FINAL FANTASY Ⅵ~偽レニア~ 作:ひきがやもとまち
続きも急いで書いて完成を目指したいところなのですが……
「ふははははははッ!! 落ちろ落ちろ下等生物のモンスターども!!
このバルガス様の作戦を成功させため、生け贄になれたことを光栄に思いながら死んでいきやがれ!
宿命だ! それがお前たちの宿命だったのだ! あとは地獄で達者で暮らすんだな! あばよッ!!」
バッシャ――ッン!! バッシャ―――ッン!!!
バシャンバシャンッ!! ジャボンッ!!
ギャオ~~~~ッス!?
異世界から落ちてきた少女のおかげで(「せいで」とも言う)死すべき運命を変えられることとなった逆恨みを良しする小悪党バルガスによって、引き寄せられてきたモンスターたちを吹き飛ばし、毒が投じられた川に水柱を立てさせるという作戦は図に当たり、盛大な水しぶきを上げることに成功していた!
結果として、この行動が帝国軍による征服戦争で最大の悲劇とされる虐殺を阻止するほどの効果は得られようもなかったものの、彼が怨みに基づく憂さ晴らしのため行った行動は、小さいながらも確実に歴史の流れへと影響を与えることになっていく。
あくまでイヤがらせ目的でやっただけの行動が上手くいったことを確認すると、大急ぎで後ろを振り返ることすらなく全速力で犯行現場からの逃亡を図っていた、器の小さい大男のプライドによって救われることになった命が少なからず存在する、という事実は後の未来における教育者や反戦主義者たちの一部から頭を抱えさせられることになるのだが。
現在の時点では、ただ危機の到来を目撃者すべてに知らせる狼煙としての意味しか持っていることは決してない。
それが時代ごとに過去となっていく、歴史の積み重ねというものだった。
・・・・・・とは言え、バルガスが我流の必殺技によって吹き飛ばすことで、川の中央に巨大な水柱を立てさせるため、自分を囮にしてモンスターたちを引き寄せさせていたのは彼の計画通りの結末だったとしても。
モンスターたちが集まってくれるか? 集まってくるモンスターたちの数はどれ程になるのか? それらの部分は運次第な部分が強く、ほとんど集まらず小波を起こせる程度のことしか出来ない可能性は多分にあった。
バルガス自身も、そうなってしまった時には諦めて、計画を破棄して逃げるだけのつもりでいたのだが、予想より多くのモンスターたちが引き寄せられてくれたことで実現されることとなる。
それがバルガスによって行われた、ドマ侵攻最大の悲劇の中では決して無視できない出来事の内訳でもあった。
言い換えれば、サイコロを投げて偶然にも良い目が出てくれたという程度の違いで成功失敗が決まってしまう作戦だったのが彼の計画であり、スロットマシーンで運良く『777』が出たようなもの。
あるいは、死神のカードを連続で引いてしまった。それに近いものだった。
だが、しかし。
運良くスロットで777が出たことで、計画よりも多く集まりすぎてしまっていたモンスターたちを、計画通りに毒の投じられた川の中央に放り込んで水柱を立てさせた結果として。
バァッシャァァァァァァァァァッッン!!!
・・・・・・デカすぎる水柱が出来てしまって、予想よりも高く高く舞い上がりすぎてしまうことになり。
そして異世界から捨てられてきた少女が元いた世界でも、過去に魔法が存在して消え去ってしまった世界でも、基本的に水は高きから低きに流れるものというか落下していくものでもある。
垂直に上がった物質でも、真っ直ぐ打ち上がる前にあった位置まで戻ってくるだけのことは多くなく。
たいていは放物線を描きながら、周囲に飛び散る。
上昇可能な限界高度まで上がった先で、放物線を描きながら、水をまき散らしながら。
その結果。
「フハハハハ!! ザマーないな! 苦労知らずな帝国貴族のボンクラめが!
宿命だ! お前のような苦労知らずの計画が、このバルガス様によって阻害されるのは宿命――ん?
よく見りゃあ、思ったよりデカい水柱ができちまってた・・・・・・って、うおわァッ!?
