FINAL FANTASY Ⅵ~偽レニア~ 作:ひきがやもとまち
少し前には完成寸前まで行ってたんですけど、目の痛さから筆が進みづらくなってしまって先程ようやく完成できましたので投稿しました。
色々とホント申し訳ございません…(陳謝)
歴史上の出来事に伝説はつきものであり、伝説があれば異説が生まれるのも歴史の定番だろう。
その中の一つに、【レオ将軍はケフカの毒殺作戦を本当に防げなかったのか?】という疑惑が後の世で一部の者たちに語られている。
これは、その後の混乱を経て生き残っていた僅かな帝国兵の証言によって、レオ将軍が帝都に帰還する直前に、ケフカがドマ城への毒殺を考えている目論見を看破していたと思しき発言を口にしていたことに端を発した疑惑であった。
帝国軍の良心とも呼ぶべき正統派の武将だったレオ将軍が、その良識故にケフカの異常な心理を完全には読み切れなかったのか? あるいは帝国軍勝利のためケフカの凶行を知っていて敢えて黙認したのか?
・・・・・・その真実までは本人以外に知るよしもない。
ただ幾つかの条件から、彼の心理面を推測するだけなら可能ではある。
それにはまず、生まれ育った立場の違いが挙げられるだろう。
レオ将軍は代々ガストラ一族に仕えてきた軍人名家出身の武人であり、ガストラ皇帝に絶対の忠誠を誓う忠義の徒だ。
皇帝もまた彼の忠誠心を貴重に思い、征服戦争の中で行わせていた汚い部分を彼には見せないよう工夫していたと思しき言動が確認されている。
ケフカは知っての通り、帝国軍の魔導研究における初期の実験対象として人工的に魔導の力を注入されたことで絶大な魔力を得たが、副作用として心が壊れてしまった人工魔導師のプロトタイプだ。
要は危険を伴う人体実験のイケニエに用いられた訳だが、一方で人体実験の被験者に使われるような人物が普通に生きていったとしても、世に出る可能性はほとんど無いのが現実でもあっただろう。
実験の結果として、心が壊れた代わりに力を得たことを、『御恩』と取るか? 『怨み』に思うか? の違いである。
明らかに前者のタイプであるレオ将軍には、ケフカの心理は完全に理解しきれるものではなかったかもしれないし、心が壊れた後のケフカが自分はガストラを恨んでいるかどうかを考えていたかどうかさえ判然としない。
自分にさえ分からなくなった己自身の気持ちだ。他人ならば尚更だろう。
そして今一つの条件として、ドマ城への毒殺を始めとするケフカの凶行は残虐ではあっても、基本的に帝国軍の敵に対してのみ行われていたという点も重要かもしれない。
毒による一方的な虐殺は、長期的に見れば占領後政策にあたって弊害となり、長い目で見れば決して有効な策とは言い難いものではあるが、目前の勝利を得るためだけなら手っ取り早く確実な手段なのも事実ではある。
魔大戦以降、1000年の長きに渡って戦争がなかった世界で生まれ育ったケフカが、『帝国軍が勝つためには有効な作戦だ』と素人じみた『勘違いをしているだけ』で、やり方は違っても帝国軍の勝利に貢献しようとしている点では自分と同じ――そのように解釈してレオ将軍がケフカを見ていた可能性も捨てきれないのが、彼の人格であり立場でもあったのだ。
その推測が正しいのか? 間違っているのか? それは本人亡き時代になってからでは推測するしか出来ることはなにもなくなった後の出来事でしかない。
ただ一つ確かなことは、現在進行形でドマ城への毒殺作戦は始まろうとする現場に、レオ将軍自身がいたこと。
そして、その凶行を唯一止められる可能性を持った人物が、その場から立ち去ろうとする寸前の場面が、異世界から放逐されてきた少女の仲間の目の前で繰り広げられようとしている。・・・・・・それだけだった・・・・・・
「レオ将軍がいなくなったら、この川の水を毒に変えてやる。
触れただけで即死じゃあ・・・・・・ヒッヒッヒ」
皇帝からの呼び出しを受け、一時帰国するための準備を整えていたレオ将軍用のテントの近くで、一人の男が陣地内を横切るように流れている河川を眺めながら暗い笑みを浮かべ、流石に声量だけは抑えた声で呟いていた。
