事の発端は数時間ほど前に遡る。
「ああ、そういえばラキュース。例の黒い行商人という人には会えたの?」
「ん゛っ……。」
それはいつものお茶会……もとい、八本指対策会議でのラナーの一言から始まった。
ラキュースはラキュースで「そういえばそういう名目でリティスを探していたんだった……。」と今になって思い出したようで、冷や汗を流しながらあった事を話した。
色々と不思議な人で、噂にあった事はほとんどが事実だった事。
闇の力を扱えるようになる指輪を購入した事。
蒼の薔薇のメンバーも彼女の商品に興味を持ち、いくつか試験的に購入してみた事。
そして……。
「
「本当にね。でも、人間だと本人は語っていたわ。正直どこまでホントか分からない……持ってくる商品も、実力も……底が知れないわ。」
語りながら、一度彼女と至近距離で目が合った時の事を思い返すラキュース。
あの時、ラキュースが彼女の目から感じたのは……底の見えない谷底やどこまで続くかも分からない夜、深淵を見ているかのような錯覚に陥ったのだ。
「貴女でも勝てない相手という事ですか?」
「……どうかしら。現実世界ならまだしも、あの夢の世界でとなると、分が悪いどころの騒ぎじゃないわね。……きっと瞬殺されると思う。ただまぁ、悪人って訳では無さそうだし、八本指の事を聞いても本当に知らないみたいだったわ。これはティナとティアからも確認が取れてる。」
なるほど。とラナーは頷いた。なにやら良く分からないジョーカーが紛れ込んだようだが、ひとまず敵ではないと聞いて警戒度を少しだけ下げる。
聞けば子供が好きで王都の子供達からも人気らしい。それがカムフラージュではないという確証も無いが……。
それはそれとして、その夢の住人という職業については興味深い点が多い。
「夢から現実へ……現実から夢へ、物を持ち込んだり逆に持ち出したり出来る、ですか。それは……例えば、死んだ人の夢を私が見たとして、その夢からその死んだ人を現実へと持ち帰る事が出来たりするのでしょうか?」
「えっ……? それは、うーん、どうなんだろう……流石に出来ないと思いたいけど……。」
「この世に存在しないアイテムを夢で作り出し、それを現実に持ち帰る事は?」
「……出来ないとも言い切れないわね……。」
そう、もしその夢の世界を自由自在にコントロールできるなら……これほど恐ろしい相手もそうはいないだろう。何故ならその自由自在にコントロールした世界からこちらの世界になんでも持ち込めるなら、死人も武器も魔法も持ち込める事になる。
それは実質、殆ど全能の存在なのではないか。
いや、もしかしたらその全能の存在すら夢の世界で生み出す事が出来るかもしれない。そうなれば彼女は神にすら成れるという事になる。
「……私も一度会ってみたいです。いえ、会いましょう。」
「えっ!? でも、貴女はこの城から……ああ、そっか、招待券を使えば……。」
そう、現状ラナーは城から出る事は出来ない、籠の中の鳥……だが、招待券がそれを可能にする。夢の世界への切符であり、今もラキュースが所持している物を使用すれば、ラナーは城から一歩も外へ出ることなく、リティスの下へと行く事が可能だ。
「お待ちください! その、ラキュース様を疑う訳ではありませんが、その……危険なのでは……?」
そう声を上げるのは、少年と青年の境にあるような年齢で、髪は短く切りそろえられた金髪、太めの眉と鋼のような意志を感じさせる顔立ちの男、王女専属騎士のクライムである。
彼は幼い頃に野垂れ死にそうだったところを偶然通りがかったラナーによって拾われて以降、自身の人生を捧げると決め、忠誠を誓った男である。
普段は同席したりしなかったりまちまちだが、今回はラナーの予定と合わせた結果同席する事になった。
「危険……まぁ、私でも勝てるか分からない相手なんだし、危険ではあるわよね。」
「大丈夫です。話を聞く限りではお金に執着しているようなので、きちんと用意していけば悪いようにはされない筈。何か八本指対策に役立つ物をもらえるかもしれませんし。」
