双拳   作:文月りんと

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ポルトガル 街中


2.撮影

様々な人が行き交う市場。

食べ物があふれかえっている場所で、和気あいあいとしている男女のカップルがいた。

「はー。ここは空気も美味しいし、街は活気があっていいなぁ」

青年はこの国の言葉ではなく、日本語を話している。ニコニコとはにかむ笑顔が眩しい。そんな青年の隣にいる女性は周囲を警戒し続けている。

「ねー。翔一くん! そんな陽気な顔して、まただまされるよ? この国に来た時は、なんとかなったからいいものを…」

「まぁまぁ。ほら、真魚ちゃん! これなんか美味しそうだよ!」

真魚と呼ばれた女性からの忠告をやんわりと回避して、翔一と呼ばれた青年は笑顔を崩さなかった。

「…おれ、気にしてないから。それにさ、あれだって、自分達が生活するためにやった事だって言ってたじゃない?」

 困り顔で真魚も答える。

「そりゃあ、そうだけどさ…」

「この場所でもあの子達が住んでいることには変わりなくて、今度からは手は出さないって言ったよね? だったら、信じてみようよ」

時として、翔一のその優しさが彼自身を傷つけることを、真魚は知っていた。

すぐさま翔一は近くにあった食材へと目を向け、目の前の品を手にとって、笑顔を向けてくる。

「これが美味いと評判の野菜かー。このままでも美味しいのかな?」

翔一は食材にかじりついてみた。

「…これは! 確かに美味しい! おばちゃん、これ一つ頂戴!」

財布からこの国のお金を適当に取り出し、渡す。受け取った店員も、現地語ではない言葉を聞き、頭をかしげながらもお金を受け取る。

「あぁ、お釣りはいいから!」

ジェスチャーだけでどうにか処理した翔一は終始笑顔だ。

「んー、ねぇ、真魚ちゃん、どう料理すれば俺の店で出せるかな~? あ!あそこにも!」

「ちょっと翔一くん! 待ってよ~」

「真魚ちゃん、そんなに焦らなくても、美味しい食材は逃げないよ!」

そう告げると翔一は、すたすたと一人で行ってしまった。

「もう! …せっかく二人で旅行に来たのに」

その時、近くでパシャリというシャッター音とフラッシュが光った。

「いい画になるねぇ」

急に写真を撮られた事に対して、嫌悪感を示す真魚。

「………」

「あー、すまない。反射的に撮っちまった。キミは、日本人かな?」

 知らない男性から話しかけられ、警戒心を高める。

「…はい、そうです。あなたも日本の方…みたいですね。今はこの場にはいませんが、もう一人の連れと旅行していまして…」

学生だった頃だったら、無視して進んでいってしまったが、疑問に対し素直に答える。

(なんとなく、なんとなくだけれど、この人、悪い人じゃない気がする)

「ほう。置いてけぼりってワケじゃなさそうだな。さっきお店がどうとか言っていたみたいだけど、店主さんと奥さんなのかな?」

「おっ、奥さん!? …いえ、わたしはまだそんなんじゃ…」

 真魚は照れてしまい、言葉を詰まらせた。

「真魚ちゃん? どうしたの?」

 先にいなくなっていた翔一が戻ってきた。

「翔一くん…」

「ごめんね。さっきは言い過ぎた。…なにかあったの?」

真魚の前に立つ見知らぬ男性の様子を一瞥しながら、告げる。

「…なにもないよ。大丈夫」

「そう、なら良かった」

「あー。変なタイミングで声をかけちまったみたいだな、すまない」

先に男性が深く一礼をした。

「そんな~、謝らないで下さい」

急に謝られて真魚は面を食らってしまう。

「気分を害したようだし、さっき撮った写真も消しておく。…ほら、この通りだ」

手慣れた手つきでカメラの画面をこちらに向け、写真を削除していく。

「…いえ、別にいいのに」

「俺は悪い者じゃないんだ。…といっても、信じてもらえるかわからんよな。あ、そうだ」

そう言うと、男性はポケットから革製の名刺入れを取り出し、二人に自身の名刺を渡した。

「…いちもんじ、はやと?」

「そう、俺の名は一文字、一文字隼人。見ての通り、フリーでカメラマンしている」

翔一は背中のバッグから、紋章の入った革製の名刺入れを取り出し、お返しにと一文字へ名刺を手渡した。

「一文字さんですね…。俺、津上翔一っていいます! これ、ウチのお店の場所や電話番号が書いてあります。よければ貰って下さい」

「おう、名刺のお返しサンキュー。なになに、レストランアギト? 面白れぇ名前だな」

面白いなんて言われて、ニコニコと翔一が笑顔を振りまく。

「ありがとうございます! 是非、日本に立ち寄った際はお待ちしていますよ!! 腕によりをかけておもてなし、しますからね!!」

真魚はやれやれといった表情で、頭を抱えている。ふと見上げると市場の時計から鐘が鳴った。

「ねぇ、翔一くん、そろそろ行こう?」

「え? どうしたの、真魚ちゃん?」

「いいから! それじゃ、失礼します」

「あぁ。またな」

翔一の腕を引っ張り、真魚と翔一は一文字の前から立ち去った。

「やれやれ、俺も嫌われちまったかな」

ポリポリと頭をかきながら、呑気にあくびをする一文字だった。

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