待っててくれてありがとう
とても申し訳無い
しかも短い
重ね重ね申し訳ない
リティスがエ・ランテルへやってきてから数日が経過すると、まだ人々に浸透したとは言えないまでも、「ごく一部の冒険者が知る、隠れた名店」のような印象を与えつつあった。
その日もリティスはあの世界での怪しげなアイテムを売りさばき、ひっそりとではあるが、少しずつ売り上げを伸ばしていた。
この街はごく一部を見なければ人は良いし、売れ行きの伸びも順調だ。これならいっそ、行商人を辞め、ここでずっと露店商人でもしていようか。
「(さて、ここである程度稼いだら次はどこへ行こうか。)」
……とはさらさら思っていないらしかった。
彼女はこの街を物を売るには好条件の街だと思っているものの、ここに定住するとか、根を下ろそうという気は無く、もう少し稼いだら、次はどこへ行こうかと考えているようだった。
商売が上手くいっているのであればこのままでも良いのでは? と思うかもしれないが、それだと単に“露天商”であり、“行商人”ではなくなってしまう。
既にゲームシステムから解放された今、そんな事を気にする必要は無いし、実際リティスも気にしているわけではない。
ただ“そうあれ”とされている為、無意識に“そうして”いるだけなのだ。
彼女にとっての最終目標は「大金持ちになる事」でも「商品を売りさばく」事でもなく、無意識に胸の内に眠る「金銭を貯めたいという欲求」を解消させる事……それをどう使うとか、どうして貯めるのかは考えていないのである。
今彼女の頭の中は「エ・ランテルから離れ王都へ向かうか……あるいは敵国らしい帝国とやらに向かってみるか?」といった次の行き先でいっぱいだった。
◆■ 第四話 「こちら本日の目玉商品でございます。」 ■◆
「えっ!? リティスさん、今度この街を出てっちゃうんですか!?」
「元から私は行商人……そして旅の者だからね。 またどこかへ旅立つとするさ。」
寂しくなりますね、と最近常連と言っていいくらい店に訪れていたニニャは寂しげに肩を落とした。 彼にはかなり稼がせてもらった。 知り合いの冒険者に紹介してもらったり、自身も色々と入用らしく魔道具なんかも購入していった。 そのお陰で依頼は成功続きらしい。 だから買っていってくれるのだろうが。
「じゃあ、もう会えないかも……。」
「……というのは少しもったいな、いや、寂しいだろう?」
そんな事もあろうかと……と言いながら、リティスは懐から一枚の青い紙切れを手渡す。 それは、紙自体に装飾が施され、何らかの魔術が宿っていそうな紋様が描かれている。 以前ニニャが商店で商品の場所には並べられずに置いてあった綺麗な色の紙切れと同じ物だ。
「これは?」
「“招待券”だよ。 離れていても私と君を繋ぐものだ。 今後とも御贔屓にしてくれるつもりなら、大事にしてくれると私も嬉しいよ。」
ニニャは首を傾げながらそれを太陽の光にかざしたり、裏表をしげしげと見つめた後……「多分、これも何かしらの不思議なアイテムなんだろう」と納得し、懐に仕舞う。
「招待券は夜にしか使えないし、戦闘中も使えないから気を付けるんだよ。」
「使うとどうなるんですか?」
「……それは使ってみてのお楽しみかな?」
そう言って口元に手を置いて、妖しげな笑みを浮かべる。
……ニニャはもうそんな彼女に慣れてしまったが、普通そんな表情でこんなものを渡されても、使おうと思う者が居るんだろうか。
大抵こういう時は「説明がめんどくさい」か「実際に使ってみた方が実感しやすい」時であるので、特に含みがないときのほうが多いというのは既に知る人には知られているが、時々心臓に悪い。
「さて、それじゃあ今日も何か買っていくかい?」
「はい、今日は……。」
場所は変わり、駆け出しの冒険者達御用達の安宿、その一室にて、金色の紋様が刻まれた“黒い紙切れ”を手に、その紙切れを穴が空くのではないかと思うほど凝視する……紅のマントと、金色と紫色の装飾が施された全身鎧を身にまとうオーバーロードが居た。
「アインズ様、それは?」
その戦士の恰好をしたオーバーロード、アインズの隣で、彼の手にある謎の紙切れを見つめながら、黒髪の美女、ナーベがその紙切れについて問いかける。
「アインズ様ではない……モモンだ。」
「し、失礼しました。 モモンさ……ん。」
「……これはとある行商人といつでも……いや、夜間だけ取引が可能となる“VIP招待券”だ。」
「VIP招待券……。」
「もし報告にあった“リティス・トゥール”という者が、ユグドラシルに居たリティスと同一人物であるなら、この世界でも問題無く使えるはず……と言っても、私もその報告が挙がるまで存在を忘れていたし、この世界で彼女が居るかは定かではないが……報告を聞く限り、彼女以外に考えられないんだよなあ……。」
報告でその者の名前が挙がったのはほんの偶然だった。
事前に街を調査していた下僕達から上がった報告の中、その隅の隅に、そういえばどうもこういう噂が流行っているらしいです、というだけの一文を、報告を聞きながら流し読みしていたアインズが大昔の都市伝説染みたソレに「なにこれ?」と思い、試しに更なる調査をしてみた結果、リティス・トゥールという人物が浮かび上がったのである。
「……そのリティス・トゥールという人間と取引を行うのですか?」
