境界線上に立つ英雄   作:セフィム

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皇帝と体育 下

 早朝の右舷二番艦・多摩の高さが不揃いな屋根の木板や藁葺き、石造りの屋根の上を騒音が突っ走っていく。

 多摩に住まう彼らは皆、一様に上を見上げる。見上げる先にはいく千万の矢や光の弾幕などなどだ。

 

 朝から騒がしい梅組の体育の授業。戦闘系がリアルアマゾネスを追いその後を非戦闘系が続く。

 その非戦闘系の一人、葵・喜美ではなくベルフローレ・葵は先頭を走り手に黄金の双剣を握る漆黒の着物を羽織った銀髪の少年を見つめながらため息をつく。

 

「…はぁ、あのバカイザー。天翔る王の御座(ヴィマーナ)を出しなさいよ。この賢姉を走らせるとはいい趣味してるじゃない。いいわよ、でも最後はこの賢姉なしでは生けられない体になるんだから⁉」

 

「こ、こら‼ 喜美、貴女真昼間から堂々と何、は、破廉恥なこ事を言っているのよ‼ 真面目にやりなさい‼ それにそうやって帝に頼ってばっかり…大体淑女たる者もっと……」

 

「あら~、何やら下で負け犬がキャンキャン吠えてるじゃないミトツダイラ。あなた自分が帝に甘える度胸もない、あら胸も無かったわね」

 

「な、な、喜美⁉ 貴女言っていいこととないことが…」

 

「うるさいわよ妖怪説教女‼ 貴女のお得意な鎖も帝の奴と殆ど被ってるものねぇ‼」

 

 多摩の屋上を走るベルフローレ・葵に説教をするボリュームある銀の髪を揺らすネイト・ミトツダイラ。

 そんな事をしているうちにも帝は、リアルアマゾネスに矢を打ち込む。

 

◆◇◆

 

 武蔵の中央前艦の艦首付近、展望台となっているデッキの上にて梅組の体育の授業が現在進行形で行われている奥多摩の右舷から右舷二番艦・多摩へと移動する様子を見る女性が居た。

 その女性は人間ではない、黒髪の一見人間と大差ない程の自動人形だった。肩に“武蔵”と書かれた腕章を付けた彼女は、爆発音が絶えることのない多摩の方をじっと見つめている。

 

 静かに不動の彼女だが、周囲には動くものがあった。デッキブラシやモップなど、甲板の掃除道具の群だ。深夜に人々が見れば悲鳴が上がっているだろう。そんな掃除道具を自在に操る武蔵の背後から男の声がした。

 

「武蔵さんは午後からお掃除かい。ご苦労なことだ。艦橋にいなくていいのかい?」

 

 男の問いかけに、自動人形“武蔵”は振り返らずに多摩を見つめ淡々と男の質問を返す。

 

「重奏領域の多さで難所のサガルマータ回廊も抜けましたし、既に三河入港も準備は終了しております。それに武蔵には武装も何もなので管理が楽ですので、ぶっちゃけ暇です―――以上」

 

 jud(ジャッジ).と言う声と共に、自動人形の横に中年過ぎの男、酒井・忠次が並んだ。

 

「三河かあ。……俺は関所に降りて寄港手続き取らないといけないんだけど、今回は三河中央にいる昔の仲間から“十年ぶりに顔を出せ”って言われてだけどねぇ…」

 

 酒井は少しただ真っ直ぐに多摩を、いや、多摩にいる一人の少年に(すめらぎ)(みかど)を見ている武蔵に気まずそうに言う。

 

「実は…そいつらに帝もつれて来いと言われてるんだよねぇ…」

 

「はい?」

 

 今までずっと振り向かった武蔵が遂に酒井の方に振り向いた。自動人形故に感情がない武蔵だが、酒井には分かる。今絶対に怒っていると、何せ武蔵を含めた自動人形達は帝を溺愛しているのだから…

