FINAL FANTASY Ⅵ~偽レニア~   作:ひきがやもとまち

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久しぶりになってしまった更新です。フィガロ城炎上から、チョコボによる脱出完了までを描いてます。
久しぶりなので長めの内容です。二話分ぐらいブッ込まないと先に進めそうにないですからね、遅くなりすぎてしまいましたから・・・(冷や汗)


第6章「居城炎上×脱出×バカな騒ぎ=若者たちの夜」

 フィガロ国王エドガーが、妙な胸騒ぎを覚えて深夜に起きだし燃え上がる居城を目にした日。

 昼間の一件から警戒感は抱いていたものの、警備レベルを高めただけで寝に入ってしまったことは、エドガーがガストラ皇帝に政治的な面で敗北していたことを知るものは数少ない。

 それは、この事件の後から歴史の流れが加速して、ノンビリ記録をとりながら振り返っている余裕が全世界人類から奪われてしまっていくことが原因である。

 

 が、しかし。

 歴史に『もしも』が許されるならば、事の概要を一人の少女が把握しているか、もしくは今少しだけ現在の世界情勢に知識が与えられていたならば。歴史は変わっていたのかも知れない。

 

 なぜならエドガーが不安を感じつつもベッドに入ったのは、帝国が寄越してきた特使が魔導師のケフカだったからだった。

 性格に難があっても、一応は帝国の重臣だ。そんな地位身分にある人物を同盟国に派遣してきた帝国が、いきなり奇襲を仕掛けてくるなどとは想像の外にあったのである。

 

 

 が、現実として帝国軍はフィガロ国内にあるコルツ山のどこかに反帝国組織リターナーの拠点があることを察知しており、それを探し出して殲滅するためには堅牢な守りを持つ港湾都市『サウス・フィガロ』に軍を進めて占拠することは大前提だった。

 

 その為に、側近の一人レオ将軍を通じて内通者を買収し、帝国本土においては軍の主力が派兵される準備を完了していた。

 だからこそエドガーの城外脱出から時を置かずにフィガロ国の城下町を占領することが可能だったのだ。

 

 ――つまり、ケフカが送ってこられたのは日本史で言うところの『元寇の乱』だ。

 鎌倉時代に元から送られてきた国書が無礼千万であるとして、時の将軍北条時宗が使者を切り捨てた逸話で有名なアレである。

 

 最近だと別の解釈もできてきているらしいが、今重要なのは『戦を仕掛けるのに大義名分は必要不可欠であり、使者に無礼を働くことは派遣した相手国にとって侵略を正当化する絶好の条件を与えてしまう』という、逸話が持つ意味合いの方。

 

 これが最初から皇帝ガストラの手で仕組まれた策謀だったのか否か、歴史は沈黙している。

 が、南方大陸の三国家を武力統一した戦争経験豊富なガストラが、機械文明の先駆者であっても戦争経験は他国と同じで千年以上にわたって全くないフィガロ国王エドガーの一歩先を行っていたとしても何ら不思議ではないことだろう。

 少なくとも、セレニアが事情を知っていれば決して油断しないよう進言していた情勢下ではあるのだから。

 

 しかし、実際にはセレニアは事情を知ることなく寝こけており、城が燃える匂いで異変に気づいたエドガーよりも目覚めるのはずっと後になる醜態を晒しまくっていたのだった。

 

 

「むにゃ・・・砂漠の夜は冷えるのでスピー・・・ZZZ」

『ウゴッ♪』

 

 抱き枕代わりに暖かくてモコモコした雪男に抱きつきながら、だらしない寝顔を浮かべて涎を垂らす少女の名前は偽レニア。

 オリジナルから色々なくなった末に余り物で形作られた残り滓の塊でしかない。

 

 

 そして現在、エドガーは火に包まれた自分の城を愕然とした面持ちで見下ろして、自身の認識の甘さと油断とを心の底から後悔させられていた。

 そして、思うのだ。

 “自分の甘さで帝国相手に、この様な油断は二度とするまい”――と。

 

 

「どうかな? お優しいフィガロ王国のエドガー王様は、娘をわたす気にはなりましたかな?」

「昼間も言ったはずだ! そんな娘はいない! 知らないと!」

「なら、ここでみな焼け死ぬんだな。ヒッヒッヒ!!」

 

 けたたましく笑い声を上げるケフカが不快ではあったが、今はそれよりも消火作業が優先だ。

 水をかけさせるべきか、『地中に逃げて』纏めて消すか。

 前者であるなら単純作業だが犠牲がでるのは避けられないだろう。逆に後者の場合は、帝国のケフカ相手にフィガロ城の切り札を見せることになる。

 

