一言で言うと、理不尽   作:火影みみみ

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魔王? いやよ死にたくないもの

 ねえ、私の話を聞いてくださる?

 ええ、ええ、それでいいの。

 あの外道二重人格魔王ことガイにより異界に浚われ、厄ネタを押し付けられた可愛そうな人間(?)こと私、ジュリエット・ヴァイオレット。世間では魔王ステンノとも言われているわね。

 私が意識を取り戻したときにはね、もうすべて終わっていたわ。

 目の前には元魔王ガイ、そして頭を垂れる魔人が数名。

 ええ、もうすべてを察したわ。

 ここは魔王城、あの白くじらが支配する悲劇で満ちたハードモードの世界だと。

 そして本来美樹が継承するはずであった魔王は私が継承したということ。

 状況を理解したことで私はますます混乱に陥ったわ。

 だってそうでしょ? いくら転生経験があるとはいえ私は普通の女の子。魔王なんてできるはずがないわ。

 だから私がとった行動は一つ。

 

 逃げたわ☆

 

 ええ、それはもう全力で、生まれてこの方出したこと無いような全力を振り絞って逃げたわ。

 さすがに継承したばかりの魔王がそんなことをするとは思わなかったようで、呆気にとられた魔人たちの顔はそれはもう愉快なものだったわ。

 まあそれはさておき、魔王城をあちこち逃げ回っている間におかしなことに気づいたの。

 いくら魔王化しているとはいえ、私の体はこんなに軽かったかしら?

 それにまだおかしなことはあったわ。

 ここは敵地だもの何人か魔人や使徒とすれ違うことなんて当然あったわ。

 けどね、すぐそばや天井付近に張り付いた私をだれも見つけることができなかったの。

 素人のスニーキングなんてすぐにばれそうなものだけど、と思っていると。

 

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   名前【魔王ステンノ ジュリエット・ヴァイオレット】

ステータス【筋力:E 耐久:E 敏捷:B 魔力:EX 幸運:E 宝具:B】

保有スキル【気配遮断:A+ 吸血:C 魅惑の美声:A 

      女神のきまぐれ:A 対魔力:A 女神の神核:EX】

   宝具【女神の微笑(スマイル・オブ・ザ・ステンノ)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 このような文面が視界に浮かび上がったの。

 なるほど。今の今まで私が誰にも見つからなかったり、身体能力がやけに伸びてると思ったらこれのせいね。

 高ランクの気配遮断に加え、アルトリア(剣)やイシュタル(弓)と同レベルの敏捷があればこのくらいの隠密など赤子の手を捻るように簡単にできてしまうと言うこと。

 

 まあ、だからと言って安心する私ではないわ。

 だってそうでしょう?

 いくらサーヴァントの力があるとはいえ私はいわば生まれたての子鹿、この力を使いこなせるようになるまでまだまだ時間が足りないもの。

 

 たから私は逃げたわ、逃げて逃げて逃げ続けて、とある場所にたどり着いたの。

 そこはまるで、いえまさに激しい闘いがあったようで部屋中のいたるところに深い傷が刻まれ、まだ真新しい血液がちりばめられていたの。

 この場所の異様さに困惑していた私だったけど、部屋の角の方に誰か倒れていることに気づくとすぐに駆け出していたわ。

 うつぶせに倒れたその人は残念なことにもう事切れていたけれど、全身に刻まれたその傷跡から彼がこの場所まで必死になってたどり着いたことは用意に想像できたわ。

 こんな大陸にも勇者(システム的な意味ではなく)はいるのねと軽い感動に似た感情を胸にさあ逃げようと思ったその時だったわ。

 

 彼からすこし離れところに一本の日本刀が落ちているのを見つけたの。ええ、見つけてしまったの。

 その時の私の感情をどう表したらいいかしら? あって困るようなものではないけれど私には使いこなせない特攻武器って始末に困るわよね、とてもそう思うわ。

 

 

 ええ、はい、あったのよそこに、対魔人用特攻武器が。

 魔剣カオスと対になる聖刀日光がね。

 正直なところすこし迷ったわ。

 だってそうでしょ?

