輪廻の花弁   作:社シロ

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お久しぶりです。
待たせてごめんなさい。


奇襲

 午後12時50分、聞きなれたチャイムが全生徒へ授業の始まりを知らせる。

 A組の生徒達も例に漏れることなく、大人しく席に座り担任の相澤を待つ。

 次の授業は誰もが楽しみに待っていたヒーロー基礎学ということもあって、芦戸や上鳴といった面々のチラホラと浮かれた顔が見られる。

 しかしそれもガラガラと、巨大な教室の扉が開かれ相澤が入ってくれば真剣な面持ちへと変わる。

 一瞬だけ全員が集中したのを確認すると、単刀直入に相澤は今日の内容を説明を話した。

 

「今日のヒーロー基礎学だが、俺とオールマイト、そしてもう一人の三人体制で見る事になった」

 

 来てそうそうに余計な雑談を挟まず、必要な所から切り出す相澤の話し方は、やはりというべきか合理性を求める彼らしかった。

 だからこそ、輪廻は今の相澤の言葉に含まれた意味を速やかに理解する。

 

(「見る事になった」ね……)

 

 相澤の言い方からして、恐らくは急遽決まった事だろう。

 原因があるとすれば、やはり昨日のマスコミ侵入事件……否。校門を何者かに破壊された事が、大いに絡んでいるのは間違いないと当たりを付ける。

 深読みと思われるかもしれないが、相澤の場合は合理性を求めるが故に言葉の綾と考えるのは逆に難しく。

 そうなると、言葉の中に何か含まれた意味や意図があるとしか思えないのだ。

 さらに言うなれば、三人体制になったのは根津の指示だとも輪廻は考えている。

 だがそれはあくまで仮説だ、本当の所は直接本人に聞かねば分からない。

 だが、雄英が何かを警戒している事だけは事実。

 プロヒーローが多数所属する天下の雄英が警戒する程の何か、それは恐らく……。

 

「はーい! なにするんですか?」

 

 輪廻の思考を中断させたのは、瀬呂の声だった。

 危うく今が授業中だということを忘れ、思考の海に沈み込むところだった輪廻は、一生徒に過ぎない自分が考えることではないか、と自身に釘を刺して反省し相澤の話しに意識を戻した。

 瀬呂の質問に、相澤はポケットに閉まってあったプレートを取り出して時代劇の紋所よろしく一同に見せつける。

 握られたプレートには見覚えがある。

 前に戦闘訓練を行った時にオールマイトが掲げていた、BATTLEと書いてあったあのプレートだ。

 プレート自体に違いは無いが、オールマイトの見せたものとは一つ違う箇所があった。

 書いてある単語だ、今回はRESCUEと書かれていた。

 

「災害水難なんでもござれ、人命救助(レスキュー)訓練だ!」

 

 人命救助と聞いて、周りは同時に喋り出す。

 

「レスキュー……今回も大変そうだな」

「ねー!」

「バカおめ、それこそヒーローの本分だぜ!? 鳴るぜ、腕が!」

 

 周りが口々に今回の内容について話すと、まだ説明を終えていない相澤が威圧して黙らせた。

 

「人命救助……」

 

 誰にも聞こえないくらいの声量で、言葉を零す。

 知らされた今回の基礎学は、輪廻にとって戦闘訓練の時よりも大事なものになると考えていた

 その理由を説明するには、ここで一つ輪廻の個性について話をしなくてはならないだろう。

 輪廻の個性は『偉人』、その能力は嘗て存在し歴史に名を刻んだ偉人(英雄)達の伝説や逸話に由来した能力を行使出来るようになる、と言うものであり。

 例として上げるならば、よく多用する『串刺し公(カズィクル・ベイ)』はドラキュラと恐れられたルーマニアのブラド三世の、「敵国の兵を全て串刺し刑にした」史実に基づく力だ。