ガストラ皇帝の側近にして、帝国軍の魔導師ケフカであった。
相変わらずド派手な色の衣装を身にまとい、道化師のような化粧までして人を弄ぶのを愉しみとして行う彼であったが、自分勝手に好き放題で生きている風に見える彼であっても悩みや苦悩というものが無いわけではない。
「ここにいたのか、ケフカ」
その自分にとっての苦悩の種が、背後から自分に話しかけてくる声を聞かされて、ケフカは本能的に柳眉を逆撫でさせ、心の中の敵意と警戒心を1ランク上昇させられた。
相手が一声話す度に、ねずみ算式で増えていく前提でである。
「皇帝陛下からお呼びがかかった。私は先に本国へと帰る。
この陣地内での最上位者はお前ということになるが・・・・・・陛下の寛容さも無限ではない。
くれぐれも間違いなどは起こさぬ事だな」
「フンッ!」
忠告の殻をかぶせただけの脅迫に対して、ケフカは鼻で笑って相手に向き直る。
彼は同僚であるレオ将軍のことを嫌っていたのだ。大嫌いだと言って良いほどに。
話しているだけでイライラするし、相手と同じ場所にいて同じ空気を吸っていると思うとムシャクシャしてきて誰かテキトーな奴を殺して憂さ晴らししたくなって仕方がない。
何故こんなにも相手のことが嫌いなのか、心が壊れた今では理由はよく分からない。分かろうとする気持ちもないし、分かりたいとも思わない。
嫌いな理由を考えるなど、時間の無駄遣い以外の何物でもないバカの愚行だと、本気で確信してもいる。
嫌いなものは、嫌いだと感じるから嫌いなのであり、嫌いな理由が分かったところで今よりもっと嫌いになるだけで、もっともっと不愉快な思いをしても何の得もない。
バカバカしい。嫌いなら嫌いでよく、嫌いな奴はブっ殺してやって、嫌いな奴が無様に死んでく所を見下ろしながら笑い飛ばして、楽しく見物するのに使ってやれば良いのである。
「お前さんよりも手っ取り早くやってやるよ」
「・・・・・・卑劣な真似だけはするなよ。敵兵といえども同じ人間、そこは忘れないでくれ」
「リターナーに属す国などに、情けの心はいらんわ!
せいぜい派手に殺して他の仲間どもへの見せしめに使ってやればいいのだ!」
両者の言い分は両極端に立ちすぎていて、平行線にしか終わりようがなくなってきていた。
互いが互いの考え方と意見について、“前提条件”を履き違えすぎていたのが、その原因だった。
そして互いに、その事実を認識していない。
それが帝国軍幹部の二人、レオ将軍とケフカが意見対立しやすい自覚なき理由になっていたりする。
実のところレオ将軍も、『情けだけ』を理由にドマ国の民たちへ温情処置をとるよう忠告しているわけではなかった。
帝国軍が世界制覇を成し遂げた暁には、このドマも新たな帝国領となって領土の一部に組み込まれることになり、領土には支配される側の民衆たちが不可欠となるだろう。
土地を耕し税を支払い年貢を納める農民たちもまた、世界帝国となったガストラ帝国にとっては新たな財産となってくれる存在なのだ。
悲惨な戦争によって国が滅びた後も人々は生き続け、世界は続く。
国の滅びとともに民たちまで死に絶える訳ではない以上は、勝った後の未来まで考えて動くのが征服者としての務めだろうとレオ将軍は考えていた。
無人の荒野を占領しても、帝国軍としては意味が無いのだ。
ただ勝てば良いというものではあるまい。
・・・・・・だが一方でケフカの側には、「その後の事」など考える必要を全く感じる事なき理由があった。
レオ将軍が知るよしもなかったが、ケフカには密かに進めている計画によって世界と人類から『未来』を奪ってやるつもりでいたのである。
世界を崩壊する計画を、崩壊させるために推し進めている彼にとって、人類にも世界にも『未来』など無く『その後』なんてものは存在していない。
その目的へ続く通路の一本として、ケフカはドマ国攻略を定義していた。
