道端の魔王を助けたら、魔王城に居候することになりました   作:フィネア

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雑用から始まる人間(?)関係

「えー、では!これよりジファノ・フォーングラッドの歓迎会を行う!皆様、かんぱーい!」

 大広間に数百という魔物や魔族が集まり、高台に登ったリザードマンがそう叫ぶ。

 それと同時に、数百の乾杯の声が上がる。ただ僕は、呆然としていた。

 前回魔王様から直々に魔王城につれてこられて、僕はやるべきことはやろうと思い、すぐに作業に取りかかった。その際に様々な魔族に、魔王様直々の命令もあって手を貸してもらった。

 当然ながら最初は良く思われてなかったし、出会い頭に睨まれるなんてほぼ全ての魔族に当てはまる。魔王様の奴隷か、なんて聞かれることも少なくなかった。もの珍しいからか、僕と魔王様に付いてきた魔族たちもいた。仕方がないことだけど、警戒心が全快なのが見てとれた。

 ただ、数時間すると皆の目の色が変わった。僕はただ、掃除・洗濯・修理作業・各エリアの点検や倉庫の確認等々、黙々とこなしていった。

 でも、どうにもそこに止めを刺したのは──料理の腕、らしい。

 量が多くて大変だったけど、一部の魔族の方々が手伝ってくれたから、量ほど苦労はしなかった。

 そして、魔族の皆から大絶賛のそれは、一気に信頼を勝ち取った。当初は疑っていた魔族たちも、体調不良を起こすものや毒死者も出ない為か、いつの間にか安心してガツガツと食べており、僕が小耳に話しを聞く限りでは体調が良くなったとさえ聞く。そのため、僕の料理における魔王城的な地位は、揺るがないモノと化した。

 そして現在、ほぼ全ての魔族から信頼を得て、大々的に歓迎会が行われることとなった。

 そしてそんな中、初対面で友好的だった数少ない魔族が僕に近づいてくる。

「やあ、少年。流石にあの重労働で疲れているかと心配していたが、そのような事もなさそうで安心したよ」

「あ、スールさん。どうも、昨日はお世話になりました」

「いやなに、困ったことがあれば何時でも言ってくれ。私に出来ることならば、助力は惜しまないからね」

「ありがとうございます」

 この魔族はスールさんといい、所謂スライムキングに属する魔族らしい。水色のゼリー状の体に、目のようなモノが見える。キングとはいうものの、王冠とかは被ってない。

 話によると、元々は数百数千とも言える数のスライムで、新米勇者や通りすがりに倒され、その残骸が集まって新たなスライムになる。そのスライムは、基となったスライムたちの戦闘経験や記憶を受け継ぎ、それに対応する。当然、そうなれば低レベルの勇者や冒険者には倒されることもなくなり、強い人たちに倒されるようになる。そしてその残骸が再び集まり、強い人たちの動きや技を覚え、それに対応し、より強力なスライムとなる。それを幾度となく繰り返した結果、勇者たちのほぼ全ての剣技を見切り、ほぼ全ての魔法にすら即時対応でき、状況によっては初めて見る究極剣技や究極魔法すら完封するスライムになった、という話だ。

 そんなスライムが、僕の掃除を手伝ってくれた。どうしても手や掃除器具が入れないところに滑り込み、ゴミを体内に一時的に保有し、持ってきてくれたのだ。まさしく隅から隅まで掃除が出来るようになって、掃除の時はずっと付き添ってくれた。

 そして何より優しい。いくら掃除の途中とはいえ、初対面で得体の知れないはずの僕を、敵意も警戒も無く、『何か手伝えることがあるなら手伝おう』と言って手伝ってくれた。自分の体内が埃やゴミだらけになっても嫌な表情1つ見せず、むしろ『役に立てたのであれば光栄だ』と笑顔で言うほど。

