魔法戦記リリカルなのはWarriorS   作:雲色の銀

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第20話 スバルとソラト

 ある日の夜。スバルは自室にて陸士315部隊に配属された妹、ノーヴェと通信で話をしていた。

 

「どう? 315部隊の方は慣れた?」

〔まぁ、な。ギンガ達もいるし〕

 

 そういって、ノーヴェはやや苦そうな表情を浮かべた。

 初日と比べると険悪なムードは和らいでいたが、全くなくなったという訳ではなかった。

 

「そっか。ところで、話って?」

 

 実は、今回通信を掛けてきたのはノーヴェの方だった。普段、他人と話すのが苦手なノーヴェから話しかけられることはないので、スバルはワクワクしながらノーヴェの話を待っていた。

 

〔あぁ、その……スバルはソラトの何処が好きになったのかって〕

 

 ノーヴェの興味の背景には、アースの存在がいた。アースともっと分かり合うためには、オリジナルであるソラトについても知っておくべきだと考えたのだ。

 

「えっ!? あ……うん、分かった。話すと長くなるけど」

 

 そんなノーヴェの様子を感じ取ったスバルは、一瞬動揺するも優しい表情でノーヴェを見る。

 そして、若干頬を染めつつソラトとの思い出を1つずつ思い出していった。

 

 

◇◆◇

 

 

 スバルとソラトの出会いは正に偶然だった。

 親を亡くし、公園で1人塞ぎ込んでいたソラトを、たまたま遅くまで遊んでいたスバルが見つけたのだ。

 当時、スバルは7歳。ソラトは8歳だった。

 幼いスバルは女の子らしい優しさを持ち、砂場で悲しみに暮れる少年に声を掛けた。

 

「どうして、そんなに悲しそうなの?」

 

 最初は心を閉ざしていたソラトに無視されていたのだが、スバルは放っておくことも出来ず話し掛け続ける。すると、孤独に勝てなかったソラトは胸の内を明かした。

 

「僕は独りなんだ……。父さんと母さんが死んじゃったから……」

 

 ソラトの抱える悲しみに、スバルは驚く。それは理解出来なかったからではなく、同じ悲しみを抱えていたからだった。

 

「私もね、お母さんが死んじゃったの。でも、ギン姉とお父さんがいるから独りじゃないの」

 

 優しい笑顔でそう答えるスバル。大事な人が亡くなったことはとても悲しい。しかし、他にも心の拠り所となる人物がいる。ソラトにも、いるはずだとスバルは思っていた。

 

「僕にはもう誰もいない……。僕は独りぼっちなんだ……」

 

 しかし、ソラトに思い当たる人物はいないようで、再び深く悲しんでしまう。

 目の前で塞ぐ少年に、スバルは何か出来ないか考えた。

 

「私が友達になれば、貴方はもう独りじゃないよ」

 

 そう言って、スバルは自分の小さな手をソラトに差し出す。

 頼れる人間がいないのならば、今作ればいい。笑顔で差し出された手を、ソラトは震えながら掴んだ。

 少年と少女はあの夜出会い、絆を結んだ。

 小さな手のひらに救われたソラトは勿論、スバルにとっても忘れることの出来ない出来事だ。

 以来、ソラトは親戚に引き取られることを拒み、孤児院に自ら入った。理由は、親戚の家へ行けばスバルと会えなくなってしまうからだ。スバルという支えを得たソラトにとって、顔も知らない親戚より優先順位が高かった。

 実はこの時からソラトはスバルに思いを寄せていたのだが、幼いスバルは全く気が付かなかった。

 

 

◇◆◇

 

 

「後でソラトが言ってくれたんだ。あの時、僕は君に救われたんだって」

 

 頬を染めて嬉しそうに語るスバル。救助隊員を目指す彼女にとって、既に1人を救っていたことは誇らしいことでもあったのだ。

 

「でも、実はあの時私もソラトに助けられたんだ」

「え?」

 

 スバルの告白にノーヴェは疑問符を浮かべる。

 2人が出会ったのはスバルが7歳の時。それは奇しくもスバルの母、クイントが殉職した時でもあったのだ。

 心の傷を負ったばかりのスバルは、必死に母親代わりを勤めようとする姉の姿を見て、次第に笑顔を取り戻した。だからこそ、スバルはソラトを放っておけなかったのだ。そして、ソラトという友達と過ごすことで母親を亡くした寂しさを消していった。

