FINAL FANTASY Ⅵ~偽レニア~   作:ひきがやもとまち

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大分ぶりに、やっと更新できました。
久方ぶりなのに、あまり先に進められなかったのが残念ですが……早いとこ他の更新止まってる連載作も続きを完成させて投稿するよう努力します。


第25章「ある晴れた森の中で、残党軍に……出会った」

 この世界で最も古い歴史をもち、独特の文化を維持し続けてきたドマ王国が、南大陸における機械文明の覇者たるガストラ帝国によって攻め滅ぼされたドマと帝国との戦いは、《魔大戦》の終結にはじまる『古い秩序』が『産業革命による発展』に敗れ去った象徴的な出来事であった―――と後の世の歴史家の中には語る者が少なくない。

 

 《魔大戦》が終わってより150年あまり、ただ黙々と復興せんがための活動に終始せざるを得なかった人々の生活を改善させ、《魔法》に代わる新たな世界の担い手となって時代を推し進めてきたのは《機械文明》の発達による《産業革命》の結果であった。

 

 だが文明の発達は、必ずしも恩恵と利便性のみを与えてくれるものではない。

 自然を破壊し、大気を汚染し、森を、川を、海を、次々と自分たちの生活のため穢しながら、生贄として捧げることで発展を可能としていく側面も機械文明には存在している。

 

 それらの被害は必ずしも機械文明による発達と発展そのものを否定するものではなかったが、強力な反動と反発を必然的に招かざるを得ないものであったことも、また否定しようのない事実ではあったろう。

 

 その反発と反動の象徴だったのが、他国との交流を限定することで産業発展による影響をも最低限に留めさせたドマ王国の政策だったと言えなくはない。

 そのドマが帝国に敗れて滅んだことは、古き秩序維持に対する機械技術の優位性を決定づけたものだった――そうまで言い切る者も後の世には現れている。

 

 

 だが、国を閉ざして独特の文化と歴史を守りながらも、それが原因で産業発展に取り残されたことで滅んだ―――とまで揶揄されることのあるドマ王国の歴史に、産業文明と機械技術があったことが無かったのかと言えばそうではない。

 

 それを象徴する存在だったものが、《ドマ鉄道》である。

 

 元々ドマには国内に、小規模ではあるが石炭脈がいくつか発見されており、そこで採れた石炭を運ぶため、そのまま燃料としても用いる輸送手段としての鉄道網が国内各所に張り巡らされていた過去があるのだ。

 

 この石炭を、東方辺境の沿岸部にある小さな村《モブリス》まで運ばせて、その《モブリス》から更に西の《自由都市ニケアーム》へと。

 ニケアームに届いた品を、海上商人たちが南方大陸やサウスフィガロへ――そういう形での三角貿易によって、ドマにも幾ばくなりと産業文明による利潤が得られていた時代が確かに存在していた。

 

 もっとも、それらの繋がりと鉄道路線は、国内にある鉱山の枯渇と採掘量の減少によって徐々に減っていく定めにある。

 鉱山の閉鎖によって、鉱山から石炭を運ぶため敷設された路線も削られ、石炭で動く鉄道は石炭が採れなくなれば鉄屑へと成り下がるしか道はない。

 

 また帝国軍による北大陸征服を目的とした《第三次遠征》が準備段階に入っていたのも、この時期からで補給路を遮断するため僅かに残っていたドマ鉄道のプラットホームや石炭集積所への破壊工作が行われたことから、ドマ国は路線維持の完全放棄を決定―――帝国との戦争が始まるより7年ほど前のことだった。

 

 

 そして現在。

 帝国軍陣地内で、ほぼ完全に“成り行きだけ”が理由で出会って助けたドマ国のサムライであるカイエンに案内されたセレニアたちが。

 

 遙か西の《ナルシェ》まで急いで戻らなければならなくなってた《リターナー》の一応はメンバーでありながら、逆方向の東へ東へと移動する途中になっていたのは、過去の歴史をカイエンが知っていて教えてくれたおかげであった。

