クソ眼鏡は光を求めた   作:コズミック変質者

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続いてしまったクソ眼鏡×ヒロアカ短編。今回を中編、前回を前編として、次回は後編とさせてもらいます。

【注】能力を一部曲解しました。


中編・クソ眼鏡は光に焦がれた

審と出久が戦闘を行っている場所以外にも、審が作り出した戦場は無数にある。それぞれのヒーロー達が揃っている場所に、一斉に彼らに相応しい(・・・・・・・・)(ヴィラン)を与えた。俗に、それは試練というもの。

 

審は信じている。光あるものならば超えられると。先に進むこと(努力)をすれば必ず超えられると。故に遠慮はしない。街が破壊されても、人は必ず元に戻す。一般人は死なない。そういう風に教えこまれたから。

 

問題はヒーロー達が審の用意した敵を倒せるか否か。無論、審は倒せると信じている。だか、審の要求は異常なまでに高かった。

 

故に、誰も審の場所へは辿り着けず。

 

 

 

 

 

 

風が頬を切り裂く、雨か全身を打ち付ける。雪の礫がじわりと来る。

 

出久や勝己と同じく、審のクラスメイトである轟焦凍もまた、審の用意した敵と戦っていた。炎と氷を扱えるという強力極まりない個性で、彼は現在No.2ヒーローとしてその名を轟かせている。

故に、優秀だからこそ相応しい相手か与えられた。

 

「ほらほら、立ち上がらなくていいのかヒーロー。敵である私はここにいるぞ?お仲間を助けに行かなくていいのか?」

 

凛、という音が似合いそうな女はそう言った。彼女こそが審の用意した敵であり、轟に与えるのにふさわしい相手。その名は天津 チトセ。

審の仲間だからか、同じ黒軍服を纏い、片目には眼帯をしている。

 

「黙ってろ・・・!」

 

炎と氷を同時に襲いかからせる。だが彼女は不可視のバリアがあるかのように押し通らない。避けていく。

都合、数十回目の失敗。またも傷は与えられず、闇雲に体力だけが減っていく。

 

「はぁ・・・全く、馬鹿の一つ覚えのようにそう闇雲にやられてはな。こちらも対応に困ってしまう。この程度なら、私ではなく他の奴らが適任なんじゃないのか?」

 

まるで敵として見なされていない言動に、歯噛みしながら向き直る。確かに強い。だが敵の能力も分かっている。やりようによっては逆転できるのは容易い。なのに、勝てない。

 

「言ってろ・・・!」

 

氷塊を作り出し逃げ場を塞ぐ。同時に噴射された十を超える炎弾がチトセを狙う。そして更に氷壁から隆起した氷の槍。四方八方からチトセを襲う。

 

「もっと工夫を凝らしてみたらどうだ、ヒーロー」

 

手に持った蛇腹剣を振るう。それだけで炎は消え失せ、氷は砕ける。これが安易に接近できない理由。能力だけではなく、チトセは剣捌きさえも一流。そして蛇のようにしなる蛇腹剣の特徴が、更に攻撃を複雑化して辺りを危険地帯と化す。

 

「これだけか?ならばこちらから行かせてもらおう」

 

「・・・っ!」

 

弾丸のごとき速度でチトセが走り抜ける。轟はギリギリではなく、余裕を持って避ける。だが轟の鼻から一筋の線が走り、そこから小さく血が吹き出る。

 

「ハァッ!」

 

蛇腹剣が風を切る。轟は横に転がって避け、すぐ迫る二撃目を氷の氷塊を出して防ぐ。防いでもなんの意味もなく、雨の如き連撃が叩き込まれる。何度も氷塊で防ぐも、まるで紙のように砕かれる。左の炎は出しても蛇腹剣の前では壁にもならず。

 

「遅いぞ、マヌケ」

 

「なに・・・?———ガァァァアアアアアアアアア!!??」

 

攻撃の合間に、空から降り注ぐ雷。雷はまるで意思があるかのように轟を追い、光の速度を避けられるはずもなく直撃する。幸いにもそれほどの威力はなかったから大怪我はないが神経が麻痺してしまう。だがこの程度で済んだのが相手の手加減によるものだと、轟は大いに理解している。

