FINAL FANTASY Ⅵ~偽レニア~   作:ひきがやもとまち

16 / 21
複数の長らく更新止まってた作品を執筆中です。とりあえずは偽レニアから出来ましたので更新しておきますね。
帝国軍陣地の内輪事情まで書きたかったんですが、この時間帯だと頭が回らず向いてないみたいなので次話以降ということで(;^ω^)


第16章「北大陸東半分を、歩こう~♪ 歩こう~♪ 私の隣は雪男さん」

 ――冷酷非情と名高い暗殺者シャドウ・・・。

 仕事に私情を交えず、金のためなら親友ですら殺しかねないと恐れられている超一流のプロフェッショナルである彼が、この時期の北大陸東側に位置する他国との国交を断絶していたドマ王国を訪れていた理由は定かではない。

 

 帝国軍に雇われて密偵の仕事をしていたのかもしれないし、籠城するドマ国に物資を運び込んで後方支援を担っていたのかもしれない。

 あるいはロック不在のリターナーが帝国軍の包囲下に置かれたドマと連絡を取るため雇っていた可能性もあれば、ただ単に偶然立ち寄っていただけという選択肢を情勢だけを根拠に『あり得ない』と断定する愚か者の意見を肯定する側にも否定する側にも事実である確率は実質同じシュレティンガーの猫にしかなりようもない。

 

 どれにしろ、どれでないにせよ、彼がこのときドマ国の外れにある小さな小屋に立ち寄っていたことは事実であり、その理由は未来になっても謎のままである。彼が自分の行動理由となるべき証拠を残すことを許さなかったからだ。

 

 それが誰のためで何のための行動であったのか黙して語らず、命尽き果てるまで光さす表舞台に生きる誰かの行動を『影』として支え続けた彼の心の内と真実の動機は誰にも知られぬまま、知らせぬまま人生を終える男『暗殺者シャドウ』

 

 数少ない確実だと断言できることは、今このとき彼はドマ国の外れにある小屋にいたこと。その小屋の近くに流れる川にマッシュたちが流れ着いていたこと。北大陸の東側を旅するため必要な情報を得ようとマッシュたちがこの小屋を訪れたときに出会う機会があったこと。

 

 そして――――

 

 

 

「わ――――ッ♪♪♪ 犬さんです! 犬さんです!! お久しぶりですね!? 元気でしてか!?

 なにはともあれモフモフさせてください! 癒やさせてください! ストレスで疲れた心と体にアニマルセラピーは大事なリフレッシュ方法だと私は信じていますので!!」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

『えーと・・・、なんか連れのガキが迷惑かけてしまってるみたいでスンマセン・・・』

 

 

 どっかの世界にあるストレス社会の国から落ちてきたというか、捨てられてきた残り滓少女の癒やしを求める心によって(また)迷惑をかけられていたという事実だけだった・・・・・・

 

 何というかこの男、変な所で運がない。

 無口で必要最小限のことしか口にしない性格と『保身』を覚えた状態の偽レニアとの相性は最悪なのに、妙に出会いやすいしタイミングも最悪なときばかりに出会っている。

 数としてはサウスフィガロで出会って別れてから大した日数も経過してはいないのだけども、その過程でストレスが溜まるようなことが色々あって(必殺技で吹き飛ばされたり、反乱行為の主力メンバーに加えられたり、元男の記憶ある中でタコにセクハラされたり、雪男の娯楽に付き合わされる際に選択肢が与えられなかったり等)癒やしを求めたい心境のときに再会してしまっている。

 

「ん~♪ カワイイですね♪ カワイイですね♪ もふもふです♡」

『・・・・・・』

 

 そして絡まれているシャドウの愛犬、インターセプターもこの時ばかりは正直、主人にちょっとだけ迷惑をかけてしまってもいたりする。

 他人には懐かず、普段は飼い主の影のように付き従う愛犬も男相手には「ワン!」と一声吠えるぐらいの拒絶は示すのだが、どういうわけだか女の子・・・・・・特に小さな少女と純粋な娘に対しては吠えもせず、顔も向けずに黙ったまま身じろぎさえしようとしないで無反応を貫き通すという変わった性格を持ち合わせているために、『癒やしが目的なので懐かなくても抱きしめさせてくれたらオールOK!』な心理状態のときの偽レニアには他の犬よりむしろ都合よく抱きつきやすくなってしまっているからだ。

