FINAL FANTASY Ⅵ~偽レニア~   作:ひきがやもとまち

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久しぶりの更新となります。こんな時間になっちゃったせいで頭が途中からおかしくなってるかもしれませんが、それなりには考えてたのが書けたと思われます。


第17章「帝国軍陣地に、主人公たちはまだ着かない」

 ドマ王国は、かつて魔法が存在して失われた異世界にある国家の中では唯一、魔大戦勃発以前より存在していた国と呼ばれている古い歴史を持つ大国である。

 その事実は、フィガロ王国やガストラ帝国といった新興国の誕生から今までの時間をともに同じ世界に存在する国同士として歩み続けてきたことを意味してもいる。

 

 だが、その反面ドマ国の文化や政治体制について外国人が知っている情報は極めて少なく、一般にドマ国について知られていることと言えば、この二つに集約されるだろう。

 

 即ち、【サムライ】と【ドマ王城】、この二点にだ。

 

 サムライは、他国には見られない風変わりな職業で、代々ドマ国王の護衛を任されてきた凄腕の剣豪たちとして知られており。

 ドマ王城は、魔大戦の破壊の中でも崩れることなく今も残り続ける世界唯一にして最古の城として、その雄大さと堅牢さは他国にまで鳴り響かせている。

 

 そして現在、ドマ王国は三年ほど前から帝国軍との間で戦争状態に陥っており、両軍兵士たちによる小競り合いが多発していた。

 そのドマ王城から西へ数キロほど離れた位置に、帝国軍が構築させたドマ国制圧のための野戦陣地が造られていたのだが。

 その場所で今、ある問題が起きて帝国軍兵士たちを悩ませていた――――。

 

 

 

「忠勇なる帝国軍兵士諸君! 我々がこの地へ赴いてきた目的はなにか!? 安全な土塁に身を隠し、兵士たちが命がけで敵と戦い散っていく戦場を見物するためか!? 否だ! 断じて否である!」

 

 張りのある声が帝国軍陣地内に轟いている。

 階級ごとに色で別けられた帝国兵たちが着ている軍服姿の中で、その下士官が着ている物はやや異端で、毒々しいダークグリーン色をしていた。

 その色は、彼の演説を聴かされている兵士たちが焦げ茶色の砂漠になじみやすい軍服で統一されている中にあっては良くも悪くも目立っており、ハッキリ言ってしまうなら悪目立ちしていた。

 

 どうにも悪役臭いのである。

 

 子供向けに読んで聞かせる童話の中に出てくる『悪の軍団を率いる隊長』のような印象を受けさせられる男の言葉を聞かされながら、兵士たちは一様に不快そうに顔をしかめながらも沈黙を貫き、これから自分たちを率いて突撃していく隊長殿の話を直立不動のまま“聞き流していた”

 

「我々はドマ国と戦って勝利し、占領し、偉大なるガストラ皇帝陛下に捧げるためにのみ、この地へ馳せ参じてきたのである! 帝国の栄光と世界制覇の野望実現のため、個人のちっぽけな命など惜しむべきでは決してない! たとえ我々が敵に敗れ、玉砕しようとも、それは栄光ある帝国軍兵士の本懐であり、その魂は未来永劫ガストラ皇帝陛下とともにあり続けることだろう!!」

 

 無駄に長く、勇ましいだけで中身のない敵城攻撃開始前におこなわれる士気高揚のための扇動演説。

 口で言うより結果を見せた方が早いという事実を、骨身に染みて実感している帝国軍陣地に配属されて長い古参兵たちにとっては聞くに堪えない戯言だったが、それでも彼らが黙って聞いてやっているのは、『無駄に長くて無意味な演説だから』である。

 

 無駄話を聞かされている時間が長ければ長いほど、実際に敵城へ突撃して無駄死にする危険を冒すまでの時間が長くなる。・・・そのように頭の中で計算しての沈黙だったが、そろそろ今日も隊長殿が痺れを切らす頃合いが来たようだった。

