FINAL FANTASY Ⅵ~偽レニア~ 作:ひきがやもとまち
ドマ国に関しては、出番が少なすぎるためオリジナル設定が大部分を占めてますけど、物語とは特に関係しませんので、そこはご安心ください。
注:最後ら辺に書き忘れた説明文を一部足しました。
帝国軍が築いた野戦陣地の東側、川を挟んだ対岸にドマ王国の居城たるドマ城はあった。
世界を焼き尽くした《魔大戦》の破壊から唯一生き残った古い歴史と独特の文化を持つ、この城で・・・・・・今。
この国で最高のサムライが、最期の時を迎えようとしていた―――。
「・・・・・・カイエン殿」
「・・・・・・」
小姓として付けられていた見習いの若い兵士から声を掛けられたドマ国の剣豪カイエン・ガラモンドは、ゆっくりと瞼を持ち上げ両目を開く。
そして、何か云いにくいことを自分に伝えようとしているらしい、苦渋に満ちた表情を浮かべる若き兵の顔を見つめ返すため、そちらの方へと重苦しい視線の位置を移動させた。
「・・・・・・先刻、シュウサイ殿が亡くなりました・・・・・・」
「・・・・・・・・・そうか」
沈痛な面持ちで、若い兵からの訃報という名の報告を聞き届けたカイエンは瞠目し、自分にとってもドマ国にとっても【最高のサムライ“だった”】偉大なる老剣豪にして最後の友人の冥福を心の中で静かに祈り、別れを告げた。
「シュウサイ殿からの御遺言です。最期に、こう伝えてくれと仰っておられました・・・。
“私に成り代わり陛下を頼む”、と」
「・・・・・・」
「そして、こうも続けておられました。・・・“カイエンに詫びておいてくれ”・・・・・・と」
――何を言われる。
カイエンは心の中で、敬愛する年長者にして歳を越えた戦友の言葉に義憤を覚え、否定の言葉を心の中で思わずにはいられない。
――詫びる必要など何処にあろう、と。
――詫びるべきなのは貴方では無く、自分だけの側のはずなのに・・・と。
「・・・遂に、拙者一人だけになってしまったのでござるな・・・」
玉座の間に立つカイエンは、兵からの報告を聞き終えて視線を転じ、階下に広がる無人となった謁見用の臣下が居並ぶべき空間に、二度と並ぶことが出来なくなった者たちの顔を一人一人思い浮かべながら、遠き彼方に過ぎ去った帰らぬ日々の栄光と友情を噛み締めていた。
カイエンは、帝国との戦いが始まってから一度も戦場に出ることなく、玉座の間で王を守り、仲間達が死んで逝くのを見送り続けることしか許されなかった唯一のサムライだ。
兵達やサムライ衆の仲間達が語っていた、『鎧の化け物』なる帝国軍の新兵器も一度足りと見たことが無い。
それが戦友達の願いだったからである。
魔大戦以前から存在していたとされる、ドマ国特有の風変わりな職業【サムライ】の役目は、今も昔も変わることなく『王の護衛』である。
たとえ国が滅びようとも、王を御守りして落ち延びさせるため命を捨てて守り抜き、捲土重来を成し遂げることで国と王家を再興させる・・・・・・それこそがドマ国だけが持つ独特の職業サムライの存在意義であり、サムライだけの理念である【ブシドウ】の果たすべき使命でもある。
だが、圧倒的物量差で迫る帝国軍を相手取っての此度の戦で、王の側から離れること無く国も王家も守り抜くことは不可能だった。
王を守り抜くためにも、城から出戦して帝国軍を撃退しなければならない。
だが、その間ドマ国王が直接狙われるという危険性は無いであろうか?