 

 もっとも、その当時の三角貿易をしていた頃にモブリスまで物資を運んでいたのは商人たちで、国王の護衛として常に傍らに控えるサムライの一人だった彼には、知識はあっても自分が赴いた経験はほとんどなく。

 どんな手段でモブリスの住人たちが、遙か遠くにある自由都市ニケアームまで物資を運んでいたのかなどは、全く知らないらしいところが、異世界転生してからどーにも運に見離れてる気がする保身覚えたニセ者少女には不安すぎて怖かったのだけれど・・・・・・さておき。

 

 その問題は到着してから考えるしかない、又聞きでしか情報を知らない者ばかりの状態にある彼らにとって、直近の課題は別にある。

 

 

 ドマからモブリスの村へと向かう途中に広がっている、《迷いの森》という渾名をもった広大な大森林を徒歩で踏破しなければいけないという難題がだ。

 もはや名前の時点でイヤな予感しかしなさすぎるので、異世界凡人転生者と思っている少女としては行きたくないこと山の如しだったのだが、他に道が無いと言われれば同道するより他に道はなし。

 

 弱者という存在は、戦争中はいつも状況に振り回されて泣くに泣けない。そういう風になるものだった。

 ただ、そんな理不尽すぎる立場を押しつけられる事情は、転生少女だけが被る不幸というわけではなかったらしい。

 

 

「あ、あなたは・・・・・・まさか! カイエン殿!? ご無事だったのですねッ!」

「そなたは!? 他の者たちも・・・皆、無事であったか!!」

 

 森の入り口付近にまで近づいてきた辺りで、遠くから見てても「なんかいるかも?」と思って不思議そうに首をかしげながら、いざとなったらマッシュかウーマロに押しつけるしかない前提でいたところ、急に飛び出してきたのはモンスターじゃなくて人間で、涙ながらにカイエンと二人で互いに抱きしめ合っている。

 

 出会って間もない赤の他人なセレニアたちには全く訳が分からなかったが、彼はドマ城攻防戦でカイエンの指揮のもと兵たちを率いて帝国軍と戦ってくれた副将のドマ軍人だった。

 彼はケフカの毒殺作戦によって国民たちが被害を受ける直前に、民間人たちだけを引き連れて護衛の兵たちとともに、この森まで避難させていたのである。

 

「城が陥落する直前に、陛下から下知があったのです。“この森まで民たちを連れて先に避難せよ”と。

 私はカイエン殿からのご指示を実行するため城内を急ぎ走っていたところ、その話を聞いて生き残った兵たちを救出しながら落ち延びて参ったのです」

「そうであったか・・・・・・そう言えば、この森には《体を癒やす泉》があるのだったな。兵たちは無事だろうか?」

「はい、辿り着くことができた者は大半が・・・ですが、それ以外は・・・・・・」

 

 そこまで言って副官は、複雑そうな表情で唇を堅く引き結んで顔を背ける。

 言葉は途切れたが、カイエンには言われるまでもなく判ることであったし、言うまでも無く見るだけで解ることが可能なことでもあった。

 

 副官の背後には、多くのドマ国の民たちが少数の兵士たちに守られながら、蹲るように打ちひしがれている。

 その表情と瞳は、決して明るいものではない。当然だろう。

 自分たちにとっては別に、暴君だったわけでも恐怖政治を敷かれていたわけでもない、普通に暮らしていた母国での生活と統治者とをいきなり奪われ、住む場所から追い立てられて乞食のように将来の不安に怯える立場へと一転させられたのである。

 

 中には家族や友人を失わされた者も少ない数ではなかったろう。

 それも、『毒殺』という手段によって・・・・・・。

 

 戦で剣と槍で体を切り裂き合って死に至らせるのも、所詮は同じ人殺しであり、殺された者の遺族が殺した者たちに憎しみと憎悪を抱くことに変わりようなどあるはずもない。

 だが、だからこそ、という部分がある。

 

