輪廻の花弁 作:社シロ
今回行われた戦闘訓練は、各自がそれぞれの反省点や課題を見出して、無事終了した。
戦闘の影響で意識が飛んだままの緑谷を除き、終了と共に全員が着替え教室に戻り、一人欠けた状態でショートホームルームを終わらせると、放課後になる。
学校が無事終了した解放感から、今日一日溜め込んだ疲れを吐き出すように、背を伸ばし雑談を交えて先の訓練の反省会を始めた。
反省会を始めるにあたって、真っ先に人が集まったのは輪廻の周りだった。
相手のすべてを封じ、圧倒的とも言える戦略と力でねじ伏せたのだ、それを見ていたヒーローの卵達は興奮を抑えきれないらしく、輪廻に詰め寄る。
「おつかれ! さっきの訓練アツかったぜ!」
「うんうん! 私芦戸三奈、銃をバンバンって凄かったよ!」
「蛙吹梅雨よ、梅雨ちゃんって呼んで」
「俺、砂糖!」
「あ、ああ。知ってると思うが花咲輪廻だ。苗字が呼び辛かったら輪廻でいい」
ググッと詰め寄ってくるクラスメイトに、若干引きながらこちらも自己紹介をする。
赤髪の生徒、切島によればこれから反省会を行うらしい。
訓練後で疲労もあるだろうに、それでも自身達の改善点を話し合い、さらに強くなろうとする向上心に、輪廻は好感を覚えた。
ヒーロー科に居るだけあって、そう言った向上心のようなものは人一倍大きのかもしれない。
「反省会か……。なら、親睦会も兼ねて何処かで食事でもしながらするか?」
いい機会だと思った輪廻は、クラス全体に提案するように言った。
声が聞こえ、別に話し合っていたグループも視線を輪廻へと向ける。
「それいいね! 私は行くよ!」
「ああ、俺もいいぜ!」
「今月ピンチなんだけど、まあいいか」
すぐに返答したのは、近くにいた芦戸・切島・砂糖の三人。
飯田は帰りの寄り道はどうたらこうたら言っていたが、反省会と今後の訓練を見越した話し合い、などと少し説得したら是非にと飯田も参加が決定し、流れで横の麗日も行く事となった。
爆豪は「くだらねぇ」と吐き捨て先に帰り、轟は「用事がある」との事で不参加となり。
上鳴・峰田は女子が行くならという事で参加し、耳郎や葉隠といった他も巻き込む形となった。
「あの、私もよろしいでしょうか?」
おずおずと手を挙げて言ったのは、意外にも八百万だ。
彼女の視線の先には、輪廻が映っている。
種類の違う八百万の視線に気が付いた輪廻は、なんだ? と首を捻りながらも了解する。
緑谷が目覚め教室に着いたのは、半分近くが反省会兼親睦会に参加を決めた頃だ。
教室に入るやいなや、輪廻同様に詰め寄られて慌てている。
目の前の光景に笑い零したあと、誰にも悟られず教室を出た。
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「オールマイト? それならさっき急いで外出てったが……」
「そうですか……」
騒ぐ教室の横を抜けて、輪廻が足を運んだのは職員室だった。
目的はオールマイトなのだが、担任の相澤曰く入れ違いになってしまったようだ。
一言言って職員室から出ようとした時。
「少し待ちたまえ」
後の声に呼び止められた。
振り向けばそこには、人に近しい出で立ちをした白いネズミが立っている。
ネズミの顔には傷があり、輪廻を見てうっすらと笑っている。
「根津校長……」
「やあ、輪廻君。
「ええ、うちのババ……院長が引き合わせた時以来ですね」
「HAHAHA! 君は相変わらず彼女が苦手みたいだね!」
貴方もですよ、と根津の言葉に反射的に言いそうになって飲み込んだ。
根津と輪廻はその会話から分かる通り、会うのは今回が初めてではない。
輪廻が自身の前世を思い出し自覚して少し経った頃、孤児院の院長に連れてこられた場所、そこで目の前の根津と初めて会った。
聞けば根津と院長は古い友人らしく、孤児院の中でも何かと目を掛けていた輪廻を一度は会わせたかったとのこと。
