輪廻の花弁 作:社シロ
少しでもお楽しみになっていただけたら幸いです。
齢にして五歳の頃の話だ。
自身の自我が芽生え確立し、同時に
気が付けば、自身の背は縮み体は子供に戻っていた。
その時の心情は混乱と狼狽で満たされていたし、勢いで変な奇声を上げるものだから、孤児院に居た周りのみんなからは変な目で見られた。
ただその時は、それが気にならないほどに慌てふためいたのだ。
それもそうだろう。自分の記憶が確かなら、今とは違う平々凡々な名前の、極々ありふれた何処にでもいる三十路手前のオッサンだったんだぞ。
なのに、気が付けば子供。それも前世では漫画でしか見たことの無いようなショタでイケメンだ。
冷静さを取り戻すのに、一時間程度掛かってしまったのはしかたのないことだろう。
だが、冷静さを取り戻してすぐにまた、驚愕の事実が俺を襲ってきた。
トイレから戻って、居間にあるテレビがたまたま目に付いた。
内容としてはただのニュース、子供が好んでみるような番組ではなかったが、俺は食い入るようにじっと視線を固定して、
次いで、そのお姉さんが言ったワードに目を見開くことになる。
『先日午後六時頃、火事によって五軒の家が全焼しましたが、人気No.1のトップヒーロー《オールマイト》の活躍により、幸いにも死傷者はゼロでした』
画面が変わり映し出されたのは、偉丈夫の男が複数人の人を背負って、燃え盛る炎を背景に歩く姿。
偉丈夫の男、その正体はNo.1トップヒーローのオールマイト。
それを見た時、俺は一つの確信に至った。
────ここ、ヒーローアカデミアの世界かよ。
口元を引き攣って苦笑い気味に、辺りを見回して漸く状況を理解した。
そこに居たのは、異形の形をした子供や口や手から炎を出す子供達。
前世の記憶を取り戻した混乱で、周囲が視界に入らなかったが、冷静になって周りを見れば、普通の子供などいない。
否──この世界にとって、『個性』を持つ普通の子供しかいなかった。
こうしてワタクシ、『
1
──♪♪♪♪
深い眠りの海から輪廻を引き上げたのは、スマートフォンから流れるアニソンの目覚まし。
重い瞼を無理矢理こじ開け、手を動かしてベッド上に置いてあった携帯のアラームを止める。
「……く、ふぁ」
上体を起こして伸びをすれば幾分かの眠気が取れるが、完全に吹き飛ぶ訳でもなく、僅か一分ほどボーッとしてからベッドから降りた。
シャッ! と勢いよくカーテンをあけ陽の光を招き入れる。
光が部屋と輪廻を照らし、一日の始まりを告げた。
アニソンのアラームにボーッとする時間、そしてカーテンを開けて光を浴びる。
それが輪廻の朝の始まり方だった。
「さて、顔洗って飯だな」
誰に言うでもなく、一人呟いて洗面所に向かう。
孤児院を出て三年、その数字は顔を見たことの無い輪廻の親が残してくれた財産を元に、輪廻が一人暮らしを始めてから過ぎ去った時間でもある。
あの日、前世の記憶を取り戻してから輪廻の生活は、前世の頃と比べて180度変わった。
具体的に言えば、精神年齢が一番大人な輪廻が施設の大人達の手伝いとして他の子供の面倒を見たり、手が空いていれば自身の個性の鍛錬をしていた。
そんな生活を数年続け、中学に上がる頃に孤児院の院長を説得し、輪廻が子供にしては大人しくしっかりし過ぎていた事もあって、何とか一人暮らしを始める事が出来た。
一人暮らしを始める際に院長に渡されたのが、赤ん坊の頃孤児院の前に輪廻と共に置かれていたという手紙が挟まった通帳。
通帳には莫大な金があり、その事も輪廻の一人暮らしを許容した一因であった。
そうして更に三年が経った今日この日。
今日は輪廻が待ちに待った、雄英高校の受験日だ。
朝食にはいつも以上に気合を入れて作り、身支度を終わらせ家を出た。
2
「へぇ。流石雄英迫力あんな」
校門の前で校舎を見上げ、感嘆の言葉を漏らす。
天を突き抜けんばかりの校舎は、佇んでいるだけで存在感というものが違った。
いつまでもこうして見ていたい気もするが、流石に校門前でそれは迷惑なので、案内板に従い説明会場に歩を進める。
その時だった、横から軽い衝撃を感じた。
「あ、す、すいません! こちらの前方不注意でその……!」
(こいつ……!)
モジャモジャとした緑髪の頭に頬のそばかす、彼を一目見たとき輪廻は気持ちが一瞬で向上した。
しかし、それを表には出さず抑え込む。
「いや、俺も前を向いてなかった。気にするな」
「は、はい」
試験に向けて緊張しているのだろうか、声が僅かに震えている。
挙動不審の足取りで先行く学生を見送りながら、無意識に口角が釣り上がるのを感じた。
(あれが、緑谷出久)
前世においてこの世界の主人公だった少年。
彼を見た事により、世界の歯車が動き始めたのを見たような気分だ。
いよいよ、いよいよなのだ。
この世界に生を受けて、待ちに待った物語が動き始める。
昂る気持ちと燻る闘争心。
高まる感情をなんとか抑制しながら、ゆっくりと会場へ足を進めた。