ユグドラシルの行商人NPCになりました。   作:政田正彦

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良客にはそれなりのもてなしを

「ああ……死ぬかと思った……。」

 

「世の中にはあんな化け物が居るんだなぁ。」

 

「九死に一生を得るとはまさにこの事である。」

 

 

 クレマンティーヌがエ・ランテルを去ってから少しして。

 

 漆黒の剣の面々はあった出来事を事細かに冒険者組合に報告する為に走っていたところで、冒険者組合でリィジー・バレアレ……ンフィーレアの祖母にあたる人物と出会い、共に薬屋へと向かっていたモモン達と合流。

 

 モモンは迅速に行動を起こし、漆黒の剣の面々から聞き出した犯人の特徴や現場に残されていた手がかり(ルクルットの放った矢を受けた人物の血液やカジットの人相等)から、犯人の居場所を突き止める。

 

 後は、その驚異的な戦闘力に物を言わせて事態を収束へと導いた。

 

 そのスピードたるや、スティレットによって刺された傷を治した漆黒の剣の面々や冒険者組合からの応援が訪れた際には、全て事が終わっていた程の早さだった。

 

 墓地からアンデッドが出てくるのを防ぐための門を守護していた兵士達は「伝説の一端を垣間見た」「大剣を小枝のように振るい、アンデッド達が吹き飛んだ」「大剣をぶん投げて巨大なアンデッドを一撃で仕留めた」「美しい黒髪の女と魔獣の戦いも我々とはまるで次元が違った」と、目撃情報も多かった事から彼らの功績である事も確認される。

 

 首謀者であるカジットは死亡。

 攫われたンフィーレアはモモンによって無事に救助され、そして漆黒の剣の面々を襲った女、クレマンティーヌはあれから一度も姿を現さず行方をくらませた……となった。

 

 主犯格と思われる女の行方が知れないのは心残りだが、とにかく、この街が死の街になる事をたった2人と1匹の冒険者チームが解決した事は、冒険者達、ひいてはエ・ランテルで大きなニュースとなって人々の間に知れ渡った。

 

 功績を認められ、モモンとナーベ、そして魔獣のハムスケからなる、冒険者チーム『漆黒』は、銅級からミスリル級へと昇級。

 

 その圧倒的な実力でこのエ・ランテルを救ったという功績の大きさから、いずれはアダマンタイト級に届くだろうと、期待の新星として注目の的となるのだった。

 

 

 ……要するに、事は全てモモン達があっさりと収束させた。

 

 

 そして、一方の漆黒の剣の面々は一時的に冒険者稼業を休業していた。

 ()()()()を決めるためだ。

 

 

「……なぁニニャ、そろそろ頭上げてくれないか。」

 

 ペテルが困ったようにそう言った先では、ズンとそこだけ日光に遮られ夜に包まれたかのように暗く落ち込んだニニャが居た。

 

「私はこれからどうすれば……。」

 

「いや、だから今まで通り普通に冒険者を続ければいいだろ? 何が問題なんだ……?」

 

 ルクルットが慰め、あるいは励ますようにそう言うが、そう簡単な話ではない、というのは彼も理解している。

 

 そもそもの話、何故ニニャは男装をし、女である事を仲間にすら隠していたのかという理由についてだが、これに関しては「チームの中に女が居ると揉めると聞く」という数日前ルクルットがモモンへ話した事も理由の一つではある。

 

 だがそれ以前に、それならそれで、そもそも彼女が冒険者としてチームを組む際に女の人とチームを組めば良かったのではないか。

 

 そうしなかったのは、彼女がまだ若輩で魔法詠唱者としても、未熟……いや、それに関しては今でもそうだが、昔は今よりも更に、ひよっこもひよっこだった時に冒険者となった彼女は「男の視線」という物に忌避感を抱いていたからだ。

 

 貴族の男に無理矢理姉を連れ去られたという事がやはり大きかったのだろう。

 当時の彼女の中では「貴族の男=屑」ではなく「男=屑」だった。

 故に、女であるからと舐められたり、騙されたり、無理矢理暴行を加えられたりする事を事前に避けるため、男らしく……髪を切り、胸に布を巻いて、なるだけ声も低くなるように話し……結果、男の中にも良い人が居るんだと知った。

 

 だからこそ明かすわけにはいかなかったというのもある。

 

 彼らが自分の思う悪い男ではないというのは承知していたものの、だからといって今までずっと騙して来ていたのを明かされて良い気はしないだろうし、もしかしたら女だと知れば彼らも……と考えずにはいられなかった。

 

 そしてそれは、ニニャが彼ら三人を心から信用していなかったことの証拠でもある。

 

