FINAL FANTASY Ⅵ~偽レニア~   作:ひきがやもとまち

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更新です。出勤寸前に出来上がりましたので中身は読んでからのお楽しみと言うことで!


第10章「誰が為の戦う理由」

 サーベル山脈は、コルツ山を越えた先にある巨大な山脈のことである。正確にはコルツ山とは全く別の山々なのだが、一般にはコルツ山の一部として見られるのが普通で、サーベル山脈のことは名前さえ知っていれば良い方という程度だった。

 

 あまりにもコルツ山が有名すぎたからであったが、そこに本部を置く反帝国組織「リターナー」としては都合が良いと言えるだろう。

 有名じゃないから誰も来ないし地図もない。さらには目の前に、急角度の斜面と変わりやすい天候に凶暴なモンスターが合わさったコルツ山が聳えているのだから尚更だ。

 

 そのリターナーの本部は、自然の洞窟に人が居住できるよう簡易的に手を加えただけの簡素な場所だった。一応は拠点なので兵たちを休ませる休憩所代わりの宿屋と、物資保管庫を兼ねた道具屋なんかも併設されてはいるが、ハッキリ言って手狭で狭苦しく大人数での使用は最初から想定されていない造りがされている。

 

 時間がなかったのか余裕がなかったのか、あるいは臨時の拠点なのか、それは分からないが、とにかくその場所の最奥にある部屋にリターナーの指導者バナンはいた。

 

 齢54才になる老人で、戦士らしいガッシリした体付きという訳ではないが、目に力があり年齢を超越した意志の強さを感じさせる人物である。

 

 ・・・ただ、いささか熱血老人っぽい印象を初対面でセレニアは感じてしまって少しだけ苦手に思わせたところは、やはり帝国の世界征服を阻むため武力に訴えかけた反帝国組織の指導者なのだと言うことだろう。

 

 

 初対面でエドガーからティナを紹介されたとき、彼は直裁にこう言った。

 

「ほう、この娘か・・・氷づけの幻獣と反応したというのは」

「幻獣・・・?」

 

 ティナの知らない単語だった。

 

 ・・・ちなみにセレニアの方はと言えば、「そう言えばケフカさんとかが何かそんな言葉いってたような気がしなくもない?」――そんなことを考えていただけである。どうにもこの主人公、役に立つタイミングが毎回遅い。遅すぎる、スローディーだ。

 

「どうやらこの娘は帝国に操られていたようです」

「伝書鳩の知らせで、大凡は聞いておる。帝国兵50人をたったの3分で皆殺しにしたとか・・・」

「いやーっ!!」

「バナン様! ひどすぎます!」

「逃げるな!」

 

 思い出したくない過去の出来事を連想させる嫌な言葉を告げられて、悲鳴を上げながら自閉しようとするティナと、そんな彼女を庇うように前に出るエドガー。

 

 そんな二人に「甘えるな!」と断言するかのごとく、バナンは厳しい声と口調で言い切ってみせた。自らの犯した罪という名の現実から逃げるな、と。

 

「こんな話を知っておるか? まだ邪悪な心が人々の中に存在しないころ、開けてはならないとされていた1つの箱があった」

 

 ティナに歩み寄りながら、バナンは唄うように昔話を紡ぐ。

 この異世界版『人の愚かさを示す物語、禁断の箱のお伽話』を・・・。

 

「だが、1人の男が箱を開けてしまった。中から出たのは、あらゆる邪悪な心・・・。

 嫉妬、妬み、独占、破壊、支配・・・」

 

「だが、箱の奥に一粒の光が残っていた。

 希望という名の光じゃ」

「・・・・・・」

「どんな事があろうと、自分の力を呪われたものと考えるな。

 お主は世界に残された最後の一粒。『希望』という名の一粒の光なのじゃから・・・」

「バナン様!」

 

 彼の言葉に、いたわりと慰め意外の意図を察してエドガーが止める。先ほどよりも大きな声でだ。

 然もあろう、彼は国王・・・政治という言葉を弄する戦場で生きてきた者だ。今の発言に隠された意図を読み取れないほど愚鈍な人間ではない。

 

 バナンはティナに対して、こう言っていたのである。

 

 

「世界に残された最後の希望となって欲しい。

 開けてはならない箱を開けてしまった邪悪な男、ガストラ皇帝を倒すための希望の光に。

 “我々”追い詰められたリターナーにとって、残された最後の希望の光になって欲しい・・・」

 

 