 

 要するに、体のいい『抱き枕』か『大きな犬のヌイグルミ』扱いされてる様なものなんだけれども。

 犬なので(たぶん)そこら辺のことまでは分からず、ただ黙ったまま大人しくモフモフされて、とある事情で子供には手を出せないシャドウに仮面の下で困らせながら、残る大人二人にこんな会話を交わさせあっていることにも気づくことは多分ない。

 

 

『・・・・・・ヒソヒソ(・・・おい、マッシュ! どういうことだアレ!? 説明しろ! ありゃどう見ても裏社会で名の通った冷酷非情の殺し屋シャドウじゃねぇか!! なんであのガキは、あんな奴と平気で話しかけていやがる!? 殺されてぇのか! そして何で殺されねぇんだよ!? 訳わかんねぇぞ! 説明しやがれッ!!)』

『・・・・・・ひそひそ(お、俺に聞くなよ! わからねぇし知らねぇよ! 俺だってシャドウの名前ぐらいは知ってたし、一目見た瞬間に「コイツは強ぇッ!」って解ったから注意深く近づこうと思ってる途中で先を越されただけだって! 信じろって! てゆーか、俺もセレニアと出会ったのはお前と同じタイミングからだろうが! 俺が知るか! 兄貴に聞け、兄貴に!!)』

 

 

 と、仲良く顔つき併せながら仲悪い会話内容を交換し合う、師匠の仇同士な兄弟弟子のマッチョ格闘家二人組。

 実際、マッシュの言ったとおり彼が偽レニアと出会ってから共に過ごしてきた時間はバルガスとあんまり大差がなく、せいぜいバルガスの必殺技で吹き飛ばされてから援軍に駆けつけるまでの間はバルガスの方が付き合い長く、リターナーの本部でバルガスが閉じ込められてる間に二人だけで会話する時間があった分だけマッシュの方にアドバンテージがあるくらいで、合計して計算すれば二人のセレニアと過ごしてきた時間は両人を合わせても数日間程度しかない付き合いと関係の浅すぎる三人組だったため詳しい事情を知ってるはずもなかったわけであり。

 

『・・・・・・ウゴ?』

 

 この雪男↑に情報提供とか求めるのは人間には無駄すぎるので、選択肢さえ頭にわかない二人組であった。

 動物の言葉がたまに解る少女の過去について知りたいときに、動物の言葉は役に立たない。身内からの証言や、調べられてる当人に翻訳してもらって入手した情報を真に受けるアホがいるとしたら、平和ボケした日本で生まれ育った“自称”ベテラン刑事たちが出てくる苦労知らずな刑事ドラマの住人ぐらいなものだろうからねぇ・・・・・・。

 

 

「え~と・・・アンタも旅の者かなんかなのかい? 実は仲間とはぐれてしまって、ナルシェに行きたいのだが、どう行けばいいのか知らないか?」

「・・・東の森を抜けたところに帝国軍が陣を張っているらしい・・・」

 

 マッシュが初対面の相手に道を尋ねるにしては少しだけ、ざっくばらんな口調でシャドウに尋ねかけ、シャドウもまた少しだけ婉曲な答え方で相手の求めに応じてやることにする。

 コレでも一応は元王族なので、最初はもっと初対面らしく礼儀正しい口調で質問する予定でいたマッシュなのだけれども、どっかの国とは立場逆転して犬まっしぐらに飛びついてってしまった異世界転生者の残り滓少女によって色々台無しにされてしまった後なので「今更取り繕っても遅すぎるよな・・・」と割り切らざるを得なくなった結果である。

 

「帝国軍が!?」

「どうやらドマの城を狙っているような気配だ」

「ドマの城か・・・、でも俺は急いでナルシェに行かなければならないんだ」

 

