「──それでさ、結局ボクシング部の勧誘を断るために試合をしたんだけど・・・お兄さんも俺も、死ぬ気で殴り合うことになって──」
「はぁ・・・それはまた、随分と大変だったんだな」
「ほんとだよ、ランボとかビアンキとか、気がつけば居候も増えて毎日賑やかだし・・・」
涼しげな風が凪ぐ屋上の一角で、沢田綱吉は重い息を吐く。
穏やかに過ぎていた日常は、リボーンが家庭教師になってからというもの、破天荒で、命がけの非日常へと変わってしまった。
ボヴィーノファミリーからリボーンを狙ってやって来た、5歳児のヒットマン、ランボ。リボーンをイタリアへ連れ戻すため綱吉の命を狙う、毒サソリのビアンキ。先日はボクシング部の部長かつ、綱吉の意中の人である笹川京子の兄、笹川了平からの執拗な勧誘と、死合。
休まる時間のない日々が、綱吉を心労の渦に埋めている。
知らぬ間に、その様な出来事があったのか。
色葉は綱吉の吐露する、愚痴にも似た話を、相槌混じりに聞いていた。
すると、ある程度話し終えて落ち着いたのか、綱吉はふとした思いつきから、話題を転換する。
「そういえば、前から聞こうと思ってたんだけどさ」
「ん?」
「色葉は、俺がマフィアとかボンゴレとか、その血筋の人間だって辺りに突っ込んだりはしないよな、山本みたいに天然って訳でもないのに。毎年イタリアにも行ってるし・・・もしかして
特に含みも探りの色も存在しない、純粋な疑問と冗談混じりの軽口だった。だから、直ぐに辺り触りの無い回答が返ってくるだろう、綱吉はそう踏んで巫山戯た質問をしたのだ。
しかし、その予想は裏切られる。
先程まで、笑顔で綱吉の言葉を聞いていた幼馴染の男は閉口し、真顔のまま、動かなくなってしまったのだ。
「・・・色葉?」
予想外だった幼馴染みの反応に、綱吉は戸惑う。自分は何か、おかしなことでも言ってしまったのだろうか? 頬に汗を浮かべ、自分の発言を思い返す。
ウンウンと唸りながら考え込んでいると、少し離れた所で綱吉達の会話を聞いていた獄寺隼人が、同意するように言葉を発した。
「確かに・・・野球バカと違って、おめーはどっちかつうと、常識人寄りな性格の癖に、どうして俺達の存在を平然と受け入れてんだ?」
「ははっ・・・獄寺、俺のこと馬鹿にしてねぇ?」
山本が邪気の無い笑みを浮かべながらも、視線を色葉に移した。話の内容を正確に理解していなくとも、2人の疑問の答えに興味があるらしい。
3人の視線を受け、固まっていた色葉は、ハッとしたように硬直を解く。普段、落ち着いた振る舞いをする彼にしては、珍しい慌て様だったと言える。
色葉は僅かに逡巡しながらも、ぽつりぽつりと話し始めた。
「・・・・・・逆に、俺から言わせてみれば、信じない方がおかしな状況なんだけどな。死ぬ気弾にダイナマイト、銃に変形するカメレオンとか、日本で過ごしていれば凡そ見ることの叶わない品々を、連日に渡って見せられているんだ。そういった存在が有ると理解して、受け入れるしかないだろう」
呆れたように語る言葉には、嘘偽りといった感情は見えなかった。
綱吉は納得したとばかりに、小さく頷き、安心したように口を開く。
「そっか・・・よくよく考えてみれば、受け流すとか、最初から全部知ってたのを隠すとか、そんなことを色葉がする訳ないもんな。・・・けど、急に黙り込むから、変なことでも言っちゃったのかなって、少し焦ったよ」
「・・・ごめん、眠気にやられて意識がどっかに行ってた」
「眠気・・・?眠れてないの?」
「まぁ、ちょっと、やることが多くてさ」
心配そうな声を漏らす綱吉の問いかけに、色葉はしどろもどろな返答をする。しかし、その声音はどこまでも穏やかで──まるで、何も心配する必要はないと宥める、年齢の離れた兄のようだった。
