彼が繋ぎ、ともに紡ぎ、生まれ変わる   作:歌詠

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試験勉強の息抜きに書いていたら、良い文字数になったので、投下します。
行間の使い方を少し、変えてみました。




5話 利害を押しつける

  キーンコーンカーン──

 

 

「はぁー・・・」

 

 

 放課後。

 けたたましく鳴り響くチャイムの音を、煩わしく感じながら、俺は薄く息を吐いた。

 授業が終り、生徒達が嬉々として教室を出て行く。

 

 

「うぁぁ・・・」

 

 

 嫌だなあ、怠いなあ、面倒くさいなあ。

 そんな堕落的な感情に身を任せて、俺は冷たい学習机に顔を埋める。

 溶けかけたアイスや、スライムのように。

 耳を澄ませば、チクタクと時を刻む時計の音や、部活動に勤しむ元気な生徒の声が聞こえる。

 教室にぽつりと一人。

 風に揺られるカーテンだけが、この空間で唯一、動くことを許された物体となっていた。

 

 

 ──コツコツコツ

 

 

 暫く何もせずにいると、誰かの廊下を歩く音が、静かな空間に木霊した。

 音はたった一つ。

 しかしその靴音は、訓練された軍人を彷彿とさせる厳かさがあった。

 複数の足音が集まれば、統率された軍隊の行進のようになるだろう。

 足音は開け放たれた扉を潜り、後方の席で項垂れている俺の前でピタリと静止した。

 

 

「朱雀色葉だな」

 

「・・・うわーリーゼントとか初めて見た」

 

 

 ガッシリとした体格の、老け顔の中学生が俺の前に立っていた。

 立派なリーゼントを頭に乗せて、口には葉っぱを咥えている。

 何というか。

 凄い、ワイルドです。

 

 

「委員長がお呼びだ。至急、応接室に向うように」

 

「・・・・・・はい」

 

 

 草を落とさないで話すとか、器用か。

 内心そんなツッコミをしながら、小さく返事をする。

 重たい身体に鞭を打ち、ゆっくりと身体を起こす。

 そして、机の横に置いた学校カバンを手に取り、俺は先導するように進みだした男の後ろを、のろのろと着いて行った。

 

 

 

 ***

 

 

 

 廊下には誰も居らず、ガランとしている。

『応接室』と室名札に記された部屋の前で、リーゼントの男は立ち止まり、三度、ノックをした。

 

 

「委員長、連れてきました」

 

 

 そう言い、男は扉を開け、俺を部屋の中へと促す。

 嫌々ながらも、その指示に応じることにする。

 俺は鈍い足取りで、廊下と応接室の境界線を潜った。

 パタリと後ろの扉が静かに閉まる音がする。

 部屋には俺と、奥の椅子に腰掛ける男の二人だけとなった。

 

 

「やあ、遅かったね」

 

 

 椅子に腰掛けたまま、彼は無表情でそう言った。

 つまらなそうに頬杖をつきながら欠伸をする男に、俺は不満をぶつけるように呟いた。

 

 

「・・・別に、迎えを寄越す必要はなかったんじゃないか?学ラン──いや、()()()()

 

 

「君は"明日"としか言わなかったからね。大方、僕が帰るまで待つ気だったんだろう。君の悪足掻きに時間を割く気はないよ、朱雀色葉」

 

 

 雲雀恭弥。

 並盛中学校の風紀委員長にして、不良の頂点に君臨する学生。

 綱吉はまだ彼のことを知らないようだったが、時期にその恐ろしい噂を耳にするだろう。

 雲雀は椅子から腰を上げ、俺と向かい合うように立ち上がった。

 

 

「さて、約束を果たしてもらうよ」

 

「・・・まあ、そう急くなよ」

 

 

 黒く塗りつぶされた瞳に、爛々とした光を灯しながら、雲雀はトンファーを強く握る。

 なんて繊細な敵意を向ける男なのだろうか。

 ピリピリと、空気が張り詰めるのを感じる。

 

