魔法戦記リリカルなのはWarriorS   作:雲色の銀

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第33話 エース・オブ・エースの戦い

 シグナム、エリオ、エドワードの3人はロストロギアの反応ポイントへ順調に近付いていた。

 3人の捜索場所はかつて湖があったことが伺える巨大な窪みで、その中央にセブン・シンズがあるらしい。

 

「ここまでは楽だったが……」

 

 窪みの淵から中を覗いたエドワードは、思わず呟いてしまう。窪みの中には、セブン・シンズを守るべく配置されたネオガジェットが多数存在していた。

 その数を数えていたエリオによれば、およそ30機は蠢いているという。

 

「アレを突破しない限りは手に入らないだろう。覚悟はいいな、2人共」

「は、はい!」

「当然です」

 

 冷静にレヴァンティンを抜き、2人の部下を一瞥するシグナム。エリオは若干戸惑いながらも返事をし、エドワードは変わらず冷静に応答する。

 シグナムが窪みの中に足を踏み入れた途端、ネオガジェットが一斉にこちらを振り向く。

 そして、3人対30機の混戦の火蓋が切って落とされたのだった。

 

 

 その一方で、別の反応を追い続けるフェイトとキャロは、段々と異変を感じつつあった。

 巨大化した仔竜フリードリヒの背に乗り、上空から反応のある地点に向かっているのだが、獣人はおろかネオガジェットの攻め手が一向に見当たらなかった。

 敵も同じものを狙っているのであれば、フェイト達は排除すべき邪魔者のはずだ。

 

「キャロ、気を付けて」

「はい。フリード、ここで降りて」

 

 何事もなく、反応の近くまで来たキャロはフリードリヒに頼んでゆっくりと降下する。

 降りた場所は草1つない荒れ地で、突起した岩山が連なっている。頬を撫でる乾いた風と生命の気配がない土地は、荒廃した世界の物寂しさを端的に表していた。

 そんな何もない所だったが、フェイトは岩山の1つにキラリと光る宝石が埋め込んであるのを発見した。

 

「フェイトさん、ありましたか?」

 

 警戒しながらも近付くフェイトキャロが訪ねる。すると、フェイトは首を横に振った。

 フェイトが見つけた宝石は、確かにロストロギアの反応を出していたのだが、動物を模した像ではなかった。

 しかし、執務官として数々のロストロギア事件も担当してきたフェイトは、この宝石にある違和感を覚えていた。

 ロストロギア自体が危険な代物であることに変わりないのだが、この宝石は魔力反応も少なく危険度は低めだろう。そんなものが何故こんな場所に埋め込まれているのか。

 

「残念だけど、私達は外れを引いたみたい」

 

 フェイトの言葉が示す通り、次の瞬間には宝石の埋め込まれた岩山が崩れ、中から何かが出て来た。

 大きさは3m程あり、駆動音を鳴らしながら四本の脚を動かしてフェイト達に近付いてくる。鋼鉄の身体に乗った瓦礫を振り落すと、巨大な犬のような全身が露になった。ただし普通の犬と大きく違う部分は、頭部が3つも存在することだった。

 目の部分である合計6つのセンサーがフェイトとキャロ、フリードリヒを認識すると、鋼の牙を生やした3つの口から電子音を咆哮させた。

 

「機械の、三頭犬……?」

「もう何でもありだね」

 

 フェイトもキャロも、これが新型のネオガジェットであることはすぐに分かったが、規格外の大きさと奇抜すぎる姿には流石に呆気に取られた。

 しかし、ふざけてばかりではない。ネオガジェット・タイプGは巨大な牙を剥き出しにし、フェイト達に噛み付いて来た。

 慌てて飛んで避ける2人と1匹だが、驚くべきは噛み付きの威力。フェイト達がさっきまでいた場所は、まるでスポンジケーキのように易々と削り取られていたのだ。

 噛み砕いた土を吐き捨てたタイプGは、カチカチと牙を鳴らしてフェイト達を見据える。強さも量産型とは規格外な敵に、フェイトはバルディッシュに稲妻を走らせながら立ち向かっていった。

