FINAL FANTASY Ⅵ~偽レニア~ 作:ひきがやもとまち
正確には、ドマ城の対応まで含めて書くつもりだったので完成とは呼べないのですけど、文字数的にキツイので一旦別けてみた次第です。
もし変えた方が良いと思われた時は遠慮くなく仰ってくださいませ。
時間かかった分、最後にバルガスが取った手段には良いアイデア思いつけたと、その点だけは自画自賛している作者です♪
己にとって血のつながった父であり、師匠でもあった世界最強の格闘家ダンカンを暗殺した反逆の息子バルガスの前に、帝国の人工魔導士にして心が壊れてしまった男ケフカが吹っ飛ばされてきたのは偶然だった。
純粋に、ただ単純に、完全無欠にただの偶然の結果であって、特に何かしらの計算をしていた結果とか、そういうことは一切関係してない全くの偶然。運の良し悪しだけで起こってしまった悲劇の前の喜劇と呼ぶべき変な出来事。
むしろバルガスとしては、「敵軍の陣地内で大人数でいるのは危険」という大義名分の元、テキトーに金目のものを奪えるだけ奪って、あわよくば帝国軍の軍船を奪うか潜り込むかしてトンズラしてしまえないものかと皮算用していた程だった。
密航するか乗っ取るかした船を使って、帝国本土への航路上にある寄港地の『港町ニケア』についた辺りで脱出して、陸路を伝って安全な土地まで逃げようと考えていたのである。
(博打仲間の帝国兵から聞いてた話じゃ、ドマに侵攻してる連中の補給物資はサウス・フィガロとニケアに別けて集めてるってことだったからな。
潜り込むなり乗っ取るかしてニケアの近くまで行きゃあ、どうにかなるだろう。お仲間が助けに来れない海の上にさえ出ちまえば、コッチのもんよ。クックック)
という算段を企んだ末での結果であった。
・・・・・・実はマッシュたちには敢えて伝えなかったが、ドマ国へ侵攻している帝国軍部隊には、本国と行き来している補給線の海上輸送ルートとして、サウス・フィガロとも交易している港町ニケアが中継地に使われている情報を、バルガスは同盟国フィガロを訪れていた帝国兵の“イカサマ”博打仲間から聞かされ把握していたのである。
もともとフィガロ王国は、マッシュが初めて訪れてくる少し前からガストラ帝国と同盟関係になっていたのだが、南大陸にある国家の一つ『貿易国アルブルグ』とも、北と南をつなぐ玄関口として互いに船を行き来させる良好な関係を築いていた。
アルブルグは南大陸にある三国の中では、南東に位置している国で、西側のルートを通ってサウス・フィガロへ向かおうとすると大回りせざるを得なくなってしまう。
このためアルブルグの交易船たちは、フィガロ王国へ向かう際に南大陸の東側に浮かぶ三角形の大陸との間に広がる海峡を使ってサウス・フィガロへ至る交易ルートを用いる者が多く、遠出してまで商売しにきた者達が交易対象を一つに絞りたがる理由もないため、行く途上か帰り道のついでとして港町ニケアにも寄港する。
そういう形が出来ていたのが、フィガロ王国、アルブルグ王国、港町ニケアの繋がりだった。
その後、南大陸ではガストラ帝国が大きく勢力を拡大させ、東側に浮かぶ大陸との間に鉄橋を設けて監視所を作り、厳しく出入りを禁止するようになったことでアルブルグとフィガロ王国の交易は途絶え、今ではサウス・フィガロとの貿易だけが港町ニケアにとって唯一の収入源となってしまっているのが現状だ。
帝国本土へ帰る途中に寄港したところで逃げ出すか、港に寄らないまでの近くまで行けば泳いでいくことも可能になる。そういう算段を胸の内で立てた上での単独行動だったのである。
非の打ち所がないほど、火事場泥棒そのままの思考だった。
歴史に残る悲劇を妨害してやろうなどという殊勝さなど全く持ち合わせている男では本気でなかったのが、バルガスという名の小悪党な大男だったのだ。
――とはいえ、その道が決して安易なものではなかった。
(しっかし・・・・・・世界に覇を唱える帝国軍ってのは、伊達じゃねぇな。侮ると火傷ぐらいじゃ済みそうにもねぇ。
まさか、堅くて開かねぇ宝箱を蹴っ飛ばしただけで、音聞きつけた犬ッコロが飛びかかってくるとは・・・・・・おまけに誰もいねぇと思ってお宝くすねた途端に監視用の機械人形が襲ってくる仕掛けだったとはな・・・・・・まったく、化け物屋敷か? この陣地はよぉ・・・。
帝国軍の侵攻部隊って連中は、バケモノかなんかか!?)