 

「よし! これよりドマ城に対して突撃を行う! 総員、突撃隊として出撃せよ! 今すぐにだ! 総員、我に続けー!!」

『おぉぉぉぉッ!!!』

 

 威勢だけはいい掛け声をあげて唱和しながらも、ノロノロとした足取りで嫌々ながら作戦に付き合わされていく帝国軍の兵士たち。

 

 その声を、陣地の中に立てられたテントの中の一つで聞きながら、ドマ王国侵攻軍司令官であるレオ将軍は、地図に落としていた視線をあげて声の聞こえてきた外を見て、

 

「――定期便が今日も行ったか・・・」

 

 と呟いた後に溜息を吐く。

 

「兵士たちには可哀想なことをしてしまったな・・・」

 

 と、後悔と反省を同時にするような声を出し、表情を歪めた。

 彼の気持ちを慮ってか、古参の兵士たちや参謀たちは慰める声もなく視線を下げて、沈痛そうに苦悶の表情を浮かべるのみ。

 将軍の事情に同席し、ことの原因を知る彼らとしては声もなかった。

 

 レオ将軍は彼らの気遣いから来る沈黙に感謝しながらも、それでも心の中で慨嘆せずにはいられない。

 「あの、ケフカが余計なことを言い出さなければ」―――と。

 

 

 

 現在、帝国軍陣地が抱えるようになった問題点。それは帝国本土から『援軍』として送られてきた男、ピエロのような格好をした魔導師ケフカとレオ将軍の意見対立から始まってしまった反目だった。

 

 ケフカは当初、侵攻開始から三年かけても未だドマ国を攻め落とせずにいるレオ将軍の侵攻部隊に対して、「皇帝陛下から与えられた任務を本当に実行しているのか否か」を確かめて報告するためという名目で軍監としてやってきただけのはずだった。

 

 軍監とは、独裁者に率いられた軍隊でしばしば見られる特殊な役職のことで、国家統治者の代理人として将軍と率いられている兵士たちの功績を記録し報告することだけが任務であって、副将でもなければ参謀でもなく作戦指揮や統率について口を差し挟む権利や資格はないはずの役職でしかない存在だった。

 

 だが、最初はそれで我慢できても、すぐに地が出る。

 ケフカも当初は、なんやかやと嫌味を言ってきながらも作戦内容までは偉そうに差し出口を差し挟むだけで、自分の意見を実行するよう命令口調で押しつけてくるようなことまでには至っていなかったのだが、それも陣地に着いてから三日後には空の彼方か記憶の彼方へ飛んでいってしまっていた。

 

 

『私に言わせれば、ドマごときをま~だ落とせずにいるのは、レオ将軍のやり方が甘いからなんだよ。わかるかい? えぇ?』

『・・・・・・』

 

 数日前におこなわれた作戦会議中に、許可も得ぬまま乱入してきて持論を展開しだしたケフカを、今になって思うと最初の時点で首根っこを掴んで放り出してしまうべきだったかと後悔してもしたりない気分にされてしまう。

 

『ドマ国のヤツらは籠城戦が得意で、城に立てこもってしまったから時間をかけて確実に落とすとレオは抜かしているが、それこそヤツが甘ちゃんなだけの無能な証拠だ!

 籠城なんてものは援軍を当てにして引きこもってるだけで、助けが来なけりゃ飢えて死ぬしかない臆病者の作戦でしかないというのに、そーんな臆病極まる古くさいカビみたいな国を落とすのに慎重になりたがるアイツは兵士どもを死なせるのが嫌だけなんだ! 偽善者め!

