言いをする、不思議と聞き取りやすい声音だった。

 

 

「僕の幼なじみのことを、支えてやってほしいんです。僕の代わりに、力になってあげてほしい。僕の死を、あいつの負担にしたくはない。泣いたり、悲しんだりするのはいい。だけど、絶望だけは、決してしてほしくない」

 

 

 芯の通った、どこまでも真摯な声だ。

 慟哭に震えて、今にも壊れてしまいそうな声だ。

 

 彼は、死ぬのだという。

 だとしたら、

 彼は、死ぬのは怖くないのだろうか。

 普通じゃない。

 どうして、目の前の自分の死よりも、残していく友のことを憂うのか。

 

 

「・・・・・・」

 

 

 あぁ、いや、違うか。

 単純なことだ。

 彼の言う幼なじみとは、彼にとって、それだけ大切な存在なのだ。

 唯一無二の、替えの効かない、朋友とも呼べる様な、そんな間柄。

 

 だから、死に逝く自分よりも、優先する。

 誰よりも自分が成し遂げたいと思う役割を、俺のような他人に、何処かの誰かに押しつける。

 友を支え、共に歩むという役割を。

 

 

「僕の身体を差し出します。・・・僕には、貴方の望むようなものは何も用意することができない。・・・だけど、それでも、」

 

 

 少年は震える声で、その願いを口にする。

 

 

 

「僕は、あいつの夢を、守りたいんだ」

 

 

 

 きっとその言葉は、嘘偽りのない、彼の本心なのだろう。

 きっとその思いは、譲ることの出来ない、彼の希望なのだろう。

 

 この少年が誰なのかなんて、既に問題ではなくなっていた。

 俺はただ、彼の願いを叶えてあげたいと思った。

 力を貸してあげたいと思った。

 それが自分の中で出された真実の答えで、後悔のない選択だと確信した。

 

 だからこう言い返した。

 

 

 

「俺はその願いに、応じることはできないよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

 

「・・・どこだ、ここ」

 

 

 形容するのなら、天地という概念が存在しない、果てのない場所。

 上手く動かすことが出来ない身体に力を入れ、辺りの景色を見渡した結果、得られた情報はそれだけだった。

 

 

「驚いたな、本当に世界を超えて来るとはね」

 

「・・・!」

 

 

 突如、頭上から凛とした声が届いた。

 ゆっくりと視線を上げ、思わず絶句する。

 

 

「・・・貴方は、天の鎖の、」

 

「・・・へえ、おかしいな。君と僕とは、違う世界の存在だと思ったんだけれど」

 

 

 言葉とは裏腹に、眼前のヒトは穏やかな微笑みを浮かべる。

 最初に目を惹いたのは、梳られたような、美しい緑色の髪だ。現代日本では見ることのない、白い、質素な貫頭衣を身に纏っている。どことなく幼さを残した、男女とも取れぬ顔立ちと体つきをしているのに、淫靡な雰囲気を併せ持つ。

 凄絶な存在感に圧倒されて、身体が動作不良を起こしてしまいそうになる。

 彼の黄金の瞳を見据えながら、確かめるようにその名を口にした。

 

 

「・・・エルキドゥ」

 

 

 型月作品の一つ、Fateに登場する古代の英雄。英雄王ギルガメッシュの唯一無二の親友であり、彼に並ぶ強大な力を持つ数少ないサーヴァントの一人。

 彼は少し考えるような素振りをして、形の良い口を開いた。

 

 

「色々と質問をしたいところだけれど、今は現状把握から始めようか。──君の言うように、僕はエルキドゥ。召還され、この少年に降ろされたサーヴァントだ。此処は君が話をしていた少年の内の世界、魂を納める深層部分──現実の肉体は眠り続けている状態だね。あぁ因みに、この身体の支配権は彼から君に移されているよ。君の魂と、この器の調和が取れるようになれば、自然と目を覚ませるようになる」

 

「待って、情報が多すぎて俺の頭がオーバーヒート」

 

 

 マシンガンを思わせる話しぶりだったと思う。

 彼に対して抱いていた、僅かな警戒心も霧散して、必死に言葉を咀嚼する。

 そして気になる言葉に行き当たった。

 

 

「・・・エルキドゥが本物であることを前提にして言うが・・・降ろされたっていうのは、どういうことだ?」

 

「言葉の通り、聖杯戦争とは異なる儀式によって、僕は世界を超えて召喚され、そしてこの少年の身体と融合した。いや、してしまったと言った方が正しいね。」

 

 

 彼は整った顔を僅かに歪めて、後悔するように言葉を続ける。

 

 

「多くの助けを求める声が、僕をこの場に導いた。しかし僕が召喚された結果、依代となった少年は存在を押しつぶされ、崩壊の縁に立たされることとなった」

 

「・・・つまり、デミサーヴァントと似たような状態だと思えばいいのか?」

 

 

 半英霊、デミサーヴァント。人間がサーヴァントと憑依融合した存在。

 生まれながらにそう調整された個体であれば耐えられる可能性はあるが、普通の人間なら、英霊の霊基に耐えきれず、半英霊となる途中で崩壊してしまう。

 ・・・最低最悪の非人道な行い。

 

 

「デミサーヴァント・・・確かに、僕と融合し、体の一部が英霊になったのだから、そう表現することもできるね」

 

 

 口ぶりからして、エルキドゥにはデミサーヴァントの知識はないのだろうか。

 しかし彼の説明で、あの少年の言っていた「身体には損傷がないが、中身がだめになってしまった」という言葉の意味を理解することができた。

 確か、型月世界にはこんな設定があったはずだ。『人を構成する3つの要素』──即ち、『肉体』『魂』『精神』。

 

 

