魔法戦記リリカルなのはWarriorS   作:雲色の銀

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第28話 狙われたエース・オブ・エース

 手記 聖王の器とエース・オブ・エースの能力について

 著者 ウィネ・エディックス

 

 今回、私が調査する内容は、ドクタージェイル・スカリエッティが復元させた、古代ベルカの聖王のクローン、通称「聖王の器」、そして管理局のエース・オブ・エース、高町なのはのポテンシャルである。

 

 聖王の器は、本来はドクタースカリエッティが発見した、聖王のゆりかごの起動キーの役割を持って生み出された。

 しかし、器自体の能力値も当時の聖王の通りであり、聖王の印である紅玉と翡翠のオッドアイに虹色の魔力光は勿論、固有能力「聖王の鎧」の発動も確認されている。

 聖王は人工物といえど、内に秘められた能力はゆりかご抜きにしても計り知れない。聖王の器を手に入れ、肉体データを分析すれば、聖王を量産することも出来る。それどころか、聖王の力のみを抽出し、我が物に出来るかもしれない。

 

 もう一つ、管理局のエース・オブ・エースの名を与えられた、ある魔導士についても着目してみた。

 高町なのはは、第37管理外世界「地球」の出身である。この世界は魔法文化が未発達で、生命体のほとんどがリンカーコアを持たない。

 そんな世界において、彼女の存在は貴重であり、弱冠10歳という年齢で魔法を開花させ、同時にPT事件、闇の書事件を解決に導いている。その後、任務中に撃墜。長いリハビリの末に再起し、現在は教導官として勤務中である。

 この並の局員とは比べるべくもない経歴に、何もないと思う方が無理である。このエースには、肉体レベルで才能が身に付いているのかもしれない。彼女の遺伝子に眠るポテンシャルもまた、研究価値に値する。

 

 幸い、聖王の器は「高町ヴィヴィオ」という名で、高町なのはの養子となっている。私の獲物は、同じ場所にいるという訳だ。未知の研究をすべく、私はこの獲物を一網打尽にする。

 

 

◇◆◇

 

 

 マラネロの研究室では、フォラスに続く二番手として、ウィネ・エディックスが獲物を狩る計画を練っていた。

 彼の目当ては、古代ベルカ時代に存在した王の1人"聖王"のクローンとして生まれた少女。現在では、高町ヴィヴィオという名で日常生活を送っている。

 そして、もう1人はそのヴィヴィオの母親であり、機動六課の教導官を務める高町なのはだった。

 

「動くな」

 

 過去のなのはとの戦闘を映像で見ていたウィネは、画面を向いたまま突如言葉を発する。

 その背後には気怠そうな様子の科学者、エリゴス・ドマーニが立っていた。

 

「ここで何をしている?」

「準備が面倒だから、今から始めようと」

 

 お互いに顔は向けていないが、牽制し合い、一触即発の空気を作る。

 ウィネは、この気怠そうな男が苦手だった。冷静に物事を進めるウィネにとって、エリゴスののらりくらりとした態度は読み辛かったのだ。かといって、エリゴスも無能ではない。頭も冴え、フォラスのように挑発に乗りやすくもない。

 対するエリゴスにとっても、ウィネはあまり好ましい相手ではない。知的で気を張った性格のウィネは、自分の興味外のことについて怠惰的なエリゴスには取っ付きにくかった。

 

「私の番が終わってからにしてくれるか?」

「準備だけなら、いいだろ?」

 

 遂に睨み合い、両者の間に火花を散らす。

 いつの間にか右手にはそれぞれの武器が握られ、2人は今にも衝突しそうだった。

 

「……邪魔だけは、しないように」

「あーい」

 

 だが、今回はウィネの方が折れ、エリゴスは軽い返事をして別の機材を弄り出した。

 もしここで争えば襲撃前に体力を無駄に使ってしまう上、計画を練る時間も無くなってしまう。どちらが得かを考えた末の決断だった。

 

「……さてさて、どちらが成功してどちらが失敗するかな?」

 

 2人の危険人物を見物しながら、タイプゼロ・フォースは愉快そうに呟く。ウィネやエリゴスと同様、彼にもまた違う思惑があるようだ。

 底の見えない科学者達は一番手(フォラス)が捕まったにも拘らず、機動六課に次なる魔の手を着実に伸ばしていた。

 

 

◇◆◇

 

 

