魔法戦記リリカルなのはWarriorS   作:雲色の銀

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第42話 真実

 ディアボロス内部に侵入したなのは達は、作戦通り二手に分かれて進んでいた。

 なのはとヴィータが主犯格のマルバス・マラネロの逮捕とセブン・シンズの確保、スバルとティアナが動力炉の掌握を目的としていた。本来ならソラトもスバル達に付くはずだったが、アースを足止めするために別行動となってしまった。

 

「ここを抜けるとマラネロの研究室だね」

「ああ! ぶっ潰してやる!」

 

 急速に空を飛びながらマラネロの居場所へ接近するなのはとヴィータ。

 しかし、ここまで敵に一度も遭遇しなかったことが不気味であった。あの用心深いマラネロのことだ、侵入者を撃退する装備くらい用意しているはずである。

 その理由はすぐに察せられることとなる。

 

「あ? 何だここ、やけに広いな」

 

 マラネロのいる場所ならば、機材が豊富な研究室だと二人は踏んでいた。

 ところが、突き破ったドアの向こう側は広いホールのような部屋だった。中心にはセブン・シンズと"ディアボロス"の主砲"チェンジ・ザ・ワールド"の制御装置が見られる。

 目的の物の一つは確かにあったのだが、肝心のマラネロ本人がいない。なにより、何もない空間が広すぎる。

 

「罠……かも」

 

 なのはが一瞬考えると、正解を示すように部屋が激しく揺れ、中心の制御装置を覆うように巨大な柱が現れた。

 柱にはキッチリと並んだセンサーアイが並び、ジッと侵入者二人を見つめている。

 

「まさかコイツ……」

「ネオガジェット、みたいだね」

 

 タイプⅠとでも呼ぶべきか、柱型のネオガジェットはなのは達を捕えたままレーザーを放ってきた。

 ここまで敵機がいなかったのも、全てはマラネロの仕組んだ罠だったのだ。

 

「チッ、あの艦内データもやっぱ嘘か!」

「ううん、地図自体は本物だった。それに……」

 

 侵入場所にすぐ現れたアース。恐らく、彼がデータを送ってきたとなのはは予測していた。

 証拠に、アースの傍には警備用のネオガジェットの残骸が転がっていた。

 

「マラネロは全部知ってたんだ」

 

 全部知っていた上で見逃し、逆に自分の罠にかけたのだ。

 マラネロの恐ろしさを実感したところで、なのはとヴィータはタイプⅠとの戦闘に入った。

 七つの宝を手に入れ、全てを終わらせるために。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「やぁやぁ。こうして直に合うのは初めてだねぇ。ソラト・レイグラント君」

 

 ソラトとアースを待ち受けていたのは、全ての元凶たる男。

 悪魔の科学者、マルバス・マラネロだった。

 

「マラネロ、貴様っ!」

 

 科学者の登場はソラト達を引き入れたアースにも予想外だったようで、すぐにデバイスを展開しようとする。

 しかし、アースが動くのとほぼ同時に金色のバインドが出現し、アースの全ての行動を封じた。

 

「マルバス・マラネロ、ですね?」

「ああ。私が正真正銘、マルバス・マラネロその人だよ。会えて光栄だ」

 

 目の前の白衣の男は堂々とソラトに挨拶を交わす。

 この男さえ捕まえれば、全てが解決するのだ。そう頭の中で分かっていても、例えこの空間内で動けるのが自分とマラネロの二人だけだとしても、ソラトにはマラネロを楽に倒せる気はしなかった。

 そもそも、ここはマラネロが保有する戦艦"ディアボロス"の内部。言わば、敵の手中だ。

 

「ふむ……やはり君はよく似ている」

「似ている、だって?」

 

 警戒を強めるソラトに対し、マラネロは本当に世間話をするような口調で話し始める。

 似ているとは誰とのことだろうか。アースとの比較ならば、「似ている」とは言わないはずだ。

 

 

「勿論、君の父親──ジャスティ・レイグラントにさ」

 

 

 マラネロが何気なく言い放った一言はソラトに最大の衝撃を与えた。

 父親に似ている。つまりは、マラネロは父ジャスティのことを知っているということだ。

 

「な、なんでお前が僕の父さんのことを……?」

「なんでって、私とジャスティはかつて時空管理局で同じ部隊に──ああ、知る訳がないか。経歴は全て消したんだった」

 

 次から次へとマラネロの口から飛び出してくる情報に、ソラトの脳は処理をしきれずにいた。

 マラネロが元管理局員で、自身の父親と同じ部隊に所属していた?

