境界線上に立つ英雄   作:セフィム

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皇帝と体育 上

 side 第三者視点

 

 準バハムート級航空都市艦『武蔵』、その奥多摩の艦首側、表層部の墓地から童謡の歌詞が奏でらえる。

 

「――――通りませ―――――」

 

 美しい歌声は、やがて大気を通って消えていく。その代わりに連呼するように鐘の音が響き渡る。

 一つ二つ三つと鳴り、音楽のように続く時報に放送の声が混じっていた。

 

『市民の皆様、準バハムート級航空都市艦・武蔵が、武蔵アリアダスト教導院の鐘で朝8時半をお知らせ致します。本艦は現在、サガルマータ回廊を抜けて南西へ航行、午後に主港である極東代表国三河へと入港致します。生活地域上空では情報遮断ステルス航行に入りますので、ご協力お願い致します。────以上』

 

 そして武蔵アリアダスト教導院の校庭の上を渡すように作られた木造の橋の上、門側の方に一人の女性。校舎側には多数の人影があった。

 

「よぉ――――し」

 

 女性。黒い軽装甲型ジャージに、背ににはブランド品IZUMOのエンブレムの入った長剣を背負った教師。真喜子・オリオトライはよく通る声を校舎側に飛ばす。

 

「三年梅組集合――――。いい?」

 

 教師が居れば校舎側に居るのは必然として生徒だ。オリオトライは、生徒達を見渡して笑みを浮かべた。

 

「では、――――これより体育の授業を始めまーす」

 

◆◇◆

 

 畏まった演説口調で、教師オリオトライは校舎側に居る生徒達に言い放つ。

 

「さて、ルールを説明しまーす。いい? ――――先生これから品川の先にあるヤクザを殴りに全速力で殴りに行くから全員着いてくるように。そっからは実技だからね」

 

 オリオトライの言葉に校舎側に居る生徒達の中から、え? と言う声があがった。

 だがオリオトライはそれらの声を無視をした笑顔を作る。

 

「遅れたら早朝の教室掃除でもしてもらうからね。返事は? jud(ジャッジ).?」

 

jud(ジャッジメント).」

 

 返答。了解の意を示す言葉を皆が返すと同時に手が上がる。手を上げたのは、“会計 シロジロ・ベルトーニ”という腕章を着けた長身の男子だ。

 

「教師オリオトライ、体育と品川のヤクザがどのような関係で? 金ですか?」

 

「バカねぇシロジロ。体育っていうのは運動することよ? 殴ると運動になるのよね。そんな単純なこと、―――――知らなかっとしたら問題だわ」

 

「(いや、それもう運動じゃなくてただの暴力‼)」

 

 心の中で全員が突っ込む。もし口にすれば何が起こるのか一部男子生徒は、身に染みてわかっているからだ。

 そしてシロジロの袖を横の“会計補佐 ハイディ・オーゲザヴァラー”という名札を着けた彼女は笑顔で答える。

 

「ほらシロ君。オリオトライ先生、最近一軒家手に入れたけど地上げにあって、皇君の家に上がりこんで家にあったお酒やら食べ物を全部食べて暴れたの。そしたら皇君が切れて皇君に半殺しされた後、教務課にマジギレされたの『教え子の家に上がり込んだ挙句、勝手に暴飲暴食して暴れるとは何事か‼』って。そして今先生、三か月間給料半減なんだって―――――まあ、つまり中盤以降全部自分のせいだけど初心を忘れずに報復だと思うのよね」

 

「報復じゃないわよー。ただ単に腹が立って仕返しして、ついでに皇にやられた分も殴るだけだから」

 

「同じだよ‼ そしてアンタ、教師として最低だな‼」

 

 皆が冷たい目をしながら突っ込む。だがオリオトライは気にする風もなく主席簿を取り出して話を変える。

 

「休んでるのって誰か居るー? ミリアム・ポークウは仕方ないし、東は今日の昼にようやく戻ってくるらしいけど、他は────」

 

 問いに一同、互いを見渡し居ない顔を探す。

 すると、黒い三角帽の少女、“第三特務 マルゴット・ナイト”という腕章を着けた背に金の六枚翼を持った少女が手を挙げ、金の六枚翼を左右に揺らしながら口を開く。

 

「ナイちゃんが見る限り、セージュンとソーチョーがいないかなあ」

 

 その声に続くように彼女の腕に抱きついていた黒の六枚翼を背負う少女“第四特務 マルガ・ナルゼ”が首を傾げて口を開く。

 

「正純は初等部の講師をしに多摩の初等部教導院にバイトに行ってるし、午後から酒井学長を三河まで送るから今日は自由出席のはず。総長…………、トーリは知らないわ」

 

「んー、じゃあ“不可能男(インポッシブル)”のトーリについて誰か知ってる?」

 

 オリオトライの問いに皆が一つの場所を見た。中心から一歩下がったところに茶色いウェーブヘアの少女、葵・喜美は居た。美味しそうにパンケーキを食べながら…。その隣には武蔵アリアダスト教導院の制服に学ランではなく高級感溢れる黒い着物を羽織った銀髪の少年。腰裏に白と黒の剣を携え、喜美と同じくパンケーキを食べている(すめらぎ)(みかど)がいた。

 

 こらー、授業中だぞー。とリアルアマゾネスは言うが、それをスルーして喜美はパンケーキを食べ終えて口を開く。

 

「フフ、皆、うちの愚弟のことそんなに知りたいの? 知りたい?聞きたいわよね? だって武蔵の総長兼生徒会長の動向だものね。フフ────でも教えないわ!」

 