 とは言えコレは必ずしもシャドウ相手には間違った対応ではなかったらしく、意外にも彼は『金のためなら親友ですら殺す』と言われる冷酷非情な暗殺者らしくもない提案をマッシュたちに振ってきてくれたのであった。

 

「どのみちナルシェに行くには、ドマを抜けるしか道はない。

 お前たちが帝国軍陣地の眼前を通りる危険性を承知でナルシェに行きたいというのであれば、俺がドマへ案内してやってもいいんだがな。

 ただし俺は、気が変わったらいつでも抜けさせてもらうつもりでいる。その代わりとして代金を寄越せと言うつもりもない」

 

『え! マジで!? 本当なのか、そのうまい話は!?』

 

 

 金のためなら親友でも殺すと言われる世界的に有名な暗殺者シャドウ・・・つまり『雇うと高いプロフェッショナル』から『タダ(無料)でいい』と言われた途端に飛びつくダンカン師匠の仇弟子コンビな二人。

 金にうるさい小物で小悪党な兄弟子に、修行バカで金銭管理が苦手なうえに手持ちが乏しい山暮らしな弟弟子の二人にとって、『本当は高いのに今ならタダ』という言葉は魔性の響きを持っており、まるで魔法のように心を惑わされそうになる。

 

 『貨幣とは人類に成長と堕落を同時にもたらした最高のまじない』・・・そのように表現した言葉をセレニアの前世はというか、偽レニアのオリジナルが生まれ変わる前の現世で聞いたことがあるはずだから何かしらのツッコミを期待しても良かったところなのかもしれなかったけれども。

 

「んー♪ 大人しくていい子ですね~♡ よしよしです~☆」

「・・・・・・」

 

 無言のまま余所を向いてる犬にかまけて、一人ムツゴロウ王国やっているせいで聞こえてなかったから無理。ほんとーにこの子はオリジナルと違って肝心なところで話を聞いてないことが多すぎる・・・。

 

「い、いや。でもいいのか? 俺たちにとっては有り難い話だが、アンタに何かメリットがあるとも思えない。俺たちにしたところで何かで報いてやれる当ては残念だが持ち合わせていないんだが・・・」

「構わん。勘でしかないが、このままドマに留まり続けても金になる機会は永久に訪れなくなる気が今はしている・・・。国の外まで運ぶ荷物が増えたと考えれば大したことではない。

 それに―――」

「それに・・・なんだ?」

 

 マッシュからオウム返しに真意を問われたシャドウは即答せずに肩をすくめて、自分たちのすぐ側でドマ王国の中に別王国を築きかけてしまっている少女と犬の姿に軽く一瞥を投げてから。

 

「――犬が解放されるまでは、俺もお前達と行動を共にせざるを得なくなったらしいのでな。しばらくの間は同道させてもらおう。・・・正直俺も、死神以外から追われるような気分になったのは今日がはじめての経験だ・・・」

『なんか本当に・・・・・・うちのガキが迷惑かけちまったみたいですみません・・・・・・』

 

 

 こうして再び頭を下げて謝る大人二人の礼儀正しく常識的な対応と、犬とじゃれ合うと言うより犬にじゃれつく一方的なお触り少女になってしまっている記憶合計年齢30歳前後のはずの転生者から溢れおちた残り滓少女たちは、新たに旅の道連れを加えて計4人と2匹にまで膨れ上がってから北大陸東半分側の大冒険を開始することになるのであった。

 

 ・・・なんか、川を下りはじめた直後よりも人数が多くなってしまっているような気がしなくもなかったが、今更減らせるわけでもないしメリットも見いだせそうにないので由としておき、誰も口にしないまま東側唯一の王国ドマ国の国内を冒険するたびに出ることにする。

 

 

 ――この世界の北大陸が【コルツ山脈】によって東西に隔てられ、境界線となっていることは既に述べた。

 ただしそれは、軍事的なミリタリーバランスの話だけではなく、地政学的にも北大陸はコルツ山によって東西に別けられ、ほとんど違う大陸同士が隣接し合って北大陸と呼ばれる地域を形成しているのだという事実も重ねて伝えておくべき事柄であっただろう。

 