 信じろという方が無理な話である。

 

「せっかくだし、昔話をしようか。君も知りたいだろう? 私と父親の関係を。勿論、君だって無関係な話じゃないさ」

 

 マラネロはそう言って、バインドに縛られたままのアースに目を向ける。

 ソラトのクローンであるアースにとっても、ジャスティとは血の繋がりがある。確かに無関係な話ではなかった。

 敵意と警戒をそのままに、話を聞く気になった二人へマラネロはニヤリと笑みを浮かべる。

 

「さて、どこから話そうか──」

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 マルバス・マラネロはその日、憤慨していた。

 構想を練っていた新しいインテリジェントデバイスのレポートに行き詰ってしまったからだ。

 あと一押し、何かが足りない。

 

「むむむ……ここはやはり質量兵器で簡単に火力を」

「何しているんだ?」

 

 頭を悩ませるマラネロへ気安く呼びかける声。

 ジャスティ・レイグラントは愛想の良い笑顔とは裏腹に、マラネロのレポートを強引に覗き見る。

 

「またお前はこんなものを……」

「防御魔法をAIに制御させつつ、ボタン一つで簡単に敵を殲滅できる火力! 多機能多彩高火力、このロマン! 君には分かるだろう?」

「だからって質量兵器を使おうとするな」

 

 質量兵器は管理局によって禁止されている代物である。ただのレポートとはいえ、こんなものを提出すれば大問題に発展する。

 勿論、マラネロも提出物に質量兵器など使ったことはなかった。が、事あるごとに使いたがるマッドな部分は普段から隠そうともしなかった。

 

「こんな効率的な兵器を何故禁止にするのか」

「自然環境や文明を簡単に破壊出来るからだ。この前も教えてやったはずだが?」

「ああ、覚えているとも。それで納得出来ないから私の疑問は晴れないのだ」

 

 マッドサイエンティストであるマラネロに唯一、友達として接していられるのがジャスティだった。

 人当たりの良く、腕も立つ陸戦魔導士。他にも仲のいい相手はいくらでもいるのに、マラネロと絡むジャスティは「変だがいい奴」と評されていた。

 

「それをテスト運用させられる俺の身にもなれ」

「何を言ってるのさ? 君だからこそ私の発明を任せられるんじゃないか。ジャスティ、君ほどの逸材を私は知らないよ。その才能と私の発明で、いずれは天下を取れるといっても過言ではないさ!」

「……そうだな。お前がまともに申請の通るデバイスを作れば、な」

 

 それでも、マラネロはジャスティの奥に光る才能を見出し、ジャスティもマラネロの天才的な発明を認めていた。

 互いを認め、高め合う理想的なパートナーであった。

 ─――あの日が来るまでは。

 

「マルバス・マラネロ二士。地上本部司令部への出向を命じられた」

「……は?」

 

 突然の出来事であった。マラネロは呆然としたまま上司から封筒を手渡しされる。

 末端の、しかも非戦闘員の自分が何故、本部へ呼び出されたのか。

 

「すごいじゃないか。この前のレポートが評価されたんじゃないか?」

「あ、ああ……」

「ん、どうした? 自分の才能が認められたんだぞ」

 

 ジャスティは素直に祝ったが、マラネロはすぐに地上本部の裏を感じ取っていた。

 そして、その読みは見事に当たった。

 

 

 司令部に向かったマラネロが通されたのは、一般の隊士ならば絶対に入れない暗部だった。

 管理局最高評議会を名乗る三人の脳髄。

 公には禁止されている技術の行使。

 そして、"|無限の欲望≪アンリミテッドデザイア≫"と呼ばれるアルハザードの技術を結集させられた人口生命体。

 