 このように輪廻の能力は些か物騒なものが多い。

 凶暴性だけでいえば、ヒーローよりもどちらかと言えば(ヴィラン)寄りである。

 無論、サポート系の能力が無い訳では無い。

 だが、一歩間違えたらいとも容易く人を殺めてしまう能力が大半を占めているのも事実であった。

 だからこそ如何にその能力を救助に役立て生かせるのか、というのが幼い頃から輪廻の中にあり続ける課題だった。

 救助訓練というのは、輪廻にとって頭を柔らかくして全力で挑まなければならない壁でもあるのだ。

 

「訓練場は少し離れた場所にあるから、バスに乗っていく。以上、準備開始」

 

 相澤の号令を発端に、各々が席を立った。

 

 1

 

「花咲のコスチューム見るの二度目だけどよ、A組の中でやっぱ迫力があるな」

 

 下駄箱で靴を履き替え停車してあるバスに向かっていると、横から男にしては高い声が聞こえた。

 首を動かしみてみれば、線の細い体をしたしょうゆ顔の男子生徒、瀬呂範太が黒い衣装に身を包み輪廻に話し掛けていた。

 

「そうか? 最初の印象でインパクトあるつったら飯田だろ。俺のはただの軍服だ」

「確かに飯田のコスチューム(ロボット)もだけどよ、今のご時世に軍服って逆に目立つわ」

 

 瀬呂に言われて、そういうものなのかと自身の衣装に視線を落とす。

 今の時代に、という瀬呂の言葉はあながち間違いでもなかった。

 個性の存在が認識されて以降、既存の軍隊というものはヤクザ等と同様に解体、または必要とされることがなくなった。

 その要因として、やはりヒーロー業の発達があったからだ。

 免許さえあれば何時どこでも個性を使えるヒーローに対して、軍人は人命救助と言えど一々個性の使用許可を確認せねばならない。

 そうしている間に人が亡くなっている事を考えれば、当然の帰結として軍人とヒーローでは後者の方が必要とされていく。

 今現在では軍という言葉すら死語になりつつある。小学生ともなればその言葉すら知らないという児童も少なくない。

 故に瀬呂達からしてみれば、今どきコスチュームに『軍服』などという前時代的なものを選ぶ輪廻は、少し珍しかったのだ。

 瀬呂と話している間に、バスの中へ乗り後部席の窓側に瀬呂と座る。

 流れる景色に目を向けながら、車内では個性の話しに火がついていた。

 輪廻は話には加わっていないものの、一応いつ振られても対応出来るように耳だけは傾けている。

 高校生らしい会話の盛り上がりの中で、輪廻はふと蛙吹の言葉に興味を引かれた。

 

「あなたの個性オールマイトに似てる」

「っ!?」

 

 明らかな動揺を見せた緑谷を、一瞬だけ視界に捉え再び車外の景色を映す。

 

(そういえば、緑谷はオールマイトと何か関係があった筈なんだが……)

 

 自身の記憶が正しければと後ろに付けて。しかし前世の記憶を引き出そうにもそれが出来ない。

 やはりか、と分かっていたが奥歯に挟まった肉が取れないような、くしゃみが出そうで出ないような苛立ちに近い取っ掛かりが滲み出す。

 やめだやめだとかぶりを振った時。

 

「派手で強えっつったら、やっぱ轟と爆豪、花咲の三人だな」

 

 切島なりの配慮なのか、それまでは話に入らず黙っていた輪廻達三人に話を振る。

 漢気溢れ大雑把に見えるが、その実こういう小さな気配りが出来る点ではA組の中では誰よりも場の調和が上手いと言えよう。

 

「爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気でなそう」

「んだとコラァ! 出すわ!」

「その調子じゃ当分は無理そうだな」

「ア“ア“!?」

 

 切島の気遣いを無駄にすることも無いと思った輪廻は、会話の輪の中に加わり、輪廻からイジられた爆豪は更に怒鳴り散らす。

 轟だけは無言のままだったが、これと言ってとりとめのない会話は、目的地に着くまで続いた。

 

 2

 

すっげー! USJかよォ!?