暗殺という卑劣な手段での決着は忌むべきものだが、城にこもる敵に有効な手であるからこそ、それらの脅威から王を守り抜くため側に控えて全ての危険に対処できる剣の道を究めし無二の忠臣だけで形成された剣豪達の集団【サムライ】という【職業】が登用された目的ともなっていたのだから。
だからこそ、戦友たる他のサムライ達はカイエン一人に、その役目を委ね、戦場に赴き、そして死んでいった。
―――お前が陛下を守ってくれるなら、我らは何の恐れも無く戦える―――
そう言って、何の迷いも恐れもない曇り無き笑顔で出陣して行った戦友達からが、一人また一人と城に帰陣してくる数が減っていく日々のなんと辛く重苦しい今までであったことか。
今ようやく、待つだけしか許されない過酷な日々の重圧が終わりを告げて、最後に残ったサムライであるカイエンには否が応でも王の側を離れて帝国軍と鍔迫り合う戦場に身を置くことを余儀なくされた身となることが許されていた。
ただ友達が死んでいくのを遠くから黙って見ているだけの拷問に等しい日々の重圧がなくなり、ようやっと肩の荷が下りたはずのカイエンの心。
・・・だが、その心に清々しさや自由を尊ぶ思いは欠片も沸かない。もっと耐え忍ぶだけの苦しい日々が続いてくれればと願わずにはいられないほどカイエンの心は、重苦しい重石を飲み込んだようなしこりが感じられて仕方が無かった。
――こんな自由ならば欲しくなど無かった。重くていい、耐えるだけの苦しい日々でいい。
生きて再会できる仲間達が一人でも生き残ってくれていた日々の方が、己が刃を自由に振るえる日々よりも遙かに貴重な価値を有していた事実をカイエンは、全てが取り戻すことの出来ない彼岸の彼方へと去ってしまった今になってようやく理解する。
それは遅すぎる開眼だった。もっと速く気づいていれば何か変わったかもしれない・・・不可能を承知の上で、そう思わずにはいられないほど大切すぎる仲間達との別れと想い。
悔やんでも悔やみ切れぬ自責の念と、亡き戦友達を悼む心。誰に向けることも許される事なき自分自身が背負っていかねばならぬ、彼ら託された重い責任。
その全てを背負った上で、やり場の無い思いをぶつけるべき対象が今この時だけは、“自分以外の他人”から齎されることになる――。
『て、帝国軍だぁぁっ!! 帝国軍が攻めてきたぞ――っ!!!』
「!! 来たかっ!!」
カッと目を見開いて、カイエンは激情を込めた眼で物見の兵が叫ぶ声と、木の板が打ち鳴らされる音に鋭く細い刀のような声音で決意とともに短く呟く。
それは最近になってから始まった、帝国軍からの昼夜を問わぬ波状攻撃を告げる声。
自軍兵士の犠牲すらも考慮しない戦法に、カイエンを初めとするサムライたちは激しく義憤の怒りを覚えたものだが、自分たちに対して有効だったことは認めずにはいられない。
ただでさえ帝国と戦い続けている世界中で唯一の国家として、三年にわたって長く猛攻を支え続けてきているドマ国の兵たちなのだ。心身共に疲弊し、気力で補っている部分は否定できないのが昨今の実情なのである。
その中で、一般兵士たちの損耗を少なくするためには精鋭たるサムライたちが、その隙を埋めるしか他に手はない。
だがサムライとて人の子。木の股から生まれた人外ではない以上、体力には自ずと限界があり、集中を乱せばサムライにも隙は生じる。
剣の腕では若輩たるカイエンを上回る境地に達していたシュウサイが負傷させられたのも、それが理由だった。
仲間たちの空いた穴を一人で埋め続けてきた疲労が、年老いた体と心に更なる負担を与え続けてしまった末での油断であった。
特に『鎧の化け物』とやらは皮が厚く、【必殺剣】でなければサムライであっても苦戦するほどの強敵。
それを相手にして、紙一重の見切りを得手としていた剣の道を究めし老体には不利な条件が重なりすぎていたのである。
「・・・・・・陛下っ」
決意を込めてカイエンは、自らの仕えるべき主を振り返る。
