クソ眼鏡は光を求めた   作:コズミック変質者

1 / 3
能力を一部曲解しました。


前編・クソ眼鏡は光を求めた

日本の首都、東京。

 

そこはビルが立ち並び、人々が無限のように闊歩し、昼夜問わずに様々な人間が存在していた場所だった。

建物が倒壊し、瓦礫で地面は埋め尽くされ、人気がないこの一体も、そこもまた東京の一部だった。そこは数時間前まで国会議事堂と呼ばれた場所。

 

真実は限られたものしか知らない。そこで何があったのか、何が起きたのか。

 

上空にはこの惨状を不謹慎ながらもチャンスだと思い、カメラに映して画面の前の人々に届けているヘリの群れ。よくまだ事故が起きていないと言えるほど、かなりの数が飛んでいる。

 

カメラが捉えたのは二人の男。一人は拳を握り、所々が破れ、赤く染まったヒーローコスチュームを纏った、まだ幼さが残っている青年。

もう一人は煌めく大剣を構え、同じく破れ赤く染まった、軍服とも呼べる黒い服を身に纏い、黒縁の眼鏡をかけた容姿端麗な男。

 

青年の名は緑谷 出久。

男の名は楽土 審。

 

彼らは拳を、剣を、互いの命へ向けて振るっていた。これで終わりだ。その程度か。何度も繰り返される必殺の応酬。無傷で済むなどお互い思っていない。肉を切らせて骨を断つ。忠実にその言葉に従った攻防が繰り広げられている。

 

彼らは友だった。彼らは同じヒーローを目指す仲間だった。架けていた思想は違えど、互いに切磋琢磨して高校という青春を駆け抜けた仲だった。

彼らは決裂した。一方的に、なんの理解もなく。

 

男は目指す。正しき者が正しく評価される楽園(エリュシオン)を。青年は止める。男が目指す楽園(エリュシオン)を。

自分が正しくないかもしれないなど理解している。だが止まらない(止める)。正しいかもしれない。現に一定の理解を国民から、社会から得ているのだ。

 

「君の理想は・・・間違っている!!確かに、社会は正しくないものが多い!世界には悪が多い!君のいうことも理解できる!僕だって正しい人に救われてほしい!でも、一度悪に落ちた人も救いたいんだ!」

 

「善も悪も見境なしに救うなど、そんなものはお伽噺に聞かせる英雄譚だけなのだよ。現実は違う。正義と悪は相入れてはならない。悪は正義を堕落させ、悪にしてしまう。やがて悪は巨悪となり、社会を回す円盤になったのだ!

断じて許せないのだよ!他者を食い物にして平然と生きている彼らが!光の道を歩く者の邪魔をする者が!」

 

瓦礫が爆発する。爆発した瓦礫は岩弾となり出久を襲う。計算され射出された岩弾を、人差し指をデコピンの形にし、弾いた風圧で消し飛ばす。

背後に迫っていた審の剣を拳で逸らす。瞬間、拳には十の衝撃。十の斬撃。これが審の必罰の聖印(スティグマ)。付与すれば衝撃を重ね、たとえ軽い攻撃であろうとも重く、速く鋭い攻撃が繰り出せる。触れなければ使えない、使いづらい能力だが、優秀すぎるほど優秀とさえ称された彼が扱うのだ。それは果てしないほどの凶悪な能力となる。

 

「私とて理解している。私の求める世界は誰しもに笑われ、否定されるのだと。人の進むべき方向性を最初から決める。人を正しさの奴隷にする。様々な解釈を通せば、自然とそう思われるし、そう見えるだろう。それでも私は創りたいのだ。あの人のような・・・君のような(正義の味方)が報われる世界を!」

 

砂塵を振り払い剣を振るう。出久は自らの両腕をクロスして、最大限にまで『個性』で強化した筋肉で受け止める。瞬間、上から襲い来る十の衝撃。それだけではない。砂塵を突き抜けて飛来した無数の何かが出久の体に叩きつけられる。

この一帯にどこにでもある礫。

計算高い審があらかじめ飛ばし、聖印(スティグマ)で幾多もの反射を得て出久を狙ったのだ。

改めて思う。審が天才だと。反射する位置、時間、威力共に正確。その全てが偶然ではなく必然として襲い来る。

 

身体に礫が当たったことで力が緩む。膝にいくつか当たった衝撃。唇を噛み締めて痛みを堪えるも、膝は無残に地面に崩れる。

体勢が崩れた隙を審が見逃すはずはない。剣を引き戻し、流れるような美しい剣技と、力強い暴風のような剣技で出久を潰しにかかる。

振るわれた剣に少しでも触れる度に発動する聖印(スティグマ)。対応策はない。誰もが策を考え、穴をみつけようと挑んできた。だが結果は同じ。誰も彼の聖印(スティグマ)を破るに叶わず。