「さて、私も軽い挨拶を済ませたことだ。君が挨拶をするべき人は、まだ沢山いるだろう?私一人に、そう時間も取れまい」

「いえ、そんな事はありません。スールさんには、感謝してもしきれませんよ」

 事実として、他の魔族に向かって、僕は信頼できると最初に言い出したのはこの人だ。そのお陰もあって、僕は柄の悪い魔族に絡まれる事もなく、雑用をこなせた。

 と、そこで肩を抱かれる。だれかと思い、隣を見ると。

「あ、カルンさん、どうも──ってお酒臭い!」

「んだぁ、んなもん気にすんじゃぁねぇよぉ~はっはっはぁ~」

「よ、酔ってる……」

 そこにいたのは、現在進行形で酔い潰れている中年の竜人、カルンだ。

 腕や足が赤色の鱗に包まれ、顔の一部にも鱗があり、そして竜のような尻尾がある。それ以外は、どこまでも中年のおっさんだ。

「ああん?俺がんな簡単に酒に飲まれるわけねぇだろうがぁよぉガッハッハッハァ~!」

 この人には、城壁の修理について教えてもらった。修理する際に気を付けなければならない場所や、特に注意すべき亀裂の形と破損状況を教えてくれた。この人がいなければ、今頃は良くて大怪我、悪ければ死亡していた可能性すらある。この人にも、とても感謝している。

 ただ、妙に力の加減が苦手らしく、前に城壁の修理のつもりが、壁に大穴を開けたことがあるらしい。

「おうらぁ~、ドンドン酒持って来~い!ガハハハハハハ!!……うっぷ」

「すまないな、少年。私の仲間が迷惑をかけてしまって。少し酔いを冷まさせるとしよう。ではな」

「あ、はい。ありがとうございました」

「ああ。こちらこそ」

「もがぽっ!?」

 そう言ってスールはカルンを体内に取り込んで、一時的に気を失わせ、何処かへと運んで行く。恐らくは洗面所辺りだろうか。

 そして、様々な魔族に適当に挨拶をしながら、歓迎会の会場を見て回る。

 改めてみると、幾つもの大きなテーブルが大広間に並べられ、その上にとんでもない量の料理が乗せられている。とてもじゃないけど、一人では食べきるとなれば、少なくとも1ヶ月はかかりそうだ。

 そう思っている後ろから、また誰かに抱きつかれる。

 だが、妙に軽いなと思いつつ、顔を会わせると。

「お、おはようございま……げほっ」

「もしかして、キュメスちゃん?寝癖が凄いし、顔も青いけど、大丈夫?」

「大丈夫、です……軽い発作が起こっただけで」

「ほ、発作!?大丈夫なの!?」

「不死身、ですので……」

 そう今にも死んでしまいそうな少女は、銀髪のサキュバス、キュメス。とても病弱で、年がら年中こうらしい。

 吐血は日常、発作は当然、目眩は一時間に数回あるそうだ。

 しかしその病弱さ故の特異性なのか、常に病弱な代わりにアンデッドでもなく、弱点のない不老不死を得た子だ。とある魔族医者さん曰く、1度内蔵が破裂したらしいが、特に問題なく病弱に生活していて、寝て起きたら戻ってたそうだ。

 エリア点検の際に、『夜闇のエリア』にて出会った。

 突然血を吐いて倒れたから、心配で近づいてみると普通にむくりと起き上がった時には凄く驚いた。その時の彼女は『人を驚かせることができて、アンデッド冥利に尽きる』なんて言って、また気を失った。別にサキュバスはアンデッドじゃないんだけど、それを伝える暇もなく、昨日にちょっと会っただけで三回は看病した。