 判断の難しい場面だったが、決断材料は意外なところからもたらされた。

 

 

「アレの用意はできたか?」

「はッ!」

 

 うろたえ騒いで燃え上がる城の中を奥へ奥へと逃げるフリをして、“規定通りに”玉座の間へと続く門の前で待っていてくれた兵士に小声で言付けるエドガー。

 

 それは何世代も前から口伝方式で教え伝えられてきたフィガロ国の伝統が、ついに役目を果たすときが来たことを知らせる合い言葉。

 世界で最も新しい国の一つ、機械文明の先駆者たるフィガロ王国故に用意することができた敵の奇襲に対してのみ行うことができるカウンター奇襲攻撃決行を告げる狼煙であった。

 

 だがら、それ自体はエドガー本人を含む歴代フィガロ王にとって当然のことをしたまでのことで、予定通りのことだったとすら言える。

 むしろここで意外だったのは、命じられた兵士が伝えてきた別の伝言についてだろう。

 

 

「それとですが、セレニア殿よりご伝言が」

「セレニアが?」

「はッ。“この炎は水で消えないもののようなのでお気をつけを”――と」

 

 エドガーは眉をひそめた。

 正直なところ彼は決めあぐねており、城を包む火が魔法である可能性を警戒しつつも、そもそも魔法がなんなのかさえよく理解できてない彼の中では、特殊な薬品を混入した最新鋭消化剤でも火は消せるのではないか? とする願望が僅かながらとは言え確かに存在してはいたのである。

 

 だが、今の一文で完全に迷いは断ち切れた。

 

 セレニアの言うことを信じたからというのもあるが、それ以上に火の異常さに気づいたからである。

 

 砂漠の夜に城全体を包むほど勢いよく燃え盛る大火。たった三人の放火魔たちがおこした火事としては規模が大きすぎる。

 

 ましてフィガロ城は完全石造建築であり、『特別機能』のため密閉性には万全を期している。普通に考えて、燃えさかるほどの炎が発生しても維持できるはずがなく、城内にある可燃物には特別な措置が施されている。

 そうでもしないと逃げ延びた後に“一酸化炭素中毒で全員死亡”だ。機械化に成功させた当時のフィガロ城主が万全には万全を期し、最大限に気を使わせたポイントをエドガーが今更不審を抱くはずもなし。

 

“魔法か、もしくは油を撒いたかのどちらかだろうな。”

 

 そう結論付けるには十分すぎる状況証拠がそろっており、彼としても衝撃から立ち直れさえすればバカでもわかる程度のことだと自嘲させられている。

 

 後は、魔法か油のどちらかという疑問が残るが、そんなものは些事だ。どちらでもいい。

 どっちだろうと結局“消されるよりほか道はない”から。地中の圧迫と、地上との火の影響力の違いはとっくの昔に計算され尽くしてある。何一つとして、問題はない。

 

 

「どうだ? 決心はできたかね?」

 

 勘に障る口調で、勝ち誇ったように訊いてくる声が背後から聞こえる。ケフカだ。

 言い返してやりたいと思わなくもなかったのだが、どのみち直ぐに“悔しそうな顔して地団駄を踏むバカな道化師”を見られるのだから、今である必要性はないかとアッサリ感情論を放棄して前を見た。

 

「そろそろか・・・」

 

 頭の中で距離と時間とを暗算で割り出し、性格にタイミングを合わせる。

 伊達に機械文明で世界の最先端を走ってる訳じゃあない。戦争指導者としては経験値の差でガストラに劣ろうとも、王個人の力と知謀で結果的に国家間で生じた差を覆せるなら常道無視だろうと何だろうと結果オーライで何でも有りだ。

 敵が仕掛けてきたルール無用の戦とはそういうものだろう? 無理に相手の優位な条件のもと互角に戦ってやる必要性などどこにもない!

 

 

 

「――よし、今だ! とうっ!」

「ほうっ?」

 

 視界の外から何かが猛スピードで接近してくるのを知覚した瞬間、絶好のタイミングで城の端から飛び出して飛び降りて落下していき。

 

 ちょうど真下を通りかかった、“人間よりも遙かに早く、遠くまで走ることのできる生物”に飛び移る。

 

 その生物、名を『チョコボ』と言う。この世界で最も多くの人々に親しまれる日常の足であり、帰巣本能の強さから飼われている所へ必ず帰ってくる性質から貸し馬として各町にも飼育場が点在している最も安価で、最も便利な人類の友。

 

 その特性を利用すれば、オアシスだろうと何処だろうと、野生の巣に見せかけた緊急脱出用のチョコボを飼育させておくことまで出来てしまう、まさに人類にとって理想的な乗り物と言えるだろう。