 犠牲を惜しまず兵士どもをドマ城めがけて突撃させ続けさえすれば、あんなボロっちい城は簡単に落とせる! そ~んなことも分からないクセに将軍を名乗り続けて、よくガストラ皇帝に恥ずかしいと思わないものだな! えぇ~? レオ将軍っ』

 

 戦術に関しても自分はレオより上なのだと、周囲の部下共に見せつけてやるため大声で説明してやって、帝国本土から連れてきていた自分直属の部隊である太鼓持ちどもから「おおー! さすがはケフカ様だ! 天才だッ!」と持ち上げられて満更悪い気分にもならなかったケフカであったが、彼の話を黙って聞いていたレオ将軍がまぶたをゆっくり開いて目に強い光が灯った次の瞬間に。

 

『素人の意見だな、ケフカ。机上の空論だ。実に青臭い』

 

 レオ将軍らしからぬ毒に満ちた罵声によって、一気に顔色と機嫌とを激変させて怒り狂った。

 あらん限りの勢いでぶつけてくる、感情的ではあっても無意味な罵声は無視して、意味のある戦術面での意見の根本的間違い指摘だけしてやりながら、レオ将軍もまた激情を胸に宿して怒りに打ち震えていた。

 

 彼は指揮官として、兵士たち一人一人の死を悼んでいたから、無駄死にを賞賛するかのようなケフカの愚劣な意見を聞かされ怒りが怒髪天を衝く寸前になっていたのだった。

 

『戦の基本は守りにこそある。我々は侵攻軍だ。本国から遠く遠征してきて補給も満足にはままならん。それでも我々は敵国を攻め滅ぼして占領しなければ勝てんのだ。

 ドマ国の軍は守り切れば勝ちになれるが、我々帝国軍は敵を倒せなければ負けになる。短期間でドマ城を攻め落とすことなど誰にもできん。

 お前の言った作戦は、子供向けの戦記物童話の主人公としてなら満点かも知れないが、現実の戦争では物の役には立たん。戦を知らぬ素人の魔道師は黙って見物でもしていればいい!!』

『やってみなければ無理かどうかなんて、わからんだろうが!!』

『だったらやって見せろ! できたらお前のバカ話でもなんでも聞いてやる!! このバカ!!』

 

 

「いやー、あのときのケフカが見せた表情は傑作でしたな-。今思い出しても笑いが止まらなくなりそうです。アレを見れただけでも我々が今している苦労には価値があったと本心から思えますよ本当に」

「・・・・・・皮肉を言わないでくれ、少尉・・・。大人げなく、バカなことをしてしまったと心底から反省している。もう二度とあんな先走ったことは言わんと約束するよ。この通りだ・・・」

 

 そう言って、軽い口調で笑いながら皮肉ってきた年来の部下に対して苦笑しながら頭を下げるレオ将軍。

 自分が悪いと思ったときには、部下に対しても頭を下げれる度量は、たしかに誠実そのものではあったが、実際問題あのときの不用意な発言が元で作戦の一部が瓦解しかかっているのもまた事実なため、将軍としては笑い話の冗談口で終わらせるわけにはいかなくなっていたのである。

 

 あの会議があった次の日から、ケフカは引き連れてきた直属兵に指揮させて、ドマ国侵攻部隊の軍を使った突撃作戦を何度も何度も断行させ続けては失敗を繰り返し、無駄な被害を出し続けていた。

 

 それがケフカの機嫌をさらに悪いものへと変えていってしまい、最近ではとにかく近くにいた兵士たちに当たり散らしては嫌味を言い、「とっととドマを落とせ!」と二言目にはそればかりになってしまっている惨状になっていた。

 

 確かに犠牲を気にせず繰り返される波状攻撃によって、ドマ城内にいる兵士たちは今まで以上に疲弊していっているようにも見える昨今ではあったが、帝国軍側の被害も無視できないものになってきている。思案の為所だった。

 

 特に、ドマ城への総攻撃をかけるタイミングが間近に迫ってきていることを知覚している彼にとっては尚更に今の時点で無駄な消耗は避けたい。

 時間をかけて小競り合いを続けて、敵に消耗を積み重ね続けてきた作戦が功を奏しようとしているのだ。これをケフカ如き道化者に邪魔されたら堪ったものではないのだから――。

