フォワード達が姿の見えない敵を追って行ったのとほぼ同時刻。
スターズ分隊長、高町なのははリゾートホテルの屋上を飛んでいた。栗色のサイドポニーと、彼女のトレードマークでもある白いロングスカートを風になびかせ、暗い夜の空を見据えている。
その視線の遥か先には、大量の空戦用量産型ネオガジェット、タイプBが編隊を組んでこちらへ向かっている。これ自体はセブン・シンズを運び出すための陽動部隊に過ぎないだろう。だが、放置するわけにもいかない。
「行くよ、レイジングハート」
〔はい、マスター〕
"不屈の心"の名前を持つ相棒に呼び掛け、その杖先をネオガジェットへ向ける。
奪われたセブン・シンズは信頼出来る地上の仲間に任せ、自分は空を守る。なのはは桃色の魔力スフィアと、ミッド式の円形の魔法陣を出現させ、空から迫る大量の機械の軍団を迎え撃つ。
「アクセルシューター!」
〔Accel shooter〕
レイジングハートの杖先から多数の魔力弾を放ち、ネオガジェットを次々と撃墜していく。しかし、敵も進軍の手を緩めない。ポットのような体の下から砲台を出し、次々となのはめがけて光弾を発射してきた。
「キリがないね……でもっ!」
なのはは敵の弾幕を避けながら的確な射撃魔法で墜としていった。
不屈のエースオブエースの長い夜が、今始まった。
◇◆◇
ソラトは薄暗い路地を走り続けていた。仲間達と別れてセブン・シンズを盗んだ敵を追っているのだが、厄介なことに敵は姿が見えない正体不明の存在だ。
「本当に、迷路みたいだ」
グリトニル・リゾートの居住地区は迷路のように入り組んでいる。フォワード達が手分けして捜索する羽目になった理由も、この迷路にあった。
果たして、見つけられるのか。ソラトの中で不安の気持ちが大きくなる。
「ここは……?」
やがて、ソラトは広場に出た。中央には既に水が止められた噴水があるのみ。日中はここで子供が遊んだり、主婦が世間話をするのだろう。
だが、ソラトはこの場に漂う違和感を感じ取っていた。何もないはずの噴水の水面に波紋が2方向から出ている。まるで誰かの両足が入っているかのように。
「そこだっ!」
ソラトはすぐに愛剣セラフィムを構え、噴水に斬り掛かった。
するとセラフィムが届くより先に、何もなかったはずの噴水から水飛沫が起こり、何かの足のようなものが2つ飛び出してすぐに消えた。
「待……うあっ!?」
慌てて飛び出したものを追おうとするが、突如何かで肩を殴られたかのような衝撃がソラトを襲った。
体勢を立て直すソラトだが、何処からともなく2発、3発と衝撃が打ち込まれていく。防ごうにも攻撃はおろか相手の姿さえ見えず対応が出来ない。
「くっ、皆に知らせなきゃ!」
ソラトはその場から一旦下がり、応援を呼ぼうとフォワード全員に通信を繋いだ。
◇◆◇
一方、エドワードは路地の行き止まりに辿り着いていた。
「ここも違うか……」
これで3回目の行き止まりだった。周囲に住民以外の気配も存在せず、道を引き返そうとする。その時、奇妙な機械音がエドワードの耳にいくつも聞こえた。
「足止めか」
エドワードが振り返ると、ネオガジェットのタイプAが数機道を塞ぐように並んでいた。前は機械兵、後ろは壁。エドワードは舌打ちをしながらブレイブアサルトを構える。
「どうした?」
そこへ、弟分のソラトから緊急通信が入った。敵から目を離さずに、エドワードは通信を開く。
〔こちらソラト! 標的を見つけて交戦中! 場所は中央の噴水広場!〕
ソラトはフォワード陣全員に通信を繋げ、敵と接触したことを報告した。しかも現在戦闘中のようだ。
だが、エドワードの現在地は中央から遠く、更に足止めを食らっている。
「すまないソラト、加勢には時間が掛かる」
〔ごめん、こっちも少し待って!〕
近寄るネオガジェットを射撃しながら答えるエドワード。スバルや他のメンバー達も同じ状況らしく、応援は期待出来ない。
