魔法戦記リリカルなのはWarriorS   作:雲色の銀

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第19話 陸士315部隊

 第1管理世界"ミッドチルダ"の首都──"クラナガン"。

 巨大な都市部であるそこも、深夜はネオンも減り静かになる。人も車も全く通らない、昼間とは真逆の世界。

 そんな静寂の場所に、いかにも不似合いな騒音が響く。バイクが2台、クラナガンの夜道を走っていた。

 暴走族にしては頭数が少なく、各車運転手1人しか乗せていない。ではレースをしているのかといえば、そうでもない。2台は並走し、ヘルメット越しに隣にいる相手を睨む。

 運転手の服装は、デザインは同じだが色は片方が白、もう片方は黒と対照的だ。2人はそれぞれ身の丈程の剣を持ち、黒い方は隙あらば白い方へ斬り掛かろうとしていた。

 

「攻めてこねぇのか? ソラトぉぉぉぉっ!」

 

 黒い運転手、アースが白い運転手、ソラトへ挑発を掛ける。

 同時に車体を傾け、横から体当たりを仕掛ける。まともに食らえば事故は避けられない。ソラトも体当たりで衝撃を相殺する。

 

「くっ!」

「その程度か!」

 

 ソラト側はよろめくが、アースはすぐに態勢を立て直す。2人はバイクで駆けながらぶつかり合いを繰り返していた。時に激しく体をぶつけ、時には大剣で鍔迫り合いを交わす。そうして、既にクラナガン中を何周もしていた。

 特に、ソラトの命を狙うアースは。積極的に攻め、何処へ行こうと追い続ける。対するソラトにも逃げるつもりはなかった。

 

「でああああっ!」

 

 しかし、そろそろお互いに疲弊していた。アースはトドメと言わんばかりに大剣"ベルゼブブ"をソラトのバイクへ叩き込む。

 

「ぐぁっ!?」

 

 遂に衝撃に耐えられず、ソラトは転倒してしまった。咄嗟に受け身を取ったため怪我はないが、ダメージは大きい。アースはソラトが倒れたことに気付き、ドリフトをかけながら止まる。

 このままでは殺られる。ソラトはヘルメットを外し、金髪を揺らしながら立ち上がろうとする。

 だが、ソラトの目の前には既にアースが立っていた。彼の右手にはベルゼブブが握られており、空いた左手でヘルメットを脱ぎ捨てる。

 

「終わりだ」

 

 ソラトの蒼い眼に移ったアースの顔。翡翠色の髪に鋭く紅い瞳、それ以外はソラトと瓜二つだった。

 アースはソラトの遺伝子を使って生み出された人造魔導師。つまりクローンのようなもの。誰かの偽物ではなく自分のアイデンティティーを得るため、アースは自身の本物であるソラトの命を狙っていたのだ。

 

「さぁ、大人しく滅びてろ!」

 

 これで漸く悲願が達成される。アースはベルゼブブを高く掲げ、ソラトへと振り下ろした。

 

「やめろ!」

 

 だが、聞こえてきた声に反応して刄はソラトの眼前で止まる。

 これが誰の声であろうと、アースは動きを止めるつもりはなかった。しかし、体が勝手に止まってしまったのだ。

 

「ノーヴェ……」

 

 叫び声の主である少女の名を、アースは呟く。

 ソラトとアースのいる場へ駆け付けたのは、2人の少女。片方は赤毛に金の瞳を持ち、両足には歯車の付いたローラーブーツ"ジェットエッジ"を履いている。彼女がアースを止めた少女、ノーヴェだ。

 

「でりゃああああっ!」

 

 そして、もう1人。青髪に緑の眼の少女、スバルはノーヴェのジェットエッジと同様に歯車の付いたガントレット"リボルバーナックル"を唸らせ、ローラーブーツ"マッハキャリバー"を走らせながらアースへ突っ込んでいく。

 アースはスバルの拳をベルゼブブの刀身で受けつつ、後ろに飛んで身を躱す。

 

「ソラト、大丈夫!?」

「うん、ありがとうスバル」

 

 ソラトは恋人であるスバルの助けもあり、態勢を立て直していた。落ちていた自分の大剣型デバイス"セラフィム"を拾い、アースへと構える。

 

「チッ」

 

