FINAL FANTASY Ⅵ~偽レニア~ 作:ひきがやもとまち
立ち位置としては幕間に位置し、バルガスさんが原作と異なる道を歩む切っ掛けになる理由が描かれております。
リターナー本部にある貨物室の中で、バルガスは1人縄で縛られ囚われていた。
あの後、マッシュと戦って雪男に敗れた彼は縄で縛られ、弟弟子に担がれた体勢で目を覚ました。
復讐戦を挑むことも、裏をかいて騙し討ちすることも可能ではあったのだが、其れをしなかったのには理由がある。
――自分が修行の厳しさ故に習得できなかった亡父の得意技《爆裂拳》。それを、ただの拳打と変わらないほどの頻度で繰り出しモンスターを屠りまくっているマッシュの姿を目撃させられ、否応もなく弟弟子と自分との間に開いた力の差を実感させられまくり自信を喪失させられたのである。
改めて挑んでも負けて恥じかく姿しか想像できないし、今いる本部から逃げ出したところですぐ追いつかれて逆戻りか、あるいは今度こそホントに殺されて終わりだ。
彼とて罪を犯して逃げ続けていた以上、死にたい訳ではないし殺されたい訳でもない。あくまで生意気な弟弟子に自慢の我流奥義を叩き込んで負かして這いつくばらせて勝ち誇りながら殺して自尊心を満足させたかっただけであって、何も本気で命をかけた死闘を演じたかった訳ではない。
そんな格闘家らしい覚悟があるなら真面目に修行に打ち込んで超える方がずっと楽だし、気持ちいいし。
・・・要するに彼は、マッシュが怖いから捕まったまま大人しくしているのである。逃げ出すにしても本部からマッシュがいなくなるのを待ってるだけなのである。
心底からクズで小物な考え方なんだけど、怠けていたせいで父から発破かけられたら殺しちゃったり、嫉妬から弟弟子を殺して俺こそサイキョー!とか言い出したがる卑劣漢に立派な考え方求める方が無理なので、まぁ、小物なんて所詮こんなものと思っておいて頂こう。
そうして本部貨物室で大人しくジッとしながら、マッシュが出て行く気配を待ち続けている彼なのだが。
「・・・・・・・・・」
――ぶっちゃけ、暇を持て余してたりする。
やることないし、大人しくしてなきゃバレて警戒心刺激するだけかもしれないし。
“精神集中の修行でも久しぶりにやってみっかなー。超苦手な修行だけど・・・”
暇すぎて、そんなことを考え始めてたとき、部屋の扉が開いて外から一つの人影が入ってきた。
小さな、銀色の髪を持つ少女の姿をした影だった。セレニアの偽物、偽レニアである。
「ふんっ、お前かよ」
不機嫌そうに鼻で笑いながら、内心では安心してたバルガス。
・・・マッシュでなくて本当に良かったぁ~。・・・小物は一度負けると、負かした相手を異常に意識する習性があると言う。
その真偽はさておき、この少女はその点において理想的なまでに無価値な脅威だった。ザコだから。
自分が勝てない相手からは逃げだし、確実に勝てると確信できる相手には強く出る。それが小物格闘家バルガスクオリティ-。
「何の用だ? まさか俺様に説教でもしに来たんじゃあるまいな?」
「えーとぉ・・・」
ポリポリと頬をかく姿にバルガスは「やはりか」と、内心では嘲りと共にせせら笑う。
大方、弟弟子への嫉妬から父を殺した自分に反省でも促しに来たんだろう。あるいはマッシュに謝罪し、罪を償うよう説き伏せに来たのかもしれない。
――甘い、甘い。甘すぎるぜ。俺様を誰だと思ってやがるんだ?
父殺しの外道格闘家バルガス様が、たかだか世間知らずのガキ1人が説教たれたぐらいで改心するとでも思ってやがるのか?
困ったような顔で頬をかいていたセレニアは、やがて意を決したように決然と顔を上げると、バルガスの顔をシッカリと見つめてこう言ってきたのだった。
「いえ、ティナさんが泣き疲れて寝てしまい暇してましたので、私なんかの話だろうと聞くしかない立場の弱い虜囚さんに一方的な話でもして暇を潰そうかなと」
「最低だな! テメェはよぅ!!」
縛られたままの外道格闘家、バルガス激怒。
当然の反応だったけれども。
「えー、いいじゃないですかよぉ~? どうせ逃げ出せたとしても事情があって逃げ出せなくて大人しくしてるしかないんでしょー? ちょっとぐらい私の話を黙って聞かされるぐらい付き合ってくださいよー」
「こ、このクソガキ・・・・・・っ」
歯ぎしりバルガス。
彼から見て取るに足らない強さしか持たないセレニアだが、それでもセレニアはセレニアだ。見ている部分はちゃんと見てる。
彼の強さが縄ぐらい脅威にならないほどだと知った上で、それでも逃げ出してない現状から大凡の状況を把握してくれまくってやがる。性質悪ぃっ!!