 救い救われ、心の隙間を埋め合ったスバルとソラト。2人のエピソードを聞き、ノーヴェはアースとの出会いを振り返る。

 運命の出会いを果たしたところは同じ。違うのは、相手の救いになれたかどうか。偽物としてソラトへの復讐に拘るアースに、ノーヴェは別のもっと明るい生き方があることを伝えられなかった。

 成すべきだったことを果たせなかった事実に改めて気付き、ノーヴェは気分を落ち込ませる。

 

「……ノーヴェ?」

 

 妹の異変に気付き、スバルは声を掛ける。こんな所で余計な心配を掛けたくない。ノーヴェは慌てて、何でもないよう振る舞った。

 

 

 ソラトとスバルは良き友人として、ギンガも交えて遊ぶ機会が多かった。

 だが、2人の関係に転機が訪れる。新暦71年の空港火災事故だ。

 巻き込まれ、1人取り残されてしまったスバルを救ったのは管理局のエースオブエース、高町なのは。バインドで倒れてきた像を止め、砲撃で壁をぶち抜き、少女を抱えて飛び立つ若い女性に、スバルは強い憧れ抱いた。

 弱虫な自分を変えて、強くなりたいと願い始めたのだった。

 入院中、見舞いに来たソラトにもスバルはなのはに救われた時の話をした。憧れの人の活躍をキラキラとした表情で語るスバルに、最初は真剣に聞いていたソラトも段々と影を落としていった。

 

 

「それで、私達は初めて喧嘩をした」

「なっ!?」

 

 スバルの発言にノーヴェは目を丸くして驚いた。普段から常に甘いオーラを漂わせているソラトとスバルが、まさか喧嘩をするとは想像しがたかった。

 

「今思えば、私が無神経だったからかな……」

 

 数少ない苦い思い出にスバルは苦笑する。

 

 

◇◆◇

 

 

 スバルが語るなのはの英雄譚は、ソラトを次第に苛立たせていった。

 勿論、スバルを救ったことに関してソラトはなのはに感謝し足りない程だった。だが、好きな女性の心を占めていくなのはに、ソラトは嫉妬心を募らせていた。

 スバルが何度目かの話をした時、遂にソラトの感情は爆発してしまった。

 

「それでね、なのはさんが」

「なのはさんの話はもういいよ!」

 

 ソラトは慌てて口を押さえるが言ってしまった後にはもう遅い。

 気付けば、スバルは大きく開いた目に涙を浮かべていた。

 

「あ、あれ? 私何で泣いて……」

「ごめんっ!」

 

 ソラトは逃げるように病室を後にする。残されたスバルは、理由も分からないまま泣いていた。

 どうしてソラトは怒ったのか。自分がなのはの話ばかりをするからだろうか。

 

「っ!」

 

 戸が空く音がして、慌ててスバルは涙を拭う。が、相手が誰だか分かると、その手を止めた。

 

「ソラト……!? 手、どうしたの!?」

 

 スバルは喧嘩別れした少年の姿に驚いた。右手はボロボロで血を流し、涙で赤く腫らした顔はスバルをじっと見つめていた。

 

「スバルごめん! さっきは酷いこと言って」

 

 どうしてこうなったのか。スバルが聞く間もなく、ソラトは震えながら謝ってきた。

 驚きつつも、これは自分が喧嘩をしたせいだと思い、スバルも慌てて頭を下げようとした。

 

「う、ううん、私の方こそ、折角お見舞いに来てくれたのになのはさんの話ばっかりで」

 

 スバルが言い切る前に、ソラトは抱き付いてきた。急なことでスバルはまたもや驚き、今度は恥ずかしさで顔を赤くする。

 しかし、泣きじゃくるソラトの様子に気付き、スバルは彼を引き離すことが出来なかった。

 

「怖かった……スバルを失うんじゃないかって。また僕の大事な人がいなくなるんじゃないかって。僕は……僕が君を守りたかったんだ。それが出来ない弱い自分が嫌で、思わず君に当たったんだ……ごめん、スバル」

 

 次から次へ思いを吐き出したソラトを、スバルは母親が子供をあやすように頭を撫でた。

 スバルはやっと分かった。ソラトが自分を大切に想い、とても怖い思いをしていたことに。ソラトだって、必死に心配してくれていたのだと。

 

「私も怖かった。ここで死んじゃったら、お父さんにもギン姉にも、ソラトにも会えなくなるって。けど、あの人が教えてくれたの。泣き虫のままじゃダメだって」

 

 スバルは星空を飛ぶ気丈な女性魔導師を思い出す。弱いままでは、自分も大事な人も守れない。だからあの人のように強くなりたい。

 