「それで、ジファノさん、でしたっけ~……その、野菜ジュース、いただけますか~?」

 さっき見て回ったときに、何となく手にした野菜ジュースを見て言う。

「あ、これの事?体調悪いみたいだし、いくらでもいいよ」

「わあ、ありがとうございます~……んぐんぐ」

 そして遠慮なく飲み干したコップをこちらに渡して、口を開く。

「どうも、わざわ、ざ、ありが、と……う、ござ──」

「えっ」

 それを皮切りに、また倒れる──かと思った瞬間。

 とある人物がキュメスを倒れる前に支えた。

「まったく、何時でも病弱ね~。そんなんで本当に大丈夫なのかしら」

 この状況を見ている全ての魔族が思うことを、彼女が口にする。

「……何見てんのよ、ニンゲン」

「ああいえ、昨日はありがとうございました。料理作るのを手伝ってくれて。いまも、キュメスちゃんを助けてくれたり」

「ああ、その事?別に、ウォルネフがやるって言うから、私も付いていっただけよ。それに、具材を切ったり調味料持ってきたりするだけだったじゃない。感謝されることでもないわ。あと、なんでキュメスのことをアンタが感謝してるのよ。ったく、わかんないわね」

 そう言いつつも、若干嬉しそうにするのは猫の獣人のニエル。金色の短いツインテールと猫耳がついていて、同じく猫の尻尾もついている。爪は長く鋭く、鋭利な刃物と表現するにふさわしい。ただ、昨日の料理の際には流石に包丁を持ってもらった。

 ウォルネフというのはニエルの義弟で、子供の狼の獣人だ。と、そこでジファノは気が付く。

「……あれ?そういえば、ウォルネフ君は?」

「ウォルネフなら確か、シェルスを見つけるなりそっちに飛んで行ったわ。シェルスも面倒は見ておくって言って了承してくれたから、私は一人で見て回ってるってわけよ。んで、キュメスの後ろ姿が見えたから、少し心配になって来てみたらこのありさまってわけ」

「それならちょうどいいし、シェルスさんに会いに行こうかな。二人とも、昨日のお礼を言っておきたいし」

 と、そう発言したところで、後ろから野太い声が聞こえた。

「呼ンダカ?」

「やっほー、ジファ兄ちゃん!お姉ちゃんも!」

 続くように、甲高い少年の声が聞こえる。

「う、うわぁ!?」

「噂をすれば……ってやつかしら」

 急に後ろから声を掛けられ、驚く。祭りだからなのだろうか、シェルスさんは巨体であるにもかかわらず気配も無く現れた。

 その種族特有の巨体を持つのは、サイクロプスであるシェルス。青い体に黄色の一つ目を持ち、結婚していて、お嫁さんと息子と娘が一人ずつの四人家族である。その背に乗るのは、先にも説明したウォルネフ。灰色の毛並みで、こちらを見つけるなり嬉しそうに耳をピコピコさせ、尻尾をぶんぶんと振る。