 

 

◇◆◇

 

 

 フェイト達とは離れた地点の上空では、なのはとウィネが魔力弾による銃撃戦を繰り広げていた。

 

 なのはは空中を軍用機のように飛行しながら、レイジングハートの杖先からピンク色の魔力弾を4発、ウィネに向かって発射する。

 なのはの得意魔法である"ディバインシューター"は、なのは自身に掛けられているリミッターの所為で弾速は落ちているものの、正確な射撃でウィネの灰色の甲冑に覆われたような体を捕えた。

 しかし、硬い装甲にはあまりダメージを与えられておらず、ウィネはお返しとばかりに両手に持っていたクワガタの顎を模したライフルを発砲する。放たれたのは鉛の弾ではなく、ウィネの赤い魔力で生成された魔力弾だ。これこそがクワガタ獣人の「魔口弾」で、見た目は小さいが威力は一般的な獣人のものよりも遥かに高い。おまけに、ウィネの魔力が尽きるまでは無限に発砲でき、リロードによる隙も作らない。

 

「くっ! シュート!」

 

 なのはは華麗な飛行テクニックで銃弾を避け、再度ディバインシューターを放つ。ディバインシューターよりも更に速度と弾数で勝るアクセルシューターという射撃魔法もあるのだが、一度動きを止めて撃たねばならず、却って隙を生んでしまう。

 ウィネもまた、背中の羽を羽撃かせながら縦横無尽に飛び、なのはの射撃魔法を避ける。

 しかし、普通の飛行魔法より柔軟性で劣るのか、避けきれなかった射撃は装甲で受けるかライフルの腹の部分にある鋸状の刃で弾いていた。

 

「なかなかやりますね。彼の助けもなしに」

 

 お互いに隙を見せあわない銃撃戦に、ウィネは称賛交じりに前回の作戦でのイレギュラーだったユーノへの皮肉を口にした。

 対するなのはは、ウィネの皮肉にも冷静さを崩さずに射撃魔法を放ち続ける。

 

「これぐらいじゃ、揺らぎませんか」

 

 ウィネもなのはの隙を作る目的で放った皮肉が外れ、残念そうに魔力弾を弾く。同時に空いたライフルでなのはを狙うも、弾は全て躱されてしまった。

 すると、ウィネはその場に止まり、何かを思い出したかのようにまた話し始めた。

 

「あぁ! 何か頭に痞えていると思ったら。貴方の部下が追っていたセブン・シンズについてです」

「えっ!?」

 

 急にセブン・シンズの話が出たことに驚いたなのはも立ち止まるが、杖先はウィネに向けたまま警戒を崩さない。

 結果的に自分がいつ撃たれてもおかしくないという状況になったにも関わらず、ウィネは縦に割れた下顎をカタカタと鳴らして話し続ける。

 

「あれは私が用意したセブン・シンズの方でしょう。名前は"暴食(グラトニー)"」

 

 スバル達が追っていたセブン・シンズは、やはりウィネが仕掛けたものだった。

 しかし、なのはが驚いたのは自分達を嵌める罠にわざわざ本物のセブン・シンズを用いたことであった。

 下手すれば奪われかねないリスクをマラネロが犯すはずがないにも関わらず、何故"暴食(グラトニー)"を起動六課の反応圏内に仕掛ける真似をしたのか。

 

「あのセブン・シンズは少々厄介でしてね。触った対象が有機生命体なら、無限の食欲を曝け出す怪物にしてしまうのですよ。勿論、部下の方が封印魔法を掛けた後で触られるのでしたら問題ないのですが、もしその辺の野生動物が触れでもしたら……クククッ」

 

 答えは単純。それ以上のリスクを抱えた代物だったから。

 ウィネの話に危険を感じたなのはは思わず息を呑み、すぐにでもスバル達の元へ飛び立とうとした。

 

「ほら、ボーッとしてはダメでしょう!」

 