誰かが言った。彼は最強だと。誰かが言った。彼は無敵だと。

 

「君は間違っている!他人の進む方向を決めるなんて、誰にもしちゃダメなんだ!確かに君の言う方向は光あるものかもしれない!その先に美しい世界が広がっているかもしれない!」

 

人は言った。その世界はきっと正しいのだと。今の世界を唯一、完璧に否定できる楽園(エリュシオン)だと。

 

「それでも結局は管理なんだ!正義という言葉で人を飼い殺して、ダメにしてしまう!僕は君みたいに頭も良くない!理解も遅い!でも分かる!君が言う世界は、まだ歩いてもいない人たちさえもダメにしてしまうと!」

 

「その中に、悪がいるかもしれないのだぞ!?」

 

「分かっている。だからこそ、僕達が導くんだ。本当に正しい、あの人が言っていたような世界へ!」

 

「そうだ!私とてそれくらい理解している!だからこそ、私は私の方法であの人のような人が救われる世界を実現させるのだ!その為に———」

 

「その為に、こんなことをしたっていうのか」

 

拳と剣が鍔迫り合いを始める。出久がたとえ強化を施そうが、常時腕に来る衝撃。少しづつ拳を切り裂く斬撃。

痛い。痛くて仕方が無い。痛みはいくらでも、これまで背負ってきた。でも今は違う。他者の痛みではなく、自分の痛み。久しぶりに背負う痛みが、更に出久を刺激する。

だが逃げない。ここで逃げれば負けなのだ。ここで一歩でも引けば、あの人の想いが無駄になるから!

 

「ハァァァァアアアアアアア!!!!」

 

「なんだと!?しまっ———」

 

思いっきり、刃を掴んで振り上げる。疲弊し、壊れかかった脚を全力で使う。掌の肉が切り裂かれた感触。だが構うものか。手足の一本で、彼の計画を止められるなら安いものだ。

審の大剣が宙を舞う。十mほど離れた場所に突き刺さる。審が逆転されたことで出来た一瞬の空白。そこに壊れかかった脚を全力で起動させ、高速で踏み込む。

拳は構えた。殴り方は知っている。あとは腹に力を込めて、思いっきり叫び振るうのみ。

 

 

「SMAアアアアアアアアSHッ!!!!!!」

 

 

自分の、始まりの技が審の腹部にめり込む。歯噛みと共に口から血を出す。肋骨がいくつか臓器に突き刺さったのだろう。殴られた鈍痛と、鋭い激痛が審の脳を駆け巡る。

痛みで思考が停止する。痛覚を刺激するエラーを処理しようと全力で動き出す。その間にも、出久は止まらない。審を止めるために、審を倒す。

 

「SMAアアアアアアアアアSHッ!!!!」

 

「グゥゥッ!ガハッ!」

 

続く二発目、三発目のSMASH。右腕で襲い来る拳を両腕で止める。無理に動いたことで喀血し、大量の胃液混じりの血が口から出てくる。続く左腕。両腕は右腕を止めるために使った。この状況では聖印(スティグマ)は使えない。審の聖印(スティグマ)は付与するものがなければ使えない。

 

滑空し、瓦礫に頭から突っ込む審。殴った出久も膝をつく。いくら鍛え、筋肉を強化しようとも手足にかかる負荷は半端ではない。今も尚、成長中の出久は100%の全力を使い続けることは困難なのだ。

 

「まだ・・・だ・・・!」

 

そう、まだだ。まだ審は、敵は立ち上がる。立ち上がってしまうのだ。どんなに肉体が傷つこうとも、彼らは立ち上がるのだ。そうしてきた人を、英雄を、正義を、光を見てきたのだから。どんな敵が現れようとも、どんなに己が傷つこうとも、守るべき人達がいる。倒すべき存在がいる。目指す理想がある。

 

「そう・・・まだだ」

 

審の声が響く。芯の通った、力強い声。出久も審のいる方向を見る。砂塵は少しづつ晴れている。うっすらと見える人影。しっかりと地に足をつけ、出久を睨んでいる審が見える。

 

「私の魂は、私の心は、私の星はまだ輝いている!」

 

「・・・!?」

 

聖印(スティグマ)が光を取り戻す。飛び出し、計算された礫や瓦礫が互いにぶつかり合い、縦横無尽に出久の周りを駆け巡る。

 

「ハァァァァッ!」

 

デコピンを地面に向けて打ち、風圧で全てを吹き飛ばす。出久の周りの地面は出久を中心に円形に薄く抉れている。

審は何をしたかったのか。礫はこういった形で対処されるのは簡単に予想がついていたはず。出久に分かったのだ。審に分からないはずがない。

一体何が目的で・・・?