 二人にはそれぞれ、洗濯で高い場所に服を掛けてもらったり、料理の手伝いをしてもらった。

「ウォルネフ、ソロソロ帰ル、言ッタ。ダカラ、連レテキタ」

「つかれたー!」

 続くように、元気に返事をするウォルネフ。

 しかしそれはどう見ても――

「全然疲れてるようには見えないなぁ……」

「ココ来ル途中、ウォルネフ、寝テタ。今ハ眠気、少シサメテルダケ。マタ、スグ眠クナル」

「そうゆうこと。ほら、少し早いけど寝るわよ。私としても、このお祭りムードの中だと嫌でもつかれるもの」

「まあ、熱気とかがすごいからね……これが僕の為かって思うと、ちょっと恥ずかしいや」

「何言ってんだか。魔族のど真ん中にいて、よくそんな呑気なことが言えるわね」

 その感想はもっともなものだ。普通なら恐怖で震えてるだけだろう。でも、僕はたった一日でも、それに気が付いた。――そう。

「皆が優しいってことが、わかったから」

「……まあ、いいけどね。ひとまず、私はもうウォルネフと寝るわ。じゃあね」

「うん、さようならー!」

「じゃあね、ジファ兄ちゃん!」

 ウォルネフが、シェルスから飛び移るように、ニエルの背中に飛び乗る。

 それを何でもないように受け止め、何も言わずニエルは歩き出す。それは人混みに紛れて、すぐに消えた。

「ジャア、オレモソロソロ、モドル。ヨメト、ムスコト、ムスメガマッテル」

 そう言うと、振り返って歩き出す。そして大事なことを忘れていると気が付き、一瞬呼び止める。

「あ、あの、シェルスさん!」

「ン?ナンダ?」

「昨日は、ありがとうございました!」

「気ニシナクテイイ。一族ノ、掟。恩ニハ恩デ返シ、礼ニハ礼ヲ返ス。オマエノ料理、ウマカッタ。オレ、オマエニ感謝シテル。ダカラ、気ニシナクテイイ」

「でも、僕1人じゃなにもできませんでしたし」

 そう言うと、少し悩んだような素振りを見せてから、シェルスさんが言う。

「ジャア、次ハオレノ子供タチニ、ハンバーグデモツクッテクレ。最近、ハンバーグガ食ベタイ、言ッテタ」

「わかりました!期待してて、って子供たちに伝えておいてください!」

「ワカッタ。ツイデニ、オレト嫁ノブンモ頼ム。家族、皆一緒ガ、イチバン。期待シテ、待ッテル」

 最後に、手を振って別れた。サイクロプスとかの巨人族は野蛮なイメージがあるけど、実際は仲間想いで、友達や家族を一番に思ってくれる、優しい種族だ。

 そして、それと入れ替わるように向こうから手を振ってくる人が現れる。

「よーっす。ジファノ、元気してるかい?」

「あ、ヴァネスさん。昨日はありがとうございます」

「いーっていーって!んなことより、ウォルネフきゅんとニエルたん見なかった?ちょっと探してるんだけど」

「えっと、あの二人ならちょうど今、二人で一緒に寝るって――」

「なるほど。ウォルネフきゅんとニエルたんのダブル寝顔に何もしないのは逆に失礼だねよし行こうすぐ行こう。そして思う存分ぺロペrゲフンゲフンもとい悪い奴が来ないか見張っていよう」

 そんな端から見ずとも端から見ても、変態的な発言を惜しみなくぶちまけるのは、吸血鬼のヴァネス。金色の美しく長い髪が似合うといえば似合うものの、変態的なまでの動物愛を含む発言で全てが崩れ去る。最近では動物以外の血を飲みたくないという思いと動物を傷付けたくないという思いがぶつかり合い、本人曰く『森羅万象の理をも上回る葛藤』を生み出しているらしい。尚、性別・年齢を問わないらしく、ある時は年端もいかない少年を襲い、ある時はババアを襲ったらしい。最近では前述の葛藤により血が吸えなくなり、その影響か普段より更に狂気っぷりが増しているとかなんとか。

 仮装大会では、獣人も獣人コスチュームの人も片っ端から襲ったという伝説さえある。

「えっと、大丈夫です……か……?」

「よしごめんね感謝の気持ちは十分伝わったから大丈夫大丈夫こっそりと静かにバレなければいい少し脇とか背中とか股の間とかを舐め回すだけだから大丈夫大丈夫大丈夫……」

 目から光が消えていて、恐ろしいというか普通に怖い。

 と、そこに来て、ヴァネスの頭を叩く人物が。

「よう!フハハハハハハハ、元気か、健康かー!?お前らー!元気で健康なのは良いことだー!フハハハハハハハハハハハハハ!」

「どうもアードネットさん、昨日はどうも」

「んん!おう、もっと感謝していいぞ!ただ、困ったらいつでも言え!口での説明しかできんがな!フハハハハハハハ!」

 明らかに骨だけな身体ながらも、どこか筋骨隆々としていて、とても明るいその人はアンデッドキングのアードネット。全てのアンデッドを束ねる王にして、アンデッドであるにも関わらず健康第一を掲げており、早寝早起き、朝に運動、栄養が片寄らないように気を付けての毎日三食。朝には必ず牛乳を飲み、運動で疲れたなら適度な休息を取る。歯磨きや洗面も朝と夜に行い、魔王城1の健康的なアンデッドだ。ただ、細かい作業が苦手。エリア点検で会って、どのエリアがどこにあるかを教えてくれた。毎朝のランニングでいろんなところを走り回っているため、どこにどんなエリアがあるかはほぼ理解している。