 それがバレてしまった今……ニニャはどうしようもない罪悪感、後悔の念、そして自己嫌悪に陥っていた。

 

 バレた後も、彼らは「そういう事情があるなら仕方ない」と苦笑いで許してくれていて、尚且つ「優れた魔法詠唱者はチームに必要だ」と受け入れてくれる。だが、だからこそ、より自責の念に駆られるのは無理も無い事だ。

 

 なによりも救いがたいのは、件の女によって魅了で操られていた彼らに無理矢理襲われそうになってから……彼らの顔を、きちんと直視できていない。これは悔恨の念とかではなく、ただただ恐怖で、彼らがどんな顔をしているのか見たくなかったのだ。

 

 そして心のどこかでは「そんなはずはない」と思っていて……思っているからこそ、その事実を伝える事も出来ない。

 

 こんな私が、これからもこの人達と冒険者を続けても良いのだろうか?

 

「……無理、です……すみません。」

 

「……そうか。だけど、すまない。まだ、俺達にはお前の力が必要だ。そして幸い、俺達は件の陰の功労者としてそれなりの報奨金をもらって、こうして休業しても多少余裕はある。……言いたい事は、分かるよな?」

 

「おい、ペテル……。」

 

 彼の言いたい事は他の三人も分かる。

 あの一件でいち早くエ・ランテルの危機を冒険者組合及びモモンとナーベへと報せた4人は、命からがらその組織の情報を持ち帰った事、それが結果的に迅速な対応へと繋がった事への功績を評価され、報奨金という形で決して少なくない追加収入を得た。

 

 そこに、本来であれば護衛として最後まで守り切れなかった事から依頼料を受け取れなくても文句が言えないところを、依頼人であるンフィーレア・バレアレから「貴方達がモモンさん達を呼んでくれなかったら今頃僕はどうなっていたか」という感謝と善意から、規定通りの報酬が受け取れた。

 

 

 こうして、少しは余裕が出来た四人だが、だからと言ってずっと休んで居られるほどの余裕もないという事だ。

 

 ペテルとしては、やはりまだ冒険者を続けていたい。それは夢がどうとかではなく、純粋に職を失いたくないからという理由だ。情が無いように思えるかもしれないが、情で金は湧いてこない。

 

 彼らは元々街道にちょくちょく現れるモンスターを狩り、その報奨金で生計を立てていたような、こう言っては何だが、未熟な若輩者のチームだ。

 

 物語にあるような英雄性は無く、いつかこうなれたらという夢はあるが、それを実行に移せるだけの実績と実力は備わっていない。

 

 今まではそこに「今はまだ」と言えたから良いけれど、このチームの中でも重要な役割を持つ魔法詠唱者に抜けられて三人になったり……例えば彼女よりも優れた魔法詠唱者をスカウトして四人で冒険者を続けるとなっても。

 

 きっと三人の中にはしこりが残るだろう。

 

 だからペテルとしては何とか彼女にチームに残っていて欲しい。

 その為なら騙された事など関係無い、そもそも怒ってすらいない、純粋にそこまでの事を姉の為にしていたと知って尊敬の念すら覚える程だ。

 

 だが彼女にとってその事実は慰めにもならない。

 

 彼女にとって慰めになる物、それは落ち着いて考えをまとめる時間だ。

 その結果やはり無理だとなったらペテルにはもう何も出来ない。

 だがどうにか立ち直ってさえくれたらそれはペテルだけでなくチーム、そしてニニャ自身の為にもなる。

 

「……俺達はもう行く。ニニャ、まだ時間はあるから、ゆっくり考えてくれ。……またここで会おう。」

 

 そう言って、ペテルはゆっくりと席を立つ。

 ルクルットとダインの二人は、やはりどこか納得できない様子ではあるものの……やがて席を立ち、暗い顔で4人の活動拠点だった酒場から出ようとして……。

 

「……ペテル、悪い。俺やっぱ今のニニャを放っておけねえわ。」

 

「何? ルクルット……?」

 

 ルクルットがペテルにそう告げると、突然ルクルットは踵を返してニニャが座っている席へと戻る。そしてドカッと乱暴に座ったかと思うと、ニニャの方を見て話し始めた。

 

「俺はやっぱりお前と冒険者がしたい! お前が男とか女とか関係なくってだな……仲間として、信頼してるから! 大体お前、俺はナーベさんみたいな大人の女性が好きだし、ペテルは胸のデカい女が好きだし、ダインはアレで意外と熟女好きだ!!」

 

「なっ!?」

 

「何を言ってるのであるか!?」

 

