FINAL FANTASY Ⅵ~偽レニア~ 作:ひきがやもとまち
注:一部書き加えました。
「・・・と言うのが、ワシの考えじゃ」
バナンは話を締めくくり、自分の考えを同士たちに語り伝え終えた。
『幻獣に自分たちの想いを伝え、共に帝国と戦ってもらう』と言う、他の誰にも考えつかなかった大胆な作戦の提案を、皆がどう思うかを聞くために。
「強大な帝国を相手に、我々脆弱なリターナーが勝利を得るにはこの手しかないとワシは考える。
そして、そのためにはティナ。お前に幻獣と再び会ってもらい、我々の意思を彼らに伝えて協力を得ることがどうしても必要なのじゃよ・・・・・・」
そう言ってティナに対して頭を下げ、再び協力を頼むバナン。
そこには戦争の終結を年端もいかない少女に委ねるしかない自分たち自身の不甲斐なさと無力さで折れそうになりながらも、それでもと立ち上がれる芯の強い漢の在り方が確かにあった。
・・・・・・実のところ彼は最初から、ティナを帝国相手に戦力として用いるつもりは更々なかった。
それは善悪是非の問題ではない。単純な数の問題を考えた故に出した結論だったからだ。
帝国は現在、世界を相手に征服戦争を仕掛けている単一の軍事国家である。既に、ツェン、アンブルグ、マランダの三国を電撃的な奇襲で併呑し、南大陸全土をその支配下に置いている。
その上でさらに北大陸の強国ドマと数年に渡って戦争を続け、先頃はナルシェに潜入部隊を派遣し、この度はフィガロとの同盟を破棄して敵に回すまでした。残る最後の大国ジドールに攻め込むのも時間の問題といえるだろう。
そこまでやって尚、リターナーを中心とする反帝国同盟は劣勢であり、それぞれが個別に自分の勢力範囲を守り切るので精一杯なのが現状なのだ。
ドマ、フィガロ、それにナルシェと上手くすればジドールも加えて北大陸で反帝国大同盟を結成することができるかも知れないが、それでようやく五分と五分。
野合した寄せ集めのごった煮国家連合が、単独で世界相手に戦争できる国を相手に総力戦を挑まなければならないのである。
――勝てない。率直にバナンはそう予測している。そう思わざるを得ない圧倒的な地力の差が帝国と自分たちの間には広がっているから。
この絶望的差を前に、帝国の魔導アーマーに乗った兵士50人を三分で皆殺しにした少女が一人加わったところで何になるというのだろう・・・?
反帝国側には、帝国に勝てる力がない。その事実は認めなければならない。勝つためにも、事実を認めて受け入れることは絶対的に必要なことなのだから。
もし仮に『帝国に勝つ力がないリターナー』がティナの力を使って帝国に勝てるとしたら、どのような手法が取り得るか? ・・・考えるまでもない、ティナに帝国軍を皆殺しにしてもらう以外にあるはずないのだから。
そんな勝利に一体何の意味があるのだろう? 帝国が魔導の力を手にしたことで始まった戦争が、ティナの力を手にしたことで再開される戦後世界を創り出すだけではないか。そんな世界のために大勢の命をかけさせて失わせ合うなどバカバカしいにもほどがある。
「帝国が魔導の力を用い、戦争を始めたのは皆も知っての通りだ。だが、ガストラがどうやって魔導の力を復活させたのか? ・・・考えるべきポイントはここだとワシは考えておる」
意表を突かれた作戦案の提示に皆が驚きで声も出せなくなっている中、バナンは作戦立案に至った経緯について詳細な説明を始めている。
「ロックに調べてもらったところ、ガストラは世界中から学者を集めて幻獣の研究を始めさせていたと言うことまではわかっておる。ナルシェ攻撃もそのためじゃった」
「つまり、魔導の力と幻獣に何か関係があると・・・?」
ティナが恐る恐ると言った口調で質問し、バナンは重々しい頷きで答えを返す。
「魔導と幻獣・・・この2つの言葉で思い出される事は一つしかない・・・・・・『魔大戦』じゃ」
バナンがその単語を口にしたとき、室内にいたものたちは間違いなく世界に亀裂が入る音が聞こえていた。
『魔大戦』・・・かつて世界を焼き尽くしたと言われる伝説の戦い。
幼子が枕元で祖父母が話してくれたお伽話程度でしかなくなった悪夢の戦いが、現代の世界に甦ろうとしていると言うのか!?