なんか落ちてきた水に触れた草が溶け―――って、うおわぁわぁぁああッッ!?」
計画を実行して成功させた自分自身にまで、火の粉ならぬ毒の混入された川の水が飛び散ってきて、頭上から落ちてくるという悲喜劇的な状況へと陥らされることになってたバルガスだった。
毒を流したケフカ曰く、『触れただけで即死』の猛毒が混入された川の水が、空から落ちてくる中を、ケフカが邪魔者始末するため追っかけてくる危険性がないとは言えない状況で。
彼方へコチラへ跳んだり跳ねたり、落ちてくる水を避けながら悲鳴を上げて逃げ出していくバルガスの、客観的視点という観客気分で安全に見物できる立場の者には滑稽に見えるしかなかったであろう全力回避と全力逃走。
もしも異世界から落ちてきた少女が見ていたならば、『ミニゲームみたいですね』と呟いていたかもしれない、大きな悲劇の中で起きていた小さな悲喜劇。
だが、物事というものは見る人の立場と見る角度によって大きく意味合いを変えることがあるもので、それは価値観や精神面だけの話ではなく、時に物理的な角度や立場でも違った意味を持たせてくることが往々にしてあるものらしく。
「・・・む!? あの水柱はいったい・・・・・・それに、あの色は・・・・・・まさか!」
帝国軍陣地から少し離れた位置にある、出っ張った丘の下に隠れながら周囲を伺っていたマッシュは、遠く川の流れが続いている先にあると思しき位置から突如として舞い上がった水柱にいぶかしげな視線を向けると、その舞い上がった水の色を確認したことで更に眉の角度と目付きとを同意に険しくする。
帝国軍の魔道師ケフカがおこなおうとしていた非道な計画を阻止するため戦いを挑み、偶然にも自分たちから逃げるケフカと、帝国兵に終われて逃げている途中だったセレニアを抱えたウーマロと再会して、衝突事故を起こしてしまったウーマロの体当たりでケフカが吹っ飛ばされてしまった後。
陣地内に留まり続ける理由が本気でなくなってしまったマッシュたちは、セレニアを追いかけてきていた大量すぎる数の帝国兵から逃れるためという目的もあり、合流して全速力で撤退し、この場所に隠れながら吹っ飛ばして居場所が分からなくなったケフカを探してウロウロし続けている。・・・・・・という立場になっていた。
そんな状況下でバルガスの立てさせた水柱に、誰より早く見つけることが出来ていたのがマッシュだったという事実は、皮肉な運命だったと言うべきなのか、宿命と呼ばれる因縁によるものだったのか・・・・・・あるいは異世界から捨てられてきた少女が、残りカスだった故の半端すぎる結果だったのか。それは分からない。
今のマッシュでも分かるのは、舞い上がった川の水が「毒々しい紫色」に変色している事実。
それだけは確実であり、長い山暮らしで良くなった視力が見間違えるはずはない部分。
そして、その違いこそが今のマッシュたちにとっては最も重要な部分こそが、それでもあったのだ。
「・・・恐らく、そうだろう。俺も話だけは聞かされたことがある。
帝国の魔導研究所では、研究成果を応用させた新兵器の開発もおこなっているらしい・・・と。
その中には、新型の毒物もあった。・・・・・・魔導の力が込められた、魔法の毒だ」
「クソッ! あの野郎! ぶっ飛ばしたぐらいで諦める奴とは思っていなかったが、本気でやりやがったってことか!!」
パシン!と、怒りのあまり拳を掌に叩きつけて音を響かせ、額に青筋を何本も浮き上がらせるマッシュ。
帝国からの依頼も金次第では引き受けているシャドウからの情報提供を聞かされたことで、更に怒りのボルデージは引き上げることにしか役立ちようがない。
結果的に逃がしてしまったとはいえ、少なくとも陣地内からドマ城へ続く川に毒を流されることだけは止めることが出来ていたと思っていた自分に対して、激しい怒りがこみ上がる。
――やっぱり、あの手のクズは完全に叩きのす以外に被害者を出さない方法はないってことなのか! クソッ!
そんな想いを理由にしての怒りである。
マッシュの兄エドガーは、戦って倒す以外の手段で帝国との戦争を終わらせようとするバナンの方針に賛成していた。
だからマッシュも不必要に殺さないよう手加減してケフカに止めを刺そうとはしなかった――という程ではなかったが、ケフカの腕も相当に高かったからこその結果ではあったものの、『殺さなければ人々を守れない存在』という人間も、この世には実在しているのだという事実を思い知らされたような気持ちになったことは、マッシュには痛い。
だが今、自分たちがやるべきなのは『帝国軍の毒で殺された人たちの敵を討つため真犯人を追って倒すこと』“ではなく”『毒による被害者を一人でも減らすよう最善を尽くすこと』であることぐらいは、兄であり国を担う立場を選んでくれたエドガーではない弟のマッシュでさえ言われるまでもなく分かり切っている。
「・・・ドマ城に毒を流したってことは、籠城してる奴らを戦わずに楽して占領するつもりなんだろう。
仮に生き残りがいたなら、毒で動けないソイツらを皆殺しにして―――戻るぞ! あそこまでして城を落とそうとしたからには、すぐに占領部隊を出撃させるつもりのはずだ! ソイツらを足止めして、生きてる奴らが逃げるのを援護する!