 一般的な敗北の仕方で殺されても、それほどに人は憎むのだ。

 『もっと酷い殺され方』で家族を殺された者なら、『もっと恨んで憎む』ようになる。

 単なる足し算引き算の問題だ。

 

 結果的に殺されたのが同じなら、中身が違っても抱く感情も同じでなければ矛盾する、となれるほど理屈と数字だけで人の感情は合理的にはできていないのだから。

 

 それ故にこそ、カイエンにとって彼らが民たちと共に生き延びていてくれたことは心から嬉しく思うだけでなく―――心苦しさも感じずにはいられない。

 

 

「・・・・・・拙者は・・・国を滅ぼされ、陛下をお守りできなかった日と共に、ドマ国に仕えたサムライとしてのカイエン・ガラモンドは『死んだ』と思っておる。

 故に拙者は、彼らと共に《リターナー》の一員として帝国の野心をくじくため戦うことを決意した。故に民たちを、そなたたちに託したい。

 本来であれば拙者もまた、お主らと協力して民を守り、ドマ国のサムライとしての務めを果たすべきところなのは分かっておるが・・・・・・すまぬ。

 そなたらにも、民たちにも、拙者のせいで迷惑をかけることにな―――」

「仰らないで下さい、カイエン殿。言わぬが、というものがある事も」

 

 決意と罪悪感に顔をゆがませながら、血を吐くような思いで語られようとしたカイエンの告解に、副官は制して言葉を止め―――そして、相手と同じ瞳で相手を見つめ返す。

 

「後のことは私が引き受けます。民たちも、責めも、必要なことは全て。

 ですから、どうか―――ドマ兵として、一人ぐらいは帝国に抗う気概を持つ者がいることをお示し下さいませ。

 それが我々ドマ国の意思です。たとえ総意ではなかったとしても・・・・・・」

 

 静かに、神妙な面持ちでカイエンの顔を見返しながら語りかけてくる、ドマ国軍のわずかな生き残りの一人である副官の兵士。

 その瞳。静かな理性を湛えている彼の眼には、この時。

 

 

 ―――暗く、重く沈んだ・・・・・・憎悪と恨みの殺意が、はっきり妖しい光として浮かんでいる。

 

 

 それは当然の感情であり、当然の反応だっただろう。

 こんな形で、こんな方法で、手段で、愛する国と国民を虐殺された兵士たちが、どうして加害者たちを憎まずにいられるだろう?

 どうやって復讐を望まず、犯人どもを皆殺しにしてやりたいと願わないことが出来るだろう? 

 

 彼は憎んでいた。帝国軍を殺戮してやりたいと復讐を望んでいる。

 彼以外の多くの国民たちも、同じ感情を抱いている者は少ないことは決して無い。

 

 だが彼らには、守られなければならない民たちがいる。

 ドマ軍の残党が、表だって帝国軍に対して報復を実行してしまえば、民たちも確実に同罪として罰を受ける。

 民たちは兵たちにとって、守るべき存在であると同時に、人質でもあるのだ。

 

 無論カイエンが国を捨てた浪人として一人だけで反乱軍に参加して帝国軍と戦うという形をとっても、帝国軍は生き残ったドマの民たちや兵たちに罰を与えてくるのは明白だ。

 

 そんな目には遭いたくない、余計な手出しはしないで欲しいと願っている者もいると思う。

 だが逆に、報復と復讐を願う者たちが、同じ民たちの中に存在しているのも確かだった。

 両立は出来ないし、双方の願いを両方共に叶えてやることも出来ない。

 片方は切り捨てられ、切り捨てられた側は恨みを深める。その連鎖を断ち切る術は、被害者である彼らの立場にはなく、押しつけられた選択肢の中から選ぶしかないのが、被害者という立場なのだから・・・・・・。