 

「ふっ、この程度か。本当に呆気ないな」

 

「ク、ソ・・・が」

 

地に伏せる轟に近寄り、上から見下ろす。正に絵面は勝者と敗者。上に立つ者、下で這う者。

 

「あの胡散臭い眼鏡ならば、ここで激励の一つでも贈るのだろうが、生憎と私はクソ眼鏡とは違ってね。努力が報われるとは思っていないし、人が常に正しくあり続けるなど狂気の沙汰でしかないと思っているよ。そこの感性はお前達と同じでね。常に光を信じて進み続けるなんてバカバカしいよ。でもまぁ、」

 

歯切れが悪く声を小さくし、眼帯に覆われている目を撫でる。まるで愛しい人にキスされた場所を撫でる乙女のように、その姿は可憐だった。

 

「アイツがこっちに着くと決めたんだ。ならば、アイツを愛している私がコチラ側に着くのは道理だろう?」

 

アイツ、とは審のことではない。審の部下につき、下っ端の様なことをしている男。戦闘力はそこまで高いものではないが、チトセの目を奪い、審が賞賛した男。普段は酒と女に弱いダメ男。

 

「あいつにも出来たんだ。お前にも出来るだろう?ほら、立ち上がって見せろ。私を少しは楽しませろ」

 

「くっ・・・言ってろ!」

 

炎を最大噴射。辺り一面を焼き尽くす豪炎をたった一人の人間に向けて放出する。それがどうなるか、普通ならばチトセは焼き殺されるだろうが、彼女の能力は炎を容易く防ぐ。

 

「気流操作・・・そこまで応用力が利く能力とはな・・・」

 

氷が触れられないのも、炎が避けていくのも全てチトセの持つ『気流操作』という能力のせい。この能力は名前にすれば轟の能力と同じくらい単純に聞こえるが、その応用性は天と地の差がある。

積乱雲を起こせば先程のように雷を自在に引き起こし、炎を雨で鎮火し、体に風を纏わせればあらゆる攻撃から身を守る壁となり、足りない身体能力さえも上昇させる。

正しく万能と言える能力。

 

「強ぇ・・・能力の練度も、単純な力量もテメェの方が上だ」

 

「分かっているのなら起き上がるな。そこで無様に這っていろ」

 

「だがな、」

 

轟は瞑目して思い出す。目指すべき背中、超えるべき背中。それはかつて平和の象徴と呼ばれた男であり、その後継者であり、社会を守ってきた数多のヒーロー達であり、そして今は亡き父の背中。

 

「ヒーローは、テメェら(ヴィラン)には負けねぇんだよ・・・!」

 

「ほう・・・」

 

轟は立ち上がる。足は震え、今にも倒れそうなほど頼りないか、それでも二本の足は大地を踏みしめ、熱意を燃やした両目は衰えることなくチトセを射抜いている。

 

「ならば私を倒して見せろ。それが、ヒーローというものなのだろう?」

 

チトセがここに来て構えをとる。単に早く終わらせたいだけか、それとも轟を少しは認めたということか。どちらかは本人しか分からない。もしかしたらどちらも違うのかもしれない。

だが、そんなことはどうでもいい。最後に至る結末は、一つしかないのだから。

 

「勝つのは、俺だ・・・!」

 

 

———————————————————————————————

 

 

「ハハハハハ!!もう打ち止めか?君の本気はその程度なのかな?」

 

審の斬撃が何度も何度も空を切る。個性による強化でさえも足りないほどの攻撃に、出久はずっと耐えている。勇ましく攻め込んだものの、反撃することは叶わず。反撃したとしてもその度に審はまた速く、強くなる。

まるで限界を知らない審の実力は、正しく最強。未だに五体満足なのが不思議なくらいだ。

 

「ふっ」

 

軽い声と共に大剣が振るわれ、出久の右肩を浅く切り裂く。この攻撃自体は浅く弱いものだが、既に数十もの斬撃をその身に受けているのだ。たった一度の攻撃さえも、今の出久では致命傷にもなり得る。

 