 

「れ、レオ将軍! 戦況報告に上がりました!」

 

 その時、テントの中に伝令役の若い兵士が入ってきて声を張り上げて報告してきた。

 力が入りすぎた声と態度から、この陣地に配属されて日が浅いことは明らかであり、それ故に古参の兵士たちには伝令兵の出身地と事情が推察でき、やや同情めいた後ろめたい思いに襲われてしまう。

 それはレオ将軍とて例外ではない。

 

「先ほど出撃した突撃隊が隊長を討ち取られて撤退してきました。ドマの者は籠城戦の構えを取ったようです!」

「やはりな、お得意の戦法でくるか。ドマとしては当然の選択だろう」

 

 若い伝令と違って、レオは悠然としている。

 もともと魔大戦を生き残ったドマ城は、世界に鳴り響いている堅牢さを誇る難攻不落の城であり、ドマ王のそばを片時も離れることなく守り続けている手強い剣士のサムライたちも城の近くでなら積極的に打って出てくる戦い方が可能になるのだ。

 帝国軍としては戦い難いことこの上ない状況であり、ドマとしては非常に戦いやすい戦術なのだから当たり前の結実でしかない。

 

 だが、しかし・・・・・・。

 

「将軍、私たち兵士一同は城を攻める心構えはできています。

 いつでも命令を下してくれさえすれば・・・・・・」

「そう焦るな。もし今ドマ城に攻め込んだとしても無駄な犠牲を払うだけだ。意味はない」

「しかし、このままではケフカ様に城を落とされ、レオ将軍の手柄が彼のものなってしまうおそれが・・・」

「力尽くで突撃するだけでは無駄死にになる。ドマ城が力だけで落とせるのなら、あの城は魔大戦のとき既に落とされていただろうからな」

 

 自嘲気味にそう言って、レオ将軍は複雑な笑みを浮かべる。浮かべざるを得ない。

 何故なら今言った言葉は、自分自身にこそ当てはまることだったのだから。

 

 

 ドマ国への侵攻作戦を開始する当初、レオ将軍は上陸と同時に魔導アーマー部隊と自分が直接指揮する歩兵部隊とを即座に進軍させて、直接的にドマ王城を襲撃することで電撃的にドマを落とすという戦略を立案していた。

 常の彼らしくもなく、強引な力押しの作戦のようにも見えたが、侵攻開始前に最低限調べることができたドマ国内の地図を見た上でなら仕方がないと誰もが納得せざるを得なくさせられる作戦でもあったのだ。

 

 なにしろドマ国内には港が一つも見つけられなかったからである。

 南大陸から北大陸まで長駆遠征する帝国軍にとっては、補給の負担こそが作戦を立てる上で一番厄介な点であり、戦術的選択肢を狭める縛りにもなっている問題点でもあったからだ。

 

 ガストラ帝国は世界最大最強の軍事大国であり、圧倒的大軍を要する国でもあるが、大軍は大軍であるが故に大人数を養えるだけの食料と施設が必須の存在となってしまう欠点を併せ持つ存在だ。

 ただ飯が食えればいいというものではなく、ベッドがあった方が冷たい石の上で寝るより兵士たちの回復は早いし疲れも取れる。酒場や食堂も休日に遊ばせて心身をリフレッシュさせる上でこれ以上のものは他にない。

 

 それらを賄うための施設を有する町や村をドマ国内に探してみたものの、沿岸部に築かれたドマ城以外に海沿いの町や村は、家が二、三件ある程度の小さな漁村ぐらいしか見つからずに、大部分の町や都市は内陸部の山や森に隠れるようにして建てられていることが判明しただけだった。

 