 酒井は本能的に感じ取った。次の言葉が自分の運命の分かれ道だと…現に今まで甲板を綺麗にしていたモップ達が酒井をロックオンしていた。

 

 その時、救世主が現れた。武蔵と酒井の間に現れた通神、表示されたのは武蔵と同じ自動人形の“武蔵野”だった。

 

「どうしましたか武蔵野? 緊急事態で無いのなら後にしなさい――――以上」

 

「申し訳ございません。ですが、帝様のベットからエロゲとエロ本が見つかりました―――以上」

 

「jud.それは緊急事態です。それでそのエロゲとエロ本の内容は?―――以上」

 

「jud.『金髪天使のおっぱい天国』、『天使のいつまでもおっぱい』などなど、ある三つを除いて全て天使巨乳ものでした――以上」

 

 武蔵と武蔵野によってバレていく帝の性癖に酒井は心の中で黙禱する。

 

「jud.その三つとは?――以上」

 

「jud.『お姉ちゃんに甘えて、絶頂させてあげる⁉』と『金髪巨乳帰国子女が貴方に会いに来た⁉』と、どちらにも手紙があったので読ませてもらったところ姉物はウルキアガ様、金髪巨乳物は点蔵様へのお礼の品のようです―――以上」

 

「jud.最後の三つ目は?――以上」

 

「jud.最後の三つ目は包装されており中身がわかりません―――以上」

 

「jud.なら開けて中身を確認しなさい――以上」

 

 jud.と返す武蔵野は包装されていた箱の包装紙をビリビリに破り、箱の正体が露わとなる。

 包装されていた箱の正体、それは…『究極熾天使ガブリエル、あなただけにこの体を…』と書かれたエロゲだった。しかも初回限定盤でこのガブリエルと言うキャラのフィギュアも付属していた。

 それを見た武蔵はただ淡々と答える。

 

「全て焼却炉に持っていき燃やしなさい。その代わりに黒髪メイドなどのエロゲとエロ本に変えて起きなさい―――以上」

 

 武蔵と武蔵野とのやり取りに苦笑いこぼしながら酒井は、多摩の方へ目を向け心の中で帝に声援を送る。

 

「(頑張って生きろよ…帝)」

 

 

◆◇◆

 

 一方、自分の大切なお宝達が燃やされている事を知らない帝は、弓矢で点蔵達を援護射撃していた。

 点蔵が仕掛け、ウルキアガの奇襲。そして本命のノリキと完璧なタイミングとコンビネーションだが、相手はリアルアマゾネス。この程度の攻撃はどうとでもない。

 リアルアマゾネスことオリオトライは、ブランド品IZUMOの長剣の鞘の留め金を外す。これによって刃をレールのように滑って行った鞘は、長剣のリーチを伸ばしたのと同じ効果を発揮する。これによって届かなかったはずの攻撃がウルキアガに届き吹っ飛ぶ。これによって現在残っているのは点蔵とノリキ。

 予想外の反撃にノリキは予定よりも早く拳を穿つ。だが、オリオトライの顔はニヤリと笑っておりしかもその口には鞘のベルトを嚙んでいる。オリオトライは顔を引いて長剣を鞘に戻して、大事な長剣を手放した。

 

 点蔵が短剣で防いでいた長剣は、点蔵が防御した位置を支店に刃先がノリキの胸を下から突き刺す角度になっていた。オリオトライはこれでノリキが長剣を殴ると思っていた。そうしなければノリキは攻撃を受けてしまう。

 

 だがオリオトライ一瞬だが忘れていた。この梅組には規格外の強さを持った人間がいるということに…

 

「ノリキ‼ 体を少し右にずらせ‼」

 

 後ろから聞こえた声にノリキは、声の指示道理に体を少し右に転がり込むようによける。ノリキが避けたのと同時に一本の矢が長剣の腹を的確に狙い撃ち大きく品川の方へ飛んでいく。