「という訳で、お前が女でも問題ナッシング! どーよ!」

 

「い、いや、どーよって言われても……。」

 

 この男はこの期に及んで何を言ってるんだとしか思えない。だが、あまりにも唐突でニニャも呆気に取られて涙が引いて冷静になった。冷静にルクルットに引いた。

 

 だから「この期に及んでふざけてるんですか貴方は」と言おうとして、今まで顔を逸らしていたルクルットの顔へ目を向ける。

 

 そこにはふざけている訳でもニニャを侮辱している訳でもなく、本気で「だから問題無いよな!」とでも言わんばかりの真剣な馬鹿の顔があった。

 

 恐れていた、女だと分かって弱みに付け込む下衆な男の顔だったり、自身への失望を覗かせる顔だったり、自身へ怒りを覚えているような顔でも無かったのだ。

 

「……なぁニニャ、俺達モモンさんに言われたよな。連携の取れたいいチームだって……俺もそう思う。今でもな。だから俺はやっぱり……まだ諦めたくねえよ。お前も居るこのチームで冒険者がしたい。」

 

「ルクルット……。」

 

 彼は陽気でお調子者だ。それに軽薄で、女好きで、惚れた女には出会った次の瞬間ナンパするような男だ。だが、そんな彼の性格に何度も救われたのも事実だ。そんな彼が今、真剣に仲間としてニニャを必要としているのが分かる。

 

 そして、それを見ていたダインとペテルも、ルクルットに続いて胸の内を開けた。

 

「私も同じ意見なのである。……あの事件の首謀者から逃げる時にも、同じことを思ったのである。この四人で良かったと。あの連携があったから、今の私はここに居るのだと、今でも思っているのである。」

 

「ああ、それに……ニニャの機転が無ければ俺達は全員死んでいた。俺達、皆お前に命を救われたんだ、ニニャ。……だから……身勝手かもしれないけど、俺は命の恩人のお前にそんな顔をしてほしくない。」

 

「……皆……ごめんっ……本当にすみませんでした……!」

 

 ニニャの目尻から、ポロポロと光る物が、ギュッと膝の上で握った手の甲へと落ちていく。しばらく泣き続けて、その日は解散。

 

 とりあえず、まだ気持ちの整理もお互いつかないだろうから、貰ったお金で三日間だけ休業して、気持ちの整理がついた後、やっぱり考えが変わらないならその時にまた色々と今後について話そうという事になった。

 

 次第に、ニニャは彼らと出会えた幸運と、今生きているという奇跡をようやく実感し始めた。

 

 そして……。

 

 

◆■  第八話 「良客にはそれなりのもてなしを」 ■◆

 

 

 

 

「防具の類を新調したいのですが、良いものはありますか?」

 

「無いとでも? いいや、もちろんあるとも。さ、こっちへ。」

 

 ニニャは、今回間接的に命を救ってくれた命の恩人でもある黒の行商人の下へと訪れていた。

 

 招待券は失ってしまったので、ペテルの物を借りて。

 

 ショックはかなり大きかったとはいえ、仲間の協力もあり、あれから時間をあまりかけずに立ち直った。こんな事でめげているようでは姉を救う事など出来る訳が無い。それに、あそこまで自分の事を買ってくれている仲間の事を……裏切る事は出来ない。これからも彼らの隣に立つ為に、せめて今出来る事をする必要があった。

 

「それで……どのような装備にする予定だい? 安めに済ませるか……それとも、新品なのだから良いものにするというのも手じゃないかな?」

 

「そう、ですね……実はちょっとだけ臨時収入があったので、それを使おうかな、なんて……。だから、いつもより少しランクが上がっても大丈夫だと思います。」

 

「臨時収入……! ああ、素晴らしい! では早速いくつか見繕ってみよう。」

 

「あ……でもあんまり高いのは無しですよ? あ、あと訳あって招待券を失ってしまったので再度同じ物を購入したいのですが……。」

 

「もちろんいいとも。お得意様だからね、君は。」

 

 そう言いながら、上機嫌でリティスはあれこれと装備を並べ始める。やはりどれもこの国ではなかなかお目にかかれないクオリティの品ぞろえだ。色々と説明を受けながら、一つ一つ目を通していく……。

 

 すると、ふとリティスの手が止まり「あぁ、そういえばもう一つ聞きたい事があった」とニニャに振り返る。

 

 

「今回は()()()()()合う物も候補に入るのかな?」

 

「……あ~……どう、しようかな……。」

 

 その身体……というのはもちろん、ニニャの身体が女性であり、今まで提供していた装備は基本的にはどちらでも装備が可能な物。つまりは……女っ気の無いモノを提供していた。

