彼が繋ぎ、ともに紡ぎ、生まれ変わる   作:歌詠

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全体的に行間を修正しました。
今回から原作に入ります。


原作始動
6話 人の持ちうる最大の覚悟


「今日は良い天気だなぁ。こうも太陽が眩しいと、気分も自然と明るくなる」

 

『最近は気候が安定してきたからね。暑すぎず寒すぎず、生物が活動するのには、丁度良い温度だ』

 

 

 花壇にホースで水を撒きながら、朝の透き通った空気を吸い込む。

 並盛中に入学してから、俺は美化委員会に入った。

 校内の清潔を保ち、生徒達が学校生活を心地よく過ごせるよう尽力する。それが表立った仕事内容である。

 緑化委員会が何故だか先日無くなった影響で、美化委員の仕事には校内の生花や、外にある花壇の整備も含まれることになった。

 オーソドックスだが、人気の無い委員会のようで、学年を通して人手は不足している。

 当初は委員会に入る気は無かったのだが、誰もやりたがらない上、エルキドゥも勧めてくるしで、自ら立候補するに至った。

 

 

「一年生で委員長とか、このまま卒業まで拘束されるやつじゃないですかやだー」

 

『うんうん、綺麗なのは良いことだよね。錆とかカビとか、徹底的に排除していこう』

 

 

 どうやらエルキドゥは綺麗好きらしい。

 まぁ、彼の在り方を考えれば、分からなくもないが。

 一通り水やりや土いじりを終えて、俺は一息ついた。

 早起きして、朝の五時頃から黙々と一人で作業を続けていたので、花壇は園芸好きの人間が手を加えたかのような、中々の出来になっている。

 自画自賛しながら、そろそろ教室へ行く準備をしようと考え始める。

 しかし、そのタイミングで『プルルルッ』と音を鳴らしながら、ポケットの携帯が振動した。

 

 

「誰だこんな時間に・・・って綱吉だ」

 

 

 片手の軍手を外し、液晶画面に表示された名前を確認すると『沢田綱吉』と書かれていた。

 中央の丸ボタンを親指で押し、耳に当てる。

 

 

「もしも──」

 

『──色葉ぁぁ!!ひぃっ!?助けっ──』

 

『うるせぇぞ、ダメツナ』

 

 

 バキュンッ!!

 

 ツー、ツー、ツー・・・────

 

 

「えぇ・・・・・・」

 

 

 数秒もしない内に通信の切れてしまった端末を眺めながら、困惑の声を漏らす。

 頬に汗を浮かべながら、綱吉の身に何が起きているのか想像し「あぁ」と納得する。

 

 

「原作が始まったのか」

 

 

 綱吉の声に混じって聞こえた、幼い子供の声。

 あれは恐らく、家庭教師ヒットマンのリボーンだろう。

 今までは、俺が一度読んだ漫画の世界とは、異なる進み方をしていたはず。

 だが、イタリアから物語を動かす要因であるヒットマンがやってきたようだった。

 

 

『これから、賑やかになりそうだね』

 

「・・・既にもう、毎日がドッタンバッタン大騒ぎって感じなんだけどなあ」

 

 

 花壇の周囲に散らかした整備道具を片付けながら、俺は小さく息をついた。

 

 

 

 ***

 

 

 

「おい聞いたか!持田先輩と沢田が剣道で勝負するんだってよ!」

 

「あの剣道部の主将と?これは朝っぱらから面白くなりそーだ!」

 

「見に行こーぜ!」

 

 

 教室に戻ると、生徒達が浮き足だって、何やら愉快に言葉を交わしていた。

 これからホームルームが始まるというのに、廊下へ飛び出していく者も多数。

 

 

「・・・いや、無法地帯かよ」

 

『何者にも縛られない、自由の塊のような者達だね』

 

『・・・それ遠回しに馬鹿にしてないか』

 

『ふふ、そんなことはないさ』

 

 

 真面な人間はいないのかと、生徒達を観察しながら他愛のない会話をする。

 エルキドゥの読めない言葉に苦笑いを浮かべながら、生徒達の会話を思い浮かべる。

 

 

『“沢田”って綱吉のことだよな・・・何がどうなったら剣道部の部長と戦うことになるのやら』

 

『その理由は、覚えてはいないのかい?』

 

『笹川さん絡みだった気はする・・・詳細は覚えてないなぁ』

 