 だが、ウィネが見逃す訳はなかった。放たれた銃弾はなのはの白いバリアジャケットに掠り傷を付けたが、幸い怪我はない。

 なのはは直感で、すぐにでもこの男を倒さねばならないと判断した。

 

 

◇◆◇

 

 

 ウィネ、アースと立て続けに襲撃を受け、一人でセブン・シンズの探索を行っていたスバルは漸く反応を出しているものの近くまで辿り着いた。

 岩山で囲われたその場所は鼠やアルマジロ等の野生動物が生息しており、雑草も生えていることからも水辺も近いことが伺える。

 

「ソラトとなのはさん、大丈夫かな……」

 

 離れ離れになってしまった恋人と上司の心配をしながら、反応元を探すスバル。これがもしセブン・シンズならすぐにでも封印措置を施して皆の応援に行くつもりだった。

 しかし、スバルの考えはその場に相応しくない物音の所為で途切れてしまう。

 物音は岩山の影になっている場所から聞こえてきた。よく聞けば、それはバリボリと何かを勢いよく貪るような音に近い。

 

「誰かいるのかな」

 

 もしかすれば、食事中の敵かもしれない。そんな呑気な考えを浮かべながら、スバルはゆっくりと物音の正体に近付いていく。

 そして、岩場に隠れながら除くと、そこには想像を絶する光景が広がっていた。

 

「嘘……」

 

 スバルが見たものは、人間と同サイズ程の怪物だった。

 ブクブクと風船のように膨れ上がった体には毛が生えておらず、薄桃色の肉を赤い液体で汚していた。頭は焦点の合っていない目と夥しい量の涎を垂らす大きな口が目立っていて、付き出した黒い鼻と巨大な前歯からこの上なく醜い鼠のようにも見えた。

 何より悍ましいのことに、醜い怪物は両前足に持ったアルマジロを2匹、交互に頭から喰らっていたのだ。食い散らかされた他の生物の血や残骸が怪物の肉体を汚し、周辺に異臭を撒き散らしている。

 

「うぇぇ……」

 

 グチャグチャと生々しい音を立てて肉を貪る怪物から、スバルは目を背けたくなった。

 しかし、セブン・シンズの反応はあの怪物から発信されていたのだ。よく見ると、怪物の腹が中から黄色く発光しているのが見える。

 

「……仕方ない」

 

 マッハキャリバーのローラーをフル回転させて勢いよく飛び出し、すぐにでも吐き出させるようブヨブヨの腹を目掛けて全力で殴り掛かった。

 この時、スバルは2つのミスを犯していた。1つは怪物の垂れ下がっていた耳が立っていたことに気が付いていなかったこと。

 そしてもう1つは、怪物の反射神経が鈍いと思い込んでいたこと。

 暴食の怪物はスバルが来ることを即察知し、持っていたアルマジロの死骸を握り潰しながらスバルを払い飛ばした。想像以上の素早さと力を受けたスバルは、そのまま岩壁に叩きつけられてしまう。

 

「かはっ、そ……んな……」

 

 スバルはダメージを受けた身体でゆっくりと立ち上がる。

 未知の存在への恐怖に怯えるスバルだが、怪物は彼女の様子を気にもかけず、ただ次の餌が来たことに尻尾を叩いて喜んでいた。

 

 

 その頃、廃墟と化した街並では、青緑と紅の光が幾度となく交差しながら移動していく。

 崩れ落ちた残骸を躱しつつ、ソラトは自分と同じように浮遊魔法で滑走するアースと刃を交えていた。

 何度目かの鍔迫り合いを繰り広げている最中、ソラトは脳裏に誰かの悲鳴が聞こえたような気がした。

 

「戦いに集中しろっ!」

 

 一瞬だけ気を取られたソラトへアースが剣を押し出し、そのまま斬り掛かろうとする。

 しかし、ソラトはすぐに体勢を立て直し斬撃をセラフィムで防ぐ。ソラトには、今の悲鳴が先程別れたスバルのものだということに何故か確信が持てた。

 スバルが危ない。そう考えた瞬間、ソラトの中の感情が一気に爆発する。

 