だが彼が振り返った時、既に主君の瞳は自分に向けられたまま微動だにせず、その想いもまた忠臣と共に一つのものとして多くの言葉を必要としていなかった。
「――征け、カイエンよ」
静かな声でドマ王は、相手が求め続けて欲していた『許し』を、家臣に与えた。
「カイエンよ、意地を通せ。国と民を守るため帝国との戦いの場に参陣するがよい。余の身命は主ら家臣たちと共にある」
「陛下・・・・・・」
「だが、死ぬことは許さん」
厳格な声と表情でドマ国王は、だがカイエンに許可だけで無く『迷いへの答え』もまた与える。
「お主の思いは察した。なれど、シュウサイの遺志を無にすることだけは罷り成らん。
――よいな?」
「・・・・・・っ!! ははぁっ!!」
深く頭を垂れながらカイエンは報答し、臣下の覚悟を思いやる仕え甲斐のある主を持つことが出来た自分たちの幸福に心底から感謝を捧げ奉る。
ドマ国王には解っていたのだ。シュウサイが最期に何故「詫びておいてくれ」とカイエンに言い残したのか、その想いに。
――カイエンにはもはや死ぬことが許されない。
今まで彼を信じて、彼が陛下を守ってくれているなら安心だと言って死んでいくことが許された戦友たちと違って、自分一人しかサムライたちがいなくなった今のカイエンには、帝国軍と戦って名誉の戦死を遂げることは許されなくなった身の上なのである。
戦友たちから託されたものがある。守るべき国があり、民たちがあり、そして生涯仕え続けると誓った唯一無二の主がある。
・・・そしてカイエンには、帰るべき場所がある。帰りを待っていてくれる愛しい者たちがいるのだ・・・。
国一番と謳われ、サムライならば誰もが懸想するとまで言わしめた絶世の女性を射止めた国一番の果報者に、剣の道に身を捧げて未熟にしか至れていない『所帯を持つには早すぎる』と笑い合っていた戦友たちがカイエン一人を城に残し続けてくれた今一つの理由を察することが出来ないほどドマ国王も彼自身も朴念仁ではなかったのだから。
「カイエンよ。今より汝を、シュウサイに代わって帝国軍撃退のサムライ大将に任ずる!
主命である、戦場にて鍛えぬし剣の技を存分に振るうがよい。ワシのために!!」
「御意!!」
短く力強く、そして万感の想いを込めてカイエンは答礼し、立ち上がって主を背を向けた時には振り返らぬ覚悟を決めて戦場へと赴く決意を固める。
主の顔を再び見えるのは、勝って堂々と正面から向き合える時のみ!
別れを告げるための振り返りなどは不要。未練を断ち切るための振り返りは無粋の極み。
サムライはただ、主を守るため、主の前に立ち塞がる敵の悉くを斬ることだけに己が全てを掛ければそれでよい。それ程までに信じられる主を持てた時点で、それ以上の何を求めるものがある。
「拙者が戻るまで、陛下を御守りする役目はお主に預ける。頼んだぞ」
「は、ははっ!!」
シュウサイの死を告げる役目を仰せつかっただけで、その後はただ涙ぐんでいた戦に出ることすら許されていない若い兵士に声を掛けながら、カイエンは王座の間を静かな歩調で、だが素早く駆け出していき。
「カイエン殿の・・・・・・新たなるサムライ大将殿の御出陣!! サムライ大将殿の御出陣!!」
その背中に向かって、身に余る大任を預けられたことに感動していた若き兵が、城中に轟き渡るほどの大声でカイエンが賜った新たなる称号と名誉、そしてドマ国王の意思と決定を叫び伝える。
その声を背中で聞いたカイエンを、苦笑とも微笑ともつかぬ笑みを口髭の下に浮かべて「ふっ」と笑う。
「若かろうともドマ国の兵か。漢でござるな・・・拙者も負けておれぬ!」
――カイエンが向かっている帝国軍迎撃のための本陣は、ドマ城内の城門内側に置かれていた。
昼夜を問わずそこに陣取り、今や定期便の体すら成してきた帝国軍からの波状攻撃に対して迎撃の指揮を執っていた指揮官は、だが城外で戦う部下からの報告に絶望を声に出さずにはいられなかった。
