輪廻の花弁   作:社シロ

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まさか初日から感想を貰えると思っていなかったので、昨日は凄く嬉しかったです。
因みに、感想にはなるべく全て返すつもりですが、答え辛いものや、どう答えればいいのか分からないものは、すみませんが返さない事もあるかもしれません。


始まりの受難

 試験を終えて一週間後の事。

 輪廻は自身の住むマンションのポストを確認すると、雄英高校から輪廻あてに通知が来ていた。

 中身をその場では確認せず、自身の部屋に戻ってから手紙を開封すると、円盤状の小さなか機会から空中に映像が投影された。

 

「おうふ、なんという技術力……」

 

 投影されたディスプレイに映ったのは、黄色いスーツを着たNo.1ヒーローのオールマイトだった。

 そう言えば教師になるんだったな、と最早殆ど覚えていない記憶が多少蘇った。

 

『やあ! 初めまして花咲少年! ご存知だろうけど、オールマイトだ! 何故私がという疑問が湧いていることだろう。……それは私が今年度から雄英に教師として勤める事になったからさ! そしてその記念すべき教師初めての仕事が、今回のこの合格発表を伝える役なのさ!』

「オールマイト直々に合否発表なんざ、よく良く考えれりゃ凄い豪華だな」

 

 No.1と謳われる人気高きプロヒーローが、自身のために合否を伝えてくれる。

 熱狂的なファンが聞いたら、卒倒でもしていた事だろう。

 残念ならが輪廻はそこまでではないので、せいぜいが嬉しいな程度である。

 無論ヒーローの先輩として、オールマイトには憧れなどはあるが。

 余計な考えを振り払い、映像の続きを黙って見る。

 

『じゃあ時間も押してる事だし、さっそく結果発表といこうか。……筆記は惜しくも一問間違いだが文句無しの一位! そして実技の方は敵Pが144、救助Pが70の計214Pで歴代最高得点プラスぶっちぎりの一位だ!! 』

「へぇ……」

 

 倒した敵の数からして、相当に高得点だと予想はしていたが、予想を大幅に上回る点数に声が漏れ出た。

 オールマイトが言うには歴代最高得点らしい、これは孤児院の皆にも胸を張って結果を報告できる。

 輪廻をずっと心配してきた院の皆に、この報告で幾らか安堵してもらえれば、と輪廻は口元を僅かに緩めた。

 

『来いよ花咲少年! ここが君のヒーローアカデミアだ!』

 

 オールマイトの一言を最後に映像は切れた。

 映像が終わると、輪廻は朝から立ち上がりスマートフォンを手に取って電話アプリを立ち上げた。

 

 1

 

「……よし」

 

 自室の鏡でネクタイを結び、身嗜みを確認する。

 鏡には赤髪混じりの闇を連想させる黒髪の頭に、ピジョンブラッドに近い宝石のような双眸を宿した、年若き青年。

 彼の名は花咲輪廻。今日晴れて雄英高校に入学となる、ピカピカの新入生だ。

 ネクタイや服装、寝癖の確認などを最後に改めて確認したあと、輪廻は玄関へと向かう。

 靴は動きやすいようにスポーツシューズを選び履く。

 というより、輪廻の持っている靴は三足と少なくその全てがスポーツシューズなので、どれを選ぼうが変わらないが。

 まあ、そこは輪廻の気分次第。

 いざ履き終え、日照りつける外へ出る為に玄関を開けた。

 

「おはよー!」

 

 するとそこには、見知った顔の女性が一人立っているではないか。

 輪廻は誰かと朝から会う約束した覚えは無い為、玄関を開けた時にいきなり彼女が現れ、多少面食らう。

 

「お、おはようございます。それで、何で居るんですかね……ねじれ先輩?」

 

 玄関の前で、ニコニコと輪廻を見つめる女性。

 ねじれた青色の長髪に整った顔立ちをした、大多数が美麗だと認める彼女は、名を波動ねじれ。

 雄英高校の三年生であり、輪廻の中学時代からの知り合いだった。

 

「なになに、来ちゃダメだった?」

「いや、そういうわけじゃないですけど。そういう事ではなくてですね……。来るなら、連絡の一つぐらい、くれてもいいんじゃないっすか?」

 

 言っても無駄だとわかっていても、ついつい口を出してしまうのは、孤児院で下の子供達に説教をする事に慣れしてしまった癖なのだろう。

 彼女が、輪廻に黙って何かをするのは今に始まった事ではない。

 知り合った時から何かと輪廻の反応を楽しみたがるねじれだ。

 おおよそ、輪廻を驚かせたかったとかだろう。

 

「サプライズ、輪廻君をおどろかしたかったから!」

 

 案の定そうだったようだ。

 ねじれとはここ半年以上も会っていなかった。

 理由は多々あれど、輪廻の受験期と雄英での行事やねじれの用事が被っていた為だ。

 だが相変わらずなようで、はあ、と輪廻の口からは何処か安堵の色が混じった息が漏れる。

 

「それと、入学おめでとう!」

「……ありがとうございます」

 

 太陽に負けない眩しいぐらいのねじれの笑顔。

 彼女のこの顔を見る度に、輪廻はいつも毒気や気疲れが抜かれる。

 ねじれが急に現れた事には確かに驚いたが、元気な姿とこの笑顔を見れた事でよしとしよう。

 朝からテンションの高いねじれに、苦笑い気味に笑いかけながら、輪廻は肩を並べ雄英へと向かった。

 

 2

 

 輪廻とねじれは学校に着くと、三年と一年ではフロアが違う為下駄箱で別れた。

 手を振るねじれを見送り、靴を履き替え廊下を歩いていると、少し先に既視感あるモジャっとした髪型の学生を見つけた。

 輪廻が何かと注目している緑谷出久だ。

 