 言い方が悪く聞こえるかも知れないが、移動手段の進歩が人類の発展を加速させてきた地球上の常識を踏まえてみても、機械化文明で世界をリードするフィガロ王国にチョコボに対する悪意は微塵もなく、ただただ共に歩んで先へ先へと進んで行きたいパートナーとしての感謝だけがそこにあった。

 

 

 しかし、人間が人間以外に対して抱く感謝の想いなど、火と魔導という人造物で世界を焼いたこと以外に実績のない野蛮な軍事国家の重臣には理解することができない。

 

「おやおや・・・王様はお一人でお逃げになるようですよ~! こりゃユカイ!」

 

 人の醜さをこそ尊び、蔑み、馬鹿にするケフカは、この手の保身や見苦しさを見るのが大好きだ。

 人は醜い! 悪だ! その本性は欲望だ破壊だ妬み羨み奪うことでしか己を満たせない出来損ないの未熟な生物だ! 他の何よりも俗っぽいのだよ!!

 だから自分はお前らみたいなのが大好きなんだ! お前らみたいに醜い生き物を潰して回るのは、他のどんな遊びよりもオモシロい!

 

 もっと見せてくれ!お前たちの醜さを! 無様な足掻きを! 見苦しい逃亡を! 自分自身で生きる価値のないゴミクズ野郎なんだと証明してみせる愚行を、もっともっと俺様に見せてくれやがれゴミクズ野郎ども!!

 

「ブザマですね~、アワレですね~、ミジメですね~。

 そして何よりも・・・ヒドすぎますねぇ! そりゃそうだ!

 だって国の王様が国民も兵士も見捨てて城から一人で自分だけでも助かろうと逃げだしてく訳ですから! これがユカイでないはずがない!

 逃げろや逃げろ、ヒッヒッヒ!!」

 

 狂ったように嗤うその声を背後から浴びせられながらエドガーは、相手から見えない角度で「フッ」と気障ったらしく嘲笑した。

 

 特使自ら同盟を破棄して敵国となった国の王を暗殺しようとした、始皇帝暗殺未遂犯を彷彿させるがごとき意表を突く奇襲に驚かされて“過大評価しかけた”が、やはりこの男はこの程度の男でしかないようだ。

 

 九割方成功したのに失敗に終わった奇襲など、最初から失敗するよりも無様で哀れで惨めなみっともないものだと言う常識がわかっていない。

 敵の首に手をかけたときこそ油断することなく、力を緩めてはいけないというのに・・・・・・。

 

「所詮は“作られた一流”だな、ケフカ。与えてもらった能力以外は、地頭の出来が悪すぎるぜ?」

「なにィッ!?」

 

 どこかの世界から来た、礼儀正しいけど口が悪い銀髪少女の悪影響によるものなのか。

 エドガーは常は言うはずのない毒舌を吐くと、相手を挑発し終えてから「乗れ!」と合図としての叫び声を上げる。

 

 

「了解!」「わかったわ!」

「なにィィィッ!!!???」

 

 エドガーが飛び降りてチョコボに乗った場所とは反対の方角にある城の縁で、その瞬間を待ち続けていた“二人”、ロックとティナが合図と共に飛び降りてエドガーが乗ったのとは別に随伴させていた二頭のチョコボに飛び移るところを目撃させられたケフカが目を白黒させながら無駄に騒いで慌てまくる。

 

 強大な力を手に入れた代わりとして精神に異常を起こしている彼は、勘気が強く行動に理性がなく、突発的に意表を突く行動が取れるが、逆に言うと窮地に弱い。

 自分の計算から敵が逃げ出してしまうと、即座にどうすればいいのか分からなくなり混乱してしまう欠点があるのだ。

 

 まさに、情緒不安定で落ち着きがなく、言動は常軌を逸しているが内容は幼い彼らしい欠点と言えるだろう。

 

 要するに彼はガキなのだ。

 人より多くの力を与えられながら、自尊心ばかりが強く自制心がない。知識はあっても理性に乏しい。

 気に入らないから壊して殺して嗤って喚く、力の強すぎる暴れん坊なお子様。

 

 

 客観的に見た帝国随一の魔導師ケフカの、それが正体だった――――。

 

 

「貴様ら! この俺様の足の速さから逃げられると本気で思ってるんじゃあるま―――」

「いいぞ! 沈めろ!」

 

 わざわざ城門まで全速力で走って追いかけてきたケフカの(敵の刺客。特使の地位は自ら捨てた人)言葉を最後まで言わせることなく、そもそも最初から相手にしてすらおらず。

 エドガーは城内の住人たちを火事から守るため、さっさと命令を下して自らは敵の目を引く囮となるため逃げ出す道を選んでしまわれた。

 

