道端の魔王を助けたら、魔王城に居候することになりました   作:フィネア

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とある日の昼下がりほど、恐ろしいモノは無かった

 よく、僕はお人好しと言われる。

 おばあちゃんがよく言っていたことに、どんな人でも困っていたら助けなさい、というものがあるからだ。

 今までで助けた人の数なんて覚えてはいないけど、誰かを助けたくて、ずっと過ごしてきた。

 でも、僕は今、本当にこの人を助けるべきかどうか迷っています。

 察しのいい人は分かるでしょう。そう──

 

 ──魔王です。

 

 フードで身を包んでいて、顔も見えませんが、禍々し過ぎる角と垂れ流しの尻尾は、完全に話に聞く魔王でした。しかし、ここは魔王城から一番遠い村の近くで、なぜいるのだろうと疑問には思いますが、この際細かいことは良しとしましょう。

 数年前くらいに現れて、世界中に悪逆非道の限りを尽くしている存在です。

 そして、周囲になり響くのは、『ぐぎゅるるるる~……』という、明らかに空腹を示すもの。

 そして、ちょうど僕は隣町から買い物を済ませた帰りの途中。食べ物は沢山ある。

 助けるべきか否か。ですが、そんなときにでさえ、おばあちゃんの言葉を思い出します。

『困っている人がいたなら、それがたとえどんな悪人でも──助けてやんなさい。悪を見捨てるヒーローと、悪さえ助けようとするヒーロー。あたしゃあ、あんたに老若男女に善悪関係なく、全部を助けるヒーローになってほしい。そう思ってるよ』

「困ってるんだし、仕方ないよね……あ、あのー」

「……なんだ……」

 かすれた声で返事をする。

「えっと……何か、食べますか?」

「人の子か……いらぬ、そして殺せ……人の子に恵みを受ける魔王など、恥でしかない……」

 かすれながらも、その声は確かに響いた。

 そのはずが。

「そうですね。見た感じだと暫く栄養を取ってなさそうなので、エネルギーを多く接種できる料理がいいんだろうけど……なにかあったかな?またあの商人さんに話でも聞いた方が──」

 少年は特に何を気にすることもなく、料理についての話をしだした。

 一瞬言語が伝わらないのかと思ったが、魔王はもう一度、力のない声で叫ぶ。

「余の話を聞けい……!いらぬと言った!人の子に窮地を救われたとなっては、余は一族の恥さらしだ……!」

「だから?」

 その言葉を聞いた少年の目は、ひどく純粋だった。

 一切の穢れがなく、自分を見つめていた。

 本当に、ただ不思議そうに――

「……ッ!そうなっては、余の権威も地に落ち、余についてきてくれた者たちも、先代の魔王でさえ馬鹿にされるのだ!それも人間などとゆう下等な生き物に!」

「でも、魔王様が死んだら、それを誰が正すの?誰も弁明なんてできるはずがないんだ。最後に分かったのは、僕に助けられるのが嫌で自殺したってことだけ。それこそ一族の恥だって、僕は思う。どんなに魔王様に近しい人でも、魔王様の全部をわかっているわけじゃないんだ。子供が出来ないから、魔王様の跡継ぎだってできない。なら、まだ生きているべきだよ。惨めでも、後に繋げるために。ひどくても、それが間違いだって伝えるために」

 一瞬、思考が停止する。彼が何を言っているのかがわからくなった――否、先ほどの純粋な瞳からは想像もつかないことを口にしたからだ。そしてそれは、確かに核心をついていた。

 そして、思考する。だが、答えなどでなかった。出るわけがなかった。魔王故に、出ないまま。

「なら……どうすればいいと――むがっ!?」

 その嗚咽交じりの言葉が言い切れる前に、口に何かが押し込まれる。

 ――パンだった。少年が、魔王の口にパンを押し込んでいた。

 そして少年は魔王に笑顔を見せて、言う。

「……僕が魔王様に食べ物を無理やり口に押し込んだ。これなら、魔王様も自分から助けられたわけじゃないよね?」

 魔王は、分からなかった。

 なぜ人の子がこんなに自分に優しくするのか。幾つもの街を、村を、人を、焼き、凍らせ、切り刻み、壊してきた。

 恨まれていると思った。恨んでいるのは自分たちだ。だからと言って、自分たちが恨まれる筋合いはないと、そんな事は考えない。わかっているのだ。恨みで誰かを傷つけ、殺せば、その数だけ自分たちも恨まれる。