彼にとっては、殺さずにいてやったところで結局死ぬのだ。今殺すか、少し後で殺すかの違いしか無い。
世界中の人間全ての死を確定した未来と捉えている彼にとって、この戦いで殺すのを我慢してやったところで殺すことに変わり無いなら、今我慢して得られるものなど何もなかった。
「もっとも、俺は優等生ぶったお前と違って、情けなんてもんは最初から持ち合わせてないがなっ! ヒャッハッハ!!」
さも、これ以上愉しいことはないとばかりに笑い声を上げるケフカ。
処置なしとばかりに、肩をすくめるレオ将軍。
そう――情けなんてものを持ち合わせる必要なんて最初から無いのだ。
どーせ今の自分に毒で殺されなくても、生き残ったせいで“後の自分に”殺されることになる。
だったら、死ぬまでの苦しむ時間を少しでも短く済ませてやる毒で殺した方が、慈悲ってもんじゃないのか? そうケフカは考えている。
この戦争での『死』だけに限った話ではない。
人間も動物も植物も、どう生きて、どう死なないために戦おうとも、確実に『死ぬ』のだ。
絶対に。生まれた瞬間から、死ぬことだけは絶対条件として確定している。
死ぬことだけは決まっていて、死ねば全部消えて無くなる。
いつ死んで、誰に殺されようと、最終的には全部同じになるんだから、どーだっていいじゃないか。些細な違いだ、下らない。
・・・・・・それがケフカにとっての、死生観であり人間観だった。
レオ将軍とは価値観が――いや、“世界観”が違っていたのである。
『続く』という前提で考えている将軍と、『続けることは無意味だ』という前提に立つケフカでは、意見などまるで噛み合うわけもなかったのだ。
あるいは、それこそレオ将軍をケフカが最も嫌悪した理由だったのかもしれない。
彼は生命を尊ぶ。帝国の将軍として世界中に死をばらまく征服戦争を実行する側でありながら、殺しまくりながら壊しまくりながら、嘘偽り無く『生』と『生命』を尊び続け、戦争の後の破壊から生まれる次の命についての考えを口にする。
それはケフカの価値観と考え方を完全否定する思想だった。
だからムカつく。ムカつく相手と真逆のことをしてやりたくなるし、嫌いな相手が嫌いな方法を使って、大嫌いな奴が出来ないことをやってのけて、相手の無能さとバカさ加減を知らしめてやりたくなる。
結局のところ、ケフカが凶行をおこなった理由は、そういった稚気とも称すべき幼い心の部分がなさしめた事ではあったのだろう。
そして、その考え方は殊ケフカに関して言えば間違いではなかったのである。
その事にレオ将軍は気づいておらず、心が壊れたケフカは教えてやろうという思考は思いつかない。
前提からして異なる視点で同じ問題について議論し合い、互いに互いの違いを正確には理解していないのだ。これで話が噛み合う方が異常事態でしかなかった。
「・・・私とて、お前に情けなど求めたところで無駄骨だという事ぐらいは、さすがに理解している。
だが――“ただ壊すだけ、殺すだけ”では、なんの意味もない。
それだけは解れるようになって欲しい。そう同僚として願っているだけだよ――」
説教臭いと自覚しながらも、立ち去る間際にレオが最後に言い残した一言は、発言者にとっては誠実な忠告であり、大嫌いな相手だろうと同じ帝国軍を支える同僚として『相手の為にもなる』と思ったからこそ、余計かもしれぬと承知で付け足した心からの言葉でもありはした。
―――だが、言われた方にしてみれば最大限の侮辱でしかなく、自分の考えを根底から完全否定して罵倒しただけの、屈辱極まりない攻撃にしかなることができない言葉でもあったのだ。
傷つけられた心に身を震わせ、殺意を点した瞳で去りゆく背中を睨みつけながらも必死に怒りを抑えこみ、邪魔者が陣地内から消えていくのを見届けて、今この場に『自分より偉い者は誰もいなくなる』のを待ち、『何をやっても言っても許す事しか出来ないザコ共ばかり』の状況へと変化した瞬間。
「キ――――――ッッ!!!」
堪え続けていたものが一気に激発した!!