「ダメです! 防ぎきれません! 敵の数に比して我が軍の数が少なすぎ、これ以上は・・・」
「く・・・っ、これまでか・・・・・・」
項垂れて呟き――そして心の中で叶わぬ願いと知りつつも、言葉に出せぬ思いをソッと付け足す。
――シュウサイ様が生きておられたら、こんな事には・・・・・・っ、と。
彼はシュウサイに仕えた副将であり、兵法というものを学び教えてもらった弟子でもある比較的若い将の一人だ。
そしてドマ国の男として生まれ、武人になったからには一度はサムライに憧れ、なることを目指し、そして夢破れた数多い強者たちの一人でもある。
シュウサイは彼の憧れでもあり目標であり、そして最期まで届くことなく終わってしまった儚き夢のような御仁だった。
そんな彼から兵法を教え込まれた彼は、堅実で隙が無くシュウサイの意思を過たずに全軍に伝えて上手く軍を動かせる優れた副将となることはできたが、『型に嵌まりすぎるあまり臨機応変さに欠ける』と恩師から欠点を指摘される身でもあった。
その欠点が、土壇場の窮状に陥った今になって最悪の形で彼を苛んでいた。
孤立無援で圧倒的多数の敵から城を守り抜く防衛戦の指揮。それを彼はシュウサイの名代として初めて行い、そして失敗してしまったのだ。
シュウサイの敵を討たんと望む部下たちを抑えきることが出来ず、また自らも敬愛し尊敬する上司を喪った憤りによって一時的に激高して我を忘れてしまった。その結果が、この醜態である。
数で迫り来る帝国軍を相手に、一人一人の実力で勝っているドマ国の兵士たちが正面からぶつかれば勝てると踏んだのだが、見込みが甘かった。甘すぎたのだ。
敵は犠牲を考慮せずに、無謀とも思える堅固な城壁へ向けての突撃を繰り返し続け、将と将との一騎打ちを呼びかけても一切応じようとする気配は無い。
被害を減らしたいのは敵とて同じはずだと踏んだのだが・・・・・・このような犠牲を度外視した波状攻撃を命じてくる敵将が、そのようなものを持っているなどと考えてしまった時点で自分は『敵の心を見極める心眼』には遠く及ばぬ節穴の目しかなかったということだろう。
「シュウサイ様・・・・・・師の教えを無駄にする愚かな弟子の不出来さ・・・どうか冥土にてお叱り下さい・・・・・・」
覚悟を決め、シュウサイの後継者になろうなどと過ぎた夢を見た自分の愚行に付き合わせてしまった多くの部下と民たちに償いきれぬ負債と罪悪感を抱きながら、彼は懐からソッと忍ばせておいた短刀へと手を伸ばし―――そして。
「またれよ!!!」
『『『・・・・・・ッ!?』』』
猛々しく、他者を圧倒するナニカに満たされた、だが決して高圧的ではない剣気に満ちた声が城門内側で蒼白な顔を並べ合っていたドマ国兵士たちの鼓膜を叩き、全員が振り返った視線の先にいる存在を目にして誰もが一斉に瞠目させられる。
「カイエン・・・・・・殿!? 何故あなたがこの場所に!?」
その中で声を上げたのはシュウサイの弟子でもあった副将だった。
カイエンのことはよく知っている。今は亡き上司と最も親しき間柄だった年の離れた戦友のことを知らぬはずがない。
――なぜなら彼にとってカイエンは、最も嫉妬させられずにはいられない存在だったからである。
カイエンは、彼が憧れていたサムライになることが出来た人物だった。そして自分が尊敬してやまないシュウサイと無二の親友であり、そして彼の思考と兵法を同じように再現できる只一人の人物でもあった。
正直言って、羨ましかった。自分もまた彼のようになれればと嫉妬に駆られた。
今回の無策とも思える力押しの出戦も、シュウサイならば出来たことだ信じたからこそ自分にも同じ事が出来るのだと証明したくなった故でもある。
そこに・・・シュウサイに出来たことならばカイエンにも出来るだろうという思いが無かったと言い切れることは、今の彼にはもう出来ない。
