憤怒を抱きし魔神の皇子 〜ハイスクールD×D〜   作:ハニーハニー

1 / 3
遠き日の魔神の皇子
第1話 出会いからの激戦!


 

 

———これは、遠き日の魔神の皇子の物語である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紫色の空に覆われる場所、冥界。そこには、多種多様な生物が存在している。(ドラゴン)、魔獣、妖精、そして悪魔と堕天使。最後の二種族を含めてもう一種族、天使が現在進行形で戦争を行なっている。そして、直接戦争に加わってはいないが、魔神族と言う種族が、悪魔を指示している。

そして現在、冥界の悪魔領に魔神族の特使が魔神族の王に命じられ、ルシファーの下に訪れようとしている。

 

 

「ここがルシファード。来るのは初めてだな」

 

 

黒い髪に、左側の額から左目下の辺りにかけて黒い痣の様な文様が浮かぶ、マント付きの黒いライトアーマーに、背中と腰には長さの違う剣をぶら下げている男が呟く。

 

 

「貴様! ここへ何しにきた!」

 

 

「門兵か。何、俺は魔神族の特使だ。すこし、魔王に用がある」

 

 

「ま、魔神族!? し、失礼致しました! 魔王様方なら現在会議中に御座います」

 

 

「ならば案内してくれ」

 

 

門兵は非礼を詫びて、会議室へと案内する。全方位見渡すと、そこには敵意、悪意、と言ったものを感じる。あまり歓迎されていないのだなと思いながらも、当然の事だと思い納得する。

魔神族は、悪魔を服従させているのだから。

 

 

「こ、此方です。————失礼します!」

 

 

「何事だ!」

 

 

「はっ! 魔神族の特使をお連れしました!」

 

 

「……っち。もうそんな時期か。—————これはこれは特使殿、遠路遥々、こんな場所へと。この度のご用件はどのような」

 

 

特使の男はこの場にいる四人の魔王の表情を窺う。ルシファー、レヴィアタン、アスモデウス、ベルゼブブ順に見ていく。表向きは隠せていても、全員敵意を抱いている。それに、先程のルシファーの小声での独り言。長居すると面倒だなと思い手短に用件を伝える。

 

 

「我らが王よりの命だ。来月より、税を十パーセントから十五パーセントに引き上げる」

 

 

「なっ!? 待ってくれ! ただでさえ今も苦しい状況なのだ! 戦争続きで食料や人員も足りてない! これ以上あげられれば我々の生活が苦しくなる!」

 

 

「何? 我々の生活、だと? 貴様らは苦しくならないだろう。苦しむのは民草だ。貴様らではない。アスモデウスにベルゼブブ、貴様らの領地、他と比べて裕福ではないか? ああそうか、誤魔化してるもんな。他が苦しんでいるのに貴様らだけは楽している。だがまあいい。要件は伝えた。俺は帰る」

 

 

「くっ! 本当に、十五パーセントにあげるのか?」

 

 

魔神族の特使は、背中の黒い剣を引き抜き、切っ先をルシファーに向ける。

 

 

「当然だ。何、戦争に勝てばいい。勝てば領地が手に入る。そうすれば税の十五パーセントくらい大した重荷でもないだろ」

 

 

「……分かった。だが、今でもやっとなのだ。多少の納税の遅れは見逃してくれと、魔神王に伝えてくれ」

 

 

「……打診はしてみよう」

 

 

剣を収めて、この場から出ていく。扉が閉まると、皆一気に力が抜け椅子へ座り込む。

 

 

「ベルゼブブ、アスモデウス」

 

 

「………分かった。致し方がない。備蓄がある。それを使え。本来は戦争の為にとベルゼブブと共に隠していたのだが。何処で漏れた?」

 

 

「そうだったのか。申し訳ない。疑ってしまった。っ! レヴィアタンはどこへ行った!」

 

 

 

 

会議室を後にした魔神族の特使は、長い廊下を一人歩いている。すると、背後から足音が近づいて来る。振り返ると、そこには美しい黒い長髪の美女がいた。

 

 

「特使殿」

 

 

「レヴィアタン、何の用だ?」

 

 

「……どうか、魔神王様に、これ以上の課税を与えないでください、とお伝えください。我々は今、経済状況が危ういのです。貧困街は日に日に増えています。これ以上税をあげられれば、餓死者が増えてしまいます。たった一年で、餓死者が四万を超えました。これ以上は……! なんでも! なんでもなさいますから!」

 

 

切実な願いだと言うのはわかる。種族の長の一人として、民が平和に暮らせるのは第一の考え。それすら今は儘ならない。王として、出来る事など、こう言う風に恥を承知で頼み込むか、女であることを自覚するしかない。