「アース。僕も君との決着は付けたい」

 

 呟くソラトに、アースは違和感を感じた。今まで互角以上だった鍔迫り合いだが、急にソラトの方が押し出してきたのだ。

 負けじとベルゼブブを押し込もうとするが、動くどころか段々と押し負けている。

 

「けど、今は」

 

 更に、セラフィムのカートリッジから薬莢が2つ排出される。その瞬間、セラフィムのホバーから噴出される魔力が勢いを増し、ソラトの力も強くなっていく。

 

「君の相手をしている暇はない!!」

 

 爆発的に力を増したソラトは、刃を交えたままアースをベルゼブブごと押し出して勢いよく滑空し、進行方向の先にある廃ビルへ弾き飛ばした。

 今の衝撃でビルの壁が崩れ、粉塵が辺りを覆い尽くす。だが、すぐに紅い閃光と共に刃が振り下ろされ、塵は斜めに切り払われた。

 中から出て来たアースは少なからずダメージを負っていたが、戦闘は余裕で続行出来る程度だった。

 

「ソラトォ! 何処へ行ったぁ!」

 

 しかし、ソラトの姿はもう目の前にはなく、ずっと遠くの方で青緑色の光が小さく見えるのみである。今から全速力で追っても、追い付くことは出来ないだろう。

 自分との勝負を放って何処かへ行ったソラトに対し、アースは怒りを抑えずにはいられなかった。

 

「ソラトォォォォォォォォォッ!!」

 

 瓦礫の山をぶち壊しながら、怒り任せに叫ぶアース。その背中には微かだが、一対の紅い翼が拡げられているようにも見えた。

 悪魔の声のような遠吠えを背に、ソラトは砂塵を撒き散らしながらスバルの元へ向かっていた。

 

「スバル!? 大丈夫、スバル!?」

 

 必死に通信で呼びかけるが、答えられない状況なのか繋がらない。荒野を進んでいくにつれて、ソラトの中の不安と焦りがどんどん大きくなっていく。

 一刻も早くスバルの元へ駆けつけるべく、ソラトは更に浮遊魔法のスピードを上げた。

 

 

◇◆◇

 

 

 なのはは、銃弾を躱しながら何とかウィネを倒す方法を考えていた。

 特に厄介なことに、鎧のように強固な装甲の所為でまともなダメージを与えられないでいる。威力の高い射撃魔法や砲撃魔法はチャージを要するので隙が生まれてしまうため、射撃の出来るウィネ相手ではあまり使えない。

 

「ほらほら、もっと華麗に踊ってくださいよ!」

 

 対するウィネは余裕を持て余しているかのように、両手に構えたライフルでなのはを乱れ撃ってくる。ウィネの武器はリロードの必要もないので、なのはに砲撃のチャンスを与える隙すらないのだ。

 なのはは飛び回りながら、ウィネの身体にチェーンバインドを巻き付ける。

 

「んん? 何度行っても無駄です!」

 

 しかし、出力リミッターを掛けられているなのはのバインドでは、ウィネを拘束出来る時間は短すぎた。

 

 機動六課結成時、各隊長と副隊長には出力リミッターによるランク引下げが行われていた。これにより、部隊の保有する魔導師ランクの制限を誤魔化していたのだ。

 再結成された現在でもリミッターはやはり掛けられており、なのはがウィネに苦戦する一番の原因となっていた。

 おまけに解除回数にも制限があるので、そう易々とは許可が下りない。

 だが、今は解除してでも戦うべき強敵を目の前にしている上、恐らくはスバルの命も危ない。

 

「はやてちゃん! 限定解除申請、お願いします!」

 

 遂に司令室のはやてに要請を掛けるなのは。隊長陣のリミッター解除を許可出来る権限は、部隊長であるはやてが持っている。

 はやてもウィネ相手に限定解除を考えていたようで、なのはの要請に頷く。

 