自分はカイエンに嫉妬した。その嫉妬が今回の無様と無駄な犠牲を招いてしまったのだ。弁明の余地はなく、事後を託して自分が死ぬことでカイエンが指揮を引き継がざるを得ない状況を作り出そうとしたのも彼が自決しようとしていた理由にもなっていたのだった。
「王の護衛である貴方が何故・・・・・・では陛下は今――っ」
副将が言い終わるより先に、遠くから若々しい大声が響いてきて彼が求めた答えが伝えられてくる。
『――新たなるサムライ大将殿の御出陣!! サムライ大将殿の御出陣!!』
「ここは拙者にお任せあれ!」
その叫び声とカイエン自身の静かな自信にあふれた言葉を聞かされた時、副将は全ては納得して得心させられていた。
流石は陛下と、陛下の信頼するサムライたちの頂点に立つ方だ・・・と。そう納得させられたのである。
「帝国軍の猛攻は、勢いこそあれ兵たちから士気が感じられぬでござる。おそらく先日までと率いる将が代わり、兵たちの忠誠が揺らいでいるのでござろう。
なれば、敵の隊長さえ倒せば帝国軍は撤退するはずでござる」
「成る程・・・たしかに」
的確な分析に、副将は皆と共に納得しながら舌を巻く。
城の奥にある玉座の間から離れることなく、遠巻きに部下たちと他のサムライたちからの報告だけを聞いて、ここまで敵を見極めれるかと、自分と相手との間にある格の差を思い知らされる心地にさせられていたからだ。
「カイエン殿!!」
だからこそ、彼は叫ぶのだ。自分の果たすべき役割を理解したから。
自分に出来ること、自分には出来ないこと、夢には決して届かぬ凡夫の身で、抱いた夢に一歩でも近づくためには自分にも出来ることとは何なのかと言うことを、ようやく理解することが出来たのだから。
「シュウサイ様の兵たちへの指揮は、私に一日の長があります! 敵の雑兵たちは我らにお任せ下さい!
カイエン殿は敵の隊長との一騎打ちにのみ集中して下さいませ! 露払いは我々が!」
自分でも遅きに失した気づきだったと自覚している。
なればこそ、少しでも挽回してからでなければ、あの世で師に合わせる顔も面子もないというものではないかっ!!
「わかった。ザコ共の相手は任せたでござるぞ。
行くでござるッ!!」
『『『ははぁっ!!!』』』
こうして新たなる上司を得た彼らもまた出陣する。
目指すは敵の隊長の首、ただ一つ。
それを目指して駆け出した今、副将の心に迷いはなく、新たな上司の背中を見る瞳に勝利を疑う心は何一つとして残っていなかった。
そして決めたのだ。決意したのだ。
自分はこれから死ぬまで残る一生を、この新たなる上司を支えるために使い尽くそうと。
長かろうと短かろうと関係ない。残る自分の命は、この上司と共にある時間だけが全てにしてみせるのだと。
たとえカイエンが、部下を無駄に死なせた責を問うて自分に腹切りを命じたとしても、自分は彼の命に従い喜んで残る一生分の命を彼のために捧げるだろう。
シュウサイへの憧憬も、ドマ国王への忠誠も揺らぐことなく、『カイエンという命を捧げて尽くすに値する上司』への忠勤もまた矛盾することなく共存し続けられる想い。
優劣はある。順位もある。
だが『最も尊い想い』とは『他と共存できない程度の狭い視野』とは全く異なる、真に貫くべき尊い信念のことに他ならないのだから。
――そうか。それこそがブシドーであったか!! 我、今ようやく答えを見つけたり!!
副将は今まで気づけなかった想いをようやく理解し、それを気づかせてくれた上司の側で自分は最期まで尽くし続けることを改めて心に誓うのだった。
・・・そう。たとえそれが、今日明日はに訪れるかもしれない国の滅びの瞬間であろうとも。
自分が無駄死にさせてしまった兵より多くの民と部下たちが、闘死する権利さえ許されぬままに苦しみもがきながら死んでいく姿を眺め続ける立場がこの場所であろうとも。
彼は自分が死ぬ最後の瞬間まで、カイエンに付き合い続けようと心の底から誓ったのだ。
果たしてそれが、彼にとって幸福をもたらす気づきであったのか? カイエンが現れる前に自決していた方がマシな不幸ではなかったのか?