 一方で、一気に不利になったことにアースは苛立っていた。3対1の状況、特にノーヴェが相手となると都合が悪い。

 アースにとって、ノーヴェは初めて心を開いた存在である。今までソラトへの怒りで動いてきたが故に、理解出来ない感情に戸惑っていた。

 

「フン、折角拾った命だ。次はもっと強くなれ」

 

 アースは口惜しそうに転移装置を発動させる。緑色の光がアースと彼の愛機(バイク)を包むと、一瞬で何処かへと消えてしまった。

 

「アース……」

 

 ノーヴェが静かに呟く。彼女もアースに対してシンパシーを感じていた。

 過去の自分が抱いていた、戦闘機人の逃れられない運命への苛立ち。それと同様の枷をアースも持っているからこそ、ノーヴェはアースを止めたいと願っていた。

 

 アースの襲撃の翌日。大した怪我を負わなかったソラトは早朝マラソンに励んでいた。

 昨晩の事件は比較的簡単に対処出来た。理性をなくした獣人がネオガジェット・タイプAの集団を引き連れて破壊行動をしていただけだからだ。

 だが、バイクで現場に向かうソラトを、同じくバイクに乗ったアースが急襲を仕掛けてきた。わざわざ本能のまま暴れる獣人を率いたのも、ソラトを襲い易くするためだったのだろう。

 

「また、負けた……」

 

 ソラトとアースの戦いはこれで2度目。そのどちらも、スバル達が介入してなければソラトは今この場にいない。

 スバルを守ると決めたはずが、逆にスバルに守られている。ソラトは悔しさのあまり拳を強く握り締める。

 

〔マスター、すみません。私が弱いばかりに〕

 

 その時、ポケットからソラトの愛機セラフィムが申し訳なさそうに言った。

 ソラトと同様に、セラフィムもまた自分の弱さに思い悩んでいた。自分を模して作られたデバイス、ベルゼブブ。アースが扱うあの剣に打ち負けないために、何が出来るのか。

 

「セラフィムは悪くないよ。僕が腑甲斐ないから……」

 

 立ち止まり、セラフィムの待機形態である、緑色の長方形のクリスタルを取り出す。

 セラフィムはソラトが陸曹に昇進した3年前、祝いの品として本局の技術官マリエルに作って貰ったものだ。それからずっと傍にいた1人と1機の絆は堅い。

 

「一緒に、強くなって行こう」

〔はい〕

 

 相棒にももっと強くなることを誓い、若い騎士は再び走り出した。

 

 ソラト、アース、スバル、ノーヴェ。

 

 彼等を軸とし、獣人事件は更に進展していく。

 

 

◇◆◇

 

 

 マラネロの研究室。今日も薄暗く広い部屋の中では機械音だけが冷たく響く。

 だが、普段と違うところが2つだけあった。部屋の主であるマラネロの姿がないこと、そしてマラネロ以外の人物が作業をしていることだ。

 

「陸士315部隊が六課と協力……?」

 

 マラネロの代わりに部屋でコンピュータを弄っていた男が画面を見ながら呟く。

 濃い茶色の短髪に、金色の瞳を持つ男性が眺めていたのは、先日設立された特務機動隊の情報だった。

 管理局のデータベースにハッキングして得た情報によれば、新設された特務五課は対獣人事件を専門とした部隊のようだ。

 つまり、マラネロ一派にとっては今後積極的に関わるであろう敵ということだ。

 

「やれやれ、出た芽は早い内に摘まないと」

 

 これがマラネロならば暢気に放置するところだろう。しかし、男性は呆れた表情でデータを入力する。まるで害虫を駆除するかのように。

 

「ロノウェ」

 

 そこへ、男性の名前を呼ぶ声がした。低く強い口調から、あまり親しい訳ではなさそうだ。

 

「戻っていたのか」

 

 ロノウェと呼ばれた男性が振り向くと、翡翠色の髪の少年、アースが立っていた。

 普段から不機嫌そうな表情を更に歪め紅い瞳で睨んでいる。

 

「ああ。僕が居ちゃいけない理由はないだろう?」

 

 対するロノウェは余裕そうな笑顔で接する。但し、大人しそうな目は笑っておらず独特なプレッシャーを放っている。

 

「……フン」

 