「ここまで見せた以上、お前の返答はYESしかなくなるが……お前には"無限の欲望"のサポートを務めて欲しい」

 

 評議会の議長から直々に指令を下される。だが、マラネロには()()()()()()()()()()()()()()()

 法を守るはずの管理局の裏で、法を破っての研究が続けられている。

 更には失われたはずのアルハザードの技術まで揃っているではないか。

 元より倫理観の薄かったマラネロの箍が外れるのも当然の結果であった。

 

「……喜んで、承ります。ウヒャヒャヒャッ」

 

 知的好奇心を満たす存在を前に、|悪魔≪マラネロ≫は静かに笑った。

 

 

 

 数年が立ち、ジャスティ・レイグラントも出世を重ねて小隊長を務めるようになった。

 マラネロがいなくなってからは変人扱いされる理由もなくなり、周囲からは信頼されるエースとして慕われている。

 

「レイグラント隊長、お疲れ様です」

「ああ。気を付けて帰れよ」

 

 その日も勤務を終え、オフィスに一人残るジャスティはふと、いなくなった友人のことを頭の片隅に浮かべていた。

 地上本部へ出向になってからは全く顔を合わせる機会がなくなり、ジャスティ以外の誰一人として思い出さないだろう存在。

 新デバイスのテストをやらされることがなくなったのは嬉しかったが、喜々として自分の発明と才能を語る姿は微笑ましかった。

 

「やぁ、ジャスティ」

 

 その時であった。丁度思い浮かべていた人物がジャスティの目の前に現れたのは。

 

「マルバス……!? お前、どうしてここに……?」

「積もる話はあとにしようか」

 

 白衣を纏い、牛乳瓶の底みたいな丸眼鏡。思い出していた風貌と変わらないマラネロにジャスティは安堵したが、それ以上に嫌な胸騒ぎを感じていた。

 

「ジャスティ、私と一緒に来る気はないかい?」

「何……?」

「管理局なんてちっぽけな枠から離れ、次元世界へ出るんだ。新しい技術や生命を手にし、全てを解き明かす。その中で、君は最強の騎士になれるんだ。ほら、前にも言っただろう? 君と私で天下を取れるって」

 

 ジャスティには、いきなり現れて誘ってきたマラネロの言葉が何一つとして理解出来なかった。

 確かに、前から難しいことを言う男ではあったが、ここまでさっぱり分からないのは初めてである。

 

「お前、管理局を抜けるのか? どうして?」

「だって、これからの私に法だなんて枠はいらない。誰かの監視下でしか出来ない研究にも意味はない。私は、私の求める事柄のみを求める。そして、そこには君が必要なんだ」

 

 眼鏡の奥の瞳からは昔の純粋な輝きは感じ取れなかった。

 マラネロは狂ってしまった。ジャスティにはそう判断するしか出来なかった。

 

「……済まない。俺には婚約者がいる。お前には手を貸せない」

「……そうか。分かった、君の意志を尊重しようじゃないか」

 

 ジャスティはマラネロの差し出す手を取ることは出来なかった。

 彼には守るべき婚約者も、仲間も、何より正義感がある。常識を捨てたマラネロには一切理解を示せなかったのだ。

 

「さようなら、ジャスティ。我が友よ」

「待て、マルバス!」

 

 そう宣言した瞬間、マラネロは黄緑の光と共に姿を消した。一瞬、転移魔法かと思ったジャスティだが、魔力の残滓が見当たらない。

 急に現れたマルバス・マラネロ。彼がこれから何をしようとしてるのか、ジャスティは知る由もなかった。

 

 

 

「そう、彼と会ったのはそれが最後だった。名残惜しかったねぇ」

 

 マラネロが一人呟く。

 新暦67年。時空管理局最高評議会と袂を分かち、自身の経歴を全て抹消してから逃亡して数年が経った頃。

 そろそろ人造魔導師技術が安定してきたこともあり、マラネロはかつての親友ジャスティ・レイグラントの遺伝子を欲するようになった。

 ジャスティの潜在能力を秘めた遺伝子ならば、マラネロの望む素体が生まれること間違いなしだ。

 思い立ったマラネロが情報を集めていると、興味深いことがいくつも出てきた。

 