 

 ただ、そうなればこそ『復讐する者』は必要であったし、復讐によって被る被害も存在する以上は『復讐する者は例外』で終わらせることが絶対に必要でもあった。

 

 全員に同じ道を選ばせるわけにはいかないが、誰かがやらねば恨みが残る。その恨みはやがて暗い感情の炎となって周囲の者達を焼き尽くす・・・・・・恨みの連鎖とは、そういうものだから。

 

 

「副官の勤めは、主将を補佐し、細かな実務を取り仕切ること。ならばそれは私の果たすべき役割。カイエン殿は陛下をお守りするサムライとして、どうかご自身の責務を果たすため全力をお捧げくださいませ。それを亡き陛下もお望みのはずと、私は思います」

「・・・・・・お主には重ね重ね苦労をかける・・・・・・すまぬ。いや。

 ――――忝い。このご恩、カイエン一生涯忘れはせぬ・・・っ!!」 

 

 自らの苦難を承知で送り出してくれる副官に、今言うべき言葉は「謝罪」ではなく『感謝』と理解したカイエンは言い直し、頭を下げてくる上司の行動に部下もまた無言のまま一礼を帰すのみ。

 

 

 ・・・・・・この後、彼が率いるドマの難民たちは苦難と変転の長い長い旅路を歩むことになる。

 その旅路は、強大な帝国軍を相手に剣を手にして戦いを挑む者達の苦闘に、決して劣ることなく苦しみに満ちたものとなる事だろう。

 だがそれでも、歴史に名を刻まれるのは、強敵に立ち向かっていった者たちだけであるところに戦争の悲劇の一端はあったが・・・・・・それでも彼らの心が挫けなかった理由の一つに、伝え聞く自国の英雄の快進撃があったことも、また事実の一つ。

 

 世界も、戦争も、人の心も、容易に一つの理論と理屈だけで説明づけられるほど単純明快なものには出来ておらず、複雑骨折して絡まり合い、互いに矛盾し合いながら迷宮を形作るように、一つの世界を構成していくものだから―――

 

 

 

 

 

「ほぇ~~・・・・・・リアル時代劇でも見てる感じで、思わず無言で見入っちゃってましたねぇ。

 いえ、やった作戦内容や装備的に考えると、大日本の悲劇映画とかが適切なんでしょうか?」

「時代ゲ・・・? ダイニッポ? なんかよく分からないが、とにかく仲間が生きてて良かったな! カイエンのおっさん!

 ・・・大事な人が殺されて二度と会えないってのは・・・・・・辛いもんだからな」

「・・・・・・話はついたのか? なら早く森を抜けた方がいい。帝国の追っ手においつかれては面倒だからな」

『ウゴ?』

 

 

「ヘッ。相変わらず愛想のねぇヤロウだ。しかもどいつもこいつも綺麗事いいやがって。

 だが、恨んだヤツらに復讐してぇってのは理解できるぜ。その復讐、俺様も手を貸してやるよ。

 ・・・宿命だ・・・恨んだ奴らに復讐するのは、お前の宿命だったのさ・・・・・・オッサン!!」

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「いたのかよバルガス!? どっから出てきやがった!? いつから混じってきてやがったんだ!?」

「フッ・・・宿命だ。俺が、そのオッサンの復讐に手を貸してやるのも宿命だった。それだけだ・・・」

 

 

 そして、いつの間にか戻ってきてたバルガスが、格好つけながら何か言ってます。

 明らかに誤魔化しでしたが、そもそもコイツがやったことが発端となって起きてるのが目の前の出来事だったんですけれども。

 

 それでもバルガスは、そんな事の真相やら切っ掛けになってた出来事について詳しく語ってくれることはありません。

 金くれるなら考えますが、ただで情報を教えてやる気はないバルガス。

 