「いい子ぶりやがって!! ムカつくムカつく!!!
ムカ ムカ ムカ ムカ ムカ
ムカ ムカ ムカ ムカ ムカ
ムッッッッッカつく――――――ッッ!!!!!」
地面を転げ回りたいほどの怒りに駆られ、激情を思いのまま喚き散らし、癇癪を起こした子供のように叫びまくる!!
もはや完全に子供のようにしか見えない醜態ぶりを披露しまくりながらも、その絶大な力と性格故に兵士たちのほとんどは遠巻きに見ているだけで近寄ってくる事はなく、わざわざ忠告だの警告だのして虎の尾を踏み抜く危険とともにケフカから距離を取っていたため気にする必要は一切無かった。
だが、帝国兵の全員が全員、そのような“幸運”に恵まれることが出来ていた訳ではない。
怒り狂って暴れまくりながら、常にどこか冷めた視点で世界を見ているケフカの視界は、一人の兵士がオドオドとした様子で挙動不審気味に自分との距離を縮めようとしている姿をハッキリと捉えていたからである。
「―――ひゃはッ☆」
彼は途端に機嫌を直して愉快そうに笑うと、その兵士の元まで歩み寄り、横柄な態度で『命令を実行したかどうか?』についての質問を短く投げかけていた。
「毒は用意できたか?」
「・・・はい・・・・・・ご命令された通りに・・・・・・」
キョロキョロと何度も周囲を見渡しながら、蚊の鳴くような声で答える帝国兵の一人。
もしこの時、レオ将軍とともに作戦会議の場に居合わせた者が近くにいたら、ヘルメットの下から覗く顔でこの兵士が、先にドマ城への力押しの強攻策を進言してきたマランダ出身の若い兵士であったことが分かったかもしれない。
レオ将軍に諭され、元気よく自分の持ち場へと戻る途中で彼はケフカに呼び止められ、とある命令を個人的に命じられ、恐怖心と罪悪感に震えながら仕方なく言われたとおりのものを用意してこざるを得ない立場へと追い詰められていたのである。
「ご命令された通りの物をご用意しました・・・・・・しかし、『毒はダメだ』とレオ将軍も以前の会議で言っておられましたし・・・・・・」
「奴はもう、ここにいない。
いなくなったヤツの命令など律儀に守ったところで何の得がある?
忘れるなよ、今は俺が一番偉いんだ」
断言して、威圧的に相手を見下す視線を向けながら、ケフカはせっかく直った機嫌が急降下していくのを自覚させられ、再び不愉快さが鎌首をもたげはじめる。
相手が命令通りに動きながらも、中途半端に抵抗して見せてくるのが気にくわないのである。
ケフカは人間も動物も、生まれた物や造られた物は全て壊れて消えて無くなるのだから意味は無いと思っていたが、一方で砂上の楼閣の頂点とも呼ぶべき『権力』や『高い身分』『支配者の地位』といったものは好む傾向があった。
それは彼の中で特に矛盾するほどのものではなく、価値や意味の有る無しではなく、ただ単に自分が好きで気持ちよく感じれるものだから気に入っている。それだけの理由で求めている代物だったからだ。
ただ逆に言えば、彼は自分が気持ちよくなれるから『偉い身分』や『人を支配する立場』を好み求めているだけのため、気持ちよくなれなかったら途端に鬱陶しく感じてしまう。
好き嫌いだけで相手に服従を求めているのだから、下っ端如きが偉い自分の命令に抵抗するそぶりを見せてくるだけで不愉快で不愉快で仕方がなくなってしまい易いのだ。
「ドマ城には、我が軍の捕虜もいますし・・・・・・もし彼らが水を飲んでしまったら、ケフカ様のお立場的にも良くない事になるのではないでしょうか。それを考慮して、ご再考を・・・」
「かまわん!! 敵に捕まるようなマヌケは、我が帝国軍には必要ない!