「……なるほど、確かにリティスなら、この現状を打破できる何かを持っているかも……。」
そう思わせるほどに、彼女のラインナップは異常だ。それこそ、夢の世界からやってきたとでも言うのだろうかと思う程に。
「でも、だったら既に客として顔も知られてる私が行った方が……。」
「そうです、ラナー様が行く事は有りません! どうしてもというなら俺が代わりに行きます!」
「ごめんなさい二人共……今回ばかりはどうしても、実際に自分の目で確かめてみたいのです。」
……そこまで強く言われては、二人は何も言う事が出来ない。
実際に自分の目で確かめたいと思う気持ちも理解出来るし、ラナーがここまで興味を抱くほどにはリティスのもたらす力の底知れなさはラキュースも理解している。
それに、ラナーの頭脳……情報の欠片を見せただけでその核になる部分まで紐解いて見通してしまう、比類なき頭脳があれば、リティスという謎多き商人について、何か分かるかもしれないし、心強い味方に引き込む事だって可能かもしれない。
……だが、普段はこういう件に関して自ら動こうとはしないラナーが、今回に限って何故、という疑問。違和感のようなものが残るものの、それは彼女の決定を覆すだけの決定的な物であるとも思えない。
ラナーの事だ。何か思惑があるハズだ、とラキュースは考える。
「……分かったわ。でも、それなら今じゃなくても良いわよね? 私の分と、私の仲間から招待券を二枚用意するわ。それならクライムと二人で行けるでしょ?」
「いえ……時間がかかるかもしれませんし、そうなった時、クライムと私、どちらも居ないとなると不自然でしょうから。」
「う、それはそうだけど……。」
「それに今ならメイドも入っては来ませんしね。」
「……どうしても今行きたいようね……分かったわ。帰りにちゃんと私の分の招待券も確保してよね? あと、もし戻ってこなかったら私の仲間達が迎えに行くから、そのつもりで。」
「もちろん。では……クライム、準備を。」
「ハッ!」
そして、ラナーはクライムに自分が利用できる金貨を袋いっぱいに持ってこさせ、ラキュースから招待券を受け取る。
「どう使えば良いのですか?」
「このぽつぽつした所に沿って破くのよ。そうすればあっちへ行ける。あっちに行ったらまず、目の前に屋敷があるはずだから、その屋敷の玄関へ向かって。そこにリティスが居るわ。帰ってくるときはリティス本人に言えば一瞬で戻ってこられる。」
「分かりました。……それでは、行ってきますね、クライム。」
「ハッ……お気をつけて行ってらっしゃいませ……!」
そして、その細い指でピリッと招待券を破くと、次の瞬間……。
「!!……ら、ラナー様……!!」
「落ち着いてクライム、あっちへ行っただけ。すぐに戻ってくるわ。」
すうっ、と、夢から覚める時のように、ラナーはその部屋から消えた。
◆■ 第九話【素敵な夢をお届けしましょう。】 ■◆
「ここが、夢の中の世界、ですか……なるほど。」
ラキュースから聞いた通り、周囲はほの暗く、霧に包まれ、寂れた屋敷が目の前に建っている。話によればこの屋敷にリティスなる黒の行商人が居るはずで、玄関へ向かえばいいとの事だったが……。
「(期待通りだと良いのだけれど……)あら……?」
そこでラナーは、暗黒を見た。
夜を切り取ったかのようにどこまでも真っ黒な印象を持つその女性は、着ている服も、髪の色も、目の色も真っ黒で……黒くないのは肌の色と唇、そしてスーツの下に着ているシャツぐらいだろうか。だが、それでいて何故か妙な魅力……これは、そう……
ラナーとはまるで真反対の存在がそこに立っていた。
「……これはこれは……まさかこんな所に貴女のような御方が足を運んでくださるとは……。」
「私の事を知っているの?」
「当然です。いくら私が異邦の地から来た行商人とはいえ、少しここで過ごしていれば貴女の話は耳に入りますよ。……この世で最も美しい、黄金の王女ラナー様、とね。噂に違わぬ美貌をこの目に出来て光栄でございます。」