「おい!」

 

 緑谷に声を掛けるが、自分が呼ばれたとは気付いていないのか、振り返る気配がない。

 なので、緑谷の背後に軽く走って近付き、輪廻は直接肩を叩いた。

 

「はい……? あ! 君はあの時の!」

 

 一瞬誰か分からなかったみたいだが、直ぐに思い出したのか声を吹き出した。

 こちらも相も変わらずビクビクと挙動不審気味だったが、雄英に受かった事で多少の自信を付けたのか、以前会った時よりは堂々としていた。

 

「お互い受かったみたいだな」

「そ、そうみたいだね」

 

 輪廻が優しく笑いながら話しかけると、少し詰まりながらも言葉を返した。

 会話が途切れないように、輪廻はすかさず話を振る。

 

「お前、A組か?」

「うん、君は?」

「俺もだ、どうだ一緒に行かないか?」

「う、うん。いいよ!」

 

 輪廻の提案に嬉しそうに返事をする緑谷は、その反応から中学ではあまり友達が居なかったのだろうと、輪廻は予想した。

 個性が発現して当たり前の今のご時世、元々無個性だった緑谷にとっては、苦痛の日々だったに違いない。

 周囲の人間の嘲笑と言ったものも確かだが、何よりヒーローに憧れ夢想していた少年にとって、無個性とはイコール夢の挫折なのだ。

 なのにも関わらず、諦めずにこうして今雄英に立っている事を、輪廻は敬意に値すると思っていた。

 

「輪廻」

「え?」

「名前。花咲輪廻だ。花咲(はなさく)は言い辛いだろうから、輪廻って呼ぶ事をオススメする」

「あ、うん! よろしく輪廻君。僕は緑谷出久」

「よろしくな緑谷」

 

 長く広い廊下を二人で歩きながら、互いの事から世間話、ヒーローの事などを話し合う。

 途中、ヒーローの事が話題になると緑谷のオタク気質が表に出て、若干苦笑いを浮かべたものの、それ以外は特筆すべきことは無い至って普通の会話だった。

 五分ほど経って、二人は漸く1-Aと記された大きなドアの前に辿り着いた。

 ふと、輪廻が緑谷を見てみれば、また緊張した面持ちで固まっていた。

 

「どうした?」

「い、いや。何でもない……」

「ならいいが」

 

 気合いを入れ覚悟を決めたらしい緑谷が、サーっと扉を開け……。

 

「机に足をかけるな! 雄英の先輩方や机の制作者方に申し訳ないと思わないか!?」

「思わねーよ! てめーどこ中だよ端役が!」

 

 扉を開け早速聞こえてきたのは、怒号と喧騒。

 見ればガラの悪いつんつん頭と、入試のプレゼンの時にプレゼントマイクに質問をしていた眼鏡の生徒が言い合っている。

 教室について早々、朝の頭に響く声量で口喧嘩をする二人の会話は、否応なく耳に入ってしまう。

 耳に入った話で、プレゼンの時に見た眼鏡は、エリート中学出身の飯田天哉と言う名前らしい事が分かった。

 事の成り行きを静観するように立っていると、飯田が輪廻達に、正確には隣にいた緑谷に気が付き、近付いてくる。

 グングンと近付いてくる飯田に焦った緑谷が、助けを求め輪廻に視線を送るが、輪廻は欠伸をして「頑張れ」とヒラヒラと軽く手を振って自分の席に座った。

 

「お友達ごっこしたいなら他所へ行け。ここは、ヒーロー科だぞ」

 

 学生とは思えない低い声が聞こえたのは、輪廻が席に座って直ぐにあとの事。

 声が聞こえた廊下側を見てみれば、緑谷は飯田と見たことの無い女生徒とおり、彼ら三人の更に後ろに声の主と思われる男性が寝袋にくるまっていた。

 男は自分を相澤消太、A組の担任だと最低限の自己紹介をする。

 

「早速だが、これ着てグラウンドに出ろ」

 

 そして突きつけられた体操服を、皆訳も分からないまま受け取り、着替えてグラウンドに向かった。

 

 3

 

「個性把握テストォ!?」

 

 表に連れ出され、相澤から言われたのは個性把握テストを行うというものだった。

 通常なら、初日には式やガイダンス等を行うが、そうは問屋が卸さないのが雄英高校。

 相澤曰く、自由である校風は生徒以外にも、教師にすら当て嵌るのだと言う。

 相澤の弁によれば、自身の個性が起こせる最大限(げんかい)を知ることによって、合理的にヒーローの素地を形成させるらしい。

 

「なんだこれ! すげー面白そう!」

「705mってマジかよ!」

「個性思っきり使えるんだ! さすがヒーロー科!」

 

 相澤に命じられ、遠投を行った爆豪の記録に周りははしゃぎ始めた。

 だがそれは、合理主義者であり甘えを許さない相澤消太の前でした事は間違いだった。

 

「……面白そう、か。ヒーローになる為の三年間、そんな腹づもりで過ごすつもりでいるのかい?」

 

 途端、目の前の相澤が纏う雰囲気が重くなった。

 

「よし。トータル成績最下位の者は、見込み無しと判断し……──除籍処分としよう」

「「「「はああああ!!?」」」」

 

 言い渡されたのは、ヒーローになる為の最初の受難。

 目の前の担任が、冗談や酔狂で言った様子が感じられない事から、輪廻は面倒な事になった、と内心愚痴を漏らしたのだった。




個性把握テストまで行こうかと思いましたが、切りがいいので今日はここまでで。
やっぱりねじれ先輩は可愛い(確信)。

誤字脱字がありましたら、お手数かも知れませんがご報告お願い致します。
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