FINAL FANTASY Ⅵ~偽レニア~ 作:ひきがやもとまち
試しに書いてみて、とあるユーザー様に読んで頂いたところ『他の人の意見も聞いてみたらどうか?』と提案されましたので投稿してみました。
なお、セレニアを書く際にイメージのモデルにした他の方の作品『TALES OF THE ABYSS外伝ーセレニィー』に似ている部分もあるかもしれません。意識した訳では御座いませんが、大好きな作品でもあるためセレニアを明るくする際に知らず酷似させている恐れが御座います。ご了承ください。
少女は、暗い暗い穴の底へと落ちていた。
長い間『あやつりの輪』に思考を止められ、意志を奪われ、侵略の道具として用いられ続けてきた少女は今、己の意志と自我を取り戻した代償として深くて暗い穴の底へと落ち続けていた。
落ちながらも思い出されるのは、いくつかの単語。
ーー『帝国』ーー『魔導アーマー』ーー『その娘は帝国の手先』ーー
ひとつ思い出す度に浮かび上がってくる嫌な赤い色。
ーー『血』ーー『炎』ーー『嗤う男の纏う服』ーー『偉い人の着たマント』ーー
“・・・こんなのはイヤだな・・・忘れていたい・・・”
少女は願い、抗い、やがて取り戻したばかりの意志を放棄し始める。
きっと、穴の底に落ちたら忘れてしまう思考。気絶して目が覚めたら、また向き合わなければならなくなる辛い現実(いま)。
・・・だから、今この時だけは忘れよう。何も考えなくていい、ただ落ちていくだけの今に身を委ねよう・・・。
無意識のうちに意識を逃避させていた少女は気がつかなかった。
自分の隣にいる存在を。
どこともしれない場所から落ちてきた異邦人の女の子のことを少女は知らない。誰も知らない。世界も、幻獣も、本人自身でさえも彼女のことを知らない中で彼女たちは落ちていく。
ーーーー世界のどこかで運命の歯車が軋む音がする。
ーーーーー今、運命が狂いだす。
「ーー魔導の力を持つ娘が帝国に操られてただけだと知った以上、ジュンに頼まれなくたって娘を助け出す方針に変わりはないんだが・・・・・・」
鉱山都市ナルシェの地下坑道の中、同士からの要請を受けて出動してきたトレジャーハンターの青年ロックは、柄にもなく迷い、逡巡していた。
彼が困り果てている原因になっていたのは、皮肉なことに助けに来た目的の少女が“どちらなのか”判別できずに頭を抱え込んでいたからだったりする。
「・・・・・・どっちなんだよ、その子って・・・」
愚痴るように漏らした彼の視線の先に、“二つの”肢体が倒れている。
一人は赤い服を着て緑色の髪をした、年頃の少女。
無防備そうな寝姿の割にスタイルがよく、イヤな思い出を経験する前の若い時分ならイタズラ心ぐらい沸いたかもしれないと思えるほどの女性らしい魅力を兼ね備えている娘。
もう一人は少女と言うより、幼女と呼ぶ方が正しそうな年齢。
風変わりな青い上衣を着ており、髪は異様に長い銀髪。
やや色気に欠けるポーズで気絶しているために性的魅力は感じられないのだが、子供らしい愛らしさと可愛らしい仕草が妙に庇護欲をそそられそうになる不思議な印象をもつ女の子。
・・・・・・この二人が今、彼の前で倒れて気絶していた。
ナルシェの自衛部隊『ガード』から娘を二人、一人で助け出さなきゃならなくなった彼としては思案せざるを得ない窮状であり、できれば誰か助けに来てくれないものかなー、とか思わず願ってしまうほど困り果てている彼であったが、世の中そうそう甘くはない。
ーーと、思ったら意外に甘かった。
「う、うぅぅん・・・」
なんと、幼い銀髪の少女の方が呻き声を上げながらも意識を取り戻し、自分の力で立ち上がるまでして見せていた。
ロックとしてはホッと一安心だった。これで最低でも彼女には自分で歩いて付いてこさせることができる。もちろん子供相手に無理はさせられないから休み休みになるだろうけど、それでも一人で二人を抱えながら移動するよりかは遙かにマシだ。ていうか楽だった。戦闘が本職ではないトレジャーハンターの微妙な体力舐めんな。
「・・・あれ? ここは一体・・・」
頭に手を当て周囲を見渡しながら、ぼんやりとした無表情の中に隠しきれない困惑を秘めた声でのつぶやきにロックは破顔する。
なんとも幼くて可愛らしい。素直にそう思ったのである。他意はない。
「気が付いたみたいだな。今がどういう状況かわかっているかい?」
後半は優しい声音でロックは尋ねる。事情をどこまで理解してここにいるかは脱出時に重要になることとはいえ、目が覚めたばかりの幼い子供にいきなり聞くには重すぎる内容が多分に含まれているのも確かなので、彼としては出来るだけショックを与えることなく必要としている分を聞き出せれば十分すぎると思っていたのだが、しかし。
「・・・そもそも、ここってドコですか? て言うか私って誰なんですか・・・。頭に霧がかかってるみたいでモヤモヤしてて何も思い出せないんですけども・・・・・・」
「ーーっ!?」
まさかーーーーー記憶喪失!?