「ふふ、ありがとう。私もね、あなたの事を知っているのよ。黒の行商人……リティス・トゥールさん? 真っ黒で、ミステリアスで、でも子供好きなんだとか?」
「フフ……まさか王女様の耳にまで入っていたとは……嬉しいやら恥ずかしいやら……ところで、貴女様ともあろう御方がどのようなご用件で……あぁ、少しお待ちください。」
「あら?」
どうかしたの、そう問いかけようとしたその時……リティスが指を鳴らす。すると、周囲の景色が一気にガラリと変わる。
霧が立ち込めていた森は色とりどりの光を放つ宝石箱のような夜空へ。
寂れた屋敷は消え、代わりに、シックな紫色の壁が二人の周囲を取り囲む。
壁には大きなガラス窓があり、そこから夜空を見る事が出来る。
「さぁ、どうぞおかけください。」
気付けばラナーはそのシックな部屋の中にいた。
先ほどまでの薄気味悪い霧の立ち込める森とは打って変わって落ち着いた室内。
おかけください、と促された方を見ると、いつの間にか革で作られた黒く光る大きなソファーが設置されていた。
ラナーから見て向かい側にも同じソファーが設置されており、リティスがそこに座る。
更に、瞬きをする度、少し目を離す度に、クッション、ガラスのテーブル、ランプ、カーペット、シャンデリア、見たことの無い謎の名画……と調度品は増えていき、最終的には、王族であるラナーから見ても立派だと思う客間へと変貌した。
「……これが、夢の住人の力ですか。」
「ええ。……夢の住人をご存知なのですか?」
「はい。友人から聞きました。この夢の世界を操る能力を持つ人だ、と。」
「なるほど。(王女に招待券を贈った覚えは無いから……多分、今までに招待券を渡した誰かが彼女に色々と話したのかな。まぁ、隠してる訳でも無いからいいけど。)」
「……ただ、実を言うとあまり詳しくは知らなくて。今日は貴女の商品と、その能力の事を聞きたかったのと……ご助力して欲しい事があってここに来たのです。」
「ほう……? ではまず、そのご助力して欲しい件についてお聞かせ願えますか?」
まず、ラナーは八本指という組織について話した。これに関しては蒼の薔薇から一度「お前、八本指の構成員じゃねーだろうな」「八本指ってなんですか?」「八本指っつーのは……」というやりとりがあり、説明を受けていたので知っている。
が、それの対策に蒼の薔薇だけでなくこの国の王女まで関わっているとは知らなかった。しかも、聞けばテンプレみたいな悪徳貴族とズブズブの関係でどうにか断ち切らないとこの国が腐ってしまう、いや、既に腐ってしまっていて、腐った部分を切除しなければ完全に崩壊を迎えるかもしれない、とまでは知らなかった。
リティスはそもそも王国にこのまま留まるつもりも無かったが、だからといって、今までこの世界に来てから世話になった世界の、最初に訪れた国が崩壊するとあってはいい気はしなかった。
……あまりにもどうしようも無いと思った場合はその限りではないが……。
「なるほど、では今回の要望はその八本指への対策の為に何か良い魔道具でもないか、という事で合っていますか?」
「話が早くて助かります。」
ふむ、と鼻を鳴らし、顎に手を当てて考える素振りをするリティス。その内心では、スキルによって見通した目の前の王女様の
彼女の職業、そしてカルマ値、ステータス、全てがリティスの理解の範疇を越えている。一体、なにがどうして王女様がこんな
この国は一体どうなっているんだ……。
「……では、今回は特別なお客様専用のVIPルームにご案内致しましょう。」
「VIPルーム……?」
「簡単に言えば、私の持つざいほ……品物が陳列された、数少ない特別なお客様しか入る事のできない空間です。私が品物をお勧めするのではなく、貴女自身の目で、品物を吟味し、本当に欲しい物だけを購入する事が出来る、そういう場所になっております。」
「まぁ、それは楽しみだわ! でも、貴女が選んでくださらないの?」
