東洋租界奇譚 ―The Strange Episode of Oriental Concession―   作:soliquid

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巨人がさっぱり出てこない、そんな新感覚二次創作!(やけくそ

いいんだよ!私だって日本人ぽい名前の登場人物を出したかったんだい!
だって――かっこいいから!(キメッ

それはさておき。

剣と魔法の世界をやりたかったのかもしれません。よりによって進撃の巨人で。無茶な。


続きになります。

何かの折に、お読みいただければ幸いです。



鳥籠姫と狐目女

租界内、大和路(ヤマトジ)区画の住民の多くは、田畑を所有している。遠い祖先が壁内に辿り着いた際、種籾(たねもみ)を持った者が居たのだろう。以来、稲作や畑作で自給自足の生活を営んできた。近年は、シーナ壁内の王政や貴族への貢ぎ物として、租界の穀菜類は商品作物としての価値も高い。

 

稲の裏作では、胡麻(ゴマ)や油菜(アブラナ)を栽培することが多い。シーナ壁内は別格としても、マリア領の多くでは肉は貴重品である。代替品という訳ではないが、食用油は熱源(カロリー)を得るために重宝されていた。胡麻油や菜種油などに製油し、流通させる。特に胡麻油は珍味としての価値も高い。

 

そのため、大和路の住民は、本業や生業とは別に、農林業も行うことが多い。租界結成時に王政より、租界が存在するストヘス区の壁内外に土地を開墾する権利を得た。もちろん、収穫物に対しても税負担は無い。

 

「ふぅ――よいしょ――っと――」

 

スバルは弟のホクトと共に、収穫した油菜の種を搾油器にかけ、油を絞る。いわゆる「お手伝い」というものだが、なかなか骨の折れる作業だ。スバルの両親は元来、野良仕事が好きな方であるが、ここ数年は租界の顔役としてあちこちと動き回ることが多くなった。そのため、第一線を退いた祖父母や、分家、傍系の家の者が協力している。

 

「おばさま、今年も油菜のおひたし食べたいわ」

 

「じゃあ、スバルちゃんの分もたくさん作っとくわね」

 

「姉ちゃんズルいぞ!おばさま、俺の分も!」

 

  「はいはい」

 

叔母が目を細める。汗を流し、実りの収穫を喜ぶ。この子達の世代には、ドロドロとした利権や駆け引きなどとは関係の無いままで居て欲しいと願う。

 

 

高千穂家は代々、占術や呪術などの『術式』を生業とする家であった――らしい。

 

「らしい」というのは、祖先のものと思われる書物が代々残っていることと、ぼんやりとした口伝で「らしい」ということが伝わっているから――である。何とも頼りないものだが、スバルの祖父母より前の代の高千穂一族は、おそらく長い世代に渡り本格的な術式を扱うことができなかったそうだ。幼少から修行をし、種々雑多な術の扱いは、スバルの祖母から取り組み始め、母親の世代から本格的に行えるようになった。そんな母も未だ修行中の身であるが、最近は租界の仕事に追われ修行の時間が取れないと嘆いている。

 

 

「――スバル、ちょっといいかな」

 

父と母が帰ってきた。顔には少し疲れの色が見える。

 

スバルは作業場から、居間へ移った。

 

「――スバル、おまえは今月で一二歳になったね。大きな怪我も病気もなく、本当に良かった」

 

父が淡々と――言葉を選びながら、語る。

 

――なんだろう。この感じ。少し違和感がある。

 

スバルは俄(にわか)に湧き出た違和感を消すために、軽口を叩く。

 

「そうよ。もっともっと術を覚えたいわ。この間からカムイに柔(やわら)だって教えてもらってるし――」

 

努めて明るく振る舞う。

 

「――うん。まぁ、そう……だな」

 

父が口ごもる。やはり、今日が「その日」なのだ。

 

 

「その日」――租界の子供達は、早ければ十歳、遅くとも一五までには、身の振り方を決めねばならない。いや、決められることが多い。家業を継ぐ者、租界内外の有力者の息子や娘と結婚する者、貴族の養子になる者――本人や家が望む望まざるに関わらず、それが租界の「掟」なのだ。血統を絶やさず、利権も失わず、両天秤を取ろうとする。租界に「意志」があるとすれば、そのようなものであろう。

 

子供の頃から遊んでいた年上の兄さん姉さんが、ある日気がつくと居なくなっている。そんなことも珍しくは無いのだ。その決定にはもちろん大老(ターラオ)と――スバルの父母が関わっている。