・・・それはロックにとって他のどんな事情より優先して守り抜かなければならない対象の絶対条件。記憶喪失の少女というだけで、彼は世界中あらゆる女性の味方になってやるのだと、あの日に彼は決意していた。
「・・・記憶喪失・・・・・・安心しろ。君は俺が守ってやる! 絶対だ!!」
「・・・?? は、はぁ・・・」
少女としては、目が覚めた直後にいきなり知らないイケメンの人から告白まがいのセリフを言われても困るしかないのだが、それを今この場で口にしない程度には分別がある少女でもあった。
だから言わなかった。変わりに別のことを考える。
(と言うか、別に記憶喪失って訳じゃないですし。自分のこと思い出せないだけで、記憶自体はちゃんとありますし。・・・ただまぁ、これって本当に本当に現実にあったことの記憶なんでしょうかね? ぜんぜん今見ている景色と関連づけられそうにないんですけども~)
少女は小首を傾げながらも頭に浮かんでくる景色について、イメージを精密化させてゆく。
密集したように立ち並ぶ高層建築。ビル群、オフィス街、高速道路に電車エアポート。どれも原始的な鉱山風景からは懸け離れすぎた近代的でメカニカルな建築物ばかり。
(こんな場所でこんな物について語ったらどんな目で見られるか分かったもんじゃありませんからね。今はスルーするのが一番安全です)
そう結論づけて黙っていたのだが、そうした瞬間、ふと心の内側から疑問を感じた。
ーーいや、疑問というよりは違和感だろうか? 自分が保身に走った考え方をすることに違和感を感じなかったことを、体に染み着いているナニカが微細に反応したような感覚。
(・・・?? 今のは一体・・・・・・いえ、そもそもなぜ私の記憶には私だけがいないのでしょうか? 切り絵でキャラ絵だけを切り取って背景だけを残したような奇妙な記憶の残り方なんですけども・・・)
景色は覚えている。社会システムも覚えている。歴史も勉強も学校で習った分は『学校で教わったこと』として思い出せるのに、肝心の学校に通っていた自分だけが思い出せない。
何より自分はそのことを『大した問題とは感じていない』。・・・ある意味でこれが一番意外性があってショックなことだった。
(・・・私は自分がいない世界しか思い出せないことを悲しく感じていないと言うことでしょうか? だとしたら感じない理由はなんなのでしょう?
悲しさだけならまだしも、嬉しさも喜びも寂しさすらまったく感じられません。当たり前のように受け入れられている自分がいます。これは一体、どういう現象なんですかね・・・?)
思考に沈み欠けていた少女に考えるのを止めさせたのは、少し遠くから聞こえてきた複数の足音と警告の声。
『いたぞ! こっちだ!』
声に振り向き、そちらを見た彼女が目にしたのは盾と鉈で武装した、山岳民族っぽい白服の男性たち十数名と、大型の狼らしき生物が数頭。
ーーーそして、マンモスみたいにドデカくて巨大な、牙つきゾウさん。
「にょわっ!?」
さすがにこれは現代日本の記憶しかもってない少女にはキツい。キツすぎだった。
恐竜博物館でも置いてない、実物大マンモスの復元剥製だってここまで迫力満点で怖くはない。それに何より、剥製は人に襲いかからないし敵意も向けない。でも、これは違う。めっちゃ向けまくってきている。
ギロリと鋭い目つきで睨みつけてくるし! 吐く息は「ふー、ふー・・・」と、幼女を狙うときの中年変質者みたいな欲望に満たされた感情しか感じられないし!
ーーこのマンモスさん、ぜんっぜん可愛らしくないんですけども! 原始人間ギャースカ君とかだと可愛かった気がするんですけども!
