機動六課の業務は日が暮れた後でも行われる。いつ、何処で獣人が現れるか、分からないからだ。
「クラナガンC地区に獣人が出現しました!」
現に、獣人はミッドチルダの首都クラナガンにて暴れていた。
現場映像を見ると、理性がないタイプのようで手当たり次第に暴れている。背中にある2つのこぶと体の色からラクダの獣人であることが分かる。
更に、上空にはネオガジェット・タイプBが編隊を組んで飛んでいる。まるで獣人の行動を監視しているかのようだ。
「はやてちゃん、どうする?」
ラクダ獣人の出現に対し、なのはがはやてに指示を仰ぐ。
相手は獣人だが、理性がないので野生の魔獣と変わらず、敵の数から特に苦戦するような事態でもない。
「うーん、じゃあなのはちゃんとフェイトちゃんでサクッと行こうか」
今は夜中であり、フォワード達も訓練で疲れていることを考慮したはやては、各分隊の隊長2人に出撃指令を下す。
「ヴァイス陸曹、ヘリの方は?」
〔いつでも飛べますぜ〕
隊舎屋上のヘリポートでは、既にヴァイスが輸送ヘリコプターの準備をしていた。
空戦魔導師の無駄な魔力の消費を抑える為に移動の際はヘリコプターを使用するのが一般的だ。
今回の件はすぐに終わる。この時は、六課の誰もがそう考えていた。
一方で、陸士315部隊の方にも獣人出現の通報は届いていた。
しかし、はやてから六課が収拾に当たると連絡を受け、待機することとなった。
「他の地区にも現れるかもしれない。警戒態勢は続けておけ」
「はい!」
ラウムは現場と、他の地区の様子を確認しながら冷静に指示を下す。
しかし、オーバーSランク2人が出撃したと聞き、警戒するように言ったラウムですら、すぐに終わるものだと見ていた。
ヘリが現場の付近まで飛行すると、なのはとフェイトはすぐにデバイスを起動。バリアジャケットを構築し、開いたハッチから一目散に飛び出した。
「獣人は私が」
「うん、お願い」
電光を纏い、猛スピードでラクダ獣人の元へ飛んでいくフェイト。
ショートレンジでの高速戦闘を得意とするフェイトなら、獣人を無意味に暴れさせることもなく倒すことが出来る。
一方で、多数の射撃魔法を操るなのはならば、編隊を組んだ空戦兵器を一網打尽に落とせる。
お互いの得意分野を瞬時に判断し、任せることが出来るのも、付き合いの長いコンビである証拠だった。
◇◆◇
「ここまでは順調だな」
マラネロの研究所では、黒髪に山吹色のメッシュを入れた、一番背の低い男がネオガジェットから送られた映像を見て話す。
実は今回のラクダ獣人の襲撃は、戦力を分断するための囮だった。別働隊は現在研究所にて待機中だが、直に戦地へと転送される。
「まさかSランクが2人もいなくなってくれるとは……好都合だ」
今回の作戦の立案者、ロノウェ・アスコットはキーボードを操作し、転送装置を作動させる。マラネロ作の転送装置にはジャマーが張ってあり、逆探知不可能となっている。
「それじゃウィネとエリゴス、準備は?」
「いつでもいい」
「我輩も、別に構わん」
ロノウェの言葉に返答したのは、ライトブラウンの長髪を一纏めにした、落ち着いた様子の細身の男と、パーマが掛かった黒髪を持ち、やる気のなさそうに構える男。
「フォラス、それとアースは?」
「待ちくたびれて死にそうだ」
ウィネ達と別の方向には、先程の山吹色のメッシュを掛けた男、そしてアースが待機していた。
アースだけは何も言わず、ロノウェを一睨みする。
「さぁ、行こうか」
ロノウェは転送装置を作動させ、自分達を別の場所へと送り込んだ。
転送装置を管理していると思われるモニターには、機動六課と陸士315部隊の隊舎付近の位置情報が記されていた。
◇◆◇
「た、大変です部隊長! 5時の方向から敵が攻めてきました!」
侵略者にいち早く気付いたのは、315部隊の方だった。
監視カメラに映っていたのは、ネオガジェット・タイプAの軍勢。加えて、昆虫のような外見の獣人だった。
「前衛に連絡。すぐに出撃させろ」
敵の圧倒的な数にも恐れを見せず指示をするラウムに、オペレーター達は警戒を解かなくてよかったと内心ホッとしていた。