そんなことを、犬に噛まれて痛む尻をさすりながら心の中で怒鳴って、報復を誓っていた小悪党なバルガスさんであった。
完全に逆恨みであり、自業自得の結果でしかないんだけど、逆恨みで実の父親殺して弟弟子も殺しかけたヤツにとっては今更過ぎる話でもあるにはある。
変なところで都合がいい思考をしやすい小悪党なバルガスは、そういう事情と経緯によって帝国軍陣地内で火事場泥棒しまくった挙げ句ドーベルマンに追いかけ回され、監視ロボットの《サテライト》と予期せぬ死闘を演じさせられ、命からがら今いる場所まで撤退してきた―――要するに、現在地を完全に見失って、今自分がどこにいるのかも分からなくなった状態で途方に暮れてたところに悲鳴上げながらケフカが落下してきた。・・・・・・という次第だったのが現在の状況だった。
ホントに偶然でしかなかったなぁ・・・・・・コイツって本当に・・・・・・。
「痛った―――い!! 痛い痛い痛いッ!! キ―――ッ!!
あの筋肉ダルマ共め! よくも、この僕ちゃん様に、こんなヒドイ事しやがってくれたな! 思い知らせてやる思い知らせてやる思い知らせてやる皆殺しにして思い知らせてやらなきゃ気がすまな――――ッい!!!」
落ちてきたところを慌てて避けて、近くの草むらに身を隠したおかげで気付かれてないバルガスの見ている前で、ケフカは目撃者がいることに気付くことなく陰惨な笑いを浮かべると。
バルガスの存在に気付くことなく、“その言葉”を口にする・・・・・・。
「ヒィ、ヒィ・・・つ、疲れた・・・。まったく、ヒドイ目に遭わされちまったぜ。
こうなったら遠慮も容赦も必要ないッ。コイツで目にもの見せてやる!!
・・・・・・この川の水を毒に触れただけで即死の猛毒に変えてやるよォ・・・♪ 聞き応えのあるオーケストラが聴けそうで楽しみだねッ!! ヒッヒッヒ!!」
ケフカが自覚することなく放った、その発言を耳にしたバルガスが思わず両目を細めて、こういう思いを抱かれてしまっていたとはチリほども予期してはいないままに・・・・・・。
(・・・なんだ? あの苦労知らずでプライド高そうな、金持ちのボンボンっぽい馬鹿息子ヤロウは・・・・・・誰かは分からねぇが、こんな場所でオーケストラだぁ?
ケッ! 金持ちの道楽野郎はこれだからムカつくんだよ! ド派手で金かかってそうな服着て見せつけやがって!
金持ちの馬鹿ガキに、このバルガス様が本当の痛い思いってヤツを教えてやる!!)
・・・・・・という思いを、である。
相手に気付かれないよう、離れた位置から隠れて盗み聞いてたせいで、後半の小声になってた部分は聞こえなかったのが原因だった。
『真ん中の毒からみの話』を除けば、確かにプライド高過ぎな金持ちのボンボン発言に聞こえなくもなかったから間違いじゃなかったかもしれんけれども・・・・・・。
相手に見つからないため距離おいて隠れてたら、遠くにいる相手の声も聞き取りにくくなってしまう。当然のことなんだけど、こういう所で半端にご都合主義が起きてくれない原因は、たぶん異世界から落ちてきた少女が本人じゃなくて、残りカスの偽物なのが影響してるせいかもしれなかった。
なんか半端にしか、こういう事態が起きてくれないのである。
しかも、挙げ句の果てのオマケとして。
「ヒッヒッヒ、何百人もの悲鳴が奏でるオーケストラは、さぞ聞き応えがあるだろうねェ・・・いっひっひ♪」
(・・・だが、一流の格闘家たるもの油断は禁物。たとえ相手がバカだろうと、不用意に飛び込んじまえば不覚をとる恐れがある・・・。
思えば、マッシュの仲間共のクソガキたちを襲いかかっちまった時も、それが敗因だったからな。今度はそうはいかねぇぜ!)
「ファーッハッハ!! 苦しめ苦しめ俺様の流す青黒い水で!!