 

 

「フィガロ潜航モード! セットオン!!」

 

 大臣の号令以下、主の命令に即応した城の人々は全員が自分のやるべき使命を果たし始める。

 途端に揺れ動き始めるフィガロ城。

 

「な、な、なんぞコリャ―――――――っ!!!???」

 

 城とは揺るがぬ物、揺るがされてはならぬ物、不動にして絶対なる権力の象徴。

 そんな当たり前の常識しか教えられてもらってないし、上から目線で見下ろすしか能のない権力者という固定概念を持つケフカには理解不能な現象に、思わず異世界仕草で驚きをあらわす『シェーッ!?』をしてしまう精神お子様の最凶魔導師ケフカくん。

 

 そんな子供の理屈にかまうことなく、大人の理論で形造られた技術力の結晶フィガロ城は、人類の可能性を示すがごとく常識を乗り越え、大海原の先へと船出する!!

 

 

「さあ! 黄金の大海原にダイヴするフィガロの勇姿! とくと見せてやるわ!!

 せいぜい仕留め損ねた敵が逃げるのを見ていることしか出来ない、己の無力さに喚き散らせよ! 挨拶すらろくに出来ない帝国からの特使ケフカさまとやらっ!!」

 

 ここにも居たらしい、異世界闖入者の悪影響受けた被害者フィガロ大臣。

 痛烈な毒舌を捨て台詞として地中へと逃げていくフィガロ城の面々。

 城門から外に出ていたせいで、中から完全にロックされたフィガロ城内から追い出された形となるケフカに為す術などあるはずもなく。

 ただただ物理法則に従わされて、翻弄されるしか出来ないケフカの醜態をチョコボに乗って逃げながら後ろを振り返り見物する余裕すらあるロックは歓声と皮肉を同時に上げる。

 

 

「ひょっほ――っ! 女はいただいていくぜ、帝国の魔導師ケフカさま!

 次からは奪われないように大事にしてやれよ! それぐらいの甲斐性はある身なんだからさ!」

「き、き、き、貴様ら―――――――――――――ッ!!!???」

 

 

 背後から聞こえて着うる負け犬の遠吠えに、エドガーは(主にティナに)下品に見られぬよう心の中で喝采する。

 

 

 緊急時が想定される場合にのみ使用される、『国王エドガーの寝所と対をなす位置に立っている』寝室のある離れの小塔。

 

 そこに案内された時点で城の者たちは客人たちがフィガロにとって非常に大きな意味を持つVIPであることを理解し、いざという時には命令がなくても脱出準備が整えられるよう何世代も前から伝統として確立されていたために、逃げ出すこと自体は容易だったのである。

 

 要するに、ケフカは詰めが甘すぎたのだ。

 追い詰められた権力者が、脱出路の一つも用意していないなどと思い込んでしまった彼の想定の甘さがバカすぎたとも言えるし、ただ単に常識がなかったとも言える。

 

 あるいは自分に都合の良い部分ばかりを重視しすぎて、否定している対象のことを実は全く理解していなかったと言うべきなのかも知れない。

 

 相手を否定するため欠点ばかりをあげつらい、長所となり得る部分が混じっていることを故意に見落とした妄想を真実だと信じ込んでしまっていたとも言えるだろう。

 

 

 どれにしろ彼はあまりにも『世界を二極化させすぎて』捉えていたのだけは事実だ。

 人の善悪を、長所と短所を、欠点と利点とを二分化させすぎてしまった。

 

 頭の悪い奴らがやることは全部バカな愚行。人より劣ってる部分は全部敗因。

 人間は都合のいい物だけを尊ぶバカだから、自分の弱点には気づくはずがない

 

 そんな二元論だけで世界は動かないし、動かせていない事実に考え及ばなかった彼の利口なお子様思考が招いてしまった妥当な結末を、だが彼は受け入れることが出来る性格をしていなかった。

 

 

「行け!殺せ! 娘もろとも皆殺しにしろ!!

 俺様をコケにした奴は一人も生かしておくんじゃな―――――いッ!!!」

 

 そう叫んで、上司を見捨てて先に逃げ出してたらしい帝国兵士二人が乗る魔導アーマーに追撃を命じるケフカ。

 頭で負けたから、殴って勝ちにする! まさに子供の理屈ではあるが、戦争とは得てしてそういう物だから必ずしも間違ってはいないのかもしれない。

 

 

 

 とは言え。

 ここまでで一人、人数が足りていないことを誰かお気づきになった方はおられるだろうか?