悔しいが、今から行っても毒を防ぐのは手遅れだが、それぐらいなら俺たちにだって・・・・・・ッ!!」
「・・・え・・・? も、戻るんですか・・・・・・? ゼェ・・・、ハァ・・・、ゼェ~・・・・・・」
「ウゴ?」
そして息上がるマッシュの隣で息切れして、ゼェゼェ言ってる雪男に担がれてる異世界少女が、また巻き込まれる行動方針が決定されたようでしたとさ。
真っ青な顔色になって虫の息のような状態に陥り、雪男の肩に担がれながらグッタリとしている姿は瀕死の重病人か重傷者と見紛うほどの悲惨な有り様。
・・・・・・特になんもやってないんですけどね、コイツって。
ただ雪男に荷物代わりで担がれながら怯えまくって、悲鳴上げまくって、叫びまくって、テキトーな方向を移動先に指し示しながらアッチコッチ(雪男ウーマロが)逃げまくってただけのことで。
本人自身は本気で特に何もやってないし、走ってもおらず移動してすらいないので、本来なら疲れる理由は何もないはずなヤツなんだけれども。
人間って割と、叫んだり悲鳴上げまくったり怖がったりしてるだけでも結構疲れる生き物だからねぇ・・・。
マッシュたち現地人が住む、この世界には大昔の『魔大戦』による影響が色濃く根付いている地域が多く残っているせいなのか、人の恐怖する心や無念の念いが凝縮して形となったモンスターも存在し、その瞳と見つめ合った者を恐怖のあまり石へと変えてしまう『恐怖の視線』と呼ばれる魔的な力を持つに至った異形なるモノまで実在するレベルのモノが人の恐怖。
もっとも、今コイツにダメージを与えているのは恐怖そのものではなく、叫び疲れたのとストレス性の疲労が原因なのであって、怖いからやってしまった行動が悪かっただけで心そのものは別に問題ではなかったのだけれども。
こういう場合、『じゃあ悲鳴上げて叫ばず静かにしてればいいじゃん、無駄なんだから』というのが至極もっともな解決策であり対応策だと本人自身も分かってはいるのだけれども。
それでも怖いと叫んじゃうし、悲鳴上げるのも辞められない。人の心ってそんなもの。
しかもコイツの場合はオリジナルと違って『保身』が追加されちゃってるし。つくづく本人にとってさえ要らないモノだけが付与された気がしてならないダメ人間な異世界転生者の残りカスな少女であった。
「・・・俺もインターセプターも問題はない。仕事ではないが、一度付き合うと決めたからには、最後まででなくとも、それなりの働きはしよう。
だが、この子供は残していった方がいいのではないか? 見たところ体調が良いとは思えん」
「たしかに・・・・・・大丈夫か? セレニア。お前、あんま体が丈夫な方じゃないみたいだからな・・・キツいんだったら俺たちだけで行くから、お前はウーマロと一緒にここら辺で待っててくれれば―――」
「い、いえ・・・ゼェ、ゼェ・・・、い、行きます・・・。一緒に行きますから大丈夫、です・・・。どーせ私、ウーマロさんに運ばれてるだけ・・・なので・・・体力とかはなくても問題ない立場ですし・・・・・・」
「ウゴッ! ウゴゴ~♪」
「ゼェ・・・、ハァ・・・、う、ウーマロさんも・・・・・・『オレ、強い。運ぶの得意』と、言ってるみたい・・・です・・・・・・ゼェ、ゼェ・・・・・・」
「そ、そうか・・・。じゃあ行くけど、キツそうだったら早く言えよ? 本当に。本当にだからな?」
「りょ、了解、です・・・・・・ゼェ~・・・、ゼェ~・・・・・・」
そんな状態になっても尚、偽レニアちゃんの脳裏には『一緒に行かない』という選択肢はありません。
一人だけ置いてかれた方が多分怖そうだからです。
――ウーマロさんもいるから一人じゃないだろと? 雪男は「一匹」なので「二人で置いてかれる」とは言わない。
種族名不明で、分類上の生物がどれだか分からない存在と、荒野に一人と一匹だけで置いてかれるってスゴく嫌で怖い。だから付いていく。そっちはそっちでスゴく怖いんだけれども。
「それじゃあ、みんな行くぜ! 帝国軍の陣地に今度は背後から殴り込みだッ!!」
マッシュが気炎を上げて、シャドウが黙々と追随し、顔色悪くした異世界少女がイヤイヤながら、友達を嬉々として担いでくれる雪男に連れられて元来た道を戻りはじめる、チームワークと目的意識の一致が全くできてない事この上ないゴッタ煮パーティーが、川から立ち上った水柱を切っ掛けに動き始めてはいたのと同じ頃。