 立場上、味方とはいえどマラネロ同様に危険な人物であることに変わりはない。

 ロノウェを警戒しつつ、アースは不機嫌そうなままその場を後にした。

 

 

◇◆◇

 

 

 陸士315部隊への出向が決まったナカジマ姉妹の5人は、隊舎の付近にある森林部へ召集された。

 

 集合場所には既に陸士315部隊隊長"ラウム・ヴァンガード"と、面識のない隊員達がいた。

 笑顔で歓迎する者、険しい顔でこちらを見つめる者、すぐに顔をそむける者。

 対応は様々だが、1つだけ言えることは友好的なものばかりではないということだ。

 

「来たか」

 

 ラウムがここに集まった人物の顔を見回すと、寄り掛かっていた木から動き話を始めた。

 

「ここに来て貰ったのは、315部隊としてこれから共に戦って貰う者達に紹介するためだ」

 

 ギンガ達が察した通り、ここに集められたのは同僚達への顔合わせが目的であった。

 隊員達の前でナカジマ姉妹は並び、1人ずつ自己紹介をしていく。

 

「陸士108部隊から出向になりました"ギンガ・ナカジマ"陸曹長です。これからよろしくお願いします」

 

 始めに、元々局員のギンガが紹介をする。因みにギンガが出向になった理由は、他の姉妹のお目付け役を兼ねているためである。

 施設から外に出たとはいえ、まだ監視の必要な身の上。保護責任者が傍にいなければならない。

 

「ナカジマ家次女"チンク"です」

「同じく四女"ディエチ"です」

「五女、"ノーヴェ"」

「六女の"ウェンディ"ッス!」

 

 残りの姉妹達も軽く自己紹介を終える。すると、隊員達の雰囲気がギンガの時と変わる。

 向けられた視線は冷ややかなものが多く、次第にひそひそと話す声が聞こえ出した。

 

「何で戦闘機人がここにいるんだよ」

「しかも4人も。この部隊大丈夫かよ」

 

 理由は単純、彼女達が元"ナンバーズ"だから。JS事件から2年が経った今でも、悪く思う者は多いのだ。周囲にいた仲間の隊員達も陰口を言い出す。

 仕方がないこととはいえ、ノーヴェは相手を睨む。彼女の短気な性格はまだ少し残っていた。

 

「よせ、ノーヴェ」

 

 今にも怒鳴り出しそうなノーヴェをチンクが小声で諌める。出所から数ヶ月も経たない内に揉め事を起こすのは不味い。自分達の立場の危うさにチンク達は顔を顰めた。

 

「何をしている」

 

 ところが、助け舟は思いもよらぬ所から出た。木に寄り掛かって見ていたラウムが声を掛ける。

 

「相手が誰であろうと、今日から同じ隊舎で働く仲間だ。偏見は捨てろ。それとも、俺の下で仲間割れでもする気か?」

 

 一部始終を見ていたラウムは陰口を叩いていた隊員達を睨む。すると、次第に隊員達の話し声が止んで行った。

 場が収まったことを確認するとラウムはチンク達に頭を下げ、次の話に移った。

 

「さて、次に今日の予定だが、六課との合同訓練を行う。場所はこの森林地帯だ」

 

 陸士315部隊は獣人事件を捜査している機動六課への協力が決まっている。そこで、六課との合同訓練を何度か行うことになっていた。

 最初の訓練場所は両隊舎周辺の森林地帯。敵を見失いやすい場所でいかにして戦うかが問われる。

 

「諸君等は今日が顔合わせだが、これから共に戦う仲間だ。協力して訓練に挑んで欲しい」

「はいっ!」

「一時間後にこの場所にもう一度集合。その間に交友を深めるといい。以上だ」

 

 連絡事項を告げ終えると、ラウムはその場を去って行った。

 

「いやぁ、あんな人が上司でよかったッスねぇ~」

「優しそうな人だったね」

 

 相変わらず軽い口調のウェンディに、ディエチも頷く。最初は出所後の局勤めは不安が大きかったチンクも、しっかりとした男性が上司で一先ず安心していた。

 勿論、ノーヴェも同様に思っていたのだが、姉妹で唯一暗い雰囲気を漂わせていた。

 

「……アースが心配か」

 