「ええっと・・・肉体という器の中に、無理矢理サーヴァントを押し込み、融合させられた衝撃で、この少年の中身、つまり精神と魂が崩壊しかけることになったと」

 

「うん、概ねその通りだ」

 

 

 推定混じりで口から出した言葉だったが、どうやら合っていたようだ。

 

 

「そして、依代となった少年は意識が崩壊する最中、あろうことか僕を召喚する為に使われた術式へ強引に干渉したんだ。正気の沙汰ではない。死んだ方が楽だと思えるほどの苦痛に支配されていたはずだよ。・・・結果、偶然行き着いたのが君だ」

 

「なんていうか、凄まじいな・・・」

 

 

 先刻、会話をした少年のことを思い浮かべて、その苛烈さに驚愕する。

 術式に干渉するというのも尋常じゃないが、英霊が死んだ方が楽だと評価するような道を、自分ではなく友人を思うがばかりに選ぶとは。

 

 ──しかし、少し羨ましくも思う。

 俺には、自分の命よりも大切な存在なんて居ないから。

 

 

「・・・とりあえず、成り行きは理解した。だがそうなると、どうして俺は呼ばれたんだ?エルキドゥがいるのなら、あの少年は儀式に干渉するような、無茶をする必要はなかったんじゃないか」

 

 

 純粋な疑問を口にする。

 俺の問いかけに、「あぁ」と相づちをしてから、彼は話し始めた。

 

 

「結論から言うと、間に合わなかった。僕の意識は君と少年が話し出した辺りで生まれたんだ。それと、今の僕は魔力の供給を絶たれている状態にある。例え今より早く覚醒していたとしても、僕はこの場に長く留まることはできないから、結局は外の助けが必要だった」

 

「ん・・・?いや、確か貴方には、大地から無尽蔵に魔力を得られるとか、チートな能力がなかったか」

 

「・・・あぁ、それが、大地と接続することができないんだ。どうやら、依代となった人間の意志がなければ、僕はこの内の世界より外の世界には、干渉できないらしい。恐らく、英霊の力を制御する為に設けられたセーフティなんだろうね」

 

「・・・・・・非道いな」

 

 

 召還された英霊の意志と自由を奪う、度し難い所業だと思った。この世界がどのような場所で、どうしてこのような事態になっているのかはわからない。

 だが、人の尊厳を踏みにじるような、最低な行為が行われたことは確かなのだと、嫌でも理解できた。

 

 俺は、理不尽な痛みがが嫌いだ。

 物理的に傷を負うのも、他人に心ない言葉をぶつけられるのも。

 誰かが誰かを傷つける瞬間が堪らなく嫌いで、不快で、時偶どうして生物は痛みがないと生きられないのだろうかと、嘆きたくなることがある。

 

 深く息を吸って、吐き出して、俺は彼に問いかけた。

 

 

「・・・エルキドゥ、一つ確認しないといけないことがある。まだ、()()()()()?」

 

「うん、その点に関しては心配いらないよ。僕の本質である鎖と楔、それに即した役割はしっかりと遂げているとも」

 

「!・・・そうか」

 

 

 その答えを聞いて、全身を支配していた緊張が抜ける。

 

 

「よかった・・・召喚されたのが、エルキドゥで、本当によかったよ」

 

「・・・君は怒らないんだね。この状況を作り出した原因のひとつは、僕が召喚に応じたことでもあるのに」

 

「怒るわけないだろ、エルキドゥは助けを求める声に応えただけなんだから。寧ろ俺は貴方に感謝しかないよ。活路への希望ってやつを作ってくれたのは、間違いなく貴方なんだからさ」

 

 

 目の前の英霊に向けて、手を差し出す。

 一瞬エルキドゥは目を見開いたが、俺の意図に気がついて、その相貌を綻ばせながら俺の手を握り返した。

 その瞬間、右手の甲に鎖のような紋様が浮かび上がり、彼との間に確かな繋がりが生まれた。

 

 

「よろしく、エルキドゥ。迷惑をかけてしまうかもしれないけど、俺の我儘に、どうか付き合って欲しい」

 

「よろしく、()()()()。こういうのは我儘じゃなくて、欲張りっていうんじゃないかな」

 

 

 新たな契約を、誓いを此処に。

 さあ、夢を叶えるときが来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば器と魂の調和が取れるようになれば目が覚めるって言ってたけど、具体的にどれくらい掛かるんだろう」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「えっ待って何その沈黙。もしかして結構長いこと掛か──」

 

「うん!とりあえず目が覚めてから何が起こるかわからない訳だから、今のうちに鍛えておこうか、マスター!安心して、ギル直伝ウルク式ブートキャンプで、マスターをサーヴァント並に動けるようにしてみせるとも!!」

 

「自信満々だけど安心できる要素皆無だな!?というかウルク式ブートキャンプとか現代の一般人が絶対やっちゃ駄目なやつだよね!?そうだよね!?」

 

「大丈夫大丈夫。ちょっと冥界とかユーフラテス川とかが見えるだろうけど、この精神世界で死ぬような目に遭ったとしても、死ぬことはないから。死ななきゃ安いという言葉もあるから、ね?」

 

「それを言うなら三途の川だな!?えっ嘘、やばい目に遭う覚悟はしてたけど流石にこれは洒落にならっ──────」

 

 

 

 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオン

 

 ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアア

 

 

 

 ──拝啓、ギルガメッシュ王様。

 貴方の提案なされたウルク式ブートキャンプの名称は、スパルタでもどん引き人殺(ヒトコロ)キャンプに改名為された方が、よろしいかと思いました。

 

 エルキドゥの楽しい修行(ごうもん)は、俺が目を覚ますまで、凡そ1年続いた。

 

 

 

 

 

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