 自分が帝国軍がドマを虐殺して滅ぼそうとした、毒殺作戦の邪魔した実行犯だったという真実など、リターナーが勝って帝国軍が負けたときぐらいしか言う気0なのが彼。

 今をときめく軍事国家にバレて恨まれて、追っ手に追いかけ回されて、暗殺者の毒殺に怯えながら過ごすとか真っ平ごめん。

 

 正々堂々と、後ろから不意打ちして毒を盛って罠にはめて確実に殺すのが、バルガスの戦い方でありモットーというもの。

 油断したヤツが悪く、負けたヤツが悪いことになるのが殺し合いなのだから、正々堂々に戦った結果だったと、自分の強さを誇って自慢するのを躊躇わない男は清々しいほどにご都合主義。

 

 こんなのまで混ぜってるのが戦争で、世界で、人の心ってものだからなぁー・・・。

 一つの理論で全部当てはめて整合性って、無理じゃねぇかなーと、異世界から捨てられてきた少女も思いながら・・・・・・とりあえず旅は再出発の時を迎えることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「カイエン殿と、お仲間の皆さんが森を抜けてモブリスへ参られるのでしたら、一つお伝えしておきたいことがございます。

 難民達の一人が、誤って森の奥へと迷い込んでしまったときに妙なものを見たと申してまして。

 ――『森の中の線路をドマ鉄道が走っているのを見た』――と」

「!? ドマ鉄道がでござるか! まだ戦渦に巻き込まれていないものが残っていたと・・・?」

 

 カイエンは相手から聞かされた話に、思わず驚いて声を上げさせられることになる。

 出発に際してセレニアから、『先についてた人がいるなら森についての知識を仕入れておいた方が安全なのでは?』と提案されたことを実行したことで副官から得られた情報を聞いた結果だった。

 

 鉄道そのものは、この世界の住人達にとって珍しい存在というものではなく、初期頃の産業革命を支えた主要な移動手段の一つとして世界中で使われていたこともある著名な乗り物の名。

 反面、意外なほど使用されていた期間は短く、世界中の国家で用いられ、無数の路線で結ばれ合っていた各都市同士を繋いでいた車窓の旅は、この世界の人々にとってさえ遠い昔のノスタルジーとなって久しい。

 

 原因は主に、地形的なものと世界情勢の悪化にあった。

 

 産業革命と芸術復興が相次いで興った200年ほど前。 

 202年前には、フィガロ王国が砂漠のど真ん中に巨大な城を建設し。

 199年前には、大規模な石炭脈が発見され、一攫千金を夢見る荒くれ者達によって複数の小産業国家が乱立させている。

 150年ほど前に、商政一致をめざす統一国家としてのナルシェが建国するまでは、鉱山主ごとの利権が絡んだ小競り合いが絶えなくなっていく。

 

 また北大陸には、峻厳な山々が多いの対して、平らで広大な地域が至って少なく、山々を連ねた線路の敷設工事は国際情勢が悪化した国同士ではなかなか進められるものではない。

 

 このため鉄道使用は北大陸よりも平坦な陸地が多い南大陸の方が盛んで、こちらでは100年近く使われていたらしい。

 だがそれも、18年前の帝国軍による《第一次遠征》によって国ごと滅ぼされてしまった。

 

 帝国軍は征服地において自国だけが有する魔導技術のみを使用させているため再開の目処は立っていない。

 これは世界制覇を目指す帝国が、貿易によってのみ得られる必須資源を防衛のため利用されるのを防ぐためだ。

 現時点では中立を保っているナルシェが反帝国側の一国となり、魔導をもたぬフィガロなどに石炭を供給されては厄介と考え自制しているが、反帝国を掲げる国々を征服し終えた後まで律儀に尊重してやる気がないのは確実だったろう。

 その本心が露わになったのが、今回のナルシェ攻撃――という訳だ。

 