 

 

「なるほど。民の為ならば、我等が王に()()()()のも覚悟の上だと」

 

 

「覚悟はあります……!」

 

 

「………くだらない。王ともあろう貴方が、そう易々と男に傅くとは。哀れだな、レヴィアタン」

 

 

「くっ……」

 

 

レヴィアタンの瞳からは涙が溢れ零れ落ちる。一切の動揺を見せない特使は、膝と掌を着き泣いているレヴィアタンに手を伸ばす。レヴィアタンは驚き目を見開く。だが、待っていたのは痛みだ。頬を打たれ、冷たい視線向けらる。

 

 

「簡単に折れる王ならば、もはやその程度の種なのだろう。俺は今、貴方を心底失望した」

 

 

再び歩き出す特使の後ろ姿を見て、殺意を覚えるレヴィアタンは、グッと堪えて、その場を乗り切る。

魔神族の特使は廊下を曲がろうとした時、丁度よく紅の髪の少女と鉢合わせして、ぶつかる。

 

 

「きゃっ!」

 

 

「ん……おい、大丈夫か?」

 

 

「もー! どこ見て歩いているのよ! お尻痛いじゃない!」

 

 

「あ、いや、すまない。って、何故俺一人が悪い。君も十分悪いじゃないか」

 

 

「はぁ!? 貴方それでも男? 紳士ならレディを守るのが勤めでしょう!」

 

 

何を言っているか分からない特使の男は、このよく口の回る紅の髪の少女を少し脅そうと、自らの身分を明かす。

 

 

「俺は魔神族の特使、アレクだ。それを知っ—————」

 

 

「だから何! 男でしょ!?」

 

 

「………変な女だな。先程の女とは大違いだ。名前は?」

 

 

「私の名前? 私の名前はセルリア・グレモリー。グレモリー家が次期当主。大王家バアルの力を色濃く受け継ぐ。口さがないない者には、紅髪の滅神姫(プリンセス・ザ・エクスティンクト)と呼ばれているわ」

 

 

すると、アレクの表情が変わる。聞き覚えのある二つ名。この少女の体内から感じる膨大な魔力。間違いなく、噂のものだ。

 

 

「君が、あの……」

 

 

「ええそうよ。神殺しのセルリア」

 

 

「若いな。百歳くらいか?」

 

 

「だ! か! ら! レディに気を遣いなさい! 歳を聞くのはマナー違反だわ!」

 

 

「そうなのか? すまないな。俺の周りには女性がいないものだから」

 

 

勢いで謝ってしまった。アレクは、セルリアと言うレディに逆らえなかった。本能的なものなのか、それとも別の何かか。だが、間違いなくこのセルリアと言う女性は気が強い。

 

 

「それでアレクは特使? だっけ?」

 

 

「あ、ああ。魔神族のな」

 

 

「ヘェ〜………確かに。闇の力を感じるわね。貴方、強いわね。ま、私の滅びの力の前には無力でしょうけど」

 

 

「言うな、小娘。ではお見せしよう」

 

 

すると、アレクの背中から、堕天使の翼とも違う赤黒い翼が生える。そして背中の剣を引き抜きセルリアに向ける。

セルリアも、体に滅びの力と言われる魔力を纏う。

 

 

「後悔、するなよ!」

 

 

「ッッ!?」

 

 

一瞬、何が起きたか理解できなかったが、気がつけば、自分達は城が粒の様に見える高さに居た。慌てて翼を広げて体制を整える。

 

 

「早い……」

 

 

「さてどうする?」

 

 

「私はね、神をも殺すのよ!」

 

 

膨大な魔力の奔流がアレクを襲う。だが、アレクはその場から動かない。

 

 

「さて、驚くなよ? 全反撃(フルカウンター)!!」

 

 

魔力の奔流は、セルリアの元へ帰ってきた。しかし、動じることなく対処する。自身の魔力である以上、セルリアは全てを防ぐ。

 

 

「……なら攻め方を変えるまで! こういう事も出来るのよ!」

 

 

「腕や脚に滅びの力の付与。成る程、これじゃあ俺の全反撃(フルカウンター)は使えない。考えたなグレモリーの娘」

 

 

「いくわよ!」

 

 

「だが生憎と、俺は近接戦闘の方が得意でね。貴様程度————速いっ!」

 

 

大振りだが、常人では目で終えない速さの斬撃のの如きハイキックが放たれる。アレクはそれを防ぐが、体の芯にダメージが響く。防御越しにダメージを与えられるとは、ここ何百年と生きているアレクにとっては、初の体験だった。

 

 