 

 ()()を視界に収めて、放った一声がそれだった。

 驚愕には種類がある、有り得ないものを目にした時、予想外の自体に陥った時と様々であるが、今回の場合は前者に近いだろう。

 何故なら答えはA組の大半が言った通り、目の前にUSJが……USJに似通った訓練施設と思われる光景が広がっていたからだ。

 実際に、目隠しを被せられ突然ここに連れてかれ「USJです」と言われれば信じ込んでしまうであろう程度には、衝撃的な視覚情報である。

 あらかじめ説明をされていなければ、学校の敷地内だということすら分からないだろう。

 奥に作られた光景に一同は忙しなく首を動かすが、宇宙服(コスチューム)に全身を包んだ教員スペースヒーロー「13号」が手を叩く事で、生徒達の意識を集めた。

 

「水難事故、土砂災害、火事etc……。あらゆる事故や災害を想定し僕が造った演習場です。その名も……ウソの(U)災害や()事故ルーム(J)

 

 13号の言葉に全員がマジでUSJだったんだと思ったに違いない。輪廻もその一人だ。

 次の瞬間には今日の授業を担当するのがテレビでも見かける、人命救助の場で活躍するプロの13号としって周りは浮つき始めるが、輪廻一人は13号と相澤の会話に全神経を向けていた。

 この場に居るべき人物が居ないことに気が付いたのだ。

 そして耳を澄ませてみれば、道中に人助けをしていた事が原因で疲労しているのだという。

 だがそんな事よりも、輪廻の耳は大事な事を掬いあげた。

 

(制限、だと……?)

 

 その単語が何を指すのか今はまだ憶測しか出来ないが、この場にオールマイトが来れない事と関係しているのは間違いなさそうだった。

 相澤が会話を切上げるのと同じくして、輪廻も一旦思考を切上げ13号の説明に意識を戻す。

 

「えー始める前にお小言を一つ……二つ、三つ……四つ」

 

 どんどんと増えていくお小言に、全員が口を閉じ視線だけでツッコミを入れるのがわかった。

 

「皆さんもご存知だとは思いますが、僕の個性は“ブラックホール”どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます」

「その個性でどんな災害からも人を救い上げるんですよね」

 

 緑谷が興奮した面持ちで合いの手を入れる。

 だが、気色満面といった緑谷とは変わって13号の口調は何処か真剣味を帯び、言葉にかかる圧が重さを増していく。

 

「ええ……しかし、簡単に人を殺せる力です」

 

 語りかけてきた言葉に、ピクリと輪廻の眉がつり上がった。

 そこから始まる高説は、個性の運用方法であった。

 ブラックホールという強個性の13号は、確かに色々な面で役に立つが一つ間違えれば恐怖を向けられても可笑しくない危うい個性だ。

 故に、己の個性を危険な物と自覚しその使い方を学ばねばならないという。

 13号の口から語られる事は、全ての個性に置いて“いきすぎている”輪廻に当て嵌っていた。

 知らずの内に固く握られていた手を開き見つめる。

 13号を見て話を聞いて今回の授業では、学ぶ事は多そうだと感じた。

 

「以上、ご清聴ありがとうございました!」

 

 仰々しく手を振り頭を下ろす13号。

 さて、いよいよかと軍服の内の道具を再確認した瞬間だった。

 

 ────ゾクッ……!

 

 背骨の全てを氷柱に刺し変えられたような、気色悪い気配が輪廻を包んだ。

 同時──。

 

「一かたまりになって動くな! 13号! 生徒を守れ!!」

 

 相澤の焦りを含む声音が響き渡った。




戦闘回(戦闘するとは言ってない)。
本当にすみません。
前回、「次の投稿はバトルよ!」的な事を言っておきながら、余計な事を色々と書いていたせいで無理でした。
本当にごめんなさい。
次回こそは本当にちゃんとした戦闘回(戦闘するよ)を書きます。

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