「・・・・・・」
「リボーン、どうかした?」
塔屋に腰掛け、俯瞰するように佇む赤ん坊に、綱吉が声を掛ける。いつもなら既に口を挟むか、トラブルを運んでくる彼が、不気味なほどに静かだった為、気になってしまったのだ。
ポーカーフェイスのヒットマンが口を開く。
「なんでもないぞ・・・それよりも、色葉。お前はこれから会議が有るんじゃなかったか」
「・・・あぁ、そうだった。それじゃ丁度いい時間だから、俺はこの辺で消えるかな」
返答と同時に朱雀色葉は立ち上がり、出口の扉に身体を向けた。
刹那。
深淵を思わせる黒と、淡い影の如き灰の、2対の瞳が交差した。
相手の心を読もうとする、隠す気が微塵も感じられない目線を受け、色葉はゲンナリと口をヘの字に曲げる。彼は重いため息をつきながら、怠そうに脚を引きずり、この場から姿を消した。
そよ風の吹く屋上に、形容しがたい、微妙な空気が充満する。
「・・・あの、リボーンさんと朱雀って、もしかして仲が悪いんですか?」
「そうでもないぞ。この前は美味い珈琲のカッフェで、ケーキセットを奢って貰ったしな」
「俺の知らないうちに親睦を深めてる・・・それじゃあ、どうしてリボーンは、色葉をガン見してたんだよ」
「さあな・・・少なくとも、今のお前が知る必要はねぇ」
「っなんだよそれ、誤魔化すなよ・・・!」
「まぁまぁ、落ち着けよツナ」
リボーンの態度が気に食わず、語気を荒げた綱吉を、山本が諫める。
獄寺は凄腕のヒットマンとして尊敬しているリボーンと、十代目として敬う綱吉の、二者を共に敬服しているが為に、口を挟むことが出来ず、ハラハラと見守るばかり。
リボーンは呆れた様子で、自らを睨む己が生徒に言う。
「ツナ、
「違和感から目を逸らすなって・・・・・・なんだよそれ、意味分かんないよ」
「見えない振りを続ければ、そのうち、本当に何も見えなくなるぞ・・・俺から言えることはそれだけだ。今は他に、優先してやるべき事があるからな」
「・・・ん?優先して──」
「やるべき事、ですか?」
リボーンの言葉を静かに聞いていた山本と獄寺が、疑問符を浮かべる。・・・因みに綱吉は嫌な予感を受信していた。
ブラックな珈琲もかくや、という程に暗い雰囲気とは一変。リボーンは自分を見つめる3人に、ニンマリと三日月に口端を歪めて発表する。
「ファミリーのアジトを作るぞ」
「へー、面白そうだな。秘密基地か」
「子供かおめーは!・・・アジト、いいじゃないですか!ファミリーにアジトは絶対必要っスよ!」
「決まりだな」
「じょ、冗談じゃないよ!マフィアっぽくアジトなんて!!」
山本と獄寺がリボーンの提案に賛同を示す中、綱吉だけが猛反対を貫く。しかし、その意見は誰の耳にも入ってはいなかった。
「俺は嫌だからな!マフィアのボスになる気もないって何度も──」
「それで、どこに作るんだ?裏山か?」
「なわけねーだろ!!」
すっかり乗り気になった2人の声に押し消され、綱吉の申し立ては遠くの空に、虚しく木霊した。
3対1──正確には多数決にすらなっていないのだが──民主主義の定めに従い、リボーンは満足そうな顔で、アジトの場所を口にする。
「学校の応接室だ」
***
『会議室』と室名札に書かれた部屋に入る。整列された机に向い、各委員会の委員長が、既に席についていた。
俺みたいな押しつけられ委員長とは異なり、彼等は代表者然とした、真面目な佇まいで、ものすっごい姿勢が良い。しかも、何かに怯えているように血眼で資料を確認しているから、エベレスト並みに責任感が高いのだろう事が窺える。
「・・・・・・」
会議開始の予定時間まで、後15分もある。