 

「・・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「・・・・」

 

「・・・」

 

 

 ・・・うん、よし。

 俺は臨戦態勢に入った雲雀から視線を外し、担いだカバンに手を突っ込む。

 ゴソゴソと教科書や筆記用具を掻き分けて、目当ての品を手に掴む。

 そして、徐にそれを眼前に晒し、彼に差し出した。

 

 

 

「はい、どうぞ。お納めください」

 

「・・・・・・は?」

 

 

 俺の手には『並盛黒糖まんじゅう』と書かれた薄い箱が握られている。

 雲雀は数秒間その物産品を凝視してから、どんよりとした目つきで口を開いた。

 

 

「・・・なに、これ」

 

「何って、礼をすると約束したじゃないか。昨日はどうも有り難う、俺に話を合わせてくれて」

 

「・・・・・・・・・」

 

「朝一で買いに行ったんだよね。開いている物産品店があって本当によかった」

 

「・・・・・・」

 

「うん、まあそういう訳で。約束はちゃんと果たしたぞ学ラン」

 

「・・・ねぇ」

 

「それじゃあ綱吉も家で待ってるし、俺はこの辺で────」

 

 

 ヒュンッ

 

 笑顔で別れを告げようとする俺の右頬に、赤い線が走った。

 俺の後ろの壁には、丸い弾痕が出来ていることだろう。

 雲雀の右手に握られたトンファーの先端から、白い煙が上がっている。

 

 

「・・・このまま、帰すと思う?」

 

「はははまさか・・・いやぁ、トンファーから銃弾がでるとか、浪漫だな」

 

「そう、じゃあ僕好みじゃないけど──」

 

 

 雲雀は器用に、俺に向けていない方のトンファーを回転させ、先端を俺に向けた。

 両手を交差させるようにして、その得物の標準を定める。

 そして、静かに笑みを湛えながら、宣告した。

 

 

 

「撃ち殺す────!」

 

「────ッ」

 

 ダンッダンッダンッダンッダンッ──!!!!

 

 腹に響く衝撃音が炸裂した。

 右手のトンファーから2発、左手のトンファーから3発の弾丸が射出される。

 着弾先は、頭部、心臓、腎臓、膝、アキレス腱辺りか。

 

 

「んのッ──!!」

 

 

 両の手に魔力を這わせ、瞬間的に強度を上げる。

 

 キィィンッ!!

 

 火花が弾ける。

 甲高い金属音を鳴り響かせ、二振りで五発の弾丸を叩き落とした。

 

 

「やる、ねッ──!」

 

「あぁくそ!」

 

 

 目の前の懐に、雲雀の影が迫っていた。

 引き金を引いた直後に地面を蹴ったらしい。

 ビュウッ!と空を裂き、彼は左手のトンファーを振るう。

 一撃目。

 俺はその攻撃を滑るようにして足を引き、避ける。

 そして息つく間のない、二撃目。

 彼の右手に握られた得物より、鋭利な刃が現れる。

 

 

「──銃刀法って知ってるかッ!!」

 

「今更だね」

 

 後方に下がった勢いを殺さぬまま、強く壁を蹴り、雲雀の頭上を跳躍。

 連撃を避けきる。

 そして、綺麗な放物線を描くようにし、窓際に着地した。

 

 

「狭い室内でよく動くね。まるで曲芸だ」

 

「それはお互い様だろう」

 

 

 図らずも、俺と雲雀の初期位置と入れ替わった状態になる。

 応接室の入り口付近で直立する雲雀に、うんざりとしながら、俺は言葉を発する。

 

 

「・・・もう、やめないか。お前に戦う理由があったとしても、俺にはない。それに、これ以上続けたとしても、お前の牙が俺に届くことはない」

 

