FINAL FANTASY Ⅵ~偽レニア~ 作:ひきがやもとまち
とくに何か事件が起きる話ではなく、現状確認と方針決定がされる回として割り切ってくださいませ。
マッシュの意識は、暗い暗い意識の穴の底へと落ちていた。
オルトロスに投げ飛ばされて川に落ち、レテ川をナルシェとは逆方向に流され続けていく格闘家の弟子マッチョ青年は今、大好きな兄と再会した代償として深くて暗い意識の穴の底へと落ち続けていたのである。
落ちながら思い出されるのは、過去の記憶。
――それは、母と過ごした記憶。お母さんとの思い出だった――
病死か事故死だったのか、あるいは王位継承争いの渦中に暗殺されてしまったのか。
二人の兄弟が気付いたときには側にいなくなっていた、明るく陽気だった父とは異なり非常に印象が薄い女性。
――だが、優しくて柔らかくて、暖かい人だったことだけは覚えている。
春の日の木漏れ日のように暖かくて、冬の日に差し込む灯火のように優しい女性。
我が子の母親だからという一点だけで、子供のあらゆるワガママを受け止めてくれる全ての子供たちにとって世界で唯一の絶対的な存在、“お母さん”。
マッシュは、久しぶりに感じることの出来た母の愛に身を委ねるため自我を放棄し始める。
きっと、意識を取り戻したら忘れてしまう甘い思い出。気絶して目が覚めたら、また帝国との戦いが再開される厳しい現実。
・・・だから、今この時だけは忘れよう。何も考えなくていい、ただ母の愛に包まれる今に身を委ね、全身で母親に甘えまくろう。
「・・・母さん・・・・・・」
ギュッ―――むにっ。
「あっ、・・・んぅ・・・、」
―――いや、ちょっと待て。それはおかしい。
「・・・はっ!? お、俺は一体なにを!?」
バッと起き上がって周囲を見渡すために視線を向け、そこが自分の知らない来たことのない未知の土地であることを確認したマッシュは、必死に目を逸らそうとしていた現実に向き合う勇気を固めて冷や汗混じりに“下を見下ろす”。
仰向けで倒れて気を失っていた彼は、なにか柔らかい敷物をクッション代わりに受け止めてもらっていたらしく、顔を含めた上半身が妙に柔らかくて暖かくて、ゴツゴツとした地面に触れずにいさせてくれたのはソレのお陰だったらしい。
感謝に尽きないが、問題は“ソレ”が何だったのか? と言うことだろう。
言うまでもないが、自然界の川縁には普通クッションは落ちていない。軟らかい土はあるかもしれないが、それでも土の感触を母の愛と勘違いする親不孝者はそれほど多くないと信じたいマッシュである。
――じゃあ、何だ? 俺はいったい何に顔を埋めたまま、母さんの優しさを思い出していたと言うんだ!?
嫌な予感がする。正直に白状すれば見たくないし、知りたくもない。真実など知らなくてよいのなら、一生かかっても知りたくない。・・・今までに感じたことのない、そんな後ろ向きすぎる想いに囚われながらマッシュは勇気を出して瞳を見開き、自分が先ほどまで顔を埋めていたクッションの正体を確かめるため視線を逸らさず真っ直ぐにソレを見下ろした。
――少女だった。
幼い容貌をもつ銀髪の少女が目をつむって気を失ったまま、自分の下で自分の敷物として、自分の身体の上半身を受け止めてくれている。
見ると、自分にとって最大の武器であり、格闘家にとっては命でもある左右の両腕は怪我一つ負わないよう彼女の身体の中で最も柔らかい部分で受け止められていて、マッシュ自身も訓練された格闘家としての本能として彼女の身体を傷つけてしまわぬよう、最も弾力があって柔らかいクッション性に溢れた“その部分”にだけ触れるよう上に乗った身体の重心をバランスよく無意識のうちに調整させていた。
「ば、バカな・・・・・・」
戦々恐々。恐怖と混乱で頭が真っ白になりながら、それでも格闘家としての誇りから可能な限り冷静さを保とうとするため意味のある思考をしようと足掻いた末に、マッシュは驚くべき真実の扉を力尽くで突破して押し開くことに成功した!!