「へぇー、ジャスティ結婚して子供まで出来たんだ! すごいやウヒャヒャッ! で、住所は」

 

 友の門出を素直に祝福するマラネロ。

 しかし、すぐに自分の目的意識に切り替わり、レイグラント家の位置を特定する。

 

「……そうだ! どうせならこれを使ってみよう」

 

 そして、マラネロは製造したばかりの人間と他の生物の遺伝子を組み合わせた人造生命体"獣人"を使うことを閃く。

 知能は人間の子供並だが、能力は怪物と呼ぶに相応しく奇怪なものが備わっている。

 

「君の仕事は火災による事故死を装いながらの処理。そしてジャスティ・レイグラントの血液の採取。さぁ、行っておいで」

 

 マラネロは早速、ホタルの遺伝子を持つ獣人をレイグラント家に送り込む。

 伝えた仕事はたった二つだが、ホタル獣人は分かっているのかよく分からない微妙な反応を返した。

 

 数十分後、ホタル獣人は腕にべっとりと血糊を付けて戻ってきた。抵抗でもされたか、やや外傷も負っている。

 偵察用のカメラドローンでもジャスティの家が燃えていることを確認。

 表情を変えぬまま、マラネロは獣人が持ってきた血を採取して培養、人造魔導師を生み出そうとした。

 

「……これは、ジャスティじゃない!」

 

 ところが、マラネロにとって想定外のことが起きてしまった。

 ホタル獣人が持ってきたのはジャスティ・レイグラントの血液ではなかった。

 ジャスティの息子、ソラト・レイグラントの物だったのだ。

 

〔昨晩発生した火災事故にて、死亡したのはレイグラント夫妻の二名。長男のソラト君は救助隊(レスキュー)によって救助され、命に別状はありません〕

 

 同時に、ミッドチルダで流れるニュースにてソラトただ一人が生き残ったことが判明した。

 マラネロは、親友が二度と手に入らず死んでしまったという実感を漸く味わうことになったのだ。

 

「ジャスティ……そんな……」

 

 獣人をその場で焼き殺し、マラネロは悲観に暮れていた。

 彼の災難は続く。製造した人造魔導師は再現率に難があり、髪と瞳、魔力光の色まで変わってしまった。

 これではソラト・レイグラントのコピーとしても不完全だ。

 

「……ジャスティの息子。奇しくも、オリジナルとクローン、二つの存在がいる」

 

 悲しみに暮れていたマラネロだが、何かを思いつきすぐに顔を上げる。

 以前、"無限の欲望"ことジェイル・スカリエッティが言っていた生命の揺らぎ。

 生命が持つ感情によってポテンシャルが変化するのならば、全く同じはずのクローンがオリジナルを超える可能性があるのでは?

 

「ふむ。実に興味深い。怒りによって揺らぎが強くなるのならば、この生まれ出た副産物にも意味がある」

 

 親友を自らの手で喪ってなお、残酷なことを思いつくマラネロ。狂気に魅入られた科学者は、金庫から一角獣を模した小像を取り出す。ルビーのようだが、色は鈍く濁っているようにも見える。

 

「君には怒りを溜め込んでもらうよ。その怒りが君を強くするのだから」

 

 マラネロは小像をポッドの中に入れると、六芒星の魔法陣を介して小像を魔力化して生み出されたばかりの少年の身体に埋め込んだ。

 

「ジャスティ・レイグラントの息子が二人。彼の子ならば、私が面倒を見るべきなのは当然だよね。さぁ、私に良き実験結果を見せてくれたまえ! ウヒャヒャヒャヒャヒャッ!!」

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「お前が……僕の両親を……」

 

 ソラトは身体を震わせながら、なんとか言葉を発した。今、ソラトの中では驚きと困惑と怒りと悲しみがぐちゃぐちゃに掻き混ぜられて、どうすればいいのか分からなくなってしまっている。

 あの火事は獣人により引き起こされ、取られた自分の血液からアースが生み出された。

 

 つまりは、ソラトを運命を決めた元凶はマルバス・マラネロだということであった。

 