「ぉぉおおおおおおお!!!!」

 

「威力も速度も先程よりも落ちているぞ?」

 

肉を切らせて骨を断つ。必死の拳で殴りにいくも、容易く大剣に拳は防がれ、審の蹴りが出久の足を穿つ。何度も味わった、骨が折れる感覚がした。

 

「ハッ!」

 

「うぐぁっ・・・!!」

 

審が出久の腹部に大剣の柄を叩き入れ、そのまま地面に叩きつける。なすすべもなく叩きつけられた出久は血混じりの唾液を吐き出しながら無様に地にひれ伏す。

 

「どうした?なぜ立ち上がろうとしない?目の前で友が傷つけられたのだぞ?私を許せない『悪』だというのだろう?ならばなぜ立ち上がらない?大切なものを守る為にどんな傷を受けても雄々しく立ち上がり、敵に立ち向かう。それが君の目指すヒーローとしての在り方だったのだろう?そうしてきた人に憧れ、見てきたのだろう?

無理を覆し、無茶を捻じ曲げ、信念を貫き、立ち上がり、運命を砕き、もっと先まで押し通す。素晴らしき『Plus Ultra!!(さらに向こうへ)』。

オールマイトなら出来たぞ?オールマイトなら出来たぞ?オールマイトなら出来たぞ?ならば、君にもできるだろう?」

 

まるで神を讃える賛美歌を歌うように審は喋る。その目にはいつもと同じどこまでも純粋な『善意』。

 

「どうやら、ここまでのようだな。期待外れなど勿論言わないとも。やはり君は強かったよ。いつだって、君は私よりも強く気高かった。だが最後には私の努力と本気が勝った。友よ、私の手で、君を最後の犠牲にしよう。そして君を犠牲に、この無秩序な社会に真の光が訪れるのだよ。・・・また君かね」

 

審が沈黙する出久の首に大剣をかけ、最後に言葉を投げると、またも邪魔が入った。いや、邪魔には入っていない。なぜならその人物はただ立ち上がっただけなのだから。

 

「動けば命に関わるかもしれないのだがね。まぁ、それでも君は、やると言ったことは曲げないか」

 

立ち上がったのは審に斬られた勝己。勝己は自らが作り出した血のキャンパスから足を踏ん張って立ち上がり、そのギラつく瞳は衰えずに審を射抜いている。

顔色は悪い。言葉はなく、カヒューカヒュー、と掠れた吐息だけが聞こえる。立ち上がったせいで穏やかに流れていた流血が、さらに激しく身体から漏れ出ている。脚は今にもガクガクと震え、少し触れただけで倒れてしまうだろう。

だが、立った。

爆豪勝己は審の予想を超えて立ち上がったのだ。

 

「・・・ぶっ・・・殺・・・す・・・!」

 

掠れるように声が漏れ出て、勝己は掌を後に突き出して爆発を起こして審に向かって加速する。更に血が漏れ出て、明らかに危険域に達しようが止まらない。全ては、敵を倒すため。

勝己の持つプライド。生まれながら強個性を持ち、さらに才能が豊富だったこともあり、更に高いプライドが上長されている。

故に倒れない。倒れても立ち上がる。自分の信じたモノ(プライド)のために。守るのではなく押し通すために。

それは奇しくも、光を掲げる審と少しだけ似通っていた。

 

だが似ていても、弱い。勝己では審には届かない。それはずっと前から、何年も何年も繰り返されてきた真実。届かない実力。

朦朧とする勝己の耳に、誰かの声援が聞こえた。幼く、頼りなく、拙いものだ。近くには誰もいないから幻聴かもしれない。

 

「羅ァっ!」

 

勝己の掌と大剣がぶつかり合った瞬間、何十回もの爆発音が響く。それは審の聖痕(スティグマ)によって発動された多重攻撃と、それに合わせて爆破する勝己の掌。重なり合う無限の衝撃。

審の目が驚愕に見開く。今まで審は何度も勝己と戦ってきた。その度に審は何度でも余裕を持って勝己を打ち倒し、格の差を見せ続けてきた。お前程度を倒すなんて赤子の手を捻るの同じだと言うかのように。