「わかりません・・・民が見間違えたのかもしれませんし、錯覚だった可能性もあります。

 実際に見た者は道に迷った先で鉄道を見た後、再び道に迷って戻ってきたため、森のどこで目撃したかまでは本人にも分からないそうでもある・・・。

 とはいえ、廃棄された路線と車両を無断で使用している者もいるとも聞きます。可能性が全くないとまで言い切ることは今の我らには流石に・・・・・・」

「ふむ・・・・・・一昔前には《列車強盗団シャドウ》を名乗る者らが、廃棄した線路をつなげることで独自の路線を作り上げていたこともあったで御座るからな。

 戦乱の混乱に紛れているとすれば、無いとは言えぬか・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・?」

『ウゴ?』

 

 二人のドマ兵たちが交わし合う会話が漏れ聞こえてくる中で、『その名前』が出てきた瞬間にだけ、ほんの僅かに、他の者達には全く分からなかった程度の些細な反応を示してしまっただけだったが、異世界から落ちてきて保身を覚えた銀髪ロリ巨乳は気づいて、気づいたロリ巨乳の揺れに雪男が気づいた模様。後者の気づきは意味ないけれども。

 

(そう言えば、“同じ名前”でしたけど何か関係あった事でもあったんでしょうかね?

 コードネームっぽい名前ですし、聞いた限りだと有名な犯罪者グループだったみたいですし。

 異世界チューニ病とかの可能性とかも無くはなく?)

 

 ただし、気づいたところで活用できる前知識とか前提情報ないと、何の役にも立たなかったようではあったが。

 いま初めて聞かされたばっかの情報だけ聞かされまくっても何も出来ないし、なんの役にも立てようがない。所詮は原作知識もチートもなしな異世界転生者のできる事なんて、そんなもの。

 

 

 ――ただ、有名な犯罪者グループと同名だったらしい有名な暗殺者(同じ様なものかもしれないが)の気持ちは分からなかったものの、カイエンたち2人が何を言いたがっているかの気持ちは理解しやすい。

 

 自分の前世で過ごしてた地球でもそうだったが、列車の『路線』というものは『廃止すること』が決定されれば、路線で使っている『線路』まで一緒に消え去ってくれるほど都合のいいものでは全くなく、ただ放置するだけなのが『廃止』という決定の内実だったりする。

 少なくとも、その後に撤去作業をおこなわない限りは、本当に放置しただけで終わってしまって、鉄屑のゴミ山を捨てただけになってしまう。そういう代物なのだ。

 

 幸いドマ国では、サムライ以外の兵達にも《刀》が一般的な装備品として普及しており、カイエンのような《必殺剣》こそ使えない者にも大量生産する必要があったため、廃棄された鉄道は鍛治氏たちによって漏れなく《タマハガネ》という合成金属へと打ち直されてリサイクルされ、ゴミにはならずに済んだものの。

 

 流石に、帝国軍が侵攻するための下準備として破壊させていた分まで再利用するのは難しく、それ以前にも枯渇した鉱山と一緒に廃止されていった路線の中には忘れられただけで撤去されていないものも0ではないのだろう。

 

 セレニアの記憶の中でも、網の目のように張り巡らされた『パリの地下鉄網』の例がある。

 産業革命の象徴的存在として、『パリ中のどこからでも全ての場所に移動可能にできる』という触れ込みで、盛大に市民たちから持て囃された代物だったのだという。

 が、しかし。

 造る前には夢のある話だったのだが、出来てしまうと散文的な現実の方が優先されるもので、『どこからでも乗れる』けど『実際に使われるプラットホーム』は移動の便がいい箇所だけに乗客たちが集中してしまって、結局は大部分の路線が廃止されて終わってしまった。

 

 その後にどうなったかは詳しく知らないまま死んでしまったのか覚えていないものの、第一次大戦や第二次大戦などゴタゴタした厄介事が盛大に続いていく時代に突入する前に造られていた代物だったので・・・・・・多分あまり良い結果にはなれなかった事だろう。

 

 