 コルツ山から西側に延びる北大陸の西半分の地形には、フィガロ砂漠に極寒のナルシェ鉱山、階級国家ジドールにいられなくなった者たちの住まう町を山に沿うように増築が繰り返された犯罪者の町ゾゾなど、比較的狭い地域にいくつもの異なる地形と気候が乱立する土地柄が特徴だ。

 これはバリエーション豊富な地形である一方で、統一には不向きな地質であることをも意味しており、隣国とも呼ぶべき至近距離にあるナルシェとフィガロが化石燃料の交易は活発におこないながらも国同士の交流はほとんどしてこなかった理由の一端はこれにあると唱える学者も少なくない。

 

 逆にドマ国のある北大陸東半分の地形は、【獣ヶ原】を含めて7割以上が平野部に覆われた穏やかで凹凸の少ない平らな土地で形成されている。

 気候としては『温暖湿潤気候』に分類され、一年を通して春夏秋冬こそあれど極端すぎる暑さ寒さとは無縁な環境条件を地域全体が土地柄として持ち合わせていたために、他国に比べて統一と独自な文化の保全が容易であり地域全体が一つの国として他国との交わりあいを拒絶するようになっても地域格差が生じず1000年近くの間、国家としての機能を果たしてこれた理由にもなっている。

 

 

 これが東と西で、北大陸が国だけでなく文化までもが完全に隔てれてしまった理由である。

 平野部であるが故に巨大な地圧を長期にわたって加え続けることができない東側では、ナルシェのような大規模鉱山を生み出すことはできぬまま小規模な鉱山を掘り尽くすまでは使い続けるという方式を採用して、同じ国内にある全ての地域を短時間で移動できるドマ鉄道の敷設に貢献することができた。

 これは東側独特の蒸気機関であり、地域ごとに国だけでなく自然の巨大障害物までもが存在する西側半分では技術面以前に解決すべき点が多すぎて設計すらされたことがないドマ王国だけが生み出せた産業文明の所産である。

 

 が、一方で1000年近い歴史を持つ古い国故に、ドマ王国内にある小規模鉱山はあらかた掘り尽くしてしまって採掘量は年々低下傾向に転じてしまっていくつもの路線が廃線になってしまい、最後に残っていた歴史ある一車線も帝国軍の侵攻が始まったことに併せて廃線が決定され、今ではドマ鉄道は記憶の中にのみ残された綺麗な記憶の一部にまで成り下がってしまっている。

 

 逆に西側では、様々な地形ごとに適応した国と文化と技術革新が必要性から生み出され続けており、フィガロ城による砂漠へのダイブと砂中移動もその成果の大きな一つと誇って良いだろう。

 

 

 

 

「ところで、マッシュさん。このドマ王国ってどんな国なんですかね? 知ってる範囲だけで構いませんので教えていただくことって出来たりしません?」

 

 そんな事情を抱えた国を旅しはじめながら偽レニアは、なんとはなしにマッシュに対して問いを発してみた。

 別になにか深い思惑や試作があっての質問ではなく、ただ暇だったからというだけである。平野部だし、歩くだけなら普通に暇だし。子供なんだから仕方ないじゃん。

 と、保身を覚えた偽物のセレニアは恐れ入ることをまったく知らない、肉体的には子供な少女でありましたとさ。

 

「あ? どんな国ってお前、その質問は俺だけじゃなく他の奴に聞いても無駄な類いだと思うぞって、さっきバルガスから言われてじゃねぇか」

「わかってますよ。私だって今から行くところの情報に正確さを求めるなら、聞くより先に走って到着時間を早める方を選んでますし、あくまでマッシュさんがお伽噺とか噂話とかで聞いたことある話とかないかなーって思って聞いてみただけでしたから、ないならないで一向に構いません。お手数おかけしましたね」

 

 アッサリ退いて元いた自分の位置に戻るセレニア。本気で暇潰しでしかなかったため、発つ鳥あとも残さず気にもせず、普通に元へと戻っていく後ろ姿を見送りながら

 

「えーと・・・・・・」

 

