魔法戦記リリカルなのはWarriorS   作:雲色の銀

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第34話 紫炎揺れ、鉄槌下す

 岩場に囲まれた荒野を一直線に突っ切って行く青緑色の光。

 その光に乗って地上をスライド移動しながら、ソラトは大剣セラフィムを構えて目の前の怪物に立ち向かう。怪物の傍に座り込んだ、大切な女の子を守るために。

 

「はぁぁぁぁっ!!」

 

 滑走の勢いに乗ったまま、ソラトは怪物を斬り裂こうと剣を振り下ろした。刀身から噴出されるホバーによって更に勢いを増した刃はブクブクと太った醜い化け物の頭と体を真っ二つに断つ――はずだった。

 実際には、先程ディバインバスターで切られた前足で剣を防がれていた。前足を斬ったことで勢いを殺されたセラフィムは、ブヨブヨの厚い肉が付いた身体は完全に斬り裂くことが出来ず肩で止まってしまった。

 斬り傷からは血飛沫を飛ばし、周囲に鉄の臭いを漂わせているが、怪物は痛みに悶えることもなくソラトに大口を開けて食らいついて来る。

 ソラトは間一髪のところで後ろに下がり、座り込んだスバルの目の前に着地する。異形の怪物に怯えも見せず、女性を背に剣を構える姿は王道のヒーローのように勇ましい。

 

「スバル、大丈夫?」

「うん……」

 

 後ろを振り返らずに安否を尋ねてくるソラトに、スバルは顔に付いた涎と涙を拭って頷く。マッハキャリバーとリボルバーナックルにも目立つ損傷はなく、まだ戦える。スバルは立ち上がり、ソラトの横に並び立つ。

 対する暴食の怪物は、相変わらず傷口から多量の血を流している。普通の生物ならこのまま放っておいても出血多量で死ぬはずだが、怪物に宿っている"暴食"はそれを良しとしなかった。

 怪物の腹部が黄色く光ると、見る見る内に傷口が再生していった。斬り落とされた前足ですら新しく生え、古い足を掴んで怪物の口に放り込んでいた。

 痛覚も作用せず、傷もどんどん再生させてしまう。悍ましい化け物の姿に、スバルはこれがセブン・シンズの力なのかと絶句していた。

 

「スバル、大丈夫」

 

 そこへ、ソラトが優しくスバルに話し掛ける。声色こそ穏やかだが、ソラトの表情は真剣そのものだった。愛しい彼女を涎塗れにし、食い殺そうとした怪物への怒りで頭がいっぱいになっていた。

 

「お腹を斬り裂いて、そのままセブン・シンズを封印する」

 

 再生力の源であるセブン・シンズが腹の中にあるのならば、掻っ捌いて取り出してから封印すればいい。シンプルだが、暴食を倒す術はそれしかなかった。

 

(こういう時に、フルドライブが使えればいいのに)

 

 ソラトは怪物の隙が何処に出来るかを観察しながら、フルドライブが使えない歯痒さを感じていた。

 フルドライブは魔力を限界まで引き出す最大出力形態だが、使用者の身体やデバイスに悪影響を及ぼすデメリットも存在する。

 そのため、フォワード達のデバイスにもリミッターが施されていた。このリミッターは各分隊の隊長が承認しなければ解くことが出来ず、スターズに所属するソラトやスバルはなのはが承認しなければフルドライブを使えないのだ。

 使えないものを考えても仕方がない。ソラトはもう再生が殆ど完了した怪物の動きに集中した。

 

「スバル、シーリングの方はお願い」

「分かった」

 

 すぐに封印出来るよう、ソラトはスバルに封印魔法の使用を頼む。

 次の瞬間、怪物は鼠が獲物を狩る時のようにソラト達へ飛びかかってきた。巨体に似合わぬ俊敏な動きだが、それ以上に高速で移動できるエリオとの模擬戦を熟してきたソラトは化け物の動きを見切っていた。

 魔力カートリッジを1つ消費し、脚に付加したウイングフォルムの浮遊魔法で一気に怪物との間合いを詰めたソラトは、スライド移動で一回転しながらセラフィム真横に振り抜いて腹部を裂く。

 断面から赤い血肉を見せる暴食の怪物だが、反応を見せることもなくソラトに食らいつこうと牙を向ける。

 