また、根津も自身の友人が大層可愛がっているという子供を見てみたかった、と言うのも輪廻を連れていった理由だ。
輪廻が初めて根津を目にした時、子供ながら(精神は大人)に何となく苦手だと感じていた。
ただ本当に何となく苦手で、これといった理由はないのだが、強いてあげるなら、腹の底では何を考えているか分からないあの顔だ。
普段は陽気に笑い人の良さそうな態度だが、侮るなかれ。
根津は人を超える頭脳の持ち主だ、気を抜けば知らぬ内に掌で遊ばれていた、なんて事もあり得る。
いや、そんな恐ろしい事は意味もなくしないと分かっているが……。それでもとにかく、輪廻としては目の前に立たれると体に力が入ってしまう相手なのだ。
「と、引き止めて悪かったね。僕は挨拶がしたかっただけさ!」
「いえ、こちらこそ顔見知りとして、もっと早くに挨拶に向かうべきでした」
「うんうん、じゃあ機会があればまた彼女と交えて、三人でお茶でもしよう」
「ええ、それじゃあ失礼します」
会話を切り上げ、今度こそ職員室を出た。
オールマイトは外に向かったとの事なので、校舎にいないものと考え、ひとまず校庭に向かう。
見つからないので、そのまま校舎入口付近まで進むが……見つからない。
どこへ行ったのか、少し考えていると。
『だからなんだ!?』
前方から爆豪の声が聞こえた。
物陰に隠れて、覗いてみれば何やら緑谷に向かって怒鳴っている。
爆豪は頭がいい、無闇に暴力を振るう程愚かでもない。
だが人の心情とは時に抑えられなくなることもある。
輪廻は無いだろうなと分かっているが、万一の事を考え、いつでも飛び出せるように壁に背を預ける。
『今日……俺はてめェに負けた! そんだけだろうが! そんだけ……』
歯を食いしばり、悔しさを滲ませる声からは、爆豪の心情が見て取れた。
『氷の奴見てっ! 敵わねぇんじゃって思っちまった! クソ!』
一言一言に自身に対する苛立ちが籠る。
『ポニーテールの奴の言う事に納得しちまった……! クソクソッ!』
声が震える。
『花弁野郎の実力を見せつけられて! 格が違いすぎるって諦めた
自分の不甲斐なさ、たった一度実力を見せられただけで敗北を受け入れた少しの自分。
それが何より爆豪は悔しく、惨めだった。
『なあ! てめぇもだデク……! こっからだ俺は……こっから。いいか……!? 俺はここで一番になってやる!』
宣言する言葉は自身への誓いと戒め。
二度と誰にも、何より自分自身に敗北しないという意思の表示。
その誓いこそが、間違いなく爆豪を更なる高みへと押し上げる、かけがえのない物となる。
『俺に勝つなんて二度とねぇからな! クソが!!』
再び足を進めた輪廻の口は、笑みが浮かんでいた。
それでこそヒーローの卵、と瞳を少し動かし、去り行く爆豪の背を見る。
これから間違いなく彼は強くなるだろう、輪廻は雄英に入ったのは間違いじゃなかったと彼らを見て思う。
盗み聞き盗み見をそこまでに、足を動かすと、探していた人物の声が遠くから聞こえた。
『爆・豪ォォ! 少年!』
彼方から物凄い勢いで走ってきたオールマイトの目当ては、どうやら爆豪らしい。
仕方ない、オールマイトが話し終えるまでもう少し待とう。
もう一度壁に背をもたれかけ、ポケットの携帯をいじりながら待つ。
しばらくしないうちに話は終わり、何処か戸惑った様子のオールマイトがとぼとぼこちらに歩いてきた。
携帯をポケットに仕舞い、呼んだ。
「オールマイト」
「ん? これは花咲少年、どうしたんだい?」
「少し、話したい事が……。他人に聞かれるとあれなんで、少し場所を変えましょう」
「ああ……」
頭上にハテナマークを浮かべ、オールマイトは先導する輪廻の後を付いていった。
到着したのは人気の無い、巨大な体育倉庫の裏。
ここならば人が来る心配もないだろう。
念の為辺りに気を配ってから、輪廻はオールマイトに顔を向けた。
