双拳   作:文月りんと

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ポルトガル とあるホテルの一室


4.兆候

「!!!」

ホテルでのほほんとしていた翔一は、ただならぬ気配を感じ、立ち上がる。

「翔一くん、どうしたの?」

突然立った翔一の様子を見て、真魚も驚いているが、そんなことはお構いなしに跳びだそうとしている。

(この感覚は!? もう何年もなかったのに!)

キョロキョロと周囲を見回し、混乱する翔一だったが、いてもたってもいられず、近くのジャンパーを掴み、部屋から出ようとした。

「ちょ、ちょっと待ってよ、翔一くんってば!!」

すぐに真魚に片手を掴まれる。

「…まさかこんな場所で、アンノウン出たの?」

(そうだ…、あの戦いからもうずっとアンノウンとは戦っていない)

それ以来、似たような感覚に陥ったことはあったが、結局、駆けつけても何も無かった。

ふと部屋にあった鏡に自分の顔が映っているのを見つけた。昼間の笑顔とは大違いだ。

(今回も、気のせいだ…。今、真魚ちゃんに心配させてどうする?)

「………。よし」

翔一は深呼吸して、手に持っていたジャンパーを元の場所へ放り投げた。

「ごめん、真魚ちゃん。これから出かけるのをやめるからさ。手、離してくれないかな? …ちょっと痛いし」

「え?」

そう言われた真魚は握った翔一の手を見ると、肌の色が少し変わっている事に気がついた。

「あぁ! ご、ごめんなさい」

すぐに手を離し、タオルの入っているバッグを探す。バッグをベッド脇に見つけ、タオルを取り出した瞬間、今度は真魚の手を優しく翔一が握った。

「しょ、翔一くん?」

少しの間、見つめ合う二人。

「心配しなくても、大丈夫だよ。俺はどこにも出かけないから」

「うん」

自然と二人の顔が近づいていく。

吐息が顔に触れるぐらいになった、その時。

「!!!」

室内の電話が鳴り響いた。電話の方向へ翔一の顔が振り向く。

「あぁ…。もう少しだったのに…」

真魚が寂しそうにしているのを尻目に翔一は電話に出た。

「はい! ………もしもし? ??? もしもーし!」

電話の相手が何も言わないのだろうか。翔一の顔がクエスチョンマークを浮かべているようだった。

「いたずら電話ですか? 切りますよー!」

相変わらず日本語で応答しているので、向こうもわからないのではないか。そんなことを真魚は考えていた。

「…あっ、ちょっと!」

電話は切られてしまったらしい。

「翔一くん、電話、誰からだったの?」

「うーん、わかんないけど、一言だけ『気をつけろ』だってさ」

「…『気をつけろ』?」

「なんだろう…」

先程の翔一の行動、そして今の電話。真魚はよからぬ不安を拭いきれなかった。

 

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