〔Grand cross〕

「グランドクロスッ!!」

 

 だが、ソラトの手は止まっていなかった。

 横に薙いだはずの大剣は真上に移動しており、牙が届く前に一気に振り下ろす。魔力を帯びた刃は怪物の頭と体を縦に両断していく。肉が厚すぎたため、完全に両断は出来なかったがパックリ開いた口は見事にソラトを避け、噛み付かれることはなかった。

 十文字に斬られた腹部の中心には豚を象った小像が埋まっていて、光を放つと怪物の肉体はまたもや再生を始める。しかし、逃がすまいとスバルがローラーで一気に攻め込んでいく。

 

〔Sealing nuckle〕

「シーリングナックル!」

 

 青い光を帯びた拳は"暴食"を捕え、光を流し込んでいく。再生の光を抑え込まれた"暴食"は、傷口の中から飛び出すと輝きを失って行った。

 同時に怪物の再生も止まり、汚らしい肉や血が"暴食"と同じ黄色い光と還っていく。

 

「か、勝った……!」

「やったよ、ソラト!」

 

 勝利を確信したソラトは今までの緊張が全て抜けてしまい、その場に座り込んでしまう。

 すると、封印成功に喜んだスバルがソラトに抱き着いて来た。涎塗れで本当は少し遠慮して欲しかったが、スバルに抱き着かれるならとソラトは顔を赤くする。

 怪物の姿は完全に消え、後には封印されたセブン・シンズと惨く切り刻まれた鼠の死骸しか残らなかった。

 

 

◇◆◇

 

 

 ヴィータと別れ、一人でロストロギアを追うティアナは反応が何処から出て来ているのかを探していた。

 しかし、反応の地点と思しき場所に来てもセブン・シンズはおろか宝石1つ落ちてはおらず、ティアナは周囲を捜索し続けていた。

 

「ったく、何処にあるのよ……」

 

 地図の反応は相変わらず変わっておらず、ティアナは岩か何処かにでも埋まってるんじゃないかと疑い始めていた。おまけに、敵の姿すらも一向に見えないこともティアナの疑いを強めていた。

 

「探しモンはこれか?」

 

 その時、頭上から若い男性の声がした。その声に聞き覚えはあるものの、ティアナの耳には違和感が残っていた。何故なら、彼女が思い浮かべた人物はそんな乱暴な言葉遣いをしないからだ。

 ティアナがクロスミラージュを構えて頭上を向くと、黒いジャケットを着た男が岩場に座り込んでいた。

 手に握られたスーツケースには、アメジストのような紫色に輝く蠍の像が収められていた。前情報から推測すれば、あの像は"色欲(ラスト)"だろう。

 

「アース……どうしてアンタが」

 

 ティアナは先を越され、口惜しそうに声を掛けて来た人物の名前を口にする。

 ソラトに勝負から押し切られる形で逃げられてしまい、この場にいる必要のなくなったアースは元々の任務であるセブン・シンズの回収に来たのだ。今のアースは腸が煮え繰り返りそうなほどの怒りを抱えているのだが、ティアナには知る由もない。

 アースはスーツケースを抱えたまま、デバイスを構えた状態のティアナの目の前まで降りてくる。普通ならいつ撃たれてもおかしくないという状況にも関わらず、アースは気に掛けることもない。

 

「コイツは俺が貰って行く。ソラトには決着を先延ばしにされたんでな」

「う、動くな! このまま逃がすとでも」

〔Dark raid〕

 

 スーツケースを閉じるアースへ、ティアナは引き金を引こうとする。

 だが次の一瞬で、アースは右手にベルゼブブを呼び出し、ダークレイドを瞬時に発動することで高速で剣を振り抜く。ティアナが気付いた時にはクロスミラージュを弾き飛ばしていた。

 

「お前に用はない」

「私にはある」

 

 そのまま撤退しようとするアースだったが、ティアナは弾き飛ばされたはずのクロスミラージュを左手に持ち、銃口をアースの胸部に向けていた。

 クロスミラージュは特徴の一つとして、二丁に増やすことが出来るのだ。先程まで一丁しか構えていなかったのは、アースが何らかの方法でこちらの銃撃を防ぐことを予測し、あえてもう一丁の存在を隠していたのである。