 それら廃棄されただけで、現物が残っている線路と線路を繋ぎ合わせて各地を荒らし回った強盗団が、十年以上前に名をはせていた『列車強盗団シャドウ』だった。

 主にガストラ帝国が中心部に首都を置く南大陸で活動していたことで知られる存在だったが、その帝国自体が20年ほど前から活動を活発させはじめ北大陸にもさまざまな介入を行うようになったのに併せ、彼らも活動範囲を広げていったとも言われている。

 

 近年ではなりを潜めて名を聞かなくなり、噂では残酷さで知られる帝国の治安機関に捕まって死んだという者もいるが真相は闇の中。

 その悪名高い強盗団が、ガストラ帝国軍による北大陸への本格侵攻開始に合わせて恨みを晴らすため、活動を再開していたところへ偶然居合わせたとしても不思議はないが・・・・・・

 

「いずれにしろ、この森には古くから様々な伝承がある未知の土地。

 一説には、“死後の世界へ続く道がある”という話すらあるほど・・・・・・。

 本来であれば、モブリスの村へ行くために整備された街道を通ることをお勧めしたいところなれど、現状では帝国軍の検問が敷かれてしまい通行は不能です。土地の者でも滅多に奥地へは入ることはない場所とはいえ、避けて通る術はありませぬ」

「危険は承知でござる。それだけの情報をお教え下さったこと感謝に堪えぬ。

 その恩に報いるためにも必ずや帝国軍に一矢を報い、しかる後、占領されてしまったドマの地を解放して死んでいった者達の魂を慰めるため死力を尽くそう」

 

 ガシッと、今一度だけ力強く握手を交わし合ったドマ国の戦士たち2人は『勝利後の再会』を約束し合い、今は互いに別々の道と方角へ歩を進め始めることとなる。

 

 もっとも、超人じみた力と体力を誇るサムライやら格闘家やら雪男とかと違い、凡人の子供でしかないと自覚している転生者もどきの銀髪少女としては、森を踏破するなら食料を少しぐらい別けてもらってから入り込みたいのが正直なところではあったんだけれども。

 

 傷つき疲れ果てて地面に座り込んでる老人たちとか、親を失って泣いてる子供さんたちがいる難民キャンプに、そんな要求できるほどメンタル強い方ではなかったし、恨みと怒りの矛先向けられてリンチ処刑されるのイヤだった結果。

 

「くぅ」

 

 と小さくお腹が減った音だけ鳴らして、空きっ腹を抱えながら、ドマに来てから歩き続け叫び続きの旅程を継続する道を選ばざるを得なくなり、心の中で一人「シクシク」と泣き濡れていたところ。

 

 

 

「クックック、安心するんだな。出来の悪い弟弟子の悪友どもよ。

 俺様が帝国軍の食料庫から色々と分捕ってきてやったから、俺様に感謝して食うがいいさクックック」

「バルガス・・・・・・お前はいったい、どこへ何しに行ってたんだよ本当に」

 

 

 格闘家という名のドロボウが盗んできてたらしい食料のおかげで、空腹だけは回復してから出発できることになれそうです。

 混乱のドサクサに紛れて盗んできてたみたいですね。

 

 ナルシェで暮らすリターナーの協力者ジェン爺さんは、ロックに向かって『トレジャーハンターも泥棒も同じようなもの』と言っていたことあるけれど。

 コイツに対して『格闘家もドロボウも同じようなもの』と言ってくれるかどうか・・・・・・謎である。

 

 やってる行動は完全に同じというか、多分こっちの方が悪そうなのだが、『格闘家』と『トレジャーハンター』では、同じ事やったときでも何となく『トレジャーハンターの方が泥棒っぽい印象』を感じてしまうのは、一体誰のせいによるものなのか。

 

 言葉を使って、様々なことを成し遂げる一助とする少女の出来損ないコピーの少女には、果たして分かるときが来るのか否か・・・・・・?

 

 

 

つづく

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