 機動六課司令室では、先日逮捕したフォラス・インサイトの取調べを行っていた。

 フォラスは、現在第17無人世界にある"ラブソウルム"軌道拘置所に収監されている。所内には高濃度のAMFが張り巡らされ、フォラスの無力化に成功していた。

 

「貴方の協力次第で、罪状に酌量の余地が生まれます。私の質問に正直に答えてください」

 

 部屋の中で囚人服を身に纏っているフォラスへ、はやての声だけが届けられる。獣人化を封じているとはいえ、直に会って取調べすることは危険なので司令室と拘置所間を通信で繋いで行っていた。

 

「さぁ、どうしようかな。別に喋ってもいいことと、喋りたくないことがあるからな」

 

 収監されているにも関わらず、フォラスは不敵な笑みを浮かべている。フォラスの様子は司令室から見ることが出来たので、不遜な態度に全員が怒りを抱いていた。

 

「では、貴方達の目的については?」

「嫌だ」

 

 はやてが慎重に質問するが、フォラスはきっぱりと斬り捨てる。

 

「マルバス・マラネロの素性については?」

「んーん」

「貴方達のアジトは?」

「さぁー?」

 

 次々と投げかけられる質問にフォラスは意地の悪い笑みを見せるのみで、真面目に答えようとしない。

 主導権を握って楽しむ性格は相変わらずのようだ。

 

「では、獣人について詳しく教えて頂けませんか?」

「ほぅ、それならいいぜ」

 

 まともな情報を聞き出すことに諦めを抱いていたはやてだったが、獣人の話となるとフォラスは食いついて来た。

 獣人の実態には謎が多く、理性のある個体とない個体がいることと、証拠隠滅用に体内に自爆装置を仕込まれていることぐらいしか判明していない。

 

「獣人は、ドクターマラネロが生み出した、新たな生命体さ。スカリエッティの人造魔導師の技術を応用し、獣の遺伝子を組み込むことで誕生した。その誕生の仕方は2通り。1つは、先天的に遺伝子を組み込んで、獣人として生み出す方法。そして、もう1つは、元々いる人間に後天的に組み込む方法だ」

 

 フォラスの説明に、話を聞いていたフォワード達は以前戦った、サソリ獣人を思い出していた。

 元々は教会騎士"レクサス・インフィーノ"の家に仕える執事だったのだが、ある薬を自ら注入した結果、獣人化し理性を失ってしまったのだ。

 

「俺達は師匠に後天的に遺伝子を組み込んでもらい、獣人化に成功したんだよ。最近じゃ、その装置も必要としない獣人化薬を作ってるって聞いたけど」

「それを使った人を知っています」

「へぇー。でもダメだったろ? まだ失敗作だって聞いてたし」

 

 人の命を何とも思わない口ぶりに、エリオは怒りの目を向ける。フォラスを倒したのはエリオだったが、変わらない憎らしさにもう一度殴り飛ばしたい衝動に駆られていた。

 そんなエリオの様子にも気付かず、フォラスは勝手に話を進めた。

 

「んで、獣人になるのにも獣の遺伝子と適合する素質がいてな。特に後天的に埋め込むのは死ぬ確率が高いんだよ。実際、どっちの方法でも何体もの被検体がスクラップになった」

 

 マラネロの研究成果である獣人の裏に、数えきれない程の犠牲があったことを知ったはやて達は、改めて悪魔の所業に戦慄する。

 

「けど、それで終わりじゃない。獣人化しても、知能を獣の本能に食われて理性を失うことがまた多かった。アンタ等が散々始末してくれてる出来そこないね」

 

 咥えて、今まで戦ってきた獣人ですら出来そこない扱いであった。本能しか残らなかった獣人は尖兵として使っていたに過ぎなかったのだ。

 

「で、理性が残ったらおめでとう! とは行かないんだなぁ。更に進化の先があるんだ。獣人の肉体が慣れてきたら、身体の構成を自在に操ることが出来るようになるんだよ。俺達みたいに」

 

 ここまでの説明から、理性の残ったものが獣人の完成形だとはやて達は思い込んでいた。

 しかし、獣人の最終進化は肉体を人間態と獣人態に自在に変化させることが出来るらしい。その最終進化に辿りついたのが、マラネロの弟子達である。

 

「獣人は進化する生命体だが、ここまでの進化は貴重だ。つまり、俺達は選ばれた存在だってことだよ!」

 