 

「さぁ、大人しく逮捕されなさい」

「ほぅ、面白いな。お前」

 

 ティアナの抵抗に、しかめっ面だったアースが笑みを浮かべた。まるでノーマークだった局員が予想外の実力者だったことで、少し興味が沸いたのだろう。

 しかし、あくまでアースの任務は"色欲"を持ち帰ること。ここでマラネロを裏切っても良かったのだが、アースにとって最優先すべきはソラトの抹殺。そのためにマラネロの協力が欠かせないことは、痛いほど理解していた。

 

「けど、何度も言わせるな。お前に用はない」

 

 アースの言葉と同時に、ティアナの後ろ側の頭上から小さな槍が3本放たれた。実はアースが仕掛けた時には、既にティアナの頭上にコラプションランスを配置しておいたのだ。

 少し遅れて気付いたティアナは横に転がって、降って来た槍を避ける。傷は負わなかったが、目を離してしまったためにアースは転送装置を起動させていた。

 ダメ元でティアナは魔力弾を撃つが、転送フィールドには幾重にもジャマーが張り巡らされているので弾かれてしまう。

 

「ソラトに伝えておけ。次は逃がさない、確実に殺すと」

 

 怒りの形相でティアナに告げ、アースは黄緑色の光と共に姿を消した。"色欲"を持っていかれ、ティアナの中に悔しさだけが残った。

 

 

◇◆◇

 

 

 "暴食"、"色欲"と次々にセブン・シンズの行方が判明する中、シグナム達はこの次元世界に存在する最後のロストロギアを求め、ネオガジェットの軍団との戦いを繰り広げていた。

 シグナムが紫色の炎をレヴァンティンの刀身に纏わせ、地中から現れたタイプCの胴体を斬り裂けば、エリオは電光を纏った高速移動でタイプAの集団の装甲を貫いていく。窪みの外からは、エドワードが二重に練り上げた魔力弾でAMFごとネオガジェットを打ち抜いていく。

 30機もの機械の大群は、シグナム達にとっては少しの足止め程度にしかならず、気付けば全てが片付くのに大して時間はかかっていなかった。

 

「こんなものか」

 

 手ごたえがない、と言わんばかりにレヴァンティンを鞘に納めるシグナム。

 バトルマニアの気もあるシグナムは、セブン・シンズの防衛に当たる強者との戦いを密かに待っていたのだ。それが、ただの雑魚の集団ともあれば、肩も落としたくなる。

 一方で、バトルマニアではないエリオとエドワードはシグナムの考えに同意はしかねていた。

 

〔シグナム!〕

 

 その時、六課の司令室にいるシグナムの補佐官兼ユニゾンデバイスのアギトから通信が入った。

 

〔大変だ! ヴィータの姉御が!〕

〔ヴィータちゃんが、エリゴスにやられてしまいます!〕

 

 通信に割って入ったリインフォースもアギトと同様に慌てている。"エリゴス"という名前にシグナムは強い反応を示した。

 エリゴス・ドマーニは以前、シグナムとヴィータが2人がかりで戦って決着の付かなかった相手。もし、ヴィータが現在一人でエリゴスの相手をしているのなら勝機は薄い。

 

「アギト、場所を教えろ。私も今から行く」

〔おう!〕

「クラウン、エリオ。後は任せるぞ」

 

 宿敵の登場に、シグナムは急いで空を飛んでヴィータの元へ急行した。

 残されたエリオ達は、一先ず"嫉妬"の封印措置をして六課に転送する。これで、7つの内2つが機動六課の元に集まった。

 

「さて、俺達は他のメンバーの応援に」

 

 セブン・シンズの転送が確認出来たエドワードは、未だ追っているメンバーのところへ向かおうと考えていた。

 しかし、2人の行動を阻むかのように爆音が鳴り響く。音の方を向くと、2人は想像を絶する光景を目の当たりにした。

 

「なぁ、アレは……」

「フェイトさんとキャロ、フリードですね」

 