流せ流せ! ドクドク飲んだ奴らが吐いた真っ赤な水で、青く染まった川の水を今度は真っ赤に塗り替えちまえ~~~!! ヒアッハッハッハァァァッ♪♪♪」
(俺は二度も同じ過ちを繰り返さない男ッ! このバルガス様の真の力と恐ろしさを見せつけられる最初の相手に選ばれた不幸を、地獄の底に落ちてからジックリと後悔するんだなぁ、ボンボン・・・・・・くっくっく)
と、なんか悪っぽくて格好よさげなこと内心では思いながら、本能的に強者感ありまくりのケフカを恐れて近づくこと出来ないまま、戦いもせずに尻尾巻いて逃げるのもなんか嫌だったので、気付かれないよう距離保ったままヒッソリとコソコソ後ろからついてく小悪党のバルガスさん。
異世界残りカス少女の知ってる世界で、よく見かけるシーンだけど、大物悪役相手にやってるチンピラとしては珍しい光景が、別の世界で繰り広げられていたことを・・・・・・世界中の誰も知らないし、知る事もない。知らない方が多分いい。
どんな結果に終わろうとも、こんなもんが途中で起きてたイベントだったと知らされても得するヤツは多分誰も永遠に出てくることはないと思われるから・・・・・・。
――一方で、時を同じくしてドマ城では、帝国軍陣地とは別の事態が発生していた。
「カイエン殿! 逃げ遅れた民間人たちの、城内への収容を完了いたしました! 水と食料の備蓄も、台所頭に確認させている最中ですが半年は持ち堪えてみせると確約しておりますっ」
「ご苦労でござった。城外に罠を仕掛けに行った者達からの報告はどうでござる!?」
「最後の班が、いま到着しました! 隠し通路の解放と罠の発動、ともに問題なしとのこと! いつでも反撃に移れる準備はできております!!」
矢継ぎ早に訪れる部下となった者達からの報告に、カイエンは慣れない大将としての務めに四苦八苦しながらも、なんとか全てを裁ききることが出来、ドマ城が籠城するための“反撃準備”を完全に整えることがようやく完了できた。
「・・・これで攻守ともに堅牢なる難攻不落な名城として、ドマ城が千年ぶりに本領発揮となるわけですな。もっとも、当時と同じとまではいかんのでしょうが」
「うむ。これも亡きシュウサイ殿が残してくださった兵法書あったればこその戦支度。あの御仁には恩ばかりを頂戴して、拙者からは何も返せずじまいでござったな・・・」
先刻の戦から自分の補佐を買って出てくれるようになっていた、亡き大将セキシュウサイの副将である若者もやるべき仕事を終えたらしく、傍らに寄ってきて万感の思いを込めて漏らす言葉にカイエンもまた惜別の情を込めた応えを返す。
サムライとしての経験は豊かでも、大将として指揮を執るのは初陣となるカイエンが、不慣れな仕事を最後までやり遂げることが可能となったのは、長くセキシュウサイの元で補佐を務めた彼の尽力に寄るところが大きい。
事務仕事のみならず、人員の配置や、部隊ごとの効率のいい順決めなど、『人の集団を動かす術』でここまで巧みな人間をカイエンもあまり知らない。
彼のおかげでドマ城は、大人数を収容して立てこもるため必要となる食料や水を、できる限り掻き集めた上で城門を閉ざすことができ。
城から出戦して敵陣に打撃を与えに行くための隠し通路や、撤退時に追撃を妨げる罠の設置を、立てこもりの準備と同時並行して進めることが可能となったのだ。
カイエンとしては、この事あるを予期して有事に備えて様々な人や物を用立てておいてくれた先達に、死後も冥府で頭が上がらなくなるほどの御恩を授かった心地で面はゆい限りだった。
「何をおっしゃいます。我々がこうしてシュウサイ様の残された指示通りに動けるのも、カイエン殿が大将として我らの上に立って下さったからこそです。
・・・正直、私が上に立って皆に指示したとしても、ここまでは迅速に動かすことは出来なかったでしょう・・・・・・残念ですが、私では安心感を皆に抱かせられないのだと、今になってようやく差を理解できたばかりですから」
「お主・・・・・・すまぬ」
潔く、自分の未熟と限界と、そして何が己に足りないのかを理解して、今この時に必要なものは自分に無いものであったと認め、受け入れた清々しい表情で副将が言ってくれた言葉にカイエンは胸が熱くなるものを感じさせられ、言葉に詰まった。
彼とて、ドマ国に生まれた武人として最強の兵を目指して精進してきた一人であろうに、その道は自分に叶わぬものと認め受け入れ、その道を極めれる者への嫉妬や悔しさを感じる心を正直に伝え、その上で自分に極めれる道によって、叶えられなかった夢を叶えられる立場となった者を支えるため全力を尽くす。・・・なかなかに出来ることではない。
自分の発言に、項垂れたように俯かせてしまった大将に向かって彼は笑い、
「頭をお上げくださいカイエン殿――いえ、カイエン様。大将が家臣に頭を垂れていては他の者に示しがつきません。
