「あれ?ここどこ?」
私の名は大塚香苗。ちょっとクトゥルフが好きなどこにでも居るような三十路のOLである。
道を歩いてたら、前方不注意の自転車に後ろから追突されて死んだはずなんだけど…
気づいたら、たくさんロウソクがあるよくわからない場所にいた。ちらほら、炭やアルコールランプもある。
【あ、気づいたみたいだね。ここは…わかりやすく言うなら、人の命を管理してるとこ】
ふと、前を見ると、そこに男性が立っていた。
【ここにある火は全て、人の命に対応してるんだ。火が消えたら、その人は死ぬ】
「つまり…私の火は消えちゃったんですか」
【そう言うこと。…なんだけど、それ、事の発端はこっちの手違いなんだよね】
「へ?」
【そもそも、君が今まで生きてこれたの、手違いだったんだ。君、本当は12歳で死ぬ予定だったんだよ。だから、12年で燃え尽きる木切れに火がついてたんだけど……女神の1柱が、冗談のつもりで、長生きする人の火をつけるための長めのロウソクに火を移し替えちゃったんだよね。それが原因で、君は今まで生きてきたわけ】
…そう言えば、お医者さんに「12歳で死ぬ」って脅されまくってた思い出が…
【でも、最近それが分かった。だから、帳尻合わせのために火を消したってわけ】
「なるほど…」
【…それで、だ。ずさんな管理をしてたこっちに非があるってことで、君を好きなところに転生させることになったんだけど…どこがいい?あ、元の世界がいいならそれでも一向にかまわないけど】
「!?」
え、転生できるの!?
うわー、うれしい。でもどこにしよう。まさか、いくら好きでもクトゥルフの世界には行けないし…あ、そうだ。
「ワンピースの世界でお願いします!!」
クトゥルフの次くらいに好きなのだ(ちなみにワンピースの次はクロノクロス。あれ、クロノトリガーの続編だって言わなきゃもう少し売れた気がする)。
【ワンピースの世界だね。…尾田栄一郎さんので合ってる?】
「はい、そのワンピースです!!」
【よし…特典はこっちで考えておくよ。じゃ、行ってらっしゃい】
その言葉とともに、意識がブラックアウトした。
「ん…」
見知らぬ場所で目が覚めた。
辺りを見回してみる。
「…なんて……見事な無人島………!!」
私が転送されたのは、無人島だった…
かなり小さいうえに、木もまばらにしか生えていないから、海岸線がくっきり見えて、無人島だとすぐわかる。
その海岸には、小舟が一艘あった。
とりあえず、小舟に近づいてみる。
「……あれ」
立ってみたところ、自分の背格好が変わっていることに気づいた。
前世より低い身長。おそらく、150㎝かそこらだろう。
服は、胸元だけが白くなっている、深海のように深い青のノースリーブドレス。裾がフリルのようになっている。めくってみると、裏地は紫から濃いピンクのグラデーションになっているのがわかった(ただし、裏地全体に薄ピンクの筋がいくつも入っている)。右側には白いリボンがいくつもつけてあってかわいらしいが、よく見るとそれはスリットをつなぎとめているようだ。リボンをほどいて抜き取ればスリットの入ったドレスに早変わり、ということか。
肌は、どういうわけか無機質に白い。お人形の肌のようだ。自分の肌だというのに怖い。
右腕の肩に近い部分にはなぜか包帯がまかれているが、傷があるようには思えない。ファッションだろうか?
首にはチョーカーがついているようだが、残念ながらデザインは見えない。着け心地からして、革製だろうか。
などと思っていたら小舟までついていたので、小舟をのぞき込む。
小舟の中には、リュックサックがあった。
「あ、特典ってこれのことか」
なぜそうとわかったかというと、リュックサックに「香苗ちゃんへ」と書かれた手紙が添えられていたからだ。
「何々…」
手紙を読んでみる。
[無事そっちにつけたようだね。
そこは、グランドラインの名もない小さな島。今の君は15歳だ。
早速だけど、特典の説明をしよう。
1.邪神パワー
君はクトゥルフ神話が好きなようだったから、ちょっとばっかり邪神の力を使えるようにしといた。
2.エレメント
クロノクロスのエレメントの中で、君が特に好きな以下のエレメントを使えるようにした。
・グライドフック
・キャッツレイド
・ゼロエターナル
・月幻
・月護
・月壊
・インボディー
・トゥソード
・ソーヘブン
・レーザー
3.アイテム
以下のアイテムを君に。
・輝くトラペゾヘドロン
君のチョーカーについている。
闇の中に持って行くと、元ネタ通り闇をさまようものを召喚でき、君自身は闇から闇に瞬間移動ができるようにした。
・ダゴンの宝冠
リュックサックの中に入っている。
特に効果はないが、できるだけ手放さないほうがいい。
・アルハザードのランプ
元ネタ通り、いろいろな風景が浮かび上がる。お迎えは来ないから安心してほしい。好きな時に眺めてくれ。
・銀の鍵
リュックサックに入っている。
程よく頑丈で大きさが自在に変わるため、武器にしてもよし。
邪神の配下の者たちを呼びたいときは輝くトラペゾヘドロンにこれをさして3回回して呼びたいやつの名前を言うこと。
・ぬいぐるみ
リュックサックに入っている。
これと言って効果はないクトゥルフのぬいぐるみ。
・ねこあつめの宝物の中で役立ちそうなもの
多少改変したものもある。
一部の物は人間サイズにしてあるからサイズの心配はない。
変わった杖は大きさ自在にしたから武器にでもしてくれ。
忘れられたカギはなくさないように。
4.この小舟など、その他の旅に必要な物
幸運を祈る。
P.S.君は
…はい?