〔わ、分かった! 何とか食い止めるから皆も気を付けて!〕
それだけ言って、ソラトは通信を切った。応援が望めないので動揺している様子だったが。
「チッ! ブレイブアサルト、フォルムツヴァイ!」
〔Shot form〕
ソラトの苦戦を感じ取ったエドワードはライフル型だったデバイスを拳銃型に変え、ネオガジェットを撃ちながら進む。
なるべく早く増援に行かなければ、と急ぐエドワードの気持ちとは裏腹にネオガジェットは路地からワラワラと現れる。
「邪魔だ!」
足止めにイラつきながらも、エドワードは前へ進んでいった。なるべく早く弟分を助けに行く為に。
◇◆◇
あれからどれ程時間が経ったのだろうか。もしかしたら、数分しか過ぎてないかもしれない。噴水の水面は変わらず、穏やかに月の光を映している。
広場の光景で唯一変わった場所といえば、ボロボロになったソラトが立っていることだった。
敵の見えない攻撃を受け続けてしまい、疲労に息を荒くしながらソラトは周囲を見回す。
「ぜぇ、ぜぇ、何処だ……」
ヒュンッ、と風を切る音が微かに聞こえ、ソラトはその方向へと構える。
しかし、敵はソラトの抵抗を嘲笑うかのように逆方向から攻撃を加える。
敵は何処にいるのか。攻撃は何時、何処から来るのか。そもそもどんな武器で攻撃されているのか。
戦闘に必要な情報が多く欠落した状況の中で一方的に甚振られながらも、ソラトは敵の行動を伺っていた。必ず敵の正体を掴むチャンスが来ることを信じて。
「ぐあっ!?」
今度は右側から殴られたかのような衝撃を受けた。蓄積したダメージに体が耐え切れず、遂にその場に倒れこむ。白いバリアジャケットには所々赤い血が滲んでしまっている。
体力をかなり消費してフラフラになりながらも、ソラトは立ち上がりセラフィムを構えた。
「こんな所で、負ける訳には……」
その時、遥か上空で桃色の閃光が見えた。次いで、大量の爆発が夜空を埋め尽くす。
それは間違いなく、なのはの砲撃魔法。あんなに空高くで、ソラトが超えたいと願っている人が戦っているのだ。
「あの人の前で、負ける訳にはいかないんだ!」
絶対になのはを超えるため、スバルを守れる力を得るために決意したことを叫ぶ。ソラトは力強く構え直し、闘志を再び燃え上がらせた。そして、敵の手がかりになりそうなものを集中して探す。
その一瞬、ソラトはあるものを見つけた。
血だ。見えない何かから血が滴り落ちている。
それが自身の血であり、敵が攻撃した時に付着したものだと判断するのにあまり時間は掛からなかった。
「そこっ!」
ソラトは逃がさないよう、素早く血が付いた見えない物体を斬った。ボトリと斬り落とされた
「……舌?」
赤くて先が丸まった、まるで生物の舌のような長い物体。それが今までソラトを苦しめていた武器の正体だった。
そして、見えなかった敵の姿も明らかになる。斬られた部位から血を流し、獣のような悲鳴をあげながら悶絶する緑色の化物。ギョロッとした大きな目に先の丸まった尻尾、そして姿を消せる能力。
ここまでの特徴から推測すると、カメレオンが当てはまった。
「やっぱり獣人だったのか!」
カメレオン獣人は舌を斬られた痛みを堪え、ソラトから距離を取る。
出血が酷く痕跡を残してしまうため、もう姿を消す能力も使えない。
「さぁ、鎮魂歌は歌い終わった?」
セラフィムの切っ先を向け、決め台詞を放つソラト。
厄介な能力を封じたことで恐れるものもなくなった。対する獣人は目玉をキョロキョロと動かし、血と唾を吐き散らしながらソラトへと吠える。
〔舌を斬り落としたので歌えませんけど〕
「いいの! 行くよ!」
愛機に決め台詞を突っ込まれてしまうが、それだけ余裕が出来たことも表していた。