 

 

利権や血統を第一義として重視する大老はともかく、人情味のある――少なくともスバルはそう思っている――父母はそれでも、身の振り方を決められた少年少女が「掟」によって理不尽な末路にならないよう、陰日向から助力を尽くしていた。それが例え、罪滅ぼしであったとしても。

 

特に、余所へ行った少年少女には、定期的に彼らの家族や一族に会わせる機会を設け、両家の親睦を図る。図らずもそれが、租界内外の交流をより盛んなものとし、利潤の一端を担っているため、大老も口を挟むことがなかった。

 

 

しかし、あぁ――ついに自分の番が来たか。

 

 

正直なところ、スバルは自分の未来を測りかねていた。彼女の家は術式を扱う。しかし現在の正統後継者である母も、また傍系の一族も、いまだ誰も壁内の神官職には就けないでいた。王政に保護されている「ウォール教」の勢力が強いため、祭事や神事を司る神官職も、多くがウォール教の聖職者で構成されている。東洋の神秘には魅力を感じるが、不確定で測り得ない不気味な部分もある。おいそれと中枢には入れない。父母の口から出てくるものが、神官職の見習いとしての道でなければ――

 

 

「――大老からは、壁内の貴族のところに嫁に、と言われている。レイス家の『本家』筋……だそうだ」

 

どこかの貴族に嫁ぐものだとは思ったが――まさかレイス家、とは。

 

 

今年になってからヒストリアのことは父母から聞いていた。妾腹(しょうふく)であったと。ヒストリアの実母は控えめで優しい方だと幼少の頃から思っていたが、控えめに見えたのは、正妻ではないという負い目もあったのかもしれない。当然、夜会には正妻やその子息も来ることもあり、スバルも挨拶や会話を交わしたことを覚えている。もちろん悪い人では無いと思うのだが――やはり収まりが悪いのだろう。ヒストリアは実母と共に貴族の身分を半ば剥奪された形となり、市井(しせい)に下ったと聞いた。

 

 

利権を持つところには、いつの間にかそういった「歪み」や「紛い」が発生する。スバルは道義ではなく感覚で、「それは嫌だな」と思っていた。それに――

 

 

「――術式の修行は?私まだ、何も皆伝されてないのよ……?」

 

 

小さい頃からスバルのスバルたる部分を形成してきた「術式」。陰陽五行から占星・歴占術、修験、真言(マントラ)、――適正もあるが、これまでもこれからも、覚えることは山ほどある。楽しいか楽しくないかを問われれば一口では難しいが、今のスバルにとってはかけがえのないものになっていた。

 

 

「家は、ホクトが継ぐ、と――そのように」

 

なるほど、これであのやんちゃ小僧も少しは修行に身を入れるようになるといいが――しかし。

 

「――父様、母様、大老の意向は、絶対の決なのですか?」

 

 

レイス家へ嫁いだところで、ヒストリアには会えまい。幼い頃は租界。嫁いでからは貴族の中で分家本家などの騒動に巻き込まれるのは、正直な話、気が重い。しかし、他の少年少女達は、大老の、父母の言葉に従ってきたのだ。私だけが特別扱いになることも気が引ける。そんな思いが逡巡する。

 

 

「――いいえ、強い決定では無いのだけれど……他に何か良い案があれば、ねぇ……」

 

母がそのように告げる。大老は九龍中心の、スバルの父母は大和路の代表者だ。さすがに区画の顔役の娘をあごで動かせるほどでは無いのか、他に思惑があるのか。大老であれど高千穂家に対し絶対の権限は持ち得ない。そういうバランスが不文律で成り立っている。ともあれ、父母にとっても、娘を嫁がせるという寂しさはあれど、嫁ぎ先は中枢と繋がる名門の貴族。不満は無いだろう。

 

「少し――お時間をください」

 

そう言って、スバルは作業場へ戻った。

 

---

 

その日の搾油作業を終え、油染みができた作務衣のまま、スバルは夜の租界を歩いていた。せっかく父や母が帰宅しているのに夕飯を一緒に食べる気分ではなく、小銭を持って九龍中心(セントラル・クーロン)までやってきた。

 

 

――カムイに会いたいな。

 

 

それは、気丈に振る舞ってきた少女の――弱音、いや、本音なのだろう。

 