なにより私は信じたのです。あなた様に尽くし、勝利を得るため尽力することこそが、私に与えられた才の意味であったのだと。自らに与えられた才を存分に震える時と戦場を得た武人に、これ以上なにを望みましょう? 詫びる必要など毛頭ございませぬよ」
「そうか・・・そうでござるな。我らはただ、帝国軍を打ち払い、この城と国を守り抜き、以て護国の剣足る。それだけで良いのござるのだから」
互いに頷き合い、意見の完全一致を見た新たな大将と副将は、改めて机に広げられていた軍略図を見下ろしながら意見を出し合い、作戦の細部までに渡って完成度を高めるため腐心し始める。
『籠城のための反撃作戦』についての話し合いが、その内容であった。
籠城戦というと、多くの人たちは『援軍が来るまで持ち堪えるため立て籠もる策』というイメージを抱かれやすい作戦であることは、残りカス少女のオリジナルがいた世界でも、この異世界においても変わることなく共有されている共通認識となっていた部分だ。
そして、その認識は正しい。だが半分は間違っている認識でもある。
正確には、『立て籠もって持ち堪えるだけの籠城戦』と『勝つための戦術としての籠城戦』という二種類があると表現した方が正しいだろう。
たとえば、敵と戦って敗れた軍が、残された者だけでは対抗できない。どうすれば?と考えた際に『城に寄って戦えば数の差を補える』という選択肢を選んだ場合には前者の籠城戦となる。
一見すると真っ当な戦術に見えるが、立て籠もるということは退路を自ら断つことでもあり、勝ち目がなくなった敵に包囲された状態で孤立することをも同時に意味する羽目になる。
今は良くても、最終的には追い詰められて壊滅させられるしかない状況へと自ら飛び込んでいく道を選ぶのが、前者の籠城戦の特徴だ。『援軍の当てがない籠城戦は愚策』とされるのも、それが理由である。
もともと戦って倒すつもりで挑んだ敵に敗れたから、やむを得ず選んだだけの消去法でしかない戦法である以上、『援軍』という外的要因以外に勝ちの目がなくなってしまうのも宜なるかな。と言ったところか。
一方で後者の籠城戦の場合には、最初から籠城戦によって敵軍を退けることを想定して戦うため、様々な準備が必要となる。
水や食料はもちろんのこと、夜陰に紛れて敵軍を奇襲するための隠し通路や、城を包囲した敵の背後を脅かすため伏兵の配置。兵力にも十分に余裕がある状態で行えなくては満足な効果は望みにくい。
ドマ城は、千年前に起きたとされる魔大戦を経験した後も立ち続けている世界唯一にして最古の城である。
それは彼の城が、『そういう使い方で守り抜かれた戦闘実績』を示すものでもあり、そのために使われたと思しき仕掛けが未だに眠っている『古強者共の夢』を現在に残す古城でもある。
さすがに時間経過が長すぎたことで劣化が激しく、現存するもので使用可能なものは残り少なくなっていたが、先代の防衛戦を指揮する主将であったセキシュウサイは帝国軍の侵攻が現実味を帯びてきた頃より古い記録を読みあさって、それらの内いくつかを復活させて今次大戦に活用するまでに至っていた。
副将が用意していたのはコレらを完全起動させる作業であり、記録がないため想像上でしかないとはいえ、千年前の戦いでは使われていたであろう『攻撃用の防衛兵器』を装備させた魔大戦時代のドマ城を現代に蘇らせたと言ってよい。
「あらためて先人の知恵には頭が下がります。
なにより、城内に井戸が用意されているのはありがたいですね。これのお陰で我々は不安なく数ヶ月の籠城を始めることができるのですから」
「まさしく、でござるな。飯は何らかの手段で運び込むことも可能でござるが、水ばかりは水場がなければどうしようもござらん。
これある限り、我らがドマ城は難攻不落でござる。帝国軍ごときにシュウサイ殿が守り抜いた城を奪わせることなど、このカイエン決して許さぬでござるよ!」
決意を新たにして、主従となったコンビは語り合う。
ドマ城は海に面した城でありながらも、意外なことに城内に流れる水は海水ではなく、真水を飲むことができるよう用意されている。
どういう理屈で実現しているかは、城の技術者たちにも解明できていない部分が多いのだが、城内まで海水が入ってくるのは外堀までで、城から大分離れた位置にある湖を水源とする地下水道が城内の飲料水として流れ込んでくる仕組みになっているらしい。
このお陰でドマ城では、水不足に悩む恐れだけは皆無に近いという、守城戦においては圧倒的なアドバンテージを誇ることが可能となり、世間に流れる『援軍のない籠城戦は勝ち目がない』というイメージしか知らぬケフカ直属の帝国軍部隊長たちは敵を侮り、無謀な突撃を繰り返しては敗退し続けていた。そういう事情が今までの戦局には生じる理由になっていた。
「うむ、とはいえ油断は禁物。しびれを切らした敵が、水源になにか仕掛けてこぬとは限らぬでござるからな。