 

 そうなのだ。我らが役立たず主人公にして、チートも魔法も与えられてない造られた存在、TS転生者の残りカス少女の存在が描写されていないのである。

 

 では、彼女は今この場にいないのか? ――いいえ、ちゃんと居ます。

 ・・・ただ、ちょっと見苦しすぎたんで敢えて外していただけのことでしてね?

 

 

「ギャ―――――ッ!? なんで私だけ、その鳥さんみたいな馬さんみたいな乗り物じゃなくて、全力疾走するウーマロさんに抱っこされながらの脱出なんですか!?

 ちょっと、これ怖すぎるんですけどもぉっ!?」

「仕方ないだろう? セレニア、チョコボ乗ったことないっていうし、乗れそうにもないって言ってたし」

「そりゃそうですけども! そりゃそうなんですけども! でも、仕方ないでしょう!?

 実際問題その通りなんですからぁっ!?」

 

 泣き喚きながらも常識だけは忘れてない、偽物であってもセレニアな偽レニア。ある意味では、三つ子の魂百までも。

 しかも言ってること自体は相変わらず正しいのだから、ある意味ではやはり流石である。

 

 事実としてチョコボは乗りこなすのが、実は難しい生き物だったりするのである。

 まず、二足歩行である。しかも馬よりも早い。

 この世界に馬はいないけど、いたとしてもチョコボの方が移動用に重宝されて使われることなく野生馬のままで終わっただろうなーと思えるほど早くて体力があって持久力もある生き物なのである。

 

 ・・・もうこの時点で、生温い現代社会に甘やかされて育った元日本人のセレニアがついてけない理由説明としては十分過ぎるのではないだろうか?

 

 ハッキリ言って、チートなしの転生者であるセレニアよりも遙かにチートな生物がチョコボなのだから、格下の下等生物であるセレニアが乗せてもらおうと思えば振り落とされないよう獅噛み付くぐらいしか出来ることがなく、緊急脱出しているときにそれは危なすぎるし、拾ってやるために戻ってきたりしたらミイラ取りがミイラになるだけなので、それよりかはウーマロに抱っこしてもらいながら走らせた方が安心安全な脱出仕方だったのだから、割と本気でしょうがない状況だったりする。

 

 

「・・・ごめんね、セレニア。私の後ろに乗せてあげられたら良かったんだけど、スピードが遅くなるかもしれないって言われたから・・・。

 ――あと、セレニアからも断られたし・・・(ボソッと)」

「お気遣いなぁぁぁぁくぅぅぅぅぅぅっ!?」

 

 走りながらティナが気遣い、ちょっとだけ不満そうに唇の先をとばらせる可愛らしい仕草をして見せる。

 

 乗った記憶はないけど、親の知り合いにチョコボ(の幻獣)がいるので本能的に乗ることが出来てしまっている彼女に大声で叫び返しながら、今のセレニアに彼女の気遣いに気づける余裕は本気で持ち合わせていなかった。

 ただただ揺り動かされまくって落ちそうになるのを豪腕でつかんで戻されてくる反復運動を強制的に繰り返させられる状況に耐え続けるだけである。

 

 

 実はセレニア、脱出前の説明で「女の子な上に見た目からして軽そうなティナの後ろになら乗れるかもしれない」と言われて全力拒絶してしまった前科を持ってたりする。

 理由はシンプルに『恥ずかしかったから』

 

 オリジナルの残りカスでしかない偽レニアは、最初から女の子として生きてきた人生の結果だけで形作られているせいで、女の子として過ごした十数年分の時間と経験・・・記憶の中に経過が存在していない。

 めちゃくちゃカワイイ見た目をした女の子の腰に、振り落とされないよう全力でしがみ付くなど恥ずかしすぎて絶対に承諾できなかったので全力全開で頭を振りまくって完全謝絶させて頂いた。

 

 男としてのプライドがどうこうという問題ではなくて、ただひたすらに思春期男子から女の子の身体になっただけの生まれ変わって生後一ヶ月未満女児にはハードルが高すぎたのである。絶対に無理。

 

 なので、この結果は妥当なものであり、自分自身で選んだ選択の結果なのだから我慢して耐え凌がなければと思いはすれども、現実はなかなか思うとおりに入ってくれずに悲鳴を上げまくって喚き散らすしかなくなっているという醜態を晒しまくってしまう現状がここにあった。

 

 

 ――やはり人は理屈通りには生きられないし、正論を完全に実行するなど不可能な生き物なのだという証明の一つがここにある。

 正論を吐きながらも正論を実行できずに泣きわめく少女の形をとって、ここに実現されている・・・・・・。

 

 

 

『待てぇぇぇぇっ!!!』

 