しかし、全ての席が埋まり、全員が揃っているのなら、もう始めてしまってもいいのではないか。俺はその旨を告げようと、この会議を取り仕切っている男の席へ視線を向ける。
「あれ・・・雲雀、今日はいないのか」
席札に『風紀委員』と書いてある席をよくよく見れば、副委員長の草壁哲矢が、資料の整理を行っていた。ぼんやり部屋を一望しただけで、しっかりと確認していなかったとはいえ、この大男を雲雀恭弥だと誤認するのは流石にどうかと思う。
「委員長なら、追加の資料が有るらしく、先ほど応接室に向われた・・・・・・だが、もう十分帰ってきてもいい時間だ」
「は・・・?まだ増えるのか、もう本が出来るレベルの枚数なんだけど?」
「殆どが壊れた備品の修理申請書や、再発注用のリストだ・・・朱雀、美化委員会も花壇のレンガや壊れた掃除用具の申請をしていただろう」
「それはまぁ、そうだけども・・・」
教師や親御さん達の評判が良かったため、花壇を増やすことになったり、なぜだか粉微塵になったモップや掃除機の注文を行ったりはしたけれども。
美化委員会が今回、他の委員会に配布した資料はたったの2枚。しかし目の前には、A4サイズの紙が軽く見積もっても百枚はある。つまり、他の委員会はかなりの被害が出て、発注する備品も増えたということなのだろうか。
万札に羽が生えて飛んでいく光景を想像してしまった。
『エルキドゥ。応接室に雲雀が居るか、気配を探って貰えないか』
今日は物静かな、己が相棒に向って声を掛ける。
『────・・・』
予想していたことだが、案の定、反応は返ってこない。彼が内の世界に深く潜っているときは大抵、数秒から数十秒のタイムラグが生じるのだ。
特に焦ることも無く待っていると、馴染んだ気配の浮上を感じた。
『──・・・すまないね。少し難解なパズルに挑戦していたんだ・・・・・・ふむ・・・・・・何故だかはわからないけれど、大空の彼等と、雲の守護者が対面しているね』
『・・・いや、ほんとになんでさ』
『いつも通り、アルコバレーノの赤ん坊の仕業なんじゃないかな。・・・さて、悪いけど僕は内側に戻るよ、マスター』
『オーキードーキー。助かったよ、ありがとうな』
エルキドゥに感謝の言葉を伝えると、彼は朗らかな表情をしながら、再び内の世界へと姿を消したのだった。
彼に頼りすぎている自分の力の無さを反省しつつも、自分に出来ることをするのだと、気を引き締める。
俺は資料を纏めている草壁に話しかけることにした。
「雲雀の奴、資料をばら蒔いたとかで遅れてるんじゃないか? ・・・俺は特にやることもないから、様子を見るついでに呼んでこようか」
「・・・いや、委員長に限ってそれはないと思うが・・・行って貰えると有り難い」
「了解、雲雀が居ないと始めようがないしな」
席から立ち上がると、苦い笑いで了承の声を上げる。
因みに最近は、自分が1年生だということを忘れた言動で振舞ってしまうのだが、既に開き直ってしまっている。教師陣には敬語を使ってるし、成績には響かないだろう。多分。
俺は足早で、応接室を目指して歩を進めた。
***
ガンッ!!!と人が壁に激突する、痛々しい音が響いた。
「これで、2匹」
「山本ッ!! 獄寺君も・・・!!」
対処する間のない、一瞬の出来事。
鋭いトンファーの一閃が獄寺の顔面を殴打し、近くに居た山本が、続けざまに蹴り飛ばされたのだ。壁にもたれる2人はピクリとも動かず、一撃で意識を刈り取られたようだった。
「沢田綱吉、君と会うのはこれで2度目だね」
「へっ!? しょ、初対面じゃ・・・?」
「呆れた・・・人を失礼な名前で呼んでおいて、覚えていないのかい?・・・まぁいい、今すぐここから消えてよ」
「・・・・・・え?」
風紀委員の男──雲雀恭弥は、酷く冷めた顔でそう言った。
