輪廻の花弁 作:社シロ
夏の後半から今の今まで忙しく、手をつけられませんでした。
はい、言い訳です。ごめんなさい。
え? 許さない? ソンナー。
あ、それと今回は無駄に長いです。
「そこの君、質問いいかな?」
戦闘訓練の疲れを癒す為の、反省会という名の親睦会を行った次の日。
最近出たばかりの人気ゲームに夢中で夜更かしして、気怠さが体を包む早朝に、学校の校門でマスコミの女性にマイクを向けられた。
「オールマイトが教壇に立っているってどんな感じですか? 授業内容は? 先生としての様子とかはどうです?」
マイクを輪廻に差し向けるポニテの女性は、矢継ぎ早に言葉を発する。
女性だけではない、後ろには餌に群がる鯉の如くマスコミが固まっており、分厚い壁となっていた。
彼らは平和の象徴、オールマイトが教師になったという情報に食い付いた者達であり、登校する生徒の一人一人に僅かな情報でも得ようと躍起になっている。
無理もない。長年ヒーロー界の先頭をひた走り、平和をなしてきたオールマイトがいきなり教師に就任したのだ、こんな美味しそうな事を前にマスコミに押しかけるなという方が難しい。
だが、そんなのはあくまでもマスコミの事情であり雄英の生徒には、ましてや輪廻には知ったことでは無い。
とどのつまり、輪廻にとって朝からうるさいマスコミはウザったらしかった。
「あの登校の邪魔なんでどいてくれませんか?」
「あ、ちょっと!」
聞く耳を持たず、無理矢理に道をこじ開けて門を通る。
輪廻のぞんざいなあしらい方に、後ろでは「お高くとまって!」とキーキー吠えているが、無視して教室へ向かった。
欠伸を漏らしながらA組の扉を開くと、中にはクラスメイト達が輪廻同様に疲れきった顔をしていた。
彼らもまた、マスコミの面倒な質問攻めにあったのだろう。
教室に入ると、あちこちからおはようと聞こえ適当に返す。
「おはよう輪廻君」
「おはよう!」
「む、おはよう!」
A組の席順は五十音順になっており、「は」から始まる輪廻の席は爆豪の後ろで緑谷の前となってる。
自分の席に着くと、後ろに居た緑谷が声を掛けてき、続くように麗日と飯田も挨拶をしてきた。
いつもの三人組のようだ、A組は基本みんな仲のいいクラスだが、殊更仲のいいもの達はこうしてグループになっていることが多い。
因みに輪廻は緑谷達といる事が多いが、どちらかと言えば一人が好きなためグループには属していない。
「ああ、おはよう。体は大丈夫なのか?」
先日の戦闘訓練で重傷とは行かないまでも、それなりに酷い傷を負っていた緑谷だが、今はその影すら見当たらない。
リカバリーガールにでも直してもらったのだろうが、一応不備は無いか聞いてみる。
「大丈夫。傷は全部リカバリーガールに直してもらったし、十分に休んだから体力も元通りだよ。ただ、無茶し過ぎだって怒られちゃったけど……」
「うん、確かにあの戦闘は酷いものではあったな」
「うっ!」
頷く飯田の言葉に緑谷だけでなく、麗日も言葉を詰まらせる。
八百万や輪廻に酷評されたことが、未だ頭に残っているのだろう。
力なく謝る彼らを見て、大丈夫そうだなと勝手に判断し欠伸をしながら座った。
「なんだか眠そうやね花咲くん」
「ん? ああ、まぁな」
「夜更かしか? 行けないぞ花咲君、そんな事では明日の授業に響いてしまう。誇り高き雄英生であるならば、早寝早起きは心掛けねば」
「飯田の言う事は分かるんだが、買ったばかりのゲームについ熱が入ってな」
「あー分かるかも、僕もオールマイトのブルーレイとか買っちゃうと遅くまで見入っちゃうな」
「というか、花咲くんもゲームするんだ。なんか意外!」
「そうか?」
友人とする朝の何気ない会話、歩けばそこら中に見られるありふれた景色。
だがそれ故に尊いものでもある日常の一時に、ふと
大切なのは過去ではなく、未来を築く今なのだ。
それに輪廻には振り返るという能動的行動は意味が無い。
あーだこーだ考えていると、担任の相澤が来たことによりそれぞれが自分の席に座った。