その答えを知ることが出来る者は、未来永劫あらわれることは・・・・・・おそらく、無い。
そして、そんな中。
一人のドマ兵がサムライの心を解して、真理へと一歩近づくことが出来ていたのと丁度同じ頃。
ドマ城から東にある砂丘地帯に作られた帝国軍陣地を見上げながら、やっと到着していた一人の女の子の残りカス少女が唖然としながら、こう呟いていた・・・・・・。
「なんじゃあ・・・こりゃあ・・・・・・」
と、どっかの殉職したゴリラさんだかジーンズだかいう、今時の学校だとイジメ問題に使われそうな名前ネタのあだ名で呼ばれていた人たちの名台詞を引用しながら、似ても似つかない元気のない青ざめた声でそう呟くことしか出来なくなっていたのである。
「何ってそりゃ・・・・・・帝国軍の陣地だろ? 普通に考えて」
「ああ・・・だが思ってたよりも数が、かなり多いのは確かだな・・・コイツは忍び込むのも厄介そうだぜ」
「いやいやいやいやいやっ!?」
マッシュとバルガスから当たり前のように大真面目な解説で答えを教えてもらった偽物のセレニア、略して偽レニアちゃんだけども。
残念でした! 見当違いです! そこに驚いてたんじゃありません! 私が驚いてたのは別の問題です!
・・・と心の中で変なテンションの答え返しちまうほどビックリ仰天させられまくっていたのだった。声に出さない程度には保身できてて冷静じゃんと言えなくもない心境ではあったけれども。
偽レニアの眼前に広がっていたのは、マッシュたちの言うとおり確かに帝国軍陣地ではあった。
――土塀を築いて、サーチライトっぽい機械が各所に配置されてて、電波発信塔みたいな物が立ってて、怖くてデカいブルドックさんが首輪に繋がれて番犬代わりに飼われてて、SFっぽいマシーンが宙に浮いて警備かなにかしてるっぽい。・・・・・・そんな光景。
ナルシェからこっち、中世ヨーロッパ風ファンタジー世界観RPGっぽい世界観だなーとか思っていた現代日本人にとってみれば信じがたい近代的な軍隊が築いた軍事拠点がそこにありました。
(ファンタジー世界観で作るもんじゃねぇーっ!? 死ぬわ!
こんな場所に突っ込んでったら、引退してコックやってる元特殊部隊員でも死ぬわ! ダーティーな刑事でも死ぬわ! エイリアンに殺されなかった美女でも死ぬわ!
自立機動型の核兵器ロボット破壊しに単独潜入して毎回生きて帰ってこれてるヘビさんぐらいしか、死なずに生還できる人が思いつかんレベルの代物なんですけどコレってェェッ!?)
偽レニアちゃん、心の中で絶叫。って言うか単なる悲鳴とも言う。
現代知識があるが故の厄介さというヤツで、確かに地球文明だと重機でも使われるようになる前なら人力だけで作ってた代物で、人手と資金と時間どんだけかかってんだよ!と怒鳴り声でも上げたくなる難攻不落の小谷城並に怖すぎる場所としか見ることができてなかったらしい。
彼女の頭の中では、この場所に潜入することが『長篠の戦い』で鉄砲三段撃ちにバタバタ倒されてったとか言う武田騎馬隊の突撃がイメージされてしまっていた。
もしくは、鳥羽伏見で薩長軍の最新装備の前に旧式装備で騎馬隊突撃してバタバタ一方的に虐殺されてってたとか言う幕府軍。
いやまぁ、史実だとどっちも違ったと言うか、長篠の方に至っては現実的に無理だと普段だったら解っているんだけれども。
下手に保身覚えたせいで、命の危機が絡んでいると感じられた時には途端に思考する方向性が命惜しさに傾いてしまうのが、残りカスでしかない偽物特有の欠点。
「だが、こうしていても始まらん。中の様子だけでも分からんことには手の打ちようもないからな。とりあえず潜入するぞ、悟られるなよマッシュ」
「へっ、言われるまでもねぇ。俺だって殴り込みたい気持ちは一緒だが、こんだけの数の帝国軍を相手にケンカ挑むほど考えなしのバカじゃねぇよ」
「・・・え? いや、俺は別に帝国軍相手に殴り込みたいとかの気持ちは特になかったんだが・・・・・・(ぶっちゃけ軍資金盗みたかっただけとか言えねぇ雰囲気になっちまたなオイ・・・)」
「はい! 私はお留守番に志願いたします! 皆さんの帰ってくる場所は私が絶対死守して見せま―――って、ウーマロさ~ん!? ちょっと待・・・・・・ギャァァァァッ!!!???」
【ウッゴ♪ ウッゴ♪】
『むっ!? 誰かいるのか! 侵入者だ! 東の入り口の方へ回り込んだぞ! 総員で包囲するため囲い込めー!!』
『おぉぉぉぉッ!! レオ将軍の陣地に無断侵入とはふてぇ野郎だ! ブチ殺す!!』
「うぎゃぁぁぁぁぁっ!? なんか大勢来たぁぁぁぁっ!?」
【ウッゴ♪ ウッゴ♪ ウッゴッゴ♪】
ドドドドドドドッ!!!!