 ――そう言う事である。

 無論、彼は本気でティナの事を思った上で出てきた言葉でもあるだろうし、戦渦に巻き込んでしまう事への罪悪感を感じない男では決してない。

 

 だが、それでも彼は反帝国組織リターナーの指導者だ。皆を率いて戦うと決めた者としての責任がある。個人的感傷だけが発言の意図であらねばならぬ理由はない。

 いたわりと慰めの言葉を素直に、嘘偽りなくかける事が組織に利をもたらすものであるなら躊躇わない。たとえその発言が別の意味を持ってしまう側面があると知っていたとしても、嘘偽りで飾り付ける必要性を感じる事は出来ない。

 

 嘘は言っていない。騙すつもりはない。自らの心にも嘘をついた訳では決してない。

 ・・・ただ、正論だけではどうしようもないほど傷ついてしまう、自分の心に嫌気がさす。それだけのことだった・・・

 

「・・・疲れた・・・少し休ませてもらうよ」

 

 そう言い残して休憩所に向かう反帝国組織リターナーの指導者バナン。

 皆がティナを思いやり、彼女の周囲に集まるか項垂れるかする中で、セレニアだけは彼の去りゆく後ろ姿をジッと見送っていた。

 

 先ほどまで老人とは思えないほど大きく見えていた、小さな背中。

 ゆっくりと、ゆっくりと歩くその足取りは重く、先ほどの発言が言われた当人以上か同じぐらいに、言った本人も傷ついていたであろう事は疑いない。

 

 セレニアはそれを見送りながら考える。

 

 ・・・どっちの意見も正しいんですよねぇー・・・。と。

 

 バナンの主張は確かにリターナーの側の都合であり、主張だ。ティナの立場を理解して、思いやったものだったとは到底言えない。

 

 ――だが、そもそもリターナーは戦災孤児救済を目的とした赤十字ではない。

 戦争の悲惨さを訴えて、世界から戦争をなくすために活動する平和的組織でもない。

 帝国の武力支配に対抗するために結成された反帝国を掲げるレジスタンス・・・軍事組織なのである。

 

 戦うために生まれた組織である以上は、価値基準が戦争の勝敗に偏るのは当然の事だし、組織の掲げる理念から見ても間違っていない。むしろ非常に正しいと評価できる。

 それを率いるリターナーの指導者バナンが、民間人であろうと戦争を勝利に導けるかもしれない存在ティナに協力を呼びかけるのは、彼の立場的に見て自然な事なのだから・・・。

 

(ま、それでも尚、良心の呵責を感じれる辺りが本来なら戦争に向かない人って事なんでしょうけどねー)

 

 セレニアはバナンへの評価を『本来の優しさを押し殺してでも帝国と戦う戦記物の主人公タイプ』と位置づけて、先ほどよりさらに苦手意識が強くなるのを実感させられてしまい、自分はホントに碌でなしな性格の持ち主なんだなーと、つくづく思う。

 

 彼女の価値観では戦争中に、戦えない味方を抱え込むことは負担でしかなく、最強だろうと最弱だろうと自分で自分の身を守ることすら出来ない無能は、味方を疲弊させて敵を有利にする、役立たずよりも性質が悪い邪魔者以外の何物でもない。

 戦う力があるなら戦うことを強要するのが、レジスタンス側の指導者としては正しい主張なのだと言う事実を、彼女は知っていた。伊達に『幼女戦記』は見てないのである。

 

(・・・私って『アルタイル』のムハンマド君よりも、帝国の宰相さんの方と相性良さそうな気がしてきましたね・・・。『勝国』の世界に生まれ変わらなくてマジ良かったです)

 

 そんな感想を抱く偽レニア。本気で碌でもない転生者だった。

 

 ・・・とは言え、彼女の感想は感想で間違ってはいない。

 ティナの『強さ』がどんなに優しくて人類愛に満ちていて、正しくて尊かろうとも、戦うための組織リターナーが求めている強さは『敵と戦う力』であるのが正しい在り方なので、今のティナは求められていない。勝利に貢献できる戦力としての彼女以外を、現状のリターナーは求めるだけの余裕が得られていないのだから仕方がないのだ。

 