 ドマ城を落とすための拠点を手に入れるため、ドマ城を抜けて内陸部へと攻め込んだのでは本末転倒も甚だしい。帝国軍としては、ドマ城と直接対峙する以外に他の選択肢を見つけ出すことができなかったのである。

 

 だが、その様にして始められた侵攻作戦は最初からケチのつく連続だった。

 最初に上陸するまでは上手くいき、突然の奇襲で慌てふためくドマ国民たちを陽動として使わせてもらい、ドマ国側が的確な対処をするまでの時間稼ぎに利用しながら城へと続く道を一歩でも多く稼ごうとした作戦は、突然の衝撃から復帰したドマ国民たちが一丸となり、城へと向かって脱兎の如く列も乱さずに走り去って避難していく姿に帝国軍の方がむしろ唖然とさせられ、敵国民の緊急時に対する心構えを見せつけられる形で始めさせられてしまったのだ。

 

 その後も、虎の子の魔導アーマー部隊には、敵も精鋭であるサムライたちが惜しみなく投入させ一進一退の攻防を繰り広げられ、歩兵だけが突出させられてしまったところをドマ城の堅固な防壁を利用した反撃によって痛手を負わされ撤退させられ、散々な目に遭い敵の手強さとツェン・マランダ・アンブルグを電撃的に落とした功績に驕り高ぶっていた自分たちの怠慢ぶりを心の底から痛感させられ、襟を整え直させられる思いでもあった。

 

 最初の作戦失敗と手痛い敗北によってレオ将軍は根本的なドマ戦略の見直しを図ると、この地に本格的な野戦陣地築城を開始させ、本国からの補給物資を一定量は蓄えておけるだけのペイロードも確保させた。

 長期戦の構えを取り、ドマ国の占領のために本腰を入れて取り組む決意を新たにしたのである。

 

 この際、最も厄介だったのが本来であれば最も頼りになる補給先のフィガロ王国の港町サウスフィガロだ。

 あの町を後方基地として確保できれば、ドマ国の制圧のみならず面従腹背の同盟国たるフィガロ王国にも睨みがきかせられるようにもなり、尚且つドマを占領した後にはナルシェに向かって東と西の二方向から軍を派遣し侵攻することが可能となる。

 

 だからこそレオ将軍は、二方向で同時に別の手を打った。

 ドマ国へは小競り合いを連続して行わせ続けることにより、大部隊同士による本格的な武力衝突の回数が少ないという事実を隠して目隠しとして使い、サウスフィガロに対しては手紙を使って町の要人を内応させることに成功した。

 

 機は熟した。彼はそう見ている。総攻撃をかける準備は整ったのだ、と。後は命令を下すタイミングの問題でしかない。

 残る問題は、後からやってきた軍監殿にとっととお引き取り願うことだけだった。あの男は何をしでかすのか予測できない・・・・・・折角ここまで進めてきた作戦を台無しにされてしまったのでは、死んでいった兵士たちに合わせる顔がない以上、戦略的勝ちを収めたレオ将軍としては思案の為所はその一点に尽きていた。

 

 だが、今。

 

「――しかし! 将軍、私は帝国のためなら、いつでも命を落とす覚悟はできています!」

 

 若い伝令兵からの、越権行為とも呼ぶべき熱心な嘆願によってレオ将軍は心をわずかに乱されてしまっていた。

 相手の抱える事情を推測でき、その真相を知る立場にいるが故に、レオ将軍は苦い思いを厳つい顔の軍人らしい表情によって取り繕って、優しい口調で諭すように言ってやる以外にしてやれることは他になかった。

 

「・・・お前はマランダ出身だな?」

「は? は、はい。しかしなぜ?」

「国には家族もいるだろう。この私にお前の剣を持って家族のところへ行けというのか? その時私はどんな顔をすればいい?」

 

 帝国軍の将軍として、言いたくても言えないことがあり、教えてやりたいと願っても教えてやることが叶わぬ真相がある。軍人というのは、己の心を行動によって欺くことを求められる職業なのだ。どうしようもない。