むしろ味方が勝つため、囮となって敵に捕まり油断させて死んでいった事にしてやれば、死んだ奴らの家族も喜ぶだろうよ!!」
「そ、そんな・・・・・・それでは余りに―――」
「うるさいッ!!」
そして遂に、ケフカはキレる。
もともと忍耐心豊というタイプでは全くなく、飼い犬が飼い主の手に噛みついてきそうになったら、吠えてきただけで殺してしまえと思うタイプの狭量さを持った暴君上司なのだ。
レオの命令よりも、自分の命令に従って毒を用意してきた手柄に免じて少しぐらいの無礼は許してやろうと思っていたが、彼なりには最大限の度量と譲歩も一般基準からすれば極めて低水準と言わざるを得ない狂気の魔導師に対して、一般的な道徳論で翻意を求めるのは興奮する牛の前で赤布を降り続けるに等しい。
ケフカは不快さと共に吐き出した息が、相手の顔にかかるまで距離を近づけ、『自分が命じたときと同じ言葉』を、マランダ出身の若い兵に向かって繰り返す。
「・・・・・・そんなに毒はダメだと言うなら、お前が先にドマ城を攻めて毒を使わずに占領してきてもいいんだぞ? それが出来たら毒を使うのもやめてやるし、許可もしてやる。
言ったろう? “今は俺が一番偉いんだ”と」
「―――っ!!!」
「分かったら、とっとと毒をよこせ。
・・・・・・ああ、なんならこの毒。任務に失敗した無能な部下への粛正のため、故郷の町に流してやるのも良いかもしれないネェ~。
帝国の勝利のため貴重な人柱になったと、そいつの家族も喜ぶだろう。
“あの世”でだがな、ヒャッハッハ!!!」
「・・・・・・(ガタガタガタ・・・・・・っ)」
完全に震え上がって、顔面蒼白で毒が入った袋を手渡し、ぎこちない足取りでロボットのような動きと共に歩み去って行くマランダ出身の若い兵。
これで良い。――いや、“これが良い”
ケフカは心の中で喝采を上げながら、満足げな表情を浮かべて足取り軽く、その場を後にして・・・・・・毒を投入するのに手頃な位置へと移動を解する。
支配される奴ってのは、ああいう奴でなければいけない。
抗いようのない絶対的な力の差を前にして、抵抗を諦め絶望し、イヤイヤでも命令に従うしかないのが己の運命として受け入れる。・・・・・・それが無力な連中の生き方として正しいのだ。
相手の反応によって機嫌を直したケフカは、毒を放り込むのに最適な場所へ行ってぶちまけてやろうと移動を始め、その瞬間に。
「待ちやがれ! そうはいかないぞ!!」
「むぅっ!? なんだお前は! ボクちんの邪魔をするとは生意気なヤツめっ!!」
突然、物陰から筋肉が現れやがって、行く手に立ち塞がってきた!!
筋肉である! 大嫌いで臭くて気色の悪い筋肉のデッカい塊が、なんか知らんけど道の真ん前に立って進路妨害してきやがったのである!!
「さっきの話は聞かせてもらった! 毒なんて使わせるわけにはいかねぇ! ぶっ飛ばしてやる!!」
「けっ! うるさいヤツめ! お前らの方こそ痛い目にあわしてやる!!」
こうして始まる、マッシュたちとケフカとの初めての戦闘!!
ただし!!
