憤怒を抱きし魔神の皇子 〜ハイスクールD×D〜 作:ハニーハニー
第1話 出会いからの激戦!
———これは、遠き日の魔神の皇子の物語である。
紫色の空に覆われる場所、冥界。そこには、多種多様な生物が存在している。
そして現在、冥界の悪魔領に魔神族の特使が魔神族の王に命じられ、ルシファーの下に訪れようとしている。
「ここがルシファード。来るのは初めてだな」
黒い髪に、左側の額から左目下の辺りにかけて黒い痣の様な文様が浮かぶ、マント付きの黒いライトアーマーに、背中と腰には長さの違う剣をぶら下げている男が呟く。
「貴様! ここへ何しにきた!」
「門兵か。何、俺は魔神族の特使だ。すこし、魔王に用がある」
「ま、魔神族!? し、失礼致しました! 魔王様方なら現在会議中に御座います」
「ならば案内してくれ」
門兵は非礼を詫びて、会議室へと案内する。全方位見渡すと、そこには敵意、悪意、と言ったものを感じる。あまり歓迎されていないのだなと思いながらも、当然の事だと思い納得する。
魔神族は、悪魔を服従させているのだから。
「こ、此方です。————失礼します!」
「何事だ!」
「はっ! 魔神族の特使をお連れしました!」
「……っち。もうそんな時期か。—————これはこれは特使殿、遠路遥々、こんな場所へと。この度のご用件はどのような」
特使の男はこの場にいる四人の魔王の表情を窺う。ルシファー、レヴィアタン、アスモデウス、ベルゼブブ順に見ていく。表向きは隠せていても、全員敵意を抱いている。それに、先程のルシファーの小声での独り言。長居すると面倒だなと思い手短に用件を伝える。
「我らが王よりの命だ。来月より、税を十パーセントから十五パーセントに引き上げる」
「なっ!? 待ってくれ! ただでさえ今も苦しい状況なのだ! 戦争続きで食料や人員も足りてない! これ以上あげられれば我々の生活が苦しくなる!」
「何? 我々の生活、だと? 貴様らは苦しくならないだろう。苦しむのは民草だ。貴様らではない。アスモデウスにベルゼブブ、貴様らの領地、他と比べて裕福ではないか? ああそうか、誤魔化してるもんな。他が苦しんでいるのに貴様らだけは楽している。だがまあいい。要件は伝えた。俺は帰る」
「くっ! 本当に、十五パーセントにあげるのか?」
魔神族の特使は、背中の黒い剣を引き抜き、切っ先をルシファーに向ける。
「当然だ。何、戦争に勝てばいい。勝てば領地が手に入る。そうすれば税の十五パーセントくらい大した重荷でもないだろ」
「……分かった。だが、今でもやっとなのだ。多少の納税の遅れは見逃してくれと、魔神王に伝えてくれ」
「……打診はしてみよう」
剣を収めて、この場から出ていく。扉が閉まると、皆一気に力が抜け椅子へ座り込む。
「ベルゼブブ、アスモデウス」
「………分かった。致し方がない。備蓄がある。それを使え。本来は戦争の為にとベルゼブブと共に隠していたのだが。何処で漏れた?」
「そうだったのか。申し訳ない。疑ってしまった。っ! レヴィアタンはどこへ行った!」
会議室を後にした魔神族の特使は、長い廊下を一人歩いている。すると、背後から足音が近づいて来る。振り返ると、そこには美しい黒い長髪の美女がいた。
「特使殿」
「レヴィアタン、何の用だ?」
「……どうか、魔神王様に、これ以上の課税を与えないでください、とお伝えください。我々は今、経済状況が危ういのです。貧困街は日に日に増えています。これ以上税をあげられれば、餓死者が増えてしまいます。たった一年で、餓死者が四万を超えました。これ以上は……! なんでも! なんでもなさいますから!」
切実な願いだと言うのはわかる。種族の長の一人として、民が平和に暮らせるのは第一の考え。それすら今は儘ならない。王として、出来る事など、こう言う風に恥を承知で頼み込むか、女であることを自覚するしかない。
「なるほど。民の為ならば、我等が王に
「覚悟はあります……!」
「………くだらない。王ともあろう貴方が、そう易々と男に傅くとは。哀れだな、レヴィアタン」
「くっ……」
レヴィアタンの瞳からは涙が溢れ零れ落ちる。一切の動揺を見せない特使は、膝と掌を着き泣いているレヴィアタンに手を伸ばす。レヴィアタンは驚き目を見開く。だが、待っていたのは痛みだ。頬を打たれ、冷たい視線向けらる。
「簡単に折れる王ならば、もはやその程度の種なのだろう。俺は今、貴方を心底失望した」
再び歩き出す特使の後ろ姿を見て、殺意を覚えるレヴィアタンは、グッと堪えて、その場を乗り切る。
魔神族の特使は廊下を曲がろうとした時、丁度よく紅の髪の少女と鉢合わせして、ぶつかる。
「きゃっ!」
「ん……おい、大丈夫か?」
「もー! どこ見て歩いているのよ! お尻痛いじゃない!」
「あ、いや、すまない。って、何故俺一人が悪い。君も十分悪いじゃないか」
「はぁ!? 貴方それでも男? 紳士ならレディを守るのが勤めでしょう!」
何を言っているか分からない特使の男は、このよく口の回る紅の髪の少女を少し脅そうと、自らの身分を明かす。
「俺は魔神族の特使、アレクだ。それを知っ—————」