拙者は見晴らしのいい天守から帝国軍の動きを監視しにいくので、この場はお任せ申す」
「いえ、お供いたします。こちらの準備は指示を出し終えたものばかりで正直、私がいても飾りにしかならない段階に入っておりますから、それぐらいなら物見役でも果たしていた方が少しは役立つでしょう。監視が大いに超したことはありませんからな」
「そうでござったか・・・・・・では、お主にも手伝いをお頼み致そう」
奥手と評されていたカイエンでさえ、流石に気遣われていることに気づかざるを得ない副将からの言葉に、苦笑しながら許可を出し、共に階段を上がっていく二人のドマ軍人たち。
器用そうに見えて、意外と不器用な面もあるらしい副将の一面を見せてもらって、こんな時ながらも思わず笑み崩れそうになるのを堪えるのに苦労させられた。
その思いを相手に悟られぬため、率先して先を歩んで背中しか見せなかったカイエンだが、天守とも呼ばれる屋上に到着して見張りの者たちに一時の休憩と交代する旨を伝える。
その後、剣士故に目の速いカイエンは、敵の援軍が来ぬよう海上の方の警戒を担当し、副将は帝国陣地が右方向に見える城の正面方向を同時に監視する役割分担をして、互いに離れた位置で直立不動しあう。
敵が攻勢に出てくるとすれば、必ずや何らかの動きがあるはずであり、先ほどから物見たちから齎されていた報告にも幾つかの変化と動きは逐一彼らに伝わり続けていた。
奇妙なことに、帝国軍陣地内で大きな動きが発見され、大勢の帝国兵たちが隊列を組んで進軍していく姿は遠巻きにも分かるほど勢いがありハッキリとしたものだったのだが、敵が進んでいく先はドマ城と逆の方角で、何らかの罠かと警戒したのだが特に何も起きないまま今の時間まで過ごせてしまっている。
おかげで籠城の準備が邪魔されることなく、予定通りに事が運べて助かったといえば助かったのだが・・・・・・不気味といえば間違いなく不気味な敵の異常行動だったため物見の兵たちを中心にわずかな動揺が広がっているのも事実ではあった。
いったい、帝国軍は何をして、何を企んでいるのか・・・?と。
まさか敵軍の大幹部が部下たちのヘイトを集めまくって、溜まりすぎてた欲求不満の解消に丁度いいモンスター少女が突撃してきたから、ガス抜きのため討伐許可したところ、次から次へと参加者が増えまくって大軍形成した状態で異世界残りカス少女が悲鳴上げながら適当な方向に逃げ回ってるのを追いかけ回しているだけだった――などという戦場を舐めきってるとしか思いようのない現象が、まさか本当に帝国軍陣地内で起きていようとは真面目すぎる堅物主従はコレッぽっちも考えることなく。
ただただ真面目に真剣に、国を守り抜くため、愛する者たちの生きる土地を奪わせぬため、少しの変化も見逃さぬよう、その変化がドマ城へと危険をもたらすものであるなら即座に対応できるよう、目を皿のようにしてしっかりと、正面と敵陣地がある方角を見つめ続けていた―――その時だった。
「か、カイエン様ッ!!」
「どうした!? 帝国軍陣地で新たな攻勢につながる動きがあったでござるか!」
「い、いえ、そうではないのですが・・・・・・とにかくアレをご覧ください!!」
慌てた声で名を呼ばれ、大急ぎで駆け寄ってきたカイエンに対して、らしくもなく曖昧な表現のみを使って帝国軍陣地のある方向の一角を指さす副将の言葉に、やや首をかしげる思いを抱かされながら視線を向け―――そして目を見開く。
「アレは・・・なんと! み、水が・・・・・・」
――カイエンたちが、帝国軍陣地のある方角で発生した水にまつわる怪異を目撃するに至ったのには、こういう経緯がある。
「ヒャッヒャッヒャ♪ まどろっこしい籠城戦で勝とうとしていた、レオ将軍の悔しがる顔が目に浮かぶようだねェ~。
この毒一つ流してやるだけで、アイツが嫌っていた“無駄な犠牲”ってヤツが大量生産できちまう・・・・・・触れただけで即死じゃあ~。
何百、何千、何万人の絶叫が奏でる亡者共のオーケストラが聞こえるようだね、フォッフォッフォ」
陰惨な笑みを浮かべながら、大事そうに毒の入った袋を抱えつつ、予定していた毒の投入に最適な場所まで少しだけ距離ができてしまった現在地から移動している途中だったケフカ。
なにかと独り言が多い性格が幸いしたと言うべきなのか、本人にとっての不幸は他人たちにとっての幸運だったと表現すべきなのか、それは分からない。
ただ少なくとも、ケフカの断片的な独白を盗み聞きし続けられたお陰で、隠れ潜みながらコッソリ後をつけてきていたバルガスにも現在の状況がようやく理解できるようになったことだけは確かな事実になっていた。
(・・・・・・あのピエロ野郎は、ドマを落とすのに毒を流すつもりだったのか。城内には捕虜になった帝国軍の下っ端共も大勢いるだろうに可愛そうによ。まったく、ヒデェ野郎だぜ)