「チッ! 好きにしやがれ!」
「ご親切にどーも♪」
気楽な口調で答えて、バルガスの横に「よいしょっと」と、チョコンと座り込む偽レニア。 ・・・相手が手を出して来れないと分かった上でとは言え、大した度胸である。その点だけはバルガスも相手を評価しないでもない。
「・・・で? いったい何の話をしようってんだ?」
つまらない話だったら、全力でヤジ飛ばしまくってやると小物臭く考えているバルガスの前でセレニアは。
「そうですねぇー・・・では、昔話でもしましょうか?」
「はぁ~? 昔話だぁ?」
「ええ、そう昔話です。所謂ひとつのお伽話」
「・・・・・・そりゃあまた随分と・・・」
――露骨な話だな。バルガスはそう思ったし、そう言った。
よくある話だ。遠回しに関係ない内容の昔話を聞かせていって、最終的には説教する相手の抱える問題点と関連づけてくる説教パターンなんて。
そう言う意図を込めてバルガスは言ったのだが、相手はただ笑っただけで答えずに「むか~し昔のお話です・・・」と、勝手に話し語りを始めてしまう。
付き合うしかないバルガスとしては相手の反応に見透かされているのを感じて不愉快には成ったが、耐えるしかない。人質など取って失敗したら一巻の終わりなのである。
勝てない相手から逃げるときには慎重に。それもまた小物のバルガスクオリティー。
「あるところの王国に、長い間一緒に修行してきた親友の才能に嫉妬して、陥れようと画策して敗北した、引き立て役のライバルさんがおりました」
「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇっい!?」
バルガス、大声で制止。流石にこれは予想してない展開だったですからね。仕方ありません。
露骨どころの騒ぎじゃありません、意図を隠す気全然ないです。ここまで露骨に「これから説教しますよ?」と相手に伝えた上で始まる説教というのも古今希でしょう。
まぁ、説教する側のセレニアにとってはどうでも良いことではあったのだけれども・・・・・・。
「・・・うるさいですねぇ。黙って聞いているしかない人は、黙って聞いていなさいよ。弟弟子に才能で負けたと知っただけで逃げ出せなくなってる、負け犬のくせに」
「ぐ。て、てめぇぇぇぇ・・・・・・っっ」
バルガス、歯嚙み。言い返せないし、手も出せないから地味に辛い。
てゆーか、偽レニアも結構容赦がないし徹底していた。
敗れた敵に情けをかけるのは政治的必要性があるからに過ぎない。誰も見てないところでおこなう偽善は自己満足だ、とする基本を徹底遵守する偽レニアは保身を覚えたセレニアという名の小物の名前です。
・・・こうしてセレニアは語り出す。前世で見聞きした物語を。
前世でプレイしたゲームの中で、特に印象深く考えさせられた、とある作品の終盤についてを。
「それは、邪悪な魔王が実在すると言われた国でのお話です。
邪悪な心を持ち、邪悪な力を持ち、邪悪な姿を持った、全てを憎む魔王がいる国でのお話です。
その国には人類の敵たる魔王がいる訳ですから、当然のように魔王を倒す正義の味方の勇者様がおりました。
彼は強く、正しく、美しく、武術大会で優勝し、勇者の地位とお姫様のお婿様の地位を与えられた、絵に描いたような選ばれし者、勇者様でした。
ある時、王国に魔王が現れてお姫様をさらっていってしまいました。
勇者様は魔王を倒し、お姫様を救い出すため旅に出て、仲間たちと一緒に冒険を繰り広げます。
やがて勇者は、魔王がいると言われる魔王山へと到着し、その山頂にある頂へと登り詰めました。
ですが――――――――――――」
「―――――ですが、そこに魔王の姿はどこにもありませんでした。
そこにいたのは、嫉妬による憎しみで勇者を憎悪する親友のライバルだけでした。
勇者様を陥れるために画策して成功しつつあった、でも人から見たら単なるコンプレックスでしかない感情に突き動かされてただけの“普通の人間”しかいなかったのです。
魔王は魔王山にいませんでした。世界のどこにもいませんでした。いたのは人間だけでした。
―――全てを憎む邪悪な魔王など最初から世界のどこにも存在せず、取るに足らない小さな憎しみの積み重ねにより勇者を破滅させた、人間たちの『憎しみ』だけが魔王のいるべき山にあっただけだったのです」
「真実を知った勇者は、勇者であることをやめました。
親友に裏切られ、人類に裏切られ、魔王がいるから必要になる勇者という使命にさえも裏切られた勇者に、信じるものなど何一つ残されてはいませんでした。信じれるものなど何一つ残ってなどいなかったのです。