『ふむ・・・・・・体育館に人が集まっているね、そこで“勝負”とやらをするらしいけど・・・大空の彼は、一階の渡り廊下を逆方向に歩いている』

 

『成る程・・・・・・ところでエルキドゥ、俺の後ろにヤバイのがいないか?』

 

『うん、いるね』

 

 

 ぞわりと一瞬、背中が泡立つ。

 生徒の消えた教室で、一人たたずむ俺の背後に、奇妙な気配が生まれたのだ。

 名状しがたい気配を感じながら、俺は静かに後ろを──正確には後方の足下へ視線を向けた。

 

 

「ちゃおっす、お前が朱雀色葉か」

 

 

 初めに目に入ったのは黒いボルサリーノのソフト帽に、その上で座る緑のカメレオン。

 大きな瞳に、特徴的なたれ眉、そしてクルリと巻かれたもみあげが、彼の存在を愛らしいモノだと錯覚させる。

 黒いスーツで全身を包む幼い赤ん坊が、俺を見上げる様に立っていた。

 

 

「・・・そうだけど、君は?」

 

「オレは家庭教師のリボーン。ツナを立派なマフィアのボスにする為に、イタリアからやって来た、最強のヒットマンだぞ」

 

「・・・・・・」

 

 

 この子供は何を言ってるのだろうと、突っ込みを入れたくなるが、何も間違えたことを言っていないと知っていると、この世界のカオスぶりに頭を抱えたくなる。

 真面目に対応するのも面倒だと思い、どうでも良さげに会話を続けることにした。

 

 

「はぁ、それで?最強の殺し屋さんが、俺に何の用なんだ?」

 

「・・・すんなり受け入れるんだな・・・まぁいい、お前に幾つか質問がある」

 

「質問?」

 

 

 初対面の人間に、何を聞くのだろうか。

 僅かに疑問を持ちながら、俺は子供の言葉を反芻した。

 リボーンは探るような視線を隠さずに向けながら、静かに口を開いた。

 

 

「お前、どうしてツナに嘘をついてるんだ?」

 

「嘘?なんのことだ」

 

「四年前、カルトマフィア『魂の光』が起こした──お前が記憶喪失になる原因になった事件のことを、どうしてツナには事故に巻き込まれたとしか伝えてないんだ?」

 

 

 刺すような鋭い眼光を向けながら、リボーンは言葉を発した。

 エルキドゥがいなかったら、今頃その恐ろしさに震えていたかもしれない。こんな赤ん坊がいて堪るかと思い、顔を顰めながら、俺は口を開く。

 

 

「・・・あぁ、そんなことか・・・俺がその話を綱吉にしたとき、アイツはまだ小学四年生だったんだ。だから、詳細に事件の内容を話すのが憚られただけだ。別段、大した意図はないさ」

 

「ツナがマフィアの血筋だから、隠していたわけではないんだな」

 

「随分と疑い深いな、俺はそんなに怪しいか?綱吉がマフィアの血を引いているなんて話、今初めて聞いたぞ」

 

「こうしてオレの話に疑問を抱いていなさそうな辺りが、特にな。まるで最初から、全て知っていたかの様な反応に見えるぞ」

 

「そうか、まぁ好きに疑ってくれ。それで、他に質問は?」

 

 

 失礼なことを宣う奴だと感じつつも、何食わぬ顔と声で返答していく。

 まるで尋問されているようだ。

 何を考えているのかを一切悟らせない表情をしながら、リボーンはゆっくりと次の問いかけを口にする。

 

 

「お前、フェイカーって奴と会ったことはあるか?」

 

「・・・ない、そもそも知らない名前だ。どうしてそんなことを聞くんだ?」

 

「そいつの口から、入院していた頃の、お前の話が出たからだぞ。本当に知らないんだな?」

 

「応ともさ。俺は誠実な人間だからな、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「・・・・・・」

 

 

 ニコニコと人好きするような微笑みを浮かべながら、そう言った。

 リボーンは俺の目をじっと見つめてから、やがてクルリと背を向けて歩き出した。

 

 

「・・・・・・時間を取らせたな。オレは一仕事あるからこの辺で失礼するぞ」

 

「はいはいお達者で──余り綱吉を虐めてくれるなよ」

 

「それは難しい注文だな」

 

 