「戦況次第では、俺も」
「ダメです」
ラウムは懐から懐中時計型デバイス、ガーゴイルを取り出して指令席を立とうとしたが、チンクに先に肩を掴まれてしまう。
「ラウム殿は司令官なんですから少しジッとしていてください」
「し、しかし」
「言い訳もダメです」
ラウムはフェイトやシグナムのようなバトルマニアでは決してない。しかし、時折自分の立場や命すら考えず、仲間の為に前へ出ようとする癖があった。
そんなラウムの悪癖をチンクは許そうとしなかった。
自ら選んだ補佐官に強く出られ、ラウムは渋々席に座る。そんな2人のやり取りが、周囲には痴話喧嘩に見えたとか。
隊舎前では、ギンガ率いる前衛部隊が作戦会議をしていた。
「隊舎はチンクとラウム一尉がいるから、私達は敵を食い止めることを最優先に考えるわ」
敵の急襲が故、ギンガは急ぎ足で防衛プランを話した。
「敵は5時方向の1点から来てるから、まずは正面をA班が対応。その隙にB班が右側、私達C班が左から挟んで殲滅。これで行くわね」
ギンガの立てた作戦に全員異論はなかった。
遠距離タイプのディエチ含むA班は挟み撃ちより待ち伏せの方が力を発揮できる。
機動性に優れたライディングボードを保有しているウェンディならば、攻撃力を持つ陸士を運べるので挟撃には最適だろう。
毎度のことながら、姉としても捜査官としてもベテランであるギンガのテキパキとしたリーダーシップにノーヴェは驚いていた。
◇◆◇
機動六課側でも敵の襲撃に気付いていた。
敵は陸士315部隊側と同じくネオガジェット・タイプAの大群に、馬の外見に縞模様の付いた獣人。そして、不気味に笑いながら大群の後ろを歩く怪しい白衣の男だ。
マッハキャリバー、そして自前のバイクという足を持ったスバルとソラトを先行させ、残ったメンバーはエドワードの車で移動することとなった。
「いい? 無茶はしないでよ」
〔大丈夫だよ、ティア〕
〔うん、任せて!〕
六課フォワード陣の司令塔であるティアナは、先行する2人に無理のないよう注意し、車の中で作戦を練った。
注意すべき敵は正体不明の男とシマウマの獣人。スバル、エリオ、ソラトを当てるとして、残った後衛組でネオガジェットを足止め出来るかどうかだ。
隊長陣の内1人でも戻って来れれば平気なのだが、これも敵の戦略の内ならば期待は出来ない。
加えて、副隊長達も前線に回すべきなのだろうが、もし敵の目的が六課の陥落なら隊舎を守る人間が必要だ。
つまり、今回は自分達でどうにかすることを考えねばならない。
「エリオ、キャロ、エドさん。私達は出来ることをやるわよ」
「「はい!」」
「ああ」
3人共、ティアナを信頼して頷く。先行したスバルとソラトも同じ考えだろう。
この難しい戦況に、ティアナは勉強と経験で得た知恵を振り絞った。
一方、ソラトと分かれ、森の中を移動するスバル。バイクと違い小回りが利くマッハキャリバーなら、道路横の森林地帯を抜けて奇襲を掛けられるからだ。
「もうすぐ敵の……っ!?」
木々を避けて進むスバルだったが、右側から来る殺気を感じ取りガードを張る。
その瞬間、猛スピードで何かが特攻を仕掛けてきた。ガードを張っていたおかげでダメージはないが、勢いに押されて弾き飛ばされてしまう。
「誰だ!?」
上手く着地し、相手を睨むスバル。しかし、相手が誰か分かると目を見開いた。
「お前は、タイプゼロ・セカンドか」
殺気の正体はアースだった。
アースも意中の相手ではなかったために若干の驚きを見せている。
「違う! 私は、スバル・ナカジマ!」
タイプゼロと呼ばれることを嫌悪し、スバルは叫ぶ。
相手は妹が好いている人物であり、恋人の命を狙う者。その恋人と瓜二つの顔を持つことも相俟って、スバルにとっては複雑な相手だった。
「まぁいい。お前には回収命令が出ている」
そんなスバルを意に介さないアースは、あまりやる気を見せない様子でベルゼブブを構える。
「……それに、アイツをおびき寄せる餌にもなりそうだ」