 無論、それを断る権利がティナの側には存在している。リターナーの主張を否定して、「戦争は悲惨だからやめよう」と叫ぶのも彼女の自由だろう。

 だからと言って、それでやめてやる理由はリターナーの側にはなく、帝国にはもっと無い。

 敵が戦うのをやめたからと言って、相手までそれに付き合って止めてやる義理は戦争という人権無視の代名詞な行為の中には存在できないのだ。

 戦争を止めるのも始めるのも行うのも、全ては利害。・・・そう言うものなのだ、戦争という本当の意味での邪悪の産物は。それを止めようと思ったら、相手に戦争を続けることが得にならない状態に持って行くしか他にない。

 本当に碌でもないのはセレニア以上に戦争なのだから、道理もへったくれも真理だって関係ないのだ、戦争には。

 

(・・・つくづく嫌なものですねぇ~。戦争って言うものも、それをこうまで理屈で納得して受け入れられてしまう自分自身も・・・)

 

 オリジナルが持つ自己嫌悪癖をわずかに発症させながらセレニアは、傷心のティナを慰めるメンバーの1人に参加する。

 

 やがてティナが泣き疲れて「休みたい・・・」と言い出すまで、慰め会は続けられた・・・・・・。

 

 

 

「――おや?」

 

 セレニアはリターナー本部の中にある物置代わりの部屋から出てきて、見知った人が洞窟の入り口から中に入ってきたのを見て小首をかしげた。

 

 ティナである。

 

 本部内の個室を借りて休んでいたはずの彼女がどうして、外から入ってきたのか分からなくて少しだけ考え、「まぁ、誰がどう見ても悩んでる顔してますし話しかけてみますか」と結論づけて動き出す。

 

 傷ついてるみたいだから放っておく、と言う選択肢を彼女はあまり持ってない。

 放っておいて時間が解決してくれる問題は『世の中の全ての問題』に当てはまり、言い出したら切りが無いからだ。

 

 この世に時間が解決してくれない問題は存在しない。あらゆる痛みと苦痛は時間と共に劣化させられて風化していく。どれ程苦しかった辛い思い出であろうとも時間という名の強制力は、全ての苦悩をいずれは無意味化させてしまう。

 

 例外があるとすれば、それは既に終わってしまっている人の悩みだけだ。

 「自分は死ぬしかない」と自分自身で未来を決めてしまった人の悩みだけは、時と共に痛みではなく空虚さだけが増していき、やがて生きていることこそが無意味化してどうでも良くなり、死んでしまう。

 心は最初に決めた時点で死んでいるから痛みはなく、苦しみはなく、ただ死ぬまでのカウントダウンとしてのみ余生がある。生きているのではなくて、死ぬまでの準備期間だけが残されている。

 

 まぁ、要するによく言われることとして「死にたい死にたい」とか言いまくってる人が本当に自殺することなんてあんまりなくて、なにも言わなくなり他人の悩みを漏らさなくなった人の方がホントはヤバいと言う、よくあるアレである。

 口に出せてる間は、言える相手がいると言うことだ。良かったじゃないですか。

 私なんて、愚痴さえ聞いてくれる相手がいたことありませんでしたよ? たまに本音漏らすとドン引きされたりしましたし・・・・・・

 

「・・・??」

 

 なんか、どっかから異なる時空にいる自分と似た声の持ち主が愚痴ってた気がしたけど別にいっか。今はティナさんの方が優先順位高いですしねぇ~♪ ・・・と、男から女になって日が浅い(と本人は思っている)偽レニアはわずかながらの下心と一緒にルンルン気分でティナの元へと走りよって話しかける。

 

「ティーナーさん! どうされたんですか? 何かスッゴく暗い顔してますよ?」

「あ・・・セレニア・・・・・・」

 

 ティナは無理していると子供でもわかる笑顔を無理して浮かべ、気を遣ってくれたセレニアに気を遣いながら今自分がしてきたことを短く語って聞かせた。「バナン様の言葉に答えを返すことが、どうしても出来なかったの・・・」と。

 

 

「ロックは私に教えてくれたの・・・『大事な人を帝国に奪われて、自分と同じ人を増やしたくないからリターナーに入った』って――」

 

「マッシュは笑って私を励ましてくれた・・・『兄貴を信じて間違ってたことはないからティナも信じて大丈夫だ』って――」

 

「エドガーは委ねてくれた・・・『自分たちのやり方を押しつけるだけなのは帝国と同じだから、自分で決めて欲しい』って――」

 

「でも――――」

 

 