「・・・・・・行っちまったんだが・・・・・・どうするんだ? このガラ空きになった出入り口・・・」
「・・・・・・仕方ねぇよ。俺たちの武闘家でも雪男の足には追いつけそうもない速度で走って行っちまったし中に入ろう。・・・セレニアの尊い犠牲を無駄にしないためにも・・・」
「・・・・・・いいんだけどよ・・・。あのガキもそうなんだが、あの雪男も狙ってやってくれてんのか? それとも単なる偶然の結果なのか? どっちだ?」
「・・・・・・・・・俺は知らん。俺に聞くな。セレニアに聞け、セレニアに。アイツじゃないから動物の言葉なんて俺には解らん」
「・・・・・・・・・解ってるんだったら、今あの状態にはなってねぇんじゃねぇかと俺には思えるんだがなぁ・・・・・・」
「ギャァァァァァッ!? 誰かー!? 助けて下さぁぁぁぁぁぁっい!!!???」
『待てゴラァァァァァァッ!!』
【ウッゴ♪ ウッゴ♪♪】
帝国軍陣地の中央付近に結果論で向かって走って行く雪男に、荷物みたいな持ち方で抱きかかえられながら「助けて」と叫ぶことしか許されない状況にある、TS転生少女の残りカス。
それぞれ全く無関係な理由と流れで進んでいるのに、なぜだか微妙に複雑な形で絡み合いながら自体は進行していき―――ドマ国滅亡までのカウントダウンは砂時計の粒を少しずつ0に近づきつつあることを、今はまだ誰も知らない。
ただまぁ、一先ずというか何というか。
「敵の隊長、討ち取ったりぃぃぃぃっ!!」
『た、隊長がやられたっ!? 全軍撤退―――っ!!!』
「よし、籠城して敵の体力が尽きるのを待つでござるよ!!」
『御意! カイエン殿!!』
とりあえずドマ城の戦闘だけは、めでたしめでたしで終わったみたいですね。
皆が不幸になってる状況よりかは、一つでも幸福になれた場所があるのは良いことだと私は思う。
『待てコラこの野郎!! 止まらんと殺すぞ! 止まっても殺すぞ!!
ケフカへの鬱憤、今こそ晴らす!!!』
「ただの八つ当たりでしょうソレ!? 私は関係ありませぇぇぇぇぇっん!!」
【ウゴッ♪♪ ウゴッ♪♪♪(行列の先頭は何か楽しい)】
・・・・・・たぶん良いことだと私は思いますね。・・・・・・多分ですが・・・・・・
つづく
注:今話で名前だけ語られている『シュウサイ』は、【ロマンシング・サガ2】に登場したサムライ『セキシュウサイ』が好きだったので流用しただけです。その為物語には関係ありません。
作者の遊びですので、そこはツッコまれても遊びとしか答えようがない事をご了承くださいませ。趣味に付き合わせてしまって申し訳ない……。