 

用意した試練を乗り越えてきた勝己を見ても、審はまだ手を叩いて賞賛した。賞賛するだけの余裕があった。だがここに来て、初めて審は真実、驚愕した。

 

「ありえん・・・。まさか本当に、私の聖痕(スティグマ)と同等の速度で爆破させているのか!?」

 

審の聖痕(スティグマ)は一度触れるだけで十でも二十でも連続で、かつ高速で重ね、発動させることが出来る。それに対して勝己の爆破は手から出るニトロを率いて爆破させているため、威力を弱めて爆破することは出来ても、審のように瞬きする間に発動することは出来なかった。理論的にも、審は自分と同等の速度で爆破することなど不可能だと断じていた。

だがここに来て、勝己は永遠の課題とも呼べた爆破速度を審と同等にまで上昇させたのだ。

 

土壇場の状況。瀕死の状態。壊されたプライド。そういった、今までの人生でも最高で最悪クラスの状況に立たされたからこそ、勝己は己の前に立ち塞がる審という幻影の壁を打ち砕いた。

 

「グッ・・・!ガァッ——!」

 

「吹き・・・飛べ」

 

審の腕を爆破で弾き飛ばし、空いた審の胴体に爆破させて加速した拳で殴りつける。鈍痛と共に突き刺さる痛み。見れば勝己のコスチュームの砕けた篭手の破片が審の腹部に刺さり、肉を喰いちぎっている。

突き刺さる拳をさらに爆破で奥へ奥へと突き進ませる。審の肌が爆破で焼かれ、煙を出して吹き飛ばされる。

 

(まずい・・・!この状況では聖痕(スティグマ)は使えない!クッ、ならば攻めてもの抵抗を———)

 

審の聖痕(スティグマ)は付与する何かがなければ使うことは出来ず、また拳や大剣に使おうにも、拳は既に間に合わず、大剣では射程が合わないためこれも同様。

故に審は何の抵抗もできず、頭から壁だったコンクリートに突っ込んでいった。

 

爆煙が晴れる。晴れた先には右の拳を突き出している勝己の姿。焼け落ち、露出したコスチュームから見える肌は限界を超えた爆破により焼き焦げ、プスプスと煙をたてている。もう血を出し尽くしたかのように顔面は蒼白で、コスチュームの腹部は元の色が分からなくなる程に赤くなっている。

 

でも立っている。爆豪勝己は(楽土審)を倒し、そこに立っていた。崩れ落ちそうでも。瀕死でも。最後に爆豪勝己は勝ったのだ。長年追い続けてきた、常に先にいて、勝己に目すら向けずに前へ前へと進んでいた審に。

 

「かっちゃん・・・!凄いよ。やっぱりかっちゃんは凄いよ・・・!」

 

そんな勝己の背中を見て、出久は折れた足を引きずりながら傷口を抑えて少しづつ、勝己の背中に近寄っていく。通った道に残る赤の軌跡は少なく、出久の命に別状はない。だが勝己はどうだろうか?限界を超えた個性の使用に、腹部からの大量出血。

下手をしなくても死んでしまう。でももしかしたら、少しでも、自分に出来ることがあるはずだ。

 

「・・・最悪の気分だよ・・・。まさか、こんな風にしか勝てないとは」

 

それは本来であれば聞こえないはずの声。打撃と連続爆破を無防備に受け、瓦礫に頭から突っ込み、頭部の出血などの類で気を失っていて当然の筈なのに。何故、聞こえるんだ?

 

「かっちゃ———」

 

出久が勝己へと手を伸ばす。先程聞こえた言葉の意味を鮮明に理解できない。ただありえないという現実しか認識出来なかった。故に、気付けなかった。

空から勝己へ垂直に振ってくる、審の大剣(・・・・)の存在を。

 

 

 

天から降りた銀色の軌跡は勝己の左肩を正確に捉え、

 

 

 

肩口から容易く肉を食い破って突き刺さり、

 

 

 

勝己の心臓を無惨に破壊した。




チトセの口調が全く分からない・・・。ちなみにアイツとは、やる気なし金なし職業なしの駄狼です。

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