「でも私には、失うぐらいなら誰かを傷つけたいと思えるほど大事な人がいない・・・・・・

 誰かを信じて辛いことが待ってた時に、恨まずにいられる自分を信じることが出来ない・・・・・・

 誰かに操られて大勢の人を傷つけた私が選んだことで、また誰かを傷つけてしまうかもしれない選択肢なんで選べない・・・・・・

 私には、誰かにとっての希望として縋られるようになるのが何だか怖くて、怖くて、仕方がないの・・・・・・」

 

 

 ティナの話を聞き終えてセレニアは、「ふむ・・・」と少しだけ考える。

 

 どうやらティナと周囲の人たちとの間には、認識の差が思ったより広く存在していたようだった。気遣いが気遣いとして正しく伝わっていながらも、相手の心情が予想以上に広範にわたって広がりを見せており、発言者の視界を超越してしまっている。

 

 器の広さに、入れられた中身が見合ってない。と言うべきなのだろうか?

 全体を通してみた場合、仲間たちそれぞれの視点は各個の主観に基づく誠実さと優しさに満ちたものではあったが、ティナのように全員1人1人と向き合って話をしてきて思いを伝え合ったとは言い切れそうにない個人で完結する世界観の限界が見え隠れしている。

 

 

 ――では、自分は?

 セレニアという名前らしい、異世界から放逐されてきた役立たずの屁理屈現代日本人は、今のティナの話を聞いて何を思った? 何を言いたい? 何を言うべきだと貴女は思う?

 

 

 ――そんなことは最初から決まっている。

 

 

「・・・これは私の思い出した話であって、固有名詞に一部違いが出ていますので元が同じものなのか、はたまた別のものなのかは断言できないことを前提にして聞いて頂きたいのですけど・・・」

「・・・・・・うん」

「私の知るお話の中にも、バナンさんが言われていたのと似たような『箱の話』がありました。

 開けてしまったことで中に封じられていた沢山の『災厄』たちが世に放たれてしまい、慌てて閉めた箱の中に残っていたのは『たった1つの希望だけだった』という趣旨でのお話です」

「・・・・・・やっぱり・・・」

「ですが」

 

 どこか落胆しかけた様に見えたティナに、セレニアはすかさず“続き”を付け足す。

 

「私の知るそのお話には続きがあるんですよね。箱に残されていた最後の希望。・・・それは実は希望などではなく、最後に残されていた最悪の災厄だったのだとするお話なんですよ」

「・・・え?」

 

 キョトンとするティナ。頭は良くても、純朴で優しい彼女の頭では今の話は理解できない。もう少し噛み砕いて細かく説明する必要があるだろう。セレニアはそう判断した。

 

「考えてみれば当たり前のことでしてね。災厄ばかり詰まっていた箱の中に、たった1つだけ希望が混じっているなんてどう考えてもおかしい。全て1つ残らず災厄だったという方が納得いきますし筋も通っているのですから当然です。

 ――とは言え、その箱に残されていたものが希望だったというのも嘘じゃないのが面倒なんですよね~・・・」

「??? 災厄なのに、希望なの?」

「はい。――まぁ、より正しくは『箱の中に入っている間は希望』で、箱から外に出されたら最悪に災厄になるって言うものなんですけど・・・」

「??? ・・・よく、わからない・・・」

「でしょうねぇ~」

 

 ニヘラと、締まりのない笑顔を浮かべて答えた後、偽物のセレニア偽レニアはオリジナルと同じように淡々と大したことのないような口調で其れについて話し出す。

 

 どう受け取るかは相手の自由だと突き放すかのように。

 どう受け取ることで何を想起するかは聞き手側の勝手でしかないと責めるかのように。

 

 

「その災厄が持つ名は『予兆』。これから起きること、体験すること、その過程で自分が何を得て、何を感じ、何を失ってしまうのかが全て『何もしてない時点で分かってしまう』と言う後出しジャンケンを強制されるような『結果ありき』の人生を生きさせられる・・・というものでした」

「それは・・・災厄なの? だって、これから先に何が起きるか分かるなら怖い思いをしなくて済むんじゃ・・・」

「そうですかね? これから先何を選んでも『怖いことしかない未来が待っている可能性』もあるかもしれませんが、それでも?」

「!!! ・・・そ、それは・・・」

「そう言うことなんですよ、ティナさん」

 

 軽く笑い飛ばし、偽レニアはオリジナルには浮かべることの出来ないシニカルな表情を浮かべてハッキリと宣言する。

 希望の正体を。其れの意味するところを。良いだけのものなど世界に実在しないのだとする現実を、ティナという現実を生きなければならない生きている女の子に伝えるために。

 