「分かった。高町なのは、能力限定解除、承認! リリースタイム、60分!」

「リミットリリース!」

 

 はやてが目の前に現れた魔方陣の中央を押すと、なのはの足元にミッドチルダ式の円形魔方陣が現れ、なのはを包むように輝きを増す。

 限定解除の際に立ち止まったなのはにウィネは銃口を向けるが、今の自分ならば、全力のなのはを相手に取れるという自信があったため撃とうとは思わなかった。

 

 光が晴れて、再び現れたなのははまずバリアジャケットに変化が見られた。

 胸の赤いリボンがなくなり、ジャケットは開いてインナージャケットが見える状態に。スカートもロングになって全体的に露出度が減った。レイジングハートも丸みを帯びたデザインから、槍のように先端が伸びた形態へと変形している。

 

「これが、エース・オブ・エースのフルドライブか……」

 

 フルドライブとはデバイスの最大出力モードであり、通常6割しか使用出来ない魔導師の力を限界まで引き出すことが出来る。その反面、過剰不可によるダメージを受けることにもなり、デバイスの破損や体への悪影響にも繋がる諸刃の剣でもある。かつてなのはが墜落した要因の一つにもなってしまうほどだ。

 そんな事情も知ったことではないウィネは、なのはの周囲を覆う魔力が明らかに増大していることに感嘆の声を上げる。だが、あまりの傲慢は身を滅ぼすきっかけにもなる。そのことに彼は気付いていなかった。

 

「最大出力のディバインバスター、いくよ。レイジングハート」

〔了解です、一気に吹き飛ばしましょう〕

 

 フルドライブ"エクシードモード"を展開したなのはは、ウィネに向けてレイジングハートを構え、砲撃のチャージを始める。

 

「いくら余裕があるとはいえ、砲撃のチャージを長々と許すほど愚かではない!」

 

 ウィネはライフルの引き金を引く指に力を込める。

 しかし、弾は立ち止まっているはずのなのはに当たることはなかった。撃つ瞬間に、ピンク色のバインドで縛られ、照準を狂わされたのだ。

 

「チッ、こんなも──何っ!?」

 

 舌打ちしながら、ウィネは先程のようにバインドを引き千切ろうとした。

 しかし、限定解除で魔力を取り戻し、フルドライブ状態のなのはのバインドは易々と千切れるようなものではない。

 それでもウィネは負けじと力を振り絞り、漸くバインドを破る。より強固になったバインドをも破る獣人の力になのはは改めて驚かされる。

 だが、全てはもう遅かった。

 

〔Divine buster〕

「全力全開! ディバインバスタァァァァァァァッ!!」

 

 ロックをウィネに合わせ、なのははレイジングハートの引き金を引く。その瞬間、ピンク色に輝く極太の砲撃が瞬く間にクワガタ獣人の姿を呑み込んでいた。

 呑み込まれる直前に腕で顔をガードするウィネだが、まずは持っていたライフルが二丁とも粉々に破壊される。

 

「こ、これほどっ! までとはっ!」

 

 必死に耐えるウィネだが、光の濁流は止むことはない。そして、なのはの全力の砲撃はウィネの硬い装甲を段々と破壊していく。

 より強い力で装甲ごと相手をぶっ飛ばす。これこそ、なのはの必勝法であったのだ。

 

「私が負ける……? この私が……そんなはず、あるものかぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 今までなのはを見下していた傲慢のツケが一気に襲い掛かり、最後まで自分の敗北を認められないままウィネは砕け散る装甲と共にディバインバスターの光に流されていった。

 ディバインバスターの着弾地点にはクレーターが出来ており、中心では人間態に戻りボロボロになったウィネが横たわっていた。

 

「ウィネ・エディックス、逮捕しました……!」

 

 昏倒したウィネにバインドを巻き付け、なのはは息を切らしながらはやてに報告を入れた。

 恐ろしい敵をやっと倒したなのはだったが、喜ぶ暇もなくスバルの安否を確かめようとしていた。

 