相手の話を勝手に聞いていたバルガスは、非人道極まるケフカの一方的な虐殺作戦の概要を知って、柄にもなく帝国兵たちへの同情を心の中だけで口にしていた。
他人が聞けば「お前が言うな」と総ツッコミを食らっていたことは疑いない感想だったが、基本的にバルガスは自分の利害に関係のない赤の他人の不幸なら同情してやるぐらい偶にはしてやってもいい気質の持ち主ではあったようである。
特に、『より気にくわないヤロウ』と『会ったこともなく襲われたこともない敵の下っ端』という構図の問題ならば、より悪意を感じる側への否定的感情によって、同情しても害のない敵兵たちをヒイキしてやる気持ちになりやすい。
確かにバルガス自身は、父親を明らかな不意打ちで殺すことでしか勝てない実力の卑怯者である。
勝つためには手段を選ばず、目的のためなら他者の犠牲など知ったことではない――そういう方針を貫いて平然としている悪党でしかないのも事実だろう。
――そうだ。
『自分が勝つため』手段は選ばない。
『自分の目的のため』他者の犠牲など知ったことではない。
自分が得するため、自分が使う分には良い。
だが自分以外はダメだ。
自分が気にくわないと思ってる相手が、自分と同じ手を使うのは反吐が出る。
――それがバルガスの発想だった。
『悪党として』バルガスの考え方とは、そういうものだった。
その場その場で、自分に都合のいい理屈こそが正しくて、自分に都合が悪くなった後には間違っている理屈に変わる。そして都合が良くなれば、また戻す。
それが悪党の悪党による悪党らしい、卑怯者の理論というものだったろう。
(気に食わねぇな・・・・・・)
そんな小悪党バルガスは心の中で、本能に近い反発心でケフカの凶行をそう感じてムカムカしていた。
別にドマ城の人間たちが一方的に殺されるのに義憤を感じたとか、柄にもない感情を抱いたわけではない。
毒殺などという卑劣な殺し方に、格闘家としての怒りを感じた訳でもない。
正義感など、犬にでも食わせてやればいいと、自分でさえ思っているほどだ。
――圧倒的な自信と才能。
それに基づく、自分以外すべての他者に対する見下し。
そのどちら共が才能の差で、拾われ子の弟弟子に奥義継承を奪われたバルガスには持つことが出来なかったものだった。
だから自分はマッシュに嫉妬したし、自らが編み出した技で弟弟子の死命を制して殺すことによって、自分の方が弟弟子より上なのだと自分自身が実感できるようにしたかった。
殺した方が上であり、殺せた側が殺された方より強く優れているのだと、事実によって証明したかったからこそ殺そうとしたのである。
卑怯な手段で殺しても、格闘家として上回ったことにならないなどと、殺された敗者の側が言ってきたなら、ただの言い訳・負け惜しみ!
敵と戦って倒すために技を磨く格闘家ならば、油断した方が悪く、敵は拳で挑んでくるものと決めつけて敗れたなら、そいつが間抜けなだけでしかない!!
・・・・・・まぁ結局、勝てずに負けたのがバルガスなのだけれども。
だからこそ彼は、ケフカの考え方が、なんかムカつく。
自分が勝てて当然、殺せて当然、負けることなどあり得なーい、とか思ってそうな自信満々な態度の上から目線が、なんとなくイラつく。
吠え面欠かせてやりたくてやりたくて、仕方がない欲求を抑えきれなくなってくる。
(ドマ城の奴らやマッシュを助けてやることになるのは気に食わねぇが、今回ばかりは仕方がねぇ。
奴らに味方してやることが、あのピエロ野郎に俺が吠え面かかせてやることになる状況だ。両立できねぇと分かってるなら実力差あるヤツでも、やりようはあらぁな・・・・・・)
そう考えて方針を決めるとバルガスは速度を速め、ケフカに気取られぬよう先行して先回りするため先を急ぎはじめる。
ここまで来る段階で、流石にバルガスも自分とケフカの力量差を認めずにはいられなくなっていたお陰で正面決戦という選択肢は消え去り、出し抜ける方法を考えるのに集中したことで幾つかアイデアが浮かんでいたのが、その理由だった。
これほどムカつかされる野郎に、今までずっと手を出せずにコソコソと後を付けることしか出来てこなかったのが自分と相手である。これで戦って勝てると信じれる方が難しい。
第一、自分は『気にくわないヤツに吠え面かかせて「ザマーミロ」と勝ち誇りたいだけであって、別に勝ちたい訳ではないのだ。
マッシュの時にはコンプレックスと嫉妬があったが、ケフカにはそんなもん無い。ただ貴族のバカ息子っぽい高慢ちきな態度がムカつくから邪魔したいだけである。
バカ貴族のバカ息子っぽいヤローと勝負する気は一切ない。
・・・・・・どこまで行っても子悪党なチンピラ思考で、強い相手への挑み方を考えてるバルガスだった・・・。
なんか色んな世界で、似たようなことを主人公たちに仕掛けて来たがる名も無き悪役とか敵キャラとかモブディランとかいっぱいいそうな気がするけど、そんなのに邪魔されそうなケフカの計画は果たして――?