「このサイズで着痩せするタイプだったとでも言うのか!? この少女は!!」
「・・・さっきから何やってんだマッシュ・・・」
「ドギャ――――――――――ッッン!?」
横合いからかけられた冷静すぎる白い視線と声に驚き慌てて、狼狽えざまを晒しまくりながら一メートルぐらいの距離を全力ジャンプで後退するマッシュ。
・・・よく見たら自分の直ぐ側に兄弟子であるバルガスが、社会の虫ケラでも見下ろすかのような視線で弟弟子である自分を見下してきていた。
その視線に関してマッシュは、たとえ相手が師父を殺した仇であろうとも弁明しなければならない義務と責任感と使命を感じて、必死の思いで適切な言葉を過去の記憶から引っ張り出し、ソレを兄弟子に全力でぶつけに行く!
「ち、ちちちちち違うんだバルガス! これは事故だ!
俺は小さい女の子の胸になんか、これっぽっちも興味なんてない!!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
――いかん。混乱のあまり、適切な言葉じゃなくて不適切な言葉を選んでしまった。これでは誤解は避けられない。なんとかして誤解を解かなければ色々ヤバい気がする!
なんかよく分からないけど、メチャクチャヤバい危機が自分の身に迫ってきてる気がしてマッシュは、全身全霊と命をかけて名誉のために! 誇りのために! 兄弟子との再戦を挑もうとした、まさにその時!
「・・・まぁ、お前の特殊な趣向については個人の自由として黙認するとしてだ・・・」
「いや、するなよ!? 反論させろよ! 議論させろよ! 白黒はっきり付けさせてくれよ!?
このまま認められて許されたら、俺が気を失ってる幼女の胸揉む変態である自由が黙認されたことになっちまうじぇねぇか!?」
「お前が気を失って目を覚ますまでの間に、軽く周囲を探索してきたんだが・・・厄介な場所に流れ着いちまってるみたいでな。お前の意見も聞いておきたい。忌憚のない意見を言え、変態」
「聞いてくれバルガス! お願いだから無視しないでくれ!! 俺は変態じゃない! 俺は兄貴と違って幼女や婆やにも手を出すような変態じゃないんだ――――っ!!!!!」
マッシュ、魂の底からの慟哭にして兄へのディスり発言。
それでいて発言の内容自体は事実なあたりが、過去をよく知る者同士な実の兄弟と言うことなのだろうか?
この件について兄であるエドガーの意見も聞いてみたいところだが、まずはそれが可能になるかどうかが大問題なので後にしておきたい。
「近くに小屋があって、チョコボに乗って出張販売に来てる道具屋なんて怪しいヤツが来ていたんだが・・・ソイツから面倒くさい事実を聞かされちまった。
ナルシェには行けそうにねぇぞ、俺達」
「だ・か・ら! 話を聞け――――――っ!!! ・・・へ? ナルシェに行けない? なんでだ?」
ひたすら無視して語るバルガスの言葉に、ようやくマッシュも我を取り戻し兄弟子を安堵させた。
彼としても自分を打ち負かし、父から奥義継承者と認められた弟弟子が気絶している幼女のデカパイを揉むことに悦びを見いだす変態であるなどと言う真実は調べたくない。
分からなくていいなら一生わからないままにしておきたい真実とか、そういうのも現実には実在する。全ての謎を解き明かして真実に至ろうとも、損するだけで誰一人得をしない類いの真実だって実在しているものだから。
だからこの話はどうでもいい。忘れて無かったことにしてしまおう。
幸いなことに被害者は気を失ったまま目を覚ましていない。今なら揉み消すことが可能だ。犯人が被害者に自白でもしない限り真相は闇の中へと葬られる。
挙げ句、この事件を自白して罪を償ったところで汚名が追加されるだけでしかないという悲劇的事実がこの一件には存在している。犯人は秘密を抱えたまま一生隠し通さなければならない辛さはあれども、白日の下に真相を晒したところで余計につらい目に遭うだけなところが本当に救いのない事件だったかもしれない。
だが、それだけ救いようがなくて一生涯残るであろう心の傷を負う事件ではあったけれども余談である。完全無欠の矛盾無き余談でしかない。