 

 だが、今回は例の事件で装備を失い、その際サラシのように使っていた布も、身体のラインを隠す為に使っていたローブもダメになってしまった。留め具の部分が引きちぎれたり穴が開いたりと散々だ。

 

 今の彼女は、男装している女性ではなく……男装に失敗した女性といった印象だ。

 

 最初現れた時リティスは「道理で違和感を感じると思った」と、驚きよりも納得が勝ったようで、事情も深くは聞かない事にしたのだが、それが提供する品に関わる事とあっては、念のため聞いておかない訳にはいかなかった。

 

「……女性用となると何か変わるんですか?」

 

「変わるとも。これなんかは魔力向上という極めてシンプルで分かりやすい効果に加え、装備としても優秀なんだが……()()()()が存在しない。つまり女性用と男性用しか無くてね。」

 

「男性用でも良いのでは?」

 

「そういう訳にもいかないんだ。一口に装備と言っても、装備するのに条件があるものがあってね。これもその類だ。と言っても、性別が限られるだけで他に条件らしい条件は……一定レベル以上の魔法詠唱者、ぐらいしかない。」

 

「なるほど……。」

 

 説明をしながら広げられた装備は、今までのと比べるとやや女性らしさが感じられるデザインだが、そこまで奇抜で前面に女性らしさを押し出すようなデザインでも無い。

 

 ……故に少しだけニニャも興味が湧き、じっくりと見定める。

 

「女性にしか真価を発揮しない……そんな変わった装備もあるんですね……。」

 

「結構あるよ。……確か前に私の顧客になった女冒険者も、女性で、かつ処女でないと着れない鎧を使用していたりしていたからね。」

 

「そ、そうですか。(誰だろうそれは……? なんか、そんな装備を着ている人を聞いた事がある気がするけど……。)」

 

 その女性にも興味を惹かれるが、とりあえず今はその女性より自分の装備を見繕わなくては。

 

「(……実はあの事件で私が女性である事は組合や一部の冒険者の人にはバレてるみたいだし、もう隠す必要もあんまり無いんだよなあ……。)」

 

 ニニャはあの後装備が少しはだけた状態……加えて、怪我の治療の為ダインの前でボロになったマントを脱いだりしているし、なにより、休業中にも冒険者組合に訪れたが、その際はマントもサラシも無い状態。誰がどう見ても女性なその姿を他の冒険者達や組合の係員に見られたりしている。

 

 なので、正直言って今から男装する意味は……あまり無かったりする。

 

「(……でも、まぁ、今までの私との決別という意味では良い機会なのかもしれないな……。)あの、それじゃあこれを下さい。」

 

「上下で金貨8枚。同シリーズの帽子と靴も含めると少し値引きして金貨14枚になるよ。」

 

 そう言って更に取り出された同シリーズ、と言われた靴と帽子はなるほど確かに同シリーズだ。イメージと全く合致する魔法詠唱者らしいとんがり帽子に、同じ系統の色で揃えられた靴。

 

「ちなみにセットで装備するとセット効果がついて能力値が底上げされたりするんだけど……まぁ、残り二つは今じゃなくても後で買っても……。」

 

「いえ……せっかくなので、全部揃えちゃいます。」

 

「おお、素晴らしい! そうこなくては……。なら、せっかくだ。次回の分の招待券はサービスでつけておこう。」

 

「いいんですか? ありがとうございます!」

 

 ここが自分の転機……そう思うと、財布の紐が緩みやすくなる。せっかく一度きりしかない人生の、大事な転機なのだから、と。

 

 これで例の件で尽力したことによる組合からの報奨金はほとんどパアだ。少しの間は残りのお金で暮らすことになるだろう。しかし、ニニャはルクルットのように女にも酒にもあまり興味が無いので、きっとなんとかなる。

 

「……あ、あとそういえばその、一つ聞きたい事もあったんですが……。」

 

「うん? 何かね。」

 

「ここに、肩に届かないくらいの長さの金髪で、猫みたいな雰囲気の女戦士が訪れたと思うんですが……。」

 

「ああ、彼女か。うん、確かにここを訪れたよ。どうも、ここが何なのか知らずに来たようだけど、色々と見せたら一つだけ商品を購入して帰っていったな。」

 

 そう、あの招待券をわざと破かせてここに追いやる事で、ニニャ達は命を救われた……だが、その後でリティスに厄介な物を押し付けてしまったという念もあったので、今日ここに来るまではそれが懸念されていた。

 

 まぁ、結果としてはこうしてピンピンしていた訳だが。

 