「ええ。貴女の場合は事情が事情ですから……現状を知らない私が勝手に想像であれこれ勧めるより、貴女自身が品物を見たほうがよろしいかと思いまして。」
確かに道理ではある。元より店とはそういう物だ。店主であるリティスが客の要望に沿う品を見繕って持ってくるシステムの方が珍しい。
だがラナーは今、たったこれだけの出来事である事実を確信した。
『リティスにも出来ない事はある』と。
出来ない事……つまり、今ラナーが『犯罪組織への対策に関して何か効果的なアイテムは無いか』という要望に、彼女は夢の住人としての力を使ってアイテムを創造するのではなく、VIPルームという場所に元からある物を自分で見て選んで欲しい、と言った。
つまり、たとえこの夢の世界であっても、無いモノを作る事は出来ない。
もしかしたら出来るのかもしれないが、何かしらの理由があってやらないのであれば同じ事だ。
とりあえず、夢の中でなんでも作れて現実に持ち込める、等と言う、神のような所業は出来ないと分かった。
「では、そのまま座ってお待ちください。」
そう言ってリティスはまた指を鳴らす。
すると、一瞬明かりが点滅した後、何か大きな機械音と共に部屋の外の景色が上へとずれて……いや、部屋全体が下へと動いている。
彼女の言うVIPルームへと、部屋全体が向かっているのだろう。
窓の外は真っ暗で、何も見通す事は出来ない。
そう長くない時間そのまま座っていると……ラナーから見て正面の壁がせり上がり、石造りの扉が現れる。
「どうぞ、こちらへ。」
「ありがとう。」
そう言ってエスコートされ……石造りの扉を潜り抜けた先にあったのは、どこまでも続くかのように思えるほどの暗闇。
しかしそれがただの暗闇だったのはほんの一瞬。リティスが扉のすぐそばにあるレバーを下げると、何かが衝突したかのような大きな音と共に、手前から奥へと順番に照明が点いていく。
天井から差す円状の照明は、リティスの言った商品と、ひし形の白と黒で構成された大理石の床を照らしている。
「これは……凄まじい、ですね。」
「光栄でございます。」
「しかし、これを一つ一つ見ていくとなると、少し時間がかかりそうですね……歩くのも大変そう。」
「それなら、こちらをご覧ください。」
そう言ってリティスが取り出したのは一つの本、のようなもの。装丁は凝った作りだが、本としては厚みが無く、本と言うより、紙を挟んだ板、とでも言うべき物。
本のように持ってそれを開くと、恐らくは商品と思われる精巧な絵。そして、見たことの無い暗号のような文字列。
なるほど、これは……商品のリストか。
「読む際はこちらの眼鏡を……ああ、ずっと立ちっぱなしなのは疲れますよね。今ソファとテーブルをお出しします。」
「何から何までありがとう。」
「いえいえ。」
リティスがそう言って少し待つと、ラナーが立っていた真後ろにソファが、そこに腰を掛ければいつの間にかテーブルが、テーブルの上には紅茶が現れた。ラナーは受け取った眼鏡をかけて商品の一覧へと目を通し始める。
「(これは……彼女が別の世界の住人である、なんてラキュースは言っていたけど、あながちそれが真実だったりするのかもしれないわね……。)」
そのリストの1ページ目を一目通しただけでも、ラナーは目の前のリティスという女性の異質さを嫌と言う程理解した。
それは商品が異質、という意味でもそうだが……それを国の王女に隠そうともしていないという事がそもそも異質なのだ。
普通ならこんな
危機感が無い……という訳ではないのだろう、ただ単に、もしこの国が彼女を隔離しようとしたとして、それを跳ねのけられるだけの力が彼女にはある、それだけの事。
……ああ、少し理解し始めた。
恐らく彼女にとってこの夢の世界は、自らの力である商品の数々を現実から隔離して守護する為の物なのだろう。
例え現実で何らかの形で彼女を害する者が居たとして、それが彼女から財産を奪う目的の物だったとしても、肝心の財産は夢と言う異世界の中に隔離されている為、彼女への攻撃は無意味。
