邪神系女子のワンピ生活   作:菅野アスカ

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本日、ズェピアさんサイドです。


異界の花

「それでは、これまでとさせていただきます!」

 

司会のディスコの声が、響いてくる。

ここはステージの裏、買われた奴隷の一時待機場所のようなところだ。

私を買った貴族はまだ奴隷を買う気でここに残っているらしく、ここで待たされている。

暇で仕方がない。

 

「本日の目玉、人魚のケイミーは、世界貴族、チャルロス聖の5億ベリーにて…」

 

おや、天竜人が来ていたのか。全く気付かなかった。

そういえば、人魚の娘がいたな。5億も出すとは…その金で熱帯魚を買った方が早いだろうに。そうまでして人魚がほしいか?

暇すぎて、どうでもいいことまで考える。

 

「いっそ…いっそ殺せ…!」

「家に、家に帰してくれ!娘も息子もまだ小さいんだ!」

 

買われていく者たちの悲哀を眺めていれば暇はつぶれるだろうと思うものもいるだろうが、世界を計算と脚本で見ている自分には、アレはどうしてもマンネリ化した悲劇にしか見えない。あんなもの、何百回と見た。何せ、時間は持て余すほどあるからな。悲劇、愛憎劇、復讐劇は、もう飽きるほど見て過食気味だ。

 

どうせなら、もっと刺激が欲しい。例えばそう、フィッシャー・タイガー並みのことをする人間はいないものか。

 

「落札を、けって…」

 

直後。

爆音が、こちら側にまで響き渡ってきた。

バラバラという音と、客のどよめき。いったい何があったのやら…

 

「何だよお前、もっとうまく着陸しろよ!」

 

次に聞こえてきたのは、不満げな…少年の声だ。かなり高い。声変わりが軽かったか、それともまだしていないのか、子供のように無邪気で明るい声。陰鬱とまではいかないものの、決して清廉潔白な施設でないこの場には、あまりそぐわない声だった。

 

「ケイミーはどこだ!!!」

 

…ケイミー。確か、あの人魚の名だったか。

売られてしまった友人を、少年が助けに来た…というところか。王道も王道、古来から存在する、万人受けする…少し意地の悪い言い方をするなら、使い古された筋書きといった具合だが、まあ悪くない。

しかし相手は天竜人。さて少年よ、どう出る?

 

「ケイミーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

「待て麦わら!!ケイミーにはあの首輪がついてる!下手をすればドカンだ!!」

 

…まさか、正面突破しようとしたのか?

なんとまあ…豪胆な…。逆に止めたほうは冷静だな、かなり切羽詰まった声だが。

だが、走っているような音がする。制止も聞かずに突破しようとしている、というところか。

麦わらという呼び名。少年であることを加味すると、おそらく最近エニエス・ロビーを落とした「麦わらのルフィ」こと「モンキー・D・ルフィ」だろう。やることなすこと派手で豪快だと聞いていたが、ここまでか。

 

「きゃああああああああああああああああああああ!!!」

 

やけに耳に劈く、女の悲鳴。キンキンと耳に痛い。あれは、私を買った女の声ではなかったか。もう少し上品な悲鳴だったならギリギリ及第点だったが、ダメだなこれは。

 

「魚人だ!魚人がいる!!」

「いやー!!こっちに来ないでよ、魚類!!」

「やめて、近寄らないで!!存在が怖いわ!!」

 

差別か、これも随分と見飽きたな。

とはいえ、聞いていて気分のいいものではない。似たような経験もある。知らず知らずのうちに、私は眉をひそめていた。

それにしても、人魚の友人が人間と魚人か…魚人はともかく、よくもまあ人間と交流ができたものだ。価値観の壁は大きいだろうに。

 

そう思った、次の瞬間。

銃声が聞こえてきた。

 

誰かが何かを言っているようだが、うまく聞こえない。

だが、状況から察するに、魚人か麦わら、あるいは麦わらの一味の誰かが撃たれたのだろう。

 

しばらくして、聞こえてきたのは…絶叫だった。

男の声だ。麦わらではない。麦わらよりずっと年が上の…ふむ、もしやケイミーを買った天竜人か?

 

静まり返っている…どうやら、読みは当たっていたようだな。

 

「おや、これは…大物がいるじゃないか。どうしてこんなところにいるのかね、飲血鬼?」

「その声は…」

 

背後からした声には、聞き覚えがあった。

 

「レイリーか。貴様こそなぜここに?」

「質問に質問で返すのはマナー違反だぞ、ズェピア。まあ、単なるうっかりだ」

「うっかりで捕まる冥王とは…コメディなら受けるだろうな。こちらも似たような理由だが」

「人のことを言えないじゃないか」

 

くつくつと笑うこの男は、何を隠そう海賊王の船の副船長、冥王ことシルバーズ・レイリーだ。こいつとはロジャーがまだルーキーだった頃に知り合い、あの頃はそれなりに交流もあった。最近はもう10年ほど前に会ったきりだったが…

 

「それにしても、君がうっかりとは、珍しい」

「…最近大物と当たってな。疲れが取れずに木陰でまどろんでいたら捕まって、人間観察がてら無抵抗でいただけだ」

「おやおや、もう衰えてきているのかね?」

「そんなことはない。見せてやろうか?」

「ああ、頼む」

 

まず、手かせと足かせを破壊。どうやら鋼鉄製だったようだが、死徒の腕力握力を舐めないでもらおう。

自由になった腕を伸ばして、入れ物を壊す。私を止めたくば、ダイヤモンドの檻でも持ってこい。伝承の力が私の力だ、ダイヤモンドを破壊した伝承というのは知らないから、止まるかもしれん。

 

さて、残った首輪だが。

 

「その程度は私がやろう」

「助かる」

 

レイリーは私につけられた首輪に手を伸ばすと、爆発をそらした。

いまだに原理がわからない芸当だ。

 

「さて…お前さんはどうする?」

「とりあえず、これを見届けて…」

「見届けて?」

「ある少女に会いに行く」

「…ついに君にもそんな存在が…」

「断じて違う。初対面だ」

「では、何故?」

「同郷なんだよ」

 

確かめたわけではないが、間違いない。

肩のあたりの包帯、その下から覗いていた赤い印。

髪に飾られた透き通った花。

一度見たら忘れられない、あの瞳。

そして何より、あのチョーカーの宝石。

間違いなく…彼女は、自分と同郷だ。

 

「落とし子に会うのは、ずいぶん久しぶりだ」

 

落とし子が現れたなら、世界に転機が訪れる。

さて、その転機とは、いかなるものか。

今回も、この目で見届けよう。

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