FINAL FANTASY Ⅵ~偽レニア~ 作:ひきがやもとまち
「ヒ――――ッ!! くっそー! この借りは必ず返しますよーッ!」
帝国の魔道師ケフカからの負け惜しみを背にして駆け足で去って行くチョコボに跨がる三人+一人と一匹。
無事に城からの脱出に成功したロックは、砂塵渦巻く黄金の大海原へとダイブして地中にその姿を埋めるフィガロ上の勇姿に惜しみない感謝と賛辞を込めて絶賛を送る。
「ブラボー、フィガロ!!」
リターナーの一員としてフィガロ王国に反帝国同盟への参加を求め続けてきた身であると同時に、帝国軍に追われる少女ティナを守りたいと願う彼としては幾ら絶賛してもし足りるなどと言うことは決してないほどの大戦果。これを心から喜ばずして彼の人生に花はない。
彼以外の残る者たちにしたところで、気分が悪いわけがない状況でもある。
ティナは先ほども使って仲間を助けた不思議な力―――自分にとっては使えて当たり前の魔法が危険物扱いされてしまったことに忸怩たるものこそ在れ、セレニアとロックの慰めにより気分を一定量まで持ち直せているし。
セレニアに至っては、事の始まりから今の今まで巻き込まれて振り回されてただけの存在であり、未だに現状の全てを把握できてないという点ではティナ以上の記憶喪失なのに、記憶喪失とかどうでもよくなるぐらいには命がけの危機脱出が続いているため、あんまり気にしていなかった。人間、比較対象が巨大すぎると危機的状況であっても大したことなく感じてしまいやすい生き物なのである。
――が、しかし。
たった一人だけ、それで終わらすわけにはいかない男がいる。卑劣な手段で城を焼き討ちしてきた悪党に目にもの見せてやったと喜んでいるばかりの自分を許してはいけない義務を負った高貴な身分の持ち主がここには混じっていたのだから――――。
「こりゃあいいや!」
「・・・・・・」
ロックから、自分の治める国自慢の魔導アーマーに勝る移動手段チョコボを手放しで褒められても尚、それを素直に喜んでばかりもいられない身分にある者。フィガロ国王エドガー。
空気を読めない発言だというのは理解している。出来るなら今この場ではなく、もっと落ち着いた場所に着いてから話すべき事柄だというのも判ってはいる。
だが、しかし! しかしである。
自分はもう、決断するだけでなく行動してしまった。フィガロ王国と、その国民たち全てを対帝国戦争に巻き込んでしまったのだ。
その双肩にのしかかる責任の重さは単身で各地を飛び回れるトレジャーハンターのロックとも、世界中で一人だけの生まれながらに魔導の力を操るが故に他人の命に責任を負わなくていいティナとも全く違う。質も量も段違いな重荷を背負う立場にあるが故に、言いたくなくても聞いておかなければならない疑問というのが、どうしても存在せざるを得ないのだから。
「・・・ティナ。会って欲しい人がいる・・・」
エドガーは、ティナのすぐ横に自分の乗るチョコボを寄せてから小声で要望を述べた。
ロックも自分の役割を思い出し、速度を落として後続のティナのチョコボに足を合わせる。
「俺達は地下組織リターナーのメンバーなんだ。その指導者バナンに会ってくれないかな?」
身分違いの友人の言にうなずいてから、エドガーは先ほどよりもやや重苦しい声で言いにくそうに“その言葉”を口にする。
「今度の戦争は『魔導』の力が鍵になっている。その事で彼の見解をティナにも聞いておいて欲しいんだ」
「魔導・・・」
ティナもまた、沈んだ声でその名をつぶやく。
それは彼女にとって当たり前に使える力が持つ名前であったが、それと同時に彼女にとって自分と他人とを明確に線引きする忌むべき異常に与えられた呪言でもある。
「ティナには魔導の力がある。その力は幻獣と反応しあった。
もしかしたら、何かしらの関係があるのかもしれな――――」
相手を刺激しないよう抑制した口調で話そうとするエドガーだったが、これはティナ相手には逆効果だったかもしれない。
彼はティナを外見年齢が美しすぎること、物静かで大人びていることなどの理由により年相応のレディとして扱っていたのだが、実のところ彼女の本質は驚くほど幼い。知能はともかく、精神年齢は十代半ばにすら達することが出来ていないと見て間違いないだろう。
それが女性を口説くことにかけては老若男女かかわりなく皆平等に『一人前のレディ』として扱ってきたエドガーには理解できていない。それを知るには彼女との付き合いがあまりにも短すぎたから・・・・・・。
「私は何も知らないわ!