「一緒に強くなろう、ソラト」

「うん」

 

 泣き虫だった幼い少年少女達は、この日を境に強くなる決心をした。

 そして、スバルのソラトに対する想いも変化していくことになった。

 

 

◇◆◇

 

 

「思えば、あの時からかな。私がソラトを好きになったのは」

 

 恐怖から感じた弱い自分。そして、喧嘩をしたからこそ知り得たお互いの気持ち。

 スバルは死の絶望からソラトを強く想い、またソラトの本心に触れることでいかに自分が慕われているかを知った。それが、スバルがソラトを意識するきっかけとなったのだ。

 

「で、その時から付き合い始めたのか?」

「ううん」

 

 あっさり首を振るスバルに、ノーヴェは疑問符を浮かべる。

 この時点で両想いであることは確定したのだが、実はお互い天然だったためお互いの恋心に気付かなかったのだ。

 更に、問題はそれだけではない。

 

「ソラトはまだ知らなかったから……私が戦闘機人だってこと」

 

 それを聞いてノーヴェは納得した。今でさえ、戦闘機人に偏見を抱くものは決して少なくない。昔ならば尚のことだろう。

 

「それで、強くなるって誓い通り勉強して、訓練校に入った」

 

 陸士訓練校に入学したのは同じ時期だったが、ソラトは短期プログラムを組んでいたためにスバルより早く卒業した。

 

「私はあの時からギン姉に指導してもらったけど、ソラトは元々騎士を目指してたから」

 

 ソラトは父親が元々近代ベルカ式の騎士で、形見のデバイスが大剣型だったために今のスタイルになったのだ。

 

 

◇◆◇

 

 

 そして、スバルがよりソラトを意識する出来事が起こった。

 ソラトが訓練校を卒業したのと同時期にギンガがエドワードと付き合い始めたのだ。

 当時、スバルは12歳。色恋沙汰に興味を持つ年頃だ。ギンガが結ばれたことはスバルにとって刺激となった。

 

「恋人、かぁ……」

 

 恋愛についてスバルが考えると、すぐに間近な男性であるソラトのことを思い浮かべてしまう。

 

「ソラト……」

 

 確かにソラトは格好良くて優しい。自分のことを慕い、大事にしてくれるし、何よりスバルを守るために強くなるとまで宣言してくれたほどだ。

 しかし、最後にはスバルはソラトと釣り合わないと考えてしまう。その理由は、未だソラトにも明かしていないスバルの秘密にあった。

 

 スバルとギンガは何者かによって造り出された戦闘機人だ。使用された遺伝子が偶然にも救い出した女性、クイントのものだからこそ、親子として通すことが出来た。

 この事実を知っているのは父親であるゲンヤ、メンテナンスを行ってくれる技術官マリエル、そして恐らくはエドワードのみである。

 人であって人でない身体を受け入れてくれるものはそういないだろう。もし、ソラトが拒絶してしまえば、今までの関係諸共崩れ去ってしまう。このような、スバルの内気な考えが告白の決意を鈍らせていた。

 

 最終的な転機は、何度目かにエドワードと会った時だった。エドワードはソラトのことも知っているし、ギンガの身体のことも受け入れた。

 遂にスバルは、恋の悩みをエドワードに相談した。

 

「……怖いのか」

「うん……それで、避けられたらどうしようって」

 

 エドワードは静かにスバルの悩みを聞いていた。

 膝を抱える少女の姿を、自分の彼女と重ねる。あの日、エドワードが告白した時もギンガは似たような表情をしていた。好きな人に受け入れられるか不安を抱える顔。

 

「ソラトは避けたりしない」

 

 エドワードは真っ直ぐに生きる、弟のような少年を思い浮かべながら話す。

 誰よりもスバルを愛したソラトが、今更そんなことで拒絶するはずがないと、確かな自信を持っていた。

 

「お前やギンガのことを家族のように思っている。それはスバルも知ってるはずだ。だから、好きになったんだろう?」

 

 付き合いの短いエドワードにそれ以上の言及は出来なかったが、ソラトがスバルのことを話す時に嬉しそうな笑顔をすることは知っていた。

 

「……うん」

「なら、するべきことは1つ、だ」

 

 小さく頷くスバルにエドワードは答える。

 心の隙間を埋め合ったソラトが、今になって戦闘機人だからという理由でスバルを拒む訳がない。

 自分を守ると言ってくれたソラトを信じるために、スバルは立ち上がった。

 

「うん。ありがとう、エド兄」

 