 先程、別れたはずのフェイトとキャロのペアが敵のメカと交戦していたのだ。

 2人と1匹が戦っているのはまだいい。問題はその相手が色々と予想外なことだ。何故新型のネオガジェットが頭部を3つも持った、四足歩行の巨大な犬型なのか。

 鋼鉄の牙が岩山を切り削り、爪が荒野を抉る。相手の何とも言えない造形と、巨体が及ぼす破壊規模にエリオもエドワードも唖然とするしかなかった。

 

「……はぁ。行くぞ、エリオ」

「は、はい!」

 

 2人は一先ずは敵の滑稽な姿を頭から消し、激戦を繰り広げる上司と同僚へ応援に入ることとなった。

 

 

◇◆◇

 

 

「これで終わりか?」

 

 挑発的に構えるカブトムシ獣人とは対照的に、ヴィータは真っ赤なドレスに裂傷をいくつも作り、息を切らしながら飛んでいた。

 たった一人でエリゴスと交戦していたヴィータだが、今までシグナムと2人がかりで相手をしていた敵に一人で立ち向かうことは無謀であった。

 ハンマー型のアームドデバイス"グラーフアイゼン"の強烈な一撃も、カブトムシ獣人の黒い甲冑の前では意味を成さない。

 カブトムシの角を象ったT字の大剣も、獣人時の強大な剛腕で振るわれていることもあって、古代ベルカの騎士を互角に打ち合える程の力を発揮している。

 

「こんな、奴なんかに……!」

 

 魔力リミッターの存在があるとはいえ、力の差を感じたヴィータは歯を食いしばる。それでも、まだ戦意を捨ててはいなかった。

 闇の書のプログラムとして終わりのない戦いと悲しみを繰り返し、はやてのおかげでやっと人並の幸せを手に入れることが出来た。だからこそ、その幸せを平気で踏みにじり、大好きな主の命を狙うエリゴスが許せなかった。

 

「今からでも口を慎んだ方がいいぞ? 今後、吾輩がお前等の主となるのだから」

「誰がテメーなんかを主として認めるか! アタシ達の主ははやてだけだ!」

〔Schwalbefliegen〕

 

 エリゴスの挑発に激昂したヴィータは眼前に4つの鉄球を出現させ、それぞれに魔力を付与させながら鉄槌で打ち出した。飛ばされた鉄球をエリゴスは回避するが、鉄球はエリゴスを追尾して命中と同時に炸裂する。

 一瞬、爆煙に包まれるエリゴスだったが、すぐに煙の中から飛来してヴィータの首を捕まえた。多少の焦げ付きはあるが、命中した装甲は相変わらず小さな傷しか付いていない。

 

「無駄だと言っても分からないか」

 

 呆れた風に言いながら、エリゴスはヴィータの首を強く絞め続ける。獣人形態では表情が分からないが、内心ではヴィータを侮蔑していた。

 ヴォルケンリッターはプログラムの一部だと思い込んでいるエリゴスは、このままヴィータの首の骨を折って殺すつもりでいた。夜天の書の管制プログラムが消失した影響で、既にヴォルケンリッターは人間に近付き再生・復活が不可能であることも知らずに。

 

「はあああっ!!」

 

 そこへ、女性の雄叫びと共に鞭のように伸びた蛇腹の剣がヴィータとエリゴスの間に割って入った。エリゴスは腕に刃が当たる前に避けたが、その所為でヴィータの首を離してしまった。

 目標を失った刃は蛇腹を縮ませ、持ち主の元へと戻っていった。エリゴスはその持ち主を見て、カタカタと嘲笑っているかのように顎を鳴らす。

 

「そこまでだ、エリゴス・ドマーニ!」

「シグナム。わざわざ来てくれるなんて、吾輩の手間が省けた」

 

 現れたシグナムは凛々しい表情でエリゴスを睨みつける。激情的なヴィータと対照的に冷静なシグナムだが、彼女もはやてを主として誰よりも慕っているので、はやてを汚そうとするエリゴスに激しく怒りを燃やしていた。

 シグナムは蛇腹剣の形態である"シュランゲフォルム"となったレヴァンティンを一度鞘に戻し、苦しそうに咳き込むヴィータの元に近寄った。

 

「大丈夫か、ヴィータ」

「これぐらい、何でもねぇよ!」

「強がってる場合じゃありません!」

「えっ?」

 