 ま、それはそれとして閑話休題。

 時間軸を現在進行形に戻すと、追っ手となった魔導アーマー追撃部隊がチョコボの足に追いついてくると言う摩訶不思議現象が発生してしまったせいでセレニア達はと言うか、ティナ達は戦闘状態に陥っていた。

 

 これは正直、計算違いによる結果であり、エドガーもロックも鈍重そうに見える魔導アーマーがエンジン全開すれば結構早く走れるとは思っていなかったためにチョコボの歩行を駆け足から普通の早さへと落としてしまった瞬間に追いつかれてしまったのだった。

 

「ちっ! 計算よりも遙かに速い! 魔法というのはこれほどの力があったのか!」

 

 エドガー舌打ち。

 《マシーナリー》と呼ばれている《きかい》使いの彼としては、自分の武器である《オートボウガン》や《ブラストボイス》等に用いられている動力を基準として魔導アーマーのサイズに搭載可能なエンジン出力を推し量った末での選択だったのだが、《魔法》という未知のエネルギーは彼の想像とフィガロが誇る機械技術の常識を越え過ぎていたらしい。

 

 あれだけの速度を出せる小型エンジンなら、うちの国も欲しいところだな! 捕まえて鹵獲してはいけないのだろうか!? と、心の中では本気で残念がりながら対帝国組織リターナーに与すると決めた統治者の責任として魔導アーマーと破壊目的で対峙するため方向転換を急がせる。

 

 しかし、車もチョコボも急には止まれない。急カーブも出来ない。

 振り返って態勢を整えるより早く敵の追っ手が追いついてしまったために、背後から不意打ちを受けた態勢《バックアタック》状態で敵と向き合わざるを得なくなってしまったのだ!

 

 前から来る敵を想定して陣形を敷いていた三人にとっては、甚だ不利な状況であり、なんとか体勢を立て直すため僅かでも時間稼ぎがしたいエドガーとロック。

 

 二人の考える戦術は理解できなかったが、それでも怖い顔して後ろから追ってくる魔導アーマーの姿が、記憶の中で燻る炎の赤と血の赤とを呼び起こされ、それらを拒絶するためティナは反射的に《魔法》を使って足止めをしてしまった。

 

 

「来ないで! 怖い人たちはあっちへ行って! 《ファイア》!!」

 

 ボッボ!!

 

「う、うわっ!? なんだこれは? 《ファイヤーレーザー》か!?」

「いや、違う! 出力は僅かに低いが別の《魔導》だ! ・・・もしかして、これが噂に聞く魔法の力なのか!?」

 

 帝国軍兵士、狼狽。

 魔導の脅威を知らしめるため過大に広めすぎた魔法の噂が裏目に出る。

 

 確かにティナの魔法はすさまじく、魔導アーマーに乗ってさえいれば一騎当千の最高戦力に成り得るポテンシャルを有しているが、今の時点では潜在的なもののとどまっており魔導アーマーに乗った帝国兵士1,5倍ぐらいの強さしか発揮できない。

 

 そのことを部下に説明せぬまま「いいから付いてこい!命令だ!」「さっさと殺せ!殺し尽くせ!」としか命令しなかったケフカの失敗が、ここでも伏線として役立ってしまっていた。殺そうとしている敵の為に。

 

 

「な、なぁぁぁぁぁっ!?」

 

 とは言え。

 魔法を詳しく知らないのはお互い様なので、機械という名の神秘とは一番遠い分野で世界をリードしている国の王様らしくエドガーは。

 魔法を初めて見た瞬間に思わず叫声を上げてしまうほどビックリたまげて驚かされまくった。

 

 まぁ、いきなり何もない空間から炎が出てきて、機械の鎧を包み込んだのだから誰だろうと驚くと思うけど、そこはそれ。神秘を求めて世界各地をさまよい歩いてる実績にあるロックにとっては大して重要事というわけでもない。

 

「どうしたんだよ、エドガー。突然おどろいたりして?」

 

 暢気に聞いてきたりしていた。

 これに際してはエドガーの対応の方が正しいのだけれども、その事には機械よりも神秘の方に詳しいロックには理解できない。・・・アンビバレンツ!

 

「今ままままま、ののののの、見たよな? な?」

「ああ・・・」

 

 間抜け面晒しながら聞いてくる王様に、真摯さと悲痛さが入り交じった表情で大真面目に対応するロック。

 

「あの子にはスゴい能力があるみたいなんだ・・・。

 それを利用されて帝国軍に・・・・・・」

 

 言ってることは正しいし人道的なんだけど、ある意味この場で一番間抜けなこと言ってることに気づいてないロックは、ある意味すごく幸せな男でした。・・・一瞬で終わらせられる幸せだったけど。

 

「何がスゴい能力だよ! 魔法だよ!