「昨日の戦闘訓練お疲れ、Vと成績見させてもらった」
入ってきて早々に相澤の口から出たのは、やはりと言うべきか戦闘訓練の内容だった。
しかし、一人一人なにか言い渡されるのかという輪廻の考えとは裏腹に、注意喚起を受けたのは爆豪と緑谷の二人だけであった。
そして相澤は言葉を一度区切ると、ほんの一瞬だけ視線を輪廻に向ける。
気のせいではない、僅かだが確かに輪廻を捉えていた。
なんだ、と考えるよりも先に次の言葉が思考を中断させる。
「さて、HRの本題だ……。急で悪いが今日は君らに……」
無駄に溜める相澤に、また臨時テストか!? と全員が生唾を飲み込むが、続く言葉がA組を沸騰させた。
「学級委員長を決めてもらう」
「「「「学校っぽいの来たァァァ!」」」」
声を張り上げ、バッ! とほぼ全員が手を挙げ立候補する。
普通、学級委員長というのは雑務をこなすだけの地味で面倒な役職なのだが、ここ雄英に限らずヒーロー科のある学校での学級委員長というのは集団を導くトップヒーローの素地を鍛える役職だ。
そうなれば当然、誰でもやりたがる。
あの爆豪が興奮気味に挙手しているのを見れば、どれだけ重要で人気な役職かが分かるだろう。
とは言え、輪廻は別段興味無いのでただ傍観していた。
「静粛にしたまえ!」
騒ぐA組を静める飯田。
身体を震わせ何を言うかと思えば、「やりたいからと言って、そう簡単にやれる訳では無い」と暗にそう言い、投票制にすべきと意見を出てきた。
因みに意見提示してきた彼の手が、ものすごくそびえていたのは言わぬが花であろう。
「日も浅いのに、信頼もクソもないわ飯田ちゃん」
出された意見に蛙吹が反論するが、当然と言えば当然の返し。
しかし、だからこそだと力強く発言する飯田の熱に負け、A組は結局投票制となり、結果として緑谷と八百万に委員長・副委員長が決定した。
1
「ああくそ、遅れたか」
午前の授業が終了し、誰もが腹を空かせ愉快な音楽を奏でる昼休み。
輪廻は今、テーブルナプキンに包まれた弁当箱を持って食堂を見渡している。
雄英はヒーロー科の他に普通科・サポート科・経営科があり、毎年の入学生は馬鹿にならないマンモス校でもある。
そんな雄英生全てが一堂に会する食堂は、比例してとてつもなく広くて大きいのだが、輪廻の言葉からも分かるように人がごった返しているのだ。
弁当を持参してきた輪廻は、食堂に来る必要が無いと思うかもしれないが、彼がここに来たのは友人に誘われたからであり、今はその誘った当人達を探していた。
「おーい! こっちだ!」
聞き覚えのある声に視線を向けてみれば、切島と上鳴が手を振りながら呼んでいた。
近くに早足で行くと、席一つ分があいている。
どうやら取っておいてくれたらしいことに、輪廻は感謝をする。
「来たか花咲」
「ああすまん、待たせた」
「気にすんなって、丁度皆も席ついたところだったしよ」
快活に笑う切島は、やはりと言うか気のいい漢だった。
「爆豪は?」
「あー、一応誘ったんだけどよ……」
「聞けよ花咲、爆豪の奴がさ『仲良しごっこなら勝手にやってろ!』ってどっか行っちまったんだよ、酷ぇよな」
切島の頼みで一応は爆豪も誘ってくる予定だったのだが、案の定失敗に終わったようだ。
爆豪は馴れ合いを必要としない一匹狼、と言うよりは今回は自分がいたからかもしれないと輪廻は予想する。
昨日の夕方、たまたま盗み聞きと言う形で聞いてしまった彼の心の内を考えてのことだ。
来なかったのならば仕方ないかと割り切った時、横から声が掛かった。
「私たちも居るよ!」
見れば、向かい側に制服姿だけの葉隠と耳郎と蛙吹がいた。
どういう事だ、と視線だけで切島に問うと、どうやら席がなくて困っていた所を見かねて声を掛けたらしい。
確かにこんなに人が居ては、席を探すのも一苦労だろう。
なるほどと一言だけ言って、輪廻は席に着いた。
「あら、花咲ちゃんもお弁当なのね」