 一部の魔族曰く、彼に純粋なパワー勝負で勝つことはほぼ不可能らしい。アンデッド故の不死身や、日々の運動で鍛えた筋肉には、だれも敵わないそうだ。

「んん!?ヴァネスが全く反応しないぞ?さてはまた考え事か!──んん!いつも通りで元気な証拠だな!フハハハハハハハ!!」

 寛大……と表現すればいいのか、また別の何かと表せばいいのか。正直、わからない。

 ちなみに、ヴァネスはそんなアードネットの一人娘である。そんなアンデッドの王で、とても寛大な人の娘が、なぜこうなってしまったのかと、疑問に思う。妻であるクイーンヴァンパイアは現在出張してるらしい。

 肝心のアードネットは非常に特殊な個体で、全てのアンデッドに類するモノの力が使える。ちょっとした変異個体とされるものの、結婚して子供ができた際に気がついたことは、彼の遺伝子は相手の遺伝子によってその特性を変えることだった。つまり、ゾンビと子供を作れば純性のゾンビが、ゴーストと子供を作れば純性のゴーストが。その要領で、ヴァンパイアと交じったがために純性のヴァンパイアが生れた、というわけらしい。

「早く行かないと……ああでも今だとまだ起きてるかな。もう少ししたらこっそり近づいて、思う存分……ふへ、ふへへへへへへへへ」

「んん!なんだ、そんなに笑って──楽しいことでも思い出したか!?フハハハハ、元気でいいな!フハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

「あ、その……とりあえず、僕はそろそろ行きますね……ありがとうございました」

「んん!おう、元気にな!フハハハハハハハハハハ!!」

「ふへへへへへへへへへへ」

 正直、あの狂気の固まりから一刻も早く離れたかった。

 

「ふう、とりあえず──ここ、どこだろう?」

 今、僕はどこかの通路にいる。窓があって、そこから外が見える。空は暗く、紫の三日月が輝いている。もしかしたら、どこかに繋がる廊下だったり。

 あの会場の熱気が少しだけ辛くなって、静かな場所に来たけど、場所がわからない。アードネットさんに道を聞いてきた方が良かったかもしれない。

 ひとまずはここで休もうと、床に座って壁に背をつける。そして、疲労を吐き出すように溜め息を吐く。

 と、そこで気が付く。

 少し離れた場所で、色白の少女が虚ろげに窓から空を見ていた。

 白い髪とワンピースのような服が、風で揺れる。しかし目には光がなく、ただ呆然と夜空を見続ける様は、何故か目を惹き付けた。

 そして、僕の視線に気づいたのか、少女と目が合う。

 ただ、その瞬間に瞳の奥を見た。直感ではあるけど、僕はそれを確かに感じた。

 瞳の奥にある──憎悪の渦を。

 少しの間、目を合わせていると、ふいに少女が僕に背を向けて歩き出す。

 僕は少し気になって、その子と話をしてみたいと思った。だから、その少女の後を追おうと、軽く走った。

 少女が窓のある場所から、窓のない場所に入ってしまい、少女が月に照らされなくなり、姿が見えなくなる。

 ただ、走っていれば追い付くだろうと思っていたが、それは違った。いくら走っても、少女に追い付くことはなかった。何時しか僕は、更に迷いこんでいた。

 いや、果たしてそれは迷ったというべきなのだろうか。辺りはいつのまにか朝になっており、僕が立っていたのは、僕にとって馴染み深い、あの村だった。

 そこに、『僕』が映る。声は聞こえないけど、同い年くらいの少年と話していた。

 そして、目眩が起こる。次に目に入ったのは、青年と僕が話しているところだった。

 また目眩が起こり、次は僕と中年程度のおじさんと話しているところだった。

 次に映ったのは、おじいさんと会話しているところだった。僕は心配そうに、おじいさんを見ていた。

 そして、次に映ったのは──おじいさんの御葬式だった。

 おじいさんの死体が、大きな焚き火の中に放り込まれ、肉が焼かれて剥がれ落ち、白骨となる。そして僕は、疲れた顔をしていた。

 そして僕は、またいつものように朝を迎えた。

 そこで、僕の意識はプツリと途切れた。

 