「ふぅ・・・この辺りでいいだろう。位置的にも悪くはねぇし、障害物もない。
――ククク、宿命の風が吹くには良い案配だろうよ。なぁ・・・?」
邪悪な笑みを浮かべながらバルガスが立ち上がったのは、ケフカが毒を投入したドマ城へと流れる河がジグザグに交差している、帝国軍陣地にほど近い一角。
陣地とドマ城のある地域を物理的に結んでいる、大きな橋のかけられた場所より少し北上した辺りだった。
嫌がらせをするには、幾度も壁にぶつかって水の流れが変わる、この辺りの中間辺りまでが限界だと考えたのだ。
ここより先に下ってしまうと、川の流れは斜めに変わるものの、方向そのものは真っ直ぐ進み、それが切れた後も直角に方角が変わって速度が緩やかになるだけで進む方向は直進のままになってしまう。
そうなると、山間から始まって海へと届こうとしている川の水をどーこーする手段がバルガスにはない。
毒が流されたことを知らせるだけなら、流れが穏やかになるケフカとの距離が離れた位置でも良かったが、それでは対応する時間が残り乏しい。
作戦を妨害するためには、毒が混じった川の流れが穏やかになる前の地点で知らせる必要があり、その為には危険を承知で毒の投入ポイントから離れすぎていない位置で狙うしかないだろう。
(それに、危険を冒してハイリスク・ハイリターンを狙う方が好みでいい。
近くに隠れ潜んでいたヤツに気付かなかったせいで失敗させられるのは、さぞムカつくだろうぜ・・・・・・クックック)
――どこまでも、子悪党な発想でものごとを考える男であった。
やがてバルガスの視界の中で、川の水が変色し始める。
毒が混じって、成分が変化した水が徐々に広がっているのだ。
その変色スピードと川の流れの速さから、バルガスは大凡の当たりをつけて狙いを絞る。
水の都サウス・フィガロで生まれ育ち、レテ川の流れるコルツ山で熊を仲間にして逃亡者生活を送り、変なタコ型モンスターの『オルトロス』とも付き合いがあった経験が今、役立っていた。
川に関することには以外に詳しいバルガスだった。
詳しくなった理由が色々ダメすぎるけど、今の状況で役立つなら、学んだ経緯や動機はなんだっていいのが現実の作戦というものである。知らなかったから実行不可能より、ずっといい。
少なくとも、異世界から捨てられてきたコピー少女と、オリジナルの方は全面的に賛成してくれること請け合いだからダイジョーブ。
「・・・・・・よし! 今だ!! 宿命の風を吹かせてやる時が来た!!
俺がここにいたことで、お前の作戦は失敗する。そして逃げる俺に、お前は追いつくことが出来ない・・・・・・それも、宿命だ!!」
ずいぶんと安っぽい使い方される『宿命』もあったものだったが、現実問題としてコイツが今この場に居合わせたことは本来ありえない偶然で、異世界少女が雪男に気に入られて、その事知らずに吹っ飛ばしちまったから怒ってボコボコにされまくった結果として可能になったのが現在だったので――『宿命』はともかく『運命』ではあったのかもしれない。
めっちゃ情けない内訳の運命だったけど、運命は運命である。
今その運命が、歴史を変える一撃を放つ。
「必殺!! 《連風燕略拳》!!!」
自分から因縁つけて、返り討ちにあったのを根に持って仕返ししに来るチンピラ子悪党の発想によって今、この世界に刻まれた歴史的事件の一つに一石を投じられる時が来た!!
ビュォォォォォォッ!!!!
――ずぼぉぉぉぉぉっん!!!!
「なッ!? ななななんですかアレはー!? み、水が遮られて、水柱に!?」
遠くからケフカが放った悲鳴じみた叫び声が、小さく鼓膜に響いた気がした。
バルガスが行ったのは単純な手だった。
かつて帝国軍に操られていた魔導戦士の仲間たちを、耐えきれずに吹き飛ばした突風が。
異世界から落ちてきた少女を、ゴミのように何の抵抗もできずに吹っ飛ばして気絶させた必殺技を。
川の水を巻き上げるために―――テキトーな動物とかモンスターたちを吹っ飛ばすのに使って、巨石代わりに川の中に突っ込ませまくるのに使いやがったのである!!
『フシュルぅぅぅぅぅっ!?』
『ブニャぁぁぁぁぁぁぁっ!?』
『――――――――――ッッ!?』
バルガスに襲い掛かろうとして、実は先程から気付かないフリして誘き寄せられていたモンスターたちが、次々と突風に煽られまくって吹き飛ばされていき――川の中央付近へと落下させられまくっていく!!
毒を投じられた後なんだけども!
川の水には毒が盛大に混じってんだけれども!!
それでもバルガスは気にしない。
コルツ山で自分を囮に、襲い掛かろうとしてきたところを返り討ちにして殺して食ったり、皮剥いで売り払ったり、持ってた場合はギルやアイテムを分捕ることを日常的にやってた男にとって、モンスターたちを生け贄に捧げて勝利するぐらい何の躊躇いも感じる心は微塵もないのだ。
《エピオルニス》と名付けられた昆虫と動物が融合したような姿をもつ、鱗粉に猛毒を有するモンスターが無意味に羽をバタつかせながら紫色の水の中へ落ちていく。
大型化した猫型のモンスター《ストレイキャット》が鳴き声をあげながら群れで宙を飛ばされる。
巨大昆虫の《セレイドホッパー》は聞いた者を興奮状態に陥らせる、特殊な羽音を発するために純粋な飛行力は低下しており。
非情に発達した前歯で何者をも噛み砕こうとする《シピーラビット》は肉食の巨大兎だったが兎は兎。サイズ的に抗えることなく、隠れ潜む毒々しい巨大植物の葉と一緒にまとめて水の中へと没する運命にある。
ボチャン! ぼちゃんぼちゃんボチャン!!!