余談だからどうでもいいし、意味もないから先に進めるしかない。解決しても誰一人なんにも得られない事件だしね。
・・・本気でマッシュが要らぬトラウマ背負っただけの出来事だったな・・・。何のためにあったんだ? このイベント・・・。さっぱり分からんぞ。あー、サッパリサッパリ。
「ここはどうやらドマの外れ近くらしい。そうなると戻るのにレテ川は使えない。フィガロに続く道すらない。踏んだり蹴ったりだ。どうすればいいんだかサッパリ分からん」
「・・・??? だから何でなんだ? ドマってフィガロの隣にある国なんだろ? だったら道なりに進んでフィガロに入って、コルツ山を迂回して進んでいけばナルシェに着けるじゃねぇか。
時間がかかるのは確かだけど、俺たち格闘家にとっては大して難しい話じゃない」
マッシュは楽天的にそう考えていた。
彼の言うとおり、地政学的に見た場合にはドマ国とフィガロ国は国境を接しており、同じ北大陸にある三つの大国のうち隣り合う国同士でもあるのだ。
ガストラ帝国や旧マランダ国などが存在していた南の大陸と違って地続きである以上、歩いて帰るのが不可能な土地柄では決して無い。
まして、いくら川を流されてきたとは言え、所詮は山に流れる川である。川の流れが尽きるまで流されたとしても海に流出したわけではない。
コルツ山も、北の大陸の東西を隔てる境界線としての役割を果たしている天然の防御壁ではあるが、70年ほど前には軍事バランスを保つため入り口に検問が置かれた前例もある。
両国の仲が良いわけでは決してないのは素人のマッシュでもわかることであっても、だからと言って物理的に隔てているのはコルツ山から流れ出した水が作り出す川だけだ。水深が浅いところを探して渡れば問題ない。
それがマッシュの想定だった。
強いて言えばセレニアがお荷物と言えなくもなかったけど、自分たち格闘家の身体能力を持ってすれば子供の一人や二人なんてことない。
『ウゴーッ!!!』
「あ、コイツも来てたんだ。じゃあ、この問題もなしだな」
どっかに何かしに行ってたらしいウーマロが戻ってきて雄叫びを上げてるから、全ての問題は解決した。
コイツがセレニアを置いてくとは思えないし、たぶん無理矢理にでも連れてくだろうし、そうなると自分たちの移動はもっと楽になって簡単にナルシェに着くことが出来るだろう。
そして直ぐにでも兄たちと合流できるはずだ。そう思っていた。
――だが、現実の政治はそれほど甘くなかったようである・・・・・・。
「寝ぼけてるのか? ドマ国は魔大戦終結直後から他国との接触を断ってきた国だ。文化的にも物理的にも国交と呼べるほどの交流は民間レベルですら一度もない。
謎と神秘で包まれた不思議な国と、お袋から聞かされたことあっただろうが、お前も」
「そ、そう言えばそんなこと言ってた様な気もするが・・・とは言え、お隣さんなんだし、港同士の行き来とか、渡し船ぐらいなら普通にあるんだろ?」
「ない。相手がどんな国なのかまったく分からんから余計な刺激をしないよう、国境付近の川には近づくなと歴代のフィガロ王から触れが出されてきたから渡し船はねぇし、そもそもドマには港って物自体がないらしい。
それでフィガロの船は一隻たりともドマと行き来したことがないとか言う話を昔、船乗りと博打しながら聞いた覚えがある」
「・・・け、検問所が置かれた場所は・・・? ほら、あれだ。フィガロ側が設置したってことは当然ドマ国の方も対応する形で行き来できる道のどこかに検問置いたはずだから、それを探して上っていけば―――」
「相手がどんな軍隊もってるのかさえ分からないフィガロ国が、勝手に軍事バランス取るために検問所を置いてみただけだ。向こうが呼応して同じものを設置したのかどうかはサッパリ分からんと博打で身ぐるみ剥いだ兵士から聞かされたことがある。確認しようにもドマに行く道がわからんからどうしようもなかったらしい」
「・・・・・・」
「まぁ、相手が何もっていて何考えてんのかも分からなければ怖くもなるからな。仕方がないっちゃ仕方がない過剰反応だが・・・とにかくフィガロにとってのドマって国は隣同士とは言え、建国からほとんど接触のなかった未知の外国扱いされてる国だ。