 チンクがノーヴェの心境を当てる。

 チンクはナンバーズ時代からノーヴェの教育係として面倒を見てきた。ノーヴェもまたチンクにのみ懐いており、2人の仲は他の姉妹達以上に堅い。

 

「うん……」

 

 ノーヴェは先日も攻めてきたアースのことを考えていた。短い間だけだったが2人は談笑し、心を通わせることが出来た。その中でノーヴェはアースの内面、そして昔の自分に似た所を見たのだった。

 怒りと悲しみの感情に塗れた少年を、ノーヴェは放っておくことが出来なかった。姉妹の中でも、特にノーヴェが315部隊への出向に強く志願した程だ。

 

「アイツもきっと、今のあたし達みたいになれるはずだから」

 

 今は敵対している少年に、生きる意味と楽しさを教えるために。ノーヴェは強く拳を握った。

 そこへ、大事な案件を思い出したかのようにラウムが戻ってきた。

 

「済まない、チンク。来てくれないか」

 

 急に呼び出され、チンクは目を丸くした。施設を出所してから、姉妹セットで呼び出されることが多かったからだ。

 仮に妹達が何かしたのならば、長女のギンガが呼ばれるはず。

 呼び出された理由が分からないまま、チンクはラウムと隊舎に戻っていった。

 

 人気のない廊下まで歩くと、ラウムはチンクに話し出した。

 

「頼みがある」

 

 真剣身を帯びた視線でじっと見つめられ、チンクは一瞬動揺する。見た目は少女だが、中身はれっきとした女性だ。こんなシチュエーションでは動揺するのも無理はない。

 

「俺の……」

 

 上司とはいえ、ラウムとは付き合いがまだ浅い。こんなにも急に告白されてはどう返していいのか困ってしまう。

 チンクは息を呑み、ラウムの言葉を待つ。

 

「部隊長補佐になって欲しい」

 

 予想と大きくかけ離れた告白に、チンクは思わず固まってしまう。

 ラウムは部隊長補佐を探していただけだった。

 

「……む、嫌か?」

 

 チンクの返答がなく、ラウムは首を傾げる。その言葉に漸く我に帰ったチンクは、首を横に振る。

 

「い、いえ! ですが、何故私なのですか?」

 

 チンクの疑問は最もだった。今の315部隊には自分以上に優秀で信用の持てるギンガがいる。

 それを差し置き、元犯罪者の自分を側に置く必要はないはずだ。

 

「ギンガを抜けば、お前達姉妹は執拗に責められる。それに、元犯罪者なら保護者を引き抜いてはいけないだろう」

 

 ラウムの説明はチンクに先程のトラブルを思い出させた。

 お目付役のギンガは、同時に姉妹と周囲の緩衝材になる。それを引き抜けば、部隊内での姉妹の立場がなくなるのは明確だ。

 

「一番しっかりしているのはチンクだと聞いている。ギンガからの許可も貰っている」

 

 先日、機動六課に呼び出された際にラウムはギンガと2人で少しだけ話をしていた。

 それはこのことだったか、とチンクは思い返していた。

 

「勿論、嫌なら断ってもいい。だが一番の適任はチンクだと考えている」

「……私で良いのですか?」

 

 ラウムの頼みに未だ困惑しているチンク。そもそも、自分達以外にも補佐に向いている人材はいる。何故わざわざ自分なのか。

 

「俺が信頼しなければ部下もお前達を同僚と認めないだろう。だから、俺はお前を仲間だと信じている」

 

 ラウムの言葉には一切の揺るぎはなかった。確かにラウムの側に置かれれば、危険人物と見られることは少なくなるだろう。

 

「どうだ?」

「……了解しました。部隊長の補佐、謹んでお受けします」

 

 ラウムの押しに負ける形ではあるが、チンクは隊長補佐任命を受けた。

 

「ありがとう、チンク。それと、俺のことは名前で呼んでも構わない」

「では……ラウム殿と」

 

 名前で呼び合うことで緊張を解し仲を深める。ラウムはチンクの返事に満足したように頷いた。

 

 

◇◆◇

 

 

 1時間後。六課との合同演習の開始である。

 