「へぇ、言うじゃないか。だけど、その提案は呑んであげない」

 

「・・・・・・後悔するぞ?」

 

「後悔させられると思う?」

 

「・・・あぁ、そうか・・・骸の気持が今なら分かる。お前は"痛い目を見ないと学習しないタイプ"ってやつなんだろう?よしよし、いいだろう。俺も本気を出すことにした」

 

「・・・やっと、やる気になったね」

 

 

 雲雀はトンファーを構え直し、動きを止める。

 俺の出方を伺っているらしい。

 先程までと、纏う空気が変わっているように感じた。今しがた行われた怒濤の連撃は、小手調べといったところか。

 本当にこの男は中学生なのだろうかと疑問を抱いてしまう。イタリアにいた下手なマフィアよりも余程、強い。そして、発する殺気が尋常ではなかった。

 

 

『エルキドゥ、少しだけ、力を借りる』

 

『いいよ、的確に行こう』

 

『応ともさ──!』

 

 

 神秘の力を呼び起こす。

 姿は変えない。

 内から溢れ出る魔力を制御し、思い描く形に昇華させていく。

 身体と踏みつける足場を繋げ、境界線を薄くしていくイメージで、高らかに声を上げる。

 

 

「星に刻まれし傷と栄華、今こそ歌い上げよう────民の叡智(エイジ・オブ・バビロン)!」

 

 

「────ッ!?」

 

 

 瞬間、天井から三本の黄金の鎖が出現し、雲雀に巻き付き、拘束した。

 足に二本、両手と腰を纏めるように一本。

 そして絡め取られたまま、彼は宙吊りにされる。

 肩に掛けていた黒い学ランが、パサリと地面に落ちた。

 

 

「うんうん、気配感知は壊滅的だけど、こっちの能力は素の状態でも、少しだけなら使えるようになったんだよな」

 

「くっ・・・このッ!」

 

「やめとけ、炎を灯せない今のお前じゃ、その鎖を壊すどころか、傷つけることすら出来ないだろうよ」

 

 

 ギリギリと、抵抗すればする程、拘束は強くなる。

 足と両手、腰のみで全身を支えるのは、相当身体に負担をかける行為だ。

 まして逆さ吊り。

 長時間続ければ、頭に血が登り、意識を失う可能性もある。

 

 

「タロットナンバー12、"吊された男"・・・正位置での意味は修行、忍耐、奉仕、努力、試練、着実、抑制、妥協・・・・・・修行と努力、着実以外は、足りてないんじゃないか?」

 

「噛み、殺すッ・・・!!」

 

「元気なことで。まぁ暴れない方がいいぞ、無駄に疲れるからな・・・なあ雲雀、俺と取引をしよう」

 

「・・・・・・」

 

 

 俺の言葉を無視し、彼は拘束からの脱出を試みる。

 しかし黄金の鎖はジャラジャラと音を鳴らすが、傷つくことも、緩むこともない。

 暫くして諦めたのか、彼は身体に加えていた力を手放して、ブラリと宙に漂った。

 

 

「・・・この状況で、何を言うかと思えば」

 

「あぁいや、一方的な要求はするつもりはないし、そういうのは取引だとは思ってないから安心してくれ。ちゃんと双方に理のある案を出すつもりだ」

 

「・・・・・・理解できない。どうして君は、僕に止めを刺さないの?」

 

「雀刺しをご所望か?残念だけど、俺は平和主義の偽善者だ。お前の悪趣味に付き合うつもりは毛頭ない」

 

「・・・チッ・・・生意気な焼き鳥」

 

「有り難い神獣の名前を美味しくするんじゃありません!!・・・・・・あぁもう」

 

 

 確かに朱雀は中国の五行学説においては火に対応する、神聖な鳥ではあるけども。

 四神を焼き鳥呼ばわりするのは、失礼極まりない気がする。

 肺の酸素を吐き出しながら、左手で頭を抱え、自分を落ち着かせる。

 こめかみグリグリと手で解し、視線を雲雀に戻しながら口を開いた。

 