ならばこの夢の世界で彼女を倒すことが出来れば財産はこちらの物……と思う者も居るだろうが、そうはならない。
何故なら、この夢の世界において彼女の力は支配者、いや、まるで神そのもののようですらある。殺して奪おうなどとは考えない方が良い。彼女がその気になれば、今この場に居る者なら指を鳴らすだけで瞬殺出来るだろう。
それに、ラキュースの話では彼女に話を通す事でこの世界から元の世界へと帰る事が出来る。であるなら、仮に殺せたとして……彼女を殺したらこの世界からどうやって脱出する? 殺したら元の世界に帰れるかも……と考えるのは楽観的過ぎるだろう。
「(なるほど、
ラナーは心の中で彼女の力、そして彼女が作り出したこのシステムを密かに賞賛する。
隙の無い、良い作りだと……まるで誰か、それこそ本当の神のような誰かが彼女を作り出したと聞いても、今なら何も不思議に思わない。
神に愛された美貌と頭脳を併せ持つと言われるラナーが他人にそのような評価を下すのは、人生で初めての事だった。
そんな事を考えながら目を通していると……一つのアイテムが目に留まる。
「あら? これは……。」
「如何なさいましたか?」
「いえ……ここに書いてあるアイテムの説明、これは……文字通りの意味ですか?」
「もちろん。一言一句間違いなくそのアイテムの説明になっているハズです。」
「つまり……あるのですね? こんな……このようなアイテムが。」
「御座いますとも。お急ぎなら、こちらに来させましょう。」
そう言って、リティスは指を鳴らす。
すると、一瞬にして全ての照明が落とされ真っ暗になる。そして、少し待つと、先ほどと同じ音と共に二人の目の前が明るく照らされる。そこには、先ほどまではそこには無かったはずのアイテムがあった。
「こちらです。」
「……これは、その、本当に?」
「ええ。確かにそこに書いてある通りの効果があります。」
そのアイテムの名は……『
ランプのような見た目のそれには、閉じられた目のような紋章が描かれており、青紫色の淡い光が漏れ出ており、その傍らには同じ色の輝きを放つ指輪が光っている。どうやら、この二つで意味を成すアイテムのようだ。
「これを買います!……あぁ、あと、ついでに今4つ程ピックアップしたものがあるのだけど、そちらも買います。」
「ありがとうございます。さっそくお伺いしても?」
「ええ。まずこの『
そう言いながらも、興味はずっと目の前のアイテムへと注がれている。手で金貨の入った革袋を渡しながらも、リティスがそれを受け取り、数えているのを確認している間もずっとだ。
「失礼。お預かりいたします……ええ、これだけあれば足りますね。こちらはお返しいたします。」
「ありがとう。」
そうして、取引は極めてスムーズに終わった。
ラナーとしての当初の目的はある程度果たされ、良い取引も出来た。
ああ、これからの日々が楽しみだ、本当に。
「お気に召しましたか?」
「もちろん! 素晴らしいです。私こういうのがずっと欲しかったんです。」
そう言って二人は笑い合う。
片や商人、片や王女としての笑顔を張り付けながら。
だが、その目にはどこか狂気じみたものが滲んでいた。
ラナーはリティスの瞳から、自分とはまた違った形の化け物を見た。
自分とは違う、そう思ったのは、目の前の怪物は金という執着の矛先を見つけたらしいという事。金に執着するなんて下らないと思うと同時に、そういう形もあるらしいと知った。
ラナーもクライムと出会わなければ、何か別の物に執着していたかもしれない。
……ああ、そうか、
これだけの財よりも、金の方が好きで、好きで好きで好きで愛しているから、彼女はこれだけの力と財を持ちながら、その財を売って金を得ようとしている。
なんて狂った女なんだろう。
「そうですか。……ああ、そういえば、私の持つ能力について詳しくお聞きしたかったようですが?」
「いいえ、その事に関してはもういいの。未だに底は掴めなかったけど……もう何となく分かったから。」