・・・・・・この戦いはケフカにとって、想定外もいいところの構図で争い合ってた事実を、当事者たちは誰も知らない。
なにしろマッシュは、フィガロ国の王子とはいえ父王が死んだ直後に城を飛び出し、家出した後は最強の格闘家に弟子入りして山ごもりの修行生活を送り続けてきた人物であり、反帝国レジスタンス組織のリターナーに参加したのも、つい数日前が初めてという帝国軍側から見たら完全なニューフェイスとしか思いようのない経歴の持ち主でもあるのだ。
まして、国を飛び出した頃には、兄より小さかった大人しい少年と言われながらも、今では初対面の少女にクマと見間違われるほどビッグサイズにまで巨大化して成長を遂げた後の姿になっているのである。
んなもん、赤の他人よりかはエドガーに怨みがある程度の付き合いしかないケフカに、憎んでる相手の兄弟だと見分けれるはずもない。
もし分かって相手をしていたならば、この前の仕返しに兄のエドガーを悲しませるため弟のマッシュを殺しておこう、ぐらいは考えたかも知れなかったが残念なことに今この時の彼にとってマッシュは、ただの『筋肉』だった。
毒を川に流して、一方的に殺戮楽しみたいだけの時に、かすり傷一つ分の痛みを負ってやってまで相手してやる価値は微塵もない。
名も知らないザコ共なんか、アッサリと一蹴して毒使う場所への移動を急ごうと、そう考えていたのだが・・・・・・
「食らいやがれ新技! 《オーラキャノン》!!」
「ウッギャぁぁぁぁっ!? いっっったぁ――――い!!!!」
そんな楽勝前提での想定で相手してやってただけの熊チンピラから、思わぬ一撃を食らわされてしまって「痛みを味わう」羽目になってしまった。
せっかく一方的に殺すだけで、抵抗も防御も出来ないで死んでいく連中を見物して気分良くなろうとしていたのに!!
これじゃ気分良くない! 愉しくない! もっともっと楽しい殺戮ショーとして楽しみたかったのに、クッソ――――ッッ!!!
「ええい! いつまでもお前如きの相手などしてられるか! 次に会ったときは許さないからな! 覚悟しておけよ!」
「待て! 逃げるなケフカ!!」
「ヒャッハッハッハ! “待て!”と言われて待つ者がいますかー! ヒャッハッハ!!」
そして高笑いを上げながら大急ぎで逃げ始め、その後を全速力で追いかけてくる筋肉たち。
「逃げるなケフカ! 待て! 正々堂々、俺と勝負しろ―――ッ!!」
「ハァ、ハァ・・・・・・、し、しつこいヤツらだね、まったく・・・仕方がない。後は適当にそこらにいるヤツに押しつけて、俺様は泉に――――ん? なんだ、アレ?
なんか見覚えがあるような無いような、白くてデッカい筋肉の塊っぽいのが、なんか銀色っぽいのを乗っけてるような運ばれてるような、そんな気がする物体が近くにあ―――」
「ぎゃーッ!? ウーマロさん! ストップストップです! 前前! 前見て前! 前方より少し下ぐらいの位置見て下さい! 人がいますからね!? このままだと正面衝突ダンプカーして異世界転生させちゃいそうなので急ブレーキ、ってギャァァァァァァッ!?」
『ウッゴォォォォォォォォォッ!!!!』
ズド―――――――ッン!!!!と、激突。っつーよりも正面衝突交通事故。
「うっぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!??」
そして今回も遠くの方へと吹っ飛ばされていくケフカさん。
マッシュたちの頭上を越え、帝国軍陣地の一部を超えて、今からだと追いつけそうもない飛距離を吹っ飛ばされて、普通の人間だったら死んでそうな勢いで交通事故引き起こされ、そして。
『うぉぉぉぉぉっ! 今ケフカが悲鳴上げてる幻聴が聞こえたぞ! これは吉兆に違いない! つまりモンスター倒す正義は我らにありということ! みんな進め進めーっ! ケフカの悲鳴を聞いてザマーミロな気分を味わい続けるため、あのモンスターを追い続けろー! 突撃じゃー! ケフカが嫌いな奴は、みんな俺についてこいやぁぁぁぁッ!!』
『『『うぉぉぉぉぉぉぉッッ!!!
ケ・フ・カ!! ケ・フ・カ!!!
ざまーみろォォォォォォォっっ!!!!!』』』
「って、うぉぉぉぉぉっい!? なにお前セレニア、帝国の大軍をこんなに大勢引き連れてきちまってんだよ! いくら何でも多勢に無勢もほどがある数だぞオイ!?