 

 

「おい、大丈夫か?」

「──え」

 気が付くと、目の前に魔王様がいた。

 僕は魔王様の部屋で寝かされていたらしく、ふかふかした、いかにも高級そうなベッドにいた。

「えっと……僕はなんで?」

「氷獄のエリアへの途中で倒れているのを見つけた、と報告があってな。わざわざ運んでやったというわけだ」

 それはきっと、あの通路の事だろう。だが、それよりも気になる事があった。

「魔王様は、長い白髪で、同じ白いワンピースみたいなのを着た、女の子を知っていますか?」

「……それは、どうゆう意味だ?」

 なんとなく気になって、気軽に聞いただけの質問。

 だが、アイラルはそれに対して険しい顔を見せた。

「えっと、見つけたんです。僕が倒れていたっていう通路で」

「……そう、か……」

「えっと、何かあったんですか?」

「その少女の目を見たか?」

「……はい」

 一瞬、脳裏にあの憎悪が浮かび上がる。それを思い出すだけで、僕は恐怖を感じた。

 アイラルは、ジファノが少し体を硬直させ、険しい表情をしたのを見て、何かを察したらしい。

「……やはりか……なぜ」

「えっと、何か問題があるんですか?」

「まあ、貴様になら言っても問題はなかろう。その特徴が当てはまる魔族を、余は1人だけ知っている。とはいえ、ダージュから聞いた程度だが」

「それは──」

「先々代魔王『フェイネル・フォーングラッド』。歴代の魔王の中でも、一際人間に興味を示していたらしい。余も話に聞く程度ではあるが、人里に降りて、人と交流したという」

「凄いんですね。魔族でもそんな話しは滅多に聞かないのに」

「ああ。自由奔放で天真爛漫、体質的な白い色と合わさり、まるで皆を照らす光のようであったという。それもあって、特に疑われることもなく人間と共にいたそうだ。ただ、それが数年程度続いたころ、人間同士での戦争があったらしく──そこで、最も仲が良かった友を亡くしたそうだ。それ以降は、歴代の魔王すらも顔を蒼白とさせるほどに残忍で冷酷な魔王となったらしい。まあ、あくまでも話しに聞くだけであって、真偽は余もわからん」

 そう聞いて、二度思い出す。あの少女の目にあった、深い闇を──その奥に渦巻く憎悪を。

「今は、そのフェイネルさんは?」

「もう死んでいる。先々代だと言っているのに、生きていてもおかしいだろう」

「でも──」

「この件については、下手に公言するな。先々代とは言え、その特殊な行動からその名は知れている。あまり大声で言えば、混乱を招きかねん。それに、ただの幻覚や寝惚けにしては、不可解な部分がありすぎる。何があったのかはわからんが、気にはしておくとしよう」