「これから先何が待っていようとも、其れを知らないから人は生きていくことが出来る。絶望して死ぬことが出来る。生にしがみついて死ぬことが怖くなりもする。

 今の先には『希望の未来』がきっとあるはずと信じるからこそ、今の絶望的な戦いに身を投じることが出来る。戦うことが出来る。人を傷つけることも、命をかけることも、命がけで誰かの家族を殺すことだって出来てしまう。

 それらは全部『希望のせい』だとも言えますし、『希望があるおかげで』より良い明日を信じて今を生きられるとも言える。死ぬかもしれない明日を信じて、絶望の今を生き抜こうと努力することが出来るとも言えるのです」

 

 

「『どうせ上手くはずないから』と、人は言うけど『やる前から上手くいくことが分かっていること』って何ですか? そんなもの実在するのですか?

 ありはしませんよ、そんなものはね。

 挑戦する前から成功が約束されてるものなんてない。当然です、成功すると信じて挑むから挑戦は挑戦たり得るのですからね。

 最初から『成功することが分かっている挑戦』なんて、ただの作業です。挑むことに勇気も度胸も必要ない。欲しいものが手に入ると分かっているからやる、利害損得だけがそこにはある」

 

「『失敗するかもしれない可能性』と『上手くいくかもしれない可能性』。

 『絶望の未来』と『光溢れる未来』。それらは全て結果でしかない。

 結果が出てから『ほら、やっぱりこうなったでしょ?』と言うぐらいなら私でも出来る。

 ――その程度のものなんです、可能性なんて。『希望も絶望』も、所詮は人が今を死なないで生きていくために、絶望的な戦いに挑むときに『この戦いに勝てば幸福な未来が待っている』と信じて臨むのに使うだけのお守りでしかない。

 可能性が無限大なら良い方だけでなく、悪い方にだって無限に続いているのは当然のことでしょう? なのに人が良い結果に続く方だけを『希望』と呼んで賞賛し、悪い方には『絶望』と名付けて忌み嫌うのはそういうことなんですよ。きっとね」

 

「そん・・・な・・・・・・」

 

 あまりにも嫌すぎる、バナンたちが自分に求めていた『希望の正体』にティナは愕然とせざるを得ない。

 だって、それは本当に『災厄でしかない』としか思えなかったから。

 

 自分の選択で、そこまで多くの人が死ぬかもしれない戦いに身を投じる可能性なんて、世界を救える“かもしれない”だけで大勢の人が苦しんだり死ぬかもしれない戦いに挑むなんて、そんなの・・・間違ってるとしか思えなかったから・・・・・・。

 

 

「そうかもしれません。そうなるかもしれません。そうならないかもしれません。所詮はすべて可能性・・・あり得る未来の1つで、可能性でしかない『未来の話に過ぎぬ問題』です。

 今の私たちにとっては知る術のない夢物語でしかない、空想上の『仮定』の1つ。

 ティナさんが希望になることを受け入れたら世界は救われるのかもしれませんし、逆に滅びるかもしれません。

 帝国を倒した後、野心に目覚めたバナンさんがティナさんの力を使って世界征服に乗り出すかもしれません。ティナさん自身が欲望に目覚める可能性だってありますし、戦いの中でロックさんやエドガーさんや私が死んじゃって絶望のあまり『こんな世界、滅んじゃった方がいい!』と思う未来だって可能性の1つではあるでしょ?」

 

 そこまでシリアス顔で話していたセレニアが、そこで急に表情を変えて暗い顔をしているティナに、おどけた口調でこう言った。

 

「でも、逆に『な~んにも起きない可能性』だってあるんです」

「・・・は?」

 

 いきなりの話題転換について行けず。ティナは少しだけ間抜け面をさらしてしまう。

 美少女はこんな顔してても可愛いなぁ~とか下心丸出しで思いながら、偽レニアは自分にとって当たり前の認識を、この世界に生きる人たちにとってはたぶん常識外れすぎるんだろうなーと思わないでもない仮説をテキトーな口調と表情で平然と言ってのける。

 

 

「バナンさんたちが過大評価しているだけで、実際にはティナさんだけが使える魔法は大したものではないのかもしれません。スゴい破壊の力を秘めてるって言われてるだけで、実際には魔導の力とな~んにも関係してないかもしれませんし、ぜーんぜん別の論理で動いている代物なのかもしれません。研究者たちが皆で勘違いしてバカなことを大真面目にやってるだけな可能性だって0じゃあない。

 だって魔法については『ほとんど何にも知られてない』そうですからね。勘違いや思い込みで別のものを魔法と呼んでる可能性なんて無限大なのが当たり前でしょう?