 漸く決心が着いたスバルはエドワードに礼を言って、ソラトを呼び出した。2人が初めて出会った公園に。

 

 月明かりが照らす公園。一足先に到着していたソラトは、初めて会った時と同じように砂場にしゃがんでいた。

 陸士108部隊の隊舎から公園まで走って来たスバルは、息を切らしながらソラトに近付く。

 

「懐かしいな。ここで君と出会ったんだ」

 

 先に口を開いたのはソラトだった。月明かりを背に立ち上がり、呼び出したスバルを見つめる。

 息を整えたスバルも、昔を思い出しながら話し始める。

 

「うん。あの時、貴方は泣いてたね」

「あはは……そんな小さかった僕を救ったのは君だよ、スバル」

 

 普段の何処か幼さを残した純粋な少年でなく、凛々しい男性の雰囲気を纏っている。

 あの時、蹲って泣いていた子供はもういない。1人の騎士として成長したソラトの姿に、スバルは顔が熱くなった。

 

「そ、そんな凄いことしたかな?」

「したよ。スバルがいなかったら僕は……だから今でも感謝してる」

「私も、ソラトにはいつも助けてもらってる。ありがとう」

 

 肌寒い夜の空気にも関わらず、2人の体温は上昇していく。

 

「だから、言わないといけないことがあるの」

 

 スバルは一瞬躊躇いの表情を浮かべたが、ソラトの優しい笑顔を見て勇気を振り絞った。

 

「私は……私とギン姉は、戦闘機人なの!」

 

 スバルの告白にソラトは声も上げずに驚く。しかし、すぐに元の笑顔に戻った。

 

「関係ないよ、そんなの」

「っ!」

「スバルはスバルだし、ギン姉はギン姉。2人とも、僕の大切な幼馴染」

 

 俄かには信じがたい事実にも関わらず、ソラトはスバルの言葉を信じ、尚且つ受け入れた。聞きたかった答えに、スバルは泣きそうになる。

 ソラトもまた頬を染めながら、高鳴る胸を抑えつつ話し出した。

 

「出会った時から、僕は誓ったことがあるんだ」

 

 ゆっくりとスバルに近付き、右手をそっと差し出す。昔、スバルがソラトにしたように。

 

「君をずっと守る。僕は君だけの騎士になる。だから、どんなスバルでも受け入れられるよ」

 

 差し出された手を、スバルは震えた手で握る。すると、彼女の手を引いてソラトはスバルを抱き締めた。

 

「……もう泣いていいよね?」

「うん。いいよ」

 

 大好きな彼の胸で、スバルは堪えていた涙を流した。それは嬉しさから来るものだがら、今は泣き虫でも構わない。

 月夜の公園で2人は抱き合っていた。秘密を明かしたことで、絆がより強く結ばれたことを確かめながら。

 

 

◇◆◇

 

 

「以上が、私とソラトの成り初め」

 

 支え合い、時に喧嘩をして本心を打ち明けたからこそ、今の仲睦まじい恋人関係が保たれている。

 話を聞いたノーヴェは、やはりアースについて考えていた。

 果たして自分は本当に彼の本心を分かっているのか?

 

「参考になった?」

「あ、あぁ……サンキュ」

 

 とはいえ、姉の惚気話は予想以上に甘かったようで、ノーヴェはブラックコーヒーを用意すべきだったと少し後悔していた。

 

「ノーヴェもきっと大丈夫だから、頑張ってね」

 

 それだけ伝え、スバルは妹との回線を切った。

 長い話を終えて一息吐く。ふと思い浮かべるのは、やはり大好きな彼の姿だった。

 

 翌朝。

 いつも通り、ソラトは魔力負荷を掛けた早朝マラソンをしている。そろそろ体も馴染んできたので、負荷を上げようかと考えていた所だった。

 

「ソラトー!」

「えっ?」

 

 そんな時、背後から呼ばれたので足を止めずに振り返る。

 そこには、いつものトレーニングウェアを着て同じように走っているスバルがいた。

 

「スバル、珍しいね」

 

 ソラトの早朝トレーニングはあくまで自主練習だ。普段はいないはずのスバルにソラトは驚く。

 

「うん、ちょっとソラトと走りたくなったから」

 

 健康的な汗をかき、可愛らしい笑顔で答えるスバルに、ソラトは顔を真っ赤にする。

 

「ほら、置いて行っちゃうよ!」

「ま、待ってよ!」

 

 いつの間にか先を越しているスバルに、ソラトは慌てて追いかける。

 魔導師と騎士の若い恋人達は、今日も同じ道を走っていく。

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