 なんとなーく負けたような気がして、頬をポリポリかいてしまう勝負バカの嫌いがある格闘家マッシュ。

 そんな『勝つために手段を選ばない戦いは嫌いだが、勝てないのはイヤだ』を地で行く弟弟子の性格を、ある程度は把握していたバルガスが皮肉気な口調と視線で語りかけてくる。

 

「お袋が寝物語にとかなんとか言って、話してたお伽噺があったじゃねぇか。アレ教えてやれよ。ガキ相手には丁度いいだろう?」

「え? あ、ああ・・・師匠の奥さんが子供の頃の俺に話してくれてたアレかあ・・・でも、ちょっとアレはなぁ・・・」

「別に俺のことは配慮する必要はねぇよ。

 出来が悪くて素行も悪い嫌われ者の息子と、素直で年寄りの話をよく聞いてくれる拾い子のガキを比べたら俺だって楽な方を話し相手に選ぶだろうし、少しぐらいは可愛がるだろうからな。

 まして素直なガキが好きで、生意気なクソガキが嫌いなジジババどもなら尚のことだ。気にすんな」

「う゛・・・・・・ぐ・・・」

 

 思わず、呻かざるを得なくされてしまうマッシュ。

 バルガスの言うことは尤もなのだが、だからと言って『可愛がられていた拾い子のガキ』である自分が、『素行の悪い嫌われ者の息子』の眼前で、彼を生んだ実の母親が自分にだけ教え続けてくれたお伽噺を他人に語って聞かせる行為になんの抵抗も感じないでいられる性格をマッシュは持ち合わせていたことが一瞬もない。

 また、逆恨みでしかないとは言え、『その想いの積み重ねが師匠を兄弟子に殺させた』という結果に繋がってしまっていた事情を知る今の彼としては尚更だ。

 

 もちろん、誰が悪いのかと聞かれたら『師匠を殺したバルガスが悪い』と断言できる程度には道理をわきまえている彼であるが、その反面『もし自分が身を引いていたら師匠は・・・』という想いも捨てきれないのも彼という男である。生まれ持った性分なので致し方なし。

 

「・・・、わかった。教えてやるよ。あくまで子供の頃に師匠の奥さんから夜眠るとき子守歌代わりに聞かせてもらっていただけのお伽噺でしかないんだが・・・・・・」

 

 

 迷った末に、語り聞かせる選択肢を選んだマッシュは、遠い昔の記憶を掘り返しながら一言一句ていねいに教え伝えるように話し続けていく。

 

 それはマッシュにとって、今は亡きダンカン師匠の年老いた奥さんが自分にしてくれたこと、教えてくれたことを少しでも誰かに伝えて覚えていてくれる人を増やしたいと願う彼なりの親孝行。

 決して歴史保全や、古き良きお伽噺の文化を守ろうなどといった崇高な使命感に駆られておこなった行動ではなかった。

 

 

 そしてだからこそ、この時語り聞かせたお伽噺が結果的に、滅び行くドマ王国の姿と文化を後世に伝え残す作業の一環につながっていく未来など、今の彼には想像すらしていない。できるわけもない。

 

 だが、それでも彼が無意味と思ってした行動は、後に大きな意味を手に入られることになる。

 何かを正しく残そうとした帰結として、偏見に基づく誤解しか残せなかった者がいるように。

 ささやかなモノを残したいと思い、結果的に巨大なモノを正しく残すことが出来てしまった者たちも大勢いるのが人の歴史というモノなのだから。

 

 後に偽レニアは夢の中で、どこかの誰かが自分に似た声と顔と似ても似つかない無表情を浮かべながら、『前世の知識』でこういう風に表現すればいいということを教えてもらうことになる。

 

 

 

“人は歴史を創り出し、人は歴史を語り継ぐ。・・・と、私は昔どこかの歴史学徒さんに教えられています”

 

 

 

 そして偽レニアは・・・・・・・・・眠かったので二度寝して、そのまま忘れて次の朝を迎える自分の未来を、今も昔も未来でもたぶん知らないし忘れたまま終わるんだと思う。

 

 残り滓でしかない子供の記憶力なんて、所詮そんなものである。

 

 

つづく


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。