 専門家だから間違えないなんて、そんなもの理屈にさえなってやしません。だって専門家になりさえすれば間違えないないなら、失敗する研究なんて無くなってるはずですからね。

 そんな都合のいい妄想は、『そういうことにして楽したいだけ』な人たちにでもやらせておけばそれで宜しい」

「・・・・・・」

 

 目をパチクリさせて、偽レニアの長広舌をただ聞くしかないティナ・ランフォード18才。

 正直、この話を聞くには幼すぎる純粋な心の持ち主でした・・・・・・。

 つか、セレニアよ。お前一体どういう生活送ったら現代日本でそんな風に育つものなんだ? 

 

「長くなっちゃいましたけど、ティナさんが何選んだって何がどうなるとか決まる訳でもないので適当に選んじゃっていいと思いますよ? 自分で選ぶのが出来ない場合には、そこら辺に落ちてる棒でも拾って『右側に倒れたら希望になろう』とか言うのだって全然ありですし」

「そ、そんな無責任すぎること・・・私、できない・・・」

「なんでです? どうせ自分では選ぶの怖いんでしょう? 運に任せるのも神様の言うとおりなのも、結局は同じことですよ? 自分以外に決定の責任を押しつけていることに違いは無い」

「・・・・・・」

「別に責任感ある良い選択をしたからって、いい結果が来ると決まってる訳じゃありませんしねぇ~。むしろ、そう決まってるなら帝国がそうしない理由が理解不能ですし」

「・・・・・・」

「適当でいいと思いますよ? 私だったらの場合は、ですけどね。未来の可能性なんかのために命かけるのも、かけさせるのも馬鹿らしいと思うなら『お前らバカか?』と言ってやれば良いですし、『バカバカしいけどロックさんたちに死んで欲しくないから手を貸してやる、感謝しろ』だって私的には全然ありでOKですし。

 向こうから頼んできてる訳ですからね。横柄な態度で上から目線で了承してあげたって構やしないのですよ。ムカつくなら『じゃあお前がやれ』で一向に問題なしなのです。

 問題視する人たちは『優れた人間は清廉潔白であるべきじゃないとダメだ』とか言い出す、優れてない人たちなのですから、ただの嫉妬でジェラシーでヒガミ根性です。自分に出来ないこと出来る人たちから上から目線で物言われるとムカつくから『そう言うこと』にしているだけですので、お気になさらず適当に・・・ね?」

「・・・・・・」

 

 言うだけ言うとセレニアは「あ! そう言えば私、捕まえたバルガスさんが逃げ出してないか見に行こうと思って忘れてました! それじゃティナさんアデュー!」と、走って逃げていってしまった。

 

 ・・・完全に言いたいことだけ言って逃げ出す詭弁家のやり口である。さすがは保身を覚えた偽物。やることが小狡い。

 

「―――ふふっ」

 

 ・・・でも、ティナの心は不思議と軽くなっていた。そう言う考え方もあるのだと知れただけでも、ほんの少しだけだけど救われた気がした。

 

 セレニアの言うことが正しい訳じゃないことぐらい記憶喪失の自分にだって分かるけど、言ってたことの全てが全て間違いじゃないことだって分かってる。

 

 あれがセレニアなりの『正しさ』なんだ。

 

 ロックが自分の戦う理由を教えてくれたように。マッシュがエドガーを信じる理由を教えてくれたように。エドガーが自分の誠実さと公平さを貫いたのと同じように。追い詰められたリターナーのメンバーが自分に戦ってくれることを求めてきたのと皆一緒。同じ物。

 どれもこれも全部、自分の都合を優先したエゴでしかないし、自分なりに精一杯の願いを口にした『お願い』でしかない。

 

 皆がそうあって欲しいと望む『ティナの形』。

 『ティナにそうあって欲しい』と願った、皆のエゴ。

 皆の中にある『理想のティナ』。

 皆違う物だけど、どれも全部彼らなりの誠実さで抱いた『ティナのイメージ』

 皆それぞれに『こう使ってくれたら嬉しい』と願う、ティナの力の使い方と生き方がある。

 

 だけどそこにティナはいない。ティナ自身の意思は介在してない。全部ティナ以外が抱いて望んだ『理想のティナ』がいるだけで、現実のティナは『今ここにいる1人だけ』だ。

 