「うん、わかったよ。あと、それはそれとして歓迎会は?」

 僕が気を失ったのが夜遅くだったし、今まで寝たきりだったから、終わっているのか、まだ続いているのか、少し気にはなっていた。

「それについては、ほぼ全員が酔い潰れてな。メシも無くなりつつあったからか、終わってしまったぞ。締めに貴様がいないせいで、一部のやつらは不満げではあったがな」

「僕に終わりを任せられても困るから、そこはよかったかな……魔王様は、これからどうするんですか?」

 と、いつものように『魔王様』と言ったら、なぜかまた難しい顔をした。

「……少し前から気にはなっていたのだが」

「え?」

 嫌な予感。そう、まるで僕に魔王城に住んでもらうと言われる直前に感じたものと同じような──

「貴様、なぜ余のことを名で呼ばんのだ。出会い頭に散々言っておきながら、それ以降は妙に堅苦しくして……」

「えっと、じゃあどうすれば」

 その予感は、またも的中した。

「フランクに来い!貴様はそこまで自覚がないようだが、仮にも貴様には魔王家の名を与えたのだぞ!余も公認の弟だというのに、その妙に気を使った感じはなんだ!」

「いやいや!魔王に向かってそんな無礼はできませんよ!?というか今地味に僕のこと弟って」

「気にするほどか!出会って間も無くで遠慮なくビシバシと正論ぶちこみまくってきたのは何処の誰だ!?」

「僕ですごめんなさい!でも、その時と今とでは色々と感覚が違うというか──」

「どんな感覚だ、余にはちっともわからん!余にもわかりやすく言え!」

「えっと……その、あー……え~っと~……」

「ほら見たことか!貴様に魔王権限で命令する!余には遠慮するな!」

「え……いや、でも」

「まずは名前で呼ばんか!それとも余の名前が思い出せんからとりあえず魔王様魔王様言ってるだけか!?」

「い、いや覚えてるけども、そんな呼び捨てにしていいのかなって」

「なら言ってみろ!言えんなら忘れたとみなし、今度から食事にリザードマンの尻尾を付け加えるぞ!」

「なにそれ!?アイラル!アイラル・フォーングラッド!」

「ふむ覚えてるなよしわかった今度からそれで呼べ!」

「えええ!?あ、アイラル……さん……?」

「さんは付けるな、普通に呼び捨てでいいと言っているだろう!」

「あ、アイラル……」

「なぁにを顔を赤くしている!普通にちゃらっと挨拶するくらいの軽い感じでいかんか!」

「だ、だって恥ずかしいんだよ!魔王様は綺麗だから、なんだか名前で呼ぶと……その」

「女か貴様は!そんな女々しいのは求めなどいない!もっと本気でガンガン来い!」

「せめて、せめて『さん』を付けさせて!?」

「ええい、貴様はそれでも男かー!」

「ひゃあああ!?ちょ、服返してー!」

「ああ返してやろう!貴様が余に普通に接することが出来るようになったらなぁー!」

「上半身裸で普通に接することができるわけないじゃないかー!」

 ──結局、なんとか『さん』付けは承諾してもらえた。

 

 

 

 

 

「ふへへ、今ならもう二人とも寝ているはず……ぐへへへへ」

「あら、ヴァネスちゃん?そこで何してるの?」

「え、誰──げっ、イーシュ様!?」

「お祭り騒ぎがあるとは聞いていたけれど、ついつい寝過ごしちゃって。そこでなんだけど──少しお時間いいかな?お姉さん、ずっと寝てたせいかね──ちょっと、お口が寂しいんだ♪」

「キャアアア!ちょ、誰か助けてー!」

「あらあら、恥ずかしがらなくていいのよ?それに、また悪さもしようとしてたみたいだし。それともう1つ。夜這いは他人に見つからない事が基本よ?」

「ひ、ひええええええ!」

「夜中に悪いことをする子は、お姉さんがイイコトを教えてあげるわね♪大丈夫、気持ちイイコトだから、ね?」

「わあああああ!助けてー!強姦、強姦ですー!だから誰かたすけ──んぐー!?んぐぐ、むー、むー…………はぁ~、はぁ~……」

「はい、サキュバス流の『口封じ』で大人しくしたところで、悪いことのお仕置きついでに、お姉さんの部屋に行こっか♪」

「あ、ん……やあ……誰か、たす──ひんっ、や、やだ……こんな……あっ」

「さて、夜の『お楽しみ』にようこそ──なんてね♪」




 1週間と待たずに次話投稿しました。まあ、現状はネタが色々と出てくるんで、まあ多少はね?今回は新キャラ大多数の登場でした。半分以上が説明文な気がしますが、まあ気にしなくていいでしょう。たぶん。ところで、今回の話は健全でしたね(大嘘)
 ちなみに、クイーンサキュバスことイーシュさんは正直なところ、終わりの一部分に出てくる程度にしようか迷ってます。だって本編に出てきたら大暴れして大変なことになること間違いなしくらいの勢いだから……でも主要キャラといえば主要なんだよなぁ……クイーンクラスだし。ちなみに、リザードマンもちょくちょく出てくる予定です。
 まあ、今後のことは今後で考えていきましょう。今回はこれで。
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