勇者は魔王になることを選びました。魔王がいないなら自分が魔王になって生きる価値のない人類を滅ぼしてやればいいと思ったからです。
魔王になった彼は『敗北』を憎むようになりました。
負けさえしなければ、勝ってさえいれば、そこに座っていたのは彼かもしれないと思える人達に手を貸すことで『結果』を覆そうと試みるようになりました。
『負けたから悪にされた』のだと信じる勇者は、『勝つことで正しかったことを証明する』魔王として生きることを決意したのです」
「人類を憎む絶対悪の魔王となった勇者に、優しさなんて残っていません。
自分が守ってやろうとしていた人類は、1人残らず皆殺しです。
国中の人間を抹殺して、永劫に苦しみ続けられるよう暗い洞窟の中へ魂をひとつ残らず閉じ込めてしまいました。
やがて魔王となった勇者は、魔王として別世界の勇者たちの手で滅ぼされます。
「誰しも魔王になりえるのだ」と言い残し、人々のささやかな憎しみによって魔王に成り果てた勇者は、永久の眠りについたのです。
―――ですが、一度殺された人達が蘇ることはありません。魔王となった勇者に殺された人達は、殺されたままなのです。
彼らは今も、この世のどこかにいると言われています。
あの世にも行けず、天国どころか地獄にも行けないまま永劫に、この世界のどこかにある暗い場所に囚われながら後悔し続けているのだと言われています。
自分たちのささやかな憎しみを。小さな憎しみを後悔し、憎み続けているのかもしれない。
自分たちの憎しみにより魔王に作り替えてしまった勇者に殺された人達は、自分たちを殺した自分たちの憎しみを、今も憎み続けているのかもしれません・・・・・・・・・おしまい」
「・・・・・・・・・」
バルガスは黙っていた。黙って聞いていた。
・・・・・・黙って聞いていることしか出来ない話だったから・・・・・・。
「それ絶対昔話じゃねぇだろ、重すぎるから」とか、「そんな昔話が実在してたら子供泣くだろ!」とか、色々言いたいことが無いこともなかったのだが、そんなことは一先ず置いといて考えさせられるに足る話ではあったのだから・・・・・・。
――自分1人の嫉妬から人類絶滅、国家滅亡。
・・・流石にそこまで考えたことないし、ある訳ないし、あったら医者に連れてけと本気で思うけど、考えてみればあり得ない可能性では無い。最初の一手がどうしようも無く小物な理由で行われたつまらない悪事であろうとも、災厄につながる第一歩を踏み出させるには十分すぎる可能性は常に存在してるのだ。
彼とて、父殺しに手を染めた悪人である。犯罪者なのである。人々の持つ、そういった負の感情への理解は根っからの善人であるマッシュよりも遙かに高く、狡賢さでは比較にならない。保身にだって頭は回る。
――自分が死ぬかもしれない世界崩壊の可能性を示唆されたら、思わず可能性を検討するぐらいはしてみようぐらいは思えるし、その可能性が実在していた場合には戦慄ぐらい普通にする。このもの彼には死にたい願望なんて少しも存在してなかったから――――。
「・・・・・・で?」
「で、とは?」
「意味だよ。今の話を俺に伝えて何したかったのかって話だ」
バルガスは凶眼を向けてセレニアを睨み付け、目的を問いただす。
おそらくは自分にとって、人生を左右する重要な選択肢と関係している話だろうと、腐っても格闘家の本能が直接訴えかけて来てたから。
なぜ、この話を自分にしたのか。
なぜ、自分だったのか。なぜ、この話だったのか。
一体この話と自分に何が関係していて、この話で彼女は自分に何を伝えたかったのか。
――それを確かめておく必要性を、バルガスは強く感じてセレニアを強く激しく睨み付ける。
自分を変えてくれるかもしれない少女の青い瞳を。
一度は道を捨てて、道を違えて、欲望を肯定する悪の道へと墜ちた自分に何かを伝えようと今の話をしたであろう、銀髪の少女の瞳をまっすぐまっすぐ睨み返して、見つめ続けて―――
「え? そんなのありませんけど? だって単なる自分が気に入ってる物語の話して、悦に入りたい気分になってただけなんですし」
「おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっい!!??」
―――キョトンとした顔で返事を返され、盛大に期待を裏切られる。
そして、激怒する。
自分の期待を裏切ったな! 自分の思いを裏切ったな!