ボッチャ~~~~~~ッん!!!!!!
―――ヒギィアぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!??
人間だったら触れただけで即死の猛毒に汚染された川の中に次々と放り込まれて絶命していく、モンスターの群れた血の断末魔が悪夢のように草原に響き渡って、聞く者に生涯忘れることのできなさそうな死のオーケストラを響かせながら一匹、また一匹と数瞬の激痛の後に命を奪われて絶命していく。
なまじ、人間には感知できない気配まで嗅ぎ分けて、密かに襲い掛かるため接近してしまえる野生のモンスターたちが持つ特性が裏目に出た結果だった。
中にはモンスターに混じって、普通の兎や昆虫や動物たちまで一緒くたにして吹き飛ばし、全力全開で落とす場所を狙いつけて計算尽くで放った必殺技による突風と毒物のダブル餌食にされて、巻き込まれただけで何の罪もない生き物たちまで殺戮してしまっていたのだが――
「ふははははははッ!! 落ちろ落ちろ下等生物のモンスターども!!
このバルガス様の作戦を成功させため、生け贄になれたことを光栄に思いながら死んでいきやがれ!
宿命だ! それがお前たちの宿命だったのだ! あとは地獄で達者で暮らすんだな! あばよッ!!」
一頻り勝ち誇って高笑いするだけで、コレッポッチも罪悪感もトラウマも感じてるようには全く見えない子悪党バルガスは、作戦成功を見届けた瞬間には脱兎の如く走り去って逃げ出しちまってて、ケフカに笑い声が届いたかどうかすら怪しいレベル。
しかもこの男、実は風向きが変わって風上“ではなく”、風下に立つタイミングを見計らって必殺技を使用しており、自分の存在を最大限相手に気付かせないための工夫をした上で行っていやがったのだった。
まさに悪党。まさに子悪党。
弟弟子への嫉妬から、父親を騙し討ちして殺して、無関係なティナたちまでもを罪逃れのため殺そうとするTHE子悪党の典型的見本とも呼ぶべき男の本懐ここに極まれりな見事すぎる子悪党ぶりであったが・・・・・・・・・実は彼には、自分が行った作戦について知らなかったことが一つ存在してもいた。
いや、その表現は正確ではない。
ケフカの作戦を妨害したバルガス知らなかった事ではなく、ケフカ自身すらも知らなかった一つの事情が、このとき実は発生していたのである。
―――後の時代の話になるが、ガストラ帝国によって勃発された世界征服戦争の中、【ドマ城の毒殺】は最大の悲劇の一つとして、後世に長く伝わっている話となっていくのだが・・・・・・実のところ、この事件は多くの謎と疑問点が解明されず終いだったことでも知られている出来事だったのだ。
その謎の一つが、『毒の性能』
ケフカ自身は、この毒を『触れただけでも即死する猛毒』として用いていたようなのだが、実際には城内にいた人間や、水に触れる時間的余裕などなかったはずの者達までもが犠牲者の列に加えられているのが、この事件の特徴だった。
このとき使われた毒物は、後に政治利用のため帝国軍によって処分されてしまい、未来には資料すら残っていない物になってしまっているが、少なくとも帝国軍が世界制覇のため新たに開発した合成薬品であることだけは判明していて、魔大戦後の世界としては歴史上初めて行われた世界規模の大戦で初めて用いられた新型の毒薬だったことは間違いない。
・・・・・・そしてもし、これらの情報を異世界から捨てられてきた少女が知る機会があったとした時には、おそらく一つの名前を思いだすことになるのだろう。
実際には、彼女が知るのは「毒“薬”」ではなかったし、使い方も大分異なるものではあったが、世界の違いで原材料が変われば、化学変化する成分の割合も同じではありえない以上は、やはり『その名』を思いつきやすいのが彼女という人間である。
それは彼女のオリジナルが生きた世界の過去に作られた存在の名称。
歴史上初めて行われた世界規模の大戦で造り出された、触れただけで相手を傷つけ、広範囲にわたって被害をバラ撒き、防ぐ手段はほとんどない、新しい時代の科学が生み出した最悪の兵器の一つ。
この世界で唯一、彼女だけが知っている、それの名前は―――『サイオキシン・ガス』
異世界チキュウの世界大戦で、そう呼ばれていた兵器の存在を。
それが世界の違いに合わせた結果―――化学変化を引き起こす危険性を。
バルガスもケフカも、ドマ城の人々さえ誰も知らない。
後の時代に誰もが知っている悲劇のことを、今はまだ誰も―――被害者たちですら知ることは出来ていないのが、現在という時間だから・・・・・・
つづく