 憎まれていると、恐れられていると、常に人間たちの怒りの矛先に、自分たちはいるのだと。そう思ってきた。

 だが、この少年は確かに違ったのだ。この少年とて、何も思うところがないわけがない。なのに、なぜ助けるのだ、と。

 そして、魔王は理解した。

「僕はただ、助けたいだけなんだ。どんなに違っても、空腹だと辛いのは、いっしょだから」

 この少年は、ただ優しいだけなのだと。

「……こざかしい、人の子め……よい、少しの食物さえあれば十分だ。余は帰る」

 そう言って、少年の持つ袋からいくつかの食材を手に取って、少年に背を向ける。

「あれ、それだけで大丈夫なの?」

「よい……さっさと行け…………この礼は、必ずしよう」

 そして魔王は、歩き出した。

「そっか。じゃあ、またね」

 少年もまた、それを見て、自分の住む村へと歩き出す

「…………後悔するぞ」

「しないよ。きっと」

「……ふん」

 後ろで、翼を開く音が聞こえた。気になって後ろを向いた。

「……またね」

 もう、魔王の姿は見えなかった。

 

 

 

 数日後。

 人のいない丘。

 少年はよく、この丘で日が落ちるところを見る。

 ここは、少年のお気に入りの場所だった。

 静かで、そこから見える夕日と、それに赤く照らされる空が、奇麗だった。

 時折空を横切る鳥を見ながら、ただ思い出す。

 それは当然――

 後ろで、翼が開く音がなった気がした。

 後ろを向くと、そこに立っていたのは、数日前にであった存在。

 前と同じく、フードで全身を覆っていた。でも、前のように禍々しい角や尻尾は見えない。

「――魔王様?」

「礼をするといった。その約束を果たしに来た」

 手を握られる。その手は少し暖かかった。

 次に目に入ったのは、自分の足が大地から離れていることだ。

 そこから、翼を広げているわけでもないのに、空中で動き出す。

 きっと魔法か何かだろう。それはある程度まで加速すると、その速度を保つようになった。

「貴様は驚かないのだな」

「あ、あはは……驚いてないわけじゃないんだけどね」

「怖いならばそう言え。それ相応の対応くらいはしてやろう」

「それって?」

 そうゆうと、突然フードの中に入れられる。結構ぶかぶかなフードだったのか、このために用意したのかはわからないけど、僕が入っても特に窮屈ではなかった。

「これで落ちる心配は少しもないだろう。安心していい」

 優しげな声が、耳元で囁かれる。

 そして、フードの中に入ったが故に密着することによって伝わる、柔らかい感触――

「ってええ!?お、女の人だったの!?」

 それと同時に頭に被っていたフードを脱ぐ。そこにあったのは、一言で言って奇麗な女性だった。

「なんだ、知らなかったのか?人間どもの情報掲示板や噂は余で持ち切りだと聞いていたが」

「し、知らないよー!それに、ここは一番魔王の根城から遠いところで、戦火もまだこっちに広がってないから、『魔王がいる』って事ぐらいしか知らないんだよ~!詳しいことは何も知らないんだ!」