てっきり自分もトンファーの餌食になると怯えていた綱吉は、去れと命令する雲雀の言葉に困惑する。四角く切り取られた、窓の枠に立つリボーンも、雲雀の言動が予想外だったのか、懐疑的な表情を浮かべていた。
無言の圧に押され、綱吉は無意識のうちに一歩後ずさる。雲雀の言葉通り、この場から身を引いた方がいいのではないか、今すぐ逃げ出すべきだと本能が告げていた。
しかし、その気持に従うことはできない。
「あの、獄寺君と山本は・・・」
「もちろん、死なない程度に噛み殺すけど? まぁ、救急車は呼んであげるから、安心しなよ」
「っ・・・なんで、俺だけ見逃すんですか!勝手に部屋に入ったのは俺も一緒なのに!!」
「・・・君が知る必要はないよ」
「・・・!」
雲雀の突き放す言葉に、綱吉は愕然としてしまった。
まただ。
また、その言葉だ。
──今のお前が知る必要はねぇ
──君が知る必要はないよ
屋上でリボーンに言われた言葉と、雲雀の言葉が重なる。
『なんでっ、どうして・・・!』
知る必要はない。
知ったとしても何も変わらない、むしろ知られると困る。そう言われた気になって、綱吉は奥歯を強く軋ませた。
己の把握できていない水面下で、何かしらの、自分と関係のある事象が動いている。いくら考えるのが苦手な綱吉だとしても、それを理解するのは容易かった。
「・・・へぇ、草食動物の癖に、生意気な目をするね」
「・・・・・・」
綱吉の大きな瞳が、雲雀を射貫くように睨めつけていた。
友達を見捨てて、自分だけが逃げるわけにはいかない。・・・そして、知る必要がないという言葉の真意を、聞き出す必要がある。
眼前の肉食動物を思わせる存在感に圧倒され、全身から汗が噴き出し、心身共に爆発してしまいそうだった。
「沢田綱吉。僕の言葉が、聞こえなかった訳ではないのだろう? それなのに君は、その場に居座り続けている。つまり・・・──」
雲雀恭弥は、唇の端をつり上げた獰猛な表情で、愚かな選択を取った綱吉を嘲笑うように、言う。
「噛み殺されたとしても、なにも、文句なんて言えないね?」
「・・・・・・・・・ぁ」
死刑宣告にも似た、並盛の暴君が出した結論。
ゾワリ、綱吉の肌が粟立つ。脳の信号を無視して、全身が動かなくなる。
蛇に睨まれたなんてレベルではない。まるで氷で出来た巨人の手で全身を掴まれ、凍えと圧迫感とで自由を奪われる、それに匹敵する恐ろしさだった。
ひたり、ひたり。
雲雀の足が迷い無く、真っ直ぐと綱吉を目指して動きだす。
固定された視界の端に映るリボーンが銃を構える。しかし舌打ちをして、直ぐにその手を下げた。今の放心状態の綱吉では、死ぬ気になれないと判断したのだろうか。・・・それとも、死ぬ気になっても、雲雀には対抗できないと悟ったのか。
「・・・なんだ、少しはやるのかと期待したけど、結局、あのときと何も変わっていない。群れて、彼に守られるだけの、取るに足りない草食動物・・・──じゃあね」
雲雀はつまらなそうに吐き捨てる。
そして、もう何も言うことはないと、右手に握るトンファーを大きく振りかぶった。
『俺・・・なにやってるんだろう』
退くことも、唯一雲雀に対抗できたかもしれない、死ぬ気になることも叶わず、このまま全身をズタズタにされてしまうのだろうか。麻痺した頭で、綱吉はぼんやりと己の悲惨な未来を想像する。
スローモーションに映る世界の中で、銀色に鈍く光るトンファーの側面が、視界の殆どを埋め尽くした──その瞬間。
冷たい空気の流れが、綱吉の肩を撫でた。
「・・・・・・え?」
予測していた痛みは一切感じず、トンファーはピタリと静止している──いや、
雲雀は綱吉の後方を確認すると、一瞬目を大きく見開き、やがて苦虫を噛み潰したかのような表情をつくった。
「・・・邪魔しないでくれる?