 

◇◆◇

 

 

 スバルは焦っていた。目の前の怪物が汚い涎を垂らしながら迫っていたからだ。

 ブクブクと太った鼠のような化け物は巨体に似合わず、素早く重い一撃をスバルに与えていた。

 壁に叩きつけられていたスバルは起き上がり、リボルバーナックルのギアを回転させながら殴り掛かる。今度はブヨブヨの腹を確実に捕らえていたはずだった。

 

「そんなっ!?」

 

 速度を上げて放った拳は贅肉に包まれ、殆どダメージを与えられていない。それどころか、攻撃に使用した魔力を腹の中の"暴食(グラトニー)"に吸収されてしまったのだ。

 何とか拳を引き出し、急いでその場を離れるスバル。紙一重で暴食の怪物の前歯を避けることが出来たが、怪物はなんとそのまま前歯の刺さった地面すら食べ始めた。

 土や石をボリボリと噛み砕き呑み込む怪物に、スバルは改めて悍ましさを感じることとなった。呑み込んだ無機物すら"暴食(グラトニー)"の力で魔力へと還元し、吸収しているようだ。

 食べる口を動かしながら、スバルににじり寄る化け物。そして、巨体のままスバルへ飛びかかってきた。

 

「きゃああああっ!?」

 

 後ろに下がるスバルだが、避け切る前に前足に捕まってしまった。獲物を握る力も強く、スバルは思わず悲鳴を上げてしまう。

 このまますぐに口に放り込まれる。スバルの考えとは裏腹に、化け物はまだ土を食らっていた。その分、逃げられないよう強く握られてしまうので、スバルの苦痛も長く続く。

 やがて口の中身を呑み込んだ怪物は握り締めたスバルを見るなり、まずは味見と言わんばかりに舌で舐め回した。苦痛を与えられた次は唾液に塗れ、スバルの表情はすっかり曇ってしまっていた。

 

(これで終わりなんて、そんなのヤダ!)

 

 指の中で必死に抵抗すべく戦闘機人時のIS"振動破砕"を発動しても、傷付いた指は力が緩むことはない。食欲の一点のみを過剰に暴走させられた怪物は、痛覚すらも感じなくなっていた。

 成す術がなくなり、涙を流すスバル。胸の内には、仲間や憧れの人、そして愛する恋人との思い出が蘇る。

 こんなところで死にたくないという少女の悲痛な思いも虚しく、暴食の怪物は大きく開いた口を近付けた。

 

「……え?」

 

 が、スバルは食べられることはなかった。彼女が怪物の口に入る直前に何かが飛来し、口を塞いでいたからだ。それを噛み砕こうとした怪物の口は爆発し、衝撃でスバルを掴む力が緩んだ。

 その場に尻餅をついたスバルを逃がすまいと、怪物は前足を伸ばす。

 

〔Divine buster〕

 

 だがやはり、さっきと同じく飛んで来た青緑色の斬撃波に今度は前足を切断されてしまう。

 スバルは斬撃波が飛んで来た方向を振り向き、誰が来たのかを知って再び──今度は喜びと安堵の涙を零した。

 

 遠くの荒野から一直線に向かってくる青緑色の光。地上を滑走しながら振り下ろした大剣を構え直し、白いジャケットを風に揺らす。

 金色の前髪の奥で怒りに燃える蒼い瞳は、彼女を危険な目に合わせた醜い怪物を捕えている。

 

「スターズ5、目標を確認。あの怪物の中にロストロギアの反応があります」

〔多分、あれは"暴食(グラトニー)"の力やね。気を付けてな〕

「了解。ソラト・レイグラント、行きます!」

 

 はやてとの通信で相手がセブン・シンズの力で生まれた怪物だと分かったソラトは、剣を握る力を強める。

 今度は間に合ったソラトは滑走の勢いをそのままに、切先に怒りを載せて暴食の怪物へ斬り掛かって行った。

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