 ま・ほ・う!! ティナは今、俺たちの前で魔法の力を使って見せたんだ!」

「なぁぁぁぁっ!?」

 

 今度はロックも驚愕して叫ぶ。

 ――何というか、色んな人がおどろいて叫びまくる、騒がしい夜だった。近所に民家がない砂漠で良かったな、おまえ達。

 

「ま、まままままままままままままままほう! あれが魔法!?」

 

 こうして始まる、魔法におどろく男ども四人二派に別れての魔法密談。

 

 エドガーとロックは顔を突き合わせて「ひそひそ」と。

 帝国兵二人は帝国軍同士で「魔導アーマーに乗った兵士50人を、たった三分で」どうたらこうたらと。

 

 自分たちの命と、世界の運命を左右する力だから、正しいっちゃ正しい対応なんだけども、今この場でやるべきことではないのも正しい意見なので、誰か本当にどうにかしてくれこの辺過ぎる状況を。頭が痛くなってきそうだよマジで。

 

「ティナって、いったよね?

 今のって、な、なんなのかなあ?」

 

 国家統治者として無職のニート泥棒ロックよりかは責任のあるエドガーが二人の意見を代表してティナに訪ねる。

 

 ティナは思い出し切れてない辛い過去の記憶と、説明したくても説明しようがない生まれつき持ってる力のことを、どう言えばいいのかわからず口籠もり。

 

「・・・ごめんなさい、私・・・・・・」

 

 と、つぶやいた後は沈黙するしかなかったが、ここでロックが気を遣う前に、もう一人の事情を知らない部外者が口を出す。

 

 

「ぜぇ、ぜぇ・・・あれ? どうしたんですか皆さん。そんなに青い顔して黙り込んで・・・」

 

 今さっきウーマロ酔いから復活したセレニアは、途中経過を聞いてる余裕なかったので訳もわからずに聞いてくるしかない。

 事情を理解する知識がないから幸せな人がもう一人ここにいた。

 

「セレニア! なに落ち着いてるんだよ!? 今ティナが魔法を使ったところを見ていなかったのか!?」

「はぁ。なにぶん吐きそうになるのを堪えるのに必死でしたものですから。

 それで? 魔法がどうかしましたか?」

「だー、かー、らーっ!!」

 

 もっとも、この一人は事情を聞いても大して変わりようがない人なんだけども。

 

「魔法だよ!魔法! ま・ほ・う!!

 ティナが伝説の力、魔法を使って見せたんだ! これがどれだけ驚くべきことかぐらい、君にもわかるだろう!?」

 

 エドガーの悲痛な訴えかけ。

 

 が、互いに持っている前提条件が違いすぎているので伝わらない。分からない。共感できない共有できない。

 相手の常識が自分の常識と違いすぎてて、理解することがどうしても出来ない地球から来た少女がここにいた。

 

 

 

 

 

「え? 魔法って・・・・・・誰でも使えるようになるものじゃなかったんですか?」

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

 

「「・・・・・・は?」」

「いや、ですから。魔法って特別で不思議な力で変な現象引き起こすことなんでしょ?

 それだったら他にもいっぱい使ってる生き物を見かけましたので、人間側にも使えるものなんだろうなーと勝手に想像していたものでしてね?」

 

 セレニアの言う不思議な力を持つ生き物たち。

 例えば、ナルシェで襲ってきたガードの中に混じってた《メガロドルク》の使っていた《ブリザード》。

 炭鉱内の洞窟で限定的に吹雪発生させて攻撃してくるんだから、そりゃ不思議である。

 他にもモーグリなんていう不思議カワイイ生き物たちやら、踊るだけで地割れ引き起こす超常現象発生源みたいなモーグリの一匹やらと異世界に来てから不思議現象には事欠いた覚えの方が少ない。

 

 そもそも地球人であるセレニアにとって異世界事態が摩訶不思議アドベンチャーワールドであり、もっと言うなら自分自身が異世界転生者である。

 今更ファンタジー世界では定番中の定番《魔法》があるかないかで驚ける神経など持ち合わせられる環境で生まれ育っていなかった。

 つか、魔法の出ないファンタジーなんて《SAO》ぐらいしか思い出せないし、驚けって方が無理だって絶対に。

 

 

「い、いや、言われてみたらアイツらもまぁ結構変な力を使ってはいたけれども、普通の人間にとって不思議な力というのはだな?」

「つか、そもそも私を抱きかかえている雪男さんが不思議の塊なんですけども。これと比べてティナさんの力が誰かに迷惑かけたりとかしましてましたかね?