「マ大戦?」
――そして只一人。お伽話どころか、話して聞かせてくれる祖父母となんて会った事ないし実在もしてない異世界から捨てられてきた残りカス少女だけが緊迫感のない表情と声でオウム返しに首かしげてるだけ。知らないことは幸せなものである。
「まさか!? あの魔大戦が!!」
「枕元でばあちゃんが話してくれた、あの話・・・本当のことだったのか・・・?」
リターナーのメンバーたちがざわめきながら隣の同士と語り出す中、立場上の特権と義務から他の者たちよりも『戦争について』学ぶ必要と機会があったエドガーは、まだしも冷静な方だった。
「バナン様は今のまま進んでいくと、魔大戦の悲劇がまた繰り返されるとお考えになっておられるのですか?」
これに対するバナンの回答は慎重だ。
「わからん。もう1000年も前の話じゃ。歴史学者によって、それぞれ色んな説があるしのう」
だが、それでも数ある説の中でバナンが自分たちのしている戦いと関連付けて考えるようになった根拠となり得る説がある。
「一説によると幻獣から力を取り出して人間に注入させた、と言うらしいのだが・・・・・・」
チラリとティナの方を見ながら呟かれた言葉に、彼女は身を固くする。
ナルシェの炭鉱で、幻獣と呼ばれる不思議な氷付けの動物と接触したときの記憶がかすかに、だが確かに思い出されかかってしまったからである。
「それが魔導の力・・・」
幻獣から力を取り出し、人間に注入する事で幻獣と同じ力を振るえる人間を兵器として作り出す。
きわめて危険で、非人道的な手法だ。だが、残念な事に権力者側にとっては魅力的に映ってしまう手法でもある・・・。
「・・・やはり帝国に立ち向かうには、こちらも魔導の力を手に入れるしかないのか・・・・・・」
エドガーがぽつりと、そう呟いた。
他意が合っての発言ではない。もっと言うなら、さほど先の事まで考えていった言葉と言うほどのものでもない。
ただ、大量生産が基本の科学技術で世界をリードするフィガロ王国の統治者として当たり前の発想を言ってみただけだったのだが、これには即座に強い反論が返されて完全否定されてしまった。
それが皆の注目を集める事になる。反論の内容ではなくて、反論の発言者そのものに強い視線と興味と・・・そして、驚きによって。
「ならん!」
「ダメです」
強い口調で怒鳴り声に近い声をあげかけたバナンと、それに重なるようにして低く静かに当たり前の結末を知っているかのごとき口調で、銀髪の部外者少女が口を出し、周囲の注目を集めまくる。
その声には強さがなく、熱も欠けていて、バナンが続けようとした「それでは魔大戦と同じになってしまう」という言葉と比べたら確信や自信の面ではまったく足りていないもの。
だが同時に、奇妙なほど疑念のない必然の結末を語っているだけのような自然な口調と態度。
まるで、その道を選んだ先に待っている未来を既定事項として捉えているかのようなその声に引かれて、バナンまでもが今までとは微妙に異なる視線を偽物のセレニア、偽レニアに送り出す。
「・・・それは、どうしてなんだい? セレニア。ダメと言い切る理由について聞いてみても?」
一同を代表して、発言者たるエドガー自身がセレニアに問いかける。
が、相手の方は逆に「しょうもない答え」だと自分自身が思っているかのような、そんな態度で。
「どうもこうもありません。敵の帝国さんは幻獣って言う生き物から力を抽出して、人間に与えて兵器としての運用法を確立したから強い国なのでしょう?