 突然の矢で驚いたオリオトライだが、急いで後ろに大きく飛ぶ。

 

「(本当にやってくれるわね帝‼)」

 

 心の中で舌を巻くオリオトライは黄金の双剣の柄尻を合体させた弓を構えた少年を睨む。

 

「ほら、出番だよ智」

 

◆◇◆ 

 

 帝に呼ばれたオッドアイの少女、“浅間・智”は身を低くして走りながら背から抜いた弓を掲げた。

 白砂後ブランドの紋章が入った弓“片梅”を展開する。さらに彼女達の集団の中から眼鏡を掛けた少年“トゥ―サン・ネシンバラ”が帝に変わって指示を出していく。

 

「ペルソナ君‼ 足場になって‼」

 

 指示に答えた集団の中でもずば抜けて大きな大男だった。顔を西洋ヘルメットで包んだ男は、既に左肩に少女を一人乗せていた。

 彼は浅間の隣まで来ると右腕を彼女に伸ばす。それと同時に浅間は彼の腕に足をかけて、左眼の義眼“木葉”を細くして小さく、しかしはっきりとした声で呟く。

 

「地脈接続――――‼」

 

 浅間が準備をしている間にも帝も準備をしていく。左手に黄金の弓、終末剣エンキを持ち右手の指と指の間には三本の矢が出現する。それは矢に見えるが剣、明らかな剣だった。

 

「智、俺が放った後に射抜けよ‼ ガブリエル」

 

 帝の呼びかけに帝の襟元の軽装甲から三頭身八枚翼の少女が現れた。彼女は眠そうな目を擦りながら少し間の伸びたおっとりとした声で帝の要件を聞く。

 

『どうか しましたか』

 

「朝からごめんね。悪いんだけどこの矢の強化とエストに聖属性の加護を付けて」

 

『わかり ました』

 

『帝はガブリエルにいつもデレデレです』

 

『そうね、これは何かやってもらわないといけないわね』

 

 帝の脳内に響く二人の少女の声に冷や汗を流す帝をよそに浅間も帝と同じく二頭身の少女ハナミを呼び出していたが今にも帝に飛びかかろうとしていた。

 

「浅間の神音借りを代演奉納で用います‼ 射撃物の停滞と外逸と障害の三種祓いに照準添付の合計四術式を通神祈願で」

 

『神音術式 四つ だから 代演 四つ いける?』

 

 jud.と頷く浅間は一瞬帝を見てから奉納を選ぶ…

 

「二代演分として昼食と夕食の五穀を奉納‼ 一代演として二時間の神楽舞‼ 最後の一代演として、二時間帝君と一緒にハナミとお散歩+お話‼ これで合計四代演‼ OKだったら加護頂戴ハナミ‼」

 

「……ん、ちょっと待て」

 

 浅間の代演に何故か突き合せられることに疑問を抱く帝だが、今は授業中と後で問いただすとして右手にある三本の矢を放つ。

 

「さあ、散々嗅いだ臭いだ。行って来い‼ 赤原猟犬(フルンディング)

 

 放たれた赤い矢はオリオトライに向かって飛んでいく。これは流石にやばいと感じたオリオトライは長剣を抜刀して赤原猟犬を叩き切ろうとするが…ニヤリと笑う帝に冷や汗が滝のように流れる。

 

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)‼」

 

 叩き切ろうとした赤原猟犬が爆発する。オリオトライは何とか跳躍して上空に逃げるがジャージはもうボロボロだった。だがそんなオリオトライを追い込む様に浅間の矢が放たれる。

 オリオトライは着地すると髪を少し切ってチャフ代わりにすることで逃れるが…帝はマシンガンのように矢を放つ。

 

「ちょっと⁉ 手加減しなさいよ帝‼」

 

 文句を言うオリオトライに帝は笑って上を指さす。帝の言うとうり上を見上げると金と黒の魔女達が大量の光の弾幕を放った。

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