バルガスに邪魔されながらも、ケフカが毒を流した先であり目的地である以上は当然のように、少しずつ少しずつ距離を縮めている相手であるドマ城の見張り台においても、川の異変と異様な状況は目視することが可能な高さまで水は吹き上がっていた。
「か、カイエン殿! あれを・・・・・・あの水飛沫はッ!?」
共に城壁の物見台に立って、帝国軍陣地のある方角へとするどい視線を放ち続けていた副官からの悲鳴じみた警告を聞いて、カイエンは慌てて彼の指さした先に視線を向けていたのだが――その必要はなかったかもしれない。
あまりにも異常な光景が、カイエンの視界には映っていたからだ。
わざわざ副官からの警告で目を向ける必要性など微塵もなかった。
「むぅッ!? あ、あの水の色は・・・まさかっ!!」
ドマ城の堀にも流れ込んでいる川の水が、高く舞い上がって水柱を立てている。
それだけでも異様な光景と言えたが、問題なのはそこではない。『水の色』だ。
毒々しくヌメ光る、不気味な色になって青い空へと吹き上がっている。
・・・・・・明らかに自然界の流れで発生する類いの色ではない。
異常な光景というだけなら水柱も原因不明な異常ではあったものの、それでも自然現象の枠内に収まりきる事象ではある。
だが、あの色は異なる。自然に付く色ではない。少なくともカイエンは、ドマ地方一帯でアレと同じ色が自然に付着した液体を見たことがなかった。
自然物でないとすれば、最もあり得るのは人造物か混ぜ物によって着色されたかのいずれかだろう。
だが、どちらにしろ判断は急を要するのだけは確かだった。帝国軍陣地から流れてくる色の付いた水は、まっすぐにドマ城の堀へ流れ込むコースをとりながら、再び勢いを取り戻し始めている。このままでは不気味な色の水が城に到達して、用水路にも繋がる堀に流れ込むのは時間の問題だろう。
「カイエン殿っ、事態は分からぬものの何かがあったことは確実なようですっ。どうか、ご下知を!」
副官からの尤もな言葉に、だがカイエンは一瞬指示をためらった。
あれが敵の策略だった場合、城を出て野戦を挑まなければならなくなる事態に陥るのを恐れたが故に迷わざるを得なかったのだ。
ドマ城は魔大戦でも落城を免れた難攻不落の城塞。補給路としての隠し通路なども多数完備されている、持ちこたえるだけなら後一年は帝国軍の猛攻を支えきってみせるという自負もある。
・・・・・・だが、城を出ての野戦となれば、籠もって戦う側の優位性は完全に失われるしかない。
まして不気味な色の水が帝国軍陣地の方角から流れてくる以上は、この策と連動して城へと攻め込ませるため出撃部隊が臨戦態勢で後詰めに控えている危険性が高いのが、今のような戦況。
鉄壁の城壁を捨て、満を持して待ち構えている帝国軍の精鋭たちを相手に、場内から逃げ出す民衆たちを守りながら戦う羽目になるのではないか・・・? そんな不安がカイエンの分厚い胸板を激しくざわつかせ、惑わせる。
だが、それは本当に一瞬だけの迷いだった。
忘我の時を一瞬だけ過ごした後、即座に我へと帰ったカイエンは己が成さねばならぬ役割として、最善の一手となる最大の義務を執行していた。
「急ぎ殿にご報告を! 我らドマ国の兵は、ただドマ国王陛下の命を信じて、その任を果たすため全力を尽くせばそれで良いのでゴザルから!!」
大きな方針を決する器は自分にはない。それ故に国には主君がおり、家臣たちが支えている。
どちらかだけでは、『仕える者』としてのサムライも、『率いる者』としての主君も成立しない。
自分では決めかねることは主君に問い、その判断に誤りがあった時には身と命を以てしてでも諫めるのがサムライの道。
・・・・・・にも関わらず自分は一瞬、判断が遅れてしまった! 事が巨大すぎる恐れ故に駆け出す期を逸してしまったのだ!
あるいは先の数瞬によって興亡が別れる可能性すらあるかもしれぬ事態だというのに・・・・・・カイエンは、判断に迷った自らの不明と未熟さとを心から自罰しながら階段を駆け下り、王の間を目指して駆け続けた。
――――間に合え! 間に合ってくれ!!
心の臓以上に破裂しそうな、言い知れぬ不安に浸食されていく心の中で、嘘偽りなく本心からの願いとして