この力も気がついた時は自然と使えるようになっていて―――」
「しかし生まれ付き魔導の力を持った人間などいない!」
悲鳴のような大声での叫びと、同じく大声での否定の叫び。
・・・この時の二人は皮肉なことに全く同じ動機から相反する言葉を発してしまっていた。
“不安”である。
ティナは自分にとっての当たり前が極めて『危険な力』であることが怖かった。
魔法が人を傷つける怖い力なら、その力を使えるのが当たり前な自分は何なのか・・・?
そう考えさせられるのが怖くて怖くて仕方がなかったから・・・・・・。
「・・・すまない。柄にもなく冷静さを失った・・・・・・」
謝罪するエドガー。彼とて不安な気持ちは同じなのだ。
なにしろ彼は、魔法が使えない。生まれ付きその様な力が使えて当たり前な状態というのを彼は知らない。見たことも聞いたこともないのだ。
それでも彼はティナを化け物とは見なしていない。見なしたくないのだ。
だからこそ納得できる理由と説明を求めた。他の誰のためでもなく、ティナを自分たちと同じ『人間』なんだと自分自身を納得させてくれることをティナに求めた。求めてしまった。
“化け物に国民たち全ての命を預けるわけにはいかないから”
“ティナを自分たちと共に戦う仲間として信頼したかっから”
それが拒絶されてしまったため、ほんの一瞬だけではあるが我を失い激してしまった。
だから今の謝罪は本心ではなく、体裁を取り繕ったものである。本音を言えば全力で謝りたくて仕方がない。地位身分さえ関係なければそれが出来たのに!と悔やんでも悔やみきれない後悔が彼の胸を苛んでいた。
「私はどうすれば・・・・・・」
だが、エドガーの心の機微を読み取れるほどにはティナもまた大人ではなかった。自分一人だけのことで精一杯な年齢なのだ。精神年齢的にはの話ではあるけれど。
「帝国がティナの力と、その秘密を狙って追ってくるだろう。
力が帝国に渡ったら世界はおしまいだ。ティナも自分の持っている力の正体を知りたいだろう?」
詭弁を弄して少女を唆している自覚が、エドガーのフェミニスト精神を深く鋭く自傷する。
女性を相手に心にもない言葉を吐くことは、彼には出来ない。
だがそこに、『男として女性へ向ける好意』以外の下心がこもった口説き文句は必ずしも含まれていなかったのだ。
必要があれば、嘘ではない詭弁は吐く。その結果として自分自身が自己嫌悪感に苛まれようとも覚悟の上だと割り切りながら。
「ならば、バナンに会い、真実を見極めて欲しい」
だが、それでも。
「・・・これはフィガロ国王として、反帝国組織リターナーの側に与した組織の長としてだけではなく、エドガー・フィガロ個人として君のことを案ずるが故のお願いだ・・・。
頼む、ティナ。一度でいいから、バナンに会ってやって欲しい」
そう言って頭を下げてきたエドガーに、ティナは心底驚かされた。
付き合いは薄いが、それでもフィガロ城にいた人々の話しぶりからエドガーが、とても偉い人だというのは理解できていた。
世の仕組みは思い出せずとも、偉い人が自分なんかに頭を下げるのが特別なことなんだと認識できないほど彼女の知能は低くない。
彼女の中で先ほど抱いてしまったエドガーへのわだかまりが急速に溶けていくのをティナは感じて、我知らず戸惑いの表情を浮かべてしまう。こういうときにどう反応すればいいのかも思い出せていなかったから。
「俺からも頼むよ、ティナ。
セレニアだって同じ思いだろう?」
その時になって、ようやく会話に加わってくるロック。
正直な話、地位身分もなければ、ティナが使っていた不思議な力が魔法だったことさえ先ほどエドガーに教えてもらって初めて知った無知無学な25歳の風来坊にとって、今の話は重すぎた。付いていけなかった。