 強がりを見せるヴィータに、シグナムとは違う少女の声がツッコミを入れる。

 よく見れば、シグナムの懐に人形サイズのリインフォースⅡとアギトが隠れていた。急に聞こえた家族の声にヴィータも一瞬だけ目を点にする。

 実は、ヴィータの元に駆けつけるシグナムへ、はやてが2人のユニゾンデバイスを転送させたのであった。なのはのように限定解除が出来れば話はもっと早かったのだが、解除回数には限度があり、また承認権を得るのに時間と手間が掛かる。

 

「リイン!? アギトも、何でここに!?」

「私達も一緒に戦います!」

「アイツだけは許せないからな!」

 

 驚くヴィータに、リインフォースもアギトもエリゴスへの怒りを露にする。これだけで、八神家の絆がどれほど堅いのかが垣間見える。

 

「行くぞアギト、速攻で決める」

「おう!」

「よし! 行くぜ、リイン!」

「はいです!」

 

 リインフォースはヴィータの、アギトはシグナムのそれぞれ合図に応じて白と紫の光となり、使用者の胸元に入り込んだ。

 

「ユニゾンイン!」

 

 掛け声と共に融合騎が発動すると、2人の身体にも影響が表れていく。

 リインフォースと融合したヴィータは橙色の髪と蒼い瞳の色が薄くなり、真紅の騎士甲冑は完全な白色へと変色した。ヴィータの中にいるリインフォースも、管理局の制服からミニスカートの袖なしワンピースという騎士服姿に変わっていた。

 アギトと融合したシグナムはピンク色の髪がクリーム色に、元の髪と同じ色だったチャイナドレス風の騎士服は魔力光と同じく紫色へと変わった他、背中には二対の炎の小さな羽が生えている。リインフォースと同様に、アギトもシグナムの中で紫のビキニにスカートが付いたパンツと露出度の極めて高い恰好になっていた。

 どちらもユニゾン前と比べても圧倒的に魔力量が変わり、リミッターが付いているにも拘らず強化されていることが伺える。

 

「これが融合騎の力、か……面白い! それを吾輩の物に!」

「黙りやがれ」

 

 剣を構えて特攻してくるエリゴスを睨み、ヴィータは斬撃を軽く避けてカウンターの一撃にグラーフアイゼンを振り下ろす。

 しかし、ユニゾンで魔力が高まった一撃でもエリゴスを多少怯ませる程度で装甲を割ることは出来ない。

 

「無駄だと言っている!」

 

 鉄槌を振り払い、エリゴスは切先をヴィータの額に付きつけようとする。しかし、シグナムによって攻撃を受け止められ、既に回避行動を取っていたヴィータは再び鉄槌をエリゴスの硬い身体に打ち付けた。

 何度も何度も鉄槌を振り下ろすヴィータだが、エリゴスは余裕の反応を崩さない。

 

「そういうことか」

 

 シグナムはヴィータの狙いが分かったようで、エリゴスの持つ剣と斬り合い続ける。

 両者ともユニゾンによって強化されたはずなのに、片方は無意味な行動を取り続け、もう片方は硬い身体に成す術がないのか防戦一方のままだ。2人の狙いが何なのか、エリゴスには理解出来なかった。

 エリゴスの武器は剣だけではない。頭に生えた巨大な角も立派な武装の1つで、攻撃を続けるヴィータを薙ぎ払った。だが、ヴィータはグラーフアイゼンの柄で防御し、再度攻撃を繰り出した。

 いよいよ退屈になってきたエリゴスはシグナムを一度弾き飛ばし、まずはヴィータを斬り刻もうと動いた。

 

「よし!」

 

 その時、ピシッと何かに皹が入る音がした。嬉しそうに笑うヴィータの視線の先では、口を横に開いたまま動けずにいるエリゴスの姿。彼の自慢の肩の装甲は大きく割れていた。

 ヴィータの狙いは同じ箇所に何度も鉄槌を打ち込み、最終的に砕くことだった。いくら強固な装甲でも、ユニゾンしたヴィータの攻撃を食らい続ければ割れもする。

 実は、一人で戦っている間もヴィータは同じ箇所を狙い続けていた。何度ボロボロにされようと、嘲笑われようと、砕いた装甲の上から一発加えることだけを狙っていたヴィータの粘り勝ちである。

 