 だからせめて、自分の思いだけは正直に伝えておく。たとえそれが、自分の思いで政治的な真実を隠したいだけだと承知していても思いまで嘘で告げるよりかはマシなはずだと信じたいから・・・・・・。

 

「お前は帝国の兵士である以前に、一人の人間だ。ムダに命を落とすな。ガストラ皇帝もきっと、そうお望みだ」

「は、はい! 失礼なことを申し上げてすみませんでした!!」

 

 元気よく頭を下げて退室していく若い兵士。

 

「・・・若いですね・・・そして純粋です。羨ましいことですね・・・」

「・・・・・・ああ、そうだな」

 

 部下の一人がほろ苦い笑みとともにつぶやきを漏らし、レオ将軍もまた苦笑いとともに首肯する。

 事情を知っている者同士、真相を知ることができる地位にある者同士のやり取りであり、苦い思いと思いによる共感だった。

 

 

 ・・・・・・実のところガストラ帝国が、ツェン・マランダ・アルブルグの南大陸にある三国家を瞬く間に併呑して占領したのには必要性からの理由と目的が存在する行為だった。

 

 数が、足りなかったのだ。

 

 頭数としての兵士の数がガストラ帝国には致命的なほど足りなすぎた。それが三国を電撃的に征服して占領した真の理由であり目的だったのだ。

 たしかにガストラ帝国は世界最大の軍事国家であり、ガストラが皇帝の地位に就いてから軍備拡張を国策として推し進めてきたし、魔導アーマーをはじめとする魔法と科学を融合させた全く新しい新機軸の兵器を有してもいたし、ガストラ自身も大資産家で傭兵を集めるために金を惜しむことは全くない。

 

 だが、それでもなお足りないのだ。世界全てを相手に侵略戦争を仕掛けて、世界中すべての土地を戦場にして戦うためには帝国軍の兵士たちは致命的なまでに数が足りていない。

 どれほど軍備を増強し、魔導アーマーを大量生産できるようになったとしても、国の人口までは急激に増やすことはできない。

 だから帝国軍は、頭数となりうる若い成人男性の兵士を求めてツェン・マランダ・アンブルクに攻め込んで占領し、現在も警備の名の下に魔導アーマーを街の入り口と街中の一部に配置させたままの状況を維持しているのだ。

 

 ていのいい人質だ。レオ将軍も部下もわかっている。

 そして若い伝令兵が命がけで帝国のために尽くそうとしてくれているのも、明言されたわけではないが、帝国勝利のために貢献した占領国徴集兵の家族には帝国首都ベクタに住む権利が与えられ、一級市民権まで保障してもらえるのだとする噂がこれ見よがしに流布している状況に帝国軍があるからだということをも理解していた。

 

 ・・・帝国軍自身が流しているガセ情報だからだ。それをやらせている張本人たちの一員である自分たちが知らないで居られるはずがない・・・。

 

「・・・イヤな話です。勝利のためには味方の兵まで騙さなければいけないなどというのは本当に、イヤな話だ・・・」

「そうだ。イヤな話だ。だからもうこれ以上、イヤな話をイヤな話として続けたくはない。

 ドマとの戦いには事実上、勝利した今となっては彼らの命をムダにすり減らすべき理由もなくなるだろう。

 私を先頭にして一気呵成に場内へと攻め入り、ドマ国王から直接ドマ兵たちに降伏を命じてもらえれば戦いは終わり、それ以上の犠牲は出なくて済む・・・。私はそうなることを望んでいるのだ。

 ケフカになんと罵られようと、こればかりは変えることができない私の性分なのだからな・・・・・・」

 

 沈痛そうな面持ちで呟かれる、自分たちの上司の戦略を部下たちは聞いて、同時に心の中でこう思うのだ。

 

“これ在るかな、我らの司令官”

 