自分が初めて抱きかけた信頼を裏切りやがったなコンチクショウ!!!
「まぁまぁ、そこまでムキになれるということは何かしら今のお話に感じるところがあったのでしょう? なら、暇つぶしにそれについてでも考えてみてくださいよ。何もしないよりかはずっとマシだと思いますから」
「誰が考えるかクソボケェェェェェッ!!! テメェにとって世間話程度でしかない戯言なんざ本気で考えるなんて俺が馬鹿みたいじゃねぇか!?」
「なんでです? 話した相手の意図や価値なんて、どうでもいいでしょう? そんなもの受け取る側が勝手に決めて、自分の都合に併せて使ってしまえばいいだけの代物。
発言者が何を思って言ったかなんて他人事は無視してしまって全然いいことなのに、どうしてそんなに大事と捉えておられますので?」
ごく普通の口調で普通に言われて、思わずバルガスは鼻白んで黙り込まされる。・・・正直その発想はなかったからである。
相手の裏をかく策略は得意になったつもりでいたが、相手の意図を完全に無視して『自分の都合だけで勝手に進める』というのは想像の斜め上いく手法だった。一考には値するかもしれないが、斬新すぎていまいち頭の理解が追いつかない。
セレニアはそんな相手の都合など気にもせず、気づきもせず。
当たり前の既存の論理を読み上げるような口調で平然と、言葉を武器として使う自分の価値基準と信念と、そして自分が信じる『言葉の定義』について語り出す。
「言葉なんて所詮、受け取る側の問題です。
相手が何を伝えようとして、何を伝えるために言った言葉かなんて何の価値もありません。相手が理解してくれて、価値を見いだしてくれたときにのみ意味が生まれる程度の代物に過ぎないんですよ。
また、これは逆方向の言葉にも言えます。相手がこちらを傷つけるつもりで言った言葉であろうとも、勉強になりそうな言葉があれば有り難く頂戴してお礼を言っておけば良いのです。『自分を傷つけようとした相手の言葉』ですからね、そんな相手の意思など何一つ配慮しなくてよろしいのは当然でしょう?
相手の意思など度外視して、自分のために使ってしまった方が言葉としても武器として使われるより余程良い。その程度のものです、言葉なんて。
自分の意思を相手に伝えるための道具なんですから、正しく伝わりさえすればそれが一番正しくて、上手く伝わらないなら誰が作った正しく権威ある言葉や書式だろうとガラクタ以下でしかない。そういうものです」
「ですので、ま。私の言った言葉なんて、自由に使っちゃってください。どんな形であろうと、人のために役立つなら私としても言葉としても本望ですからね。
言葉は道具~♪ 道具は人の役に立つのが一番正しい使い方~♪」
変な歌を歌いながら、荷物置き場の貨物室から出て行く偽レニア。
後に残されたバルガスとしては、狐につままれたような、狸に化かされたような、微妙な心地で呆然とせざるを得なくて困る。
「・・・・・・けっ。勝手なガキだ、これだからガキって奴は苦手なんだよ」
毒づくと、ドカンと音を立てて座り直して低い天井を見上げて考え始めるバルガス。
――ガキの思惑に乗せられるのは気にくわないが、暇なのはまぁ、確かだからな。暇潰しに使うぐらいなら乗ってやっても構わない。そう思ったからだった。
この男、意外とチョロい。
実はサウスフィガロの実家にいた頃から、子供たちに人気のあるマッシュを見続けてきたせいで子供嫌いが加速してしまい、ガキ共からさえ見下されるような陰口を囁かれていたから、対等な立場で話してもらったことが今まで一度もないバルガスさん。
気づいてないけど、内心結構うれしかったりしております。やっぱりチョロいな、この男。
「・・・嫉妬から人類滅亡はあり得なくても、世界崩壊の引き金ぐらいなら引かされてた可能性はあるからな。人を利用するのは好きだが、利用されるのはごめんだ。
暇潰しに今後どうするかの策略に検討要素の一つとして使ってやる程度は許容してやるよ」
そう呟き、天井を見上げながら考えてみる。考え続けてみる。
これから自分はどうするべきなのか? 誰につくべきなのか? 誰にこの拳を売り込むべきなのか?
悪人らしく、悪人の基準で彼は考えるのだ。自分の行く末を。自分の利益を。
ただただ己のことだけを、ひたすらに・・・・・・。
小物な悪人格闘家バルガスのやり方とは、そういうものだったのだから――――。
つづく
余談ですが、正しい時間軸だとこの直ぐ後にセレニアがまたやってきて振り回されることになるバルガスさん。
保身を覚えた偽レニアは、逆らえない敵には容赦しない小物な側面を持ってます。