だから黙って聞いてるしかなかったんだけど、終わり頃になってようやく自分でも入り込めそうな隙を見つけ出せたのでセレニアも巻き込んで潜り込んできたと言うわけである。
が、しかし。計算違いはここでも起こる。
反応を求めて声をかけたセレニアが、「あ~・・・」と空を見上げたまま虚ろな目をしてボンヤリしているだけだったので、会話が終わるに終われなくなってしまったのである。
「え? あ、あの・・・セレニア? セレニアちゃん? おーい、大丈夫か~?」
近づいていって、目の前で手をヒラヒラ振ってみせるロック。
この段になってティナとエドガーも異常に気付き、常は騒々しいセレニアの普段と違う反応にギョッとしながら見つめていると、彼女はゆっくり声を発しはじめる。
「・・・・・・何なんでしょうねー、こう言うのって・・・」
ボンヤリした声で。どこか遠くを見つめているような瞳で。
ここではなく、遙か遠くの空の果てにいる誰かさんのことでも見つめていたいと願うような瞳と声音で。
自分ではない誰かのことを、自分ではなくなってしまった遠い日の自分のことを、今はもうどこにも存在しない遣り直すことが出来なくなった記憶の中の誰かのことを思い出すかのように口ずさむ。
「・・・よく覚えてませんけど、思い出せたわけじゃないですけども。昔の私も今と同じような会話をしていたような気がします・・・。
自分にとっての『当たり前』が、『当たり前じゃない人たち』から受け入れられなくて衝突していたことが幾度もあった様な気がします。
私が当たり前だと感じる事柄が、私以外その場にいる全ての人たちから見て『異常』だと、『間違っている』と、『そんなのはおかしい』と断定されたようなことが、有ったような気がするのですけど・・・・・・あの時の私は何を思っていたのでしょうか・・・?
自分が信じる『当たり前』を『当たり前じゃない』と否定されたとき、私は否定されたことをどう思ったのでしょう? 否定した人のことをどう思っていたのでしょう?
否定した人たちに何かを思った自分の感情を私自身はどのように評価して、そんな自分のことをどう思っていたのでしょうかねぇ・・・・・・。
今の私には何一つ思い出せません。思い出せなくても変わってしまった後だと判る自分自身には、『変わる前の自分』が他人たちのことをどう思っていたのか、まるで想像できないようなのです。
そしてきっと、過去を思い出そうと努力している今の自分も、明日か明後日には思い出すため努力しないといけない過去の人になっちゃっているのでしょうねぇ」
長広舌を終え、瞳をパチクリさせて表情を取り戻したセレニアは正面に向き直ると、
「あれ? どうかしましたか皆さん。そんな怖々とした表情で私の顔なんか見て・・・」
「い、いやその・・・うん。セレニアも結構苦労してきたんだなーと・・・な! そうだよなエドガー!」
「えっ!? そこで私に振るのは卑怯だぞロック!? え、えーとだな、セレニア。君が抱いているその悩みもバナンに会えば何かしらのヒントぐらいはもらえると思う・・・よ?」
「???? どうしたんです? そんなに取り繕ったような顔して一般論じみた詭弁を並べ立てて。御二方らしくもない」
「「そ、そうかな~? アハ、アハハハハハ」」
笑ってごまかす男衆二人。
ハッキリ言って、セレニアの悩みは重すぎました。
過去に囚われてるトレジャーハンターと、レディを傷つけることはしたくないフェミニストの王様には荷が重すぎますので、人生経験豊富な老人のバナンさんに押しつけたいこと山の如しだったのです。