 おそらくセレニアの言うことは、一部が正しい。

 何をやっても、どちらを選んでも『誰かのために誰かと戦うことを選択した』ら誰かが傷つく。それが帝国軍かリターナーの違いがあるだけなんだろう。

 ティナとしてはどちらとも傷ついて欲しくないし、傷つけ合って欲しくもない。

 

 だけど、自分が嫌だと言ってもロックは彼の大事だった人のために戦う道を選ぶだろう。 エドガーは、その誠実さ故に一度選んだ戦う道から逃げることは絶対しないだろう。

 マッシュは、エドガーが戦う道を選び続ける限り信じてついて行く道を共に進むだろう。

 

 それぞれの道、それぞれの正義と正しさと理由。それにティナは口出しすることは出来ても、口出しすることしか出来ない。彼らの大事な理由を奪う権利と資格はティナには無いし、その力も無い。

 魔法は強大な力で世界とリターナーと皆を救えるかもしれないけど、皆の心をティナの思うように変える力なんて少しも無い。

 

 

(・・・なんだ。魔法なんて、それぐらいのことも出来ないモノなんだ・・・)

 

 ティナはおかしくなって1人笑う。入り口の近くからこちらを遠巻きに伺っていたリターナーの兵士が訝しそうな顔をしたのに気づいたけど、それでも笑いが抑えられない。

 

 魔法はスゴい力とかいわれてる割に大したことがなかった。

 自分はロックの優しさに救われて、エドガーの誠実さに守られて、マッシュの大きな体に安心させられた。魔法は壊すことしか人に影響を与えられてない。

 

 その事をセレニアは言葉とお話だけで伝えてくれた。判らせてくれた。魔法は特別な力であっても『特別なだけでしかない』事実を理解させてくれた。

 

 

 だけど、でも。

 何の役にも立たない、誰の力にもなれない力じゃない―――。

 

 

 

 

「・・・どうだ? あらためて考えて、答えは出たかの?

 我々の最後に残された希望になってくれるか?」

「いいえ」

 

 先ほどと同じく本部の外で自分を待ち続けていたバナンにティナは、改めてそう言った。

 自分には『皆の希望になることは出来ない』と。

 

「そうか・・・・・・」

「でも――」

 

 項垂れかけたバナンにティナは、言葉の『続き』を投げかける。

 

「私はロックに死んで欲しくないです」

 

 ハッとしてバナンは顔を上げる。

 彼の瞳に映るのは、先ほどまでとは打って変わって強い『覚悟』を秘めた少女の瞳。

 自分とは異なる、だが確かにどこかで似た物を抱いていたことのある過去を彷彿とさせてくれる不思議な感情を湛えた緑色の瞳で彼のことを見つめながら少女は続ける。

 

「ロックだけじゃありません。エドガーにもマッシュにもセレニアにも――出来ることならバナン様やリターナーの人達にだって死んで欲しくないと思います」

「・・・・・・」

「でも、みんなが未来を信じて戦うのを止める権利は私にはありません。平和な未来を信じて戦うみんなの可能性を信じる心を否定する資格なんて、過去を持たない私にあるはずがないんです。

 ・・・だからせめて皆の側で、皆が傷つかないよう手伝いたい・・・。少しでも傷つく人が減らせるように、戦争で怖い思いをする人達が1人でも少なく出来るように私はここにいて『私の願いのために』戦いたいと思います」

「!!!!」

「・・・自分勝手な理由だと言うことは判っています。それでも私が戦うための理由はそれしかないんだと思いました。

 バナン様、こんな私の力でもリターナーは必要としてくれますか・・・・・・?」

 

 少女の瞳を見て、言葉を聞いて、バナンは忘れていたことを思い出す。初心に立ち返る。

 ・・・ああ、なんだ。自分はこんな当たり前のことを忘れていたのか、と―――。

 

 

(『老いて子に教えられる』とは、この事だな・・・。戦争を止めること、平和な世界に戻すこと。そればかりを考えて最初に抱いた気持ちを今の今まで忘れていたとは、我ながら情けない限りだ・・・)

 

 そして昔を思い出す。

 バナンとて、リターナーとて、最初から帝国を相手に戦えていた訳ではない。最初から希有壮大な世界救済を目指せる組織だった訳でもない。

 

 最初はバナン1人だけから始まった。戦争で家族を失って、戦火に苦しむ人達を見て、こんな悲しむ姿は見たくないと悲しみを覚え、泣き出す子供の涙に「こんな子供を増やしたくない、減らしたい」と、心から願ったところからリターナーは始まっている。