 自らの存在を貴重と称し、高笑いするフォラス。

 漸く明かされた悪魔の研究の詳細に、機動六課のメンバー達は驚きと憤りを隠せなかった。

 弱肉強食、という言葉があるが、獣人の進化は正にその通りだった。但し、マラネロの身勝手な研究によって被験者達の命は弱肉強食を強いられている状態だが。

 

「んで、他には?」

 

 説明し終えたフォラスは、偉そうな態度を崩さずに次の質問を要求する。

 敵の核心に触れる質問は答える気がないようなので、はやてはこの質問で最後にしようと思っていた。

 

「では、最後に……そちらのセブン・シンズ、どのくらい集まってますか?」

「5つ。残り2個で揃っちまうよ」

 

 発券の難しいロストロギアを既に半数以上も集めていたことに、はやて達はまた驚かされる。残りたった2個を奪われてしまえば、何が起こるか分からない。

 

「あ、それと……そこに高町なのははいるか?」

「は、はい」

 

 ふと、唐突にフォラスはなのはを指名する。

 まさか呼ばれるとは思ってもいなかったなのはは、呆然としながらも返事を返す。

 

「アンタと八神はやて。そして、タイプ・ゼロ。お前等、他の連中に狙われてるんで精々気を付けるんだな」

 

 最後にフォラスが残した情報。それは、フォラスがプロジェクトFの残滓を狙っていたのと同様に、なのは達もまた狙われているという事実だった。

 衝撃的な真実に、はやて達は本日何度目かの驚きの声を発する。特になのはは自分が狙われている理由が全く分からず、疑問符が頭に浮かぶばかりだ。

 

「どうして、今のことを教えてくれたんです?」

 

 思いがけない情報を自発的に教えて来たフォラスに、はやては理由を問いただした。

 役に立つ情報を殆ど教えようとしかった男が何故、今更自分の仲間が不利になるようなことを教えるのか。

 

「俺はここでリタイヤだし、ただ単に他の連中が好き勝手するのをここで黙って見てるだけってのも腹が立つんでね。ドクターの邪魔にさえならなきゃいいんだよ、俺は」

 

 想像以上にフォラスは仲間意識と言うものが薄い男だった。

 リタイヤと自分で言っていることから、助けに来る可能性は限りなく低いのだろう。だからといって、他の弟子の邪魔を平気でするものだろうか。

 

「信じる信じないはご自由に」

 

 通信が切れるまで、フォラスは薄気味の悪い笑みを浮かべていた。

 

 

◇◆◇

 

 

 無限書庫。時空管理局本局にある、世界のあらゆる記録の詰まった巨大な書庫である。

 多くの部署からの資料依頼に、今日も司書達は無重力空間の中を奔走していた。

 

 そんな無限書庫を纏める司書長"ユーノ・スクライア"はもう一つの所属先であるミッドチルダ考古学士会への論文を仕上げつつ、検索魔法で依頼された資料の情報を引き出していた。

 10歳の時から司書として働いていたユーノは元々頭もよかった為か、司書として人間離れした能力を持っていた。仕事は常人の数倍は熟せ、人当たりもよく、おまけに中性的な美形の好青年。管理局の、特に女性局員たちにとってはかなり人気の高い人物だった。

 そんなユーノの元へ、一通の通信が掛かってきた。相手は一般の回線を使っているので、どうやら管理局の人間ではない。

 

「はい?」

〔すみません。そちら、ユーノ・スクライア様でお間違いないでしょうか?〕

 

 聞こえてきた声は若い男性のものだが、ユーノには聞き覚えがない。

 勧誘なら仕事場にまで掛けてくる訳はないが、相手は明らかにユーノへ掛けて来ている。

 

「そうですが……」

〔私、高町家ホームキーパーのアイナ・トライトンの代理の者でして、ご連絡を差し上げました〕

 

 怪しさの溢れる人物だが、アイナのことはユーノも知っていた。

 かつては機動六課の寮母をしていた人物で、なのはとその養娘ヴィヴィオの強い要望で高町家専属のホームキーパーに転職したのだ。

 しかし、アイナの代理ならそもそも雇主のなのはに連絡をするべきではないか。ユーノは通信相手への疑念が未だ残っていた。

 

「そうですか。何故、僕に連絡を?」

〔はい、本日病欠のトライトンにお聞きしたところ、高町様と一番親しい人物がスクライア様と伺いましたので予めご連絡を差し上げました〕

「はぁ……」

 