「ふむ、それは理解した。しかし、そんなに動揺するものか?」

「ず、ずっと男の人だと思ってたんだよ。確かに、ちょっと声は甲高いかなって思ってたけど……」

「……貴様も余を厳つい男だとでも思っていたのか」

 貴様『も』と言っているあたり、もしかしたら別の所でもそう思われていたのを聞いたのだろうか。

「い、いやそこまでは……どっちかっていうと、カッコイイ人かと」

「悪逆の限りを尽くす存在にカッコイイとはな。悪魔を毛嫌いしている人類が聞いたら、殺されているかもしれんぞ?」

「というか……ずっと男だって思ってたぶん、驚いたなぁ」

「そんなに男のイメージが強いのか?ふむ、どこかで余の宣伝でも行うか……?」

「に、人間の領地で?」

「何を言っている。この世の土地はすべて余と余の仲間たちの物だ。ずけずけと入り込んできたのはそちらなのだからな」

「……考えることの、スケールが違うなぁ……」

「そういえば、人の子よ。貴様の名は?」

「え、僕?」

「貴様以外にだれがいる」

「えっと……名前は無いんだ。父さんも母さんも死んじゃって、おばあちゃんに引き取られてたんだけど、おばあちゃんもちょっと前に亡くなっちゃったんだ。その間はずっと名前が無かったんだ。家にいてもおばあちゃんと僕の二人だけだったし、だれも僕に興味を示さなかったから。でも、人助けはよくしてたから、村ではずっと『お人好し』なんて呼ばれてたんだ。いつの間にか、それが名前みたいになってて、村のみんなもそれでいいかって……」

「そうか。なら、余が名を付けてやろう。そうだな……何がいいか……」

 そうして、空を飛びながら考えること数十分。

「ふむ、ジファノ。魔族のとある言語で、『救い』や『助け』を意味する言葉――をもじったものだ。貴様にピッタリだろう」

「へぇ~……ジファノ、か……慣れるのには、時間がかかりそうだなぁ」

 なにせ、名前がずっと無かったから。

「少しづつ慣れていけばいい。余の付けた名だ。もし忘れるようなことがあれば、八つ裂きにしてヒドラの餌にしてやろう」

「き、肝に銘じておきます……」

「ああ、そうだ。ジファノ。早速だが貴様には、命令を下す。まあ、本来なら余が命令できる立場ではないのだが、貴様もそこまで気にはしまい」

「え?」

 気にはしない。確かにそれはそうなんだけど、けれども何を……?

 そう嫌な予感を感じるジファノだったが――その予感が間違ってないことを、魔王が告げた。

「貴様はこれより――魔王城にすんでもらう」

「え…………え、ええええええええええ!?」

「いやなに、貴様は優秀なようだからな。最近の料理長の作る飯ときたら不味く、配下に洗濯を任せれば服が縮こまっていたり、また経年劣化で脆くなった城壁の修理を任せれば更に破壊され酷くなるで、正直そう言った分野に特化した者が必要だったのだが、そこで貴様の出番というわけだ。現在は一人暮らしでそこまで健康的なら、貴様が適任であろう」

「い、いやまって!?料理と洗濯はいいけど、城壁の修理なんてできないよ!?」

 そもそも、僕は魔王城から一番遠い村の出身で、城の構造とか使われてる素材とか、全く知らないのに!

 そんなジファノの思いも虚しく、魔王が『安心しろ』と実質的な退路を断った。

「余が教えてやろう。衣食住も十分なものを与えはする。それに、余は貴様が気に入った」

「あの……お礼ってまさか……」

「喜べ。貴様は人間にして魔王に仕える、名誉ある存在になるのだからな」

 一瞬、ジファノの思考が停止した。

 ある意味での精神攻撃。もとよりただの村人Aな彼のMPは底をつき掛けており、気を抜けば卒倒するレベルであった。が、寸でのところで踏みとどまり、意識を保つ。

「まあ、魔王様が困ってるみたいだから、いいけどね……」

「む。ちゃっかり『魔王城になんていたくない!僕はあの村で平穏なままで生きたいんだ!』とでも言うと思っていたが」

 安息を求めるならば、確実にそうであろう。

 しかし、ジファノは安息ではなく、たとえ全ての人類の敵であっても、その人物を助けることを選んだのだ。

「貴様、村の方はよいのか?」

「あの村は、僕一人いなくなっても大丈夫。それに、魔王様が困ってるんだから、助けるよ。それがおばあちゃんとの約束であって、その約束の言葉が僕にとっての、おばあちゃんの形見なんだ」