 話を聞く限りだとあの女はリティスに対しては商品を一つ購入しただけで特に害を与えた訳ではないらしい。流石に見ず知らずの場所に飛ばされてあの女も動揺していたのだろうか、と推測するが……。

 

 実際はちゃんと襲っていて、襲われたうえでリティスが上だったというだけの話だったりする。

 

「それって、どこに行ったか分かったりは……。」

 

「しないねえ。それに申し訳ないけど、私は客の情報は売らないって決めてるんだ。それが例え悪人であろうともね。」

 

 ……でなきゃ()()()()()()()()なんて取れないからね。とリティスは内心で独り言ちる。

 

「そうですか……すみません、変なことを聞いて。」

 

「いや、いいとも。さて……装備だけど、ここで着替えて行くかい? それとも包んで持って帰るのかな?」

 

 装備と新しい招待券を渡しながら、リティスがそう尋ねる。

 ニニャはそう言われると、新しい装備に早く袖を通して具合を見ておきたいと思った。

 

「えっと……じゃあ、着てみます。今日は休みだけど……。」

 

「分かった。それじゃあこちらへ来たまえ、着替え用の部屋に案内しよう。」

 

 そして案内された部屋は、大きな鏡と、服を入れておくための棚や籠が置かれているだけの簡素な部屋だった。これは、リティスがこの世界に訪れてから用意した部屋だ。

 

「この屋敷……ひょっとしてちょっとずつ整備されてます? 前は着替えの為の部屋なんて無かったような?」

 

「まぁ、あった方が色々と都合が良いだろうからね。」

 

 ユグドラシルの時は装備はただコンソールを開き、選択すれば装備出来た。

 だが、この世界ではそうはいかないとリティスは気付いた。ほぼ廃墟同然だったがらんどうな部屋……ユグドラシルでは全く意味の無い空間だったそれを改装した結果だ。

 

 そしてしばらくして、着替え終わったニニャが扉から顔を出す。

 

 魔法詠唱者が好んで使いそうな装備……薄い紺色のケープに、紫色のリボン。そして上下のスーツ。上はスッキリしたラインで、下がるにつれてゆったりとしたボリュームがあり、下はそのゆったりとしたラインを残しつつ、足元でキュッと締まるタイプの動きやすそうなパンツ。

 

「どうだい? 着心地は。」

 

「良いですね、流石は魔法の装備……なんとなく、魔法詠唱者としての強さを支えられているような、そんな心強さを感じます。」

 

「魔力を向上させているハズだからね。気に入ってもらったようで何よりだ。……さて、後はもう買い忘れはないかい?」

 

「そうですね、そろそろ帰ります。」

 

「分かった、それじゃあまた来ると良い。私はいつでも待っているよ。」

 

 

 

 そして、フィンガースナップが鳴り響く。

 

 

 

 次の瞬間には、ニニャは自分が取った宿の一室に居た。

 

「何度行っても慣れないなあ……。」

 

 既に常連と思えるぐらいには使用しているリティスの招待券だが、未だにフッと消えてパッと戻ってくるこの感覚には慣れないとニニャは独り言ちる。そして、購入し、早めに袖を通した装備に視線を落とす。

 

 似合っているかは、正直分からないし、多分気にすることも無い。

 ……だが、これからはこういうのも悪くないと思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや?」

 

 たった今しがたニニャを現実世界へと送ったリティスは、新たに招待券によって夢の世界に誰かが送られてきたことを察知する。

 

 千客万来、今日は客人が多い日のようだ、と上機嫌にリティスは屋敷の入り口へと向かう。

 

 

「あら……?」

 

 ……そして、リティスはそこに黄金を見た。

 

 

 長く(あで)やかで頭の後ろに纏められた金髪、薄く桜色の微笑をたたえた唇、色素が薄く透き通るような肌、そして深い海中から見る光、あるいはブルーサファイアを思わせる瞳……その全ての要素が完璧に整った、そこに居るだけで空気が変わったとすら錯覚するほどの美貌。

 

「……これはこれは……まさかこんな所に貴女のような御方が足を運んでくださるとは……。」

 

 異世界から来たリティスでも、少しこの王国で過ごせば嫌でもその情報は耳に入ってくる、国の重鎮。

 

 

 

 彼女の名は、ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ。

 

 

 この国の第三王女である。




時系列的にはこの時既にアインズ様はシャルティア戦を終えようとしている頃。
階級がミスリルになった後すぐにアルベドからシャルティアの件を聞き、
因縁の相手、ホニョペニョコという強大な吸血鬼を倒したという事になる。

休業から戻った漆黒の剣の面々はちょっと休んでいる内にモモンがアダマンタイト級冒険者になっている事に。




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