「貴様はどこまでイカレてやがる!」

 

 バインドで縛られたままのアースですら、マラネロへの憎悪を隠し切れなかった。

 だが、当のマラネロは全てを話し終えてスッキリした様子でソラトへ語り掛ける。

 

「ソラト。君は私の理想通りに育ってくれた。正義感の強いところはジャスティにそっくりだ」

「……やめろ」

「そして今、君は私の前に辿り着いた。ジャスティが見たら喜ぶはずだ」

「やめろっ! お前が父さんを語るな!」

 

 流暢に語るマラネロの言葉をソラトの叫びが遮る。

 親友を裏切り、罪のない命を弄び、人の心を平気で踏み躙る。目の前の科学者を改めて悪魔だとソラトは思った。

 

「そうか。では、お喋りはそこまでにしよう」

 

 マラネロは笑みを崩さぬまま、アースのバインドを解く。

 

「さぁ、いよいよ決着だ! ソラト、君は私を殺したいくらい憎んでいるだろうが、同じく君を憎むアースが立ちはだかる! 自然に育ったオリジナルの素質が勝つか、それとも怒りで育った模造品の感情が勝つか! 私に見せてくれ! ジャスティの子らよ!」

 

 向き合う二人の剣士を見据え、悪魔の科学者は高らかに宣言する。

 ここまでの運命を操られ、真実を知らされたことで全ての御膳立てが済まされた。その中で、ソラトは漸く顔を上げてマラネロを見つめた。

 

「……確かに、僕はお前が憎い」

 

 両親の死の真相を聞かされ、生まれるはずのないクローンを作られた。これまでの人生が手の平の上だったことを考えても、ソラトにとっては許せる相手ではない。

 

「けど、僕はあなたに感謝もしている」

「……は?」

「スバルもギン姉もエド兄も、アースだってあなたがいなければ生まれることはなかった」

 

 ソラトの周囲にいる人物。

 スバル・ナカジマ。

 ギンガ・ナカジマ。

 エドワード・クラウン。

 そして、アース。

 彼らを造ったのもまた、マラネロだった。

 

「だから、僕は個人の憎しみを抑え込む。今は時空管理局の局員として、あなたを捕まえます」

 

 ソラトはマラネロとの全ての因縁を受け止めながら、あくまで局員としてマラネロと対峙することを選んだのだった。

 ソラトの宣言に、マラネロは初めて表情を変える。

 

「けど、それをアースが許すかな?」

「アース……」

 

 マラネロと戦おうとしても、目の前にはアースがいる。

 ここでバインドを解かれてから黙り込んでいたアースがゆっくりと動き出した。

 

「アース、今は君と」

「黙れソラト、お前は後回しだ。マラネロ、貴様を殺す」

 

 アースは振り返り、マラネロをキツく睨みつける。

 この状況は流石のマラネロも予想外だった様子で眼鏡の奥の瞳を大きく見開かせる。

 

「アース、君はソラトを殺して自分の存在を得るんじゃなかったのかい?」

「ああ。だが殺す順番が変わっただけだ」

 

 確かに、アースはソラトの次にはマラネロも殺すと宣言していた。しかし、全ての真実を聞かされた今ではマラネロを放置しておけなくなったのだ。

 ソラトは嬉しそうに微笑み、アースの隣に立ち並ぶ。

 

「マラネロは手強い。一緒に戦おう、アース」

「ふん、使ってやるから足を引っ張るなよ」

 

 殺し合う運命にあった、同じ姿の二人の少年。

 しかし今は肩を並べて全ての元凶へと立ち向かう。

 

「……仕方ない。それなら予定変更だ。私自らが君達を確かめてあげよう」

 

 マラネロは右腕を前に出し、錫杖型のデバイスを出現させる。

 

「マルバス・マラネロ。さぁ、鎮魂歌は歌い終わった?」

「滅びの音色を聞かせてやる」

 

 父親から続く全ての因縁を終わらせるため。

 自身を生み出した悪魔を葬り去るため。

 

 譲れない信念を剣に宿し、闘士達は運命に挑む──。


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