そんな状況で相手と同じ力の競い合いなんかしてみなさい、あっという間に際限のないシーソーゲームが始まってしまいます。
アッチが強くなったらコッチも強くして、また相手が強くなっての繰り返し・・・兵器と兵器のパワーゲームで世界を滅ぼすまで続け合うおつもりですか貴方方は?」
・・・・・・その時、正しくリターナー本部内の時間は停止した。
何の気なしに漏らした少女の言葉は、その場に集っていた者たち全員に世界崩壊のイメージを正しく連想させるのに十分すぎるほど呆気なく、簡単に、自明の事実として必然の結末をごく普通の口調で語って見せたものだったから。
バナンでさえ、驚きのあまり言葉を失い末席に座る銀髪少女から目を離せなくなっている。
彼もまた同じ内容の言葉を言おうとはしていた。だが、しかし彼の言い方は断定口調であり、それは彼の本心から来る言葉ではあったが、それと同時に自らの抱く危機感を正しく周囲に知ってもらうためには必要な措置だという考えから来ているものでもあった。
セレニアの主張、敵の生み出した兵器を模倣し開発競争を続けていけば戦火は拡大して被害を増大させるだけ。
それは当たり前の帰結ではあったが、同じくらい技術開発において当たり前にとおる道筋でもある。
互いに利害が敵対し合う勢力同士の片方で生み出された新技術を、もう片方が模倣して高性能化を進めて行く。開発元も負けじと高性能化を繰り返す。それが産業革命によって復興したこの世界における技術進歩の常識であり、世界中の皆が持つ当たり前の感覚だった。
だから、その果てに待つ当然の帰結が『大規模破壊兵器の撃ち合いによる世界の破滅』という、当たり前の結末を当たり前のように考えることが出来なくなっていた。
無意識のうちに「人類はそこまで愚かではないはずだ」と思い込んでしまっていたのだ。
そんな大人たちの目を逸らしていた現実を、年端もいかない銀髪の幼女は当たり前のように言ってのけてしまった。…これで驚くなと言う方が無理なのがこの世界の現状だったから・・・。
――この世界は実のところ、戦争というもののやり方をよく知っている者が一人もいない。
1000年前に起きた魔大戦が世界最後の戦争であり、それ以後の世界では戦争危機こそあれ、本当の意味で武力を持った国家同士がぶつかり合う戦争は起きていないからだ。
戦争とは歴史学者が研究する考古学に類する学問と見なされていて、歴史書の中以外で一般人が本当の戦争を目にする機会はまずあり得ない。
世界各国は軍隊を保有し、戦術や兵器を考案しながらも『本当にそれが正しくて実用的かどうか』は試してみないとわからないと言うのが実情だったのだ。
それがこの世界の人たちにとっての戦争というものだったのである。
ガストラ皇帝にしてもそう。
帝国は魔大戦終結から265年後に“世界平和”を目的として制定された世界平和評議会から軍事国家として独立した自治軍事組織『世界警察』を母体とする組織であるが、彼らの歴史上においても『外征』というものは行った記録はない。
圧倒的な軍事力を持っている軍事国家といえども、魔大戦を再現する気まではなかったという事だろう。あるいは戦力的に世界を相手に戦うには力不足と考えていたのかも知れない。
どちらにせよ、帝国が今ほどの力を得たのは59年前に起きた大規模なクーデターと、38年前から始まった圧力増強的軍備拡大によるところが大きく、それまでの帝国に今の帝国と同じレベルの軍事力行使ができたとは考えにくい。
そう考えると、ガストラにとってツェン、マランダ、アンブルグへの侵攻作戦は領土拡張戦争であると同時に、自分自身が考える戦争のやり方が通用するかどうかの実験台でもあった事実が見えてくることだろう。
戦争を起こしている帝国軍からして手探りの状態で戦争のやり方を模索し、1から作り上げてきたのだから、バナンに至っては言わずもがなである。