見た感じ原始時代ほど飢えてる場所じゃなく見えるのに、どうしてこのゾウさん殺る気満々で食う気も満々そうなんですか!? 上野動物園じゃなくてもゾウさんに餌を切らせたらいけません!
「て言うか、割と本気で誰か助けてえぇぇぇっ!!? このリアルピンチ状態は現代日本人にはクリア可能レベル高すぎると思いますので助っ人はよう!!」
「・・・? ゲンダイニホンジン? クリアカノウレベル? それが君の覚えている人たちの名前なのかい?」
「そういうお約束ボケはいいですから早く! 何とかしてくれそうな助っ人キャラを早く呼んでくださいよお願いしますから!」
「オヤクソクボケ? スケットキャラ?」
ーーダメだこの人は!
なんかRPGのモンスターみたいな存在が出てきて武器持った男の人から「守ってやる!」と言われたために期待して助けを求めてみたら天然さんだった!
期待できないから別の人に頼るとして、ここにいるのは自分とこの人だけ。この人がダメなら全自動的に候補は自分しかいないというわけで・・・・・・。
(・・・・・・無理! 絶対に無理です! 死んでも無理です! 死ぬ気で特攻したらもしかすると助けが来てくれる系のイベントなのかもしれませんけど私じゃ無理!
現代日本人には、痛いの怖すぎますからねぇぇぇぇぇっ!?)
少女は恐怖のあまり錯乱して心の中で絶叫し続けていたのだが、それと同時に心のどこかで自分自身を含むこの場の全体を俯瞰視点で客観視してしまえている自分にも気づいていて変な気持ちにさせられてしまいそうにもなっていた。
(・・・いったいこの思考は何!? こんな絶体絶命のピンチを落ち着いて観察している私って誰!? そして何者!? 絶対人間じゃないですよね、そんなバケモノ冷静野郎なんかが同じ人間だなんて私は認めて上げませんよ!)
「ちっ! 大勢きやがった! ・・・この数を一人で相手にするのはさすがに無理だな・・・どうするか・・・」
戦闘が専門職ではないロックは、バカ正直に正面から突貫することの愚かしさを知っている。懸命に周囲の景色を見渡しながら現状を打開できる鍵を探す。
ーーどんなピンチだろうとも必ずどこかに抜けられる穴があるはずだ!
そう信じて諦めることなく辺りを窺い続ける彼の耳に『クポー・・・』という変な鳴き声が聞こえてきたのは、この時だった。
「モーグリ・・・助けてくれるって言うのか・・・?」
『クポッ! ・・・クポ? ・・・・・・・・・クポーーーーーーーッ!?』
ーーーズシン、ズシン、ズシン・・・・・・
・・・背後から賑やかな騒ぎ声と共に、ものすごくイヤな予感が響いてくる・・・。前方に超怖いゾウさんがいなかったら絶対に振り向いたりしない状況。
ーーでも、もしかしたら人食いゾウさんよりかはマシかもしれないし・・・・・・。
そんな風に限りなく可能性が0に近い希望にすがりつき、ゆっくり後ろへと振り返った少女の願いは初めて報われることになる。
(わー♪ 可愛らしい謎生物さんがいっぱいですー☆ かわいいなー♪ かわいいなー♪ かわいい援軍さんだな~♪
きっと、この人たちが助けに来てくれた助っ人さんなんですね! おかげで助かりましたよ! ありがとう!
これで私たちは救われます! あなたたちに助けられて救われます! ・・・ええ、そうです。“あなたたちに”私たちは助けられて救われるんです。あなたたちしかいません。他には誰もいないんです。他には誰も来てないんです。
かわいい謎動物さんに目を奪われて私には他に何も見えていません。見えていないのです。見えていないことにしてください。私は何も見えない、何も知らない。ここには他に何もいません。
凶悪な顔した巨大雪男さんなんて私は見えない知らない、視界にすら入っていません。私はなんにも気づいていないのですーーーーーーーってぇ、どうして私を両手で捕まえてるんですか!