そう問うナーベはアインズに対しての反感ではないが、そもそも人間などと取引を行うという事自体に不快感を覚えているようで、苦虫を嚙み潰したような顔からもそれが察せられる。
「ナーベ、人間嫌いを直せとまでは言わないが……少しは表に出さないよう努力しろ。演技というのも大切だ。 それに……リティスはただの人間ではない。」
「ただの人間ではない……?」
それは、モモンが認めるような、優れた人間である、という事だろうか……そう考えはするが、想像が出来ず、ナーベは首を傾げた。
「人間でありながら、我々異形種やカルマ値が低い者とも取引を行ってくれる。それに、見た目に反して取引では嘘やぼったくりをしないし、足元も見られない。敵対状態になると金銭を湯水のように使用するスキルを使っての超強力な消耗戦を強いられる……とまあこんな所だ。私が知っているリティスならな。」
「取引などせずとも、殺して全て奪えばいいのでは?」
「ダメだ。彼女は自分のアイテムストレージとは別に魔道具のトランクケースを持っているのだが、これが曲者でな……持ち主が死亡するとトランクケースが消滅してしまい、何もドロップしない。本人もある程度の強さと、盗みや魅了に対して完全に近い耐性を持っている事から、強奪するのは至難の業……素直に取引に応じた方が利益になるという仕組みになっている。」
「……面倒な。」
なんだソイツは? 内心で人間の癖に生意気なと吐き捨て舌打ちを打つナーベ。実際、ユグドラシルではこうでもしないと課金アイテムを盗み放題、取り放題になってしまう為、課金アイテムを扱うNPC達は、こういった対策を取っており、無理して倒してもほぼメリットはない仕組みとなっている。
専用のドロップアイテムも存在するが、それだけの為に受ける被害を考えるとやっぱり素直に取引したほうが何倍も利益になる。
精々、取引中のプレイヤーを狙ったPKだとか、わざと敵対し、ヘイトを別のプレイヤーに擦り付けるだとかといった姑息な手段で彼らを活用する輩もユグドラシルには居たが、効率が悪く、モンスターの大群でやった方が遥かに確実で早いので、すぐその手法は途絶える事となった。
……とここまでリティス・トゥールについて考えてみたものの、本当に彼女なのだろうかとアインズは内心で唸っていた。
そもそも彼女本人だったとして、どうして彼女はこの世界に居るのだろう? 他の行商人NPCなんかも来ているのか? とするとやっぱりプレイヤーも来ていると考えた方が良い。
罠の可能性は? ほぼ無いと見ていいだろう。何故ならこのVIP招待券自体、アインズのアイテムストレージの奥底で眠っていた代物なので、細工のしようがない事と、この招待券を利用して
「まぁ、それもこれも今夜これを使えば分かる事だ……が!」
招待券を持っていないもう片方の手で頭を抱えるアインズ。その顔に表情筋や皮は無いが、もしあれば苦悶の表情に染まっていたことだろう。 何故こうも苦しんでいるのか……その理由は一体……? とナーベが考えていると、アインズはぽつりと呟いた。
「
「えっ……。」
まさかの理由だった。そして、同時にナーベは「ナザリックにある金貨等をいくらか使えばよろしいのでは」と思い、そう進言しようとするも、それより早くその疑問に対してアインズがこう答える。
「VIP招待券はな……VIPである事でしか買えない商品があるのだが、これを使用した際、必ず何らかの課金アイテムを買わないと、確率でVIPから通常に引き下げられてしまう。そしてここでいう所の課金はリアルマネー……ユグドラシル金貨ではない、別の通貨でのみ取り扱っている。」
報告を聞くに、どうやらこの世界に元から居たであろう冒険者達からは普通に金銭を取って商売しているらしい事から、恐らくはユグドラシル金貨ではない、この世界の通貨で初めて課金が出来るのだろう。
それがどの程度の値段かは分からないが、ひとまずこの国の冒険者でも買えるような値段である事は確実だ。 むしろ前の世界で普通に課金するよりかは幾分か、いや、かなりハードルが低いように感じる。
だがアインズは生憎、報告を聞いた直後である今日、この日初めてこのエ・ランテルへ訪れ、まだ冒険者登録も済ませていない。
正直言って、この世界の通貨に限って言えば金欠どころの騒ぎではない。
ナザリックのアイテムを適当な商店で売るか……? いや、まだこの世界においての金銭の感覚であったり、アイテムの相場であったり、どの程度の効果のアイテムが売り出されているかが分からない。
ユグドラシルで一般的だった金貨でさえ通用しないのだから、その辺りが確認、把握出来るまでは迂闊に何か売ったりするのは避けた方がいい。
また、たとえゴミみたいなアイテムでも、この世界でもユグドラシル製のアイテムが再び手に入れられるか分からない以上は下手に売ることも出来ない。
ではどうするべきか……アインズは色々と考えた結果、一つの答えを導き出した。
「……仕事を探すぞ!」
ぶっちゃけクソ難産で一回全消しした後やり直したのでどっかおかしくなっている可能性が高いです。
もしそうなってたら言い訳はしない……すまねえ……指摘してくれたら直す。
ちょっと既に直しました
「さて、そういう訳でこの街では最後になるわけだが、何か買っていくかい?」
↓
「さて、それじゃあ今日も何か買っていくかい?」