彼が戦争について学び始めたのは帝国を相手に戦うと決意してからで、それまでこの世界の戦争に関する資料は各国が記した『実績のない戦術マニュアル』と、遺跡などから発掘された魔大戦より前のものだと思われる断片的な戦争絵巻を継ぎ接ぎさせて完成品とされた真偽の定かでない『兵法書』ぐらいしかなかったぐらいだ。
だから彼は『歴史』に詳しくなった。この世界において戦争とは『古代史』であり、歴史研究のテーマの一つとしか扱われてこなかったのだから、そうするより他なかったのだ。
現在の戦争で有効とされている戦術と、古代の兵法書とを読み比べ、一つ一つ検証していく作業は骨が折れたが、それでも苦労の一つ一つが血肉となって彼の身と脳裏に宿り、味方を死地から生還させる事に役立ってくれている。
――が、しかし。
この幼い銀髪の少女は、戦争を終わらせるための戦争指導者であり、今ではこの世界でも有数の歴史学者になっているバナンが熟考の末ようやく辿り着いた結論『魔導の力を戦争に勝つため使い合えば魔大戦を再現する結果を招いてしまう』―――それを、当たり前の答えであるようにアッサリと、普通の口調で簡単に言ってのけてくれたのだから驚くなという方が無理がありすぎる。
――が、しかし。
「・・・・・・あれ?」
セレニアは突如訪れた不自然な沈黙が意外すぎたので、思わずキョロキョロと周囲を見渡した。
何が起きたのかさっぱり、訳がわからないよ・・・と、どっかの魔法生物みたいな心の声でつぶやきながら。
彼女としては“大戦”と言う言葉から二回にわたるWWを連想しただけであり、なんかよくわからないけど超兵器を主力とした世界征服軍相手に敵と同じ兵器造って応戦しようという意見を聞いて、日本人らしく『東西冷戦』思い出してただけなんだけど・・・・・・。
当然のことながら第一次大戦も第二次大戦も、冷戦もソビエトも核戦争も知らない異世界人の方々にはそんな地球の歴史がわかるはずもなく。
異世界から捨てられてきた少女は1000年前に起きた魔大戦の事なんて知るはずないし、そもそも1000年もの長きにわたって戦争起きた事ない理想郷みたいな世界が実在する可能性なんて考慮してないからワカラナーイ。
・・・ある意味、この世界で一番平和と縁遠い世界の国からやってきた元日本人の少女の発想は、平和を愛し戦争を忌避する異世界人の目からは異端に見え、驚愕に感じられ、驚嘆に値すると捉える者まで現れてしまっていた・・・。
「・・・・・・娘よ、君の言うとおりじゃ。我らまで魔導の力を争いに用いてしまったのでは魔大戦と同じ間違いをすることになってしまうじゃろう」
そう言ってセレニアの隣に移動してきて、ポンと肩に手を置いてくるバナン。
――こうして、勘違いが生まれる土壌ができあがる・・・・・・。
(あ。今、めちゃくちゃイヤな予感に背筋がゾクゾクとしたような錯覚が・・・)
「それ故に考えたのがワシの出した最初の提案なのじゃ。幻獣と話したいと言う考えなのじゃよ」
そこでようやく話は最初に戻ることができた。
バナンは危険を承知でティナと幻獣とをもう一度反応させて、幻獣が目覚めることに賭けるのが唯一の道であると考えていたのだ。
帝国が、幻獣の力を悪用して戦争に利用している真相を伝えれば彼らも自分たちに協力して帝国と戦うのに力を貸してくれる可能性は0ではない、と。
ただ、しかし―――
「それによってティナに、ワシらの想いを幻獣たちへと伝えてほしいのじゃ。――帝国に力を利用されなくする方法はありませんか、と。
もしそれがあるならワシらは全力で力添えをし、魔導の力を使えなくなった帝国と共存する道を模索したいのです・・・とな」
『ええ!?』
その一言で、リターナーメンバーに動揺が広がる。
当然だろう。バナンが今言った言葉、それはまるで・・・まるで・・・・・・