 ラウムの補佐官になったチンクは演習には参加せず、司令室で両陣営を映すモニターをじっと見ていた。

 315部隊サイドでは、ギンガとディエチが作戦を練って全員に伝えているところだ。

 初対面時には険しい態度だった隊員達も真剣に聞いている辺り、ギンガはまとめ役として最適だった。もし、ギンガではなく階級も地位も持たない自分だったら、上手く行っていたかどうか。

 

「心配か?」

 

 チンクの表情を察したラウムが声を掛ける。するとチンクは首を横に振った。

 

「いえ、ラウム殿の采配は正しかったと思います」

「そうか」

 

 ラウムは無表情で、しかし何処か優しい雰囲気のまま六課サイドのモニターを眺める。

 315部隊はギンガ達を含めて10人。それに対し、六課はフォワード6人と、スターズの隊長格2人。

 

「演習でも向こうは本気だ。気ィ引き締めろ」

「はい!」

 

 教導官のなのはとヴィータが参戦することになっていた。

 因みにライトニングの隊長格は別件の仕事が入ってしまったために不参加となった。

 司令塔のティアナがギンガ同様、作戦を伝える。視界の悪い森林地帯での団体戦。作戦が勝利の鍵を握る。

 

〔そろそろ演習を始めますー!〕

 

 六課側の部隊長、はやてからの通信が来て、両陣営に緊張が走る。

 演習のため、勝ち負けが何かに影響するということはない。だた、気を抜けば一瞬でやられるだろう。

 

〔それでは機動六課、陸士315部隊の合同演習、開始!〕

 

 シグナルと同時に、両陣営の前衛は攻めに動き出した。

 それと同じタイミングで、315部隊のオペレーターが森林内の木々に仕込んだ監視カメラに何かが映っていることを捉えた。

 

「部隊長! 森林内に怪しい影を確認しました!」

「その場所を映してくれ」

 

 ラウムの指示で、監視カメラの映像が画面に映し出される。その光景は想像を絶するものだった。

 影の正体はネオガジェットの編隊だった。しかも、今までに見たことのない量産型タイプだ。

 2足歩行の人型のように見えるが、頭部はなくアイカメラは胸部に付いている。蛇腹で構成された腕の部分には鋭利な突起が4本ずつ付いており、移動中はただぶら下げているだけのようだ。

 

「新型か……」

 

 敵からの急な襲撃にラウムは顎に指を乗せて考えた。場所は演習中のフォワード達から遠く、敵はまっすぐ五課隊舎を目指している。

 

「……俺が出る。前衛部隊には知らせず、演習に集中させろ」

「ラウム殿!?」

 

 ラウムの指示は一般常識から考えればあり得ないことだった。敵は未知の新型機械兵が数機。演習を中断してでもフォワードに防衛させるのがベスト。それを部隊長が単独で出撃するなど、言語道断だ。

 

「補佐として最初の任務だ。あとは任せる」

「いけません、ラウム殿! 無謀です!」

 

 ラウムを止めるチンク。他のオペレーター達もラウムの指示には疑問を持っていた。

 

「せめて数人は戻すべきです」

「……今、急に戻せばアイツ等の作戦に支障が出る」

 

 ナカジマ姉妹と315部隊の隊員は今日が初対面かつ、第一印象は最悪だった。今回の演習はそんな彼らが互いの力量を知り、今後協力するための重要なイベントだとラウムは考えていた。

 だとすれば、今練られた作戦は誰かが欠けても確実に支障が出る。それを避けるべく、ラウムは1人で始末しようとしていたのだ。

 

「時間がない。俺の罪なら後で裁け」

 

 そう言い残し、ラウムはとうとう出撃してしまった。残されたチンクは溜息を吐きながら指令席に座った。

 

 

◇◆◇

 

 

 あと数メートルで五課隊舎が見えるところで、ネオガジェット――タイプD達は動きを止める。

 目の前に1人の男が立ちはだかったからだ

 

「お前達に俺の罪が裁けるか?」

 

 ラウムは懐から懐中時計を取り出すと左胸の前にかざし、敵に時計を見せるように手首を回す。

 

「セットアップ」

 

 そしてデバイスの起動ワードを発声すると同時に時計のボタンを押し、蓋を開かせる。

 

〔Standing by!〕

 

 電子音声と同時に時計の針が回転し、ワインレッドの帯状魔法陣が現れラウムを包む。

 やがて魔法陣が消えると、ラウムは灰色の上着の上に黄色いラインが入った青のジャケット、黒いズボンを身に纏っていた。

 