「嫌だね、アホ学ラン」
ミシリと、トンファーの先端が悲鳴を上げ、亀裂が走る。すると、雲雀は得物に込めた力を抜き、殺気を残したまま構えを解く。
言葉こそは巫山戯ていた。しかし、綱吉の背後から発せられた声には、確かな怒りが滲んでいた。
聞き慣れたその声音に驚き、ツンツン頭の中学生は勢いよく振り返る。
そこには、ニコニコと奇妙に笑みを貼り付けた、己の幼馴染みの少年がいた。
「・・・色葉っ!? 会議に行ったんじゃ・・・いや、それよりも、雲雀さんと知り合いだったの!?」
まくし立てるような綱吉の質問を耳に入れながら、色葉は応接室内を見渡す。そして倒れる友人2人を見つめながら、ゆっくりと口を開いた。
「そりゃ俺、これでも美化委員長だし。だとすれば、他の委員長と接点ぐらい出来る・・・で、学ランは何をしてるわけ?」
「・・・・・・」
綱吉の問いかけに軽く返した色葉は、雲雀に微笑み、穏やかに問いかける。しかし、その言葉を発した少年には、少しの温厚さも存在せず。
笑っているのに、笑っていない。
綱吉は初めて見る幼馴染みの静かな怒りに、先ほど雲雀から感じた、恐ろしい圧迫感にも似た気配を感じていた。
「君、なにか思い違いをしていないかい?」
真正面から身の竦む重圧を感じているはずなのに、雲雀は顔色一つ変えず言った。
「・・・どこが? なにが思い違いだと?」
「僕は、約定に背くような行動は一切していない。言ったはずだよ、彼から危害を加えてくるようなら、容赦をする気はないと」
「はっどうせ、そこで意識を飛ばしてる2人を人質にして、そうせざるを得ない状況を作ったんだろ。そんなもの、正当な理由には──」
「ほら、やっぱり取り違えてる」
「・・・・・・」
「確かに、無断でこの部屋に侵入したのは苛ついてるけど、僕が彼に手を出す理由は別にある」
「は? ・・・別の理由?」
色葉は貼り付けていた笑みを消し、険しい形相で復唱した。綱吉とリボーンが2人のやり取りを見つめる。
雲雀は煩わしさを醸成しながらも、形の良い口を開いた。
「君も覚えはあると思うけど? 授業に支障をだした剣道部主将の非公式試合、花壇及び校内備品の爆破。爆音と同時に窓は割れて、グラウンドは連日に渡り陥没。廊下の壁は毒物によって溶かされて、虫が湧いていた。他にも挙げればきりが無い」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
雲雀は地を這うような声で、激昂の理由を淡々と述べる。
「調べさせたら、彼は全ての騒動の中心にいた。僕の管理する、僕の並盛中の風紀が脅かされ、秩序も何もかもを滅茶苦茶にされた・・・これは、僕に危害を加えるのと何ら変わらない行為だ」
「・・・・・・それは・・・確かに、そうだけども・・・」
「一度は見逃すと言ったのに、彼はその機会を無碍にした。なら、僕が手を下しても、非難される言われはないよね?」
当たり前の常識を説くように、学ランの少年は主張する。誰がどう見ても、落ち度は綱吉にあるのだと。
色葉はジトリと、窓枠に立つリボーンを睨み付けた。『おい元凶、どうしてくれるんだ』と恨みがましい視線を送るが、リボーンは何食わぬ顔で受け流すばかり。
論破されたとばかりに、色葉は言い淀む。しかし、僅かに躊躇いつつも言った。
「・・・・・・お前の主張はもっともかもしれない・・・だけど、だとしても、俺は意地でも反論してやる」
色葉は雲雀を真っ直ぐと見据えながら、強気に宣い、言葉を続ける。
「・・・暴力以外にも、やり方は幾らでもあるだろう。それなのに、話し合うことも、注意することもしないで、力でねじ伏せるお前のやり方は、余りにも独善的だ」
「・・・・・・なにそれ、君のその言い方こそ、独りよがりだと思うけど」
「別に、お前が間違っているとは言っていない。それと、他人の生き方に、口を挟む権限なんてものも持ってないから、お前のやり方を否定もしない。────だけど、
「・・・・・・」
自分の主張を、意地でも押し通そうとしている論理展開だった。とどのつまり、ただのゴリ押しである。
2人の間に、バチバチと火花が飛び交った。
『この2人、どっちも凄い負けず嫌いだ・・・!』
対立の原因が自分にあると理解しつつも、綱吉は心の中で叫ばずにはいられなかった。
なんて強気で、頑固一徹なのだろうと。互いに一歩も譲ろうとはしない言い争いに、思わず絶句する。
「引かないつもり? ・・・そもそも、どうして君はここに来たんだい?」
「お前が戻らないから、呼びに来たんだよ。・・・・・・なぁ、もう時間もないし、大人しく折れてくれないか?」
「断る」
