「今日も、いい食材に巡り逢えたね~!」
次の日の夕方、翔一の顔ほころんでいた。なにかレシピが浮かんだようで、ホテルの部屋に戻ってからも、レシピノートの手が止まらなかった。そんな様子を見て、真魚も昨日の事を忘れつつあった。
「!!!」
まただ。翔一の顔が固まっている。レシピを書いている途中で、ペンの動きを止めていた。
「翔一くん? どうしたの?」
嫌な予感しかしない。でも、聞かずにはいられない。
翔一は手に持っていたペンを机に置き、ジャンパーを羽織ると、椅子が横に倒れるのもお構いなしに立ち上がった。
「真魚ちゃん、ごめん!! この部屋にいてね!」
そう言うと、翔一は駆け出していってしまった。真魚も翔一を追いかけ部屋を出るが、すぐに見失ってしまう。
「もう! 翔一くん!!」
いつもはバイクに飛び乗るが、遠いこの場所にはバイクがないので、全力疾走で走る。やっぱり昨日感じた《あの感覚》は、間違いじゃなかった。二日連続は絶対におかしい。
「はぁ…はぁ…」
《あの感覚》が示した場所はホテルの裏路地からだった。裏路地に続く曲がり角を曲がっていく。街灯もろくになく、月夜の明るさだけが頼りだ。
そこには、不可思議なオブジェがそびえ立っていた。
「なんだよ、コレ…」
一歩ずつ近づいていくと、明滅する非常灯に照らされて、それがなんだったのか見えてきた。
「に、人間なのか…」
十数年前、世間を騒がせていた不可能犯罪と呼ばれていたあの事件にそっくりな殺され方を思い出す。
「…ということは」
改めて警戒すると、ヒュンヒュンと頭上を飛び交う音が聞こえている。
ゆっくりと見上げると、そこには赤いトカゲ男が空中で止まっていた。
「お前は!」
『…貴様、アギトか?』
口が開いていないのに、直接脳に響く声。以前戦ったエルシリーズに怪人の姿が似ていた。
『お初にお目にかかる、アギトよ。私は【火のエル】だ』
手刀を振り下ろし、火のエルは飛来してきた。翔一はバックステップで回避すると、すぐに身構える。呼吸を整え、両腰に手をあて、ゆっくりと右手を前方にスライドさせていく。
「変身ッ!」
叫びと同時に両手で腰を叩く。
だが。
「ベルトが出てこない!?」
『む? 貴様、アギトではなかったのか?」
エルも首をかしげている。
『…どうやら間違ってはいないようだな』
翔一自身も変身できるものと思っていた為、ひどく動揺していた。そんな隙に乗じてか、エルは手をかざす。
『アギトへ変われぬのならば、好都合。…貴様には死んでもらおう』
周囲がギリギリと音を出し始める。
「!!! 動け、ないっ?!」
自分の体が固定されて、身動きが取れなくなっている。
(このままじゃ、ヤバい! やられる!!)
どうにかして、あの行動を止めねば。自分がもしここでやられてしまったら、おそらく次はホテルにいる真魚が危ない。それだけは免れねば、と思ったそんな刹那。
「ちょーっと待った!!」
暗い路地の遮蔽物を蹴散らしながら、一台のバイクがやってきた。
『何者だ!』
勢いが止まらず、バイクはエルにぶつかり、吹き飛ばした。
「っととと!!」
エルと翔一の間を塞ぐようにバイクは停車した。すぐにバイクから降りた男は、ヘルメットを取る。のぞいた顔は、数日前出会ったばかりのあの一文字だった。
「大丈夫か、津上!」
「ダメ、です、よ…、ここに、来ちゃ…」
苦し紛れに言葉を吐き出せた翔一は、自分よりもこの場に来た一文字に対して、怒っている顔をみせた。
そんなことはお構いなしに、一文字は笑顔を返す。そして、怪人の前に立ち塞がった。
「俺は平気だよ」
『…余計な真似をしてくれたな』
たいしたダメージを負っていないからか、すぐにエルは動き出した。
「はいはい、余計で悪ぅござんしたね! じゃあ、間髪入れずにご挨拶といきましょうか!』
一文字はおもむろにジャケットのジッパーを下ろす。
(あれは!?)
一文字の腰には見慣れぬベルトが出現していた。初めて見るはずなのに、ぼんやりと以前どこかで見たことのあるような、そんなベルト。翔一は、デジャブを感じていた。
「変身ッッ!!」
一文字はその名の如く、両手で一の文字を描き、両手を移動させていく。そして、左胸の上で両の握り拳を創ると、天高く叫んだ。
「トォーーーッ!!!」
一文字が叫びと同時にジャンプをし、空中から着地したその時には、異形の姿へと変身していた。仮面は傷だらけ。身体の節々を見るに、もう何十年も戦ってきたかのような、そんな印象を受ける。
「…アギ、ト!?」
驚いた翔一は自分とも、同じく戦っていた葦原とも異なる姿に変わった一文字を、まじまじと見て言った。
『アギトォ? 違うな、俺は2号、仮面ライダー2号だ』