 後ろを向いているので表情は分からなかったが、今頃、不吉な笑みを浮かべているのだろう。今のはそういう声だった。

 去っていく小さな殺し屋が、視界から消えるまで眺める。

 そして彼の気配が完全に無くなったタイミングで、エルキドゥから声がかかった。

 

 

『マスターは行かないのかい?』

 

『あぁ確かに、そろそろ向かった方が良さそうだ』

 

 

 少し考えてから、俺は自分の教室から、隣の綱吉の教室へと入る。

 そして『沢田』と名前が縫われている体操着袋を手に取り、誰も居ない廊下を早足で進んで行った。

 

 

 

 ***

 

 

 

「何が何でもッ!一本取る!!」

 

 

 体育館に入ると、聞き覚えのある友人の、始めて聞く様な野太い叫びが耳朶を打った。

 見物客で溢れた体育館の中央に目を向けると、剣道用の和服を着た男にマウントポジションを取る、パンイチの綱吉がいた。

 鬼のように目をつり上げて、額の中央にはオレンジ色の炎を灯している。

 どう見ても剣道の試合では無かった。

 

 

「うおおぉぉ!!」

 

「ぎゃっ!!」

 

 

 ベリッ!!と痛々しい音を上げて、綱吉が和服男の髪の毛を毟り取る。

 一本や二本では無い、あの量は一種の拷問だ。

 

 

「100本とったーっ!!」

 

「ひぃ!?」

 

「ちっくしょ~!!うおおおぉぉ!!」

 

 

 雑草を抜くが如く毟った髪束を、綱吉は審判と思わしき生徒に見せつける。

 しかし、審判は悲鳴を上げるばかりでジャッジを下さない。

 すると綱吉はまだ勝利に捧げる毛髪が足りないと判断したのか、咆哮を上げながら再び雑草除去を続ける。

 ツルンッと音を立てながら、和服の男は意識を失う。その頭部は、どこまでも輝いていた。

 彼の髪は・・・一本も助からなかったようだ。

 

 

「全部本!!」

 

「あ、赤!!」

 

 

 審判の男が綱吉の勝利を告げる。

 体育館が静寂に包まれ、綱吉の額の炎が煙と共に消えていく。

 

 

「す、スゲェ!勝ちやがった!!」

 

「めちゃくちゃだけどイかしてたぜ!!」

 

「なんかスカっとしちゃった」

 

 

 お 前 達 は 鬼 か。

 

 ギャラリーが綱吉をよいしょし始める。

 哀れな剣道部主将は倒れたまま、ピクリとも動かない。中学生にして、頭部の悩みを抱えることになる彼の明日はどっちだ。

 呆然と立ち尽くす綱吉の元へ、外ハネの茶髪をした、可愛い少女が声をかける。

 

 

「ツナ君って凄いんだね!ただ者じゃ無いって感じ!」

 

「!」

 

 

 その言葉に、綱吉は一瞬驚き、やがてジワジワと嬉しそうに顔の色を明るくする。

 照れ照れとしながら佇む。青春だなあこんちくしょう。

 砂糖を吐きたくなりながら、俺は騒動の中心へと歩く。

 

 

「綱吉」

 

「っあ色葉!・・・ってこの格好は俺が自分から脱いだわけじゃなくて!!」

 

「はいはい、とりあえず風邪引くから、ほら」

 

「あ、ありがとう・・・!」

 

 

 持ってきた彼の体操服を渡す。彼は赤面しながらもそれを受けとり、高速で服を着ていく。

 

 

「朝から大変だったな」

 

「うん・・・でも俺、死ぬ気になったら持田先輩にも勝てるんだってわかって、何だか自信が湧いてきたよ・・・!」

 

「そいつは僥倖、その気持を忘れずにな」

 

「うん!」

 

 

 微笑ましいものを見るような視線を彼に向けながら、労いの言葉をかける。

 普段ネガティブな発言が多い、綱吉の前向きな発言に、俺まで嬉しくなってしまった。

 賑やかな雰囲気に包まれる体育館で、友達の成長を垣間見ることが出来た。こうして、子供は色々な経験を積んで、いつか大人になるのだろう──なんて、いい話風に纏めておくことにする。

 

 遠くでこちらを観察する赤ん坊の視線を、背中に感じた。果たして、次はどのようなトラブルを運んでくるのやら。

 

 

 

 

 




暑い、暑さが爆発しすぎている。
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