が、何かを思いついた途端目の色を変える。スバルをソラトの釣り餌として見なしたようだ。
あくまでソラトしか狙っていないアースに、スバルはノーヴェを想い苦い顔をした。
「貴方をソラトの元へは行かせない! 貴方は私が止める!」
ソラトとノーヴェの為、そしてアース自身の為、スバルはリボルバーナックルのギアを唸らせる。
数瞬後、夜の森の中で水色と紅の光がぶつかり合った。
スバルがアースと戦っていることを知らずに、ソラトは目標の場所へと一足先に辿り着いた。
ソラトの視線の先、六課隊舎からクラナガンへ向かうまでの道路をネオガジェットの大群が埋め尽くしている。夜の暗い道を機械兵のアイカメラの不気味な光が蠢く、奇妙な光景にソラトは息を呑んだ。
「こちらソラト。最前線に到着、敵の数は……数えきれないくらい」
一先ず、司令塔であるティアナに報告する。しかし、スバルが一向に来ないことをソラトは不思議に思った。
〔こっちもすぐに到着するわ。それまで、足止めお願い〕
「了解!」
ティアナの指示を受けると、ソラトは一旦スバルへの心配を置いておき、バイクのアクセルを蒸かす。
そして、猛スピードでネオガジェットの軍団へ向かって行き、直前まで近付くと車体を傾けてドリフトしながら最前列に体当たりを仕掛けた。
防ぐことも出来ず、何体もの機械兵が宙を舞う。速度が落ちてきたところで、後輪を敵にぶつけながらバイクを反対方向に向け、来た道を逆送する。
「手荒い歓迎だね、ソラト・レイグラント」
ある程度距離を取ったところでバイクを停めてヘルメットを外すと、集団の中から白衣の男が前へ出て、ソラトに話しかけてきた。
ニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべ、鈍く光る金色の瞳は目の前の敵を見下しているように細められている。
「貴方は、マルバス・マラネロの協力者ですか?」
「協力者? そんな軽い存在じゃない」
ソラトの質問に、男は隠す素振りもなく答える。
「僕の名はロノウェ・アスコット。ドクターマラネロの弟子さ」
マラネロの弟子。その肩書が、目の前の人物にどれだけの危険度を孕ませているのか、ソラトは瞬時に理解した。
事件の黒幕、マルバス・マラネロは獣人を始めとした違法な研究、開発に手を出している。ならば、そんな男の弟子と名乗るロノウェも、幾度となく禁忌の生態研究に手を染めて来たのだろう。その犠牲者が、自身の恋人や分身なのだ。
命を弄ぶ犯罪者達への怒りで、ソラトは大剣を握る手を震わせる。
「そうか……じゃあ、逮捕してから情報を吐いてもらう!」
ソラトは不敵に笑う科学者へデバイスを構え、斬りかかって行った。
◇◆◇
315部隊側では、敵と接触したディエチ達A班が交戦していた。
「キリがねぇっと!」
「一体何機いやがんだ」
茂みに隠れた狙撃タイプの隊員達がぼやく。
ネオガジェットも旧型同様AMFを搭載しているので、威力の弱い魔力弾では掻き消されてしまう。加えて、いくら撃っても減る気配のない数に、途方に暮れていた。
「そこ、グダグダ言わない」
そこへ、別の茂みの中からディエチが注意する。
ディエチは巨大な狙撃銃、固有武装"イメーノスカノン"を構え、1体1体を打ち抜いていた。戦闘機人であるディエチは魔法ではなくIS"ヘヴィバレル"を使用しているので、AMFの干渉を受けていないのだ。
しかし、突然火の玉がディエチ達に襲いかかってきた。
「おっと!」
すぐさま、弓矢型のデバイスを持った隊員が火の玉を打ち落とす。
火球を放ったのは獣人だった。虫のような外見にお尻の先が光っているところを見ると、ホタルの獣人らしい。
「ホタルが火を放つかよっ!」
尤もな突っ込みを入れつつ、ホタル獣人の口から放たれる火球を矢で落としていく。
しかし、獣人にばかり構っている訳にはいかない。ネオガジェットも、アイカメラからレーザーを放って攻撃してくる。
「やああああっ!」
その瞬間、ネオガジェットの横の茂みから、猛々しい雄叫びと共に近代ベルカ式の魔導師達が飛び出してきた。