(いいかロック。今後はセレニアのいる前でティナの過去の傷に触れるような話題は禁止だ。正直言って、胃が保たん)
(OK。俺の方にも異存はないぜ。今の話は俺の方にもトラウマ抉られそうになる部分が多かったから話さなくていいのは正直助かるぜ)
「??? なんだかよく判りませんけど、もし先ほどしていた話繋がりでティナさんの力について相談し会っていたならば、無意味ですから悩まなくていいと助言させていただきますよ。ぶっちゃけ、時間の無駄ですから」
「え。どうして・・・?」
不安に揺れる碧色の瞳で、女の自分よりさらに下方に位置する揺らぐことを知らないかのような意思の強すぎる蒼い瞳と見つめ合わせるティナ。
返ってきた答えは明瞭すぎるほどに明瞭で、誤解する余地がどこにも存在しない力強さを秘めていた。
「情報が足りなすぎます。記憶をなくして何も思い出せないティナさんの力を門外漢でしかないエドガーさんやロックさんたちだけが持つ断片的な知識だけを基準にして何がわかるというのです?」
まして、今は戦争中な上に敵国が使っている兵器が魔法を元にした魔導ときている。敵国の兵器としてしか魔法を知らない人たちの見解が『魔法は兵器で危険な力』に統合されるのは致し方ないことでもありますしね」
「旅を続けていれば自然と、自分とは異なる考え方や知識の持ち主と出会う機会が多くなります。
答えを出すのは、それら今の自分が知らない様々なものを知ってからでも遅くはないですし、どうしても今決めなきゃいけない理由があるものでもない。
と言うより記憶喪失の人間が、出会ったばかりの親しい相手だけを基準に自分のこと考えたって意味なんかないのは当然です。
自分のことが思い出せないなら、新しい自分を創りながらでも考え続けていけばそれでいい。考えることぐらい、魔法の有る無し関係なく誰でも実行できるものなんですからねぇ」
反論の余地なき正論。
答えを性急に出したがってた大人たち赤面。
戦争だからと、答えを急ぎすぎました。
今この場で急いだところで、答えを告げるべき相手は世界最高峰コルツ山の向こう側です。めちゃくちゃ遠い。遠すぎる。
「そう・・・だな。答えは出して欲しいけど、バナンに会うまでには出してくれてればそれでいか」
「うむ。と言うかまずは砂漠を抜けてサウスフィガロに行くのが先立ったからな。さすがに皮算用の度が過ぎてしまったらしい。許してくれ、ティナ」
『ウゴーッ!』
「ですね。この様にウーマロさんも「急いては事をし損じる」と仰っておられるわけですし、焦らずのんびりと行けばいいと思いますよティナさん」
「ふふふ、ありがとうセレニア。――でも今のはさすがに無理がある慰め方だったわよ?」
「ですよねー(一応本当なんですけど、そもそも“何となく解る”だけですもんなー)」
四者四様。それぞれの想いと事情を胸に、若者たちは帝国の魔手から世界を救う旅に今旅立つ!
「よし! それでは南に向かおう!
フィガロ王国の城下町、サウスフィガロへと続く洞窟があるはずだ!」
つづく
次回予告(?)
シャドウ「よせ、他人にはなつかない犬d―――」
偽レニア「わーっ! 犬です! ワンちゃんです! 癒やしの対象です! 撫でていいですか!? 抱っこしていいですか!? この際なつかなくても全然OKなんでモフらせてもらってもよろしいでしょうか!? 最近の私、色々あったせいで癒やしがないと精神的にピンチなものでしてね!」
シャドウ「・・・・・・(タジタジ)」
エドガー&ロック「「連れの子供が迷惑おかけしてすみません・・・」」
次話はいっきにサウスフィガロ到着後からスタートする予定でおります。