 どんな組織だってきっとそうだ。誰もが最初は1人で初めて、同じ道を歩んでくれる仲間たちが増えていったからこそ大きなことが出来るようになり、大きな目標を抱けるようになっていく。

 

 ――だが、いつしか自分とリターナーは変わってきてしまった。

 仲間を失う度、死んでいく同士の願いと希望を託される度、バナンの中で戦争への憎しみと平和に対する使命感が強さを増していくのを実感させられていった。

 戦争を終わらせるためなら、平和を取り戻すためなら、我が身など惜しくはないと。戦争の罪と悪とを自分1人で背負って終わらせてやるのだと、壮絶な覚悟を決めるようになっていってしまった。

 

 最初に子供たちが泣いてすがりつき、見捨てることさえ出来ずに同士を犠牲にしてしまった弱い心の持ち主バナンはもういない。

 代わりとして、泣いている子供を見ても、同士たちのため平和のため歯を食いしばって見捨ててしまうかもしれない自分がいる・・・。

 

 戦争に勝つためだ、仕方がない。死んでしまっては何にもならない。それは紛れもない事実なのだ。仕方がない。

 

 ――だが自分は、自分たちは、自分の信じるリターナーの仲間たちは、そこまで追い詰められて切羽詰まっているのだろうか? 

 

 年端もいかない無垢なる少女を戦場へと連れだし、『特別な力を持っているから』と世界全体の運命を背負わせてしまうほどに、役立たずと成り果ててしまっていたであろうか?

 

 見るからに意志の弱い少女を使命で縛り、望んで得た訳でもない力を振るわせて、帝国軍兵士五十人以上を皆殺しにするかもしれない道を選んで欲しいと願い出るほどに?

 

 かつて自分たちが戦争から救いたいと願った、戦争の被害者である子供たちを『戦争に勝つための兵器』となって戦って欲しいと心の底から縋ってしまうほどに?

 

 

「・・・目が覚めたわい。まさか、こんなに簡単なことを思い出せぬようになっていたとは、歳は取りたくないものよの」

「バナン様・・・?」

「ティナよ。ワシにも立場というものがある。誰かの子供たちに戦うよう促して死地へと赴かせて散らせていった者として、果たさなければならぬ責務がある。通さなければならぬ筋がある。

 故にお主に頭を下げることは出来ぬが・・・・・・それでも、これだけは言わせてくれはすまいか?

 ――――ありがとう」

「え? え?え?」

 

 突然の奇行に訳が分からずワタワタするティナに、バナンは朗らかに笑いかける。

 昼も夜もなく世界の平和のため戦い続けてきたせいで、慢性的な寝不足になっていた疲れが一挙に吹き飛んでいってしまったかのような晴れやかな笑みを浮かべてこう告げた。

 

「皆を呼び集めてくれまいか? いい考えがあるんじゃ。それを皆に聞いてもらって、どう思うのか意見を聞いてみたい。

 帝国に勝つためではなく、世界を平和にするための方法として」

 

 そして、空を見上げて、其処にいて待っていてくれるはずの友人たちにも心の中でソッと語りかける。

 

(見ておれよ、戦友たち。ワシは必ずやお前たちに誓った夢を叶えてみせる。お主らと語り合い、夢見た世界を実現させてみせる。

 お主たちの貫き通したやり方で、お主たちが命がけで守り抜いたものを守りながら、お主たちのためにもワシは戦う。お主らの犠牲を結果論などで正当化せずとも美談となれるような綺麗事を貫き通してな。

 ――じゃから、それが成ったときには気持ちよく迎えてくれよ? 我が心の友たちよ・・・)

 

 遠くから風が吹き、バナンの頬を優しく撫で上げる。

 それはただの自然風でしかなかったが、バナンは亡き戦友たちが自分の反省を由として笑いかけてくれたものだと確信した。

 

 真実である必要はどこにも無い。所詮は自分の心の中だけで思った解釈だ。他人の作る理論に振り回されてやる理由はどこにもない。

 

 自己満足、そう呼ぶ者もいるだろう。

 それでも良いと、バナンは思う。

 

 

 人間1人が抱く感想など、心など、解釈など、使命など。

 所詮はぜんぶ同じもの。

 

 自分だけが『そうだ』と信じる、自己満足に過ぎないのだから・・・・・・・・・。

 

 

つづく

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