日中は野良仕事や機織りなどの民芸品作り。季節によっては先ほどのように搾油などの家仕事。夕方からは稽古漬けの日々。頻繁ではないが、夜会などにも連れられ、大人達の好奇の目に晒される。

 

 

――私の人生は、何だろうか。

 

 

ふと湧き出た、いや、長年考えないようにしてきた、心の声。

 

 

――カムイに会って、話をしたいな。

 

 

直接の解決や救いになるわけではないが、とにかく会いたかった。それは普通の感覚では「思慕」なり「恋愛感情」などと呼ぶ。だが、育ってきた境遇がそうさせるのだろうか、スバルは気が付いていなかった。もちろん、カムイも。

 

屋台に行けば会えるかもしれない。そう思い、スバルは雑多な屋台街へ紛れ込んだ。当然のことながら、夜の雑踏の中で少年一人を見つけることは難しい。そもそも今夜、カムイが九龍中心に来ているのかさえ知らないのだ。都合が良い展開を期待していた自分を少し恥じた。

 

――ヤンおばちゃんの店で軽く、食べてこうかな。

 

そう思い、行き付けの屋台に足を向ける。

 

 

少し歩いたところで、向こうの裏辻が騒がしいことに気が付いた。租界内での揉め事は珍しい話ではない。王政の権力が及ばない治外法権――ということは、裏を返せば荒事も起こりやすいということなのだ。

 

「――やってねぇ、ってんだろ!」

 

「五月蝿ぇ!ガキが!タダじゃおかねぇ!!」

 

憲兵団や駐屯兵団に「みかじめ料」――いわゆる袖の下を渡すことで、最低限の警察や消防のような働きはしてもらっているが、基本的には区画ごとに自警団を構成し見回りをすることが日課だ。いつもの喧嘩程度であれば、放っておいても大事にはならないだろうが――

 

「ここの人間は善良な子供に因縁付けて巻き上げるのが生業(なりわい)かいッ!?」

 

「てめぇ――このガキ……減らず口を……!おい、やっちまえ!!」

 

声のする方を遠巻きに見ると、子供一人を大人数人――あまり柄が良くない連中――が取り囲んでいるらしい。事の是非は分からないが、あまり穏やかではなさそうだ。公にすることはないが、租界ではきな臭い犯罪も多い――と聞く。

 

(あれは、香具師(やし)の国定(クニサダ)とその取り巻きね)

 

スバルもよく見知った男だ。男は三十半ばの国定という興行師である。東洋人の演芸や余興を見せることが生業だ。もっとも相手は大衆劇場の酒飲み達が主な客層で、貴族や地主のような者には「品が無い」と鼻つまみにされるのだが。

 

その国定が、何やら子供に因縁を付けているらしい。段平(ダンビラ)をちらつかせ、手下が子供を脅す。憲兵に目を付けられるし、何より血を見るのは嫌いだ。刃傷沙汰はやめてもらいたい。先ほどまで気落ちしていたスバルも、ことの面倒さを察する。術式を使うほどではないが、仕方がない――無意識に結んでいた手の印を解く。

 

スゥっと息を飲む。深呼吸をしてから――

 

 

「あーっ!クニサダのおじちゃん!そんな所で何やってるの?」

 

『術者』ではなく、『顔役の娘』としての役目を演じる。

 

 

「おっ、お嬢じゃあ、ねぇ――か」

 

ばつの悪そうな顔をする国定。顔役の娘の前で格好の悪いことはできない。事の是非はともかく、いい大人が数人がかりで子供を脅しいじめたとあっては、面子も潰れるし後々が面倒なことになる。

 

 

「あ、いやぁ――なに、この小僧をウチの一座に勧誘していただけさ。あまり熱心になっちまって、いや、こいつぁ失敬……」

 

「――うん、分かった。大老(ターラオ)や父様にもそう伝えておきますね」

 

この一言が決定打になった。スバルの介入で、この喧噪は手打ちとなった。おう、お前ら行くぞ――と取り巻きに声をかけて、国定は去っていった。スバルは先ほどの子供に声をかける。小突かれた時にでも落としたのだろうか、ハンチング帽を拾う。スラリとした長身。切れ長の目。顔にはそばかすがある。背格好はおそらくカムイと同じくらいだろうか。

 

「あの、あなた――大丈夫だった?」

 

「あぁ、助かったよ。あのオッサンたち、肩がぶつかったと思ったら『てめぇ!スリをはたらいたな!』ってね。噂に聞く東洋租界(Oriental Concession)ってのはこんな所なのかい?これじゃ地下街とそう変わらない――」