気を取り直して獣人に向かって行く。舌が使えないカメレオン獣人は、今度は尻尾を伸ばしてソラトを捕まえようとした。
「おっと!」
だが、普段の訓練でなのはやヴィータの射撃を受けているソラトにとっては、見えるようになった獣人の攻撃は難なくかわせる程度のものだった。
「はああああっ!」
尻尾を避けると同時に一気に距離を詰め、腹部目がけて飛び蹴りを加えた。
蹴り飛ばされた獣人は身を反転させて上手く壁に着地し、そのまま壁伝いに歩き始めた。しかし、蹴りのダメージが大きかったのか動きを止め、気持ち悪そうに何かを吐き出した。
「セブン・シンズ!?」
唾液と血で汚れてはいるが、藍色のクマの像は紛れもなく"
飲み込んで隠し持っていたのは予想外ではあったが、これで容赦する必要もなくなった。
「これは返してもらう!」
セブン・シンズを庇うように、獣人に向かい合うソラト。流石に体液塗れの像は触りたくないのでその場に置いておいたが。
獣人は動き回る視点をソラトに集中させ、一気に殴り掛かって来た。ソラトが獣人の動きに合わせるように避けると、カメレオンらしからぬ腕力で石を敷き詰められた地面に拳をめり込ませる。
「今だっ!」
その隙にソラトはセラフィムを下から振り払い、獣人の体を上へ弾き飛ばした。
「行くよ!
〔Divine buster〕
こんなに住宅が密集した場所で砲撃を撃っては危険なので獣人を真上へと飛ばし、トドメを差すべくカートリッジを消費する。
青緑色の魔力スフィアを獣人の方向に合わせ、大剣を背負うように構えた。
「ディバインバスター!」
そして魔力スフィアを大きく斬り裂くと、そこから放射状の斬撃波が放たれ獣人の体を両断し、上空で花火のような爆発を引き起こした。
上空の爆発には遠く離れたスバルも気付き、ソラトが勝利したことを確信する。
「やった、ソラト! よーし、後は!」
恋人の勝利に嬉しそうな笑顔を見せた後、右腕のリボルバーナックルのスピナーをフル回転させてネオガジェットを見据える。
足元には既にいくつもの残骸が散乱しており、残りもたった数機程度。早くソラトの下に行きたいスバルは全力でネオガジェットを排除していった。
戦いが終わり、肩の力を抜くソラト。勝利を収めたがダメージと披露でヘトヘトである。
〔セブン・シンズを回収して休みましょう〕
「うん、そうだね……あれ?」
セラフィムの意見に賛成し、足元のセブン・シンズを拾おうとした。
しかし、藍色の像は見当たらなかった。確かにソラトの近くに転がっていたはずだが、血と唾液の痕跡だけ残して消えてしまったのだ。
「え、もしかして消えた!?」
〔おかしいですね〕
慌てて周囲を探すソラト。いくら戦いに勝っても、保護対象をなくしてしまっては元も子もない。
「とっくに送っちまったよ」
必死に探し回るソラトに答えたのは、暗い路地からの声だった。自分以外にもう1人、この場にいることに気付きソラトは警戒する。
「誰だっ!?」
セラフィムを構え直し、声のした方を睨む。すると、ゆっくりとこちらへ近付いてくる足音が聞こえてきた。
「そんなものなんかどうでもいい」
低く唸るような、しかし何処かで聞いたことがあるような声が静かな夜の広場の空気を重く制する。
「ずっと待ち望んでいた」
足音が段々近くなり、路地の影から翡翠色の髪と黒い服装が徐々に現れた。
「え……?」
少年の姿が露になった時、ソラトは目を見開き驚愕の声を洩らした。そして、頭の中が一気に疑問で満たされていった。
「漸くお前を殺せる、この時を」
彼の容姿は
髪や瞳、服装の色は違うが、それ以外はバリアジャケットの模様すら、まるで鏡に映っているかのように同じであった。
「何で、君は……?」
信じられないような光景を目の前に、ソラトは身を引きながら尋ねた。
「俺の名は、アース」
遂に相見えた、同じ容姿を持つ2人の少年。運命は絡み付く糸のように交錯していく――。