 

「俺からの要求は二つだけだ。一つ、俺が表沙汰にしない事柄や、操る異能を他言しないこと。二つ、沢田綱吉に手を出さないこと」

 

「・・・それで?その代わりに、僕が得られるものは何?」

 

「・・・・・・俺が、お前の鍛錬の相手になる・・・っていうのはどうだ?」

 

 

 たっぷり躊躇ってから、思いついた案を告げる。

 雲雀は珍しくパチクリと目を開閉させる。

 そして、懐疑的な視線を俺に向けながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

 

 

「君は、戦いを忌み嫌っていたんじゃないのかい?」

 

「俺が忌み嫌うのは、理不尽な痛みだ。だから、血で血を洗う潰し合いは大嫌いだし、慣れるつもりもない。だけど、技芸や心身を鍛える為にする鍛錬は、嫌いじゃない。武芸を極める為にする研鑽の相手なら・・・時間のあるときに限って、提示した条件と引き替えにやってもいい」

 

「・・・・・・」

 

 

 眉間に小さな皺を刻みながら、彼は俺の言葉を吟味しているようだった。

 そろそろ彼を宙づりにしてから、数分が経過しただろうか。

 数秒考えて答えが出たのか、雲雀は口を開く。

 

 

「いいよ、君の提案に乗るとしよう」

 

「話が早くて助かるわー」

 

 

 天井から伸びる三本の鎖を、承諾の言葉と共に地面に降ろし、編んでいた魔力を解く。

 黄金の鎖がぼやけて金泥となり、小さな光を放ちながら空気に溶けていく。

 蛍火のような現象だなあと、自ら生み出したはずなのに、毎度ながら不思議に思う。

 いつの間にか、雲雀は落ちていた学ランを拾い、肩に掛け、部屋に設えられたソファに腰掛けていた。

 数分も逆さ向きにされていたのに、全く不調はないようだ。

 

 

「・・・君はよっぽど、昨日の草食動物を大事にしているんだね」

 

「大事というか・・・まぁある意味、綱吉は俺が生きる意味の一つだからな」

 

「うわ、(おっも)・・・・・・」

 

「引くの止めて?俺だって色々と大変なんだ」

 

「・・・・・・君の提示した条件、約束は守るよ。だけど、彼が僕に危害を加えるようだったら、一切合切、容赦はしないから」

 

「・・・いや、そこは手加減してくれ。気絶させる程度でお願いしたい」

 

「・・・善処しよう。ふん、君も大概だね」

 

 

 何が大概なんだろうと疑問を抱きつつ、俺は雲雀とは反対側、奥に位置する椅子に腰掛ける。

 多少危うい場面もあったが、何とか丸く収めることに成功し、内心安堵する。

 

 

「本当に君、記憶喪失なの?」

 

「・・・それ、学校じゃ綱吉と先生しか知らないはずなんだけどなぁ・・・お前こそ、本当に中学生?」

 

「さあね、僕の学年は、僕が自由に決めるられる」

 

「・・・お前、とんでもない大物だよ、本当」

 

 

 互いの懐を探るようにして、言葉を交わし続ける。

 なんだか、どっと疲れが出てきた。

 身に迫る危険が有ったわけでも無いのに、身体は疲労を訴えている。

 必要な会話を済ませたら、さっさとお暇するとしよう。

 今日は未だ、綱吉と宿題を片付けるというタスクが残っているのだから。

 

 

 

 

 




今回の話を書くにあたり、雲雀恭弥のプロフィールを調べたのですが、誕生日は記載があるのに、まさかの年齢不明で「えぇ・・・」と困惑してしまいました。
しかし、こういった謎の多いところが、雲雀恭弥の魅力の一つなんでしょうね。
多分。

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