「それで、どうしたんだい?」
「いつかのお礼を言おうと思いまして……」
「お礼?」
何のことか、オールマイトは首をかしげた。
「……」
「あのぉ花咲少年、黙っていられると流石の私も何をすればいいのか……」
「…………はあ。やはり覚えてないですか」
息を吐き出し、何のことか分からない言葉を吐かれた。
はて、自分は以前にどこかで花咲少年とあっただろうか。
記憶の糸を手繰るが、それらしき記憶は見つからない。
若しかしたら自分が忘れているだけなのかもしれない、考えたオールマイトはそれじゃあ失礼だと感じ、必死に昔の記憶を探る。
「十年前」
「……?」
輪廻の出した言葉の意味が分からなかった。
だが、次に言われた事にオールマイトは目を見開く。
「十年前の十二月。神奈川のとある港で発見された、誘拐された一人の少女と血塗れの少年」
「──!? 何故それを……まさか!?」
十年前の十二月。
その年はオールマイトのヒーロー人生にとって、生涯忘れることの出来ない事件が起きた時期。
事件は公には死亡者0、オールマイトの活躍により被害は無く無事解決したとされている。
──だが、本当は違う。
事件は一人の少年によって殆ど
オールマイトが現場に到着した時は、既に何もかもが手遅れだった。
あの時ほど自身の無力さと不甲斐なさを嘆いた時は無い程、オールマイトにとって衝撃的で最悪だった事件。
「……ええ。お久しぶりですねオールマイト、その節はどうも」
その事件の当事者だった幼き少年が、花咲輪廻だった。
目の前に居る、成長したあの時の少年。
オールマイトは激しく動揺した。
(言われてみれば、確かにあの時の面影がある……)
視線を輪廻の顔に当てよく見てみれば、確かに昔見た血塗れの少年の影を残している。
心を落ち着かせ、やっとオールマイトは言葉を紡いだ。
「そうか……。気づかなかったよ」
「あの時は血で酷く汚れてましたからね。それに名前も言わずに帰っちゃいましたから。分からなくても無理は無いですよ」
「……」
巷ではトップヒーローと言われながらも自身の無力を叩き付けられ、平和の象徴と謳われながら、一人の幼い子供に全てを背負わせてしまったあの日から十年。
オールマイトは再び現れた彼に、胸が裂かれる痛みを感じながら、頭を下げた。
「──すまなかった。あの時もっと早くに私が……」
「やめろ!」
静かな声がオールマイトの声を遮った。
「別に俺は貴方を恨んじゃいない。寧ろ来てくれた事に感謝さえ感じてる。……だから、謝らないでください」
顔を上げて、少年の顔を見てみれば無表情でありながら、内に悲しさを秘めていた。
「それでもまだあの時自分が……なんて思っているなら、それは貴方の自惚れだオールマイト。確かに俺はあの時餓鬼だった。だがな! ヒーローが全てを救ってくれる、救えると無垢に信じ切れる程幼くない……!」
……ああ、そこまで成長したのだな。
オールマイトはあの時の小さな存在が、斯様に勇ましく強いヒーローの卵になっていた事が嬉しく、そして悲しかった。
そこまで強くなるのに、どれほどの悲しみが必要だったのだろう。
どれほどの後悔が胸を襲っていたのだろう。
どれほどの絶望が身を裂いたのだろう。
いずれにしても、当時はまだ六歳だった子供には……否。
普通に生きていく上で、全く必要の無い過ぎたものだった。
「貴方も人だオールマイト。全てを救済する
一度顔を俯け、右手で髪を掻き上げながらゆっくりと顔を上げて……。
「────ありがとうございました」
『…………ありがとうございます』
あの日、事件の日に少女の亡骸を抱きかかえた、一人の血塗れの少年と重なる。
悲しく笑いかける輪廻に、オールマイトは掛ける言葉が見つからなかった。
誤字脱字報告ありがとうございます。
主人公の過去に伏線を撒くスタイル……。
今回忙しくて、見直しとかしてないので誤字脱字が多いと思います。すみません。