「……すばらしい祖母だな。死んでさえいなければ、一度会って話でもしようか迷うところだ」

「おばあちゃん、物怖じしない性格だからずんずん来るよ」

「ふむ、余としてもそれくらいの方がちょうどいい。怖がられて話ができませんでは、こちらこそ困ったものだからな……っと、そろそろ着くぞ。城が見えてきた」

「へぇ……あれが」

 見えるのは、巨大な黒い城……というよりは要塞だ。

 渓谷の中で建てられたゆえなのか、まともな侵入ルートは一つとして見当たらない。

 いたるところから大砲が顔を出しており、あれを全て避けなければならないとなると、城の扉に着くにも一苦労だ。

 そのうえ城の入り口と思われる扉は崖にあり、一歩踏み外せば渓谷の中へ真っ逆さまだ。

 だというのにも関わらず、扉には厳重に鍵が幾重にも架けられている。そして、そこすらも砲台の射程内だ。

 扉や鍵が、切ろうで切れる金属でできてないことは、見て分かった。正直、やりすぎな気がする。

「これ、本当に攻略できるのかなぁ」

「先代の魔王の城も、こんな感じだったそうだ」

「攻略できる気がしないなぁ」

「これ以上に厳重な構造だったそうだが、それでも何度か人間の『勇者』と呼ばれる存在の侵入を許したそうだ」

「想像がつかないなぁ」

 正直、見てて疲れてきた。

「さてと、これからよろしく頼むぞ?」

「拒否権は無し、か……」

「相違無いかと問い、承諾したのは貴様だ。今更拒むことは許さんぞ」

 そう言って、魔王曰く『魔族しか通れない隠し通路』を使って、魔王の城に何事もなく入る。

 最初に目に飛び込んで来たのは、ただ楽しそうな魔族たちだった。

 スライム、ワーウルフ、サイクロプスに、剣を背負ったリザードマン。

 際どい格好のサキュバスや竜の鱗を纏った竜人(ドラグナー)、ハーピーなんかが、分け隔てなく会話し、食事をし、ゲームをしている。

 いつも感じている魔族のイメージとはかけ離れたそれを見て、驚き、何も言えなくなる。

 ただそこに、魔王が言った。

「ようこそ。歓迎しよう──ここが余の、魔族の王の城。そして余こそが、魔王『アイラル・フォーングラッド』。この世界を支配する、誇り高き魔王だ。そして、余が貴様に改めて名を与える。『ジファノ・フォーングラッド』──それが貴様の名だ」

 僕は今まで、様々な人を助けてきた。

 様々な人に感謝されてきた。

 僕は後悔はしてない。自分自身の信念が、この結果を生んだだけだ。

 でも──それでも。

 なんでこうなったんだっけ、と思わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 こうして僕の魔王城での、休息の無い、苦労と無休と疲労の三重苦、そして──魔族との退屈しない、楽しい生活が始まった。

 

 

 

 

 

「そういえば、余の胸は大きいのか?自分ではわからないし、クイーンサキュバスのイーシュにもはぐらかされる始末でな」

「すみません魔王様。それに真面目に答えたら、僕はきっと変態って言われるから──」

「安心しろ。魔王城には魔族しか存在せん。愚かな人類どもの常識は通用しないから、安心して叫んでいいぞ」

「叫びはしないよ!?それをしたら僕は変態で確定しちゃうからね!?」




 初投稿です。
 今回は始まりの物語ということで、あまり真面目にバカやってません。1回目なうえに初投稿で、話すことも特にはありませんが、正直、この物語が終わる瞬間の構想が考え付きません。まあ、長々とやっていきましょう。ネタが尽きない限りはどこまでも行きます。
 あ、1週間から1ヶ月の間で1話投稿しようかな、くらいに思ってます。
 本当に話すことがないな~……というわけで、今回はここら辺で。次回はあとがきで何かしますか……

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