これは半分嘘で半分事実だ。
出来ない事もあると分かった。だが、出来る事の底知れなさはやはりまだ未知数。そしてそれは、最早ラナーの興味の対象外。仮に実はリティスがラナーの想定を遥かに超える化け物だったとしても、金と言う執着の先があるなら、理解は出来なくても、正解に限りなく近い物を推察し、紐解く事も出来る。
「……左様でございますか。では、そろそろお帰りになりますか?」
「そうね、気付けば随分長居してしまったみたいです。今日はどうもありがとう。また来るわね。」
「もちろん、何時でもお待ちしています。またのお越しを。」
そして次の瞬間、ラナーはラキュースとクライムの待つ、元居た部屋へと戻った。
「戻ったのね! 遅いから心配したわ!」
「ご無事ですか!? ラナー様!」
「ええ。もちろん。行った甲斐があって、とっても良い買い物が出来たわ! ありがとう、ラキュース!」
無事にアイテムを購入したラナーは、リティスから購入した
魔法が込められた物を見抜く印が書かれた古びた木の札。
暗闇の中で灯すと持っている者にだけ見える光を放つランプ。
地図の上で使うと、探し物を自動で追跡するレンズと台座。
どれも調査に役立つ物ばかりだ。
「これは……凄いですね。」
「あの人、本当に何者……? ラナーは実際に喋ってみて何か分かった?」
「……分かった事と言えば、そうですね……彼女に関しては、深入りしない方がお互い得だな、と思いました。」
「なによそれ……?」
要領を得ないラナーの言葉に少しの間首を傾げるラキュースだったが……やがて、これがラナーなりの警告だと気付く。あのラナーが「深入りするな」と警告する程の相手、それがリティスなのだと思い、ラキュースはひとまず彼女に関してコッソリ探ったりするのはやめとこうと思うのだった。
――――――――――――――――――――
別の日の昼過ぎに、クライムはラナーの私室へと呼び出されていた。
「ラナー様、お呼びですか?」
「来てくれてありがとう、クライム。」
「いえ、ラナー様がお呼びなら、どんな用事を放ってでも……。」
「ウフフ、クライムったら……そうそう、今日はちゃんと用があって来てもらったの。あのね……
……きょうはいい天気だから、これから城内をお散歩しに行きたいんだけど……クライム?」
「えっ?」
「どうしたの? クライム……? ぼーっとして、どこか調子でも悪い?」
「い、いえ……! すみません、散歩ですよね? 勿論お供いたします。」
「そう? あまり無理しないでね。」
クライムはそう言いながら心配そうに自分を見つめる主人に、少しでも気を抜いていた事を恥じて顔を赤らめながら、散歩へ行こう、という主人についていった。
何か……何か大事なことを忘れているような……身体が、怠い……?
いやいや、何を甘えたことを言ってる?
主人を前に、身体が怠いだなんて……鍛錬が足りていないに違いない。
クライムはそう思い、わずかな違和感を振り払い、気を引き締めて主人の後に続く。
今日も我が主人は美しく、まるで太陽のようだ。
絶対に自分が……たとえ死んでも、彼女を護らなければ。
書いてて「本当にこんな奴だっけ……?」となったので解釈違いが起こっている可能性があってビクビクしてる。
ラナー:ずば抜けた頭脳を持つ精神性の人外。ペットが好き。リティスを狂った女だと思っている。直接会った理由は商人なんてしなくても生きていけるだけの力を持つはずのリティスに興味を持った。八本指対策は建前。
リティス:驚愕すべき能力を持つガチの人外。財宝より金が好き。ラナーをVIPの客として扱う。突然現れた王女様に驚きつつも商品を出そうとしたら精神性の化け物だと見抜いてしまい更に冷や汗。手に負えないので、全部さらけ出して自分で選んでもらう事にした。目に深淵だの狂気だの感じられがち。
見なくても特に問題の無いハズな登場したアイテムの補足説明↓
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