「まさか、最初からこれが狙いで!?」

「そうだ」

 

 ヴィータの狙いがやっと分かったことと自慢の装甲が砕けたことですっかり動揺しているエリゴスに、シグナムは隙を逃すまいと剣を弾き飛ばす。

 

「アイゼン!」

「レヴァンティン!」

〔Raketenform〕

〔Explosion!〕

 

 剣も装甲も失ったエリゴスを倒すべく、ヴィータとシグナムはそれぞれのデバイスを構える。

 すると、両機ともカートリッジを1つ消費し、グラーフアイゼンはハンマーヘッドの片側に噴出口、反対側にスパイクを出現させたフォルムツヴァイ"ラケーテンフォルム"へ変形し、レヴァンティンは刀身に炎を纏わせた。

 

「ラケーテンハンマァァァァァァァッ!」

 

 ヴィータとリインフォースの声が重なる。グラーフアイゼンの噴出口からロケットのように勢いよく噴出させ、コマのように回り出したヴィータはエリゴスの元へ向かい、罅割れた装甲に思い切りスパイクを叩き付けた。

 衝撃は獣人の身体の突き抜け、体中の装甲に皹を入れさせる。スパイクは肩に刺さってはいないが、あまりの衝撃を生身で受けた結果、肩の骨が折れたかもしれない。

 

「紫電、一閃!!」

 

 だが、これで終わりではない。今度はシグナムとアギトの重なった掛け声と同時に、炎を纏ったレヴァンティンの斬撃が強固な守りを失ったカブトムシ獣人の身体を斬り裂いたのだ。

 2人の攻撃はタイミングよく決まり、まともに受けたエリゴスは空中で紫色の爆発を起こし、元の人間の姿のまま落下していった。

 

「これで、確保だ」

 

 このまま落ちれば、エリゴスは転落死してしまう。シグナムは焼け焦げたエリゴスの腕を掴み、地上に下ろしたところでバインドを掛けて拘束した。

 こうして、3人目の科学者の弟子も六課によって逮捕されたのであった。

 

 

 

「これで!」

 

 エリゴスとの決着が付くのと同じ頃合、フェイトの電撃を纏わせた斬撃がネオガジェット・タイプGの真ん中の首を斬り落としていた。

 これで3つの首全てを切り落とされ、タイプGは漸く稼働を停止した。

 

「ロストロギアの封印も完了です」

 

 切り落とされても動いていた頭部は、エドワードが鼻先に着いたロストロギアにシーリング弾を放つことで活動を停止。巨大ガジェットを遂に倒すことに成功したのだ。

 勝利したフェイト達は、喜ぶ気力もなくその場に座り込んでいた。

 これによって機動六課とマラネロの一派とのロストロギア争奪戦は終了。"色欲"こそ奪われたが、"暴食"と"嫉妬"の確保に成功し、ウィネ・エディックスとエリゴス・ドマーニの両名の逮捕を成し遂げたのであった。

 

 

◇◆◇

 

 

 第94観測指定世界から帰ってきたフォワード達を迎えるはやて達。

 

「皆、まずはお疲れ様」

 

 だが、その表情には何処か暗さを伺わせる。

 完全とは言えないが、セブン・シンズ2種の確保と犯罪者2人の逮捕を成し遂げたソラト達は、暗い雰囲気に何か嫌な予感を感じていた。

 

「何かあったんですか? はやてさん」

 

 怪物の涎に塗れ、一刻も早くシャワーを浴びたいはずのスバルですら違和感に気付き、はやてに尋ねる。

 すると、はやてはゆっくりと口を開いた。

 

「315部隊に、マラネロ本人が現れたそうや」

 

 獣人事件の首謀者が直々に、しかも315部隊に現れた。普通に考えてもあり得ないような事態に、スバル達は騒然とした。

 

「それでな、チンクが……」

「チンクに何があったんですか!?」

 

 はやての話にはまだ続きがあり、勝利ムードだったフォワード達の雰囲気も重いものへと変わっていく。

 特に、はやてはチンクと最近姉妹になったスバルには話しづらそうであった。

 だが、スバルの質問にはやてはとうとう答えた。

 

「チンクが、マラネロに薬を打ち込まれた」

 

 起きてしまった、最悪の結果を。

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