 ええっ?と皆が疑問の声をあげる。

 それに対して答えるように彼女は意味ありげに一つ頷き

 

「だってこの私が朝八時過ぎに起きたときにはもういなかったんだもの‼」

 

「お前いつもハイテンションなくせに起きるの遅えよ‼」

 

 全員が突っ込むが、それもスルーして話を続ける。

 

「それにそこに居るバカイザーも起こしに来なくて、本気で焦ったわ。でも直ぐに来てメイクをした後にバカイザーが作ったパンケーキを食べながら空飛ぶ黄金の飛行船、天翔る王の御座(ヴィマーナ)で優雅にベルフローレ・葵は登校したわ‼」

 

「喜美‼ また貴方は帝君に頼って‼」

 

「べるふるぉーれ‼ どうしたのよ浅間。もしかして羨ましいの? 羨ましいわよね‼ だったらその淫猥なホルスタインみたいなオパーイでバカイザーを誘惑して、骨抜きにしなさーい‼」

 

「な⁉」

 

 浅間と呼ばれた少女は、自分の胸を隠そうとするが逆にムニュン、ムニュンと形を変えてエロさを醸し出す。当の帝は何食わぬ顔でパンケーキを食べている。

 

「あのー喜美ちゃん?」

 

 ナイトの呼びかけに眉を浅く立てた顔で振り向いた。

 

「マルゴット、……その名は無しよ? 浅間もよく聞いておきなさい。葵・喜美なんて、まるで“青い黄身”みたいでどんな餌食って尻から出したか解らないような名前。だからベルフローレって呼ぶの、いい?」

 

「ナイちゃん思うんだけど、三日前はジョセフィーヌじゃなかったかな?」

 

「あれは三軒隣の中村さんが飼い犬に同じ名前を付けたから無しよ‼ あの女、老後の楽しみにあんな毛が長くて柔らかそうな獣の幼女の段階から首輪つけて全裸で調教しようとは可愛らしくいい趣味だわ‼ 悔しいから今度抱かせて貰うのよ⁉ ねえ、これって負け犬⁉」

 

「ああ、あの犬って中村さん家の犬だったんだ。俺も今度抱かせてもらお」

 

「ならバカイザー、一緒に行きましょ‼ そして最後は私とベットインするのよ⁉」

 

「こーら、関係ない話しない。じゃ、トーリは遅刻、かな?―――――じゃあルールの続きよ。事務所にたどり着くまでに先生に一発攻撃を当てればOK。当てることが出来た生徒には出席点を五点上げる――意味分かる? 『五回サボれる』ってことよ」

 

 もう、教師の言葉ではない。だが5回もさぼれると言う魅力的な言葉に戦闘系は特に闘志を燃やす。

 そんな中、手を上げる人物、“第一特務 点蔵・クロスユナイト”という腕章の少年だ。彼は帽子を目深に被ったまま、横にいる航空系半竜の“第二特務 キヨナリ・ウルキアガ”とともに、

 

「先生、攻撃を“通す”ではなく“当てる”で良いので御座るな?」

 

「戦闘系は細かいわねぇ。ええ、それでいいわよ」

 

 その言葉に、ウルキアガは腕を組み、竜眼で点蔵を見下ろし口を開く。

 

「聞いたか?女教師が何したっていいと申したぞ、点蔵。拙僧、想像力を使用してよいか?」

 

「Jud.。しかと聞いた。しかしあの女教師、オゲ殿のさっきの話以外にも、先日酒場で尻を“触られそうになった”ということで居住区画の床をぶち抜く傑物で御座るよ」

 

「フ、点蔵、現実を前にして想像力はその上をいくのだぞ。忍の貴公がその事に気づかんとはな」

 

 この二人、真面目な顔をしながらアホなこと話合っている。だがこの梅組は大半が変態しかいないのだ。もう手遅れな中で点蔵は再び手をあげた。

 

「成程。――――では、あの、オリオトライ先生、先生のパーツで何処か触ったり揉んだりしたら減点されるところはあり申すか? または逆にボーナスが出るような所とか」

 

「あっははは!授業始まる前に死にたいのは二人か? まあ、攻撃手段は何でもいいわよ(・・・・・・・・・・・・)

 

 オリオトライが言った瞬間、オリオトライを囲む様に黄金の波紋が出現し、そこから剣や槍、斧などが覗き出ている。そのどれもこれもが一級品ばかりだ。

 そして犯人はもちろん帝だ。全員が帝の方を見ると既にパンケーキを食べ終えて、手には二振りの黄金の双剣を持っている。

 

「……あのー、帝…」

 

「どうしましたオリオトライ先生? 攻撃手段は何でもいい(・・・・・・・・・・)んですよね? ならどうぞ気にしないで串刺しになってください」

 

「ごめん。帝、手加減をしてね」

 

「善処しますよ」

 

 帝は微笑み、黄金の波紋王の財宝(ゲートオブ・バビロン)を消す。

 オリオトライは、片手でごめんのポーズをしながら背後へと跳んだ。呆気に取られる面々。

 流石リアルアマゾネス。難なく着地を成して、その先に続く“後悔通り”と呼ばれる通路を駆けていく。そこなら帝は黄金の波紋王の財宝(ゲートオブ・バビロン)で攻撃しないと知っている。何せその場所は

 

「(ホライゾン……か)」

 

 世界は大きく動こうとしていることを、数人を除いて誰も知らない

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