 ―――と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、その頃。

 ドマ国から遠く離れた南大陸、帝国の首都ベクタに一羽の白い鳥が舞い降りていく姿を複数の市民たちが目撃していた。

 

 

「ガストラ皇帝陛下! ケフカ様から伝書鳩による報告書が届きました」

「なに? 許す、お前が読みあげてやるがいい」

「は? はぁ、わかりました。では読みます。えぇ~、“我らが尊敬するガストラ皇帝陛下、ご機嫌いかがでございましょう・・・・・・”」

「・・・・・・つまらん世辞の部分はいい、飛ばしてレオのことを見張っているかどうか書いてある部分から読むのだ。面倒でかなわぬ」

「は、はい。えぇ~、それでは“私はキチンとレオ将軍の野郎を見張っております。相変わらずアイツはいい子ぶってるだけで何を考えているかわからず、皇帝に反逆する気満々としか思いようがありません。そっこく処刑すべきだと断言いたします・・・・・・”」

 

 そして延々と並べ立て続けられているレオ将軍への悪口雑言、陰口の数々。

 慣れたこととは言え、あの男の鬱憤晴らしを用意してやるのを面倒なものだと考えながら大半の部分を聞き流していたところ・・・・・・結びの辺りで聞き流せない重要な文章が混じっていたことに、ふと気がつく。

 

「――待て。終わりの少し前にケフカはなんて書いてきておるか読み直すのだ。いや、ワシが直接読むから、その手紙をよこすのだ」

「はっ! ではどうぞ! 私は失礼させていただきます!!」

 

 なんだかよく分からない雲の上の権力者が何かを思いついたとき特有のワケワカラナイ反応に巻き込まれたくない気持ちがムクムク沸きまくってきていた兵士は、言われたとおりにケフカからの手紙を皇帝に渡して足早に玉座の間を去って行った。

 

 近くに側近たちしか立っていない鋼鉄と金属で形作られたガストラ帝国、玉座の間で椅子に腰掛けたまま先ほどまで退屈を持て余し気味だったガストラ皇帝は、ケフカからの手紙に書いてある内容を読み直していく内に表情が少しずつ変わってくる。

 

 悪辣で狡猾な、邪悪さを秘めた陰謀家の老人の顔に変化した野心と覇気あふれる表情で侍従を呼び、ペンと紙を持ってこさせて、書き終わった後に届けさせるための伝書鳩も用意しておくようにと命じる。

 

「畏まりました。直ぐにでも」

「うむ、頼むぞ。ケフカからの提案を聞いて良い策を思いついた故、さっそく使って試したいのだ。

 レオからの信頼を失うことなく、手紙一枚でドマを楽に手に入れられる方法がな・・・ククク・・・」

 

 

 

 そして、同じ頃。

 

 

「え、サムライという職業に、お城の周りを堀が取り巻いている作りの建築様式なんですか? ドマ国のお城って」

「あくまで聞いた話だけどな? まったく笑っちまうよな、水堀に囲まれた城なんてさ。城って言うのは普通、砂に囲まれて建てられてるもんだろ常識的に考えて」

「・・・いや、それはお前がフィガロ城で生まれ育った王子だからそう思うだけだと思うぞ? 普通の城は砂でも囲まれてる場所は少ないと思うのだが・・・・・・」

「常陸太田城・・・土浦城・・・、あるいは会津黒川城みたいな感じでしょうかね? もし見れるのなら豊臣政権時代の大阪城とか見てみたいですよね~♪」

「お前に至っては一体全体、どこの国のどんな城を基準にして妄想してるんだ?」

「ウッゴ♪ ウッゴ♪」

 

 

 歩くの遅いし歩幅も短いガキの混じった主人公パーティーは、ノンビリ解説しながら歩いてたせいで帝国軍陣地に着くのが、ちょっとだけ遅れてしまっていたりする・・・・・・。

 

 

つづく


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