 

おどけたように飄々と話す。先ほどの剣幕から少年だと思っていたその人物の声は、意外にも少女のものであった。少し低音だがよく通る声。よく見れば、チョッキの胸元が慎ましく膨らんでいる。

 

「――で、アンタはこの街のお偉いさんの娘、ってとこかい?」

 

「まぁ、そんなところ。ともかく大事にならなくて良かったわ」

 

「おかげさんでね。私だって荒事は嫌いさ。ところで――」

 

狐目の少女の腹が『きゅう』と鳴る。少し頬を赤らめ、

 

「何か、旨いものを喰わせてくれるところはないかい?」

 

照れ笑いをしながら聞く。

 

 

「丁度私も今から行くところなの――ねぇ、一緒にどう?」

 

たまにはいいかな。スバルはそんな気まぐれを起こした。

 

---

 

「なんだこれ!うまっ!うんまっ!!」

 

「――でしょ!この鳥串、オススメなのよ!」

 

ハフハフと屋台の料理を食べる少女二人。

 

狐目の少女は「ユミル」と名乗った。年の頃は同じくらいだと言う。来年から訓練兵団に入団するのだそうだ。

 

「このご時世、食事と寝床にありつけるだけ、ありがたいモンさ」

 

という理由らしい。やはりシガンシナの戦禍から流れてきた者なのだろうか。どこか達観したように言葉を紡ぐ。

 

「なぁ、アンタは――スバルはどうするんだ?」

 

ユミルの話では、壁内の少年少女は年の頃十二歳あたりになると、「生産者」として「開拓地」に残るか、「兵士」となるため、「訓練兵団」となるか、選択を迫られるらしい。

 

――どこでもそういうものかしらね。とスバルは独りごちる。

 

しばらく食事をしつつ、ユミルと話をする。租界の外をあまり知らないスバルにとっては、聞く話のすべてが珍しかった。しかし、出された料理も平らげ、そろそろこの奇妙な夕食はお開きになる。

 

「スバル、聞いたトコ、アンタはお偉いさんの娘だって言うから、しがらみや何やらで大変なんだろうが――」

 

鳥串の最後の肉をガブリと喰らい、烏龍茶をこくりと飲みながら、ユミルが言葉を継ぐ。

 

 

 

「――自分の生きたいように生きてみるのも、アリだと、思うんだがね」

 

 

 

諭すような、挑発するような、それでいて、なんと力強い眼をしているのだろう。姿や格好だけではない。ユミルという少女は、もっと、こう――芯が強い人間なのだろうとスバルは感じた。

 

 

「いや――初めて会ったってのに、分かったような口を利いて済まないね」

 

さらりと相手を気遣う一言。背中を押してもらっただけでなく、温かく気遣ってもらったのかもしれない。スバルは胸の奥が温かくなるのを感じた。

 

 

「――ま、縁があればどこかで会うさ。そうなったらまた、よろしくな」

 

夕食を食べ人心地つくと、ユミルは夜の租界の雑踏に消えていった。

 

「――訓練、兵団――――か」

 

ふと、ヒストリアのことが再び頭をよぎる。彼女は運命に逆らっているのだろうか。それとも、運命の渦に呑まれ、流されてしまったのだろうか。

 

 

――そうだ、今度カムイに相談しよう。

 

スバルは、近日中に幼馴染みの少年に胸中を打ち明けようと、心に決めた。

 

 




●あとがき

ユミルさんかっけー!の巻。あのセリフは彼女にしか言えないと思います。

悪い人を作らなきゃいけないのは心苦しい。個人レベルでの「悪党」というものはあまり作りたくないのです。ですが、人数が増えれば増えるほど制御が効かず、結果、集団としての「意志」を持つようになってしまう。それが悪意であっても――そんなことってありませんか?何を書いているんでしょうね私は。

さて、巨人をズバーみたいな展開になりにくいので、しばらくは自分自身の運命を切り開いていく少年少女達のお話になります。

やっぱり原作に影響を与えない系になっちゃうのかな。どうしよう。無双したい気もするんですけど。


●次回予告

夜会に呼ばれたカムイ。そこで彼は、自身の剣技を披露する。
その後、スバルは、自らの考えをカムイと相談する。

租界の思惑、彼らの行く末。

――決断の時は近い。

次回、第4話 蟷螂双刃(とうろうそうじん)(仮題)
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