 私は恩恵しか得られた覚えがないので、素直な感謝の念しか抱いてこなかったんですけども?」

『ウゴ♪』

 

「「・・・・・・」」

 

 めっちゃくちゃ説得力のある塊に笑いかけられて声までかけられた二人は、逆に声の出しようがない。

 

 ウーマロには悪いと思うけど、誰がどう見たってティナの魔法の方が人類にとっては有益な力である。

 彼の力はセレニア個人の為にしか振る舞ってもらえそうにないし、セレニア自身にさえデメリットがある諸刃の刃だし。

 

 それに引き換えティナの魔法には助けられた覚えしかないロックと、たった今助けてもらったばかりのエドガーには言うべき言葉が間違っていたことが分かってくる。

 ここまで来てわからないほど、彼らの心はケフカではない。

 

 

 今言うべきだった言葉は質問ではなく・・・・・・『ありがとう』なのが当たり前なのだから。

 

 

「ごめん、ティナ。謝るのは俺たちの方で、驚くより先にやるべきことと言うべき言葉があったんだよな・・・。

 助けてくれてありがとう、感謝してる。

 今までも、そして君さえ良ければこれからも・・・な?」

「そ、そうそう! ほんと、ほんとロックの言うとおりだよな! 魔法なんて初めて見たんで、つい、驚いてしまって言い忘れてたんだ。

 助けてくれてありがとう、感謝している。

 ・・・でも・・・君はいったい何者なんだ・・・その力はいったい・・・・・・」

 

 感謝と謝罪はすれども、国家統治者としての責任感がエドガーに質問を追加させる。

 させざるを得ない。二人と違って背負わなければならない命の数が違う者の宿命であり使命である以上、それを疎かにすることだけは決して出来ない。するわけにはいかない。絶対に。

 

 

 ・・・ただまぁ、これだけ言えることじゃないんだけども。

 今やることなのかね? その質問って・・・・・・。

 

 

「いいじゃないか、エドガー。

 ティナは魔法が使える、俺たちには使えない。それだけのことさ。

 そして、今の俺たちにとってティナの魔法は必要な力なんだ!!」

「と、言うよりも」

 

 セレニアが単直に、魔法の力を彼女らしく表現する。

 

「もし魔法が、特別な者だけが持つ力であるとするならば。

 強弱にかかわらず、先ほどのケフカさんの魔法より、ティナさんの魔法の方がずっと良くて仲良くやってけそうだと思えません?」

「「・・・・・・」」

「力なんてどんなに強くても、振るう者の意思次第で敵にも味方もなる道具に過ぎない物です。むしろ過剰に恐れたり崇拝したりするのは心に弱さを生み出す物。

 困った時に頼って、応えてくれたら感謝して、頼ならくても出来ることは自分でやればいいと私は思いますけどねー」

「「・・・・・・・・・」」

 

 現代の現実主義者は、機械化文明の先駆者よりも理屈で物を考える人間みたいです。さっきその力に振り回されて悲鳴あげてましたけどね。

 あれはあれで感謝してはいるのでひとまずはOK。問題あったら起きてから考えます。

 オリジナルは違うのかもしれないけど、私オリジナルじゃないもんで。

 

 

 ――上には上のケフカがいた。

 いや、この場合は下には下がいたと言うのが正しい気がするのは何故だろうか・・・?

 

 

「ありがとう!セレニア! ありがとう!ロック! ありがとう!エドガー!

 私からもお礼を言わせてちょうだい! この世界で一人ぼっちな私に優しくしてくれて本当にみんなありがとう!!」

「へ? あ、いやあの・・・どういたしまし・・・て?」

 

 そう言ってウィンクしてくるティナと、感謝されなれてないから照れるセレニア。

 二人のタイプが異なる美少女のカワイイ姿を間近で見れた男ども二人。

 

 

「「でれーっ・・・・・・」」

 

 

 ――こうして始まる、魔法相手に覚悟を決めて挑む事にした魔導アーマー帝国兵二人VS生まれながらに魔導の力を持つ少女&友情と絆とちょっとばかりの欲望でドーピングされた男二人&気温が低下した砂漠の夜でやる気になってる暑いの苦手な雪男が一人(一匹?)

 

 

 改めて思う。

 それを、セレニアが言う。

 

 

「オーバーキル過ぎません? ・・・この戦力差って・・・・・・」

 

 

 ファンタジー物の序盤で世界征服中の敵軍兵士を相手に希に起きる、圧倒的なハンディ戦はじまる。・・・そして終わる。

 

 早いな! 戦力差がありすぎて描写する事が見つからん!

 

 

 ――と言うわけで次回へ続く!

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