ちょ、ヤバ! ここはひとまず逃げるぞシャドウ!!」
「・・・・・・了解した。続くぞ、インターセプター」
「ちょっと待って―――ッ!? 私だけ置いていかないでくださいよ! 制御できないんですよコレって!? コントロールも操縦も半端にしかできない暴走乗り物生物に乗っちゃってる子供を置き去りにして、大人たちだけで逃げないでくれませんかね!? マジでお願いします! 助けて―――ッ!?」
『『『うぉぉぉぉぉぉぉッ!!!
ケ・フ・カをコ・ロ・セ!! ケ・フ・カをコ・ロ・セ!!!!!
KILL! KILL!! KILL!! KILLKILLKILLKIぃぃぃぃLLぅぅぅぅッ!!!』』』
「なんか憎しみ超えて宗教始まっちゃってますしーっ!? なんか怖いんですけどーっ!」
・・・・・・こうして、レオ将軍が止めれる機会を逸したことで、なんか物凄い混乱と混沌とが帝国軍陣地を支配するまでに至ってしまった可能性世界が現出してしまったことが、この世界の歴史として記されることになるのだが・・・・・・。
まぁ、それはそれとして。
「ええぇいクソ! 突然飛び出してきたクマのせいで服が汚れてしまったじゃないか! ちょっとだけ傷も負ってしまって痛かったじゃないか!
こうなったら、何百人・・・・・・いや、何千人もの悲鳴で歌うオーケストラを奏でさせてやらなきゃ気が済まない・・・っ」
雪男による吹っ飛ばしアタックによって、当初の予定よりは大分遠くまで飛ばされちまったけど、近くに川があるのを発見したケフカは怪しい笑みを浮かべながら、そこへと向かう。
草むらの間を縫うようにして流れる川のせせらぎに、毒を流し込んでやる為に・・・・・・。
「ヒッヒッヒ・・・さぞ聞き応えがあるだろうねぇ・・・・・・ヒーッヒッヒッヒ!!!」
狂ったように不気味な笑い声を上げながら、狂気に満ちた表情を浮かべながら毒を片手に歩み寄っていく帝国軍最強の狂気の魔導師ケフカ・パラッツォ。
――だが、この時彼は気づいていなかった。
自分の背後に潜みながら、狂気の笑みを浮かべて自分を狂態を見ていた者の存在を。
自分と同じく、弱者をいたぶり、一方的に殺すことの悦びを感じる心を、自分自身にこそ向けている存在がいたことを。
ソイツは語る。ケフカを語る。
「・・・金目のモン適当に盗んで安全そうなところに隠れていたら、突然空から金掛かった服着て、金持ちのボンボン臭い喋り方するヤツが落ちてきやがったが・・・・・・なんだありゃ? 新手の金持ちピエロかなんかか?
よく分からんヤツだが・・・・・・少なくとも金持ちに育てられた甘ったれガキなのだけは確かだ。
なら奪おう。殺そう。生まれながらの金持ちを殺して金品を奪うことは良いことだ、ザマーミロ!! ・・・と言うわけで後付けるところから初めとくかい」
ビックリするくらい小物な序盤ボスっぽいポジションで登場して、よく分からん内に仲間みたいなもんになってたバルガスさんが、たまたま近くに飛んできたケフカを発見して、庶民出身盗賊らしい金持ちへの僻みと偏見ありありの怨みを晴らすため付け狙いながら。
なんとなく見た目の割には強そうな気がする武闘家の勘によって、一定距離までしか近寄らずに機を見て隙を見いだし、そして。
「・・・・・・よく分かんねぇが、とにかく邪魔してやる。何やろうとしてるかは知らんが、何だろうと邪魔してやる! そして悔しがらせてやる!
金持ちが思い通りに行かずに失敗するのを見てザマーミロと楽しみたい! それこそが俺の生きる道!!」
スッゲェ小物臭満載で、重要部分に知らぬまま関わりに来てしまっていく、弟弟子に敗れた兄弟子で父親殺しの犯罪者の命運は如何に?
つづく