 

「考えている余裕があるのかね?」

 

反射的に背後を振り向く。そこにはいつの間にか大剣を構えた審の姿。なぜ大剣を持っている?審がいるのは大剣があった方向と反対側のはず・・・。

答えはすぐに出た。先程の計算された礫。それらは出久を狙って撃たれたものではなく、大剣に当たり、審の手元に戻るように計算されていたことに。分かっていたことだが、ここまでとは。

 

再び始まる拳と剣の応酬。先程よりも数倍激しさを増した鋼と肉の攻防。先程のような拮抗ではなく、徐々に、確実に審の方が有利なっている。聖印(スティグマ)による多重の衝撃。出久の肉体にかかった疲労。そして何より、

 

「さっきより、強くて速い!?」

 

審の攻撃が苛烈さを増している。まるで一瞬前の自分を、出久と一緒に切り伏せているように成長している。

恐るべき審の執念。

出久は咄嗟に回避行動を取るも、ワンテンポ遅れてしまった。その遅れは、審を前にした時、絶対にやってはいけないものだった。

 

「これで、終わりだ!」

 

銀閃が空をかける。狙いは出久の肩口から心臓に目掛けて。いくら個性があろうとも、審には聖印(スティグマ)がある。軽い斬撃が、少しでも触れただけで幾重にも重なり、すぐさまビルをも両断する斬撃と化すのだ。

出久は死を確信する。迫り来る刃は、出久の首を容易くはねるだろう。

 

しかし、

 

「なんだと!?」

 

必殺かと思われた斬撃は、出久に触れる前に第三者の手によって止められた。

 

「かっちゃん・・・」

 

刃と出久の間に介入したのは出久の幼馴染にして、審と出久のクラスメイト。そして現在、トップヒーロー《爆殺卿》として名を馳せている爆豪勝己がそこにいた。

 

「なに勝手にコイツ殺そうとしてんだクソ眼鏡ェ!!」

 

「くっ・・・!」

 

勝己の手が個性により爆発する。勝己の腕の篭手に刺さっていた刃ごと、審を押しのける。審は勝己の爆発の威力をよく理解している。雄英体育祭の決勝で、ぶつかったからだ。

 

「死ねやァ!」

 

左腕を後方へ突き出し、掌から爆発を生み出して急速に加速する。すぐに審の目の前まで辿り着き、右腕から爆発を起こして威力を増したフックを審に打ち込む。

 

「君の行動はいつだって分かりやすい。感情に身を任せて戦う癖が、抜けきっていないからな」

 

咄嗟に現れたことには驚いたが、審はそこまで勝己を強敵だとは思っていない。確かに爆破という個性は恐ろしく、勝己の才能も恐ろしいものがあるが、所詮はそこまでだ。

 

勝己の拳を大剣の腹で受け止め、突き出された右腕を掴み振り落とす。振り落とされた勝己は地面に接触する直前、左腕で爆発を起こして地面に接触する前に浮き上がる。そしてそのまま審の首に足を巻きつける。

 

「吹き飛べ!!」

 

掌との接触面から連鎖して爆発が起こる。普通の(ヴィラン)ならば一撃で倒せる爆発を何度も何度も。文字通り消し飛ぶまで撃ち続ける。

 

「やはり、まだ甘い」

 

「ゴッ・・・バグァっ・・・!?」

 

審の手が勝己を叩くように当たる。それだけで勝己は横へ吹き飛び、地面を何度も転がる。

開放された審は服の埃を払い、眼鏡に指をかけるも、フレームの感触はなく地面に壊れ落ちているのを薄く見た。困ったな、と思いつつ、新しい眼鏡を懐から取り出す。

 

「どうやって君が私の用意した者達を倒したのかは分からない。まぁ、君のタフネスを考えての配置だったのだがな。素晴らしい、賞賛しよう。君は私よ用意した試練を乗り越え、一歩確実に進めたのだ。実に素晴らしいことだ」

 

審は勝己の元へ歩いて行く。勝己は起き上がっており、いつでも迎え撃てるように両腕を構えている。

 

「だが———」

 

審の姿が消える。どこに、と思った時にはもう遅い。既にケリはついたのだから。

 

「ここにおいて、君は邪魔者でしかない。だから、退場していてくれないかな」

 

「あ・・・?あ———」

 

ズブリ、と柔らかい音と共に、審の姿が現れる。勝己のすぐ近く、真正面に。勝己の胸に大剣を突き刺した状態で。

審がゆっくりと大剣を抜く。空いた穴から血が溢れ、地面に赤い模様を悪戯に刻んでいく。赤は広がり、瓦礫の隙間を通っていく。勝己の命が無造作に撒き散らされている。

 

ビチャリ、と勝己が自分の血で作った水溜りに倒れる。審が大剣を震えば三日月状にさらに地面に赤い絵具が撒き散らされる。

 

「さぁ、再開しよう。社会の在り方を決める、私達の———」

 

審の姿がまた消える。同時に出久の姿も。

 

「最後の戦いを」




感想欄に「クソ眼鏡○○」を期待しています。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。