「だから何! 男でしょ!?」
「………変な女だな。先程の女とは大違いだ。名前は?」
「私の名前? 私の名前はセルリア・グレモリー。グレモリー家が次期当主。大王家バアルの力を色濃く受け継ぐ。口さがないない者には、紅髪の
すると、アレクの表情が変わる。聞き覚えのある二つ名。この少女の体内から感じる膨大な魔力。間違いなく、噂のものだ。
「君が、あの……」
「ええそうよ。神殺しのセルリア」
「若いな。百歳くらいか?」
「だ! か! ら! レディに気を遣いなさい! 歳を聞くのはマナー違反だわ!」
「そうなのか? すまないな。俺の周りには女性がいないものだから」
勢いで謝ってしまった。アレクは、セルリアと言うレディに逆らえなかった。本能的なものなのか、それとも別の何かか。だが、間違いなくこのセルリアと言う女性は気が強い。
「それでアレクは特使? だっけ?」
「あ、ああ。魔神族のな」
「ヘェ〜………確かに。闇の力を感じるわね。貴方、強いわね。ま、私の滅びの力の前には無力でしょうけど」
「言うな、小娘。ではお見せしよう」
すると、アレクの背中から、堕天使の翼とも違う赤黒い翼が生える。そして背中の剣を引き抜きセルリアに向ける。
セルリアも、体に滅びの力と言われる魔力を纏う。
「後悔、するなよ!」
「ッッ!?」
一瞬、何が起きたか理解できなかったが、気がつけば、自分達は城が粒の様に見える高さに居た。慌てて翼を広げて体制を整える。
「早い……」
「さてどうする?」
「私はね、神をも殺すのよ!」
膨大な魔力の奔流がアレクを襲う。だが、アレクはその場から動かない。
「さて、驚くなよ?
魔力の奔流は、セルリアの元へ帰ってきた。しかし、動じることなく対処する。自身の魔力である以上、セルリアは全てを防ぐ。
「……なら攻め方を変えるまで! こういう事も出来るのよ!」
「腕や脚に滅びの力の付与。成る程、これじゃあ俺の
「いくわよ!」
「だが生憎と、俺は近接戦闘の方が得意でね。貴様程度————速いっ!」
大振りだが、常人では目で終えない速さの斬撃のの如きハイキックが放たれる。アレクはそれを防ぐが、体の芯にダメージが響く。防御越しにダメージを与えられるとは、ここ何百年と生きているアレクにとっては、初の体験だった。
「重たいな。それに、俺も魔力を纏わないとその滅びの力で消されてしまう。いや、実に厄介だ」
「そうでしょう? 何と言っても、私はあらゆる格闘技を習い、それを駆使して龍王すら、神すらも屠る。特使如きの貴方じゃあ私に勝ち目はないわ」
「……確かに。特使として俺では敵わないか。だったら少し本気を出そう」
すると、アレクの纏うオーラが変わる。
「俺は七つの大罪、『
「……貴方が……! 貴方が!」
先ほどよりも濃密な魔力を纏うセルリアの様子が可笑しくなる。
「貴方が! 私の友達———イリスディーナ・シトリーを殺した魔神族!!」
「イリスディーナ、か。成る程お前の事を言って居たのか。『私の友達は私以上に強い』と言っていた。だが、俺はグレモリー如きに負けはしない」
「私はね! 魔神族だから! 天使だからって言って嫌ったりしない! でも、友達を殺した貴方は私がここで殺す!」
先程の十、二十、三十倍にまで膨れ上がった魔力に、空間が歪み穴が開きそうになっている。このままでは上空に次元の裂け目が出来、真下の城は一瞬にして吸い込まれる。無論、至近距離にいる自分達も例外ではない。
「仕方がない。———『
すると、桃色の半透明の立方体が出来上がる。
この立方体に入っていれば、この濃密な滅びの力をも抑え込める。
「これで心置きなく———ッッ!!」
一瞬のことで何が起きたか理解出来なかった。アレクの脇腹と肘から先が綺麗に抉られていた。
口と脇腹から血が止めどなく溢れる。
「ごほっ……! こ、これは」
「言ったでしょ? ここで殺すって」
「やぁ〜……参ったなぁ。こんなダメージ久し振りだよ」
抉られた傷は徐々に塞がり、腕も生えてくる。数秒後には何事もなかったかの様に傷がなくなっている。不自然に服が無いこと以外は先ほどと同じ。
「流石は魔神族ね。再生能力がフェニックス並みよ」
「どうも。でも、普通の魔神族はここまで再生能力が高いわけじゃ無い。俺は少し特別だ」
「へぇ……。流石は
無数の滅びの魔力の塊がセルリアの周囲に浮かぶ。その数は軽く見積もっても数百。
「そっちが滅びなら、俺は焼却する!
津波の如き黒紫の炎がアレクから放れ、セルリアを飲み込もうとする。だが、セルリアも滅びの魔力を全てぶつけて相殺する。その時に発せられた衝撃波は、
獄炎と滅びの魔力は何度もぶつかり合い、アレクとセルリアも何度もぶつかり合う。
「ちっ! 初めてだよ。女相手に肉弾戦なんて……!」
「私も初めてよ。貴方みたいな人と戦うなんて! 私の滅びの魔力が効かない相手はね!」
アレクは剣を放り投げ拳に獄炎を纏わせる。セルリアも己の拳に滅びの魔力を纏わせる。そして、二人は一瞬で距離を詰めて、拳同士打つける。すると、獄炎と滅びの魔力を帯びたソニックブームが発生して、