貿易による利益を共有している分、南大陸の貿易国アンブルグの方が身近に感じるぐらいらしいから相当だぞ? そんな場所からご近所さんの隣同士だからと歩いて帰ろうとするなら止めはせんが、行くなら一人で行ってくれ。俺は知らん」
兄弟子から突き放すようにそっぽを向かれたマッシュだが、正直なところ彼だってそんな場所から地続きの大陸を歩いて帰るのは御免被りたいことコルツ山の如しである。
彼の知らないモンスターと遭遇する可能性があるし、ソイツが今の自分で勝てるという保証もない以上、安全策をとりたい。
普段であるなら修行と割り切れても、今は兄の力になるため無事に生きて帰ることが先決である。危険性は少ないに越したことはない。
ドマ国側からコルツ山伝いにフィガロを目指すのは未知の可能性に満ちあふれすぎていても、ドマ国内部は一応人が住んでいることは分かっているし、一風変わっていても文化は根付いている。未開のジャングル山脈に当てもなく飛び込んで、当てもなく彷徨うよりかは多少マシだろう。
「一応聞いておきたいんだが・・・この川を渡って向こう岸に行くルートはどうなんだ? こっからでも向こう側の土地が見えてるんだし、渡れないこともないんじゃねぇのか?」
「そうかもな。よし、お前行け。お前が安全に渡り切れたのを確認してから数十秒経っても何ひとつ起きなかったら俺も後に続く。任せたぞマッシュ、お前が先手のナンバー1だ」
「おい、ちょっと待てやバカ兄弟子。勝手に弟弟子を人体実験に使い捨てようとしてんじゃねぇ。ブっ飛ばすぞこの野郎」
仲睦まじく互いの違いを理解して、兄弟弟子としての溝を深め合いながら世界最高の格闘家ダンカンの弟子コンビは、とりあえずバルガスが見つけてきた現在地の近くにある小さな小屋へと向かうことになった。
移動するので叩き起こされたセレニアにも事情が伝えられ、アッサリと納得が得られる。
多少はごねられるかと思っていたマッシュとしては楽な反面、少し驚きであり理由を尋ねたところ彼女曰く。
「だって今、この場にいるメンバーの中にリターナーの人がいませんから」
『は? どういう意味なんだそれは?』
「ドマは帝国と戦争していて、リターナーとも同盟組んでるって前に聞かされたことがあるんですよ。同盟組んでる勢力同士なら他の組織には知られていない連絡通路ぐらいは知ってただろうなーと思ったんですけど、いないのなら逆に探す方が危険かもしれませんからね。
だって秘密の通路なんですから、罠とか張り巡らされてた場合に怖すぎますもん」
「・・・・・・一応フィガロも、リターナー寄りの勢力だったはずなんだけどな・・・」
「隣り合ってる国が帝国に攻められてるときに助けに来てくれることなく、敵と同盟をくみ続けていた“一応はリターナー寄りの勢力”ではありますよね、確かに間違いなく」
『・・・・・・』
こうして、国同士の政治の事情で戻るための道が絶対に使えなくなったから冒険せざるを得なくなった北大陸の東半分を巡る長旅が今始まる。
帝国軍と戦争をしている国の中で、本来帝国軍との戦争に関係してない者たちしかいない三人+一匹ははたして誰と出会い、何を経験し、どんな風にぶち壊してしまうのだろうか?
それは旅立ってみなければ解らない・・・・・・。
つづく
オマケ『その後のマッシュとウーマロ君』
ウーマロ『ウゴウゴ♪』
マッシュ「・・・?? なんか最近、妙にコイツが馴れ馴れしく接してくるようになったんだけど・・・なんでだか理由わからないか? セレニア」
セレニア「さぁ? 時々言ってる言葉はわかるんですけど、何のこと言ってるのか意味不明ですからねー・・・」
マッシュ「へぇ。なんて言ってんだコイツって?」
セレニア「『同じポヨポヨ好きな者同士♪ 仲間仲間♪』だそうです」
マッシュ「ぶっ!? だから違うんだって! やってねぇって! 信じろって! それでも俺はやってねぇ――――っ!!!!」
セレニア「???」
ウーマロ『ウッゴ♪ ウッゴ♪』
次回!『FF伝説乳揉み事件、ウーマロは見ていた!?』をお楽しみに!(嘘予告)