「行くぞ」

 

 ラウムは三又槍型デバイス"ガーゴイル"を構え、タイプDを睨む。

 ラウムの決め台詞が合図だったかのように、タイプD達は一斉に飛びかかって来た。

 

「ふっ!」

 

 ラウムはタイプDを横から薙ぎ払い、近くに落ちた1機を起きあがる前に突き刺した。

 

〔久々の獲物は機械かぁ?〕

「ああ」

〔俺は柔らかい肉の方がいいんだけどなぁ〕

 

 物騒なことを喋り出すガーゴイルを冷静に流すラウム。良識のある使い手と対照的に、ガーゴイルのAIは癖のある人格だった。

 

〔まぁいいや。狩りまくるだけだ〕

「行くぞ」

〔あいよ〕

 

 ジグザグに向かってきた1機を叩き割りながら、残り奇数を目測で数える。左右合わせて残り10機。

 新型だろうと、所詮は量産機。性能は低いように思えた。

 

「っ!」

 

 背後に違和感を感じ、咄嗟に柄の部分で攻撃する。その先には音もなく忍び寄っていたタイプDのアイカメラが突き刺さっていた。

 先程までに破壊した機体と合わせて13機。ラウムは1機数え漏らしていたのだ。

 

「コイツ等、まさか暗殺用の機体か……?」

 

 新型機にしては実践向きでないような突起の武装、音を立てずに背後を取る奇襲性。ラウムはタイプDの用途が何なのかを見抜いた。

 暗殺用ならば納得がいく。腕の突起は背後から首を斬り落とすための暗器だろう。

 

〔暗殺用ってんなら個々の実力は大したことねぇな〕

「残り10機。問題はない」

 

 木に隠れられては厄介だ。ラウムは敵が散開する前にバインドで動きを封じる。

 

「一気に片を付ける」

〔Belial rush!〕

 

 即興で出したバインドの拘束力は弱い。一瞬の隙を逃さないよう、ラウムはカートリッジを1つ排出しながらタイプDの元へ跳躍する。

 

「ベリアルラッシュ!!」

 

 集団の中心に着地したと同時に、ラウムは目の前の1機に突きを入れる。すると、ワインレッドの魔力を纏った槍先は素早く引き抜かれ、瞬く間に隣の機体へと襲い掛かった。

 こうして周囲の機体全てに高速のラッシュを掛け、破壊した。

 

〔はい、終わりっと〕

「警戒を怠るな」

〔分かってるよ〕

 

 使用者に睨まれ、気を抜いていたガーゴイルは渋々周囲を探知する。が、これといった反応はなく、戦いを終えたラウムは隊舎へと戻っていった。

 

 

◇◆◇

 

 

「ラウム殿は無茶をしすぎです!」

 

 戻ってきたラウムを待っていたのは、チンクの怒声だった。

 初回の合同演習は成功に終わり、ギンガ以外のナカジマ姉妹も他の隊員達とある程度の会話が出来るようになった。ラウムの目論見は上手く行ったことになる。

 

「隊のことを思うのなら、自分を大事にしてください!」

「善処する」

 

 そして、部隊長室にて。チンクの怒号を涼しい顔で聞き流し、ラウムは始末書を片付けていた。

 司令室に帰った時はすぐにチンクに司令室を押し付けて済まなかった、と謝っていたはずだが、自分のことに関して怒られるとコロッと態度を変えたのだ。つまり、自分の身を大事にする気はないらしい。

 

「ああ、チンク。今日はもう下がっていいぞ」

「まったく……分かりました」

 

 始末書を終えたラウムは説教を完全にスルーしてチンクに言い放つ。今日はこれ以上叱っても無駄だと察したチンクは、頭を抱えながら部隊長室を出た。

 

 姉妹の待つ部屋へ向かう途中で、チンクはラウムに対しある不安を抱いた。

 

「ラウム殿は、まさか自ら殺されようとしている?」

 

 自らの危険を顧みない態度と行動。そして罪を裁くという台詞。ラウムは誰かに殺して欲しいのではないか。

 

「……まさかな」

 

 そんなことあるはずがない。そう言い聞かせ、チンクは部屋に戻った。

 

 

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