槍型のストレージデバイスは、一番装甲の薄い関節部分を貫き、一撃で機械兵を行動停止にする。
「大丈夫ッスか!?」
急襲と同時に、ディエチの元へウェンディからの通信が掛かる。ギンガの立てた挟撃作戦は成功したようだ。
更に、逆方向からは遅れて到着したギンガとノーヴェがガジェットの軍勢を一気に蹴散らし、ホタル獣人に向かって行く。
同じ遺伝子を持つ姉妹は息の合った動きで火球を避け、ローラーブーツによる蹴りを怪物の身体にぶつけた。
挟み撃ちにより、形勢は一気に有利になる。しかし、ギンガとノーヴェは何かの異変に気付いて周囲を見回す。
「おかしい……いくら倒しても、敵の数が減らない」
「チッ、どっから湧いてるんだ!」
倒していく傍から、ネオガジェットの数が増えているような気がしていたのだ。
しかし、今は戦わなければならない。襲い来る獣人の火球をかわし、ギンガ達は向かってくるネオガジェットを潰していった。
「必死だねぇ」
315部隊の前衛陣が必死に戦っている様子を、枝の上から白衣を纏った山吹色のメッシュの男と、同じく白衣を纏い、長髪を一纏めにした男が笑みを浮かべながら眺めていた。
まるで、相手に終わりのない作業を強いているとでも言いたげな風に。
◇◆◇
六課隊舎の上空。
フォワード達が戦っている位置とは反対方向から近付く影が1つ。正体は、やはり白衣を着た男だった。
どうやら、前衛部隊が交戦している隙に、隊舎に忍び込むつもりのようだ。
「そこまでにしておけよ」
ゆっくりと六課へと向かおうとするが、不意に声を掛けられ動きを止める。
声はその人物の上から聞こえた。視線を向けると、炎のような赤いジャケットを着た少女、ヴィータが月を背に鉄槌を担いでいた。
「貴様らの目的を大人しく話せば、手荒な真似はしない。が、刃向えば……分かるな?」
更に、男の背後には桃色のスカートとポニーテールを夜風に靡かせた美女、シグナムが凛々しい口調と圧倒的な威圧で侵入者に警告する。
武器を持ったヴィータと比べると無防備にも見えるが、左手は剣の収まった鞘をしっかりと握っており、怪しい動きを見せたなら即斬り捨てられるように構えている。
しかし、あまりにも不利な状況にも関わらず、白衣の男は顔色一つ崩さない。
「集団戦など興が乗らないと抜けて来たが、正解だったようだ」
パーマの掛かった黒髪とやる気のない態度は、何処にでもいそうな若者を思わせる。
しかし、そんな抜けたイメージ払拭するかのように、男は一気にシグナムに振り向き、いつの間にか持っていた剣を振り抜いて来たのだ。
予想外の対応にも、シグナムは冷静さを失わず、愛剣"レヴァンティン"を鞘から抜いて刃を交えた。
「テメェ!」
ヴィータも黙っておらず、男に鉄槌型アームドデバイス"グラーフアイゼン"を叩き付ける。
一撃は男の頭部を確実に捕えていた。ヴィータも手応えを感じていた。
「吾輩の目当ての品に相見えるなんてな」
グラーフアイゼンは男の頭部を捕えたまま、動いていなかった。防御魔法を使った形跡もない。鉄の騎士の鉄槌を、文字通り頭で受け切ったのだ。
ヴィータの一撃は、数多くいるベルカ騎士の中でも間違いなく高い。それを頭で受け止めるなんて、普通の人間なら有り得ない。
「お前は、一体!?」
驚愕するヴィータが吠える。よく見れば、男の全身は変化していた。
白衣を纏っていた身体は全体的に黒く、甲冑に覆われたようなデザインになっている。
腕や足には先程まではなかったはずの突起が複数存在し、背中に至っては羽根のようなものまで見える。
そして、鉄槌を止めた頭部は身体同様に黒く、異形のものに変わっていた。顎は中央で別れ、頭頂部と後頭部には角まで生えている。
身体的特徴を総合的に見れば、カブトムシによく似ていた。
「我輩はエリゴス・ドマーニ。ドクターマラネロの弟子だ」
エコーの掛かった声を顎の割れた口から放ち、カブトムシ獣人こと、エリゴスはグラーフアイゼンをヴィータごと頭の角で振り払った。
機動六課と陸士315部隊に攻め込んで来た、マラネロの弟子達。
目的も謎も明かされぬまま、彼等との激戦が始まって行った。