食う気ですか!? 怠けて肥え太った脆弱な豚の日本人“少年”を餌にする気なんですかあなた!? ちょ、ま、誰か助けてーーーーーーっ!?」
必死に見て見ぬフリして見えないことにしてきた『少女の視界に移り込んでくる都合の悪い謎巨大雪男』が、ノッシ、ノッシと歩いてきてモーグリたちは怯えながらも道を開け、ダンジョン探索で化け物には見慣れているはずのロックでさえ見た目のインパクトが桁違いな未知の生物に度肝を抜かれてしまい、守ると決めて宣言した少女が雪男に捕まって持ち上げられていくまで正確に事態を把握することが出来ずにいた。
「・・・・・・はっ!」
ーーっとなって、今更我に返ってももう手遅れ、後の祭り。少女は雪男の顔面間近まで引き寄せられていて、互いの顔と顔が間近でランデブーしてしまいそうなほど接近し過ぎており、下手に攻撃しようものなら少女に被害が及びかねない。
ーーどうする!?
「くっ・・・!」
・・・シリアス顔で苦悩するロックをよそに、少女と雪男は二人だけのーーーいや、一人と一匹だけの世界を構築してしまっていた。
「・・・・・・・・・」
「はわ、はわわわわわぁぁぁ・・・・・・」
無論、言うまでもないことではあるが少女としては、そんな世界からは永久追放処分されたい気持ちこの上ない心境であり、まったく以て嬉しくない。むしろ怖くてチビリそうである。
「トイレに行きたいので、離してもらっても宜しいでしょうか?」
ーーとか言えば離してくれないだろうかしら? そんなアホ妄想を本気でしてしまいたくなるほどに目を逸らしたい過酷すぎる現実。
一体なぜ、どうしてこんな目に私が会わされなきゃならないのか、まるで身に覚えがない。そもそも記憶がないから覚えがあっても思い出せない。
覚えてないなら無効だ! 時効だ! 知らないことなら、存在しないのと同じ事なんですよ! だから全てを無かったことにして水に流しましょう! ね? ね!?
飽食の時代に生きて贅肉にまみれた日本人なんか食べても美味しくありませんからーっ(>ュ<。)ビェェン‼」
・・・心の中で現代日本人的な辞世の句を読み上げ終わると、その次の瞬間。
「ウボーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!!!!!!!!!!」
雪男、大絶叫。
そのまま少女を守るように抱え込んで抱きしめながら、敵に向かって突貫してゆき千切っては投げ、千切っては投げ。一騎当千の無双ぶりを発揮しまくり、ナルシェの『ガード』たちが這々の体で逃げ出していく後ろ姿を見送りながらロックは、あらためて銀髪の少女に対して疑念を抱く。
「あの雪男・・・あきらかに少女を守るために戦っているみたいだったが・・・どうしてなんだ? あいつにも何か守りたい物でもあるのか・・・?
それともやはり、あの少女の方が帝国の魔導アーマーを操っていたという例の娘なのか・・・?」
ーー見当違いな推測を続けて疑心暗鬼に陥り欠けてるロックのことなどどうでもよい少女は現在、スヤスヤスヤと雪男の腕に抱かれて夢の中。
目の前で大絶叫を聞かされた瞬間、ついに少女のモロい日本人精神は限界を迎え、
「・・・・・・・・・はふぅん・・・」
ーーと、微妙に色っぽい吐息を吐き終わってから気絶してしまい、そのまま意識が戻ってきていないのである。
彼女は知らない。誰も知らない。この世界に生きるすべての者たちには一生かかったって知ることなんか出来やしない。
無論、それは少女自身も例外ではない。彼女はすでに『本体と切り離された』別個の生命体。この世界に生きる別の生物になってしまっているのだから、本体のみが持つことの許される様々な特典を彼女が得ることは一生かけても不可能なのだ。
少女の名はセレニア。性はない。ただのセレニア。
セレニアという名で切り離された、セレニア以上には成り得ない存在。
どこかの世界で何かを成すために生まれ落ちた銀髪の少女の残り滓。通り過ぎざまに捨て置かれてた記憶の残照。
肉体による縛りはなくなり、感情表現を制限する必要性も認めてもらえず、自由気ままに己を出していい特権を与えられ、世界に対する影響力を根こそぎ奪い尽くされてしまった単なる無力な役立たずな女の子。
そんな彼女にナニカを感じて『守ってあげたくなった』雪男のウーマロとともに、この物語は幕を開ける。
いないはずの人物が最初からいたら『こうなっていたかもしれない』世界がたどる可能性の一つでしかない、そんな物語。
・・・なにはともあれ、偽レニアよ。今日のところは漏らさなくて良かったな。
「きゅ~・・・・・・(ガックリ)」
セレニアの性格、対象比。
オリジナル:自罰的。捨て身特攻、一直線。
偽物劣化版:自虐的で保身的。真贋とかどうでもいいんで死にたくないで御座る~(>_<)