「ま、待ってくださいバナン様。そのお言葉ではまるで、帝国の存続を許すと言っておられるようではありませんか!? 悪逆非道な帝国との共存を望まれるなどバナン様らしくないおっしゃりようです!」
会議のため集まっていたメンバーの一人が激高して、そう叫ぶ。
彼は帝国に恋人を殺された若者で、リターナー創立時に参画していた主要メンバーの息子でもある、バナンにとっては血のつながらない義理の息子に近い感情を抱いている相手だったから、その気持ちには大いに共鳴するところがある。
だが、しかし。今では彼は別の視点も抱いていた。
先頃ティナと交わした会話が、彼の狭窄化していた視野に別の考え方をもたらしてくれてたから―――
「お主の言いたいこともよくわかる、ワシとて帝国は憎い。理屈は理解できても滅ぼしてやりたい憎しみに偽りはない」
「でしたら!!」
「・・・じゃが、そもそもワシらは帝国を滅ぼすために生まれた組織ではなかったはずじゃろう? 世界を戦争の脅威から救いたい、平和を守らなければと言う想いの下、集まった同志じゃったはずじゃ。そのワシらが戦う力を失った敵を相手に憎しみのみで戦いを続けてどうする・・・?」
「!! し、しかし・・・っ!」
若者は一瞬ひるみを見せたが、それでも引き下がらずに食い下がる。
そうする気持ちは痛いほどよく分かるバナンだ。無理矢理に説得したいとは露ほども思わない。
だから代わりに別のことについて語って聞かせる道を選んだ。――自分の過ちと勘違いについて、恥を語って聞かせることである。
「・・・実はな。ワシは今まで、帝国を倒しさえすれば戦争はなくなると考えておった。争いを生む元凶が帝国にあると考えて疑っておらなんだ。
根さえ潰せば平和な世界が戻ってくると、そう信じすがって今まで戦い続けてきたのじゃ。大勢の若者たちの命を散らしながらな・・・」
「・・・・・・そのお考えは間違っていたと、今ではお考えなのですか」
「そうじゃ。このような考えは間違っておる。帝国を倒したとしても戦争が起こらなくなるとは限らない」
「!!!」
若者の目が驚愕で見開かれる。
それは彼が今までバナンが言った理想を信じていたが故の驚きであり、バナンが自らの考えを率直に間違いだったと断言して見せた、自分にはできない潔さに対する畏敬の念の現れでもあった。
「帝国を倒せば、この戦争は終わらせられるじゃろう。
――じゃが、敵がいなくなっただけで帝国がもたらした戦争の傷跡は消えてくれるのか? 戦争の記録は再び歴史の彼方に忘れ去ってくれるじゃろうか? 世界の人々は再び戦争を過去の遺産として封印し、1000年の戦争なき平和をもたらしてくれるじゃろうか?」
「そ、それは・・・・・・」
「ワシは無理だと考えておる。・・・悔しくて仕方のないことだがな、一度世界に撒かれた憎しみの種は、人々の心に根付いた野心の炎は、戦争という災禍を模倣して再び誰かの手で燃え広がるじゃろう。
嫉妬、妬み、独占、破壊、支配・・・それら1人の男が開けてしまった箱の中から出てきた邪悪な心は、その男自身の手で生み出された戦争という世界で最も邪悪な行為によって満足できるのだという実例を世界中すべての人の心と記憶にまざまざと刻みつけられてしまった・・・もはや二度と刈り取ることは出来ぬじゃろう・・・・・・」
再び場を満たす沈黙。今度のそれは先ほどとは違う、先の以上に聞いている者たち全員の心に絶望を宿すに十分すぎる威力がこもったものだった。
ある意味では、当然の反応だったかもしれない。
バナンの言葉は、彼ら全員の戦いと犠牲が無駄に終わることを示唆するものだったのだから、彼らが無力感に苛まれるのも無理はなかったのだ。
・・・・・・この場にいる誰もが戦争を憎んでいた。平和を愛していた。求めていた。信じていたのだ。
戦いの果てには平和が待っていると。今の自分たちが命がけで罪を犯せば、子供たちが自分と同じ苦しみと悲しみを味わうことなど二度とないのだと。
それが、すべて、無駄だったのか・・・?