「重たいな。それに、俺も魔力を纏わないとその滅びの力で消されてしまう。いや、実に厄介だ」

 

 

「そうでしょう? 何と言っても、私はあらゆる格闘技を習い、それを駆使して龍王すら、神すらも屠る。特使如きの貴方じゃあ私に勝ち目はないわ」

 

 

「……確かに。特使として俺では敵わないか。だったら少し本気を出そう」

 

 

すると、アレクの纏うオーラが変わる。

 

 

「俺は七つの大罪、『憤怒(ira)』のアレク。ここからは少し本気でいかせてもらう」

 

 

「……貴方が……! 貴方が!」

 

 

先ほどよりも濃密な魔力を纏うセルリアの様子が可笑しくなる。憤怒(ira)の名に反応を示したのは間違いがない。

 

 

「貴方が! 私の友達———イリスディーナ・シトリーを殺した魔神族!!」

 

 

「イリスディーナ、か。成る程お前の事を言って居たのか。『私の友達は私以上に強い』と言っていた。だが、俺はグレモリー如きに負けはしない」

 

 

「私はね! 魔神族だから! 天使だからって言って嫌ったりしない! でも、友達を殺した貴方は私がここで殺す!」

 

 

先程の十、二十、三十倍にまで膨れ上がった魔力に、空間が歪み穴が開きそうになっている。このままでは上空に次元の裂け目が出来、真下の城は一瞬にして吸い込まれる。無論、至近距離にいる自分達も例外ではない。

 

 

「仕方がない。———『完全なる立方体(パーフェクト・キューブ)』」

 

 

すると、桃色の半透明の立方体が出来上がる。完全なる立方体(パーフェクト・キューブ)は、あらゆる衝撃にも耐える最高峰の防御系の術。

この立方体に入っていれば、この濃密な滅びの力をも抑え込める。

 

 

「これで心置きなく———ッッ!!」

 

 

一瞬のことで何が起きたか理解出来なかった。アレクの脇腹と肘から先が綺麗に抉られていた。

口と脇腹から血が止めどなく溢れる。

 

 

「ごほっ……! こ、これは」

 

 

「言ったでしょ? ここで殺すって」

 

 

「やぁ〜……参ったなぁ。こんなダメージ久し振りだよ」

 

 

抉られた傷は徐々に塞がり、腕も生えてくる。数秒後には何事もなかったかの様に傷がなくなっている。不自然に服が無いこと以外は先ほどと同じ。

 

 

「流石は魔神族ね。再生能力がフェニックス並みよ」

 

 

「どうも。でも、普通の魔神族はここまで再生能力が高いわけじゃ無い。俺は少し特別だ」

 

 

「へぇ……。流石は憤怒(ira)のアレク。じゃあこれはどうかしら!!」

 

 

無数の滅びの魔力の塊がセルリアの周囲に浮かぶ。その数は軽く見積もっても数百。全反撃(フルカウンター)で跳ね返せる数では無い。ならばと、アレクももう一つの能力を見せる。魔神族特有の力にして、強力無比の地獄の炎。

 

 

「そっちが滅びなら、俺は焼却する! 獄炎(ヘルブレイズ)!!」

 

 

津波の如き黒紫の炎がアレクから放れ、セルリアを飲み込もうとする。だが、セルリアも滅びの魔力を全てぶつけて相殺する。その時に発せられた衝撃波は、完全なる立方体(パーフェクト・キューブ)に若干の影響を与える。それを知らずに、二人はお互いの持つ力を出し惜しみする事なく発揮する。

獄炎と滅びの魔力は何度もぶつかり合い、アレクとセルリアも何度もぶつかり合う。

 

 

「ちっ! 初めてだよ。女相手に肉弾戦なんて……!」

 

 

「私も初めてよ。貴方みたいな人と戦うなんて! 私の滅びの魔力が効かない相手はね!」

 

 

アレクは剣を放り投げ拳に獄炎を纏わせる。セルリアも己の拳に滅びの魔力を纏わせる。そして、二人は一瞬で距離を詰めて、拳同士打つける。すると、獄炎と滅びの魔力を帯びたソニックブームが発生して、完全なる立方体(パーフェクト・キューブ)を完全に破壊する。二人は、それが破壊された事に一瞬気が付かず、気が付いた時には少し遅かった。二人がぶつかり合った事で生まれた衝撃波は、空間を裂き、異空間への裂け目を作り出した。二人は疲弊こそしているものの、異空間への吸引力に抵抗するだけの余力は残していたはずだった。だが、なすすべもなく、二人は時空の裂け目に吸い込まれた。幸いだったのは、裂け目は一瞬で閉じたので他に被害はなかったという事。

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。