「・・・綱吉が、校内の風紀を乱したとか言うけどさ、お前だって好き放題やってるよな」
「だからなに?」
「今回は、互いに妥協しないか? 痛み分けってことで」
「・・・・・・は?」
色葉の提案に、雲雀は不満そうな声を漏らす。
ここ最近の並中で勃発した騒動に辟易しているのだ。簡単にこの話を終らせてなるものかと、再び噛み付こうとする。
しかし、間髪入れずに色葉が言葉を続けた。
「俺は別に構わないぞ? 時間が押されて、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
色葉の言葉に、雲雀はピタリと沈黙した。そして、渋々といった様子で、両手のトンファーを服の中に仕舞い込む。
「・・・はぁ・・・・・・いいよ、退いてあげる」
「よーし、その返事が聞きたかった。じゃあさっさと会議室に──」
「そのかわり、融通は利かせてよ」
「・・・はいはい」
今度は、色葉がげっそりと声を上げる。
しかし、どうやら2者間の言い合いは解決したようだった。
何がどうなっているのかと、目を白黒とさせる綱吉に、色葉が声を掛ける。
「綱吉、俺は会議室に戻るから、とりあえずそこで伸びてる2人の介抱を頼む」
「あっ、うん・・・なんだか良く分からないけど、助かったよ」
「あぁ、俺も間に合ってよかった」
嬉しそうに告げた色葉は、雲雀を押すようにして出ていった。
室内が、静けさに包まれる。
未だ意識を取り戻さない獄寺と山本に、綱吉は改めて雲雀の恐ろしさに身を震わせた。
「噂には聞いてたけど、雲雀さんって本当にヤバい人だったんだ・・・2人とも、喧嘩は凄く強いのに」
「俺も予想外だったぞ。ヒバリがあそこまで強い奴だったとはな・・・それと、そのヤベー奴の攻撃を止めたアイツも、同等の実力者である可能性が生まれたな」
「そんな・・・色葉が喧嘩してるところなんて、1度も見たこともないのに」
「そのへんの詳しい事情は、後から問い詰めればいい。今はそこの2人を運ぶぞ」
「・・・うん」
力なく返事をした綱吉は、暗い面持ちで、去っていった幼馴染のことを思い浮かべる。
綱吉の危機に駆けつけ彼は、本気で怒って、助けてくれた。
しかし、雲雀のトンファーを受け止め、彼に憤ったときの色葉は、綱吉の知らない人間のようにも感じた。
普段穏やかに過ごしている彼が、まさか並盛中の不良の頂点である、雲雀恭弥と知り合いだったとは。ましてや、獄寺や山本を一撃で圧倒した雲雀の攻撃を、片手で受け止めるなんて。
「・・・俺って、色葉のこと全く知らないんだな」
ポロリと、やるせない気持ちが、口から零れ出る。
誰よりも理解していたはずの幼馴染のことが、今ではすっかり分からなくなっていた。悔しさに、心が苛まれてしまう。
「おい、ダメツナ」
「なんだよ・・・大体、こうなったのも全部リボーンのせいじゃないか」
「ヒバリは将来、絶対役に立つ男だからな。危険な賭けだったが、いい実戦経験にもなったし、結果オーライだぞ」
「あぁもう、全然オーライなんかじゃないよ・・・」
綱吉がムスッとした表情を向けるが、リボーンは気にせずに話し続ける。
「部下の獄寺達を見捨てず、ヒバリに立向かったのは、上出来だったぞ。屋上で言った言葉に付け加えて、もう一つだけお前に教えてやる」
リボーンにしては珍しい、真剣な声が綱吉に届けられる。
「色葉は何かと隠し事が多い。それと、呆れるほどに怪しい奴だと俺は思っている。──だが絶対に、
「・・・え、」
「この俺が出した結論だ。お前は色葉が関わると、自分のこと以上に気を使おうとするが、その悪癖は一歩間違えれば命取りだ・・・胸に刻んでおけよ」
「・・・たしかに、そうかも・・・うん、その言葉、ちゃんと覚えておくよ」
変に張っていた気が抜けたのだろうか、綱吉は胸がすいた気分になった。
腑に落ちないモヤモヤとした部分もあるが、今は己の家庭教師の言葉を、しっかりと心にとどめよう。
『信じてるからな、色葉』
記憶を失っても、彼は、友達であり続ける道を選んでくれた。辛かったり、困ったことがあれば、絶対に一人で抱え込まず、互いに助け合うと約束をしたのだ。
だから例え隠し事をされていたとしても、色葉が困っていないのなら、今は彼の意志を尊重することにしよう。綱吉はそう決断した。
気が付けば、お気に入りが100件を超えていました。
のんびり自由に書いている物語ですが、色々な方の目にとまっているのだと思うと、とても胸がほかほか温かくなりますね。本当にありがとうございます。
10月に資格試験があり、更新は相変わらずゆっくりになりますが、これからも呼んで頂けると嬉しいです。