自分たちが終わらせるため必死になった戦争は、手に入れようとしている平和は、誰かガストラ以外の別の個人の欲望で再び起こされる程度の脆いものに過ぎなかったと言うことなのか・・・・・・?
「だからワシはこう言おう。それでも諦めずに『戦争と戦い続けること』こそ、我らリターナーの使命であると」
バナンの声が会議室に満ち、多くの者がハッとして顔を上げる。
その中の一人、先ほど激した若者の目を見つめながらバナンは、穏やかな声で力強く戦いの継続を宣言する。
戦いは終わらない。帝国と戦い終わった後も。戦争が終わった後も。世界が平和になった後も。
自分たち戦争を否定し戦い続けると誓った、平和な世界を守る者たちリターナーの戦いは決して終わることなど無いのだと。
「たとえワシらが帝国と講和し、戦いをやめた世界で戦争を起こそうという者が現れたなら、それがどこの誰だろうとワシらは再び手に武器を持って戦おう。平和を守るために。
世界が100回戦争を繰り返そうとするならば、101回止めてみせる。1000回繰り返すなら、1001回。10000回繰り返すなら、10001回。
戦争が平和を壊そうとする限り、ワシらの戦いは終わることはない。帝国ごとき一回目の敵にこだわり続けるようでは、戦争という強大な敵を前に臆病者がと笑われるだけだぞ? 若いもんがシッカリせんかい。お主の父親はこの程度の苦難でくずおれるほど軟弱な漢ではなかったのだがな」
「ば、バナン様ぁぁぁぁ・・・・・・」
泣きながら感動している若者に「最近の若者は涙もろくていかんなぁ!」と、大声出して笑ってみせるバナン老人。
――こうしてリターナーは新生する。迫り来る危機を知らず、気づくことなく、それでも諦める意思を放棄して、いかなる困難を前にしても戦い続ける覚悟を決めて新たな組織としての門出を祝い合う。
反帝国組織のため武力で戦うレジスタンスではなく、世界平和のため戦争と戦う有志の集まりたらんと平和を守る戦士たちは互いに互いを誓い合う。
友よ、戦友よ。我らの敵は戦争であり、永久に人を憎まず―――と。
斯くしてリターナーはバナン主導の下、幻獣とのコンタクト作戦を決行することに満場一致で意見がまとまった。
主力は無論、ティナ。
幻獣と接触して通じ合える可能性を持った世界で唯一の少女を中心に、彼女を守るための護衛として、ロック、エドガー、マッシュ。
そして当面の敵である帝国の脅威から身を守り、戦争をやめさせるための同盟として(滅ぼすのは最終手段として想定しておく)リターナーの一員に加わってもらうため説得役としてバナンが、幻獣の発見されたナルシェまで同行する。
現状、望みうる最高の布陣がこうして完成されたのである。
―――されたのであるがしかし!
・・・最後に付け足された予備メンバーとして、コイツを入れておくのはどうかと思うのだが・・・?
補欠でありティナの支援役として、銀髪少女セレニアが同行するものとする―――。
「なんでですか!? なんで私!?