テーブルナプキンを広げ弁当箱の蓋を取った時、驚いたように蛙吹は声を上げた。
「ああ、学食でもよかったんだが、昨日の余りを使いきんねぇと行けねぇからな」
「おいおい、花咲は料理もできるとかギャップ狙いかよあざてぇ!」
何やら嫌味的なものを言ってくる上鳴を無視して、ようやく食事にありつく。
手を動かしながらも、皆で他愛のない話をし笑い合う。
そうして輪廻が弁当の中を六割がた制覇した所で、ふと目の前の葉隠が気になった。
彼女自身と言うよりは、その個性が気になった。
葉隠がランチラッシュに頼んだ日替わり定食の豚肉を口に運んだ時に、豚肉が消えたのだ。
いや、彼女の透明という個性上は可笑しくないのかもしれないが、輪廻としては『透明』と言うから透けてるのかと思っていたのだ。
仮に葉隠が「透けている」のならば、豚肉は食道を通って胃に行くまでの過程が見えると思っていた。
だが、実際は口に含んだ瞬間に消えた。
ならば葉隠は透けているのではなく、もしかしたら《光を屈折させている》のかもしれない。
彼女の個性は光学迷彩のように自身に向いた光を曲げ、後ろの光景を映しているのであれば、豚肉が消えた理由も説明がつく。
それに葉隠は自身の腕の長さや、体の可動範囲を理解しているようだ。
読んで字のごとく、本当に透けている透明人間ならば、自分の体が見えずに距離感が狂うはず。
しかしそれらしい様子は無いことから、《彼女自身は透明では無い》と考えられる。
よし本人に聞いてみようと、そう考えた時……。
──ウー! ウー!
学校中に警報が鳴り響いた。
「なんだなんだ!?」
「これって、侵入者を知らせる警報だよね!?」
「もしかして
余計な事を口走りそうになった切島の口を、掌で押さえつける。
「よせ切島、まだそうと決まったわけじゃない。変な事を言って要らない混乱を起こすな」
「お、おうすまねぇ」
ゆっくりと手を離し、首を動かして状況を確認する。
こうしている今も雪崩のように人が入口や非常口から抜け出そうとしており、今行動するのは得策ではないと輪廻は考え、動かないように切島達に指示する。
(──イマイチ状況が掴めないな……)
仕方ないと判断した輪廻は、人知れず個性を発動した。
────
花弁が宙を舞い、それを見た切島達は輪廻が個性を発動させたのだと一瞬で理解した。
シンボルである
万一の時の為に、輪廻は鉤十字を仕込んだ野良猫等の動物を使い学校の外の状況を確認した。
(これは、マスコミが押しかけてきたのか)
動物達の視覚情報を共有する事で見えたのは、侵入してきた大人数のマスコミへ必死の対応をする相澤他教師陣だった。
どうやらこの警報は、侵入してきたマスコミ達のせいとみて間違いないだろう。
「皆安心しろ、どうやらこれはマスコミの校内侵入が原因の物だ」
「ってことは……」
「ああ、少なくとも危険はない」
上鳴の言葉に、あえて
ほっと胸を撫で下ろす友人達の傍らで、尚も輪廻は掌握者を使い状況を探っていた。
(可笑しい……)
違和感を感じて仕方が無いのだ。
ただのマスコミが雄英のセキュリティを突破出来るとは、到底思えない。
強個性を使えば可能性はあるが、そうなった場合は法律に触れ即逮捕だ。
幾らオールマイトの情報が欲しいからと言って、そこまでする阿呆では無い筈だ。
それに今朝見た感じでは、あのマスコミの中に雄英のセキュリティを破れるほどの強個性持ちは居なかった。
では、なぜ彼らは雄英に入れたのか。
(見つけた……!)
野良猫の眼を借りて見つけたのは、粉々に崩され破壊された校門だった。
マスコミ達を
輪廻の予想は可能性を帯び、眉間に皺がよる。
そしてこの数分後に飯田の働きにより、マスコミ騒動が収束したのだった。
次回は漸くの戦闘回だぜ!
まぁ、ようやくつっても二話前にしたばかりですけどね!
あ、あと、友達に指摘されたのですが、そう言えば飯田って最初の方の一人称は僕じゃなくて俺だったなと思い、前の話を修正しました。
違和感を感じた皆様、すみませんでした。