いや、待って。
ただでさえ特典多すぎて混乱してるとこに1番最後の文が来たもんだから、もう嫌な予感しかしなくなったんですが!?
なんだよ出身地はぐらかせって!!なんかあるのアーカム国!?
後、銀の鍵を武器にするって何!?Fateのアビーちゃんみたいに振り回せと!?
しかも何故にねこあつめの宝物!?確かにねこあつめも好きだったけども!!
…落ち着こう。
「…とりあえず、中身の確認しよう」
リュックサックを船からおろして、中身を出してみる。
「ええと、これが宝冠、これがランプでこっちが銀の鍵、これがぬいぐるみ…うわ、クトゥルフに花柄首輪って似合わねえ…」
なぜかしろねこさんの宝物、「花がらの首輪」がクトゥルフぬいぐるみにはまっていた。
「柔らかいブラシ…これはくろねこさんの宝物だな。貝殻のイヤリングはちゃとらさんで、砂時計はしろきじさん…あ、おっどさんのおもちゃの手鏡が本物の手鏡になってる」
ちょうどいいから、顔の確認してみよう。
私は、手鏡をのぞき込む。
「………えっ?」
見えた顔は、オールカラー版「本当に恐ろしいクトゥルフ神話」という本の表紙の女の子のものだった。違う点は、首のチョーカーがとらぽいんとさんの宝物、革のチョーカー…の、ロケット部分が輝くトラペゾヘドロンになったものだということだけだ。そう言えば、今着ている服もあの子のものだし、あのぬいぐるみも首輪以外あの子が抱えていたものと同じだ。
…確かにかわいいとは思ってたけど、まさかあの子の姿になるとは思ってもみなかった。
肩にかかるくらいの髪は真っ白で、ピンクで透明な百合に似た花が飾られている。
恐ろしいほど美しく整った顔。…その顔で1番目立つ、瞳。
とても奇妙な瞳だ。瞳孔の部分は水色だというのに、虹彩の部分は赤に近いオレンジ色。美しいけれど、不気味だ。絵で見た時ですら吸い込まれそうで怖かったのに、実際に見るとこんなにも怖いのか。
…ということは、肩にある包帯の下には、五角形の中に五角形をいくつも描いたような、あの赤いマークがあるのだろうか。位置が位置だから自分ではうまく見えないけど。
…それはそれとして、荷物確認再開しよう。見た目とかどうでもいい。
「これは…ぶちさんのカラーロウソクだな。何でこんなもん入れたのやら。清潔なハンカチ…あかげさんか。プレゼントリボンははいさびさん、こっちがふじでこさんのリボンのヘアゴム、これがはいぶちさんの忘れられたカギ。ぷりんすさんの綺麗な石とねこまたさんの不思議な形の石は路銀にしろってことかな。もったいなくて売れないけど。…で、これがすふぃんさんの変わった杖。こっちはせばすさんの銀の懐中時計…これで終わりか」
後は何の変哲もない旅道具と(出身地の事を聞かれたとき困らないようにという配慮なのか)
…ってか、なんで
「…とりあえず確認終わったけど、どうしよう」
何をすればいいのかも、ここがどの辺にあるのかもわからない。
「………自分の名前でも決めようかな」
大塚香苗のままじゃ、ワノ国の住人と勘違いされそうだ。
「クトゥルフ的な名前で女性だったら……クティーラとか…………やめとこう」
クトゥルフの娘の名前なんて恐れ多い。
「…あ、そうだ」
『ダンウィッチの怪』に出てくる「ラヴィニア・ウェイトリー」と、よくクトゥルフに関連付けられる『セイレムの魔女裁判』の元凶(というのもなんだけど、これ以外のうまい表現が出てこない)になってしまった「アビゲイル・ウィリアムズ」の名前をもらおう。
「ラヴィニア・ウィリアムズ…いや、ワンピース風に言うならウィリアムズ・ラヴィニアか」
なんかしっくりこないけど、これにしよう。
バイバイ、大塚香苗。
あなたは今から、ウィリアムズ・ラヴィニアだ。