言っちゃ何ですが、メチャクチャ役立たずだと思うんですけど私って!?」
「だって、セレニア、動物の声わかるときがあるんでしょ? だったら幻獣にも通じるんじゃないのかなって・・・」
「動物!? 幻獣って動物なんですか!? いやまぁ、見たことないし会ったことないからわかりませんけど、先ほどの話からして明らかに動物のカテゴリーに入れちゃダメな気がするんですけども!?」
「大丈夫だ、セレニア。俺が守ってやる! 絶対だ!」
「だったら今現在、この作戦メンバーの人選から守ってください!」
「何だかチンプンカンプンだが・・・・・・面白そうだな!」
「でしょうね! 他人事ですからね!!」
ワイワイ、ガヤガヤ。
昨今では敗報が相次ぎ、暗い雰囲気になりがちだったリターナー本部に久方ぶりの団欒の明かりが灯される。
(・・・許してくれとは言わんぞ、少女よ。生きた戦争の知識を持つお主もまた欠かせぬ人材であると悟った今、お主もまたティナと同じように欠かすことは出来ない平和の鍵なのじゃからな・・・)
こうして勘違いが勘違いを呼び、一人の残りカスTS転生少女が生け贄に捧げられようとしていたとき。
―――“その音”は訪れた。
ガタタ。
「――?? なんじゃ? 今の音は・・・・・・」
バナンがつぶやき、皆が頭上に疑問符を浮かべて入り口の方を見、――そして見つける。見つけてしまう。
・・・傷つき倒れた、リターナーメンバーの姿を。
「た、大変ですバナン様・・・サウスフィガロが・・・・・・サウスフィガロが落ちました!
帝国軍がこちらに向かってきております! 至急脱出・・・を・・・・・・」
そう言って意識を失うリターナーメンバー。
彼のもたらした情報は先ほどまでの希望を絶望一色に塗り替えるには十分以上の意味と効果を持たされていた。
サウスフィガロは難攻不落の都市。帝国といえども、そう簡単には落とす事は出来ない場所だ。
当然のようにリターナー本部の防衛戦略も、サウスフィガロの防御力を基準に考案されている。
それが落ちた。知らせを受けた第一報が『既に占領されている』という最悪の形を取って。
この瞬間、リターナー対帝国軍フィガロ王国侵攻軍との戦いは帝国側の勝利が確定させられてしまった。後はどれほどの兵が生きて後方へ退けるかどうか、逃げた先で次なる拠点を得られるか否かに作戦計画は移らなくされてしまったのである!
・・・戦争の足音が平和を望む者たちのもとに聞こえてきたとき。
団欒は終わり、戦争の時間がが幕を開ける。
遙か南の大地から、老醜の野心家が嗤う声が聞こえた気がした。
――さぁ、戦争の時間だ!――
・・・・・・ティナとセレニアにとって、初めての戦争が始まろうとしている・・・・・・。
つづく
『次回予告みたいなもの』
**「レテ川をつたってナルシェに行くんだろ? だったら俺が案内役を引き受けてやるぜ!」
マッシュ「バルガス!? なんでお前が・・・・・・」
バルガス「愚問だなマッシュ。ここに残されたら俺までリターナーと勘違いされて殺されそうだから、お前らについて行って逃げ出したいからにきまってんだろうが!」
マッシュ「・・・微妙に理由がなさけねぇんだけど・・・あと、お前に道案内なんて出来るのか?」
バルガス「ふっ。俺を甘く見るなよマッシュ・・・伊達に熊を手下にして山で野生生活してなかったぜ!」
セレニア「・・・・・・(あー、やっぱりボッチだから動物しか友達いない人だったんですねー。・・・お友達の熊さんたちに南無南無)」
注意書き:
もしかしたら次回は、いきなりドマルート開始から始まるかもしれません。
河下ってくだけで他にやる事あんま無いですから(きっぱり)
やるとしたらネタ回になるんだろうなぁ~。
オルトロスとバルガスの絡みネタとか考えてみたんですけど、需要ある人いますかね?