 本来の持ち主(予定)だった健太郎は剣道の経験があったから多少なりとも使いこなせていたわけだけれども、私は生まれてこの方運動なんてしたことがなかったくらいにはインドア派だったのよ、そんなもの手にいれたって宝の持ち腐れになることは目に見えていたわ。

 けれど、ここで見逃せば日光は魔人たちの手に渡ってしまう。カオスが封印されている今、ここで日光を失うのは人類側にとって大きな痛手になることでしょう。

 ……いいえ……いいえ……嘘です。

 確かにそれも理由の一つだったけれども、本当の理由はそこではないわ。

 

 

 私は寂しかったのよ。

 

 

 たった数十分とは言え見知らぬ場所でたった一人、魔人たちから逃げ続けて、私は少し疲れていたのね。

 だから無機物とは言え話ができるモノ、簡潔に言えば話し相手が欲しかったのよ。

 もちろん本人からの許可も取ったわ。最初は怪しんでいたみたいだけれども、私の必死の説得と他に選択肢がないこの状況から最後には共についてきてくれることになったの。

 表面上はクールを装いながら内心とても喜んでいた私はすぐに彼女を手に取ったわ。

 

 さあぐずぐずしている時間はない、さっさと逃走を再開しようと思ったまさにその時だったわ。

 背後から誰かに声をかけられたのよ。

 私は恐る恐る慎重に、しかしそれを悟られないように華麗に振り向いたわ。

 

 私の予想通り、そこには魔人がいたわ、それも五人。

 ケッセルリンクにサテラ、ノスにアイゼルと……よくわからないのが一人。誰だったかしらあの白髪の男。魔人シリーズはだいたいマグナムくらいまでなら熟知していたと思ったけれども私もまだまだというわけね。

 

 まあいいわ、えっとどこまで話したかしら……そうね、話しかけられたところからだったわね。

 奴らは私にこういったのよ、「魔王さま、早くお戻り下さい」ってね。実際はもっと長かった気がするけれど要約すればだいたいこんな感じよ。

 もちろん、そんな要求に屈する私ではないわ。ここで捕まったが最後、ランスや勇者あたりが殺しにくるまで正気を失ったまま悪逆非道な魔王に成り下がるのは確実だと思ったからよ。

 ランスならまだしも勇者が私を生かしてくれるはずもないし、これはどうあっても頷くわけにはいかないわ。

 しかし目の前の魔人たちは私の一挙手一投足を注意深く監視していて、逃げるそぶりを見せただけでも捕まってしまいそうだった。

 

 だからね、私は賭けにでたの。

 幸いにも相手は五人中四人が男、元女がいるけど、ならば私の本領発揮できる場は整えられていたと言っても過言ではないわ。

 幸いホーネットならまだしもサテラならまだ逃げきれそう。そう感じた私は自身の美貌が曇らないように、美しく笑えるように、(あまりない)胸を張って彼らにこう言ってやったわ。

 

 「お生憎さま、私はこんなところに収まるような女ではないのよ」とね。

 

 そして言い終わると同時に私は微笑んで、魅力を全開にして彼らに向けて解き放ったわ。

 だいたいなにをどうすればいいのかなどはこの体が教えてくれた。霊基に刻まれた記憶といった物かしらね。不思議と以前から使えていたような錯覚すら感じたわ。

 結果? 聞くまでもないでしょ。私が今ここにいるのだから成功したに決まっているじゃない。

 

 まあ、サテラにまで効いたのは予想外だったけれど、そう言えばぐだ子も魅力されていたしこういうものなのかしら?

 そんな些細な疑問はキュケオーンにでも混ぜておき、一目散に私は逃げたわ。

 宝具を使っても良かったけれど、後々の歴史にこれ以上のイレギュラーは作りたくなかったもの、仕方ないわよね。

 こうして私と日光の二人旅は幕を開けたというわけ、なにか質問あるかしら?

 

 ……

 …………

 ………………今私がどこにいるのかですって?

 

 もちろんリーザスに決まっているじゃない。

 ヘルマンやゼスは論外、カスタムも最初は危険だったはずだし、ここはリーザス安定よね。

 まあ、なにか忘れているような気がしないでもないけど、今は久々のまともな休息を満喫してもバチは当たらないわよね。

 




なお、現在ST1年、つまりLP1年。

白髪の魔人=バークスハム

サテラに魅力が効いたのは主に美人LV3と魅力が仕事したからです。fgoで例えると女性や性別なしにも魅力が通ります。ただし宝具は即死になりません、魅力のみです。

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