 アイナの代理が必要な理由と自分にわざわざ連絡してきた理由が一気に答えられ、ユーノは肩透かしを食らった気分だった。

 

「あのー、アイナさんは大丈夫なんですか?」

〔はい、本人はただの風邪だと申してましたので。ただ、勤務中のことでしたのでベッドはお借りしています〕

「分かりました。お大事にと伝えてください」

 

 どうやら、アイナは高町家で寝ているようだ。

 通信を切ったユーノは、お見舞いにでも行った方がいいかもと考えていた。

 

 

◇◆◇

 

 

 日も暮れ、機動六課の教導も漸く終わりを迎える。

 普段ならフェイトと同室の寮で夜を過ごすなのはだが、今日は違った。

 

「アイナさんが風邪ならしゃーないな」

「ゴメンね」

 

 アイナが風邪で寝ていると代理の人間に聞いたなのはは、今日だけ自宅に戻ることにした。

 自分が抜けることで、真夜中に襲撃を受けるのではないかと心配するなのはだったが、はやては心配ないと優しい笑顔を向ける。

 

「気を付けて」

「うん。また明日」

 

 少し申し訳なさそうに家路に着くなのは。

 基本的に、休日以外は家を空けるので、なのはにとっては久々の我が家になる。

 

「ただいま」

 

 きっとヴィヴィオが迎えてくれるだろう。そう思って玄関を開けたなのはは、咄嗟に今日フォラスが言っていたことを思い出した。

 

『お前等、他の連中に狙われてるんで、精々気を付けるんだな』

 

 次の瞬間、その言葉通りの光景がなのはの眼に飛び込んできたからだ。

 

「お帰りなさいませ、エースオブエース」

 

 にこやかに自分を迎えたのは愛娘ではなく、ライトブラウンの長髪を一纏めにした白衣の男。

 そして、椅子に縛り付けられた状態のアイナとヴィヴィオだった。

 

「ハウスキーパー代理のウィネ・エディックスです。代金は貴方と娘さんでお願いしますよ」

 

 怪しく微笑む次の刺客は、不屈のエースオブエースへの王手を仕掛けていた。

 

 

◇◆◇

 

 

 一方、陸士315部隊にも別の刺客の影があった。

 大量のネオガジェット・タイプAを引き連れて来たのは、十代半ばほどの少年。

 

「さてさて、姉さん達はちゃんと出てきてくれるのかな?」

 

 その少年、タイプゼロ・フォースはまるで陸士部隊を呼び出すかのように、ネオガジェット達を送り込む。

 するとすぐに、目論見通りギンガ達前衛部隊が防衛の為にやって来た。

 

「新手ッスか?」

「この前いた2人じゃないわね」

 

 フォースと初対面のウェンディとギンガが、それぞれ警戒しつつ機械兵を潰す。その背後から光弾も放たれているので、ディエチもいるのだろう。

 前衛部隊を引き出したフォースは小さく笑いながら指を鳴らす。

 すると、空から何かがウェンディ目掛けて急降下してきた。同時に、ギンガの真下から地面を突き抜けて別の何かが飛び出してきた。

 

「おっと!」

 

 ウェンディはすかさず、乗っていたライディングボードを盾にして突進を防ぐ。

 ギンガも、地中を掘り進んでいた物体に気付き、ギリギリの回避に成功した。

 よく見ると、空から降下してきた物体はエイのような形をしたロボットで、突進に失敗するとフォースの頭上を浮遊している。

 そして地中から現れたのは、コブラ型のロボット。関節の多く、長い身体をくねらせてフォースの隣へ戻る。

 

「これらはドクターの最新型ネオガジェット。ワンオフ機だけど、性能は確かだよ」

 

 フォースは不気味な機械を臆することなく紹介した。

 エイ型のタイプEは空戦に特化した機体、コブラ型のタイプFは地中を潜航して相手の懐に食らいつく暗殺用の強化機だ。

 

「そして、僕はタイプゼロ・フォース。ファースト姉さんの最後の弟。どうぞよろしく」

 

 無邪気な微笑みを返す少年は、因縁を持つ相手に自身の正体を明かす。

 その姿に、ギンガは嘗て妹達が相手にした同形機、タイプゼロ・サードを思い出していた。

 

 次々と伸びて来るマラネロの弟子達の魔手。思惑はそれぞれ別だが、確実に六課と315部隊を追い詰めていく。

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